説明

中空糸膜モジュールのリーク検出方法およびリーク検出装置

【課題】液体あるいは染料などを用いることなく、中空糸膜モジュールの欠陥や損傷によるリークの高い精度の検出を容易に行うことを可能とする中空糸膜モジュールのリーク検出方法およびリーク検出装置を提供する。
【解決手段】複数本よりなる中空糸膜群の少なくとも一方の端面が各々開口状態で固定されている中空糸膜モジュールに、60℃以上に加熱または5℃以下に冷却したガスを円筒状モジュール側面のガス供給口より中空糸膜外表面側に供給し、中空糸膜を透過してその端面開口部より放出されるガスの温度差を赤外線カメラ、好ましくは顕微鏡レンズを装着した赤外線カメラを用いて撮影することにより測定し、中空糸膜モジュールのリークの有無を検出する。また、赤外線カメラに顕微鏡レンズを装着したものが、中空糸膜モジュールのリーク検出装置として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールのリーク検出方法およびリーク検出装置に関する。さらに詳しくは、高精度かつ容易に中空糸膜モジュールのリークを検出可能とする中空糸膜モジュールのリーク検出方法およびリーク検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールは、純水の製造、用水の除菌や除濁、廃水処理、脱気、脱水、ガス分離など様々な気体、液体、固体の分離に広く利用されている。このため、中空糸膜の欠陥や損傷によるリークは、中空糸膜モジュールを使用するシステムに致命的な影響を与える。
【0003】
中空糸膜の欠陥(リーク)を検出する方法としては、中空糸膜モジュールの各中空糸膜の端面の開口部より減圧吸引し、中空糸膜の外表面より微粒子を含む空気を流入させ、開口部から吸引した空気をパーティクルカウンタに透過させ、その吸引空気の微粒子の数を測定して欠陥の有無を検出するといった方法が提案されている。しかるに、かかる方法では中空糸膜群についてのリークの有無を検出することはできても、欠陥のある中空糸膜の特定は困難であった。
【特許文献1】特公平2−14084号公報
【0004】
一方、開口部の面方向にレーザービームを走査することにより、レーザービームが欠陥の存在する中空糸膜から流出した微粒子に当たった際に発生する散乱光を、CCDカメラ等の検出器により検出し、欠陥箇所を特定する方法もあるものの、検出精度の点で満足のいくものではなく、その信頼性に問題があった。
【0005】
この他、中空糸膜モジュールの開口面を水やアルコール等の液体で濡らした状態で、中空糸膜の外側から内側へ所定圧力の空気を印加し、その際の開口面の気泡の発生箇所を特定することで、リーク箇所を検出する方法も提案されている。しかるに、気泡の発生箇所を目視で識別するため、作業者の判断に負うところが多いのが実情である。特に、中空糸膜径が非常に小さくなると、中空糸膜径より気泡が大きくなるため、リークしている中空糸膜と隣接している中空糸膜の識別が容易ではなく、リーク箇所の特定がより一層困難となるものであった。また、検査後に濡れた中空糸膜モジュールを乾燥する必要があるため、工程が増えて作業時間も長くなっていた。
【特許文献2】特開昭55−70258号公報
【0006】
さらに、中空糸膜モジュールに染料を添加した供給水を圧入し、漏洩する染料をで確認する方法もあるが、これは中空糸膜に染料が残留するという問題があり、また中空糸膜の外側にガスを供給し、その中空糸膜の接着端部のリーク箇所よりガスを漏洩させ、光学システムを用いてその漏洩ガスの流出状況に応じた屈折現象により、欠陥の有無を検出する方法も提案されているが、屈折現象が欠陥中空糸膜の周辺にまでわたるため、欠陥中空糸膜のみを明確に特定することが難しいといった問題を有するものであった。
【特許文献3】特開昭53−134776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、液体あるいは染料などを用いることなく、中空糸膜モジュールの欠陥や損傷によるリークの高い精度の検出を容易に行うことを可能とする中空糸膜モジュールのリーク検出方法およびリーク検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる本発明の目的は、複数本よりなる中空糸膜群の少なくとも一方の端面が各々開口状態で固定されている中空糸膜モジュールに、60℃以上に加熱または5℃以下に冷却したガスを円筒状モジュール側面のガス供給口より中空糸膜外表面側に供給し、中空糸膜を透過してその端面開口部より放出されるガスの温度差を赤外線カメラ、好ましくは顕微鏡レンズを装着した赤外線カメラを用いて撮影することにより測定し、中空糸膜モジュールのリークの有無を検出することによって達成される。また、赤外線カメラに顕微鏡レンズを装着したものが、中空糸膜モジュールのリーク検出装置として用いられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る中空糸膜モジュールのリーク検出方法により、中空糸膜モジュールの欠陥や損傷を、中空糸膜毎にリークの検出を容易に行うことを可能とするといったすぐれた効果を奏する。かかる検出方法は、液体あるいは染料などを使用していないため、中空糸膜に異物が残留することもなく、乾燥等の工程も必要がない。また、検出精度も高いため、欠陥部を有する中空糸膜モジュールの検出漏れといったおそれもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
中空糸膜としては、多孔質膜であれば、有機多孔質膜、無機多孔質膜のいずれをも検出対象とすることができ、有機多孔質膜としてはセルロース系、PVA系、EVA系、ポリメチルメタクリル系、ポリアクリロニトリル系等のものが、また無機多孔質膜としては炭素製、セラミックス製のものなどが挙げられる。
【0011】
供給されるガスの種類は、特に限定されないが、好ましくは熱容量の大きいガス、例えば六弗化硫黄ガスや二酸化炭素ガス等が用いられる。熱容量の大きいガスを用いると、中空糸膜欠陥部からのガス放出箇所とその周辺部分の温度差が大きくなるため、欠陥を有する中空糸膜が検出し易くなる。
【0012】
ガスの供給に際しては、60℃以上、好ましくは100〜140℃に加熱または5℃以下、好ましくは-30〜0℃に冷却したガスが用いられる。特に、熱により変質しやすい中空糸膜モジュールの場合には、供給ガスを冷却して、温度差を検出することが行われる。ここで、上記温度以外のガス、特に15〜35℃のガスを供給した場合には、ガス放出量の差を赤外線カメラによる温度差画像として捉えることが困難となる。
【0013】
中空糸膜へのガスの供給は、円筒状モジュール側面の中空糸膜外表面側より行われる。供給されたガスは、中空糸膜表面の多孔質膜を透過してそこから流入するとともに、ポッティング不良あるいは中空糸膜の破損等の欠陥部が存在する場合には、これらを通じて中空糸膜の内管側に流入し、中空糸膜端面の開口部から外部に放出される。このとき、多孔質膜からの正常なガス流入量よりも、欠陥部からのガス流入量が圧倒的に多くなるとともに、ガスは加熱または冷却されているため、モジュール開口部を赤外線カメラにより撮影すると、欠陥部からのガス放出箇所が温度差画像として検出される。
【0014】
ガスの供給に際しては、中空糸膜モジュールのガス出口側を閉塞し、デッドエンドでガス全量を供給することもでき、またガス出口側を解放し、モジュール内をガスが流れるように供給することもできる。いずれの場合であっても、好ましくはガスを例えば0.05〜0.3MPa程度に加圧し、中空糸膜外表面と内管部に差圧がでるようにすることで、欠陥部からガスが流入し易くなるので、検出が容易になる。
【0015】
中空糸膜端面の開口部から外部に放出されるガスの放出量は、温度差と相関するものであり、赤外線カメラにより中空糸膜端面の温度を撮影することにより測定される。すなわち、加熱したガスを供給して撮影した場合には、より多くのガスが放出されるモジュール端末の開口部は、他の開口部よりも多くのガスが放出されるので、より高い温度を示すようになる。ここで、赤外線カメラに顕微鏡レンズを装着すると、微小領域の温度差検出も可能となるため、径が小さい中空糸膜や、中空糸膜が密集した部分においても、容易に欠陥の検出が可能となる。顕微鏡レンズとしては、空間分解能が10〜63μmのものが用いられる。
【0016】
リーク検出対象となる中空糸膜モジュールは、乾燥状態のものが用いられるが、例えば精密ろ過クラスの孔径(100nm以上)の大きい中空糸膜モジュールの場合には、多孔質膜からのガス流入量も多く、欠陥部との温度差が生じがたいため、予め中空糸膜の外表面を水等の液体で濡らし、中空糸膜孔内部を液体で閉塞した状態とし、温度差を生じさせやすくしたうえでリークの検出を行うことが好ましい。
【実施例】
【0017】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0018】
実施例
外径200μm、内径150μmの炭素製中空糸膜500本からなる図1に示される円筒型中空糸膜モジュール1(中空糸膜有効長:100mm)を製作した。中空糸膜モジュールのガス出口2を閉じたデットエンド状態として、中空糸膜モジュールのガス入口3から、0.1MPaの圧力で、100℃に加熱した六弗化硫黄ガスを供給した。かかる状態で、中空糸膜端面の開口部を、空間分解能18μmの顕微鏡レンズを装着した赤外線カメラ4(日本アビオニクス製品TVS-500EX)により撮影したところ、中空糸膜の2本が他の領域と異なり、明瞭な赤色として観察された。これにより、他の中空糸膜よりもガス放出量の多いこれらの中空糸膜2本が欠陥を有し、欠陥部からも六弗化硫黄ガスが流入していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例で用いられた中空糸膜モジュールおよび赤外線カメラを示す図である
【符号の説明】
【0020】
1 中空糸膜モジュール
2 赤外線カメラ
3 ガス入口
4 ガス出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本よりなる中空糸膜群の少なくとも一方の端面が各々開口状態で固定されている中空糸膜モジュールに、60℃以上に加熱または5℃以下に冷却したガスを円筒状モジュール側面のガス供給口より中空糸膜外表面側に供給し、中空糸膜を透過してその端面開口部より放出されるガスの温度差を赤外線カメラを用いて撮影することにより測定し、中空糸膜モジュールのリークの有無を検出することを特徴とする中空糸膜モジュールのリーク検出方法。
【請求項2】
ガスが、六弗化硫黄ガスまたは二酸化炭素ガスである請求項1記載の中空糸膜モジュールのリーク検出方法。
【請求項3】
赤外線カメラに顕微鏡レンズを装着した、請求項1記載の中空糸膜モジュールのリーク検出方法に用いられる中空糸膜モジュールのリーク検出装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−82587(P2010−82587A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256454(P2008−256454)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】