説明

中空糸膜

【課題】高い空隙率を有しながらも優れた降伏強度を有し、低分子タンパクの除去性に優れるだけでなく、モジュール化性に優れる中空糸膜を提供する。
【解決手段】本発明は、内径が150〜250μm、膜厚が10〜30μm、空隙率が75%以上、かつ降伏強度が17g以上の中空糸膜であり、中空糸膜が粒子の集合体からなり、内表面から外表面に向かって膜厚の60%の範囲は平均径が50nm以上の粒子が充填した構造であることを特徴とする中空糸膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空隙率を従来に無いほど高くしているにもかかわらず、強伸度に優れる中空糸膜に関する。より詳しくは、空隙率を高めることによりダイアライザー機能分類のIV型乃至V型の性能を有しながらも、強伸度の向上およびすべり性の向上により中空糸膜のハンドリング性やモジュール組立性を向上した中空糸膜に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全治療などにおける血液浄化法では、血液中の尿毒素、老廃物を除去する目的で、天然素材であるセルロース、またその誘導体であるセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、合成高分子としてはポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどの高分子を用いた透析膜や限外濾過膜を分離材として用いた血液透析器、血液濾過器あるいは血液透析濾過器などのモジュールが広く使用されている。特に中空糸型の膜を分離材として用いたモジュールは体外循環にかかわる循環血液量の低減、血中の物質除去効率の高さ、さらにモジュール組立ての生産性などの利点から血液浄化分野での重要度が高い。
【0003】
中空糸膜を用いたモジュールは、通常中空糸膜の中空部に血液を流し、外側部に透析液を向流に流し、血液から透析液への拡散に基づく物質移動により尿素、クレアチニンなどの低分子量物質を血中から除くことを主眼としている。さらに、長期透析患者の増加に伴い、透析合併症が問題となり、近年では透析による除去対象物質は尿素、クレアチニンなどの低分子量物質のみでなく、分子量数千の中分子量から分子量1〜2万の高分子量の物質まで拡大し、これらの物質も除去できることが血液浄化膜に要求されている。特に分子量11700のβ2ミクログロブリンは手根管症候群の原因物質であることがわかっており除去ターゲットとなっている。このような高分子量物質除去の治療に用いられる膜はハイパフォーマンス膜と呼ばれている。近年わが国においては、合成高分子が基材の主成分である非対称構造の中空糸膜がハイパフォーマンス膜として多く臨床で用いられている。
【0004】
また、ポリスルホン系樹脂やポリアクリロニトリルなどの合成高分子を材料とした非対称構造である中空糸膜は、血液と接触する内表面にスキン層をもたせることでシャープな分画特性を発現させているが、一方で、分画層が内表面の薄い層のみであることに起因する性能の経時変化が顕著であるという性質を併せ持っている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
親水化剤を必要としない単一成分からなる血液浄化膜として酢酸セルロースからなる膜がある。酢酸セルロースは捕体を活性化させる水酸基の大部分をアセチル基に置換した構造であるため、親水化剤を用いなくても血液適合性に優れた素材である。酢酸セルロースの血液浄化用途においては、分画特性や血液適合性を向上させることを課題とし、血液と接触する内表面の粒径をコントロールする技術や、内表面を平滑にする技術、合成高分子と同等の分画特性を発現させるために内表面に緻密層を持たせた構造について検討されてきている。(たとえば、特許文献1、2、3、4参照)。
【0006】
特許文献5には、酢酸セルロースからなり、高透水性能を有し、患者の状態によらず性能の安定性に優れる血液浄化用の中空糸膜に関する技術が開示されている。そして、比較例には空孔率が81.4〜85.6%である中空糸膜が開示されている。しかし、降伏強力は単糸あたり7.9〜12.6gと低く、中空糸膜のハンドリング性には問題がある。
【0007】
また、特許文献6には、高透水性能を有し、血液系のタンパク濃度影響性の低い性能安定性に優れたモジュールに関する技術が開示されている。そして、実施例2、4、比較例3で得られた膜の空孔率が83.5%、86.2%、85.7%であることが記載されているが、上記同様に降伏強力が低いものしか得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】腎と透析別冊 63、195-196 2007 (HDF療法)
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−45662号公報
【特許文献2】特開2006−340977号公報
【特許文献3】特開2008−178814号公報
【特許文献4】特開平10−66725号公報
【特許文献5】国際公開第2007/102528号パンフレット
【特許文献6】特開2008−284186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い空隙率を有しながらも優れた降伏強度を有し、低分子タンパクの除去性に優れるだけでなく、モジュール化性に優れた中空糸膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
中空糸膜開発においては、高性能化と強伸度との取り合いがあった。本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、空隙率を高めることによりダイアライザー機能分類のIV型乃至V型の性能を有しながら、膜構造の最適化により強伸度を確保するとともに中空糸膜外表面の親水化剤の存在状態を適正化することにより、後工程における中空糸膜のハンドリング性やモジュール組立性を向上した中空糸膜を得るに至った。
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ついに本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)内径が150〜250μm、膜厚が10〜30μm、空隙率が75%以上、かつ降伏強度が17g以上の中空糸膜であり、中空糸膜が粒子の集合体からなり、内表面から外表面に向かって膜厚の60%の範囲は平均径が50nm以上の粒子が充填した構造であることを特徴とする中空糸膜。
(2)中空糸膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察した際、倍率10000倍で撮影した写真において膜断面に実質的にマクロボイドが観察されない構造であることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜。
(3)透過型電子顕微鏡を用いて中空糸膜の断面を観察した際に、内表面側に比して外表面側がより密な構造であることを特徴とする(1)または(2)に記載の中空糸膜。
(4)中空糸膜が酢酸セルロース系ポリマーからなることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載の中空糸膜。
(5)(1)〜(4)いずれかに記載の中空糸膜を端部充填率が45〜65%となるようにケースに挿入して作製されたことを特徴とする中空糸膜モジュール。
(6)血液浄化に用いられることを特徴とする(5)に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の効果】
【0013】
本発明の中空糸膜は、高い空隙率を有しているにもかかわらず高い降伏強度を付与しているので、低分子タンパクの除去性に優れるだけでなく、耐衝撃性やハンドリング性に優れ、取扱い性やモジュール組立ての歩留まりが良好である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の中空糸膜の断面構造の一例を示すSEM像。
【図2】本発明の中空糸膜の構造の一例を示すTEM像。
【図3】本発明の中空糸膜の構造の一例を示すTEM像。
【図4】本発明の中空糸膜の製造工程の一部を示す概略図。
【図5】本発明の中空糸膜の製造工程におけるグリセリン掻き取り部の拡大図。
【図6】中空糸膜の表面に付着する液滴の一例を示す顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明者は、前記課題を解決するために、中空糸膜の製造工程と中空糸膜の構造、血液中における性能の関係について検討した。血液中でのβ2ミクログロブリンなどの低分子量タンパク質の除去性能を向上させるには、内表面にスキン層を持つ非対称構造が有利とされており、市場ではポリスルホン系高分子と親水化剤のブレンドからなる非対称中空糸膜が主流である。しかし、このようなブレンド膜は、4時間程度の血液浄化治療においても膜からの親水化剤の溶出が避けられず、治療開始時と終了直前での性能変化が顕著になることがある。また、親水化剤が溶出することによるアレルギー症状を引き起こす可能性もある。本発明者は、親水化剤を用いずに高性能を達成しつつ、モジュール組立て性の良好な中空糸膜を得るために、均質構造としながらも高空隙率で、且つ強伸度の高い中空糸膜を得るために鋭意検討した。そして、膜の基本構造の最適化と製造工程における適度な延伸の付与と膜収縮の抑制に配慮することにより高透析性とモジュール組立て性に優れる中空糸膜を得ることが可能となった。
【0017】
本発明において、中空糸膜の内径は150〜250μmであることが好ましい。内径が小さすぎると、中空糸膜の中空部を流れる血液の圧力損失が大きくなるため、溶血の恐れがある。また、内径が大きすぎると、中空糸膜の中空部を流れる血液のせん断速度が小さくなるため、血液中のタンパク質が経時的に膜の内面に堆積しやすくなる。中空糸膜内部を流れる血液の圧力損失やせん断速度が適度な範囲となる内径は160〜230μmである。
【0018】
また、本発明において、中空糸膜の平均膜厚は10μm以上30μm以下が好ましい。平均膜厚が大きすぎると、透水性は高くても、中〜高分子量物質の透過性が不足することがある。また、モジュールの設計上、膜面積を大きくする際に膜厚が大きいと、モジュールの大きさが大きくなってしまい適切ではない。膜厚は薄い方が物質透過性が高まるため好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。平均膜厚が薄すぎると、バースト圧などの欠点評価などにおいてモジュールに必要な最低限の膜強度を維持するのが困難になることがある。したがって、平均膜厚は12μm以上がより好ましく、13μm以上がさらに好ましい。ここでいう平均膜厚とは、ランダムにサンプリングした中空糸膜5本を測定したときの平均値である。この時、それぞれの値と平均値との差が、平均値の2割を超えないこととする。
【0019】
本発明において、中空糸膜の空隙率は75%以上であることが好ましい。より好ましくは78%以上、さらに好ましくは80%以上である。空隙率を高めれば、膜厚部分を通過する物質の移動抵抗が小さくなるので、それだけ透析性能を高めることができる。しかし、中空糸膜のハンドリング性、特にモジュール組立性を考慮すると80%以上の空隙率は分離膜としての強度限界を既に超えている。そこで本発明者は、中空糸膜の構造を網目構造から粒子充填構造に変更した。粒子充填構造は、網目構造よりも、空隙率や粒子径を大きくする方にコントロールしやすく、高性能化と強度向上に適していると考えている。とは言え、空隙率が87%を超えると必要な降伏強度を得ることができない。
【0020】
本発明において、中空糸膜の降伏強度は単糸あたり17g以上であることが好ましい。19g以上がより好ましく、20g以上がさらに好ましい。降伏強度が低いと、中空糸膜製造工程において捲き取りができないとか、モジュール組立て時に中空糸膜の弛みが生じモジュール内で中空糸膜束の偏りが生じる(透析液の偏流の原因となる)などの問題が生じる可能性がある。
【0021】
本発明において、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて中空糸膜の断面を観察した際に、内表面側に比して外表面側が密である構造が好ましい。TEMでの観察は、粒子と空隙の区別が明確になるので適している。密な構造とは、TEMで観察をした際に、膜の断面構造が内側から外側までが一つの画像で観察できる倍率において、膜断面のコントラストにて判断し、相対的に濃く観察される部分が密な構造である。断面サンプルは同サンプルについて複数個所について観察する。いずれについても断面のコントラストが同じ傾向であることを確認して最終的に密な構造の有無、位置などを判定する。ここで、膜断面構造を観察する際に、部分的に別々の画像を用いると、TEM観察した際の光量の加減などで単純に濃淡を比較できない場合があるので適さない。密な層はいわゆる分離に直接作用する分画層であり、分画層が外表面側にあるということは、深層ろ過と篩い分けの組合わせによる分画が期待でき、性能低下の抑制に効果がある。
密な層では、TEMの観察倍率を2万倍まで拡大しても、互いの粒子が接近しているため、粒径測定が困難である。
【0022】
本発明において、内表面から外表面に向かっておよそ膜厚の60%の領域では、径が50nm以上の粒子が充填した構造であることが好ましい。粒子のサイズは55nm以上150nm以下がより好ましく、60nm以上140nm以下がさらに好ましい。このような範囲の粒子が均等に充填した構造である場合、血液中のたんぱく質、主にアルブミンが可逆層として血液接触面(内表面)に存在することが可能となり、血液適合性や分画性に優れる。径が150nmを超える粒子の集合体の場合には中空糸膜の強度が弱くなることがある。
中空糸膜の内表面に緻密層、とくに孔径が小さく薄い密な構造のスキン層がある場合には、血液と接触する中空糸膜の内表面に可逆的なタンパク質の吸脱着層が存在できないので、膜と血液との間にストレスが発生することになり適さない。
【0023】
また、本発明の中空糸膜は、膜断面に実質的にマクロボイドが観測されないのが好ましい。膜の内表面あるいは外表面に緻密なスキン層を持ち中間部にボイドを含有する構造では、スキン層の構造変化が起きにくいためか本発明の効果が得られにくい。また、中空糸膜にマクロボイドが存在すると、膜構成分子間の距離が大きくなり膜構成分子間の静電引力による膜収縮が働きにくくなるためか、本発明の効果が得られにくい。ここで、実質的にマクロボイドが観察されない膜とは、膜断面を走査型電子顕微鏡により10,000倍で観察したときに、直径が0.7μmを超える大きさのボイドや構造に由来する空隙が観察されない均質構造を示す。
【0024】
本発明において、中空糸膜を構成する基材は、血液への溶出物の心配がない単一高分子基材が好ましく、酢酸セルロースがモジュールとして実績があり好ましい。また、水酸基の置換度が高い三酢酸セルロースが捕体活性化の抑制に効果があるためより好ましい。
【0025】
本発明の中空糸膜は、血液透析や血液透析濾過、血液濾過など、腎不全の治療に用いるモジュール用として好適である。さらに、高性能であるにも関わらず、膜からの親水化剤などの溶出物が無く、さらに患者自身の血液成分による酸化ストレス抑制作用も期待できるなど、安全な治療ができるという点で優れている。
【0026】
本発明における中空糸膜の37℃における純水の透水性(UFR)は150ml/m2/hr/mmHg以上1500ml/m2/hr/mmHg以下の範囲が好ましい。透水性が150ml/m2/hr/mmHg未満では本発明の目的とする高透水性とは言えず、一般にタンパクリーク量も低い。透水性が大きすぎる場合は、細孔径が大きくなり、タンパクリーク量が多くなりすぎることがある。したがって、透水性のより好ましい範囲は150ml/m2/hr/mmHg以上1200ml/m2/hr/mmHg以下、さらに好ましくは150ml/m2/hr/mmHg以上1000ml/m2/hr/mmHg以下である。
【0027】
本発明の中空糸膜を用いて内径基準による膜面積が1.5m2のモジュールを作製し、血液流路側にヒトβ2MG(分子量11,600)を0.05〜0.1mg/lの濃度になるように添加した総タンパク濃度が6.5±0.5g/dl、37℃に保温したACD(acid-citrate-dextrose)添加牛血漿を流量200ml/minで流し、透析液側に透析液を500ml/minで流し、ろ過流量15ml/minでろ過した際に、透析開始後60分時点のβ2MGのクリアランス(CLβ15とする)が60ml/min以上を達成することができ、ダイアライザー機能分類のV型の性能を発現することも可能である。
【0028】
このような中空糸膜の製造方法としては、以下に示す条件が好ましい。粒子充填構造にするためには、紡糸原液のポリマー濃度を低くすればよく、さらに内表面近傍の領域の粒子径を50nm以上にするには、ポリマーの種類などにもよるが三酢酸セルロースの場合、18質量%以下、より好ましくは17質量%以下とするのが好ましい。しかし、紡糸原液中のポリマー濃度が低すぎても、必要な膜強度を得られない可能性があるので、12質量%以上が好ましく、14質量%以上がより好ましい。
【0029】
紡糸原液は、不溶成分やゲルを取り除く目的でノズル吐出直前にフィルターにかけるのが好ましい。フィルターの孔径は小さい方がよく、具体的には中空糸膜の膜厚以下のものが好ましく、中空糸膜の膜厚の1/2以下がより好ましい。フィルターが無い場合やフィルターの孔径が中空糸膜の膜厚を超える場合、ノズルスリットの一部に詰まりが生じ、偏肉糸の発生を招くことがある。さらに、フィルター無しの場合やフィルター孔径が中空糸膜の膜厚を超えると、紡糸原液中の不溶解成分やゲルなどの混入が原因で部分的なボイドの原因となりやすい。粒子充填構造の場合、ボイドなどの膜中の欠陥は血液浄化膜としての強度を著しく低下させることになる。紡糸原液の濾過は、吐出するまでの間に複数回実施してもよく、フィルターの寿命を延ばすことができるので好ましい。
【0030】
また、ドラフト比は小さい方が好ましい。具体的には1以上10以下が好ましく、3以上9以下がより好ましく、5以上9以下がさらに好ましい。ここで言うドラフト比は、凝固浴出口における中空糸膜引取り速度とノズルから吐出される紡糸原液の吐出線速度との比(中空糸膜引取り速度/紡糸原液の吐出線速度)である。ドラフト比が大きすぎると、膜の構造形成時に張力がかかり、粒子の変形や均一性を損なうことがある。
【0031】
紡糸原液を吐出する際のノズルの温度は、紡糸原液の粘度を可紡領域でコントロールするために、50℃以上130℃以下が好ましく、70℃以上120℃以下がより好ましく、80℃以上110℃以下がさらに好ましい。ノズル温度が低過ぎると紡糸原液の粘度が高くなるため、ノズルにかかる圧力が高くなり紡糸原液を安定に吐出できないことがある。また、ノズル温度が高過ぎると相分離による膜形成に影響し孔径が大きくなりすぎる可能性がある。
【0032】
吐出した紡糸原液は、空中走行部を経て凝固液に浸漬させる。この時の空中走行部は、膜の外表面の相分離速度を早くするために、外気と遮断する部材(紡糸管)で囲み、相対湿度を高くすることが好ましい。具体的には、外部から水蒸気を送り込み、紡糸管内の相対湿度を80〜100%RHとするのが好ましい。90〜100%RHとするのがより好ましい。送り込んだ水蒸気が紡糸管内で急激に温度低下すると結露し、膜の外表面構造が不均一になるので、水蒸気の温度は紡糸管内温度よりも低い温度であることが好ましい。紡糸管内温度をコントロールするために、紡糸管を外側から暖めるためのヒーターを設置しても良い。水蒸気の温度は、15℃以上100℃以下が好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましい。紡糸管内の水蒸気の対流にムラがあると相分離速度にムラができるので、紡糸管内の水蒸気はムラが生じないように送り込む配慮が必要である。具体的には、紡糸管内に水蒸気を送り込むノズルを複数設置する方法が好ましい。空中走行部の長さは紡糸速度にもよるが、3〜150mmが好ましく、5〜100mmがより好ましく、5〜70mmがさらに好ましい。ノズルから吐出された紡糸原液が紡糸管内を通過する時間は、0.0001秒〜1.0秒が好ましく、0.001秒〜0.1秒がより好ましい。
【0033】
本発明において、中空形成材は、紡糸原液に対して不活性な液体や気体を用いるのが好ましい。このような中空形成材の具体例としては、流動パラフィンやミリスチン酸イソプロピル、窒素、アルゴンなどが挙げられる。これらの中空形成材には、必要に応じてグリセリンやエチレングリール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの非溶媒を加えることもできる。
【0034】
空中走行部を経てゲル化した膜は、凝固浴中を通過させることにより相分離を進行させる(粒子を成長させる)。このとき、凝固液は紡糸原液を調製する際に使用した溶媒の水溶液が好ましい。凝固液が水溶液である場合には、外表面からの相分離速度が加速するので好ましい。空中走行部で水蒸気によって、外表面からの相分離が促進した状態で、さらに外表面からの相分離を促進させる水溶液の凝固浴を通過するという2段階の相分離反応を経ることは、本発明の一つである外表面付近に比較的緻密な層を形成させる手段となる。凝固浴の溶媒濃度は30質量%以下が好ましく、27質量%以下がより好ましく、24質量%以下がさらに好ましい。ただし、凝固浴の溶媒濃度が低すぎると紡糸時の濃度コントロールが困難であるため、溶媒濃度の下限は1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。凝固浴の温度は凝固速度のコントロールのため5℃以上50℃以下が好ましい。10℃以上45℃以下がより好ましい。凝固浴には、必要に応じてグリセリンやエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの非溶媒、また酸化防止剤や潤滑剤などの添加剤を加えることもできる。
【0035】
上述したような種々の条件を組合わせることにより、中空糸膜内表面から外表面に向かって少なくとも膜厚の60%の領域において粒径が50nm以上となるような粒子充填構造を持たせることが可能となる。
【0036】
また、中空糸膜の降伏強度を高めるために、本発明の中空糸膜は、凝固浴中で延伸を加えるのが好ましい。凝固浴中で延伸を付与することによって、詳細な機構は不明であるが、中空糸膜を形成するポリマーが整列しヤング率が高まり、外圧に対する強度を付与することが出来ると考えられる。ここでの延伸は好ましくは5〜20%、より好ましくは10〜17%である。ここで言う延伸とは第2凝固浴入口ローラー速度と第2凝固浴出口ローラー速度との比を表す。
延伸倍率(%)=(出口ローラー速度−入口ローラー速度)/入口ローラー速度×100
【0037】
凝固浴を経た中空糸膜は洗浄工程を経て溶媒などの不要な成分を洗い流す。このときに用いる洗浄液は水が好ましく、温度は20℃〜80℃であれば洗浄効果が高くなるため好ましい。20℃未満では洗浄効率が悪く、80℃超では熱効率が悪いことと、中空糸膜への負担が大きく、保存安定性や性能に影響を与えることがある。また、中空糸膜の構造がほぼ固まった以降の工程で、外部から強い力を加えると膜構造や表面形状、孔形状が変形してしまうことがあるので、洗浄浴を走行する中空糸膜にはなるべく抵抗がかからないような工夫を施すのが好ましい。中空糸膜から溶媒や添加剤等の不要な成分を除去するためには、液更新を高めるのが好ましく、従来は、例えば洗浄液のシャワーの中を中空糸膜を走行させるとか、洗浄液の流れと中空糸膜の走行を向流にするなどして洗浄効率を高めていた。しかし、このような洗浄方法を採用すると中空糸膜の走行抵抗が大きくなるため、中空糸膜に延伸をかけて弛んだり縺れたりすることを防ぐ必要があった。
【0038】
中空糸膜の膜構造破壊の抑制と洗浄性の両立をはかるためには、洗浄液と中空糸膜を並流で流すことが有効である。洗浄工程の具体的な態様としては、例えば、洗浄浴に傾きをつけ中空糸膜がその傾斜を下っていくような設備がよい。具体的には、浴の傾斜は1〜3度が好ましい。3度超では洗浄液の流速が早くなりすぎ中空糸膜の走行抵抗を抑えることができないことがある。1度未満では、洗浄液の滞留による中空糸膜の洗浄不良が発生することがある。このように洗浄浴での中空糸膜への抵抗を抑制することで、洗浄浴入り口の中空糸膜の走行速度と出口の走行速度をほぼ同じにすることができる。また、洗浄効率をより高めるために、洗浄浴は多段に配置されるのが好ましい。段数については洗浄性との兼合いにより適宜設定する必要があり、例えば、本発明に使用される溶媒、非溶媒、親水化剤等の除去を目的とするのであれば、3〜30段程度あれば足りるといえる。
【0039】
洗浄工程を経た中空糸膜は細孔内にグリセリンを充填するための処理を行なう。この場合グリセリン濃度は80〜95質量%が好ましい。より好ましくは70〜90質量%である。グリセリン濃度が低すぎると、乾燥時に中空糸膜が縮み易く、保存安定性が悪くなることがある。また、グリセリン濃度が高すぎると、中空糸膜に余分なグリセリンが付着しやすく、モジュールに組み立てる時に中空糸膜端部の接着性が悪くなることがある。グリセリン浴の温度は、50℃以上80℃以下が好ましい。より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。グリセリン浴の温度が低すぎると、グリセリン水溶液の粘度が高く、中空糸膜の細孔の隅々までグリセリン水溶液が行き渡らない可能性がある。グリセリン浴の温度が高すぎると、中空糸膜が熱で変性、変質してしまう可能性がある。
【0040】
グリセリン処理を施した中空糸膜は、中空糸膜表面に付着した過剰のグリセリン水溶液を除去するために、図4、5に示されるような乾燥工程の前段および/または後段に設けられた1以上のローラーに接触させて中空糸膜表面からローラー表面にグリセリン水溶液を移動させる。ローラー表面に付着したグリセリン水溶液はローラーに接触するスクレーパーにより除去されるため、中空糸膜は常に表面更新がされたローラーと接触することになる。もちろん、スクレーパーはローラー1つに対して2つ以上設けても良い。このような工程を必要により複数回通過させることにより中空糸膜表面のグリセリン液層の厚みをコントロールする。この際、中空糸膜表面に付着するグリセリン液層をどの程度の厚みとするかは、境界摩擦を越えて流体摩擦の領域に入る程度とするのが好ましい。流体摩擦を生じる程度のグリセリン液層を形成してやることにより、中空糸膜のすべり性が向上して良好なモジュール組立て性を得ることが可能となる。
【0041】
一方、本発明の中空糸膜は、上述したように中空糸膜の表面にグリセリン液層を形成しているので、液滴が生じやすい問題がある。液滴とは、図6に示すような中空糸膜表面に形成される液体の凝集塊のことをいう。液滴の発生原因としては、中空糸膜表面に付着する異物(ゴミ)などが核となり、雰囲気中の水分を吸湿して液滴を形成することが考えられる。液滴が発生するとモジュール組立てにおいて、接着不良が生じたり、接着に用いるウレタンと液滴中の水分が反応して溶出性オリゴマーを生じることがある。したがって、本発明においては、液滴の発生を抑制するために、中空糸膜の乾燥時に除塵フィルターで処理したエアを使用するとか、捲き取り時の湿度コントロールを行う。
【0042】
また、捲き取り時の雰囲気の湿度は30〜55%RHとするのが好ましい。より好ましくは35〜45%RHである。巻き取り時の湿度が高すぎると、中空糸膜に余分な水分が付着し、中空糸膜表面に液滴が発生するために、モジュールに組み立てる時に中空糸膜端部の接着性が悪くなることがある。また湿度が低すぎると、中空糸膜の適度な水分がなくなるために中空糸膜表面がパサつき、捲き取り性が悪くなる可能性がある。巻取り時の雰囲気の湿度を特定の範囲とすることにより、良好なモジュール組み立て性を得ることができる。
【0043】
このようにして得られた中空糸膜を複数本の束にしてモジュールケースに挿入してモジュールを作製する。このとき、モジュールケース端部における中空糸膜の充填率は45〜65%程度とするのが好ましい。充填率が低い場合はモジュールの組立て性は向上するが、透析液の流れに偏流が起こり易くなり中空糸膜の性能を十分に発現できないことがある。一方、充填率が高い場合には中空糸膜の潰れや変形が起こり易くなり、また中空糸膜同士の間隙が小さくなるため接着不良などの問題が生じやすい。本発明の中空糸膜は、中空糸膜の強伸度、特に降伏強度を高める配慮を施したことに加えて、親水化剤の付着状態を適正化し、かつ液滴の発生を抑制しているので、ハンドリング性やモジュール組立て性が良好である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の有効性について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の本発明における中空糸膜の評価方法は以下の通りである。
【0045】
(破断強伸度、降伏強伸度の測定)
中空糸膜の破断強伸度および降伏強伸度は、引っ張り試験機(東洋ボールドウイン社製テンシロンUTMII)を用いて測定する。全長約15cmの単糸をチャック(チャック間距離10cm)に固定し、100mm/分の速度でチャックに連結したフルスケール100gのセルを上昇させる。チャート紙から中空糸膜が切れた破断伸度と破断強度を読み取り、S−Sカーブとする。初期勾配を延長させた補助線と、極大点における傾きゼロの補助線が交わる点を降伏点とし、その点における強度を降伏強度、伸度を降伏伸度とする。
【0046】
(断面構造の観察(透過型電子顕微鏡(TEM)))
評価する中空糸膜を水洗した後、エタノールで脱水する。脱水後、エタノールを酢酸3‐メチルブチルに置換し、臨界点乾燥装置(メーカー名、装置型式)を用いて膜を乾燥する。乾燥した膜を樹脂包埋し、ミクロトームを用いて超薄切片を作製した。作製した超薄切片を四酸化ルテニウム蒸気中で30分間染色し、カーボン蒸着を施した。透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM2100)を用いて、加速電圧200kVで膜全体の構造を観察した。
【0047】
(断面構造の観察(走査型電子顕微鏡(SEM)))
中空糸膜を軽く水洗しグリセリンを除去したサンプルを液体窒素にて凍結して切断する。得られたサンプルを切断面が観察できるように試料台に固定し、スパッタリングによりカーボン蒸着を行う。カーボン蒸着したサンプルを走査型電子顕微鏡(日立製S-2500)にて観察を行う。なお、加速電圧は10kV、倍率は10,000倍とした。
【0048】
(中空糸膜の内径、外径、膜厚の測定)
これらの測定は、中空形成材を洗浄、除去した後、中空糸膜を乾燥させた形態で観察する。乾燥方法は問わないが、乾燥により著しく形態が変化する場合には中空形成材を洗浄、除去したのち、純水で完全に置換した後、湿潤状態で形態を観察する。中空糸膜の内径、外径および膜厚は、中空糸膜をスライドグラスの中央に開けられたφ3mmの孔に中空糸膜が抜け落ちない程度に適当本数通し、スライドグラスの上下面でカミソリによりカットし、中空糸膜断面サンプルを得た後、投影機Nikon-V-12Aを用いて中空糸膜断面の短径、長径を測定することにより得られる。中空糸膜断面1個につき2方向の短径、長径を測定し、それぞれの算術平均値を中空糸膜断面1個の内径および外径とし、膜厚は(外径−内径)/2で算出した。5断面について同様に測定を行い、その平均値を内径、外径、膜厚とした。
【0049】
(空隙率の測定)
中空糸膜に対する空隙率の測定は以下のように測定した。
十分に純水に浸漬させた中空糸束を900rpmの回転数で5分間遠心脱液し、膜孔に純水が詰った状態の中空糸の重量(W)を測定する。その後、乾燥機中で絶乾し、中空糸のみの重量(P)を測定し、空隙率(φ)を計算した。
φ(%)=W/(W+P/ポリマーの密度)×100
【0050】
(膜孔形保持剤(グリセリン)付着率の測定)
中空糸膜に対する膜孔形保持剤グリセリン付着率は、以下のように測定した。
適当量(約30g)の中空糸膜を用意する。ループ状でもバンドル状でも構わない。必要に応じて中空糸内部に芯材がある場合はこれを除去する。中空糸膜を完全に乾燥させ重量Wを測定する。その後、中空糸膜を約40℃の水に浸漬させ、十分に洗浄した後、120℃の乾熱オーブンで2時間乾燥させ、重量Pを測定する。次に下記式により中空糸膜に対する膜孔形保持剤の付着率G(wt%)を計算した。
G(wt%)=(W−P)÷W×100
【0051】
(中空糸膜に付着する液滴の測定)
中空糸膜を約50mmの長さ分切り取り、ペトリ皿に入れて密封した後、光学顕微鏡にて倍率40倍で観察した。視野内に存在する液滴の数と大きさを測定した。なお、ごく微小の液滴については、中空糸膜品質や組立て不良につながる可能性が低いため、最大径が約15μm以上の大きさのものを測定対象とした。液滴が多量に存在するとモジュール組立て不良が発生する頻度が高くなる。
【0052】
(中空糸膜モジュールの作製)
中空糸膜を複数本束ね、およそ30cmの長さに切断し、ポリエチレンフィルムで巻いて中空糸膜束とした。この中空糸膜束を円筒型のポリカーボネート製モジュールケースに挿入し、両末端をウレタンポッティング剤で固めた。端部を切断して、中空糸膜の両末端が開口したモジュールを得た。中空糸膜の本数およびモジュールケースの大きさは、端部充填率が55%、内径基準の膜面積が1.5m2となるよう適宜設定した。
【0053】
(中空糸膜モジュールの組立て性の評価)
1.分離膜モジュールの接着性の試験
端部接着部分に剥離の見られない分離膜モジュールの中空部分と中空糸膜の外側部分に純水を満たし、モジュールの中空糸膜の外側部分に加圧空気を送り、端部を密閉した状態でおよそ24時間、最高使用時の1.5倍の圧力をかけた。24時間後、端部接着部分の観察を行い剥離の状態を確認した。この時、剥離のない状態を合格とした。
2.中空糸膜束の偏り
作製したモジュールをケースの外側から観察し、中空糸膜束の偏りや割れが生じていないものを合格とした。
3.接着不良
作製したモジュールの接着端部を目視により、またリーク試験により接着樹脂の充填不良がないか確認する。リーク試験は、モジュールを水中に浸漬し、透析液側より加圧エアを送り込みモジュール端部よりエア漏れの有無を確認する。
【0054】
(透水性の測定)
モジュールの血液出口部回路(圧力測定点よりも出口側)を鉗子で挟んで封止した。37℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、37℃恒温槽で保温したモジュールの血液流路側へ純水を送り、透析液側から流出した濾液量を測定した。膜間圧力差(TMP)は
TMP=(Pi+Po)/2
とする。ここでPiは透析器入り口側圧力、Poは透析器出口側圧力である。TMPを4点変化させ濾過流量を測定し、それらの関係の傾きから透水性(mL/hr/mmHg)を算出した。このときTMPと濾過流量の相関係数は0.999以上でなくてはならない。また回路による圧力損失誤差を少なくするために、TMPは100mmHg以下の範囲で測定する。中空糸膜の透水性は膜面積とモジュールの透水性から算出する。
UFR(H)=UFR(D)/A
ここでUFR(H)は中空糸膜の透水性(mL/m2/hr/mmHg)、UFR(D)はモジュールの透水性(mL/hr/mmHg)、Aはモジュールの膜面積(m2)である。
【0055】
(β2MGのクリアランス測定)
透析会誌41(3)、p159〜167、2008年に示されたモジュール性能評価基準に準じ実施する。膜面積1.5m2(中空糸膜内径基準)のモジュールに、総タンパク濃度6.5±0.5g/dlに調整し、37℃に保温したACD(acid-citrate-dextrose)添加牛血漿を血液側流量200ml/minで1時間循環する。次いでヒトβ2MG(遺伝子組み換え品、和光純薬製)を0.05〜0.1mg/lの濃度になるように添加した総タンパク質濃度6.5±0.5g/dlに調整し、37℃に保温したACD添加牛血漿を血液側流量200ml/minで血液側に流し、市販透析液を500ml/min、ろ過流量15ml/minで透析を実施する。このクリアランス評価はシングルパスで実施する。透析開始後、60分時点の血液入口、出口、透析液出口より採取した試験液のβ2MG濃度を測定する。クリアランスは以下の式で計算する。
CLβ15(ml/min)=200×[(200×CBi)−(185×CBo)]/(200×CBi)
ここで、CBi;血液入口部濃度、CBo;血液出口部濃度。
【0056】
(実施例1)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15.5質量%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.15質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.35質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を100℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断された空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬した。紡糸管には、30℃の水蒸気を吹き込み管内湿度を80%RHとした。空中走行部の長さは20mm、紡糸管内を通過時間は0.02秒であった。40℃のNMP/TEG/水=10.5/4.5/85.0からなる第1凝固浴および第2凝固浴中で凝固、相分離させた。このとき、ドラフト比は7であった。第2凝固浴における延伸は、10%とした。凝固浴から曳き出した中空糸膜を30℃の水洗浴で洗浄した。このとき、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。引き続き90℃、95質量%のグリセリン水溶液からなるグリセリン浴に浸漬した。グリセリン浴から曳き出した中空糸膜は、40℃のドライヤーで乾燥し、紡糸速度75m/minで巻き上げた。乾燥エアはHEPAフィルターで処理したものを用いた。また、巻き取り時の雰囲気湿度は30%RHで行った。なお、ドライヤーの前後において、中空糸膜をシリコーン製のスクレーパーを備えたローラーに接触させ過剰のグリセリンを除去した。(図4、図5参照)。
【0057】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μmであった。本実施例で得られた中空糸膜の物性、性能評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15.5質量%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.15質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.35質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を110℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断された空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬した。紡糸管には、100℃の水蒸気を吹き込み管内湿度を100%RHとした。空中走行部の長さは20mm、紡糸管内を通過時間は0.02秒であった。40℃のNMP/TEG/水=10.5/4.5/85.0からなる第1凝固浴および第2凝固浴中で凝固、相分離させた。このとき、ドラフト比は7であった。第2凝固浴における延伸は、10%とした。凝固浴から曳き出した中空糸膜を30℃の水洗浴で洗浄した。このとき、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。引き続き90℃、95質量%のグリセリン水溶液からなるグリセリン浴に浸漬した。グリセリン浴から曳き出した中空糸膜は、40℃のドライヤーで乾燥し、紡糸速度75m/minで巻き上げた。乾燥エアはHEPAフィルターで処理したものを用いた。また、巻き取り時の雰囲気湿度は30%RHで行った。なお、ドライヤーの前後において、実施例1と同様に中空糸膜をシリコーン製のスクレーパーを備えたローラーに接触させ過剰のグリセリンを除去した。
【0059】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μmであった。本実施例で得られた中空糸膜の物性、性能評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例3)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15.5質量%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.15質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.35質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を90℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断された空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬した。紡糸管には、30℃の水蒸気を吹き込み管内湿度を80%RHとした。空中走行部の長さは20mm、紡糸管内を通過時間は0.02秒であった。40℃のNMP/TEG/水=10.5/4.5/85.0からなる第1凝固浴および第2凝固浴中で凝固、相分離させた。このとき、ドラフト比は7であった。第2凝固浴における延伸は、20%とした。凝固浴から曳き出した中空糸膜を30℃の水洗浴で洗浄した。このとき、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。引き続き90℃、95質量%のグリセリン水溶液からなるグリセリン浴に浸漬した。グリセリン浴から曳き出した中空糸膜は、40℃のドライヤーで乾燥し、紡糸速度75m/minで巻き上げた。乾燥エアはHEPAフィルターで処理したものを用いた。また、巻き取り時の雰囲気湿度は30%RHで行った。なお、ドライヤーの前後において、実施例1と同様に中空糸膜をシリコーン製のスクレーパーを備えたローラーに接触させ過剰のグリセリンを除去した。
【0061】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μmであった。本実施例で得られた中空糸膜の物性、性能評価結果を表1に示す。
【0062】
(実施例4)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15.5質量%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.15質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.35質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を90℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断された空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬した。紡糸管には、30℃の水蒸気を吹き込み管内湿度を80%RHとした。空中走行部の長さは20mm、紡糸管内を通過時間は0.02秒であった。40℃のNMP/TEG/水=10.5/4.5/85.0からなる第1凝固浴および第2凝固浴中で凝固、相分離させた。このとき、ドラフト比は7であった。第2凝固浴における延伸は、10%とした。凝固浴から曳き出した中空糸膜を30℃の水洗浴で洗浄した。このとき、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。引き続き90℃、80質量%のグリセリン水溶液からなるグリセリン浴に浸漬した。グリセリン浴から曳き出した中空糸膜は、40℃のドライヤーで乾燥し、紡糸速度75m/minで巻き上げた。乾燥エアはHEPAフィルターで処理したものを用いた。また、巻き取り時の雰囲気湿度は30%RHで行った。なお、ドライヤーの前後において、実施例1と同様に中空糸膜をシリコーン製のスクレーパーを備えたローラーに接触させ過剰のグリセリンを除去した。
【0063】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μmであった。本実施例で得られた中空糸膜の物性、性能評価結果を表1に示す。
【0064】
(実施例5)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15.5質量%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.15質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.35質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を90℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断された空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬した。紡糸管には、30℃の水蒸気を吹き込み管内湿度を80%RHとした。空中走行部の長さは20mm、紡糸管内を通過時間は0.02秒であった。40℃のNMP/TEG/水=10.5/4.5/85.0からなる第1凝固浴および第2凝固浴中で凝固、相分離させた。このとき、ドラフト比は7であった。第2凝固浴における延伸は、10%とした。凝固浴から曳き出した中空糸膜を30℃の水洗浴で洗浄した。このとき、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。引き続き90℃、95質量%のグリセリン水溶液からなるグリセリン浴に浸漬した。グリセリン浴から曳き出した中空糸膜は、40℃のドライヤーで乾燥し、紡糸速度75m/minで巻き上げた。乾燥エアはHEPAフィルターで処理したものを用いた。また、巻き取り時の雰囲気湿度は55%RHで行った。なお、ドライヤーの前後で中空糸膜をシリコーン製のスクレーパーを備えたローラーに接触させ過剰のグリセリンを除去した。
【0065】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μmであった。本実施例で得られた中空糸膜の物性、性能評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例6)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15.5質量%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.15質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.35質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を90℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断された空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬した。紡糸管には、40℃の水蒸気を吹き込み管内湿度を90%RHとした。空中走行部の長さは20mm、紡糸管内を通過時間は0.02秒であった。40℃のNMP/TEG/水=10.5/4.5/85.0からなる第1凝固浴および第2凝固浴中で凝固、相分離させた。このとき、ドラフト比は7であった。第2凝固浴における延伸は、15.5%とした。凝固浴から曳き出した中空糸膜を30℃の水洗浴で洗浄した。このとき、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。引き続き90℃、93質量%のグリセリン水溶液からなるグリセリン浴に浸漬した。グリセリン浴から曳き出した中空糸膜は、40℃のドライヤーで乾燥し、紡糸速度75m/minで巻き上げた。乾燥エアはHEPAフィルターで処理したものを用いた。また、巻き取り時の雰囲気湿度は45%RHで行った。なお、ドライヤーの前後で中空糸膜をシリコーン製のスクレーパーを備えたローラーに接触させ過剰のグリセリンを除去した。
【0067】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μmであった。本実施例で得られた中空糸膜の物性、性能評価結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)19.0質量%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社製)56.7質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)24.3質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を100℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断された空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬した。紡糸管内の調湿は行わなかった。空中走行部の長さは20mm、紡糸管内を通過時間は0.02秒であった。40℃のNMP/TEG/水=10.5/4.5/85.0からなる第1凝固浴および第2凝固浴中で凝固、相分離させた。このとき、ドラフト比は7であった。第2凝固浴における延伸は、10%とした。凝固浴から曳き出した中空糸膜を30℃の水洗浴で洗浄した。このとき、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。引き続き90℃、95質量%のグリセリン水溶液からなるグリセリン浴に浸漬した。グリセリン浴から曳き出した中空糸膜は、40℃のドライヤーで乾燥し、紡糸速度75m/minで巻き上げた。乾燥エアはHEPAフィルターで処理せずに用いた。また、巻き取り時の雰囲気湿度は30%RHで行った。なお、ドライヤーの前後において、中空糸膜をシリコーン製のスクレーパーを備えたローラーに接触させ過剰のグリセリンを除去した。
【0069】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μmであった。本実施例で得られた中空糸膜の物性、性能評価結果を表1に示す。
【0070】
本比較例においては、製膜溶液中のポリマー濃度を高めたことと紡糸管内の調湿を行わなかったため、粒子が十分成長しなかった。そのため、所期のβ2MGのクリアランスを得ることが出来なかった。また、HEPAフィルターで処理していない乾燥エアを使用したため、中空糸表面に異物が付着し、それが核となり、雰囲気中の水分を吸湿して液滴を形成し、モジュール接着性が悪くなったと思われる。
【0071】
(比較例2)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)19.0質量%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社製)56.7質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)24.3質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を100℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断された空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬した。紡糸管内の調湿は行わなかった。空中走行部の長さは20mm、紡糸管内を通過時間は0.02秒であった。40℃のNMP/TEG/水=10.5/4.5/85.0からなる第1凝固浴および第2凝固浴中で凝固、相分離させた。このとき、ドラフト比は7であった。第2凝固浴における延伸は、10%とした。凝固浴から曳き出した中空糸膜を30℃の水洗浴で洗浄した。このとき、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。引き続き90℃、95質量%のグリセリン水溶液からなるグリセリン浴に浸漬した。グリセリン浴から曳き出した中空糸膜は、40℃のドライヤーで乾燥し、紡糸速度75m/minで巻き上げた。乾燥エアはHEPAフィルターで処理したものを用いた。また、巻き取り時の雰囲気湿度は72%RHで行った。なお、ドライヤーの前後において、中空糸膜をシリコーン製のスクレーパーを備えたローラーに接触させ過剰のグリセリンを除去した。
【0072】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μmであった。本実施例で得られた中空糸膜の物性、性能評価結果を表1に示す。
【0073】
本比較例においては、比較例1の課題に加えて、グリセリンの掻き取りをしていないために、中空糸膜外表面に付着する過剰のグリセリンによって中空糸膜同士が固着し、モジュール組立ての際に接着樹脂が中空糸膜間に入り込ますモジュール組立て性が悪くなったと思われる。
【0074】
(比較例3)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15.5質量%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.15質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.35質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を100℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断された空中走行部を通過した後、凝固浴に浸漬した。紡糸管には、30℃の水蒸気を吹き込み管内湿度を80%RHとした。空中走行部の長さは20mm、紡糸管内を通過時間は0.02秒であった。40℃のNMP/TEG/水=10.5/4.5/85.0からなる第1凝固浴および第2凝固浴中で凝固、相分離させた。このとき、ドラフト比は7であった。第2凝固浴における延伸は、3%とした。凝固浴から曳き出した中空糸膜を30℃の水洗浴で洗浄した。このとき、水洗浴は、従来法による向流とした。水洗浴は7段とした。引き続き90℃、95質量%のグリセリン水溶液からなるグリセリン浴に浸漬した。グリセリン浴から曳き出した中空糸膜は、40℃のドライヤーで乾燥し、紡糸速度75m/minで巻き上げた。乾燥エアはHEPAフィルターで処理したものを用いた。また、巻き取り時の雰囲気湿度は30%RHで行った。なお、ドライヤーの前後において、中空糸膜をシリコーン製のスクレーパーを備えたローラーに接触させ過剰のグリセリンを除去した。
【0075】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15μmであった。本実施例で得られた中空糸膜の物性、性能評価結果を表1に示す。
【0076】
本比較例においては、第2凝固浴における延伸が低いことと、水洗浴を向流としたために、中空糸の降伏強度が低くなり、モジュール組み立て性が悪くなったと思われる。
【0077】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の中空糸膜は、高い空隙率を有しながらも優れた降伏強度を有し、低分子タンパクの除去性に優れるだけでなく、モジュール化性に優れるという利点がある。したがって、産業の発展に大きく寄与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径が150〜250μm、膜厚が10〜30μm、空隙率が75%以上、かつ降伏強度が17g以上の中空糸膜であり、中空糸膜が粒子の集合体からなり、内表面から外表面に向かって膜厚の60%の範囲は平均径が50nm以上の粒子が充填した構造であることを特徴とする中空糸膜。
【請求項2】
中空糸膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察した際、倍率10000倍で撮影した写真において膜断面に実質的にマクロボイドが観察されない構造であることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜。
【請求項3】
透過型電子顕微鏡を用いて中空糸膜の断面を観察した際に、内表面側に比して外表面側がより密な構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜。
【請求項4】
中空糸膜が酢酸セルロース系ポリマーからなることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の中空糸膜。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の中空糸膜を端部充填率が45〜65%となるようにケースに挿入して作製されたことを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項6】
血液浄化に用いられることを特徴とする請求項5に記載の中空糸膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−235204(P2011−235204A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106196(P2010−106196)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】