説明

中継局及び中継局の中継制御方法

【課題】遅延の発生を効率的に抑制して中継できる中継局及び中継局の中継制御方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る中継局105は、移動局側アンテナ123と基地局側アンテナと121を備え、複数の基地局103a及び103bとの無線通信が可能であり、複数の基地局103a及び103bの一つと移動局との間の無線通信を中継する中継局105であって、複数の基地局103a及び103bから送信される通信状況に関する情報に基づいて各基地局の通信状況を監視し、通信状況が最も良い基地局を中継先に決定する制御部131を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中継局及び中継局の中継制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動局が基地局と通信するためには、移動局は基地局からの無線電波が届く範囲に位置する必要がある。しかし、山岳地帯や高層ビル等が建ち並ぶ市街地では、障害物が多いため無線電波が届きにくい領域が存在する。また、屋外に設置された基地局からは、建物の内部や地下には、電波が届かない領域が多く存在する。このような電波が届かない領域をカバーするため、図6のように移動局601と基地局603との間の無線通信を中継する中継局(リレー局又はリピータ)605が必要となる。
【0003】
従来の中継局は、単にRF(Radio Frequency)信号(無線信号)を増幅するだけでなく、信号品質を高めることも可能である(例えば、特許文献1参照)。信号品質を高める方法としては、デジタル信号処理を実施することにより不要な干渉を取り除く方法や、一旦中継局で受信信号を復調して、送信信号を再構築する方法があげられる。しかし、このような方法では、信号のバッファリングや繰り返し処理が必要になる。これにより、基地局と端末とが直接通信する場合に比べ、数フレームから数十フレームの遅延が発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−41685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、中継局を介すことにより発生する遅延は、中継局の機能に因るもののみではない。図7のように、中継先の基地局703と通信している移動局が複数存在するとする。移動局の数が多いほど、使用される基地局の無線リソースは多くなり、無線リソースの空きが少なくなる。よって、中継局705を介して基地局703に新たに接続される移動局701aには、十分な無線リソースを割り当てられない恐れがある。無線リソースの不足は、移動局701aの伝送速度の低下、つまり遅延を招くことになる。他の移動局701b〜701eに既に割り当てられた無線リソースを移動局701aの無線リソースに充てることもできるが、この場合、使用できる無線リソースが少なくなった移動局の伝送速度が低下することになる。
【0006】
この遅延により、例えば、LTE(Long Term Evolution)システムで採用されるHARQ(Hybrid Automatic Repeat reQuest:ハイブリッドARQ)の再送要求が間に合わなくなるという恐れがある。
【0007】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、遅延の発生を効率的に抑制して中継できる中継局及び中継局の中継制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した諸課題を解決すべく、第1の発明による中継局は、
移動局側アンテナと基地局側アンテナとを備え、複数の基地局との無線通信が可能であり、前記基地局の一つと移動局との間の無線通信を中継する中継局であって、
前記複数の基地局から送信される通信状況に関する情報に基づいて各基地局の通信状況を監視し、
通信状況が最も良い基地局を中継先に決定する制御部
を備える中継局である。
【0009】
また、前記中継局は、前記移動局と前記中継先として決定された基地局との間の無線通信を中継する際に、当該基地局が存在する方向に前記基地局側アンテナの指向性の主軸を向けるチルト制御部を更に備えることが望ましい。
【0010】
上述したように本発明の解決手段を装置として説明してきたが、本発明はこれらに実質的に相当する方法、プログラム、プログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0011】
例えば、本発明の第1の発明を方法として実現させた中継制御方法は、
複数の基地局との無線通信が可能であり、前記基地局の一つと移動局との間の無線通信を中継する中継局の中継制御方法であって、前記中継局が、
前記複数の基地局から送信される通信状況に関する情報に基づいて各基地局の通信状況を監視するステップと、
通信状況が最も良い基地局を中継先に決定するステップと
を含む中継制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成された本発明に係る中継局及び中継局の中継制御方法によれば、通信状況が最も良い基地局が中継先に決定されるため、遅延発生を効率的に抑制して、移動局と基地局との間の無線通信を中継できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る中継局の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る中継局、移動局及び基地局の位置関係を示す図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る中継局の処理を示すフローチャートである。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る基地局が有する無線リソースの使用状況を示す。
【図6】図6は、従来の概略的な無線通信システム構成図である。
【図7】図7は、従来の概略的な無線通信システム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。無線通信システム11は、移動局101と、複数の基地局103(103a及び103b)と、中継局105とを有する。移動局101は、携帯電話機などの無線通信端末である。基地局103a及び103bは、移動局101と無線通信を行うものであり、例えば、LTE(Long Term Evolution)システムではeNB(evolved Node B)と称されるものである。中継局105は、移動局101と基地局103a又は103bとの間の無線通信を中継する。図1において、領域107は、移動局101の電波が届く範囲を示している。領域109aは、基地局103aのセル(通信可能エリア)を示している。領域109bは、基地局103bのセルを示している。つまり、図1の中継局105は、移動局101と基地局103a及び103bと通信が可能なエリアに位置していることになる。中継局105により、移動局101は、基地局103a及び103bのセルの範囲外に位置していても、基地局103a又は103bと無線通信が可能である。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態に係る中継局の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0017】
中継局105は、基地局側アンテナ121と、移動局側アンテナ123と、チルト制御部を構成するチルト機構部125と、通信部(RF部)127と、ベースバンド部129と、制御部131とを備えている。
【0018】
基地局側アンテナ121は、基地局103と無線通信する。基地局側アンテナ121は、半値幅(半値角)が比較的大きい指向性を有するものであり、指向性の主軸(半値幅の二等分線)をある基地局に向けた場合でも、他の基地局からの信号を受信できるものである。従って、本実施形態では、基地局側アンテナ121は、当該アンテナ121の指向性の主軸が基地局103a又は103bのどちらかが存在する方向に向いても、双方の基地局から信号を受信できる。なお、基地局側アンテナ121を送受信用一体型のアンテナで構成することに限定されるわけではなく、別個の送信用アンテナと受信用アンテナで実現することもできる点に留意すべきである。
【0019】
移動局側アンテナ123は、移動局101と無線通信する。移動局側アンテナ123は、基地局103がカバーできないエリアに電波を放射できるように、指向性を有することができる。なお、移動局側アンテナ123は、指向性を有することに限定されるわけではなく、移動局側アンテナ123を無指向性のアンテナで実現することもできる。
【0020】
チルト機構部125は、基地局側アンテナ121の指向性の主軸を基地局103a又は103bが存在する方向に向けるものであり、例えば、アンテナローテータで構成される。なお、本実施形態では、基地局103a及び103bが存在する方向は既知であるものとする。
【0021】
通信部127は、基地局側アンテナ121又は移動局側アンテナ123を介して受信された信号をIF(Intermediate Frequency:中間周波数)信号にダウンコンバートし、増幅する。また、通信部127は、基地局側アンテナ121又は移動局側アンテナ123を介して信号を送信するために、ベースバンド部129で変調された信号をRF信号にアップコンバートし、増幅する。
【0022】
通信部127が、基地局側アンテナ121を介して受信する信号には、例えば、基地局103の通信状況に関する情報が含まれる。基地局103の通信状況に関する情報とは、基地局103が現在通信接続している移動局の数(接続移動局数)や基地局103の有する無線リソースの使用状況(基地局103の有する周波数帯域の空き状況)に関する情報である。無線通信システム11がLTEシステムの場合、通信状況に関する情報はPDCCH(Physical Downlink Control CHannel:物理ダウンリンク制御チャネル)で基地局103から送られてくる。
【0023】
ベースバンド部129は、基地局側アンテナ121又は移動局側アンテナ123を介して受信された信号を復調し、デジタル処理を行う。そして、ベースバンド部129は、移動局側アンテナ123又は基地局側アンテナ121を介して信号を送信するために、デジタル処理された信号を変調する。デジタル処理として、誤り訂正復号及び誤り検出等が行われることにより、不要な干渉を取り除くことが可能である。また、ベースバンド部129は、3GPP(3rd Generation Partnership Project) LTEで規定されているPDCCH(Physical Downlink Control CHannel)に含まれる通信状況に関する情報を取り出す。
【0024】
制御部131は、中継局105の各機能ブロックをはじめとして中継局105の全体を制御及び管理する。ここで、制御部131は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、処理ごとに特化した専用のプロセッサ(例えばDSP(デジタルシグナルプロセッサ))によって構成したりすることもできる。
【0025】
制御部131についてより詳細に説明する。制御部131は、複数の基地局103a及び103bから送信される通信状況に関する情報に基づいて各基地局の通信状況を監視し、通信状況が最も良い基地局を中継先に決定する。通信状況の良い基地局とは、通信状況に関する情報が接続移動局数に関するものである場合、接続移動局数の最も少ない基地局である。接続移動局数が少ないほど、基地局の有する無線リソースに空きが多い可能性が高いことを意味する。よって、接続移動局数の最も少ない基地局は、新たに基地局に接続されることになる移動局に、所望の伝送速度を実現するために必要な無線リソースを割り当てることができる。また、通信状況に関する情報が無線リソースの使用状況に関するものである場合、通信状況の最も良い基地局とは、無線リソースに最も空きがある基地局である。無線リソースに最も空きがある基地局は、新たに基地局に接続されることになる移動局に、所望の伝送速度を実現するために必要な無線リソースを割り当てることができる。以下、本実施形態では、通信状況に関する情報とは接続移動局数に関するものであるとする。
【0026】
続いて、中継局による中継先の基地局の決定方法について、図3、図4及び図5を参照して説明する。図3は、本発明の一実施形態に係る移動局、基地局及び中継局の位置関係を示す図である。図4は、本発明の一実施形態に係る中継局の処理を示すフローチャートである。図5は、本発明の一実施形態に係る基地局が有する無線リソースの使用状況を示す図である。
【0027】
以下、図3のように、中継局105は、移動局101aと基地局103a及び103bと無線通信が可能なエリアに位置し、移動局101aは、中継局105を介してのみ基地局103a及び103bと無線通信可能な場所に位置しているとする。また、基地局103aは、移動局101b〜101eと無線通信し、基地局103bは、移動局101fと無線通信しているものとする。
【0028】
中継局105の通信部127は、基地局側アンテナ121を介して、基地局103a及び103bのそれぞれから接続移動局数に関する情報を受信し、各基地局の通信状況を監視する(ステップS101)。つまり、基地局103aからは、接続移動局数は4であるという情報を、基地局103bからは、接続移動局数は1であるという情報を受信する。例えば、移動局101b〜101eによる無線リソースの使用状況は、図5(a)であり、移動局101fによる無線リソースの使用状況は、図5(b)である。範囲141bは、移動局101bによって使用されている無線リソースを意味する。範囲141cは、移動局101cによって使用されている無線リソースを意味する。範囲141dは、移動局101dによって使用されている無線リソースを意味する。範囲141eは、移動局101eによって使用されている無線リソースを意味する。範囲141fは、移動局101fによって使用されている無線リソースを意味する。範囲141aaは、移動局101aに割り当てることが可能な基地局103aの無線リソースを意味する。範囲141abは、移動局101aに割り当てることが可能な基地局103bの無線リソースを意味する。これより、接続移動局数が少ない基地局ほど、無線リソースが多く空いている可能性が高い。
【0029】
そして、中継局105の制御部131は、接続移動局数に関する情報から、接続移動局数の最も少ない基地局を特定する(ステップS102)。本実施形態では、基地局103bが特定される。
【0030】
続いて、制御部131は、基地局側アンテナ121又は移動局側アンテナ123を介して受信される信号を基に、中継を必要とする移動局があるかを判断する(ステップS103)。中継を必要とする移動局が存在しない場合(ステップS103のNo)、ステップS101及びS102の処理は繰り返され、接続移動局数の最も少ない基地局は更新されていくことになる。
【0031】
本実施形態では、中継を必要とする移動局101aが存在するので(ステップS103のYes)、制御部131は、移動局101aと基地局103bとの間の無線通信を中継するために、チルト機構部125を介して基地局側アンテナ121の指向性の主軸を基地局103bが存在する方向に向ける(ステップS104)。制御部131は、移動局101aとステップS102で特定された基地局103bとの中継を開始する(ステップS105)。つまり、中継局105は、移動局101aから受信した信号を基地局103bに送信し、基地局103bから受信した信号を移動局101aに送信する。なお、中継局105は、移動局101aを既に基地局103b以外の基地局に中継している場合は、当該中継を切断し、移動局101aを基地局103bに接続させる。
【0032】
このように本実施形態では、中継局105の制御部131は、複数の基地局103a及び103bから送信される接続移動局数に関する情報に基づいて各基地局の通信状況を監視し、接続移動局数が最も少ない基地局を中継先に決定する。接続移動局数が少ない基地局ほど、当該基地局の有する無線リソースに空きが多い可能性が高いことを意味する。よって、中継局105は、接続移動局数が最も少ない基地局に新たな移動局101aを接続させることにより、空いている無線リソースを有効に使用することができる。無線リソースに空きがあるほど、新たな移動局101aに所望の伝送速度を実現するために必要な無線リソースを割り当てることができるため、遅延を効率的に抑制して、移動局101aと基地局103bとの間の無線通信を中継できる。
【0033】
また、本実施形態では、チルト機構部125は、移動局101aと中継先として決定された基地局103bとの間の無線通信を中継する際に、基地局103bが存在する方向に基地局側アンテナ121の指向性の主軸を向けることができる。指向性の主軸方向に最も強い電波が放射されることになるので、中継局105は、中継先の基地局103bと安定した無線通信を行うことが可能になる。
【0034】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0035】
例えば、各部材、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0036】
上述した本発明の実施形態の説明では、基地局側アンテナ121は、指向性のアンテナを想定して説明したが、基地局側アンテナ121を無指向性のアンテナやアダプティブアレイアンテナで実現することもできる。基地局側アンテナ121が複数のアンテナにより構成されるアダプティブアレイアンテナの場合、チルト制御部により、当該アダプティブアレイアンテナの指向性の主軸の方向を、各アンテナから発信される電波の位相を調整することにより決定すればよい。
【0037】
また、上述した本発明の実施形態の説明では、基地局の無線リソースが接続されている移動局により全て使用されないことを想定して説明したが、基地局は、全ての無線リソースを接続移動局に空きが生じないように分配し、接続移動局数が変動するたびに再分配することもできる。この場合、接続移動局数は無線リソースの空き状況を直接示すものではなくなるが、接続移動局数は少ないほど、各移動局に分配される無線リソースは多くなるので、接続移動局数の最も少ない基地局は、新たに接続される移動局に多くの無線リソースを割り当てられることを意味する。そのため、中継局は、接続移動局数の最も少ない基地局に新たな移動局を接続させることにより、新たな移動局は、他の基地局に接続される場合よりも多くの無線リソースを利用でき、速い伝送速度で通信することができる。その結果、遅延を抑制することができる。
【符号の説明】
【0038】
11 無線通信システム
101、101a〜101f 移動局
103a、103b 基地局
105 中継局
107、109a、109b 領域
121 基地局側アンテナ
123 移動局側アンテナ
125 チルト機構部
127 通信部
129 ベースバンド部
131 制御部
141aa、141ab、141b、141c、141d、141e、141f 範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動局側アンテナと基地局側アンテナとを備え、複数の基地局との無線通信が可能であり、前記基地局の一つと移動局との間の無線通信を中継する中継局であって、
前記複数の基地局から送信される通信状況に関する情報に基づいて各基地局の通信状況を監視し、
通信状況が最も良い基地局を中継先に決定する制御部
を備える中継局。
【請求項2】
請求項1に記載の中継局において、前記移動局と前記中継先として決定された基地局との間の無線通信を中継する際に、当該基地局が存在する方向に前記基地局側アンテナの指向性の主軸を向けるチルト制御部を更に備える中継局。
【請求項3】
複数の基地局との無線通信が可能であり、前記基地局の一つと移動局との間の無線通信を中継する中継局の中継制御方法であって、前記中継局が、
前記複数の基地局から送信される通信状況に関する情報に基づいて各基地局の通信状況を監視するステップと、
通信状況が最も良い基地局を中継先に決定するステップと
を含む中継制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−124600(P2012−124600A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271862(P2010−271862)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】