説明

中継装置及び通信制御方法

【課題】スループット速度の低下を効率的に抑えることのできる中継装置及び通信制御方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る中継装置101は、基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置101であって、移動局と無線信号を送受信する移動局側通信部123と、中継装置101と移動局との間の自由空間損失を求め、自由空間損失に基づいて、移動局と移動局側通信部123との無線接続を解放する制御部121とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中継装置及び通信制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動局が基地局と通信するためには、移動局は基地局からの無線電波が届く範囲(サービスエリア)に位置する必要がある。しかし、山岳地帯や高層ビル等が建ち並ぶ市街地では、障害物が多いため無線電波が届きにくい領域が存在する。また、屋外に設置された基地局からは、電波が届かない領域(例えば、建物の内部や地下)が多く存在する。特に、IEEE標準規格802.16eを基に規格化されたWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)(登録商標)等の高速無線通信方式では、2.5GHz以上の高周波数帯の電波が使用されるが、このような電波は直進性が強く、障害物を回りこむ性質が弱い。そのため、WiMAX等は障害物の影響を強く受ける。このような電波が届かない領域をカバーするため、基地局と移動局との間の無線信号を中継する中継装置(レピータ)が必要となる。
【0003】
この中継装置は、サービスエリアを拡充できるという利点がある反面、中継装置が発する電波が他の電波との干渉を引き起こすという欠点がある。中継装置に起因する干渉の一つには、基地局と通信を行うドナーノード(MS(Mobile Station)部)と、移動局と通信を行うサービスノード(BS(Base Station)部)との間における相互干渉(回り込み干渉又は自己干渉)があげられる。例えば、ドナーノードの受信期間とサービスノードの送信期間が重なった場合、基地局からの送信波が、サービスノードの送信波と干渉を起こし、ドナーノードは、品質の劣化した基地局からの送信波を受信することになる。同様にして、ドナーノードの送信期間とサービスノードの受信期間が重なった場合にも、相互干渉は発生する。
【0004】
そこで、従来、相互干渉を抑制するための無線通信方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該方法では、図4のように、基地局が下り信号を送信する下りサブフレーム期間(第1期間)内に、ドナーノードの受信(Rx)期間とサービスノードの受信期間とが合わせられる。また、基地局が上り信号を受信する上りサブフレーム期間(第2期間)内に、ドナーノードの送信(Tx)期間とサービスノードの送信期間とが合わせられる。これにより、上述したような相互干渉について抑制することができる。なお、図4におけるDLは、下り回線(Down Link)を意味し、ULは、上り回線(Up Link)を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−56711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の方法では、相互干渉については抑制されるものの、第1期間と第2期間とが等しくない場合、中継装置において送受信が行われない期間が発生してしまう。例えば、図4のように第1期間が第2期間よりも長い場合、サービスノードの下り信号の送信期間は、ドナーノードの上り送信の送信期間よりも第3期間分長くなってしまう。この第3期間では、ドナーノードにおいて下り信号の受信が行われる。そのため、サービスノードは、相互干渉の発生を抑えるため、下り信号の送信を停止しなければならなくなる。よって、サービスノードにおいて送受信が行われない第3期間が発生してしまう。つまり、従来の方法では、中継装置を介すことにより、基地局と移動局との間の通信回線におけるスループット速度が低下することになる。
【0007】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、スループット速度の低下を効率的に抑えることのできる中継装置及び通信制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した諸課題を解決すべく、第1の観点に係る中継装置の発明は、
基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置であって、
前記移動局と無線信号を送受信する移動局側通信部と、
中継装置と移動局との間の自由空間損失を求め、
前記自由空間損失に基づいて、前記移動局と前記移動局側通信部との無線接続を解放する制御部と
を備える中継装置である。
【0009】
また、第2の観点に係る発明は、第1の観点に係る中継装置において、前記制御部は、前記自由空間損失を用いて、前記中継装置と前記移動局との距離を算出し、当該距離が距離閾値未満である場合、前記移動局と前記移動局側通信部との無線接続を解放することを特徴とするものである。
【0010】
また、第3の観点に係る発明は、第1の観点に係る中継装置において、前記制御部は、前記自由空間損失を用いて、前記基地局からの無線信号が前記移動局に直接届いた場合の移動局での受信信号強度を算出し、当該受信信号強度が受信信号強度閾値以上である場合、前記移動局と前記移動局側通信部との無線信号を解放することを特徴とするものである。
【0011】
また、第4の観点に係る発明は、第1の観点に係る中継装置において、前記制御部は、前記自由空間損失を用いて、前記中継装置と前記移動局との距離と、前記基地局からの無線信号が前記移動局に直接届いた場合の移動局での受信信号強度とを算出し、前記距離が距離閾値未満であり、且つ前記受信信号強度が受信信号強度閾値以上である場合、前記移動局と前記移動局側通信部との無線接続を解放することを特徴とするものである。
【0012】
また、第5の観点に係る発明は、第1乃至第4のいずれか1つの観点に係る中継装置において、前記制御部は、
無線信号の中継時には、前記基地局が前記移動局に送信する同期信号を妨害するための妨害信号を所定の送信電力で送信するように前記移動局側通信部を制御し、
前記移動局との無線接続を解放する場合には、妨害信号の送信電力を前記所定の送信電力よりも下げることにより前記移動局と前記移動局側通信部との無線接続を解放する
ことを特徴とするものである。
【0013】
上述したように本発明の解決手段を装置として説明してきたが、本発明はこれらに実質的に相当する方法、プログラム、プログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0014】
例えば、本発明の第1の観点を方法として実現させた通信制御方法は、
基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置における通信制御方法において、当該中継装置が、
中継装置と移動局との間の自由空間損失を求めるステップと、
前記自由空間損失に基づいて前記移動局と前記移動局側通信部との無線接続を解放するステップと
を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
上記のように構成された本発明に係る中継装置及び通信制御方法によれば、自由空間損失に基づいて中継装置が不要であると判断された場合は、移動局と移動局側通信部との無線接続が解放されるため、中継装置に起因するスループット速度の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る中継装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る中継装置の処理を示すフローチャートである。
【図4】図4は、従来の中継装置の送受信期間を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。無線通信システム11は、基地局BS(Base Station)と、移動局MS(Mobile Station)と、中継装置101とから構成されている。無線通信システム11の通信方式がWiMAXである場合、無線通信システム11には、例えば時分割複信(TDD:Time Division Duplex)方式が採用される。中継装置101は、WiMAX等の無線通信方式において、基地局BSと移動局MSとの間で送受信される無線信号(データ)を中継する。移動局MSは、基地局BSのセル(通信可能エリア)の範囲外に位置していても、中継装置101を介して基地局BSと無線信号を送受信できる。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態に係る中継装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0020】
中継装置101は、基地局BSと通信を行うドナーノード(MS(Mobile Station)部)111と、移動局MSと通信を行うサービスノード(BS(Base Station)部)113とを備えている。中継装置101は、一体型、分離型又は車両型である。一体型の中継装置101は、一つの筐体内にドナーノード111とサービスノード113とを備えるものである。分離型又は車両型の中継装置101では、ドナーノード111とサービスノード113とをそれぞれ独立して配置することが可能である。分離型又は車両型のドナーノード111とサービスノード113とは、LAN(Local Area Network)ケーブル等の信号ケーブルにより接続される。
【0021】
まず、ドナーノード111の機能ブロックについて説明する。ドナーノード111は、基地局側通信部117と、記憶部119と、制御部121とを備えている。基地局側通信部117及び記憶部119は、制御部121に接続されている。
【0022】
基地局側通信部117は、アンテナを介して基地局BSと無線信号を送受信する。基地局側通信部117は、受信した無線信号に対して低雑音での増幅及びダウンコンバート等を行うことによりベースバンド信号を生成し、制御部121に送る。また、基地局側通信部117は、ベースバンド信号に対してアップコンバート及び増幅等を行うことにより、無線信号を生成し、アンテナを介して当該無線信号を基地局BSに送信する。
【0023】
無線通信システム11に時分割複信方式が採用されている場合は、基地局側通信部117は、例えば、基地局BSから無線信号を基地局BSの下りサブフレーム期間(第1期間)で受信し、基地局BSへ無線信号を第1期間に続く基地局BSの上りサブフレーム期間(第2期間)で送信する。そして、連続する第1期間と第2期間との繰り返しにより、基地局側通信部117は、受信と送信を繰り返すことになる。
【0024】
記憶部119は、距離閾値、受信信号強度閾値などの各種情報を記憶するものであり、ワークメモリなどとしても機能する。
【0025】
距離閾値は、中継装置101が一体型の場合は、中継装置101と移動局MSとの距離に関する閾値であり、中継装置101が分離型又は車両型の場合は、中継装置101のサービスノード113と移動局MSとの距離に関する閾値である。距離閾値は、移動局MSが基地局BSからの無線信号を安定した品質で直接受信できるか否かを示す指標である。「直接」とは、基地局BSと移動局MSとの間の通信において中継装置101を介さないことを意味する。安定した品質とは、例えば、基地局BSからの無線信号を復調可能な品質や所望のスループット速度を実現できる品質などである。中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの距離が距離閾値未満である場合、移動局MSは、安定した品質で基地局BSと直接通信できることを意味する。また、中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの間の距離が距離閾値以上である場合、移動局MSは、中継装置101を介さずに、安定した品質で基地局BSと通信できないことを意味する。
【0026】
受信信号強度閾値は、移動局MSが安定した品質で基地局BSからの無線信号を直接受信できるために必要な移動局MSの受信信号強度を示すものであり、例えばRSSI(Received Signal Strength Indicator)に関する値である。安定した品質とは、例えば、基地局BSからの無線信号を復調可能な品質や所望のスループット速度を実現できる品質などである。移動局MSの受信信号強度が受信信号強度閾値以上である場合、移動局MSは、安定した品質で基地局BSから無線信号を直接受信できることを意味する。また、移動局MSの受信信号強度が受信信号強度閾値未満である場合、移動局MSは、安定した品質で基地局BSから無線信号を直接受信できないことを意味する。
【0027】
なお、本実施形態では、ドナーノード111のみが、記憶部119を有するが、本発明は、この構成に限定されるものではない。例えば、サービスノード113のみが記憶部を有し、当該記憶部が、ドナーノード111及びサービスノード113の各種情報を記憶することもできる。また、ドナーノード111及びサービスノード113の双方が記憶部を有し、各々の記憶部が関連する各々のユニットの情報を記憶することもできる。
【0028】
制御部121は、ドナーノード111及びサービスノード113の各機能ブロックをはじめとしてドナーノード111及びサービスノード113の全体を制御及び管理する。ここで、制御部121は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、処理ごとに特化した専用のプロセッサ(例えばDSP(デジタルシグナルプロセッサ))によって構成したりすることもできる。なお、本実施形態では、ドナーノード111のみが、制御部121を有するが、本発明は、この構成に限定されるわけではない。例えば、サービスノード113のみが制御部を有し、当該制御部が、ドナーノード111及びサービスノード113の全体を制御及び管理することができる。また、ドナーノード111及びサービスノード113の双方が制御部を有し、各々の制御部が関連する各々のユニットを制御及び管理することもできる。
【0029】
続いて、サービスノード113の機能ブロックについて説明する。サービスノード113は、移動局側通信部123を備えている。移動局側通信部123は、制御部121に接続されている。
【0030】
移動局側通信部123は、アンテナを介して移動局MSと無線信号を送受信する。移動局側通信部123は、受信した無線信号に対して低雑音での増幅及びダウンコンバート等を行うことによりベースバンド信号を生成し、制御部121に送る。また、移動局側通信部123は、ベースバンド信号に対してアップコンバート及び増幅等を行うことにより、無線信号を生成し、アンテナを介して当該無線信号を移動局MSに送信する。
【0031】
無線通信システム11に時分割複信方式が採用されている場合は、移動局側通信部123は、例えば、移動局MSから無線信号を第1期間内で受信し、移動局MSへ無線信号を第1期間に続く第2期間内で送信する。そして、連続する第1期間と第2期間の繰り返しにより、移動局側通信部123は、受信と送信を繰り返すことになる。移動局側通信部123と基地局側通信部117との送信期間が、且つ移動局側通信部123と基地局側通信部117との受信期間が揃うことにより中継装置101における相互干渉は抑制される。
【0032】
ここで、ドナーノード111の制御部121についてより詳細に説明する。制御部121は、移動局側通信部123が移動局MSの送信出力余裕度(Headroom Margin)の情報を含む無線信号を受信すると、当該送信出力余裕度から中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの間の自由空間損失を算出する。移動局MSの送信出力余裕度とは、移動局MSの最大送信出力と実際の移動局MSの送信出力との差である。移動局MSは、受信する無線信号の受信信号強度が小さいほど、自局の通信環境は悪いと判断し、送信出力を上げる。そのため、送信出力余裕度が小さいほど、移動局MSの通信環境は悪いことを意味する。移動局MSの受信信号強度と、送信出力つまり送信出力余裕度とは一対一対応の関係性を有している。そのため、制御部121は、送信出力余裕度の取得により、移動局MSの受信信号強度を求めることができる。また、制御部121は、自局のことであるため、移動局側通信部123の送信信号強度を特定することができる。よって、制御部121は、以下の数式(1)のように、移動局側通信部123の送信信号強度から移動局MSの受信信号強度を引くことにより、自由空間損失を求めることができる。なお、自由空間損失は、電波が障害物のない空間を伝搬することにより損失する電界強度の値である。つまり、中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの間の自由空間損失は、基地局BSからの無線信号が、中継装置101を介さずに移動局MSに届き、安定した通信が実現できるか否かを判断する上で用いられる情報になる。
(自由空間損失)=(送信信号強度)−(受信信号強度) (1)
【0033】
なお、自由空間損失の求め方は上記の解法に限定されるものではない。例えば、移動局MSが送信信号強度の情報を中継装置101に送信する場合、制御部121は、移動局MSの送信信号強度から、移動局側通信部123が受信した移動局MSからの無線信号の受信信号強度を引くことにより求めることもできる。
【0034】
そして、制御部121は、求めた自由空間損失から、以下の数式(2)をrについて解くことにより、中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの間の距離を算出することができる。rは、中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの間の距離である。πは、円周率である。λは、移動局側通信部123が送信する無線信号(電波)の波長である。
【0035】
【数1】

【0036】
続いて、制御部121は、算出した距離を距離閾値と比較する。算出した距離が距離閾値未満である場合、移動局MSは、安定した品質で基地局BSと直接通信できるため、制御部121は、中継装置101の必要性は無いと判断できる。そこで、制御部121は、移動局MSとサービスノード113(移動局側通信部123)との無線接続を解放する。無線接続の解放は、無線接続を切断することであり、例えば、移動局側通信部123の機能を無効にすることにより実現することができる。
【0037】
また、制御部121が、中継装置101が無線信号を中継している間、基地局BSが移動局MSに送信する同期信号を妨害するための妨害信号を所定の送信電力で送信するように移動局側通信部123を制御している場合がある。移動局MSは、中継装置101及び基地局BSの双方から同期信号を受信できる場合、中継装置101との無線接続よりもスループット速度が低いにも関わらず基地局BSと無線接続を確立してしまうことがある。そのため、制御部121は、基地局BSからの同期信号と干渉を引き起こし、移動局MSが検出できなくなるような妨害信号を移動局側通信部123に送信させることができる。この場合は、妨害信号の送信電力を所定の送信電力よりも下げることにより、無線接続の解放を実現することができる。制御部121が、妨害信号の送信電力を引き下げると、基地局BSからの同期信号が移動局MSに届きやすくなり、移動局MSは、基地局BSと無線接続を確立することができる。これにより、中継装置101と移動局MSとの無線接続は解放される。
【0038】
制御部121は、中継装置101と移動局MSとの距離ではなく、移動局MSの受信信号強度に基づいて、移動局MSとの無線接続の解放を判断することもできる。制御部121は、ドナーノード111が受信する基地局BSからの無線信号の受信信号強度を求める。そして、以下の式(3)のように、当該受信信号強度から式(1)により求められた自由空間損失を引くことにより、基地局BSからの無線信号が移動局MSに直接届いた場合の移動局MSでの受信信号強度を算出することができる。
(移動局の受信信号強度)=(ドナーノードの受信信号強度)−(自由空間損失)(3)
【0039】
算出された受信信号強度が受信信号強度閾値以上である場合、移動局MSは、安定した品質で基地局BSから無線信号を直接受信できるため、制御部121は、中継装置101の必要性は無いと判断する。そこで、制御部121は、移動局MSとの無線接続を解放する。
【0040】
更に、制御部121は、中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの距離が距離閾値未満であり、且つ移動局MSの受信信号強度が受信信号強度閾値以上である場合に、移動局MSとの無線接続を解放することもできる。制御部121が行うその他の処理については、後述の図3の説明にて詳述する。
【0041】
続いて、中継装置101の必要性を決定する方法について、図3を参照して説明する。図3は、本発明の一実施形態に係る中継装置の処理を示すフローチャートである。
【0042】
まず、制御部121は、ドナーノード111の基地局側通信部117が受信する基地局BSからの無線信号の受信信号強度を取得する(ステップS101)。ここで、制御部121は、取得した受信信号強度を、基地局BSからの無線信号が移動局MSに直接届くか否かを示す指標であるドナーノード111の受信信号強度に関する閾値(第1閾値)と比較することができる(ステップS102)。中継装置101を介さずに基地局BSと移動局MSとが通信できるためには、基地局BSからの電波(無線信号)が移動局MSまで直接届く必要がある。そこで、第1閾値には、基地局BSからの電波が移動局MSまで届くことを保証するドナーノード111の位置における受信信号強度の値が設定される。当該値は、移動距離に関する電波の電界強度の減衰率や基地局BS、中継装置101及び移動局MSの位置関係などを勘案して求めることができる。ドナーノード111の受信信号強度が第1閾値未満の場合は(ステップS102のNo)、基地局BSからの無線信号が移動局MSにそもそも届かないため、以下に続く処理を行う必要はないと判断できる。よって、無駄となる処理を行うことを避けることができる。
【0043】
ドナーノード111の受信信号強度が第1閾値以上の場合は(ステップS102のYes)、制御部121は、送信出力余裕度の情報を含む無線信号を移動局MSから受信するように移動局側通信部123を制御し、送信出力余裕度を取得する(ステップS103)。ここで、制御部121は、取得した送信出力余裕度を、移動局MSが良好な通信環境で中継装置101からの無線信号を受信しているか否かを示す指標である移動局MSの送信出力余裕度に関する閾値(第2閾値)と比較することができる(ステップS104)。中継装置101を介さずに基地局BSと移動局MSとが通信できるためには、移動局MSの通信環境が良好である必要がある。良好な通信環境とは、例えば、移動局MSが受信した無線信号が充分な電界強度を有し、当該信号を正しく復調できる環境である。通信環境が良好であり、受信信号の電界強度が大きいほど、移動局MSは小さい送信電力で無線信号を送信する。そのため、送信出力余裕度は大きくなる。そこで、第2閾値には、移動局MSの通信環境が良好であることを保証する送信出力余裕度の値が設定される。送信出力余裕度が第2閾値未満の場合は(ステップS104のNo)、基地局BSからの無線信号が移動局MSに届いたとしても、正しく受信されない。よって、以下に続く処理を行う必要はないと判断できる。よって、無駄となる処理を行うことを避けることができる。
【0044】
送信出力余裕度が第2閾値以上の場合は(ステップS104のYes)、制御部121は、上記式(1)より自由空間損失を算出する(ステップS105)。そして、制御部121は、自由空間損失から中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの距離と、基地局BSからの無線信号が移動局MSに直接届いた場合の受信信号強度との双方、又はいずれか一方を算出し、中継装置101の必要性を判断する(ステップS106)。以下、ステップS106では、中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの距離が算出されたとする。
【0045】
算出された距離が記憶部119に記憶されている距離閾値以上である場合、制御部121は、中継装置101は必要であると判断し(ステップS106のYes)、サービスノード113と移動局MSとの無線接続を維持する(ステップS107)。また、算出された距離が距離閾値未満である場合、制御部121は、中継装置101は不要であると判断し(ステップS106のNo)、サービスノード113と移動局MSとの無線接続を解放する(ステップS108)。
【0046】
このように本実施形態では、中継装置101の制御部121は、中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの間の自由空間損失を求め、自由空間損失に基づいて移動局MSと移動局側通信部123との無線接続を解放する。中継装置101と移動局MSとの間の自由空間損失は、基地局BSからの無線信号が、中継装置101を介さずに移動局MSに届き、安定した通信が実現できるか否かを判断する上で用いられる情報であり、自由空間損失から、例えば、中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの距離や基地局BSからの無線信号が移動局MSに直接届いた場合の移動局MSでの受信信号強度などを求めることが可能である。よって、制御部121は、自由空間損失を使用して求まる値から、中継装置101の必要性を判断することができ、中継装置101が不要である場合は、移動局MSと移動局側通信部123との無線接続を解放する。これにより、中継装置101に起因するスループット速度の低下や自己干渉を防ぐことができる。
【0047】
また、本実施形態では、制御部121は、自由空間損失を用いて、中継装置101(サービスノード113)と移動局MSとの距離を算出し、当該距離が距離閾値未満である場合、移動局MSと移動局側通信部123との無線接続を解放することができる。距離閾値は、移動局MSが基地局BSからの無線信号を安定した品質で直接受信できるか否かを示す指標であるため、制御部121は、算出された距離が距離閾値未満である場合は、中継装置101は不要であると判断できる。よって、制御部121は、基地局BSと移動局MSとの間の通信を維持しつつ、移動局MSと移動局側通信部123との無線接続を解放することができる。
【0048】
また、本実施形態では、制御部121は、自由空間損失を用いて、基地局BSからの無線信号が移動局MSに直接届いた場合の移動局MSでの受信信号強度を算出し、当該受信信号強度が受信信号強度閾値以上である場合、移動局MSと移動局側通信部123との無線信号を解放することができる。受信信号強度閾値は、移動局MSが安定した品質で基地局BSからの無線信号を直接受信できるために必要な移動局MSの受信信号強度の値であるため、制御部121は、算出された受信信号強度が受信信号強度閾値以上である場合は、中継装置101は不要であると判断できる。よって、制御部121は、基地局BSと移動局MSとの間の通信を維持しつつ、移動局MSと移動局側通信部123との無線接続を解放することができる。
【0049】
また、本実施形態では、制御部121は、自由空間損失を用いて、中継装置101と移動局MSとの距離と、基地局BSからの無線信号が移動局MSに直接届いた場合の移動局MSでの受信信号強度とを算出し、距離が距離閾値未満であり、且つ受信信号強度が受信信号強度閾値以上である場合、移動局MSと移動局側通信部123との無線接続を解放することができる。制御部121は、移動局MSと移動局側通信部123との無線信号を解放する基準に、距離および受信信号強度の双方を用いることにより、中継装置101の必要性についてより確実に判断することができる。
【0050】
また、本実施形態では、制御部121は、無線信号の中継時には、基地局BSが移動局MSに送信する同期信号を妨害するための妨害信号を所定の送信電力で送信するように移動局側通信部123を制御し、移動局MSとの無線接続を解放する場合には、妨害信号の送信電力を所定の送信電力よりも下げることにより移動局MSと移動局側通信部123との無線接続を解放することができる。制御部121は、無線接続の解放を移動局側通信部123の機能の無効により実現することもできるが、移動局側通信部123の機能を無効にすると、中継装置101と通信する移動局が複数存在する場合、全ての移動局との無線接続が解放される。そのため、中継装置101からの無線信号は届くが、基地局BSからの無線信号は届かない場所に位置する移動局と基地局BSとの通信は切断されてしまう。一方、妨害信号の送信電力を下げると、中継装置101付近に位置し、基地局BSからの無線信号を安定した品質で受信できる移動局は、基地局BSからの同期信号を受信して、基地局BSと直接通信を開始する。中継装置101から遠くに位置し、基地局BSからの無線信号を受信できない移動局は、移動局側通信部123が機能しているため、中継装置101を介した基地局BSとの通信を継続できる。
【0051】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0052】
例えば、各部材、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0053】
上述の本発明の実施形態の説明において、例えば、閾値「以上」または閾値「未満」のような表現の技術的思想が意味する内容は必ずしも厳密な意味ではなく、中継装置の仕様に応じて、基準となる値を含む場合又は含まない場合の意味を包含するものとする。例えば、閾値「以上」とは、閾値の比較対象である値が閾値に達した場合のみならず、閾値を超えた場合も含意し得るものとする。また、例えば閾値「未満」とは、閾値の比較対象である値が閾値を下回った場合のみならず、閾値に達した場合、つまり閾値以下になった場合も含意し得るものとする。
【符号の説明】
【0054】
11 無線通信システム
101 中継装置
111 ドナーノード
113 サービスノード
117 基地局側通信部
119 記憶部
121 制御部
123 移動局側通信部
BS 基地局
MS 移動局

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置であって、
前記移動局と無線信号を送受信する移動局側通信部と、
中継装置と移動局との間の自由空間損失を求め、
前記自由空間損失に基づいて、前記移動局と前記移動局側通信部との無線接続を解放する制御部と
を備える中継装置。
【請求項2】
請求項1に記載の中継装置において、前記制御部は、
前記自由空間損失を用いて、前記中継装置と前記移動局との距離を算出し、当該距離が距離閾値未満である場合、前記移動局と前記移動局側通信部との無線接続を解放する
ことを特徴とする中継装置。
【請求項3】
請求項1に記載の中継装置において、前記制御部は、
前記自由空間損失を用いて、前記基地局からの無線信号が前記移動局に直接届いた場合の移動局での受信信号強度を算出し、当該受信信号強度が受信信号強度閾値以上である場合、前記移動局と前記移動局側通信部との無線信号を解放する
ことを特徴とする中継装置。
【請求項4】
請求項1に記載の中継装置において、前記制御部は、
前記自由空間損失を用いて、前記中継装置と前記移動局との距離と、前記基地局からの無線信号が前記移動局に直接届いた場合の移動局での受信信号強度とを算出し、前記距離が距離閾値未満であり、且つ前記受信信号強度が受信信号強度閾値以上である場合、前記移動局と前記移動局側通信部との無線接続を解放する
ことを特徴とする中継装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の中継装置において、前記制御部は、
無線信号の中継時には、前記基地局が前記移動局に送信する同期信号を妨害するための妨害信号を所定の送信電力で送信するように前記移動局側通信部を制御し、
前記移動局との無線接続を解放する場合には、妨害信号の送信電力を前記所定の送信電力よりも下げることにより前記移動局と前記移動局側通信部との無線接続を解放する
ことを特徴とする中継装置。
【請求項6】
基地局と移動局との間で送受信される無線信号を中継する中継装置における通信制御方法において、当該中継装置が、
中継装置と移動局との間の自由空間損失を求めるステップと、
前記自由空間損失に基づいて前記移動局と前記移動局側通信部との無線接続を解放するステップと
を含む通信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−74501(P2013−74501A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212750(P2011−212750)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】