説明

乗員保護装置用制御装置、乗員保護装置用制御方法、及び乗員保護装置用制御プログラム

【課題】車両の後退中において乗員保護装置の誤作動を防ぐ乗員保護装置用制御装置、乗員保護装置用制御方法、及び乗員保護装置用制御プログラムを提供する。
【解決手段】乗員保護装置を作動させる乗員保護装置用制御装置10において、進行方向に加わる減速度を検出する減速度検出手段22と、前進又は後退を検出する車両進行方向検出手段24と、減速度を演算することにより得られる速度変化量に関し、前進用と後退用の2つの閾値パターンを予め設定し、進行方向検出手段24により得られた進行方向に基づき、前進用又は後退用の閾値パターンを選択する閾値パターン選択手段26と、閾値パターン選択手段26により選択された閾値パターンと、減速度検出手段22により検出された減速度及び検出された減速度を演算することにより得られる速度変化量とを比較し、比較した結果に基づいて後突用乗員保護装置16を作動させる乗員保護装置制御手段28とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された乗員保護装置を作動させる乗員保護装置用制御装置、乗員保護装置用制御方法、及び乗員保護装置用制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が後ろから衝突された場合に、乗員を保護するために使用される例えばエアバッグ等の乗員保護装置は、車両の中央に搭載され、車両に加わる減速度を検出するフロアセンサによって所定値以上の減速度が検出された場合に、作動するよう制御されている。
【0003】
また、従来では、複数のセンサからの出力信号に基づき、後続車両が車両の後方に衝突したか否かの後突判定を行う後突判定手段を有する車両用保護装置が知られている。(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開2005−254921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フロアセンサから検出される減速度のみにより車両の後突判定を行う場合には、例えば車庫入れ等による車両の後退中に壁に衝突したような場合と、路上で後続車両に追突された場合とにおいて車両に発生する衝撃を切り分けることが困難であった。このため、例えば車庫入れにより車両後退中に壁に衝突した場合等であって、乗員保護装置の必要がない場合に、乗員保護装置が誤作動してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、車両の後退中において車両に搭載された乗員保護装置の誤作動を防ぐ乗員保護装置用制御装置、乗員保護装置用制御方法、及び乗員保護装置用制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る乗員保護装置用制御装置は、車両に搭載された乗員保護装置を作動させる乗員保護装置用制御装置において、前記車両の進行方向に加わる減速度を検出する減速度検出手段と、前記車両の前進又は後退を検出する車両進行方向検出手段と、前記減速度と、前記減速度を演算することにより得られる速度変化量に関して、車両前進用と車両後退用の複数の閾値パターンを予め設定し、前記車両進行方向検出手段により得られた前記車両の進行方向に基づいて、前記車両前進用又は前記車両後退用の前記閾値パターンを選択する閾値パターン選択手段と、前記閾値パターン選択手段により選択された前記閾値パターンと、前記減速度検出手段により検出された減速度及び前記検出された減速度を演算することにより得られる速度変化量とを比較し、比較した結果に基づいて、前記後突用乗員保護装置を作動させる乗員保護装置制御手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明に係る乗員保護装置用制御装置において、前記車両後退用の前記閾値パターンにおける減速度及び速度変化量のそれぞれの閾値が、前記車両前進用の前記閾値パターンにおける減速度及び速度変化量のぞれぞれの閾値よりも高く設定されていることを特徴とする。
【0008】
第3の発明は、第1又は第2の発明に係る乗員保護装置用制御装置において、前記車両の減速度と前記速度変化量とで定まり、前記閾値パターンが設定されたマップ上で、前記乗員保護装置制御手段は、前記閾値パターンと、前記減速度検出手段により検出された減速度及び前記検出された減速度を演算することにより得られる速度変化量とを比較するマップ判定を行い、前記マップ判定の結果に基づいて、前記後突用乗員保護装置を作動させることを特徴とする。
【0009】
第4の発明は、第1乃至第3のいずれか一つの発明に係る乗員保護装置用制御装置において、前記車両進行方向検出手段は、前記車両のシフトレバー装置のリバースレンジへの切り替えにより前記車両の後退を検出することを特徴とする。
【0010】
第5の発明は、第1乃至第4のいずれか一つの発明に係る乗員保護装置用制御装置において、前記閾値パターン選択手段は、自動駐車支援装置の車庫入れモード作動中の場合において、前記車両後退用の前記閾値パターンを選択することを特徴とする。
【0011】
第6の発明は、車両に搭載された乗員保護装置を作動させる乗員保護装置用制御方法において、前記車両の進行方向に加わる減速度を検出する減速度検出手順と、前記車両の前進又は後退を検出する車両進行方向検出手順と、前記減速度と、前記減速度を演算することにより得られる速度変化量に関して、車両前進用と車両後退用の複数の閾値パターンを予め設定し、前記車両進行方向検出手順により得られた前記車両の進行方向に基づいて、前記車両前進用又は前記車両後退用の前記閾値パターンを選択する閾値パターン選択手順と、前記閾値パターン選択手順により選択された前記閾値パターンと、前記減速度検出手順により検出された減速度及び前記検出された減速度を演算することにより得られる速度変化量とを比較し、比較した結果に基づいて、前記後突用乗員保護装置を作動させる乗員保護装置制御手順とを備えることを特徴とする。
【0012】
第7の発明は、第6の発明に係る乗員保護装置用制御方法において、前記車両後退用の前記閾値パターンにおける減速度及び速度変化量のそれぞれの閾値が、前記車両前進用の前記閾値パターンにおける減速度及び速度変化量のぞれぞれの閾値よりも高く設定されていることを特徴とする。
【0013】
第8の発明は、第6又は第7の発明に係る乗員保護装置用制御方法において、前記車両の減速度と前記速度変化量とで定まり、前記閾値パターンが設定されたマップ上で、前記乗員保護装置制御手順は、前記閾値パターンと、前記検出された減速度及び前記検出された減速度を演算することにより得られる速度変化量とを比較するマップ判定を行い、前記マップ判定の結果に基づいて、前記後突用乗員保護装置を作動させることを特徴とする。
【0014】
第9の発明は、第6乃至第8の発明のいずれか一つの発明に係る乗員保護装置用制御方法での手順を、コンピュータに実行させるためのプログラムとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両の後退中において車両に搭載された乗員保護装置の誤作動を防ぐことを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面と共に説明する。
【0017】
<乗員保護装置用制御装置の概略構成例>
図1は、本実施形態に係る乗員保護装置用制御装置の概略構成例を示す図である。図1に示す乗員保護装置用制御装置10は、フロアセンサ12と、車両後退検出センサ14と、後突用乗員保護装置16と、マイクロコンピュータからなるECU(Electrical Control Unit)20とを備える。なお、ECU20は、減速度検出手段22と、車両進行方向検出手段24と、閾値パターン選択手段26と、乗員保護装置制御手段28とを備える。
【0018】
ECU20は、車両の中央コンソール近傍に取り付けられたフロアセンサ12を用いて、当該取付け位置の車両前後方向(進行方向)に対して加わる減速度(フロアG)を検出する。
【0019】
また、ECU20は、車両後退検出センサ14を用いて、例えば乗員の運転中において乗員の手動又は音声による操作又は指示による、車両のシフトレバー装置のリバースレンジへの切り替え等により、車両の後退を検出する。
【0020】
また、ECU20は、減速度検出手段22を用いて、フロアセンサ12より取得した車両の減速度から、車両の前後方向に対して加わった一定値以上の減速度を検出する。これにより、例えば通常の運転におけるブレーキ等操作により車両に生じる減速度と区別することができる。
【0021】
また、ECU20は、車両進行方向検出手段24を用いて、車両後退検出センサ14より取得した情報より、車両の前進又は後退に関する現在の車両の進行方向を検出する。
【0022】
また、ECU20は、閾値パターン選択手段26を用いて、車両後突用保護装置を作動させるために減速度及び速度変化量のそれぞれに対して予め2つの閾値を設定し、2つの閾値をそれぞれ組み合わせた2つの閾値パターンのうちいずれかを選択する。
【0023】
具体的には、減速度と、この減速度を周知の数式により積分した速度変化量のそれぞれに対して、車両前進用又は車両後退用の2つの閾値を設定する。2つの閾値パターンは、減速度の車両前進用の閾値と速度変化量の車両前進用の閾値とを組み合わせて、車両前進用の閾値パターンを設定し、減速度の車両後退用の閾値と速度変化量の車両後退用の閾値を組み合わせて、車両後退用の閾値パターンを設定する。
【0024】
閾値パターン選択手段26は、車両進行方向検出手段24により検出された車両の前進又は後退に関する情報に基づき、上記2つの閾値パターンから、いずれか一つ閾値パターンを選択する。具体的には、閾値パターン選択手段26は、車両進行方向検出手段24により車両の前進が検出された場合には、車両前進用の閾値パターンを選択し、車両の後退が検出された場合には、車両後退用の閾値パターンを選択する。
【0025】
また、閾値パターン選択手段26は、車両に搭載された自動駐車支援装置(IPA:Intelligent Parking Assist)の車庫入れモードを検出した場合には、車両後退用の閾値パターンを選択することもできる。
【0026】
なお、自動駐車支援装置(IPA)とは、車両の縦列駐車や車庫入れ時においてハンドル操作を補助する装置である。IPAは、運転者が車両に搭載されたナビゲーション・システムの車両の後方が映し出された画面上において、例えば車庫入れ等の目標停止位置をカーソル操作で決定すると、車両のステアリングが自動的に操作され、車庫入れを可能とする。
【0027】
また、ECU20は、乗員保護装置制御手段28を用いて、減速度検出手段22が検出した減速度と、検出した減速度を積分することにより得られる速度変化量のそれぞれについて、閾値パターン選択手段26により選択された閾値パターンのそれぞれの閾値と比較する。
【0028】
また、ECU20は、乗員保護装置制御手段28を用いて、検出された減速度及びこの減速度を積分した速度変化量が、選択された閾値パターンのそれぞれの閾値を超えているか否かを判定する。乗員保護装置制御手段28は、検出された減速度及びこの減速度を積分した速度変化量が、選択された閾値パターンの減速度及び速度変化量のいずれの閾値も超えている場合には、後突用乗員保護装置16を作動させる。
【0029】
後突用乗員保護装置16は、車両が後ろから衝突された場合に乗員を保護するために作動する乗員保護装置である。後突用乗員保護装置16は、例えばむちうちを防ぐために適切な位置に移動するアクティブヘッドレストや、側面衝突時の被害を軽減するために展開するカーテンエアバッグ等が含まれるが、本発明においてはこれに限定されない。
【0030】
ここで、上述した乗員保護装置用制御装置10は、上述した専用の装置構成により本発明における乗員保護装置を制御することもできるが、各構成における処理をコンピュータに実行させるための実行プログラムを生成し、例えば汎用のコンピュータにインストールすることにより、乗員保護装置用制御処理を実現することができる。
【0031】
<乗員保護装置用制御装置のハードウェア構成例>
次に、本実施形態に係る実行可能なコンピュータのハードウェア構成例について図を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る乗員保護装置の制御処理が実現可能なハードウェア構成の一例を示す図である。
【0032】
図2において、ECU20は、コンピュータ装置であって、入力装置31と、出力装置32と、ドライブ装置33と、補助記憶装置34と、メモリ装置35と、各種制御を行う演算処理装置36と、ネットワーク接続装置37と、及び記録媒体38とを有するように構成されており、これらはシステムバスBで相互に接続されている。なお、時間を計測するタイマ、演算等の処理の回数を計測するカウンタ等も備える。
【0033】
入力装置31は、例えば車両に搭載されたナビゲーション・システム等のタッチパネルからプログラムの実行等、各種操作信号を入力する。出力装置32は、本実施形態に係る処理を行うためのコンピュータ本体を操作するのに必要な各種ウィンドウやデータ等を表示するディスプレイを有し、演算処理装置36が有する制御プログラムによりプログラムの実行経過や結果等を表示することができる。
【0034】
ここで、本実施形態において、コンピュータ本体にインストールされる実行プログラムは、例えばCD−ROM等の記録媒体38等により提供される。プログラムを記録した記録媒体38は、ドライブ装置33にセット可能であり、記録媒体38に含まれる実行プログラムが、記録媒体38からドライブ装置33を介して補助記憶装置34にインストールされる。
【0035】
補助記憶装置34は、ハードディスク等のストレージ手段であり、本実施形態に係る実行プログラムや、コンピュータに設けられた制御プログラム、各種データ等を蓄積し必要に応じて入出力を行うことができる。
【0036】
メモリ装置35は、演算処理装置36により補助記憶装置34から読み出された実行プログラム等を格納する。なお、メモリ装置35は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等からなる。
【0037】
演算処理装置36は、OS(Operating System)等の制御プログラム、メモリ装置35により格納されている実行プログラムに基づいて、各種演算や各ハードウェア構成部とのデータの入出力等、コンピュータ全体の処理を制御して各処理を実現することができる。また、プログラムの実行中に必要な各種情報は、補助記憶装置34から取得することができ、また格納することもできる。
【0038】
ネットワーク接続装置37は、通信ネットワーク等と接続することにより、実行プログラムを通信ネットワークに接続されている他の装置から取得したり、プログラムを実行することで得られた実行結果又は本発明における実行プログラム自体を他の装置等に提供することができる。
【0039】
上述したようなハードウェア構成により、特別な装置構成を必要とせず、低コストで効率的に乗員保護装置の制御処理を実現することができる。また、プログラムをインストールすることにより、上述の乗員保護装置の制御処理を容易に実現することができる。
【0040】
<乗員保護装置の制御処理の例>
次に、上述した乗員保護装置用制御装置10により実現される乗員保護装置の制御処理の具体的な処理手順について説明する。図3は、乗員保護装置の制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0041】
図3に示す乗員保護装置の制御処理では、ECU20の減速度検出手段22は、車両に搭載されたフロアセンサ12より車両の前後方向に加わる減速度を取得し、予め設定された一定値以上の減速度を検出する(S10)。
【0042】
次に、ECU20の車両進行方向検出手段24は、車両後退検出センサ14より、例えば車両のシフトレバー装置がリバースレンジに切り替わった等の車両の後退情報を取得した場合に、車両の後退を検出する(S12)。
【0043】
車両の後退が検出された場合(S12において、Yes)、ECU20の閾値パターン選択手段26は、予め設定されている閾値パターンのうち車両後退用の閾値パターンを選択する(S14)。
【0044】
車両の後退が検出されない場合(S12において、No)、閾値パターン選択手段26は、予め設定されている閾値パターンのうち車両前進用の閾値パターンを選択する(S16)。
【0045】
次に、ECU20の乗員保護装置制御手段28は、S10の処理にて検出された減速度と、検出された減速度を積分することにより得られる速度変化量のそれぞれの値について、閾値パターン選択手段26により選択された閾値パターンのそれぞれの閾値と比較する(S18)。
【0046】
乗員保護装置制御手段28は、検出された減速度と、検出された減速度を積分した速度変化量のそれぞれの値が、選択された閾値パターンにおける減速度及び速度変化量のそれぞれの閾値を超えている場合(S18において、Yes)、後突用乗員保護装置16を作動させる(S20)。その後、処理を終了する。
【0047】
また、検出された減速度と、検出された減速度を積分した速度変化量のそれぞれの値が、選択された閾値パターンにおけるそれぞれの閾値を超えていない場合(S18において、No)、S10の処理に戻り、後続の処理を行う。なお、上記S10〜S20の処理は、例えば運転開始後等の予め設定された条件に基づいて繰り返し行う。
【0048】
<閾値パターンの例>
次に、上述した乗員保護装置用制御処理における閾値パターンの具体例について図を用いて説明する。図4は、乗員保護装置用制御処理における閾値パターンの具体例を説明するための図である。
【0049】
図4に示すグラフは、横軸を車両の速度変化量[m/s]とし、縦軸を車両の前後方向に加わる減速度(フロアG)[m/s]とした二次元相関マップである。横軸における車両の速度変化量は、フロアセンサ12により検出された減速度(フロアG)を周知の数式によって時間により積分した値であり、縦軸における減速度は、減速度検出手段22により検出された値である。
【0050】
図4の相関マップ上には、上述した減速度及び速度変化量のそれぞれに対する閾値により、実線40で示される領域としてHigh Map、及び破線42で示される領域としてLow Mapが設定されている。図4に示すように、Low Mapは、速度変化量の閾値S1、及び減速度の閾値F1で区切られる領域に設定され、High Mapは、速度変化量の閾値S2、及び減速度の閾値F2で区切られる領域に設定される。High Mapは、Low Mapと比較して、減速度の閾値及び速度変化量の閾値がそれぞれ高く設定される。
【0051】
High Map及びLow Mapにて減速度及び速度変化量の閾値をそれぞれ設定するのは、例えば車両の車庫入れ等による車両後退中に壁に衝突した場合や電柱にぶつかった場合と、路上で後ろから車両に追突された場合とでは発生する減速度の値が異なるためである。
【0052】
図4の破線46は、車庫入れ時の低速状態で壁に衝突した場合(低速固定壁後突)に発生する減速度と速度変化量の値を示し、図4の実線48は、路上前進中に高速状態で後続の車両に追突された場合(高速Car to Car追突)に発生する値を示している。図4の実線の丸領域44に示す車両衝突直後の速度変化量に対する減速度の値を比較すると、高速Car to Car追突48の値よりも低速固定壁後突46の値の方が高くなっている。
【0053】
これは、例えば車庫入れ等により車両が壁に衝突した場合、車両のリアサイドメンバの両方に荷重がかかり、壁等が剛体であることから、結果として壁に衝突した車両に発生する減速度(フロアG)は大きくなる。一方、例えば路上等で車両に追突される場合には、オフセット衝突になる場合が多く、リアサイドメンバの片側にのみ荷重がかかり、また追突してくる車両が剛体ではないことから、結果として追突された車両に発生する減速度の値は小さくなるためである。
【0054】
したがって、上述したように、閾値パターン選択手段26は、車両進行方向検出手段24による検出結果により、車両が前進している場合には、車両前進用の閾値パターンとしてLow Mapを選択する。一方、車両が後退している場合には、車両後退用の閾値パターンとしてHigh Mapを選択する。
【0055】
このように選択することで、例えば、車両が後退している場合には、High Mapが選択されており、車両衝突時の破線46に示す値は、上記相関マップ上におけるHigh Map領域40には含まれないため、乗員保護装置を起動させない。一方、車両が前進している場合は、Low Mapが選択されており、車両衝突時の実線48に示す値は、上記相関マップ上におけるLow Mapの領域42に含まれるため、乗員保護装置を起動させることができる。
【0056】
このように、車両に発生する減速度と減速度を積分した速度変化量に対して車両前進用の閾値と車両後退用の閾値とを設け、それぞれを組み合わせた車両前進用の閾値パターン(Low Map)と車両後退用の閾値パターン(High Map)設ける。閾値パターン選択手段26が、車両の前進又は後退によりそれぞれの閾値パターンを選択することにより、車両の前進又は後退に応じて減速度と速度変化量のそれぞれの閾値を変化させることができる。これにより、乗員保護装置制御手段28は、後突用乗員保護装置16を的確に起動させることができる。
【0057】
なお、この閾値は、衝突試験、シミュレーション等を行って得たデータに基づいて車種、車両ごとに予め設定される。
【0058】
<後突用乗員保護装置における起動例>
次に、上述した乗員保護装置の制御処理において後突用乗員保護装置16を起動させる場合について説明する。図5は、乗員保護装置用制御装置における制御状態と後突用乗員保護装置における起動との関係を示す図である。
【0059】
乗員保護装置用制御装置16は、図5に示すように、2つの判断手段50、及び判断手段52が設けられている。図5に示す例では、判断手段50及び判断手段52において、車両後退中(上述した図4におけるHigh Mapが選択されている場合)で、車両に発生する車両衝突時の衝撃値(減速度及び速度変化量の値)が、High Map領域に含まれる場合(High Map On)、後突用乗員保護装置16を起動させる。
【0060】
また、判断手段52において、車両後退中でない場合(停止中又は前進において、上述した図4におけるLow Mapが選択されている場合)で、車両に発生する衝突時の衝撃値がLow Map領域に含まれる場合(Low Map On)、後突用乗員保護装置16を起動させる。
【0061】
上述したように、本発明によれば、車両の前後方向に加わる減速度とこの減速度を積分した速度変化量に対して車両の後退又は前進に対応する閾値をそれぞれ設け閾値パターンを設定し、車両の後退又は車両の前進において閾値パターンを選択する。これにより、車両の後退、車両の前進に応じて減速度及び速度変化量の閾値を変化させることができるため、後突用乗員保護装置の作動を的確に制御することが可能となり、車両の後退中における後突用乗員保護装置の誤作動を防ぐことを可能とする。
【0062】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態に係る乗員保護装置用制御装置の概略構成例を示す図である。
【図2】本実施形態に係る乗員保護装置の制御処理が実現可能なハードウェア構成の一例を示す図である。
【図3】乗員保護装置の制御処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】乗員保護装置制御処理における閾値パターンの具体例を説明するための図である。
【図5】乗員保護装置用制御装置における制御状態と後突用乗員保護装置における起動との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10 乗員保護装置用制御装置
12 フロアセンサ
14 車両後退検出センサ
16 後突用乗員保護装置
20 ECU
22 減速度検出手段
24 車両進行方向検出手段
26 閾値パターン選択手段
28 乗員保護装置制御手段28
31 入力装置
32 出力装置
33 ドライブ装置
34 補助記憶装置
35 メモリ装置
36 演算処理装置
37 ネットワーク接続装置
38 記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された乗員保護装置を作動させる乗員保護装置用制御装置において、
前記車両の進行方向に加わる減速度を検出する減速度検出手段と、
前記車両の前進又は後退を検出する車両進行方向検出手段と、
前記減速度と、前記減速度を演算することにより得られる速度変化量に関して、車両前進用と車両後退用の複数の閾値パターンを予め設定し、前記車両進行方向検出手段により得られた前記車両の進行方向に基づいて、前記車両前進用又は前記車両後退用の前記閾値パターンを選択する閾値パターン選択手段と、
前記閾値パターン選択手段により選択された前記閾値パターンと、前記減速度検出手段により検出された減速度及び前記検出された減速度を演算することにより得られる速度変化量とを比較し、比較した結果に基づいて、前記後突用乗員保護装置を作動させる乗員保護装置制御手段とを備えることを特徴とする乗員保護装置用制御装置。
【請求項2】
前記車両後退用の前記閾値パターンにおける減速度及び速度変化量のそれぞれの閾値が、前記車両前進用の前記閾値パターンにおける減速度及び速度変化量のぞれぞれの閾値よりも高く設定されていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置用制御装置。
【請求項3】
前記車両の減速度と前記速度変化量とで定まり、前記閾値パターンが設定されたマップ上で、前記乗員保護装置制御手段は、前記閾値パターン選択手段により選択された前記閾値パターンと、前記減速度検出手段により検出された減速度及び前記検出された減速度を演算することにより得られる速度変化量とを比較するマップ判定を行い、前記マップ判定の結果に基づいて、前記後突用乗員保護装置を作動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗員保護装置用制御装置。
【請求項4】
前記車両進行方向検出手段は、前記車両のシフトレバー装置のリバースレンジへの切り替えにより前記車両の後退を検出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の乗員保護装置用制御装置。
【請求項5】
前記閾値パターン選択手段は、自動駐車支援装置の車庫入れモード作動中の場合において、前記車両後退用の前記閾値パターンを選択することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の乗員保護装置用制御装置。
【請求項6】
車両に搭載された乗員保護装置を作動させる乗員保護装置用制御方法において、
前記車両の進行方向に加わる減速度を検出する減速度検出手順と、
前記車両の前進又は後退を検出する車両進行方向検出手順と、
前記減速度と、前記減速度を演算することにより得られる速度変化量に関して、車両前進用と車両後退用の複数の閾値パターンを予め設定し、前記車両進行方向検出手順により得られた前記車両の進行方向に基づいて、前記車両前進用又は前記車両後退用の前記閾値パターンを選択する閾値パターン選択手順と、
前記閾値パターン選択手順により選択された前記閾値パターンと、前記減速度検出手順により検出された減速度及び前記検出された減速度を演算することにより得られる速度変化量とを比較し、比較した結果に基づいて、前記後突用乗員保護装置を作動させる乗員保護装置制御手順とを備えることを特徴とする乗員保護装置用制御方法。
【請求項7】
前記車両後退用の前記閾値パターンにおける減速度及び速度変化量のそれぞれの閾値が、前記車両前進用の前記閾値パターンにおける減速度及び速度変化量のぞれぞれの閾値よりも高く設定されていることを特徴とする請求項6に記載の乗員保護装置用制御方法。
【請求項8】
前記車両の減速度と前記速度変化量とで定まり、前記閾値パターンが設定されたマップ上で、前記乗員保護装置制御手順は、前記閾値パターンと、前記検出された減速度及び前記検出された減速度を演算することにより得られる速度変化量とを比較するマップ判定を行い、前記マップ判定の結果に基づいて、前記後突用乗員保護装置を作動させることを特徴とする請求項6又は7に記載の乗員保護装置用制御方法。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか一項に記載の乗員保護装置用制御方法における手順をコンピュータに実行させるための乗員保護装置用制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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