説明

乗員検知装置、及び乗員検知方法

【課題】シートが被水していても精度良くシート上で乗員を検知することができる乗員検知装置、及び乗員検知方法を提供することを目的としている。
【解決手段】絶縁物32の一方面に近接して配置されている第1電極34と、シートと絶縁物の他方面との間に近接して配置されている第2電極36と、電界を発生させる電界発生部140と、第1電極と第2電極に流れる各電流を検出する電流検出部(150、160)と、第1電極に電界を印加し且つ第2電極を未接続にして電流を検出する第1検知モードと、第1電極を接地し且つ第2電極に電界を印加して電流を検出する第2検知モードとを切り換える切換部110と、第2検知モードによって検出された検出値を用いて第1検知モードによって検出された検出値を補正し、補正値に基づいて乗員の状態を判定する判定部110と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員検知装置、及び乗員検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されているエアバッグ装置は、車両の衝突時等の乗員が受ける衝撃を緩和するため、乗員の安全性上、必要なものである。エアバッグ装置は、着席している状態や着席している乗員が大人か子供か等でエアバッグを展開するかしないかの動作が異なるため、乗員の着席状態を検出する必要がある。例えば、米国連邦車両基準「FMVSS208」においては、エアバッグ・システムが、助手席に着席している乗員の体重に基づいてフロント・エアバッグの展開と非展開を制御するように定めている。
【0003】
乗員の着席状態を検出する乗員検知装置として、微弱電界の変化を検出する手法などが用いられている。微弱電界の変化を検出手法は、座席の表面に複数の電極を取り付け、電極間の変位電流を検出する。そして、乗員がいない場合の電流と乗員がいる場合の変位電流を検出して比較することで、乗員が着席しているか否かと乗員の体格等を検出してエアバッグを制御している。
このような乗員検知システムは、例えば、上述した法令に対応させて、車両が前方方向に衝突した場合に、6歳児相当の子供以下では、フロント・エアバッグの展開を抑制する。また、上述のような乗員検知システムは、例えば成人女性のうち小柄な5パーセントを除いて、フロント・エアバッグの展開機能を維持する。
【0004】
乗員検知システムにおいて、例えば、汗や飲み物をシートにこぼしたことにより被水している場合や、シートに用いているウレタンシートが高湿度や汗等を吸水して湿っている場合がある。このような場合、電極間の変位電流を検出して乗員の着席状態を検出する乗員検知装置では、測定電極と被測定電極とがシート上の乗員である被対象物を介して容量結合されるような等価回路で表される。さらに、シート上の被水により、測定電極と被測定電極との間に抵抗成分が発生する。変位電流を直交変換することにより、実数部(抵抗成分)と虚数部(容量成分)は算出される。
このため、特許文献1に記載されている乗員検知システムでは、測定モデルとして、抵抗成分(実数成分)と容量成分(虚数成分)との並列モデルを仮定して、抵抗成分の大きさに基づいて、シートの被水を検出する。そして、特許文献1に記載されている乗員検知システムでは、シートの被水を検出した場合、判定ロジックを切り替えて変更したり、正確に乗員の体格を判定できないという警告を表示部に出力していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6696948号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術では、シート上に水やジュースなどをこぼした場合、その水分がシートの一部分のみこぼれていても、シートのどの位置に水分が多いのかを推定できない。このため、測定電極と非測定電極との間の抵抗値は、必ずしもシートの水分状態によって変化するとは限られない。したがって、シートの被水を検出して、適切に判定ロジックを変更できない場合や、適切に判定不可であることを示す信号を発生できない場合があった。
【0007】
また、シートのウレタンシート等に吸収された水分によって、測定電極とシートのフレーム等との抵抗値が変化し、さらに測定容量が増加する。このように、抵抗値の変化と測定容量の変化が同時に発生する場合、特にシートのウレタンシートが多くの水分を吸収していると、シート上の被測定物に応じて、抵抗値は変化せず、測定容量のみが変化することがある。このような場合、抵抗値の変化からでは、測定電極と被測定物との間の測定容量が変化したのか、シートのウレタンシートの吸湿によって測定容量が変化したかが検出できなかった。このため、測定電極と被測定物との間の測定容量が大きい場合、被測定物が大きいと判定するロジックをそのまま用いると、シート上の被測定物の大きさを適切に検知できない。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、シートが被水していても精度良くシート上で乗員を検知することができる乗員検知装置、及び乗員検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するため、本発明に係る乗員検知システムは、絶縁物の一方面に近接して配置されている第1電極と、シートと前記絶縁物の他方面との間に近接して配置されている第2電極と、電界を発生させる電界発生部と、前記第1電極と前記第2電極に流れる各電流を検出する電流検出部と、前記第1電極に前記電界を印加し且つ前記第2電極を未接続にして前記電流を検出する第1検知モードと、前記第1電極を接地し且つ前記第2電極に前記電界を印加して前記電流を検出する第2検知モードと、を切り換える切換部と、前記第2検知モードによって検出された検出値を用いて、前記第1検知モードによって検出された検出値を補正し、前記補正値に基づいて前記乗員の状態を判定する判定部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
(2)また、本発明に係る乗員検知システムにおいて、前記第2電極の大きさは、前記第1電極の大きさより小さいようにしてもよい。
【0011】
(3)また、本発明に係る乗員検知システムにおいて、前記判定部は、前記測定電極の大きさ、または、前記空席電極の大きさに基づき予め定められている定数を前記第1検知モードによって検出された検出値、または、前記第1検知モードの検出値を用いて前記第2検知モードの検出値を補正するようにしてもよい。
【0012】
(4)上記目的を達成するため、本発明は、乗員検知装置における乗員検知方法であって、電界発生部が、電界を発生させる電界発生工程と、電流検出部が、絶縁物の一方面に近接して配置されている第1電極に流れる電流と、シートと前記絶縁物の他方面との間に近接して配置されている第2電極に流れる電流とを検出する電流検出工程と、切換部が、前記第1電極に前記電界を印加し且つ前記第2電極を未接続にして前記電流を検出する第1検知モードと、前記第1電極を接地し且つ前記第2電極に前記電界を印加して前記電流を検出する第2検知モードと、を切り換える切換工程と、判定部が、前記第2検知モードによって検出された検出値を用いて、前記第1検知モードによって検出された検出値を補正し、前記補正値に基づいて前記乗員の状態を判定する判定工程と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乗員検知システムは、第1電極と第2電極をシート上に設け、第2検知モードでは、第1電極を接地し且つ第2電極に電界を印加して電流を検出し、第1検知モードでは、第1電極に電界を印加し且つ第2電極を未接続にして電流を検出するようにした。このように、第2検知モードでは、第1電極を接地しているため、シートのみによる抵抗成分と容量成分を有する検出値を検出することができる。この第2検知モードの検出値を用いて第1検知モードの検出値を補正して、補正された検出値を用いてシート上の乗員の状態を検知するようにしたので、シートが被水していても精度良くシート上の乗員の状態を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態に係る乗員検知システムの一例を示す図である。
【図2】同実施形態に係る検知部の概略構成の一例を説明する断面図である。
【図3】同実施形態に係る乗員検知装置の一例を説明するブロック図である。
【図4】同実施形態に係る測定電極による検知を説明する図である。
【図5】同実施形態に係る空席電極による検知を説明する図である。
【図6】第2実施形態に係る検知部の概略構成の一例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係る乗員検知システム1の一例を示す図である。
図1に示すように、乗員検知システム1は、乗員検知装置10、シート20、検知部30、エアバッグ装置40、警告灯50を備えている。
【0017】
シート20は、例えば、車両のシートであり、ウレタンシートなどで構成され、乗員OBが着席する。シート20は、検知部30が設置されている。
検知部30は、後述するように測定電極と空席電極と絶縁物とを備え、測定電極と空席電極とで発生した微弱電界による各検出電流を乗員検知装置10に出力する。
乗員検知装置10は、検知部30が出力する検出電流に基づき、シート20上に乗員OBが着席しているか否か、及び乗員OBの体格などの乗員の状態を検知する。乗員検知装置10は、乗員OBの状態の検知結果と車両の衝突検出結果に基づき、エアバッグ装置40の展開と非展開を制御する。
エアバッグ装置40は、車両が衝突した場合に展開するエアバッグを備える。エアバッグ装置40は、乗員検知装置10の制御に基づいてエアバッグを展開させる。
警告灯50は、乗員検知装置10が出力する警告表示の駆動信号により点灯させられる。警告表示とは、乗員検知装置10により検知した結果、乗員OBの体格を正しく検知できなかったことを乗員OBに警告するための表示である。警告灯50は、例えば、ダッシュボードに設置されている。
【0018】
次に、検知部30の構成について、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る検知部の概略構成の一例を説明する断面図である。図2において、x軸方向は、左右方向、y軸方向は、上下方向を表している。
図2に示すように、検知部30は、フィルム32の両面に測定電極34(第1電極)と空席電極36(第2電極)とが導電性のインクにより印刷されて構成されている。また、測定電極34と空席電極36とには、各電極の抵抗値を低くするために銀ペーストを用いたインクがさらに印刷され、印刷された部分を保護するためと電極の面積を広げるためにカーボンを印刷されるようにしてもよい。検知部30は、シート20のy軸の正方向に設置されている。また、検知部30は、空席電極36がシート20と接して設置されている。
【0019】
フィルム32は、絶縁物である。このため、測定電極34と空席電極36とは、電気的に分離されている。
測定電極34は、検知部30上の乗員OBを検知するのに用いられる。測定電極34のx軸方向の長さは、L1とされている。シート20上に乗員OBが着席している場合、測定電極34と乗員OBとの間に、容量C1が発生する。また、乗員OBと車両のシャーシなどグランドとの間に、容量Cgが発生する。なお、測定電極34の大きさとは、x軸方向の長さL1である。
【0020】
空席電極36は、後述するように、シート20の湿度を検知するのに用いられる電極である。空席電極36は、x軸方向の長さがL2とされ、測定電極34のx軸方向の長さL1より短く形成されている。空席電極36とシート20との間に、容量C2が発生する。
ここで、仮に測定電極34の長さと空席電極36の長さを同等とした場合、測定電極34と空席電極36との間に発生する容量成分が大きくなる。例えば、空席電極36で計測したい容量成分の値は、100[pF]程度に対して、測定電極34の長さと空席電極36の長さが同等の場合、測定電極34と空席電極36との間に30[pF]程度の容量が出来てしまう。このように、測定電極34と空席電極36との間に容量が形成されてしまうと、空席電極36がシート20による容量成分を検出しにくくなる。また、仮に、測定電極34の長さL1を空席電極36の長さL2と同等に小さくした場合、測定電極34と空席電極36との間の容量は小さくなる。しかしながら、検知部30上に着席している乗員OBに対する検出面積が小さくなってしまうので、乗員OBの検出自体がしにくくなってしまう。従って、測定電極34と空席電極36との間の容量成分が空席電極36を用いた乗員OBの検知に影響を与える。このため、本実施形態では、空席電極36は、x軸方向の長さがL2とされ、測定電極34のx軸方向の長さL1より短く形成されている。なお、測定電極34のx軸方向の長さL1は、例えば、シート20の大きさに応じて予め定められた長さである。なお、空席電極36の大きさとは、x軸方向の長さL2である。
【0021】
次に、乗員検知装置10の構成について、図3を用いて説明する。図3は、本実施形態に係る乗員検知装置の一例を説明するブロック図である。図3において、x軸方向は、左右方向、y軸方向は、上下方向を表している。
図3に示すように、乗員検知装置10は、制御部110、スイッチ120、スイッチ130、発振器140、抵抗150、演算回路160、積分回路170、エアバッグ駆動部180、警告灯駆動部190を備えている。
【0022】
制御部110(切換部、判定部)は、スイッチ120と130の接続状態を周期的に切り替える切替信号により切り替え、第1検知モードと第2検知モードとを切り替える。制御部110は、第1検知モードにおいて、測定電極34のみに発振器140が生成した交流信号を印加する。そして、制御部110は、測定電極34の変位電流に基づく検出値をスイッチ120、抵抗150、演算回路160、積分回路170を介して取得する。
また、制御部110は、第2検知モードにおいて、測定電極34を接地し、空席電極36のみに発振器140が生成した交流信号を印加する。そして、制御部110は、空席電極36の変位電流に基づく検出値をスイッチ120、抵抗150、演算回路160、積分回路170を介して取得する。
制御部110は、取得した第2検知モードの検出値を用いて、第1検知モードの検出値を補正する。制御部110は、補正した測定電極34の検出信号に基づき、検出部30上に乗員OBが着席しているか否か、検出部30上に乗員OBがいる場合は大人か子供かを、後述するように判別する。
【0023】
例えば、検出部30上に乗員OBが着席していず且つシート20が乾燥している場合、測定電極34及び空席電極36の各変位電流は小さい。シート20上に乗員OBが着席し且つシート20が乾燥している場合、測定電極34の変位電流は大きく、空席電極36の変位電流は小さい。シート20上に乗員OBが着席していず且つシート20の湿度が高い場合、測定電極34の変位電流は乗員OBが着席していない場合よりも大きく、空席電極36の変位電流はシート20が乾燥している場合よりも大きい。シート20上に乗員OBが着席し且つシート20の湿度が高い場合、測定電極34の変位電流は大きく、空席電極36の変位電流はシート20が乾燥している場合よりも大きい。このように、シート20上に乗員が着席しているか否か、及びシートの湿度の高さによって、測定電極34と空席電極36の各変位電流値が異なる。また、シート20の湿度による影響が測定電力の変位電流に含まれるが、シート20の湿度による影響分を空席電極36の変位電流を用いて補正することで、検知部30上の乗員OBの状態(着席しているか否か、乗員OBの体格(大人か子供か))を判定する。
制御部110は、判別結果に基づき、エアバッグ駆動部180にエアバッグの展開を示す信号を出力する。具体的には、制御部110は、乗員OBが大人であると判別された場合、エアバッグを展開可能な状態であると判別し、判別結果に基づきエアバッグの展開を示す信号をエアバッグ駆動部180に出力する。また、乗員OBが子供であると判別された場合、エアバッグを展開不可能な状態であると判別し、判別結果に基づきエアバッグの展開を示す信号をエアバッグ駆動部180に出力しない。
また、制御部110は、検知部30上の乗員OBが大人か子供かを判別ができなかった場合、警告灯駆動部190に警告表示を示す信号を出力する。
【0024】
スイッチ120の入力端子a1は、測定電極34と接続され、入力端子a2は、空席電極36と接続され、出力端子a3は、抵抗150の一方端と演算回路160の入力端子a12に接続されている。また、スイッチ120は、制御部110が出力する切替信号に応じて、入力端子a1またはa2から入力された信号を出力端子a3から出力するように切り替える。
スイッチ130の入力端子b1は、測定電極34と接続され、入力端子b1は未接続であり、出力端子b3は、接地されている。また、スイッチ130は、制御部110が出力する切替信号に応じて、入力端子b1を接地するか未接続の状態にするように切り替える。
【0025】
発振器140は、正弦波の交流信号sinωt(ω=2πf;fは周波数)を生成する発信回路である。交流信号は、例えば、周波数が120kHz(キロヘルツ)、信号レベルが後段の演算回路160や積分回路170の振幅レンジに合わせたレベルであり、例えば、1[V]〜4[V]程度である。発振器140は、生成した交流信号を抵抗150の他方端と演算回路160の入力端子a11に供給する。
抵抗150は、後述するように、測定電極34または空席電極36で検知された電流を検出するために用いられる。抵抗150の一方端には、スイッチ120の出力端子a3と演算回路160の入力端子a12とが接続されている。抵抗150の他方端には、発振器140の出力端子と演算回路160の入力端子a11とが接続されている。
【0026】
演算回路160は、抵抗150の両端に流れる電流(検出電流ともいう)を検出し、検出した検出電流を電圧信号に変換する。本実施形態において、電流検出部とは、抵抗150と演算回路160から構成されている。演算回路160は、変換した電圧信号を積分回路170に出力する。演算回路160の入力端子a11は、発振器140の出力端子と抵抗150の他方端と接続され、演算回路160の入力端子a12は、スイッチ120の出力端子a3と抵抗150の一方端と接続され、出力端子a13は、積分回路170の入力端子に接続されている。
積分回路170は、演算回路160が出力する電圧信号を全波整流し、全波整流した信号に対して積分する。積分回路170は、積分した検出信号を制御部110に出力する。
【0027】
エアバッグ駆動部180は、制御部110が出力するエアバッグの展開を示す信号に基づいてエアバッグ装置40を展開させる駆動信号を生成し、生成した駆動信号によりエアバッグ装置40を展開させる。具体的には、エアバッグ駆動部180は、制御部110は、よる乗員の体型を判定した結果に基づく情報が大人であることを示している場合に、エアバッグを展開可能な状態であるため、エアバッグ装置40の駆動信号を生成する。また、エアバッグ駆動部180は、制御部110による乗員の体型を判定した結果に基づくが子供であることを示している場合に、エアバッグを展開不可能な状態であるため、エアバッグ装置40の駆動信号を生成しない。
警告灯駆動部190は、制御部110が出力する警告表示を示す信号に基づいて警告灯を点灯させる駆動信号を生成し、生成した駆動信号により警告灯50を点灯させる。
【0028】
次に、本実施形態に係る乗員検知システム1の動作について、図3〜図5を用いて説明する。図4は、本実施形態に係る測定電極による検知を説明する図である。図5は、本実施形態に係る空席電極による検知を説明する図である。なお、図4と図5において、x軸方向は、左右方向、y軸方向は、上下方向を表している。
【0029】
[第1検知モード]
図4に示すように、制御部110は、スイッチ120の入力端子a1を出力端子a3に接続するように切り替える。また、制御部110は、スイッチ130の入力端子b2を出力端子b3に接続するように切り替える。
このため、発振器140により発振された交流信号は、抵抗150、スイッチ120を介して測定電極34に印加される。測定電極34に交流電流が供給されたことにより、測定電極34の周囲に破線200で示したように、微弱電界が発生する。破線200は、測定電極34の周囲に発生する微弱電界を模式的に示したものである。
このような微弱電界が発生している検知部30の上に乗員OBなどの誘電体がある場合、検知部30と測定電極34による等価回路は、測定電極34が検知部30上の誘電体である乗員OBを介して容量結合されているように表される。このため、検知部30の上にある乗員OBに向かって変位電流が流れる。この変位電流は、測定電極34により検出され、スイッチ120を介して抵抗150に出力される。
例えば、検出部30上に乗員OBが着席していず且つシート20が乾燥している場合、測定電極34の変位電流は小さい。検出部30上に乗員OBが着席し且つシート20が乾燥している場合、測定電極34の変位電流は大きい。検出部30上に乗員OBが着席していず且つシート20の湿度が高い場合、測定電極34の変位電流は乗員OBが着席していない場合よりも大きく、空席電極36の変位電流はシート20が乾燥している場合よりも大きい。検出部30上に乗員OBが着席し且つシート20の湿度が高い場合、測定電極34の変位電流は大きい。
【0030】
演算回路160は、抵抗150の両端の変位電流を抵抗150により電圧に変換し、変換した電圧信号を積分回路170に出力する。
積分回路170は、演算回路160が出力する電圧信号を全波整流し、全波整流した信号に対して積分する。積分回路170は、積分した信号を制御部110に出力する。
なお、本実施形態では、スイッチ130の入力端子b2が未接続(オープン)の例を説明したが、入力端子b2はGND(グランド)などのDC(直流)レベル、あるいは測定電極34と同じ交流信号等であってもよい。
【0031】
図4に示した状態の変位電流による検知結果は、シート20を構成するウレタンシートの湿度の影響も含んでいる。具体的には、シート20が乾燥している場合に比べて、シート20に水分が多く含まれている場合の方が、大きな変位電流が検出される。このため、従来技術ではシート20に水分が多く含まれている場合、微弱電界内に乗員OBがいなくても、変位電流が大きいため、シート20上に乗員OBがいると誤判別してしまう。すなわち、検知部30上に乗員OBが着席しているのか否かを適切に判別できず、また、着席していると判別された場合でも乗員OBが大人か子供か、またはシート20に多くの水分が含まれているのかを正しく判別することができない。このため、本実施形態では、空席電極36を用い第2検知モードにより、シート20の湿度の影響分を測定する。
【0032】
[第2検知モード]
次に、図5に示すように、制御部110は、スイッチ120の入力端子a2を出力端子a3に接続するように切り替える。また、制御部110は、スイッチ130の入力端子b1を出力端子b3に接続する、すなわち入力端子b1を接地するように切り替える。スイッチ120と130の切り替えは、例えば、予め定められている周期で図4と図5の状態を交互に切り替えるようにしてもよい。
この結果、測定電極34は、スイッチ130を介して接地される。このため、測定電極34には、スイッチ120を介して発振器140からの交流信号が印加されない。
一方、空席電極36には、発振器140により発振された交流信号が、抵抗150、スイッチ120を介して印加される。空席電極36に交流電流が供給されたことにより、空席電極36の周囲に破線210で示したように、微弱電界が発生する。破線210は、空席電極36の周囲に発生する微弱電界を模式的に示したものである。
このような微弱電界が発生している検知部30の上に乗員OBなどの誘電体がある場合、測定電極34は接地されているので、検知部30上の誘電体へは微弱電界は及ばない。一方、空席電極36のy軸の負方向にあるシート20には微弱電界の影響が及ぶ。シート20と空席電極36による等価回路は、空席電極36がシート20と容量結合されているように表される。この結果、空席電極36による微弱電界は、シート20に向かって変位電流が流れる。この変位電流は、シート20の湿度による容量負荷に依存する電流である。そして、この変位電流は、空席電極36のみにより検出され、スイッチ120を介して抵抗150に出力される。
例えば、検出部30上に乗員OBが着席していず且つシート20が乾燥している場合、空席電極36の各変位電流は小さい。検出部30上に乗員OBが着席し且つシート20が乾燥している場合、空席電極36の変位電流は小さい。検出部30上に乗員OBが着席していず且つシート20の湿度が高い場合、空席電極36の変位電流はシート20が乾燥している場合よりも大きい。検出部30上に乗員OBが着席し且つシート20の湿度が高い場合、空席電極36の変位電流はシート20が乾燥している場合よりも大きい。
【0033】
演算回路160は、抵抗150の両端の変位電流を抵抗150により電圧に変換し、変換した電圧信号を積分回路170に出力する。
積分回路170は、演算回路160が出力する電圧信号を全波整流し、全波整流した信号に対して積分する。積分回路170は、積分した信号を制御部110に出力する。
なお、本実施形態では、スイッチ130の出力端子b3が接地されている例を説明したが、出力端子b3はGND(グランド)以外のDC(直流)レベル、あるいは空席電極36と同じ交流信号等であってもよい。
【0034】
図5に示した状態の空席電極36による変位電流による検知結果は、このようにシート20の変位電流のみを検出していることになる。上述したように、シート20が乾燥している場合に比べて、シート20に水分が多く含まれている場合の方が、大きな変位電流が空席電極36により検出される。制御部110は、このように検出された検出値に基づき、測定電極34で検出した検出値を補正する。
【0035】
制御部110による検出値の補正は、まず、第1検知モードで検出された検出値から抵抗成分R1と容量成分C1を算出する。次に、制御部110は、第2検知モードで検出された検出値から抵抗成分R2と容量成分C2を算出する。次に、制御部110は、第1検知モードによる抵抗成分R1から第2検知モードによる抵抗成分R2を減算する。同様に、制御部110は、第1検知モードによる容量成分C1から第2検知モードによる容量成分C2を減算する。
なお、変位電流iは、抵抗性負荷に依存する電流ire(実数部)と抵抗性負荷に依存する電流iim(虚数部)との合成である。また、演算回路160により変換された電圧vは、次式(1)として示すことができる。
【0036】
v=r×(1/Zre+jω×Zim)×E ・・・(1)
【0037】
式(1)において、Eは発振器140から印加される電圧値であり、rは抵抗150の抵抗値であり、ωは発振器140から印加される交流電圧の角周波数である。また、Zreは、抵抗性負荷に依存するインピーダンス(実数成分)であり、Zimは、容量性負荷に依存するインピーダンス(虚数成分)である。
このように、本実施形態における乗員検知システム1では、制御部110によって、式(1)における抵抗分である実数成分と容量分である虚数成分に分離される。
なお、空席電極36と測定電極34との各抵抗分と各容量分を先に算出する例を説明したが、測定電極34の検出値から空席電極36の検出値を減算し、減算後に式(1)を用いて抵抗分と容量分を算出するようにしてもよい。
【0038】
制御部110は、このように検出された抵抗値と容量値を用いて、測定電極34で検出した抵抗値と容量値を補正して、シート20上に乗員OBが着席しているか否か、シート20上に乗員OBが着席していると判別された場合は乗員OBの体格(大人か子供か)を判別する。
例えば、制御部110は、補正された検出値に対して予め定められている第1のしきい値により、検知部30上に乗員OBが着席しているか否かの判別をする。すなわち、制御部110は、補正された検出値が、予め定められている第1のしきい値より大きいと判別された場合、検知部30上に乗員OBが着席していると判別する。また、制御部110は、補正された検出値が、予め定められている第1のしきい値より大きくないと判別された場合、検知部30上に乗員OBが着席していないと判別する。
そして、検知部30上に乗員OBが着席していると判別された場合、制御部110は、補正された検出値に対して予め定められている第2のしきい値により、シート20上に着席している乗員OBが大人か子供かの判別をする。すなわち、制御部110は、補正された検出値が、予め定められている第2のしきい値により大きいと判別された場合、検知部30上に着席している乗員OBを大人であると判別する。また、制御部110は、補正された検出値が、予め定められている第2のしきい値により大きくないと判別された場合、検知部30上に着席している乗員OBを子供であると判別する。
【0039】
次に、図4と図5に示した状態で計測した場合の計測結果の一例を説明する。
状態1:シート20に含まれる水分が少なく、乗員OBが検知部30上に座っていない場合、空席電極36で測定した変位電流値iは小さく、測定電極34で測定した変位電流値i11も小さい。
状態2:シート20に含まれる水分が少なく、乗員OBが検知部30上に着席している場合、空席電極36で測定した変位電流値iは小さく、測定電極34で測定した変位電流値i12は変位電流値i11より大きい。
状態3:シート20に含まれる水分が多く、乗員OBが検知部30上に着席している場合、空席電極36で測定した変位電流値iは変位電流値iより大きく、測定電極34で測定した変位電流値i13は変位電流値iと同等である。
状態4:シート20に含まれる水分が多く、乗員OBが検知部30上に着席している場合、空席電極36で測定した変位電流値iは変位電流値iと同等であり、測定電極34で測定した変位電流値i13は変位電流値iより大きい。
【0040】
なお、本実施形態では、抵抗150に流れる電流を抵抗150と演算回路160を用いて電圧に変換して、電圧値を検出する例を説明したが、電流値を検出することで乗員OBがシート20上に着席しているか否か、乗員OBの体格等の乗員OBの状態を検知するようにしてもよい。
また、本実施形態では、積分回路170が全波整流した後、積分して検出値を平均化する例を説明したが、発振器140の信号が交流であるため、積分回路170の代わりに検出値の最大値または実効値を検出するようにしてもよい。
【0041】
以上のように、本実施形態によれば、フィルム32の下側に空席電極36を形成し、シート20上に設置する。そして、フィルム32の上側に形成されている測定電極34で測定した値を、空席電極36で測定した値を用いて補正することで、シート20の水分による影響を除去する。そして、シート20の水分の影響分を除去した検出値から乗員OBの状態を検知するようにしたので、シート20上に乗員OBが着席しているか否か、乗員OBの体格などの乗員OBの状態を精度良く検知することができる。
【0042】
[第2実施形態]
図6は、本実施形態に係る検知部の概略構成の一例を説明する断面図である。
図6に示すように、検知部30は、第1実施形態と同様に、フィルム32の両面に測定電極34と空席電極36とが導電性のインクにより印刷されて構成されている。
ヒータシート301は、シート20のy軸の正方向に設置されている。ヒータシート301は、シート20上を暖めるために用いられる。
検知部30は、ヒータシート301のy軸の正方向に設置されている。また、検知部30は、空席電極36がヒータシート301と接して設置されている。
すなわち、第1実施形態では、シート20上に検知部30が設置されていたが、本実施形態ではシート20上にヒータシート301が設置され、ヒータシート301上に検知部30が設置されている。
【0043】
このように、シート20と検知部30との間にヒータシート301が挟まれている構成であっても、第1実施形態と同様に、シート20上の乗員OBを検知することができる。検知部30と乗員検知装置10の接続、及び乗員検知装置10の構成は第1実施形態と同様である。
この場合においても、制御部110は、図5のようにスイッチ120と130の状態を切り替え、測定電極34を接地した状態で空席電極36を用いて変位電流を検出する。次に、制御部110は、図4のようにスイッチ120と130の状態を切り替え、空席電極36を未接続にした状態で測定電極34を用いて変位電流を検出する。次に、制御部110は、空席電極36の検出値を用いて測定電極34の検出値を補正し、検知部30上の乗員OBを検知する。
【0044】
なお、本実施形態では、制御部110が、測定電極34の検出値から空席電極36の検出値を減算して補正する例を説明したが、各電極の大きさに応じた定数を検出値に乗じて減算するようにしてもよい。この場合、制御部110は、測定電極34に対する空席電極36の容量差に基づく定数を予め定められた定数を乗じ、定数を乗じた測定電極34の検出値から、空席電極36の検出値を減算して補正する。あるいは、制御部110は、空席電極36に対する測定電極34の容量差に基づく定数を予め定められた定数を乗じ、測定電極34の検出値から、定数を乗じた空席電極36の検出値からを減算して補正する。なお、定数はシート20が乾燥している状態で設定するようにしてもよい。
また、空席電極36の検出値の定数倍した値と、測定電極34の検出値とを、シート20上に乗員OBが乗っていないときの値を理想的に模擬できれば、空席電極36の検出値の定数倍した値と、測定電極34の測定値とがいつも同じ値になる。このため、シート20上に乗員OBが座っていず且つシート20に水分が少ない場合、測定電極34の検出値から空席電極36の検出値を引き算すると0になる。この場合、制御部110は、シート20に水分が多い場合の空席電極36の測定値の定数倍した値と、測定電極34の測定値とで比較することで、検知部30上の乗員OBを検知するようにしてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、図1に示したように、シート20の座シートに検知部30を設置した例を説明したが、検知部30は、例えば、背もたれ部(背シート)や、乗員を検知できる配置や形状であればよい。
また、本実施形態では、発振器140が生成する信号の例として正弦波の例を説明したが、例えば矩形波や三角波などでもよい。
なお、本発明はかかる実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内で種々の変更が可能である。
【0046】
なお、実施形態の図3の乗員検知装置10の各部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD−ROM等の可搬媒体、USB(Universal Serial Bus) I/F(インタフェース)を介して接続されるUSBメモリ、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、サーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【符号の説明】
【0047】
1・・・乗員検知システム、10・・・乗員検知装置、20・・・シート、
30・・・検知部、32・・・フィルム、34・・・測定電極、
36・・・空席電極、40・・・エアバッグ装置、50・・・警告灯、
301・・・ヒータシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁物の一方面に近接して配置されている第1電極と、
シートと前記絶縁物の他方面との間に近接して配置されている第2電極と、
電界を発生させる電界発生部と、
前記第1電極と前記第2電極に流れる各電流を検出する電流検出部と、
前記第1電極に前記電界を印加し且つ前記第2電極を未接続にして前記電流を検出する第1検知モードと、前記第1電極を接地し且つ前記第2電極に前記電界を印加して前記電流を検出する第2検知モードと、を切り換える切換部と、
前記第2検知モードによって検出された検出値を用いて、前記第1検知モードによって検出された検出値を補正し、前記補正値に基づいて前記乗員の状態を判定する判定部と、
を備えることを特徴とする乗員検知装置。
【請求項2】
前記第2電極の大きさは、
前記第1電極の大きさより小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の乗員検知装置。
【請求項3】
前記判定部は、
前記測定電極の大きさ、または、前記空席電極の大きさに基づき予め定められている定数を前記第1検知モードによって検出された検出値、または、前記第1検知モードの検出値を用いて前記第2検知モードの検出値を補正する
ことを特徴とする請求項2に記載の乗員検知装置。
【請求項4】
乗員検知装置における乗員検知方法であって、
電界発生部が、電界を発生させる電界発生工程と、
電流検出部が、絶縁物の一方面に近接して配置されている第1電極に流れる電流と、シートと前記絶縁物の他方面との間に近接して配置されている第2電極に流れる電流とを検出する電流検出工程と、
切換部が、前記第1電極に前記電界を印加し且つ前記第2電極を未接続にして前記電流を検出する第1検知モードと、前記第1電極を接地し且つ前記第2電極に前記電界を印加して前記電流を検出する第2検知モードと、を切り換える切換工程と、
判定部が、前記第2検知モードによって検出された検出値を用いて、前記第1検知モードによって検出された検出値を補正し、前記補正値に基づいて前記乗員の状態を判定する判定工程と、
を含むことを特徴とする乗員検知方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−224171(P2012−224171A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92844(P2011−92844)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(300052246)株式会社ホンダエレシス (105)
【Fターム(参考)】