説明

乗員検知装置

【課題】製造コストの低減された、乗員の体格及び姿勢の影響を受けにくい乗員検知装置を提供する。
【解決手段】第1のアンテナ電極(アンテナ電極121a)は、シートバック27の中心線L0から車体ドア側の検知領域のうち、所定体格の乗員SPがシートに着座し、かつ、その頭部が第2のアンテナ電極に近づくように体を傾斜させた状態において形成される、乗員SPの体の車体中央側の側部に沿った直線より上方部分の面積が、下方部分の面積より大きく設定される。乗員検知装置は、上記状態において、第1のアンテナ電極から得られる信号のレベルが第1のしきい値より大きく、かつ、第2のアンテナ電極から得られる信号のレベルが第2のしきい値より小さいか否かを判定し、乗員の着席状況を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員検知装置に関し、特に、サイドのエアバッグ装置を搭載した自動車の乗員検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ・システムは、自動車の安全装置として普及しているが、乗員の体格や乗員の取る姿勢などによって、フロント・エアバッグを展開することで、安全装置として働かない可能性がある。このため、例えば米国連邦車両基準「FMVSS208」においては、エアバッグ・システムが、助手席に着席している乗員の体重に基づいてフロントエアバッグの展開/非展開を制御するように、定めている。
また、サイド・エアバッグを搭載した自動車において、助手席における乗員の着席状況(体格及び姿勢)に応じてサイドエアバッグを展開/非展開を制御することに関して、自主的に取り組んでいる自動車メーカーもある。
【0003】
乗員検知を行うセンシング方式としては、乗員の体重をセンシングする重量センサ、圧電センサを利用するセンシング方式と、乗客の体格、すなわち表面積をセンシングする容量センサを利用するセンシング方式に大別される。
図10(a)は、このうち、センシング方式として、容量センサを利用するセンシング方式を用いた乗員検知装置の原理を示す図である。この方式は、シートに配置されたアンテナ電極に微弱電界(Electric Field:EF)を発生させ、電極と被測定物の表面に電荷を生じさせる。これにより、電極と被測定物の表面は容量結合となり、体格及び姿勢で変化する容量変化を、変位電流の変化として捉えることができるものである。
【0004】
図10(a)に示すように、アンテナ電極E1に正弦波発振回路OSCからの高周波低電圧を印加することにより、アンテナ電極E1の周辺には微弱電界(EF)が生ずる結果、アンテナ電極E1の側には変位電流Iが流れる。この変位電流Iの値は、アンテナ電極E1と接地の間に形成される静電容量値により決まるため、アンテナ電極E1の近傍に存在する被測定物OBの比誘電率によって異なる値をとる。従って、シートに被測定物OBが乗っている場合と乗っていない場合とでは、アンテナ電極E1側に流れる電流に変化が生ずる。この現象を利用することにより、センサによって得る物理量(この場合は、変位電流)によってシートへの乗員の着席状況を検知することができるものである。
【0005】
例えば、上記法規には、図10(c)に示す成人女性の体重分布を示す正規分布において、5パーセンタイル成人女性(分布の小柄な方の分布5%)に相当する大人以上ではフロントエアバッグ展開機能を維持し、体重が6歳児(6year old child:6yo)相当の子供以下ではフロントエアバッグの展開を抑制する方法が記載されている。
また、サイドエアバッグについては、助手席に着座した子供が眠り込んで身体がドア側に傾くと、座高の低い子供の頭部がシートバックの側部に収納したサイドエアバッグ装置の前方を覆ってしまうため、サイドエアバッグを効果的に展開させることができなくなる問題がある。そこで、助手席に着座した乗員の体格および姿勢を検知し、子供がドア側にもたれた寝姿にあるときにサイドエアバッグ装置の作動を禁止することが考えられる。
すなわち、シートの乗員について、その体格および姿勢などから、多くの情報を得て、区別をつける対策をとることが望ましい。
【0006】
そこで、一般的にエアバッグシステムにおいては、図10(b)に示すように、アンテナ電極を複数個、例えばシートの座面にアンテナ電極E2を、背面にアンテナ電極E3及びアンテナ電極E4を、設置することによって、シート上の被測定物(乗員)について、より多くの物理量を得ることを可能とし、シートへの乗員の着席状況をより的確に検知することが行われている。
【0007】
そして、これらのセンサーから得た情報を、実際にエアバッグを展開/非展開とするための制御情報とするには、乗員の区別が重要であり、エアバッグシステムは、予め設定したしきい値と、微弱電界技術による測定結果である物理量(電流値、或いは容量測定値)と、を比較する制御回路を備え、定期的にセンサからデータを取得し、乗員についての判定を行う。
【0008】
例えば、特許文献1の乗員検知装置は、助手席シートのシートバックの中央部に、複数の第1のアンテナ電極を配置し、シートバックの側部に第2のアンテナ電極を配置している。また、第1のアンテナ電極及び第2のアンテナ電極各々のアンテナ電極周辺に発生させた電界に基づいて流れる電流に関する信号データを処理し、乗員の体格及び姿勢を判定する信号処理回路(制御回路)を備えている。そして、信号処理回路は、判定結果をもとに、助手席シートに、座高の低い子供が着座し、かつ、サイドエアバッグ装置の前方を覆っている場合、サイドエアバッグを効果的に展開させることができないと判定し、サイドエアバッグ装置の作動を禁止するように動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3569639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された乗員検知装置においては、助手席シートのシートバックの中央部に、複数のアンテナ電極を配置しているため、それぞれのアンテナ電極に対応するハーネスも増大し、また信号データが増えるため判定回路も複雑になり、製造コストが高くなるという問題があった。本発明は、上記状況を鑑み、シートバック中央部に複数のアンテナ電極を配置する構成を取ることなく、乗員の体格及び姿勢の影響を受けにくい乗員検知装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の乗員検知装置は、シートのシートバックの中央部に配置された第1のアンテナ電極と、前記シートの車体ドア側のシートバック側部に配置された第2のアンテナ電極と、前記第1及び第2のアンテナ電極各々の周辺に微弱電界を発生させ、この微弱電界に基づいて発生する信号と予め設定されたしきい値とを比較することにより乗員の着席状況を検知する制御ユニットとを備え、前記第1のアンテナ電極は、所定体格の乗員が前記シートに着座し、かつ、その頭部が前記第2のアンテナ電極に近づくように体を傾斜させた状態において形成される、前記所定体格の乗員の体の車体中央側の側部に沿った直線より上方部分の面積が、下方部分の面積より大きく設定され、前記制御ユニットは、前記第1のアンテナ電極から得られる信号と、前記第2のアンテナ電極から得られる信号により、乗員の着席状況を検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乗員検知装置は、第1のアンテナ電極と第2のアンテナ電極により発生する信号データと、予め設定されたしきい値との比較に基づいて、例えば子供等の所定体格の乗員のシートにおける姿勢を判定できる。また、そのために、シートのシートバック中央部に、複数のアンテナ電極を配置する必要はない。従って、アンテナ電極に対応するハーネスも増大せず、また信号データが増えることのよって判定回路が複雑になることもないので、製造コストの低減された、乗員の体格及び姿勢の影響を受けにくい乗員検知装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る乗員検知装置の概念図である。
【図2】図1に示した乗員検知装置の簡略化した回路構成を示す図である。
【図3】図1に示すシートにおけるアンテナ電極及び乗員の着席状況を示す図である。
【図4】図1に示すシートにおけるアンテナ電極及び乗員の着席状況を示す図である。
【図5】図1に示すシートにおけるアンテナ電極及び乗員の着席状況を示す図である。
【図6】図1に示すシートにおけるアンテナ電極及び乗員の着席状況を示す図である。
【図7】図1に示すシートにおけるアンテナ電極及び乗員の着席状況を示す図である。
【図8】図1に示すシートにおけるアンテナ電極及び乗員の着席状況を示す図である。
【図9】図1に示すシートにおけるアンテナ電極及び乗員の着席状況を示す図である。
【図10】乗員検知装置における基本原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本発明の乗員検知装置の構成について、図1および図2を参照して説明する。
図1は、シートを含む乗員検知装置の概略構成を示す図であり、図2は、乗員検知装置の簡略化した回路構成を示す図である。
【0015】
図1において、助手席シート10は、車両床部上に取り付けられる金属製のフレーム(不図示)に固定されてシートの着席部を構成する座面部(シートクッション26)と、座面部の後方から上方斜め後ろに向かって配置され、背もたれをなす背面部(シートバック27)とを有している。本発明の乗員検知装置は、シートバック27の中央部に配置される1枚のアンテナ電極(第1のアンテナ電極121)、シートバック27の側部に配置されるアンテナ電極(第2のアンテナ電極122)、ハーネス131、ハーネス132、乗員検知ユニット14(ECU)及びサイドエアバッグ装置12を備えている。
【0016】
サイドエアバッグ装置12は、シートバック27のドア側の側部に配置され、車両の側面衝突時に、助手席シート10に着座した乗員と、ドア内面との間に、エアバッグ13(図1において一点鎖線で示す)を展開させる。サイドエアバッグ装置12は、乗員検知ユニット14に接続され、乗員検知ユニット14の判定結果により、助手席シート10に着座した乗員が座高の小さい子供(所定体格の乗員)であり、かつその子供がドア側にもたれている場合に作動しないよう制御される。
【0017】
かかる制御のため、乗員検知ユニット14は、ハーネス131を介してアンテナ電極121と、ハーネス132を介してアンテナ電極122と、それぞれ接続されている。乗員検知ユニット14は、各アンテナ電極に対応して設けられるハーネスに流れる変位電流の電流値に基づいて、シート上の乗員着席の状況を検出する回路であり、図1において、シートバック27のドア側の側部に設置される。
【0018】
図2は、乗員検知ユニット14の回路構成を示す図である。
図2に示すように、乗員検知ユニット14は、正弦波発振回路OSC、電流制限抵抗16、切替スイッチSW、バッファ17、全波整流及び積分回路18、及び判定回路23から構成される。なお、図2において、乗員検知装置を構成するアンテナ電極については、アンテナ電極121及び122用いて乗員検知する場合を示している。すなわち、本発明の乗員検知装置は、アンテナ電極121及びアンテナ電極122を配置して、乗員の有無、体格及び姿勢を総合的に判定する乗員検知装置である。
【0019】
正弦波発振回路OSCは、アンテナ電極121及び122各々の周辺に微弱電界を発生させる回路であり、例えば周波数が120KHz程度で、電圧が5V程度の正弦波を発生するように構成されている。
また、電流制限抵抗16は、アンテナ電極121及びアンテナ電極122各々と、シートに着席した乗員との間の容量(以下CLとする)、及び乗員と車体GNDとの間の容量(以下Cgとする)とともに、RC回路を構成する。このRC回路は、容量CLのインピーダンスが変化するので、正弦波発振回路OSCの周波数が一定であっても、正弦波発振回路OSCの出力信号をバッファ17の入力端において減衰させる。
【0020】
バッファ17は、正弦波発振回路OSCの出力信号が減衰された交流信号を、次段回路である全波整流及び積分回路18の入力電圧レベルに増幅する回路である。全波整流及び積分回路18は、切替スイッチSWを切り替え、アンテナ電極121及び122各々を選択している各々の期間において、バッファ17から入力される交流電圧を全波整流し、平滑化することで、判定回路23のA/D入力端子19に対して、直流電圧信号を出力する。
【0021】
切替スイッチSWは、図2に示すように、スイッチSW1及びSW2の接続先を切り替えることにより、乗員検知において、アンテナ電極121及びアンテナ電極122各々と、上記バッファ17及び電流制限抵抗16とを、コネクタ21及びハーネス131及びハーネス132を介して、順次接続する。
【0022】
判定回路23は、A/D入力端子19に、全波整流及び積分回路18が出力した上記直流電圧信号が入力される。判定回路23は、この電圧レベルと、判定回路23に記憶され、予め設定されたしきい値とを比較し、シートの着席状況を判定する。すなわち、判定回路23には、予め、例えばシートに着席している乗員の着席状況(着席の有無,大人か子供かの識別)などに関するしきい値(しきい値データ)が格納(記憶)されている。
【0023】
次に、以上の構成をとる本発明の乗員検知装置の動作について説明する。
まず、正弦波発振回路OSCから正弦波が送信され、切換スイッチSWが判定回路23からの制御信号によって、スイッチSW1及びスイッチSW2を順にオン・オフ切換制御し、例えば、まずスイッチSW1だけをオンして他はオフにする。このとき、正弦波発振回路OSCからの高周波低電圧がスイッチSW1からコネクタ21及びハーネス131を通してアンテナ電極121だけに印加され、アンテナ電極121から微弱電界が発生する。
【0024】
すると、アンテナ電極121の周辺における乗員の着席状況に応じた送信電流が、アンテナ電極121に流れる。この送信電流に相当する電流により、正弦波発振回路OSCの出力信号が、電流制限抵抗16を含む上記RC回路により減衰され、バッファ17に入力される交流電圧レベルは減衰する。
【0025】
この減衰レベルは、前記容量CLと容量Cgとの合成容量Ctの値によって変化する。この合成容量Ctは、Ct=(CL×Cg)/(CL+Cg)であり、乗員と車体GNDとの間の容量Cgの変化が小さいことにより、合成容量Ctは、アンテナ電極と乗員との間の容量CLの変化によってのみ変化すると考えてよいので、乗員検知のための判断指標として使用することができる。ここで、バッファ17の入力端における電圧をVout、電流制限抵抗16の抵抗値をR、正弦波発振回路OSCの発振周波数をω、出力電圧をVinとすると、
Vout=1/(1+jωCtR)×Vin
ω=2πf (ただし、fは正弦波発振回路OSCの周波数)
の関係式が得られる。
【0026】
よって、バッファ17に入力される減衰された交流電圧レベルを、全波整流及び積分回路18により直流電圧信号に変換し、判定回路23は、この直流電圧信号をA/D入力端子19から取り込む。すなわち、判定回路23は、アンテナ電極121に対向する乗員の着席状況データ(信号データ)を取り込み、これと予め設定されたしきい値とを比較することで、アンテナ電極121周辺における乗員の着席状況を判定する。
【0027】
同様に、スイッチSW2だけがオンして、アンテナ電極122から微弱電界が発生し、アンテナ電極122の周辺の着席状況に応じた送信電流が検出され、判定回路23に着席状況データとして入力される。このように、判定回路23は、アンテナ電極121及びアンテナ電極122に対応して、信号データを取り込むことにより、シートバック27に背もたれしている乗員の着席状況を検知する。
【0028】
ここで、判定回路23が記憶しているしきい値について、シートバック27におけるアンテナ電極121及びアンテナ電極122の配置と、着席している乗員の着席状況とに関連付けて説明する。
図3は、ドア側にもたれかかった姿勢で、アンテナ電極121に対向した場合、判定回路23によって「乗員有り」と判定されない体格を有する乗員(以下、乗員SPとする)が、ドア側にもたれかかった姿勢で着座している状態を示している。
図3にあって、直線L1は、乗員SPの車体中央側の姿勢及び体格を規定する直線である。直線L1は、判定基準となる乗員SPが、シートバック27において車体ドア側にもたれかかったときに形成される、シート前方からの平面視において、乗員SPの体の車体中央側の側部に沿った直線である。直線L1は、例えば、乗員SPの頭部輪郭の車体中央側と、胴体部又は腕部の輪郭の車体中央側と、の両方に接する直線と定義することができる。
【0029】
従って、乗員SPよりも背が高い、或いは座高が高い乗員(例えば、大人)であれば、ドア側にもたれかかった姿勢をとっても、体の一部がこの直線L1に接するか、或いは、直線L1より上方の領域(車体中央側の領域)に入り込んで、体の一部がアンテナ電極121に対向することとなる。一方、乗員SPよりも背が低い、或いは座高が低い乗員の場合であれば、ドア側にもたれかかった姿勢をとっても、体の一部は直線L1より下方においてアンテナ電極121と対向するだけで、直線L1より上方においてアンテナ電極121と対向することはないといえる。
【0030】
判定回路23が記憶しているしきい値のうち、アンテナ電極121からの信号データを比較するときに用いられるしきい値th1は、上記乗員SPの頭部と、胴体部又は腕部とが、ドア側にもたれかかって直線L1に接した場合に、A/D入力端子19に入力される電圧レベルを基準に、それより低い値に設定される。このように設定することで、乗員SPを判定基準として、それより体格の大きい乗員(以下乗員P)との区別や、姿勢の区別を行うことができる。
【0031】
図4は、助手席シート10における、アンテナ電極121と、乗員の着座状態(姿勢)との関係を示す。図4(a)は、乗員SPがドア側にもたれかかった姿勢で着座している状態(以下、着座状態(a)とする)を、図4(b)は、乗員Pがドア側にもたれかかった姿勢で着座している状態(以下、着座状態(b)とする)を、示している。また、図4(c)は、乗員SPが正規着座している状態(以下、着座状態(c)とする)を、図4(d)は、乗員Pが正規着座している状態(以下、着座状態(d)とする)を、それぞれ示している。
【0032】
図4において、アンテナ電極121の隠れていない見える部分の面積は、着座状態(a)、着座状態(b)または(c)、着座状態(c)または(b)、着座状態(d)の順に小さくなっていく。つまり、アンテナ電極121が乗員と対向する面積は、図4においてこの順番に大きくなっていく。これによって、判定回路23のA/D入力端子19に入力される電圧レベルも低くなっていくので、しきい値th1を、着座状態(a)におけるA/D入力端子19に入力される電圧レベルを基準に、それより低い値に設定することで、他の着座状態(b)〜(d)との区別を行うことができる。
【0033】
また、判定回路23が記憶しているしきい値のうち、アンテナ電極122からの信号データを比較するときに用いられるしきい値th2は、上記乗員SPが、ドア側にもたれかかってアンテナ電極122に頭部を接した場合(着座状態(a)の場合)に、A/D入力端子19に入力される電圧レベルを基準に、それより高い値に設定される。このように設定することで、ドア側にあるアンテナ電極122に乗員が対向しているかどうかを判定できる。
【0034】
判定回路23は、しきい値th1及びth2を上記の様に設定したことで、次のように
アンテナ電極からの信号データと、しきい値との比較を行う。なお、図2において符号(a)〜(d)は上記着座状態(a)〜(d)に対応する、判定回路23のA/D入力端子19に入力される電圧レベルである。また、図2において、しきい値th1及びth2は同電位にあるように示しているが、しきい値は上記のように設定されるので、同電位になるとは限られない。
【0035】
以下、各着座状態における判定回路23のA/D入力端子19に入力される直流電圧信号の電圧レベルについて説明する。
着座状態(a)の場合、図2の実線に示すように、アンテナ電極121から取り込んだ電圧レベルは、しきいth1より高く、アンテナ電極122から取り込んだ電圧レベルは、しきい値th2より低くなる。
一方、着座状態(b)の場合、図2の破線に示すように、アンテナ電極121から取り込んだ電圧レベルは、しきいth1より低く、アンテナ電極122から取り込んだ電圧レベルは、しきい値th2より低くなる。
【0036】
着座状態(c)の場合、図2の一点鎖線に示すように、アンテナ電極121から取り込んだ電圧レベルは、しきいth1より低く、アンテナ電極122から取り込んだ電圧レベルは、しきい値th2より高くなる。
また、着座状態(d)の場合、図2の二点鎖線に示すように、アンテナ電極121から取り込んだ電圧レベルは、しきいth1より低く、アンテナ電極122から取り込んだ電圧レベルは、しきい値th2より高くなる。
なお、乗員Pが更に大柄な体格である場合、アンテナ電極に右腕部が対向することで、しきい値th2より低くなることもある。
【0037】
以上のように、判定回路23は、切替スイッチSWを順次切り替えたときに、アンテナ電極121及びアンテナ電極122に対応して、信号データを取り込むことにより、シートバック27に背もたれしている乗員の着席状況(体格及び姿勢)を判定することができる。例えば、入力される直流電圧信号のレベルがしきい値th1より大きい場合、論理レベル「1」とし、入力される直流電圧信号のレベルがしきい値th1以下の場合、論理レベル「0」とし、アンテナ電極121及びアンテナ電極122各々を選択したときの判定結果を、論理レベルを用いて(1/0、1/0)と表わすとする。上記着座状態(a)の場合は(1、0)となり、着座状態(b)の場合は(0、0)となり、着座状態(c)及び(d)の場合は(0、1)となる。なお、空席の場合は、いずれのアンテナ電極に対向するものがないことから、(1、1)となる。
【0038】
ここで、判定回路23の判定結果が(1、0)となるのは、乗員SPがドア側に体を傾けてシートバックにもたれかかっている状態のみである。従って、アンテナ電極121及びアンテナ電極122の2つのアンテナ電極を用い、判定の際のしきい値を、上記のように設定することで、乗員SPの体格及び姿勢(体をドア側に傾けた姿勢)を検知することができる。
また、判定回路23は、上述の判定結果に基づいて、サイドエアバッグ装置12に対して、エアバッグが展開可能となる展開OK信号またはエアバッグ13が展開不可能となる展開NG信号を送信する。例えば、乗員SPが、ドア側に体を傾けてシートバックにもたれかかっている状態の場合に、エアバッグが展開不可能となる展開NG信号を送信することができる。
【0039】
なお、サイドエアバッグ装置12は、例えば、セ−フィングセンサ,スクイブ,電界効果形トランジスタなどの半導体スイッチング素子の直列回路よりなるスクイブ回路と、電子式加速度センサ(衝突検出センサ)と、電子式加速度センサの出力信号に基づいて衝突の有無を判断し、半導体スイッチング素子のゲ−トに信号を供給する機能を有する制御回路とから構成されている。
そして、エアバッグ装置の制御回路は、判定回路23からの送信信号(展開OK信号または展開NG信号)が入力され、展開OK信号が入力された場合、半導体スイッチング素子にゲ−ト信号が供給されるようにセットされる。一方、展開NG信号が入力される場合、半導体スイッチング素子にゲ−ト信号を供給しないようにセットされる。
【0040】
以上が、本発明における乗員検知装置の概略構成である。次に、アンテナ電極121のシートバック27における形状及び配置について、図5〜図8を参照して説明する。図5〜図8は、いずれも乗員SPがシートにおいて、体をドア側に傾けた姿勢(図3及び図4(a)と同一の姿勢)、ドア側に体を寄せて正規着座した姿勢、ドア側に頭を寄せ、斜め座りした姿勢を、それぞれ各図の(a)〜(c)で示している。また、図5におけるアンテナ電極121の形状及び配置は、上記説明と同じく、矩形であり、矩形の長手方向の中心線がシートバック27の中心線L0に重なるように配置され、中心線L0に対して左右で面積が等しくなるように配置されている。
【0041】
図6におけるアンテナ電極121aは、アンテナ電極121と同じく矩形である。そして、その長さ方向の中心線が、直線L1の方向へ傾けて配置される矩形形状である。例えば、矩形の中心はシートバック27の中心線L0にあり、矩形の長手方向が、その中心を回転軸として直線L1の方へ傾けて配置されている。傾ける角度としては、中心線L0と直線L1とが車体ドア側においてなす角度の間であることが好ましい。このような形状及び配置により、図6(b)及び図6(c)に示す姿勢の場合、アンテナ電極121の乗員SPの頭部に対向する面積を、図5(b)及び図5(c)に示す姿勢に比べて大きくとることができる。そのため、図6において、乗員SPが、図6(a)で示す姿勢をとったときにアンテナ電極121から取り込んだ電圧レベルと、図6(b)または図6(c)に示す姿勢をとったときにアンテナ電極121から取り込んだ電圧レベルとの差を大きくとることができ、より乗員SPの姿勢を検知しやすくなる。
【0042】
図7におけるアンテナ電極121bは、アンテナ電極121と異なり楕円形状である。そして、その長軸が、前記直線の方向へ傾けて配置される楕円形状である。例えば、楕円の中心はシートバック27の中心線L0にあり、楕円の長軸が、その中心を回転軸として直線L1の方へ傾けて配置されている。傾ける角度としては、中心線L0と直線L1とが車体ドア側においてなす角度の間であることが好ましい。このような形状及び配置により、図7(b)及び図7(c)に示す姿勢の場合、アンテナ電極121の乗員SPの頭部に対向する面積を、図5(b)及び図5(c)に示す姿勢に比べて大きくとることができる。そのため、図7において、乗員SPが、図7(a)で示す姿勢をとったときにアンテナ電極121から取り込んだ電圧レベルと、図7(b)または図7(c)に示す姿勢をとったときにアンテナ電極121から取り込んだ電圧レベルとの差を大きくとることができ、より乗員SPの姿勢を検知しやすくなる。
【0043】
また、図8におけるアンテナ電極121cは、アンテナ電極121と同じく矩形形状であるが、長さ方向の中心線が、シートバックの中心線L0と平行かつシートバックの中心線L0より第2のアンテナ電極側に近い位置に配置された矩形形状である。このような形状及び配置により、図8(b)及び図8(c)に示す姿勢の場合、アンテナ電極121の乗員SPの頭部に対向する面積を、図5(b)及び図5(c)に示す姿勢に比べて大きくとることができる。そのため、図8において、乗員SPが、図8(a)で示す姿勢をとったときにアンテナ電極121から取り込んだ電圧レベルと、図8(b)または図8(c)に示す姿勢をとったときにアンテナ電極121から取り込んだ電圧レベルとの差を大きくとることができ、より乗員SPの姿勢を検知しやすくなる。
【0044】
以上は、アンテナ形状及び配置の例示であって、これらの例に限られるものではない。
アンテナ電極121の形状は、一般的には、シートバックの中心線L0からアンテナ電極122に近づく(ドア側に近づく)につれて、直線Lより上部における検知面積が増えていく構成が望ましい。すなわち、第1のアンテナ電極は、シートバック27の中心線L0から車体ドア側の検知面積のうち第1の直線L1より上方部分の面積が、下方部分の面積より大きく設定されていることが望ましい。
【0045】
例えば、図9に示すように、アンテナ電極121dは、図8におけるアンテナ電極121cを、平面視において右上の頂点と左下の頂点を結ぶ対角線により切断し、左側の部分のみを残した形状を有している。このようにすれば、アンテナ電極121dのシートバック27の中心線L0から車体ドア側のうち、第1の直線L1より上方部分の面積が、下方部分の面積より大きく設定される。すなわち、図9(b)及び図9(c)で示す姿勢をとったときの、頭部に対向するアンテナ電極の検知部分のアンテナ電極の全面積に割合を、図9(a)で示す姿勢よりも大きく取ることができる。従って、図9(b)及び図9(c)で示す姿勢をとったときの信号データと、図9(a)で示す姿勢をとったときの信号データの差を大きくすることができ、姿勢の違いをより顕著に判別することができる。また、更にアンテナ電極の面積を減少でき、製造コストを低減できる。
【0046】
以上説明したように、本発明の乗員検知装置においては、第1のアンテナ電極(アンテナ電極121)と第2のアンテナ電極(アンテナ電極121)により発生する信号データと、予め設定されたしきい値(しきい値th1、th2)との比較に基づいて、例えば子供等の所定体格の乗員(乗員SP)のシートにおける姿勢を判定できる。また、そのために、シートのシートバック中央部に、複数のアンテナ電極を配置する必要はない。従って、アンテナ電極に対応するハーネスも増大せず、また信号データが増えることのよって判定回路が複雑になることもないので、製造コストの低減された、乗員の体格及び姿勢の影響を受けにくい乗員検知装置を提供できる。
【0047】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の変更等も含まれる。例えば、上記発明におけるアンテナ電極及びハーネスは、それぞれ絶縁性のフィルム基材上に形成された電極であってもよい。ここで、絶縁性のフィルム基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂からなり、数十μm〜150μm程度の厚さに設定されている。また、アンテナ電極及びハーネスは、それぞれ、絶縁性のフィルム基材上に貼り付けた銅箔をエッチングする、あるいは、絶縁性のフィルム基材上に銀等からなる導電性ペーストを印刷する、などの方法によって形成してもよい。また、アンテナ電極とハーネスを同一フィルム上に一体化して形成してもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…助手席シート、12…サイドエアバッグ装置、13…エアバッグ、26…シートクッション、27…シートバック、121,121a,121b,121c,121d,122,E1,E2,E3,E4…アンテナ電極、14…乗員検知ユニット、OSC…正弦波発振回路、16…電流制限抵抗、17…バッファ、18…全波整流及び積分回路、19…A/D入力端子、21…コネクタ、23…判定回路、SW,SW1,SW2…スイッチ、th1,th2…しきい値、131,132…ハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートのシートバックの中央部に配置された第1のアンテナ電極と、
前記シートの車体ドア側のシートバック側部に配置された第2のアンテナ電極と、
前記第1及び第2のアンテナ電極各々の周辺に微弱電界を発生させ、この微弱電界に基づいて発生する信号と予め設定されたしきい値とを比較することにより乗員の着席状況を検知する制御ユニットとを備え、
前記第1のアンテナ電極は、所定体格の乗員が前記シートに着座し、かつ、その頭部が前記第2のアンテナ電極に近づくように体を傾斜させた状態において形成される、前記所定体格の乗員の体の車体中央側の側部に沿った直線より上方部分の面積が、下方部分の面積より大きく設定され、
前記制御ユニットは、前記第1のアンテナ電極から得られる信号と、前記第2のアンテナ電極から得られる信号により、乗員の着席状況を検知することを特徴とする乗員検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−136660(P2011−136660A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298712(P2009−298712)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(300052246)株式会社ホンダエレシス (105)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】