説明

乗客コンベアの安全装置

【課題】高性能な検出センサを必要とすることなく、安価にステップの欠落を検出し、安全性を高める乗客コンベアの安全装置を得る。
【解決手段】オイルパン部5の上に検出装置6のシート状受信部6aが設けられている。また、シート状受信部6aが受信できるように信号を発信する発信部6bが、復路ステップ2bの上側に配置されている。シート状受信部6aと発信部6bは、トラス構造体4内に設置されると共に、復路ステップ2bの進行方向と交差するように取り付けられ、発信部6bから発信される信号をシート状受信部6aで受信するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレータ、動く歩道等の乗客コンベアに設けられる乗客コンベアの安全装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道等の乗客コンベアは、無数のステップを連結して、トラス構造体内の所定経路を循環移動する構造となっている。そして、ステップの欠落を検出し、その欠落部がトラス構造体の外に出る前に異常停止させる技術が開示されている。例えば、特開2001−2358号公報(特許文献1)には、各ステップに認識タグをつけて検出する技術が開示されている。また、例えば、特開2007−22731号公報(特許文献2)には、トラス構造体の底面部であるオイルパン上にローラが着いた異常検出装置を設置し、ステップ面の有無を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−2358号公報
【特許文献2】特開2007−22731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された乗客コンベアのステップ欠落検出装置では、各ステップに認識タグをつける必要があって、部品費、取り付け作業費などにコストがかかる問題点があった。また、上記特許文献2に開示されたステップ欠落検出装置では、トラス構造体の底面部にあるオイルパン部とステップの帰路との隙間にステップ欠落検出装置を設置する必要があったり、ステップ両側面に発信部と受信部を設置する必要があるため、乗客コンベアが大型化すると共に、作業に手間がかかる問題点があった。
【0005】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、その目的は、高性能な検出センサを必要とすることなく、安価にステップの欠落を検出し、安全性を高める乗客コンベアの安全装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る乗客コンベア安全装置は、連結された多数のステップが駆動機によりトラス構造体の所定経路を循環移動する乗客コンベアにおいて、上記乗客コンベアのステップにおける復路ステップの進行方向と交差する方向に、上記復路ステップを挟んで、検出装置の発信部と受信部を備え、上記検出装置の受信部をシート状に形成し、上記検出装置の発信部を上記復路ステップの上側に配置すると共に、上記検出装置の受信部を上記発信部と対向配置したものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、高性能な検出センサも必要なく、安価にステップの欠落を検出し、安全性を高める乗客コンベアの安全装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの安全装置を説明する全体側面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの安全装置による監視状態を説明する図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの安全装置による別の監視状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照して、この発明に係る乗客コンベアの安全装置について好適な実施の形態を説明する。なお、この実施の形態により発明が限定されるものではなく、諸種の設計的変更を含むものである。
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの安全装置を説明する全体側面図を示している。乗客コンベア1は、連結された多数のステップ2を駆動機3によりトラス構造体4の内部及び外部の所定経路を循環移動させている。ステップ2は、トラス構造体4の外部の所定経路を循環移動して乗客を実際に乗せる往路ステップ2aと、トラス構造体4の内部の所定経路を循環移動する復路ステップ2bから構成されている。
【0011】
トラス構造体4の底面部にあるオイルパン部5の上に検出装置6の受信部6aが設けられている。また、この受信部6aが受信できるように信号を発信する発信部6bが、復路ステップ2bの上側に配置されている。この発信部6bは、往路ステップ2aと復路ステップ2bの中間部にあるトラス構造体4の支持ブラケット(図示せず)に取り付けられており、受信部6aはシート状に形成されている。即ち、検出装置6のシート状受信部6aと発信部6bは、トラス構造体4内に設置されると共に、復路ステップ2bの進行方向と交差するように取り付けられ、発信部6bから発信される信号をシート状受信部6aで受信するように構成されている。
【0012】
実施の形態1に係る乗客コンベアの安全装置は、上記のように検出装置6の受信部6aと発信部6bをトラス構造体4内に設置すること、および検出装置6の受信部6aをシート状にするこことで、復路ステップ2bとトラス構造体4の底面部にあるオイルパン部5の距離を大きくとらなくても済む。また、乗客コンベアの側面に検出装置を設置することがなくなるため、側面のスペースを考慮する必要がなくなる。従って、乗客コンベアの小型化が可能となる。
【0013】
次に、検出装置6について説明する。検出装置6の発信部6bとして照明器具を使用すると共に、照明器具からの光を集光する集光レンズを設置し、シート状受信部6aとして太陽電池パネルを設置する。なお、照明器具は、乗客コンベアの運転中は常時点灯されており、集光レンズにより光に指向性をもたせている。
【0014】
これにより正常時は、復路ステップ2bが通過するたびに、復路ステップ2b相互間の隙間から出た光が太陽電池パネルに照射され発電される。この定期的(ステップ2の速度が一定でステップ2の幅も一定の場合)な発電状態を監視手段、例えば、マイクロコンピュータで監視することによりステップ2の欠落を検出する。
【0015】
この監視状態を説明するのが図2及び図3である。図2は検出装置6が1セットの場合での監視状態を示し、図3は検出装置6が2セットの場合での監視状態を示している。
先ず、検出装置6が1セットの場合についての監視状態を図2により説明する。ステップ2の欠落がなく正常時は、図2(a)のように一定周期のON/OFF信号がマイクロコンピュータに取り込まれることになる。ソフトウェアでの読み込み周期を例えば10ms間隔で行えば、図2(a)の例では最大は3回であるが、確実に2回はパルスを読むことが可能で、信頼性を上げるためには、読み込み周期を短くして読み込み回数を増やすことで可能となる。例えば、ステップ2の速度を500mm/s、ステップ2の幅400mm、ステップ2の相互の隙間を15mmと仮定すれば800ms周期、30msのパルス幅となる。
【0016】
図2(b)は、ステップ2が欠落もしくはステップ面に穴があいていた場合などの異常時を示す。一定間隔のON/OFFパルスが途切れ破線のようにON状態がしばらく続き、異常部分が過ぎ去ればもとのパルス状態にもどる。この状態を検出した場合は異常と判断し、乗客コンベアを緊急停止させる。なお、検出の場所は、この異常を検出してから乗客コンベアを緊急停止させるまでの時間を考慮し、復路側から往路側へ出る前に止められる位置とする。また、ON状態がいつまでも続く場合、あるいは図2(c)のようにOFF状態が続いた場合は検出装置6の異常と判断する。
【0017】
次に、図3により、検出装置6を2セット用いて、監視状態の信頼性を向上させる場合について説明する。この場合は、第1の検出装置6をトラス構造体4内の第1の所定点(A点とする。)に設置すると共に、第2の検出装置6をA点からステップ2が移動する方向に少し離れた第2の所定点(B点とする。)に設置する。これにより互いの検出状況で整合性を図り、誤検出を減らすことが可能となる。
【0018】
正常時は図3(a)に示す波形がA点、B点で得られることになる。例えば、A点とB点の設置距離を1m、ステップ2の速度を500mm/sとした場合、A点検出から2秒後のB点の波形が同じステップ部分と判断でき、従って、A点とB点の2秒後の波形で整合性をとり、相違がなければ正常と判断する。
【0019】
次に、ステップ2が欠落した異常の場合を図3(b)により説明する。A点で破線のような異常を検出した場合に、B点で2秒後に同様の異常波形が検出されればステップ2が欠落したと判断する。A点で破線のような異常波形を検出したがB点で2秒後に異常波形が得られなければA点での検出装置6が異常と判断できる。2秒前のデータを保存しておき整合性を取ることでB点の異常も判断可能である。
【0020】
図3(c)は検出装置6がOFF故障した場合の例である。A点の検出装置がOFF状態を続けているが、B点の2秒後にパルスが検出される場合はA点の検出装置6が異常と判断できる。2秒前のデータを保存しておき整合性を取ることでB点の異常も判断可能である。
【0021】
なお、上記の照明器具、集光レンズの代わりに指向性スピーカーを設置し、太陽電池パネルの代わりに圧電装置を設置してもよい。この場合は、音が発散しないように指向性スピーカーを使用し、かつ、ある特定周波数(人間には聞こえない周波数帯)でのみ発電効果の高い圧電素子を利用することにより発電させる。この発電状態をパルスとして監視手段、例えば、マイクロコンピュータで監視することにより上記と同等の効果を得ることができる。
【0022】
また、上記特許文献2にも開示されているように、乗客コンベアには、長手方向に沿って、一対の移動手摺と共に一対の駆動レール及び一対の追従レールが設けられ、駆動レールに沿ってステップに取り付けられた駆動ローラが転動し、追従レールに沿ってステップに取り付けられた追従ローラが転動する構成となっているが、この追従ローラが転送する追従レール上に圧電素子を設置してもよい。この場合は、追従ローラが圧電素子を通過する際に発電され、速度に比例した発電状態をパルスとして監視手段、例えば、マイクロコンピュータで監視することにより上記と同等の効果を得ることができる。
【0023】
以上説明したように、実施の形態1に係る乗客コンベア安全装置は、検出装置6のシート状受信部6aと発信部6bをトラス構造体4内に設置すると共に、復路ステップ2bの進行方向と交差するように取り付け、発信部6bから発信される信号をシート状受信部6aで受信するように構成するもので、乗客コンベアのスペースを有効利用できるものである。
【0024】
また、検出装置6の発信部6bとして照明器具を使用すると共に、照明器具からの光を集光する集光レンズを設置し、シート状受信部6aとして太陽電池パネルを設置する。この構成による検出装置6によれば、正常時は復路ステップ2b相互間の隙間が照明器具の下にさしかかったとき、照明器具の光が太陽電池パネルに照射され発電される。ステップ2が正常に取り付けられていれば、この隙間が定期的にさしかかるため、一定間隔のパルス波形が得られる。そして、ステップ2が欠落していれば照明器具の光が照射される時間が長くなりパルス幅が延びる。このパルスを監視すれば異常を検出することができる。
【0025】
また、太陽電池パネルが乗客コンベアのオイル等で汚れる可能性があるため、太陽電池パネルに代えて音の振動を圧電素子で検出する検出装置6を用いてもよい。この場合は、照明器具の代わりに指向性スピーカーを用い、この指向性スピーカーにて特定周波数を発信する。この構成による検出装置6によれば、復路ステップ2b相互間の隙間が指向性スピーカーの下にさしかかったとき、指向性スピーカーの音が圧電素子に伝わって発電される。ステップ2が正常に取り付けられていれば、この隙間が定期的にさしかかるため、一定間隔のパルス波形が得られる。ステップ2が欠落していれば、指向性スピーカーの音が伝わる時間が長くなりパルス幅が延びる。このパルスを監視すれば異常を検出することができる。
【0026】
また、ステップ2の欠落を検出したい個所の追従レールに圧電素子を取り付け、ステップ2についている追従ローラが通るたびに発電することを利用してもよい。この場合は、ステップ2の速度に比例したある一定間隔で圧電素子からパルス波形が得られる。ステップ2が欠落していればパルスが抜けるので、そのパルスを監視すれば異常を検出することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 乗客コンベア
2 ステップ
2a 往路ステップ
2b 復路ステップ
3 駆動機
4 トラス構造体
5 オイルパン部
6 検出装置
6a シート状受信部
6b 発信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結された多数のステップが駆動機によりトラス構造体の所定経路を循環移動する乗客コンベアにおいて、
上記乗客コンベアのステップにおける復路ステップの進行方向と交差する方向に、上記復路ステップを挟んで、検出装置の発信部と受信部を備え、
上記検出装置の受信部をシート状に形成し、上記検出装置の発信部を上記復路ステップの上側に配置すると共に、上記検出装置の受信部を上記発信部と対向配置したことを特徴とする乗客コンベアの安全装置。
【請求項2】
上記検出装置の発信部を照明器具で構成すると共に、上記検出装置の受信部を太陽電池パネルで構成し、上記復路ステップの有無を電気信号に置き換えて監視する監視手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの安全装置。
【請求項3】
上記検出装置の発信部を指向性スピーカーで構成すると共に、上記検出装置の受信部を圧電素子で構成し、上記復路ステップの有無を電気信号に置き換えて監視する監視手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの安全装置。
【請求項4】
上記復路ステップに取り付けられた追従ローラが転動する追従レールの一部に圧電素子を取り付け、上記復路ステップの有無を電気信号に置き換えて監視する監視手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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