説明

乗客コンベアの移動手摺り劣化診断装置

【課題】取り付け作業が容易で、且つ放射線の漏洩防止をも良好に行うことが可能な乗客コンベアの移動手摺り劣化診断装置を提供すること
【解決手段】乗客コンベアの移動手摺り劣化診断装置であって、移動手摺り10に対して放射線を照射する光源を内部に含み、移動手摺り10のうち照射される部分及び光源を覆う筐体によって構成される放射線発生部2と、移動手摺り10を透過した透過光を受光することにより移動手摺り10を撮影するカメラを内部に含み、移動手摺り10のうちカメラによって撮像される部分及びカメラを覆う筐体によって構成され且つ放射線発生部2の筐体と組み合わせられることにより箱体となる受光部1と、箱体を移動手摺り10が貫通するための貫通穴において光源から照射される放射線が箱体の外部に漏れることを抑えるための遮蔽板とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターや移動歩道等の乗客コンベアに備えられている移動手摺りの損傷を診断する技術に係り、特に移動手摺りの内部劣化を診断するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エスカレーターや移動歩道などの乗客コンベア用の移動手摺り内に埋設されているスチールコードの損傷の有無やその損傷の程度を診断するための装置(以降、移動手摺り劣化診断装置とする)として、移動手摺りに放射線を照射し、その透過画像をモニタ等に映し出す装置が用いられている。
【0003】
このような移動手摺り劣化診断装置として、放射線を照射する放射線発生部及び透過画像を映し出す蛍光部が、夫々移動手摺りの上方及び下方に位置するように欄干部を利用して固定される装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されている移動手摺り劣化診断装置は、移動手摺りの進行方向から見て放射線発生部と蛍光部とが鉛直方向に対して斜めに配置される。これにより、乗客コンベアから移動手摺りを外すことなく、移動手摺りの放射線による内部劣化診断が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−48683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の移動手摺り劣化診断装置では、放射線発生部と蛍光部の取り付けが難しいという問題があった。すなわち、移動手摺りの断面方向からみて放射線発生部と蛍光部が斜めになるため、位置決めが難しく、且つ両者の取り付け部構造が移動手摺りを跨ぐような構造となっているため、取り付け作業が困難であった。また、放射線発生部と蛍光部とが分割されており、機構的に隙間なく設置する構造ではないため、放射線の漏洩防止が困難であるという問題もあった。
【0006】
本発明は上記不都合を鑑みてなされたもので、その目的はその取り付け作業が容易で、且つ放射線の漏洩防止をも良好に行うことが可能な乗客コンベアの移動手摺り劣化診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、乗客コンベアの移動手摺りの内部劣化を放射線により診断する劣化診断装置であって、前記移動手摺りに対して放射線を照射する光源を内部に含み、前記光源及び前記移動手摺りのうち前記光源によって照射される部分を覆う筐体によって構成される放射線発生部と、前記光源から照射された前記放射線により移動手摺りを透過した透過光を受光することにより前記移動手摺りを撮影する撮像部を内部に含み、前記撮像部及び前記移動手摺りのうち前記撮像部によって撮像される部分を覆う筐体によって構成され且つ前記放射線発生部の筐体と組み合わせられることにより前記光源、前記移動手摺り及び前記撮像部を覆う箱体となる受光部と、前記箱体を前記移動手摺りが貫通するための貫通穴において前記光源から照射される放射線が前記箱体の外部に漏れることを抑えるための遮蔽板とを含むことを特徴とする。
【0008】
ここで、前記放射線発生部及び前記受光部によって構成される箱体の前記移動手摺りの進行方向の幅は、前記乗客コンベアの踏み段の頂点間距離よりも短いことが好ましい。このように構成することで、該装置は、乗客コンベアの踏み段横の内部にある移動手摺りの返り側に容易に取り付けることができる。
【0009】
また、前記放射線発生部と前記受光部とを連結する連結部を更に含み、前記連結部は、前記光源から照射されて前記移動手摺りを透過した透過光が前記受光部によって受光されて前記移動手摺りが撮像されるような位置関係において前記前記放射線発生部と前記受光部とを連結することが好ましい。これにより、装置の設置時は放射線発生部と蛍光部の位置が必ず合うので両者の位置決めが簡単である。また位置合わせが完全なので放射線発生部と蛍光部の隙間がないため、放射線の漏洩が極めて少なくなる。
【0010】
また、前記光源に電源を供給するための電源供給配線及び前記撮像部によって撮像された画像を外部に出力するための出力配線が、前記移動手摺りの進行方向において前記箱体から引き出されることが好ましい。これにより、配線類が乗客コンベアの踏み段に巻き込まれることなく布設することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、その目的はその取り付け作業が容易で、且つ放射線の漏洩防止をも良好に行うことが可能な乗客コンベアの移動手摺り劣化診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る乗客コンベアの移動手摺り劣化診断装置の構成を示す透過平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る乗客コンベアの移動手摺り劣化診断装置が移動手摺りに取り付けられた状態の外観を示す図である。
【図3】一般的な乗客コンベアの外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明による乗客コンベアの移動手摺り診断装置について、図に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る移動手摺り診断装置の構成を示す図である。また、図2は、本実施形態に係る移動手摺り診断装置を移動手摺り10に取り付けた状態の外観を示す図である。図に示すように、本実施形態に係る移動手摺り診断装置は、移動手摺り10の上方から被せられて配置される受光部1と、移動手摺り10の下方から被せられて受光部1と対向するように配置される放射線発生部2とを備える。図2に示すように、受光部1と放射線発生部2とが移動手摺り10を挟んで組み合わせられることにより箱状の形態となる。
【0014】
受光部1は、取付部1aと、透過画像を反射するための反射板1bと、反射板1bからの映像を撮影するカメラ1cと、カメラ1cの出力ケーブル1dと、受光部1と放射戦発生部2を連結するための連結部1eとを備えて構成されている。図1、2に示すように、受光部1は、少なくとも撮像部であるカメラ1cと、移動手摺り10のうちカメラ1cによって撮像される部分を覆う筐体によって構成されている。
【0015】
本実施形態に係る放射線発生部2はX線発生源である。この放射線発生部2は、X線発生器2aと、X線発生器2aの内部にあるX線発生管2bと、X線発生器2aの電源を供給するための電源ケーブル2cと、受光部1と放射線発生部2を連結するための連結部2dと、放射線漏れを抑えるための遮蔽板2eとを備えて構成されている。図1、2に示すように、放射線発生部2は、少なくとも光源であるX線発生器2aと、移動手摺り10のうちX線発生器2aによって照射される部分を覆う筐体によって構成されている。
【0016】
そして、受光部1の筐体と放射線発生部2の筐体とが組み合わせられることにより、箱体が構成される。この箱体によって、移動手摺り10のうちX線が照射されてカメラ1cによって撮像される部分、X線発生器2a及びカメラ1cが覆われる。即ち、放射線の経路が箱体によって覆われることとなり、放射線が外部に漏れることを防ぐことができる。
【0017】
尚、本実施形態においては、遮蔽板2eが放射線発生部2の一部として設けられているが、これに限らない。遮蔽板2eは、図1に示すように、移動手摺り10が上述した箱体を貫通するための貫通穴において、光源であるX線発生器2aから照射される放射線が箱体の外部に漏れることを抑えるために設けられるものであり、受光部1側の一部であっても、受光部1及び放射線発生部2とは別に設けられても良い。
【0018】
なお、カメラ1cの出力ケーブル1dには画像処理機3が連結されており、画像処理機3が、カメラ1cからの画像信号をディジタル信号に変換している。即ち、出力ケーブル1dは、カメラ1cによって撮像された画像を外部に出力するための出力配線である。画像処理機3によってディジタル化された画像信号は、画像処理機3から図示しないパーソナルコンピュータへ取り込まれて、移動手摺り10の劣化診断に利用される。また電源4は、電源ケーブル2cを介してX線発生器2aの電源を供給する構成である。即ち、電源ケーブル2cは、X線発生器2aに電源を供給するための電源供給配線である。
【0019】
ここで、図3は、一般的なエスカレーターの外観を示す図である。エスカレーターや動く歩道等を含む乗客コンベアの移動手摺り10は、図3に示すように、欄干部11上方を移動した後は必ず欄干部下方の躯体12内部へ引き込まれ欄干部とは上下が逆となる返り側へ移動する構成である。そしてこの躯体12内部においては、移動手摺り10を押し出す機器以外の場所は比較的空間がある。
【0020】
本実施形態に係る移動手摺り劣化診断装置はこの躯体12内部の空間を利用して設置するものである。移動手摺り劣化診断装置を取り付ける際、図2に示すように受光部1にある取付部1aを、躯体12内部にあるL字鋼材5に取り付ける。このとき受光部1全体の長さは、踏み段6の頂点間距離6aよりも長いと装置が内部に入らないため、必ず頂点間距離よりも短くしなければならない。
【0021】
また、躯体12内部の空間に設置するという都合上、高さ方向にも制限がある。このため、図1に示すように、反射板1bを使い透過画像の方向を変えることで高さを高くすることなく、カメラ1cでの撮影を可能にしている。
【0022】
受光部1を固定し終わった後、放射線発生部2を取り付ける。放射線発生部2は連結部1eと対になっている連結部2dを備えており、連結部1eと連結部2dは噛み合わせがうまくいかない限り固定できない構造となっている。これによって放射線発生部1と受光部2の位置がずれていて透過画像がうまく撮影できないという不具合を回避することができる。換言すると、連結部1e及び連結2dは、光源であるX線発生器2aから照射されて移動手摺り10を透過した透過光が受光部であるカメラ1cによって受光され、これにより移動手摺り10が撮像されるような位置関係においてのみ、受光部1と放射線発生部2とを連結する。
【0023】
また、放射線発生部2と受光部1は隙間なく装着できるため、放射線の漏れを抑えることが可能である。さらに放射線発生部2には移動手摺りの進行方向への放射線の漏れを防止するための防止機構である遮蔽板2eを備えているため、装置からの放射線漏れ量は実測値で1.4μSV/hと非常に低く抑えることができる。
【0024】
さらに出力ケーブル1d、電源ケーブル2cは、移動手摺りの進行方向に出しているため、隣接する踏み段6に巻き込まれることなく布設可能である。
【0025】
これによって乗客コンベアを通常運転で動かして移動手摺りの透過画像を撮影、診断することが可能になり、診断作業時間の大幅な短縮が実現できる。本発明による装置の取り付け時間は10分程度であり、さらに放射線漏れ量は法規で規定されている2.5μSV/hに対し、実測値1.4μSV/hと約50%低い。また、装置において一番放射線が漏れる部分は作業者が居ない部分であるため、周囲への安全性もより高いという効果がある。
【符号の説明】
【0026】
1 受光部、
1a 取付部、
1b 反射板、
1c カメラ、
1d 出力ケーブル、
1e 連結部、
2 放射線発生部、
2a X線発生器、
2b X線発生管、
2c 電源ケーブル、
2d 連結部、
3 画像処理器、
4 電源、
5 L字鋼材、
6 踏み段、
6a 頂点間距離、
10 移動手摺り、
11 欄干部、
12 躯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの移動手摺りの内部劣化を放射線により診断する劣化診断装置であって、
前記移動手摺りに対して放射線を照射する光源を内部に含み、前記移動手摺りのうち前記光源によって照射される部分及び前記光源を覆う筐体によって構成される放射線発生部と、
前記光源から照射された前記放射線により移動手摺りを透過した透過光を受光することにより前記移動手摺りを撮像する撮像部を内部に含み、前記移動手摺りのうち前記撮像部によって撮像される部分及び前記撮像部を覆う筐体によって構成され且つ前記放射線発生部の筐体と組み合わせられることにより前記光源、前記移動手摺り及び前記撮像部を覆う箱体となる受光部と、
前記箱体を前記移動手摺りが貫通するための貫通穴において前記光源から照射される放射線が前記箱体の外部に漏れることを抑えるための遮蔽板とを含むことを特徴とする劣化診断装置。
【請求項2】
前記放射線発生部及び前記受光部によって構成される箱体の前記移動手摺りの進行方向の幅は、前記乗客コンベアの踏み段の頂点間距離よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の劣化診断装置。
【請求項3】
前記放射線発生部と前記受光部とを連結する連結部を更に含み、
前記連結部は、前記光源から照射されて前記移動手摺りを透過した透過光が前記受光部によって受光されて前記移動手摺りが撮像されるような位置関係において前記前記放射線発生部と前記受光部とを連結することを特徴とする請求項1または2に記載の劣化診断装置。
【請求項4】
前記光源に電源を供給するための電源供給配線及び前記撮像部によって撮像された画像を外部に出力するための出力配線が、前記移動手摺りの進行方向において前記箱体から引き出されることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の劣化診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−219244(P2011−219244A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92329(P2010−92329)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】