説明

乗客コンベア

【課題】負荷に変化があっても制動時間を同じにすることができる乗客コンベアを提供する。
【解決手段】駆動モータ12と、前記駆動モータ12に連結されたフライホイールと、前記駆動モータ12に連結された減速機と、入力軸が前記駆動モータ12に連結され、出力軸が前記減速機に連結された無段変速機16と、前記無段変速機16の前記出力軸の回転を停止させる主ブレーキ24で構成され、主ブレーキ24を用いて駆動モータ12を停止させるときに、検出した負荷が上昇するほどに無段変速機16の出力軸の回転数が上がるように無段変速機16の減速比を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エスカレータの踏段を移動させる駆動モータに対する主ブレーキや補助ブレーキの設定ブレーキトルクは、全負荷時の必要設定ブレーキトルク以上で設定されているため、乗客が少ない場合には制動時間が短く減速度が大きくなる。そのため、フライホイールの追加などで慣性(回転しているものを止めようとしたときに回り続けようとする力)を大きくして、乗客が少ない場合の制動時間を延ばし、減速度を小さくするようにして対応している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−278984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来のエスカレータにおいては、設計時にフライホイールや設定ブレーキトルクを変化させることで制動時間の調整を行っている。
【0005】
しかし、エスカレータの製造会社の社内規定又は法規などによって、最小、最大制動時間などの規定がある場合は、制動時間をその範囲に納めるために、フライホイールの慣性と設定ブレーキトルクを交互に上げて行き、条件を満足する条件を確認している。すなわち、フライホイールの慣性を大きくして制動時間を大きくするか、設定ブレーキトルクを大きくして制動時間を小さくしている。そのため、これら条件を満足させるために、フライホイールの慣性と設定ブレーキトルクをある程度大きくする必要があった。
【0006】
しかし、高揚程など止めようとするエスカレータの積載負荷が大きくなればなるほど、フライホイールの慣性と設定ブレーキトルクの調整範囲が狭くなるため、場合によっては上記規定を満足させるためにブレーキ型式や機器構成を変える必要があるという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、負荷に変化があっても制動時間を同じにすることができる乗客コンベアを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、駆動モータと、前記駆動モータに連結されたフライホイールと、前記駆動モータに連結された減速機と、入力軸が前記駆動モータに連結され、出力軸が前記減速機に連結された無段変速機と、前記無段変速機の前記出力軸の回転を停止させる主ブレーキと、前記減速機の出力側に設けられた第1駆動スプロケットと、前記第1駆動スプロケットと駆動チェーンを介して連結された第2駆動スプロケットと、前記第2駆動スプロケットに取り付けられた踏段スプロケットと、前記踏段スプロケットに掛け渡された踏段チェーンに取り付けられた踏段と、前記踏段上の負荷を検出する負荷検出部と、前記主ブレーキを用いて前記駆動モータを停止させるときに、検出した前記負荷が上がる程に前記無段変速機の前記出力軸の回転数が上がるように、前記無段変速機の減速比を変更する制御部と、を有することを特徴とする乗客コンベアである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る実施例1のエスカレータの説明図である。
【図2】実施例1のエスカレータのブロック図である。
【図3】実施例2のエスカレータのブロック図である。
【図4】実施例3のエスカレータのブロック図である。
【図5】実施例4のエスカレータのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態の乗客コンベアについて、図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態では乗客コンベアとしてエカレータ10に適用して説明する。
【実施例1】
【0011】
本発明に係る実施例1のエスカレータ10について、図1と図2に基づいて説明する。
【0012】
(1)エスカレータ10の構造
エスカレータ10の構造について図1に基づいて説明する。
【0013】
図1に示すように、建屋に設置されているトラス内の上階側の機械室には、駆動モータ12が配置され、この駆動モータ12の負荷軸には、カップリング14を介して無段変速機16の入力軸が連結され、反負荷軸には、フライホイール18が取り付けられている。
【0014】
無段変速機16の出力軸は、カップリング20を介して減速機22の入力軸が接続されている。この無段変速機16の出力軸と減速機22の入力軸とを連結する部分には、主ブレーキ24が設けられている。減速機22の出力軸には、駆動小スプロケット26が取り付けられている。主ブレーキ24は、エスカレータ10の停止時や停電時に動作し、カップリング20の両側をブレーキシューで挟み込んで制動する。
【0015】
一方、駆動軸28には、駆動大スプロケット30が取り付けられ、駆動チェーン32を介して駆動小スプロケット26と連結されている。
【0016】
駆動軸28の左右両側には、左右一対の踏段スプロケット34,34が取り付けられている。また、図1では不図示の下階側にも同様に駆動軸に左右一対の踏段スプロケットが取り付けられ、この上階側の踏段スプロケット34,34との間に左右一対の無端の踏段チェーン36,36が掛け渡されている。
【0017】
左右一対の踏段チェーン36,36の間には多数の踏段38が取り付けられている。そして、駆動モータ12を回転させることによって、踏段チェーン36が移動し、それと共に踏段38が不図示のガイドレールに沿って上下動する。
【0018】
機械室には、エスカレータ10のコントローラ46が配置されている。
【0019】
また、駆動軸28にはラチェット42が同軸に取り付けられ、このラチェット42には補助ブレーキ44が取り付けられている。この補助ブレーキ44は、速度超過、回転軸28の逆回転などの異常発生時に動作し、補助ブレーキ44の係合爪がラチェット42に係合することによって、駆動軸28の回転を阻止する。この補助ブレーキ44は、例えば、後から説明する安全スイッチ40によって動作する。
【0020】
安全スイッチ40が、踏段38、スカートガード付近などに設けられている。安全スイッチ40としては、例えばスカートガード挟まれ検出装置、インレット挟まれ検出装置(手摺ベルト入込み口挟まれ検出装置)、踏段浮き上がり検出装置である。
【0021】
踏段38を移動させるガイドレールには歪みゲージ48が取り付けられ、この歪みゲージ48の歪み量が歪み検出装置50に出力される。歪み検出装置50は、検出した歪み量が多いほど踏段38に乗っている乗客などが多く負荷が大きいとして、負荷の大きさに比例した出力値を示す乗客荷重信号をコントローラ46に出力する。すなわち、この乗客荷重信号の出力値が、エスカレータ10に掛かった乗客の負荷などに対応している。
【0022】
(2)エスカレータ10の電気的構成
次に、エスカレータ10の電気的構成について図2のブロック図に基づいて説明する。
【0023】
エスカレータ10の制御を行うコントローラ46には、図2に示すように駆動モータ12、無段変速機16、主ブレーキ24、安全スイッチ40、歪み検出装置50が接続されている。
【0024】
(3)エスカレータ10の動作状態
次に、エスカレータ10が停止するときの動作について説明する。
【0025】
主ブレーキ24が動作するまで、歪みゲージ48による歪み量を歪み検出装置50が常に検出し、歪み検出装置50は、この歪み量に対応した乗客荷重信号をコントローラ46に出力する。
【0026】
コントローラ46の制御による停止時、又は、停電時に主ブレーキ24が動作したとき、コントローラ46は、乗客荷重信号の出力値に対応した負荷に基づいて無段変速機16の減速比を変更する。すなわち、コントローラ46は、乗客の負荷が大きいほど無段変速機16の出力軸の回転数が大きくなるように変速比を変更する。以下、これについて詳しく説明する。なお、無段変速機16の入力軸の回転数は、駆動モータ12の回転数で計算し、駆動モータ12の回転数は、エスカレータ10の駆動時で一定である。主ブレーキ24が動作したときにエスカレータ10が停止するまでの制動時間t(秒)は式(1)で表される。
【0027】

t=(GD/375)×(N/T) ・・・(1)

但し、GDは慣性であり、Nは止めようとする軸の回転数、Tは制動トルクである。GDには、積載重量、用品(手摺、踏段38、駆動大スプロケット30、駆動小スプロケット26など)の重量と大きさ、駆動装置(駆動モータ12、減速機16、カップリング14,20、主ブレーキ24、補助ブレーキ44、フライホイール18)の重量と大きさなどによって決定される。
【0028】
制動時の減速度αは式(2)で表される。
【0029】

α=V/t ・・・(2)

但し、Vは止めようとする速度である。
【0030】
式(1)より、所定の制動トルクTで止めようとしたとき、GDが大きいほど制動時間(制動距離)tが長くなり、結果的には式(2)に示すように減速度αは小さくなる。
【0031】
一方、回転数と慣性との関係は、式(3)のように表される。
【0032】

[GD=GD×(N/N ・・・(3)

但し、GDは軸jに属する慣性(kgf・m)、Nは軸jの回転数(rpm)、[GDは軸iに属する慣性(kgf・m)、Nは軸iの回転数(rpm)である。
【0033】
上記の式(3)から慣性は回転数比の2乗で作用することがわかる。そこで、式(1)と式(3)の関係より、主ブレーキ24が止めようとする回転数と制動時間tの関係について具体的な値を用いて説明する。すなわち、軸jに属する慣性GD=5(kgf・m)とし、軸jの回転数N=100(rpm)とし、負荷時の制動トルクT=5(kgf・m)とし、無負荷時の制動トルクT=10(kgf・m)とした場合について説明する。
【0034】
まず、制動トルクTは、基本的に設定ブレーキトルク−負荷トルク(乗客負荷など)となるため負荷時よりも無負荷時の方が大きい。
【0035】
そして、無段変速機16の減速比を1:1とした場合に、式(1)より負荷時の制動時間tは、次の式(4)より0.27(秒)となる。
【0036】

=(GD/375)×(N/T)
=(5/375)×(100/5)=0.27(秒) ・・・(4)

ここで、無段変速機16の減速比を1:1から1:2に変化した後の軸jの回転数はN’は、

’=N/2=100/2=50(rpm) ・・・(5)

となる。また、このときの[GD]’は式(3)より、

[GD=GD×(N/N
=5×(100/50)=20(kgf・m) ・・・(6)

となる。式(5)、式(6)から無負荷時に無段変速機16の減速比を1:1から1:2とした場合の制動時間tは、

=([GD]’/375)×(N’/T
=20/375×50/10=0.27(秒) ・・・(7)

となる。式(4)と式(7)の結果により、無段変速機16の減速比を変化させることで、負荷条件によらず制動時間(制動距離)tを同じ0.27秒にすることができる。
【0037】
(4)効果
本実施例によれば、主ブレーキ24を用いて駆動モータ12を停止させるときに、検出した負荷が上がる程に無段変速機16の出力軸の回転数が上がるように、無段変速機16の減速比を変更することにより、制動時間のばらつきを少なくすることができ、乗客が少なく負荷が小さいときでも、制動時間が短くなって減速度が大きくなることがない。
【0038】
また、従来のように規定された最小、最大制動距離の範囲内となるまでフライホイール18及び設定ブレーキトルクを大きくする必要がなく、機器構成を小さくすることができ、さらに、ブレーキ型式での適用を拡大できる。
【実施例2】
【0039】
次に、本発明に係る実施例2のエスカレータ10について、図3に基づいて説明する。
【0040】
実施例1では、無段変速機16の入力軸の回転数を駆動モータ12の回転数で設定したが、本実施例ではこれに代えて無段変速機16の入力軸の回転数を検出する回転数検出装置52を設ける。
【0041】
本実施例によれば、実施例1のエスカレータ10よりもより精度が高く、無段変速機16における減速比を変更することができ、負荷条件における制動時間のばらつきをより少なくすることができる。
【実施例3】
【0042】
次に、本発明に係る実施例3のエスカレータ10について、図4に基づいて説明する。
【0043】
実施例1及び実施例2のエスカレータ10では、エスカレータ10に対する負荷、すなわち乗客の荷重を歪みゲージ48と歪み検出装置50によって求めていた。しかし、本実施例では、これに代えて駆動モータ12の駆動電流を駆動電流検出装置54で検出し、この駆動電流が上昇すれば上昇するほど負荷が大きくなると判断して、駆動電流検出装置54がその負荷に対応した乗客荷重信号をコントローラ46に出力する。
【0044】
本実施例におけるエスカレータ10でも、駆動モータ12の駆動電流を検出することで、精度の高い乗客荷重を検知することができるので、負荷条件における制動時間のばらつきをより少なくすることができる。
【実施例4】
【0045】
次に、本発明に係る実施例5のエスカレータ10について、図5に基づいて説明する。
【0046】
本実施例は、実施例2と実施例3の構成を組み合わせたものであり、無段変速機16の入力軸の回転数を回転数検出装置52で検出し、エスカレータ10に対する負荷を駆動電流検出装置54によって検出する。
【0047】
本実施例におけるエスカレータ10であると、最適な減速比を選択し、かつ、精度の高い負荷を検出できるため、制動時間のばらつきをより少なくすることができる。
【変更例】
【0048】
上記各実施例では、エスカレータ10で説明したが、これに代えて各実施例を動く歩道においても適応してもよい。
【0049】
本実施例においては、エスカレータ10に掛かる負荷が、無負荷時と負荷時の2段階で説明し、それに対応して減速比も2段階にした。これに代えて、負荷段階を複数段階にして、減速比を多段階にしてもよい。例えば、無負荷時、低負荷時、最大負荷時の3段階に設定し、減速比も3段階に分けて設定し、無負荷時よりも低負荷時、低負荷時よりも最大負荷時に回転数が上がるように制御してもよい。
【0050】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
10・・・エスカレータ、12・・・駆動モータ、16・・・無段変速機、18・・・フライホイール、22・・・減速機、24・・・主ブレーキ、26・・・駆動小スプロケット、28・・・駆動軸、30・・・駆動大スプロケット、32・・・駆動チェーン、34・・・踏段スプロケット、36・・・踏段チェーン、38・・・踏段、46・・・コントローラ、48・・・歪みゲージ、50・・・歪み検出装置、52・・・回転数検出装置、54・・・駆動電流検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータと、
前記駆動モータに連結されたフライホイールと、
前記駆動モータに連結された減速機と、
入力軸が前記駆動モータに連結され、出力軸が前記減速機に連結された無段変速機と、
前記無段変速機の前記出力軸の回転を停止させる主ブレーキと、
前記減速機の出力側に設けられた第1駆動スプロケットと、
前記第1駆動スプロケットと駆動チェーンを介して連結された第2駆動スプロケットと、
前記第2駆動スプロケットに取り付けられた踏段スプロケットと、
前記踏段スプロケットに掛け渡された踏段チェーンに取り付けられた踏段と、
前記踏段上の負荷を検出する負荷検出部と、
前記主ブレーキを用いて前記駆動モータを停止させるときに、検出した前記負荷が上がる程に前記無段変速機の前記出力軸の回転数が上がるように、前記無段変速機の減速比を変更する制御部と、
を有することを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記負荷検出部は、
前記踏段が移動するガイドレールの歪み量を検出する歪みゲージと、
前記歪み量から前記負荷を検出する歪み検出部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記負荷検出部は、前記負荷を前記駆動モータの駆動電流から検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記無段変速機の前記入力軸の回転数を検出する回転数検出部をさらに有し、
前記制御部は、検出した前記回転数と前記負荷に基づいて前記減速比を変更する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−140216(P2012−140216A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294541(P2010−294541)
【出願日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】