説明

乗物用エンジン制御装置

【課題】複数の制御モードを用いてエンジンを制御可能な乗物用エンジン制御装置を搭載している乗物の運転フィーリングを向上させる。
【解決手段】複数の制御モードを用いてエンジン14を制御可能な乗物用エンジン制御装置50であって、第1制御モードと、第1制御モードよりも燃料消費量を抑えてエンジン14が動作しうる第2制御モードとが選択的に設定され、その設定された制御モードを用いてエンジン14を制御する制御手段19と、制御手段19に設定される制御モードを第1制御モードと第2制御モードとの間で切替可能な切替入力手段37と、を備え、制御手段19は、切替入力手段37に制御モードを切り替える指令が入力されたときに、所定の走行条件が成立する場合には指令を有効とし、所定の走行条件が成立しない場合には指令を無効とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の制御モードを用いてエンジンを制御可能な乗物用エンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の乗物に適用されるエンジン制御装置として、加速性を重視した高出力モード、高燃費を重視したエコノミーモード、かかる特性のないノーマルモード等の複数の制御モードの中から一つを選択的に設定し、設定した制御モードを用いてエンジンを制御するものがある。このように構成されたエンジン制御装置においては、その入力側にモード切替スイッチが接続され、運転者がこのスイッチを操作して制御モードを自在に切り替え可能としたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−23991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン制御装置は、アクセル開度やエンジン回転数等の走行状態を示す入力値に応じて点火タイミングや燃料噴射量などの指令値を求め、その指令値に従ってエンジンを制御するが、入力値に応じて求まる指令値は制御モード毎に異なる。他方、従来のエンジン制御装置においては、いかなる走行状態においても、モード切替スイッチが操作されるとこれに応じて制御モードが切り替わる。このため、走行状態によっては、制御モードが切り替わることにより、エンジンの挙動が変動するなどの走行変動が生じ、運転フィーリングが損なわれることがある。
【0005】
そこで本発明は、複数の制御モードを用いてエンジンを制御可能な乗物用エンジン制御装置を搭載している乗物の運転フィーリングを向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る乗物用エンジン制御装置は、複数の制御モードを用いてエンジンを制御可能な乗物用エンジン制御装置であって、第1制御モードと、前記第1制御モードよりも燃料消費量を抑えてエンジンが動作しうる第2制御モードとが選択的に設定され、その設定された制御モードを用いてエンジンを制御する制御手段と、前記制御手段に設定される制御モードを前記第1制御モードと前記第2制御モードとの間で切替可能な切替入力手段と、を備え、前記制御手段は、前記切替入力手段に制御モードを切り替える指令が入力されたときに、所定の走行条件が成立する場合には前記指令を有効とし、前記所定の走行条件が成立しない場合には前記指令を無効とすることを特徴としている。
【0007】
前記構成によれば、所定の走行条件を満たさない場合には制御モードが切り替わらず、制御モードの切替に起因する走行変動を抑制することができる。よって、運転フィーリングを良好に保つことが可能となる。
【0008】
乗物が所定の加速度であるか否かを判定する加速判定手段を備え、前記所定の走行条件は、前記加速判定手段により乗物が前記所定の加速度未満の状態であると判定されているとの条件を有していてもよい。
【0009】
前記構成によれば、乗物が加速状態となっており、制御モードを切り替えるとエンジンの挙動の変動や速度変動が生じるおそれがある場合に、この制御モードの切替が拒否されることになり、制御モードの切替に起因する走行変動を抑えることができる。
【0010】
前記エンジンから駆動輪への動力伝達が遮断されているか否かを判定する動力伝達判定手段を備え、前記所定の走行条件は、前記動力伝達判定手段により前記伝達経路が遮断されていると判定されているとの条件を有していてもよい。
【0011】
前記構成によれば、動力伝達経路が遮断されていると制御モードが切り替わってエンジンの挙動が変動するような場合であっても、それが走行変動に繋がりにくい。よって、このような場合に制御モードの切替が許可されるようにしたことで、運転フィーリングを損なわせずに制御モードを切り替えることができる。
【0012】
前記車両の変速装置のギヤ位置を検出するためのギヤ位置センサを備え、前記所定の走行条件は、前記ギヤ位置センサにより検出されるギヤ位置が最大減速比以下の所定減速比未満となるギヤ位置であるとの条件を有していてもよい。
【0013】
前記構成によれば、減速比が最大減速比以下の所定減速比未満となる減速比でない、つまり、或る変速段に対して低速側の変速段が設定されている場合に、制御モードの切替が拒否されるようになる。かかる低速側の変速段は、一般に発進時などの加速の必要性が高い場合や比較的大きなエンジンブレーキを作用させて減速の必要性が高い場合など、車速の変化が大きくなりがちな走行状態において設定される。このような場合に制御モードの切替が拒否されるため、制御モードの切替に起因する走行変動を抑えることができる。
【0014】
車速を検出するための車速センサを備え、前記所定の走行条件は、前記車速センサで検出される車速が予め定める第1速度以上であって予め定める第2速度以下となる所定の速度範囲に収まっているとの条件を有し、前記第1速度が0を越えており、前記第2速度が前記第1速度よりも大きい値に設定されてもよい。
【0015】
前記構成によれば、車速が第1速度未満の低速域にあって発進のために加速の必要性が高い場合などに制御モードの切替が拒否されるため、制御モードの切替に起因する速度変動や走行変動を抑えることができる。また、車速が第2速度を超える高速域にあって制御モードの相違があっても燃料噴射量等のエンジンに対する動作指令値に大きな差異が見られないような場合などに制御モードの切替が拒否され、無用な制御モードの切替動作を防ぐことができる。
【0016】
前記切替入力手段は、運転者に操作される操作部を有し、前記制御手段は、前記操作部が操作される操作時間が予め定める第1時間以上であって予め定める第2時間以下となる所定の時間範囲に収まった場合のみ、制御モードを切り替える指令が入力されたと判断してもよい。
【0017】
前記構成によれば、モード切替スイッチに誤って何かが単に触れただけのときや、単に当たり続けているだけのときに、不意に制御モードが切り替わってしまうのを防ぐことができる。
【0018】
前記乗物の変速装置のギヤ位置を検出するためのギヤ位置センサと、前記エンジンの回転数を検出するためのエンジン回転数センサと、前記エンジンへの吸気量を調節するスロットルの開度を検出するためのスロットル開度センサとを備え、前記所定の走行条件は、前記ギヤ位置センサにより検出されるギヤ位置が最大の減速比以下の所定減速比未満となるギヤ位置であり、かつ、前記エンジン回転数センサの検出値が所定の回転数以下であり、かつ、前記スロットル開度センサの検出値が所定の開度以下であるとの条件を有していてもよい。
【0019】
前記構成によれば、乗物が加速状態となっており、制御モードを切り替えるとエンジンの挙動の変動や速度変動が生じるおそれがある場合に、この制御モードの切替が拒否されることになり、制御モードの切替に起因する走行変動を抑えることができる。そして、専用の加速度センサを利用することなく、加速状態であるか否かを検出する構成が実現されるため、部品点数を少なくして製造コストを低減することができる。
【0020】
所定の走行条件が成立しているか否かを判定するための検出値を出力するセンサと、前記センサに異常が発生しているか否かを判定する異常判定手段とを備え、前記制御手段は前記異常判定手段により前記センサに異常が発生していると判断された場合に、制御モードの切り替えを制限してもよい。
【0021】
前記構成によれば、センサに異常が発生していて走行条件が成立しているか否かの判定を正確に行うことが困難となった場合に制御モードの切替を制限するようにしており、走行条件の成立が誤認されるおそれを低減することができる。
【0022】
また、本発明に係る乗物用エンジン制御装置は、複数の制御モードを用いてエンジンを制御可能な乗物用エンジン制御装置であって、第1制御モードと、前記第1制御モードとは走行に関する制御が異なる第2の制御モードとが選択的に設定され、その設定された制御モードを用いてエンジンを制御する制御手段と、前記制御手段に設定される制御モードを前記第1制御モードと前記第2制御モードとの間で切替可能な切替入力手段と、を備え、前記制御手段は、前記切替入力手段に制御モードを切り替える指令が入力されたときに、所定の走行条件が成立する場合には前記指令を有効とし、前記所定の走行条件が成立しない場合には前記指令を無効とすることを特徴としている。本構成においても、所定の走行条件を満たさない場合には制御モードが切り替わらず、制御モードの切替に起因する走行変動を抑制することができる。よって、運転フィーリングを良好に保つことが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、運転フィーリングを良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る乗物用エンジン制御装置を搭載した自動二輪車の左側面図である。
【図2】図1に示すエンジンの周辺構成と、図1に示す自動二輪車に搭載されたエンジン制御装置の全体構成とを示す模式図である。
【図3】図2に示す電子制御ユニットを中心にして示すエンジン制御装置のブロック図である。
【図4】図3に示す条件判定部が行う走行条件の成立/非成立の判定処理を示すフローチャートである。
【図5】図3に示す判定処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、これら図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、本発明に係る乗物の一実施形態として自動二輪車を例示し、方向の概念は自動二輪車に騎乗した運転者から見た方向を基準としている。
【0026】
図1は本発明の実施形態に係るエンジン制御装置を搭載した自動二輪車1の左側面図である。図1に示す自動二輪車1は前輪2及び後輪3を備えている。前輪2は略上下方向に延びるフロントフォーク4の下端部に回転自在に支持され、フロントフォーク4の上端部は、ヘッドパイプ5に回転自在に支持されたステアリングシャフト(図示せず)を介し、左右一対のグリップを有したハンドル6と連結されている。運転者がグリップを把持してハンドル6を回動操作すると、ステアリングシャフトを回転軸として前輪2が転向する。運転者が右手で把持するグリップは、手首の捻りにより回転させることでスロットル装置17を操作するためのスロットルグリップ7(図2参照)である。運転者が左手で把持するグリップの前側にはクラッチレバー8が設けられている。
【0027】
ヘッドパイプ5からは左右一対のメインフレーム9が後下方へ延び、メインフレーム9の後部には左右一対のピボットフレーム10が接続され、ピボットフレーム10には略前後方向に延びるスイングアーム11の前端部が枢支され、スイングアーム11の後端部には後輪3が回転自在に軸支されている。メインフレーム9及びピボットフレーム10にはエンジン14が支持され、エンジン14の出力は変速装置15及びチェーン16を介して後輪3に伝達される。エンジン14の吸気ポート(図示せず)にはスロットル装置17及びエアクリーナ18が連設されている。また、ハンドル6の後方には燃料タンク12を介して運転者騎乗用のシート13が設けられ、シート13下方の内部空間にはエンジン14の動作を制御する電子制御ユニット19(制御手段)が収容されている。
【0028】
図2は図1に示すエンジン14の周辺構成と、図1に示す自動二輪車1に搭載されたエンジン制御装置50の全体構成とを示す模式図である。図2に示すように、スロットル装置17は、エンジン14とエアクリーナ18との間に設けられた吸気管20と、吸気管20の内部通路に設けられたスロットルバルブ21と、スロットルバルブ21を駆動するバルブアクチュエータ22とを備えている。スロットルバルブ21はバルブアクチュエータ22により駆動されて吸気管20の内部通路を開度可変に開閉し、これによりエンジン14への吸気量が調節される。また、エンジン14には燃料噴射装置23及び点火装置24が設けられている。これら装置23,24が適宜タイミングで動作することにより気筒で点火燃焼が行われ、これによりエンジン14が回転出力を発生する。
【0029】
エンジン14の回転出力は動力伝達経路25を介して後輪3に伝達される。図2では動力伝達経路25として、エンジン14側から順にエンジン出力軸26、減速機構27、クラッチ28、変速機入力軸29、変速装置15、変速機出力軸30及びチェーン16を例示している。クラッチ28はワイヤー8aを介してクラッチレバー8と連結されている。クラッチレバー8が操作されていないときには、クラッチ28が締結状態となり減速機構27と変速機入力軸29との間で動力が伝達可能となるのに対し、クラッチレバー8が操作されると、ワイヤー8aの動作によりクラッチ28が解放状態となり動力伝達経路25が遮断される。変速装置15は、変速機入力軸29の回転を変速して変速機出力軸30に伝達する。変速装置15は例えば複数のギヤ列を並設したドッグクラッチ式の多段変速機であり、複数の変速段のうちの一つを選択的に設定可能である。これら変速段には、互いに変速比が異なる複数の前進用変速段と、変速機入力軸29と変速機出力軸30との間の動力伝達を遮断する中立段とが含まれる。なお、変速段の設定変更は、シフトペダル(図示せず)を操作してギヤ位置を変更することによって行われる。
【0030】
電子制御ユニット19は、走行状態を検出するセンサ類からの信号を入力し、検出された走行状態と設定されている制御モードとに応じてエンジン14及びそれに付随する機器類を制御する。電子制御ユニット19には、複数の制御モードのうちの一つが選択的に設定されるようになっている。本実施形態では、電子制御ユニット19に設定され得る制御モードとして、ノーマルモードと、ノーマルモードよりも燃料消費量を抑えてエンジン14を動作させ得るエコノミーモードの2つの制御モードがあり、電子制御ユニット19がこのエコノミーモードのオンオフ切替を行えるようになっている。より具体的には、電子制御ユニット19には、各制御モードに対応した制御マップが予め記憶され、これら制御マップを参照してエンジン14及びそれに付随する機器類の動作指令値が求められる。参照する制御マップが切り替わることにより、制御モードが切り替わることとなる。
【0031】
図2では、電子制御ユニット19の入力側に接続されるセンサ類として、スロットルグリップ7の操作位置を検出するグリップ位置センサ31、スロットルバルブ21の開度を検出するスロットル位置センサ32、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ33、変速機15のギヤ位置を検出するギヤ位置センサ34、クラッチレバー8が操作されているか否かを検出するクラッチ操作スイッチ35、及び車速を検出するための車速センサ36を例示している。電子制御ユニット19は、ギヤ位置センサ34からの入力に基づいて変速機15に設定されている変速段が何れであるのかを検知可能であり、また、クラッチ操作スイッチ35からの入力に基づいてクラッチ28が解放状態であるか否かを検知可能である。車速センサ36は具体的には前輪2の回転速度を検出する構成であり、電子制御ユニット19は車速センサ36の検出値に所定の演算を行うことによって車速を測定可能に構成されている。その他にも図示しないが、加速度を検出する加速度センサ、及び変速装置15に中立段が設定されていることを検出するニュートラルギヤ位置センサが電子制御ユニット19に接続されていてもよい。
【0032】
また、電子制御ユニット19の入力側には更に、電子制御ユニット19に制御モードを切り替える指令を入力するためのモード切替スイッチ37(切替入力手段)が接続されている。モード切替スイッチ37は、ハンドル6のグリップに隣接して配置されて運転者が走行中であっても容易に操作可能となっている。また、モード切替スイッチ37の態様は押しボタン式やトグル式やロッカー式など特に限定されないが、後述する入力時間判定部41(図3参照)による判定処理を電子制御ユニット19が行うに際しては、押しボタン式が好適に適用される。
【0033】
図2では、電子制御ユニット19の出力側に接続されるエンジン14側の機器類として、前述したスロットル装置17のバルブアクチュエータ22、燃料噴射装置23、及び点火装置24を例示している。
【0034】
また、電子制御ユニット19の出力側には、現に設定されている制御モードが何れであるのかを表示するためのモード表示装置38が接続されている。モード表示装置38は、ハンドル6(図1参照)に近接する計器パネル(図示せず)上に配置されて運転者が走行中であっても容易に視認可能となっており、その態様はランプや液晶ディスプレイなど特に限定されない。
【0035】
また、電子制御ユニット19の出力側には、現在の走行状態が高燃費の走行状態であるときにその旨を表示するためのエコランプ39が接続されており、電子制御ユニット19は高燃費の走行状態であるか否かを判定する高燃費走行判定部(図示せず)を有している。この高燃費走行判定部は例えば、エンジン回転数が所定の回転数範囲内に収まっているか否か、エンジン回転数の変化量が所定範囲内に収まっているか否か、スロットルバルブ21の開度が所定の開度範囲内に収まっているか否か、スロットルバルブ21の開度変化量が所定範囲内に収まっているか否か、車速が0を超えているか否か、クラッチレバー8が操作されているか否かを判定し、少なくとも一つの判定結果が「YES」であれば、高燃費の走行状態であるとしてエコランプ39を点灯させる制御を実行する。エコランプ39も計器パネル上に配置されているため、運転者は走行中であってもエコランプ39の点灯状況を容易に確認可能となり、高燃費走行が支援される。なお、エンジン回転数及びスロットルバルブ21の開度に関し、上記回転数範囲及び開度範囲をそれぞれ規定する上限値及び下限値は、変速装置15に設定されている変速段に応じて変更されてもよい。
【0036】
このようにして本実施形態に係るエンジン制御装置50は、上記電子制御ユニット19と、その入力側に接続されるセンサ類31〜36及びモード切替スイッチ37と、その出力側に接続されるエンジン側14の機器類22〜24、モード表示装置38及びエコランプ39とにより構成されている。
【0037】
図3は図2に示す電子制御ユニット19の構成を中心にして示すエンジン制御装置50のブロック図である。図3に示す電子制御ユニット19は、モード切替スイッチ37の操作により制御モードを切り替える指令が入力されたときに、当該指令を有効とするのか無効とするのかを決定し、有効とする場合には制御モードを切り替える制御を実行する。そして、設定されている制御モードに応じて機器類22〜24及びモード表示装置38の動作が制御される。かかる制御の内容に従い、この電子制御ユニット19は、記憶部40、入力時間判定部41、異常判定部42、条件判定部43、モード設定部44、スロットル制御部45、燃料制御部46、及び点火制御部47を有している。以下では、制御モードを切り替える指令を単に「指令」と呼ぶ場合もある。
【0038】
記憶部40には、各制御モードに対応した制御マップが予め記憶されている。この制御マップは、センサ類31〜36からの入力に応じて、スロットルバルブ21の目標開度に対応したバルブアクチュエータ22の動作量、燃料噴射装置23から噴射される目標燃料量に対応した燃料噴射装置23の動作時間、及び目標点火時期に対応した点火装置24の動作タイミングを求めるために参照される。
【0039】
入力時間判定部41は、モード切替スイッチ37が操作されて制御モードを切り替える指令が入力されたときに、その操作時間(すなわち操作開始時点から操作解除時点までの時間)が予め定める第1時間と第2時間との間の範囲内に収まっているか否かを判定する。入力時間判定部41は、操作時間がこの範囲内に収まっていると判定すると指令が入力されたものと判断し、そうでなければ指令が入力されなかったものと判断する。つまり、モード切替スイッチ37が適正に長押し操作された場合に限って、指令が入力されたものと判断するようにしており、第1時間は例えば1秒程度に設定され、第2時間は例えば3秒程度に設定されている。これにより、誤って何かがモード切替スイッチ37に単に触れただけのときや、逆に単に当たり続けているだけのときに、制御モードが不意に切り替わってしまうのを防ぐことができる。電子制御ユニット19は、操作時間が上記第1時間と第2時間との間の範囲内に収まっている場合には、計器パネルの表示態様を変化させる。これによって運転者は操作時間がこの所定範囲内にあることを知ることができ、モード変更を望む場合には、表示態様が変化している間にモード切替スイッチ37の操作を解除して操作時間が第2時間を超えてしまうのを防ぐことができる。
【0040】
異常判定部42は、入力側に接続されているセンサ類31〜36に断線などの異常が生じているか否かを判定する。指令を有効とするのか無効とするのかの決定に際しては、後述するように所定の走行条件が成立しているか否かの判定結果が考慮され、センサ類31〜36に万一異常が生じた場合にはこの走行条件についての判定を正確に行うことが困難となる。このようなことから、異常判定部42によってセンサ類31〜36が正常であると判定された場合にのみ、条件判定部43により指令を有効とするのか無効とするのかを決定させる処理が行われるようにし、そうでなければ入力時間判定部41によって指令が入力されたものと判断された場合であっても、制御モードの切替が禁止される。この異常判定の処理は、自動二輪車の起動指令時となるイグニッションオン時のたびに行われる。異常判定部42によって異常が生じていると判定されると、自動二輪車の終了指令時となるイグニッションオフ時までこの判定を維持し、制御モードの切替を禁止する。例えばイグニッションオン後にセンサ類の異常が解消したとしても、制御モードの切替禁止を継続する。そして、次の機会としてのイグニッションオン時に、センサ類が正常であると判定されると、条件判定部43により指令を有効とするのか無効とするのかを決定させる処理が行われる。
【0041】
条件判定部43は、入力時間判定部41によって指令が入力されたものと判断され、且つ異常判定部42によってセンサ類31〜36が正常であると判定された場合に、入力側に接続されているセンサ類31〜36からの入力に基づいて、所定の走行条件が成立しているか否かを判定する。このとき、所定の走行条件が成立していれば指令が有効であると決定し、そうでなければ指令が無効であると決定する。走行条件とは、モード切替指令時における乗物の走行状態に関係する条件であり、例えば車速、エンジン回転数、ギヤ比、及びクラッチ状態の条件の少なくとも1つを含む。この走行条件の具体的な内容については後述する。
【0042】
モード設定部44は、条件判定部43により指令が有効であると決定されたときには、記憶部40から切り替え後の制御モードに対応する制御マップを読み出す。無効であると決定されたときには、現に読み出されている制御マップをそのまま維持する。
【0043】
また、モード設定部44は、読み出されている制御マップがエコノミーモードに対応するものであるときに、モード表示装置38にその旨を表示させるための信号を出力する。モード表示装置38が例えばランプである場合には、エコノミーモードの設定時に該ランプを点灯させるための信号が出力され、ノーマルモードの設定時に該ランプを消灯させるための信号が出力される。よって、運転者はモード表示装置38を視認することにより、現に設定されている制御モードを知ることができる。そして、モード切替スイッチ37を操作した後に、制御モードを切り替える指令が有効とされたか否かを確認することができる。
【0044】
スロットル制御部45、燃料制御部46及び点火制御部47は、モード設定部44が読み出している制御マップを参照し、入力側に接続されているセンサ類31〜36の入力に基づいてバルブアクチュエータ22の動作量、燃料噴射装置23の動作時間、点火装置24の動作タイミングをそれぞれ求め、求めた動作指令値に従ってバルブアクチュエータ22、燃料噴射装置23及び点火装置24をそれぞれ駆動制御する。
【0045】
ここで、制御マップは制御モードのコンセプトに合わせて設計され、同一の走行状態、即ち同一の入力に基づいても、制御マップが異なれば動作指令値が異なる場合がある。例えば加速要求がなされているという走行状態であるときに、エコノミーモードが設定されていると、燃料消費量を抑えることを重視して設計された制御マップを参照するため、ノーマルモードの設定時と比べて目標燃料量が低く設定されたり、目標燃料量の変化率が低く設定されたりする。よって、かかる走行状態であるときに制御モードが切り替わると、エンジン14(図2参照)の挙動が変動して走行変動が生ずることが考えられる。
【0046】
条件判定部43は、制御モードを切り替えても走行変動が大きくならないような走行状態であれば上記所定の走行条件が成立していると判定し、この走行条件が成立したときに制御モードの切替を許容する構成となっている。このため、制御モードの切替時に走行変動を抑えることができ、運転フィーリングを向上させることができるようになる。
【0047】
図4は図3の条件判定部43により実行される走行条件の成立/非成立の判定処理を示すフローチャートである。図4に示す判定処理は、入力時間判定部41によって指令が入力されたものと判断され、且つ異常判定部42によってセンサ類31〜35が正常であると判定されたときに実行される。なお、以下では適宜図1乃至図3に示す符号も参照するものとしている。
【0048】
図4に示すように、条件判定部43は、車速Vが0であるか否かを判定する(ステップS1)。車速Vが0でないと判定すると(S1:N)、ステップS2に進む。車速Vが0であると判定すると(S1:Y)、走行条件が成立したものとし、指令が有効であると決定する(ステップS10)。
【0049】
条件判定部43は、車速Vが0を超える第1車速V1以上であって該第1車速V1より大である第2車速V2以下となる速度範囲内に収まっているか否かを判定する(ステップS2)。車速Vがこの速度範囲内に収まっていると判定されると(S2:Y)、ステップS3に進む。車速Vがこの速度範囲外にあると判定されると(S2:N)、走行条件が非成立であるとし、指令が無効であると決定する(ステップS20)。
【0050】
条件判定部43は、自動二輪車1の加速度αが正の値である第1所定値α1未満であるか否かを判定する(ステップS3)。加速度αが第1所定値α1未満であると判定されると(S3:Y)、ステップS4に進む。加速度αが第1所定値α1以上であると判定されると(S3:N)、走行条件が非成立であるとし、指令が無効であると決定する(ステップS20)。
【0051】
条件判定部43は、自動二輪車1の加速度αが負の値である第2所定値α2を超えているか否かを判定する(ステップS4)。つまり、ここでは減速度が許容範囲内にあるか否かが判定されることとなる。減速程度が比較的小さく、加速度αが第2所定値α2を超えていると判定されると(S4:Y)、ステップS5に進む。減速程度が比較的大きく、加速度αが第2所定値α2以下であると判定されると(S4:N)、走行条件が非成立であるとし、指令が無効であると決定する(ステップS20)。
【0052】
このように、ステップS3,S4の処理を実行する条件判定部43は、加速度が所定の加速度であるか否かを判定する加速判定部としても機能している。これらステップS3,S4において、加速度αは専用の加速度センサ(図示せず)からの入力に基づいて検知されてもよいし、車速センサ36からの入力によって検知される車速を時間微分することにより求められてもよい。
【0053】
その他、スロットル位置センサ32により検出されるスロットルバルブ21の開度を用いることによっても、加速度αを所定値と比較する判定処理と同等の処理を行うことができる。つまり、スロットルバルブ21の開度が平坦路を一定速度で走行可能となる設定スロットル開度を越えているときには自動二輪車1が加速状態となり得ることに着目し、当該設定スロットル開度とスロットル位置センサ32により検出されるスロットルバルブ21の開度との偏差によって加速度αを求め、この偏差が増加すると加速度が増加する関係にあることを利用して、求めた加速度αを上記各所定値α1,α2と比較してもよい。このとき、設定スロットル開度の値は、エンジン回転数及び変速段に応じて設定変更されてもよい。
【0054】
このように、車速、又はスロットル開度、エンジン回転数及び変速段を用いることにより、専用の加速度センサを設ける必要がなくなり、部品点数を減らして製造コストを低下させることができる。
【0055】
条件判定部43は、動力伝達経路25が遮断されているか否かを判定する(ステップS5)。動力伝達経路25が遮断されている状態とは、エンジン14の出力が駆動輪である後輪3へ伝達されていない状態をいう。例えばクラッチ28が解放状態であることによる動力遮断状態のほか、変速装置15に中立段が設定されている状態も含む。動力伝達経路25が遮断されていると判定されると(S5:Y)、走行条件が成立しているとし、指令が有効であると決定する(ステップS10)。動力伝達経路25が接続されていると判定されると(S5:N)、ステップS6に進む。
【0056】
前述したとおり、クラッチ28が解放状態であるとき、又は変速装置15に中立段が設定されているときに、動力伝達経路25が遮断される。よって、このステップS5において、クラッチ操作スイッチ35によりクラッチレバー8が操作されていると検出されているとき、又はギヤ位置センサ34により中立段が設定されていると検出されているときに、動力伝達経路25が遮断されていると判定することができ、クラッチ操作スイッチ35によりクラッチレバー8が操作されていると検出されておらず、且つギヤ位置センサ34により中立段以外の変速段が設定されていると検出されているときには、動力伝達経路25が接続されていると判定することができる。
【0057】
ステップS6では、変速装置15における変速比rが、設定可能な最大減速比r1以下の所定減速比rX未満であるか否かが判定される。変速比rが所定減速比rX未満であると判定されると(S6:Y)、走行条件が成立しているとし、指令が有効であると決定する(ステップS10)。変速比rが所定減速比rX以下であると判定されると(S6:N)、走行条件が非成立であるとし、指令が無効であると決定する(ステップS20)。
【0058】
このステップS6において、設定可能な最大減速比r1とは最低速段である1速での減速比を意味する。所定減速比rxは例えば2速での減速比などに設定され、この例においては、3速以上の変速段が設定されているときにはステップS10に進み、2速以下の変速段が設定されているときにはステップS20に進むこととなる。よって、このステップS6では、自動二輪車1が複数の前進変速段を設定可能な変速装置15を備えている場合において、現に設定されている変速段が予め定めた変速段に対して低速段側であるのか否かが判定されることになる。よって、条件判定部43は、変速比を求める処理を行わなくても、ギヤ位置センサ34により検出されるギヤ位置に基づいてこの判定処理を行うことができる。
【0059】
以上のように、本実施形態に係る条件判定部43は、自動二輪車1が停止していれば指令を有効と決定する(ステップS1)。停車中であれば、制御モードを切り替えたとしても走行変動が生じることはないため、運転フィーリングに変化を与えることなく制御モードを切り替えることができる。
【0060】
また、条件判定部43は、車速Vが0を超えている場合において、その車速Vが所定の速度範囲内に収まっていなければ指令を無効と決定する(ステップS2)。このステップS2において、速度範囲の下限値となる第1車速V1は、発進域に設定される速度であって、1速の変速段が設定されている等して出力トルクが大きいエンジン回転数での車速に設定されていてもよく、例えば20km/hに設定されていてもよい。速度範囲の上限値となる第2車速V2は、エンジン制御による燃料消費量の抑制があまり見込まれない速度に設定されてもよい。このように速度範囲を規定することにより、車速Vが速度範囲から低速側に外れたときには、加速の必要性が高くなる発進域での制御モードの切替が拒否されることになり、制御モードの切替に起因する走行変動を防ぐことができる。なお、車速Vが速度範囲から高速側に外れたときには、制御モードを切り替えてもそれ自体に有益性がない。このような状況において無駄な切替動作を防ぐことができる。また、発進時においてノーマルモードからエコノミーモードへの切替を無効とすることで、エコノミーモードに比べて高い出力トルクでの発進を実現でき、発進してから自動二輪車として安定走行可能な速度へ達するまでの時間を短くすることができ、利便性を向上することができる。
【0061】
また、条件判定部43は、自動二輪車1の走行状態が定速走行ではない過渡期にあると判定すると、指令を無効と決定する(ステップS3,S4)。この過渡期にあると、同一の入力に基づいても制御モード間で目標燃料量などが相違し、結果として後輪3に付与される推力が相違して実速度や実加減速度に変動が生ずるおそれがある。走行状態がかかる過渡期にあるときに指令が無効となるため、制御モードの切替に起因する走行変動を抑えることができる。
【0062】
また、減速度が大きい場合に指令が無効と決定されるため(ステップS4)、例えばエンジンブレーキが作用しているような走行状態において、制御モードの切替を拒否することになる。このようなエンジンブレーキが作用しているときに、制御モードの切替に起因する走行変動をなくすことができる。
【0063】
このようにステップS3,S4における処理の概念は、過渡期にあるか否かを判定し、そうであれば指令を無効と決定するというものであるが、言い換えると、略一定速で走行しているか否かを判定し、そうであれば指令を無効とはしないという概念の処理をしていることになる。このように定速走行している場合においては、過渡期と比べて、制御モードを切り替えたときの速度変動を抑えることができ、運転フィーリングを損なうことなく制御モードを切り替えることができる。なお、第1所定値α1[m/s2]は、例えば0<α1<5の範囲に設定することができ、第2所定値α2[m/s2]は、例えば−5<α2<0の範囲に設定することができる。定速走行しているか否かの判定処理を行うという概念に立てば、ステップS3,S4における各所定値α1,α2を0に近い値として設定してもよい。
【0064】
また、条件判定部43は、動力伝達経路25が遮断されている場合に指令を有効と決定する(ステップS5)。このように動力伝達経路25で遮断されていれば、制御モードの切替に起因してエンジン14の挙動に変動が生じたとしても、その挙動の変動が後輪3に伝達されにくいため、大きな走行変動が生じにくい。よって、このような場合に制御モードの切替を許可することにより、走行中に運転フィーリングを損なうことなく制御モードを切り替えることができる。
【0065】
また、条件判定部43は、動力伝達経路25が接続されている場合において、設定されている前進変速段が低速段であるときに指令を無効と決定し、中・高速段であるときに指令を有効と決定する(ステップS6)。このように低速段が設定されているときには、エンジン14から後輪に伝達されるトルクが大きく、また、発進時など加速の必要性が高い場合が多い。このような場合において制御モードの切替が拒否されるため、制御モードの切替に起因する走行変動を抑えることができ、走行変動を抑えた状態で発進が行われるようになる。
【0066】
以上のように条件判定部43は、現在の走行状態が複数の走行条件を満たしているか否かに基づいて、指令を有効とするのか無効とするのかを判定しているため、指令が有効と決定されたときには運転フィーリングを損なうことなく制御モードが切り替わる。
【0067】
また、走行中においては、ステップS2〜S4の3つの走行条件を満たした上で、ステップS5,S6の2つの走行条件のうち何れかの走行条件を満たしたときに、指令が有効と決定される。このように様々な走行条件が成立したときに制御モードの切替を許可するようにしたため、制御モードの切替に起因する走行変動を良好に抑えることができる。
【0068】
但し、条件判定部43が実行する判定処理のフローは図4に示すものに限られない。図5は判定処理の変形例を示すフローチャートである。図5に示す変形例では、図4に示すフローチャートと対比して、車速に関する判定処理(ステップS102)が変更されている(図4中S2も参照)。このステップS102では、車速Vが0より大の第1車速V1以上であるか否かが判定される。車速Vが第1車速V1以上であると判定されると(S102:Y)、ステップS3に進む。車速Vが第1車速V1未満であると判定されると(S102:N)、ステップS5に進む。ステップS3では図4に示したものと同様の判定処理が行われ、加速度αが第1所定値α1を超えていると判定されると(S3:Y)、ステップS4に進み、加速度αが第1所定値α1以下であると判定されると(S3:N)、ステップS5に進む。ステップS4では図4に示したものと同様の判定処理が行われ、加速度αが第2所定値α2未満であると判定されると(S4:Y)、ステップS10に進んで指令が有効とされる。加速度が第2所定値α2以上であると判定されると(S4:N)、ステップS5に進む。ステップS5では図4に示したものと同様の判定処理が行われ、動力伝達経路25が遮断されていると判定されると(S5:Y)、ステップS10に進み、動力伝達経路25が遮断されていないと判定されると(S5:N)、ステップS20に進んで指令が無効とされる。
【0069】
このように、この変形例においては、自動二輪車1が略定速走行を行っていること(ステップS3及びステップS4)、及び動力伝達経路25が遮断されていること(ステップS5)のいずれか一つの走行条件が成立していれば、指令が許可されるようになっている。前述したように、動力伝達経路25が遮断されているときには、エンジン14の挙動が変動してもそれが後輪3に伝達されて走行変動を生じさせるおそれが少ないからである。また、ステップS102の判断処理により、車速Vが高速域にあっても指令が無効とされないようになっている。
【0070】
また、図4に示す判定処理の変形例として、図4に示した各ステップS1〜S6の全ての判断処理が行われなくてもよい。例えば、図5では図4に示したステップS6が省略されている。また、図5では車速Vが高速域にあるときには指令を無効とはしない処理(ステップS102)を行うようになっているが、更に発進域においても指令を無効としない場合には、ステップS2,S102を省略することができる。更に、図4及び図5に例示した各ステップによって規定される複数の走行条件のうち少なくともいずれか1つが成立したときに指令が有効であると決定されてもよい。
【0071】
また、制御モードの切替に起因したエンジン出力変化による走行変動は、自動二輪車1のように比較的軽量の鞍乗型乗物において現れやすい。このため、鞍乗型乗物に本実施形態に係るエンジン制御装置50を適用するのは特に有益となる。なお、このような騎乗型乗物としては自動二輪車の他、小型滑走艇やバギー車などがある。
【0072】
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記説明した構成は本発明の範囲内において適宜変更可能である。
【0073】
電子制御ユニット17の出力側に、モード切替指令を無効とする理由を表示するための表示器を接続し、これを計器パネルに配置してもよい。そして、電子制御ユニット17が、走行条件に基づいてモード切替指令を無効とした場合に、その理由に応じて異なる態様の表示を表示器で表示させる制御を実行する構成であってもよい。この場合、運転者はどのような理由でモード切替指令が無効となったかを判断することができ、利便性が向上する。
【0074】
走行条件の成立/非成立の判定処理に関して、減速時にはモード切替の指令を無効としなくてもよい。すなわち、図4及び図5に示した判定処理のフローチャートからステップS4の判定処理が省略されてもよい。
【0075】
上記実施形態では、このステップS4において負の加速度に関する走行条件についての判断処理が行われるが、これにエンジンブレーキによる減速が行われているか否かの判断処理が加えられてもよい。具体的には、エンジン回転数センサ及びブレーキセンサの各検出値から、ブレーキ操作部材が非操作の状態であり、且つスロットルグリップを閉じた状態におけるエンジン回転数よりも高いエンジン回転数である走行状態であるか否かを判断し、当該走行状態であればエンジンブレーキによる減速が行われている状態であると判定することができる。このエンジンブレーキ動作状態であるか否かを判断した上で、さらに乗物の加速度αが第2所定値α2以下である場合に、走行条件が非成立として判断してもよい。これにより、モード切替による走行変動が生じやすいエンジンブレーキ動作状態においてモード切替不可となり、エンジンブレーキ動作状態以外の減速時には、モード切替が可能となり、利便性を向上することができる。
【0076】
また、上記説明では、エコノミーモードのオンオフ切替に関するものであったが、その他にも、例えば出力規制モードのオンオフ切替、CBS(Combination breaking system)モードのオンオフ切替、レースモード(スポーツモードともいう)、高速道路モードのオンオフ切替、過給機作動モードのオンオフ切替、トラクション制御のオンオフ切替のように走行に関する2つ以上の制御モードを切り替える場合において、同様にして所定の走行条件が成立しているときにのみ制御モードの切替を許可するようにすることで、制御モードの切替に起因する走行変動を抑えることができる。このように本発明は、複数の制御モードの切替に関して好適に適用できる。また、本実施例では、2つのエンジン出力特性の異なる制御モードについて説明したが、3つ以上の制御モードについて、走行条件に応じて切替許可を設定するものであっても本発明に含まれる。また、運転者の入力指令に応じた制御モードの切替だけでなく、制御モードを自動的に変更する場合にも同様にして本発明が適用され得るし、制御モードの切替後において、動作指令値を不連続に求める場合だけなく、動作指令値を連続的に変更する場合にも同様にして本発明が適用され得る。
【0077】
また、エンジン14の形態や変速装置15の形態も特に限定されない。本発明に係る乗物用エンジン制御装置は、自動二輪車、騎乗型乗物に限られず、四輪車や不整地走行車などの他の乗物にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上のように、本発明に係る乗物用エンジン制御装置は、運転フィーリングを向上させることができる優れた効果を有し、この効果の意義を発揮できる自動二輪車等の乗物に広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0079】
1 自動二輪車(乗物)
2 前輪
3 後輪
7 スロットルグリップ
8 クラッチレバー
14 エンジン
15 変速装置
17 スロットル装置
19 電子制御ユニット(制御手段)
21 スロットルバルブ
22 バルブアクチュエータ
23 燃料噴射装置
24 点火装置
25 動力伝達経路
28 クラッチ
31 グリップ位置センサ
32 スロットル位置センサ
33 エンジン回転数センサ
34 ギヤ位置センサ
35 クラッチ操作スイッチ
36 車速センサ
37 モード切替スイッチ(切替入力手段)
38 モード表示装置
39 エコランプ
40 記憶部
41 異常判定部
42 指令入力時間判定部
43 条件判定部
44 モード設定部
45 スロットル制御部
46 燃料制御部
47 点火制御部
50 エンジン制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の制御モードを用いてエンジンを制御可能な乗物用エンジン制御装置であって、
第1制御モードと、前記第1制御モードよりも燃料消費量を抑えてエンジンが動作しうる第2制御モードとが選択的に設定され、その設定された制御モードを用いてエンジンを制御する制御手段と、
前記制御手段に設定される制御モードを前記第1制御モードと前記第2制御モードとの間で切替可能な切替入力手段と、を備え、
前記制御手段は、前記切替入力手段に制御モードを切り替える指令が入力されたときに、所定の走行条件が成立する場合には前記指令を有効とし、前記所定の走行条件が成立しない場合には前記指令を無効とすることを特徴とする乗物用エンジン制御装置。
【請求項2】
乗物が所定の加速度であるか否かを判定する加速判定手段を備え、
前記所定の走行条件は、前記加速判定手段により乗物が前記所定の加速度未満の状態であると判定されているとの条件を有している請求項1に記載の乗物用エンジン制御装置。
【請求項3】
前記エンジンが発生する動力の伝達経路が遮断されているか否かを判定する動力伝達判定手段を備え、
前記所定の走行条件は、前記動力伝達判定手段により前記伝達経路が遮断されていると判定されているとの条件を有している請求項1又は2に記載の乗物用エンジン制御装置。
【請求項4】
前記車両の変速装置のギヤ位置を検出するためのギヤ位置センサを備え、
前記所定の走行条件は、前記ギヤ位置センサにより検出されるギヤ位置が最大減速比以下の所定減速比未満となるギヤ位置であるとの条件を有している請求項1乃至3のいずれか1項に記載の乗物用エンジン制御装置。
【請求項5】
車速を検出するための車速センサを備え、
前記所定の走行条件は、前記車速センサで検出される車速が予め定める第1速度以上で予め定める第2速度以下となる所定の速度範囲に収まっているとの条件を有し、前記第1速度が0を超えており、前記第2速度が前記第1速度よりも大きい値である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の乗物用エンジン制御装置。
【請求項6】
前記切替入力手段は、運転者に操作される操作部を有し、
前記制御手段は、前記操作部が操作される操作時間が予め定める第1時間以上で予め定める第2時間以下となる所定の時間範囲に収まった場合のみ、制御モードを切り替える指令が入力されたと判断する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の乗物用エンジン制御装置。
【請求項7】
前記乗物の変速装置のギヤ位置を検出するためのギヤ位置センサと、前記エンジンの回転数を検出するためのエンジン回転数センサと、前記エンジンへの吸気量を調節するスロットルの開度を検出するためのスロットル開度センサとを備え、
前記所定の走行条件は、前記ギヤ位置センサにより検出されるギヤ位置が最大の減速比以下の所定減速比未満となるギヤ位置であり、かつ、前記エンジン回転数センサの検出値が所定の回転数以下であり、かつ、前記スロットル開度センサの検出値が所定の開度以下であるとの条件を有している請求項1乃至6のいずれか1項に記載の乗物用エンジン制御装置。
【請求項8】
所定の走行条件が成立しているか否かを判定するための検出値を出力するセンサと、
前記センサに異常が発生しているか否かを判定する異常判定手段とを備え、
前記制御手段は前記異常判定手段により前記センサに異常が発生していると判断された場合に、制御モードの切り替えを制限する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の乗物用エンジン制御装置。
【請求項9】
複数の制御モードを用いてエンジンを制御可能な乗物用エンジン制御装置であって、
第1制御モードと、前記第1制御モードとは走行に関する制御が異なる第2の制御モードとが選択的に設定され、その設定された制御モードを用いてエンジンを制御する制御手段と、
前記制御手段に設定される制御モードを前記第1制御モードと前記第2制御モードとの間で切替可能な切替入力手段と、を備え、
前記制御手段は、前記切替入力手段に制御モードを切り替える指令が入力されたときに、所定の走行条件が成立する場合には前記指令を有効とし、前記所定の走行条件が成立しない場合には前記指令を無効とすることを特徴とする乗物用エンジン制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−43141(P2011−43141A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193106(P2009−193106)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】