説明

乳剤散布装置

【課題】アスファルト乳剤の散布ムラの発生を抑えて散布量を均等化させ、また必要な乳剤量を正確に散布する。
【解決手段】走行車両の幅方向に並設した複数個の散布ノズル1,…におけるアスファルト乳剤の散布動作を、個々の散布ノズル1について独立に制御するように構成し、個々の散布ノズル1は、周期的に所定時間だけアスファルト乳剤の散布動作を実行するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳剤散布装置に関するものであり、特に、アスファルト乳剤の散布ムラの発生を抑えて散布量を均等化させることが可能な乳剤散布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乳剤散布装置としては、例えば、図3に示すようなものがある。同図において、アスファルトフィニッシャ等の走行車両の下部に、複数個(同図の例では10個)の散布ノズル1,…が、該走行車両の幅方向にほぼ等間隔に並設されている。複数個の散布ノズル1,…には、それぞれ常閉タイプの電磁制御弁2,…が直列に接続されている。複数個の電磁制御弁2,…は、その供給ポート2a,…が共通接続され、その共通接続点3に、アスファルト乳剤が収容された乳剤タンク4からの乳剤配管5が乳剤ポンプ6を介して接続されている。
【0003】
該乳剤ポンプ6には、リリーフ弁7が並列接続されている。リリーフ弁7は、乳剤ポンプ6の吐出側の圧力が予め設定した圧力よりも増大したときに、その吐出側の圧力を乳剤タンク4側にリリーフする。また、アスファルト乳剤の散布開始/停止を制御するためのコントローラ8が配設され、該コントローラ8からの指令信号線9が複数個の電磁制御弁2,…の各ソレノイド2b,…に共通に接続されている。
【0004】
そして、コントローラ8からの散布開始指令が複数個の電磁制御弁2,…の各ソレノイド2b,…に与えられると、該複数個の電磁制御弁2,…の全てが閉位置Xから開位置Yに同時に切り換わる。この結果、図4に示すように、乳剤ポンプ6で加圧されたアスファルト乳剤が、複数個の散布ノズル1,…の全てに分配されるように並列に供給されて、該複数個の散布ノズル1,…の全てから路面に同時に連続散布される。
【0005】
また、乳剤散布装置に関連する従来技術として、例えば次のような乳剤散布装置及び乳剤散布方法が知られている。この従来技術は、それぞれ開閉手段によって開閉される複数の散布ノズルが、走行車両の走行方向と交差する方向に並設されている。そして、前記複数の散布ノズルに乳剤タンクの乳剤を供給する乳剤ポンプと、前記複数の散布ノズルからの乳剤散布量が設定値となるように当該複数の散布ノズル及び前記乳剤ポンプを制御する制御装置とが備えられている。
【0006】
該制御装置は、路面への乳剤散布量が限界散布量よりも多い場合は、全ての散布ノズルを通常散布(連続散布)に設定するとともに乳剤ポンプの回転速度を制御して乳剤送り量を調整する。一方、乳剤散布量が限界散布量以下とされた場合は、全ての散布ノズルを同時に開閉制御して間欠散布を実行させるようにしている。また、間欠散布の場合は、複数の散布ノズルを幾つかの群に分け、各群ごとに時間をずらして開閉させるようにもしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−237817号公報(第2〜4頁、図1、図2)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図3及び図4に示した従来技術においては、コントローラからの散布開始指令を複数個の電磁制御弁の各ソレノイドに同時に与えて、該複数個の電磁制御弁の全てを閉位置から開位置に同時に切り換えている。そして、一つの乳剤ポンプからのアスファルト乳剤を、複数個の散布ノズルの全てに分配するように並列に供給して、該複数個の散布ノズルの全てから路面に同時に連続散布させている。
【0008】
このような複数個の散布ノズル同時の連続散布態様で、アスファルト乳剤を路面に均一に散布するためには、各散布ノズルからの散布量が同量であることが必要である。しかし、複数個の散布ノズル間に個体差があると、散布ノズル毎の散布量にバラつきが生じて散布ムラが発生してしまう。特に複数個の散布ノズルのうちの一部に目詰まり傾向が生じた場合は、散布ノズル毎の散布量にバラつきが生じ易い。
【0009】
また、特許文献1に記載の従来技術においては、全ての散布ノズルを通常散布(連続散布)に設定するか、もしくは全ての散布ノズルを同時に開閉制御して間欠散布を実行させている。また、間欠散布の際は、幾つかに分けた各群ごとに時間をずらして開閉させることも行っているが、この場合も、各群の中に含まれる複数個の散布ノズルを同時に開閉制御させている。このため、上記図3及び図4に示した従来技術と同様に、複数個の散布ノズル間に個体差があると、散布ノズル毎の散布量にバラつきが生じてしまう。
【0010】
そこで、アスファルト乳剤の散布ムラの発生を抑えて散布量を均等化させ、また必要な乳剤量を正確に散布するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、走行車両の幅方向に並設された複数個の散布ノズルを備え、該複数個の散布ノズルにおけるアスファルト乳剤の散布動作を、当該複数個の散布ノズルにおける個々の散布ノズルについて独立に制御するように構成してなる乳剤散布装置を提供する。
【0012】
この構成によれば、個々の散布ノズルについて、その散布動作を独立に制御することで、複数個並設された各散布ノズルから、所定時間ずつ順にアスファルト乳剤の散布動作を行わせることが可能となる。このとき、乳剤ポンプ等から吐出されて複数個の散布ノズルの全てから同時に散布されるべきアスファルト乳剤の全量が、各散布ノズルから所定時間ずつ順に散布されることになる。したがって、複数個の散布ノズルの全てから同時に散布を行う際の散布ノズル毎の個体差に基因する散布ムラの発生が抑えられる。
【0013】
請求項2記載の発明は、上記個々の散布ノズルは、周期的に所定時間だけ上記アスファルト乳剤の散布動作を実行する乳剤散布装置を提供する。
【0014】
この構成によれば、例えば、複数個の散布ノズル数nを10個、一周期Tを2秒と設定すると、個々の散布ノズルは、該2秒を一周期Tとして、所定時間t=[(T/n)=(2/10)]=0.2秒間だけ周期的に散布動作を実行するように制御される。そして、10個の散布ノズルの全てから同時に連続して散布されるべきアスファルト乳剤の全量とほぼ同量のアスファルト乳剤量が、各散布ノズルからの0.2秒間ずつの順の散布動作で、散布されることになる。この結果、一周期Tを上記のように短く設定することで、必要量のアスファルト乳剤の散布に際し、複数個の散布ノズルの全てから同時に散布を行う際の散布ノズル毎の個体差に基因する散布ムラの発生が抑えられる。
【0015】
請求項3記載の発明は、上記個々の散布ノズルにおける上記所定時間内のアスファルト乳剤の散布量は、上記複数個の散布ノズルの全てが一周期間に同時に連続して散布する場合における前記個々の散布ノズルの散布量と同量である乳剤散布装置を提供する。
【0016】
この構成によれば、個々の散布ノズルからの所定時間ずつの順の散布動作で、複数個の散布ノズルの全てから同時に連続して散布されるべきアスファルト乳剤の全量と同量のアスファルト乳剤量が散布される。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明は、走行車両の幅方向に並設された複数個の散布ノズルを備え、該複数個の散布ノズルにおけるアスファルト乳剤の散布動作を、当該複数個の散布ノズルにおける個々の散布ノズルについて独立に制御するように構成したので、複数個の散布ノズルの全てから同時に連続して散布すべきアスファルト乳剤の全量を、個々の散布ノズルから所定時間ずつ順に散布するように制御することで、複数個の散布ノズルの全てから同時に散布を行う際の散布ノズル毎の個体差に基因する散布ムラの発生が抑えられて、アスファルト乳剤散布量を均等化させることができるという利点がある。
【0018】
請求項2記載の発明は、上記個々の散布ノズルは、周期的に所定時間だけ上記アスファルト乳剤の散布動作を実行するようにしたので、一周期を、可能な限り短く設定することで、必要量のアスファルト乳剤の散布に際し、複数個の散布ノズルの全てから同時に散布を行う際の散布ノズル毎の個体差に基因する散布ムラの発生が抑えられて、アスファルト乳剤散布量を一層均等化させることができるという利点がある。
【0019】
請求項3記載の発明は、上記個々の散布ノズルにおける上記所定時間内のアスファルト乳剤の散布量は、上記複数個の散布ノズルの全てが一周期間に同時に連続して散布する場合における前記個々の散布ノズルの散布量と同量としたので、個々の散布ノズルからの所定時間ずつの順の散布動作で、複数個の散布ノズルの全てから同時に連続して散布されるべきアスファルト乳剤の全量と同量のアスファルト乳剤量を正確に散布することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
アスファルト乳剤の散布ムラの発生を抑えて散布量を均等化させ、また必要な乳剤量を正確に散布するという目的を、走行車両の幅方向に並設された複数個の散布ノズルを備え、該複数個の散布ノズルにおけるアスファルト乳剤の散布動作を、当該複数個の散布ノズルにおける個々の散布ノズルについて独立に制御するように構成し、該個々の散布ノズルは、周期的に所定時間だけ前記アスファルト乳剤の散布動作を実行するとともに前記所定時間内のアスファルト乳剤の散布量は、前記複数個の散布ノズルの全てが一周期間に同時に連続して散布する場合における前記個々の散布ノズルの散布量と同量とすることにより実現した。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明の実施例を図面に従って詳述する。図1は、乳剤散布装置の系統図、図2は、アスファルト乳剤の散布タイミングチャートである。なお、図1において前記図3における構成要素と同一ないし均等のものは、前記と同一符号を以って示し、重複した説明を省略する。
【0022】
まず、本実施例に係る乳剤散布装置の構成を説明する。図1に示すように、本実施例では、コントローラ8から複数個の電磁制御弁2,…の各ソレノイド2b,…に対し、各別に指令信号線10,…が接続されている。この接続態様により、前記複数個の電磁制御弁2,…が各別に開閉可能とされることで、複数個の散布ノズル1,…におけるアスファルト乳剤の散布動作が、個々の散布ノズル1について独立に制御可能に構成されている。
【0023】
次に、図2を用いて、上述のように構成された乳剤散布装置の作用を説明する。乳剤散布装置は、散布ノズル1毎の個体差に基因する散布ムラの発生を抑えることを目的として、コントローラ8からの指令により、個々の散布ノズル1について、周期的に所定時間ずつ順にアスファルト乳剤の散布動作を実行している。
【0024】
このとき、単一の乳剤ポンプ6から吐出されて複数個の散布ノズル1,…から同時に散布されるべきアスファルト乳剤量が、個々の散布ノズル1から周期的に所定時間ずつ順に散布されることになる。したがって、1個の散布ノズル1からの単位時間当たりのアスファルト乳剤の吐出量について見ると、個々の散布ノズル1から前記所定時間に散布される場合の単位時間当たりの吐出量は、複数個の散布ノズル1,…の全てが同時に散布する場合における各散布ノズル1からの単位時間当たりの吐出量と比べて複数倍となる。
【0025】
この結果、周期的に散布動作を実行する場合における個々の散布ノズル1の前記所定時間内のアスファルト乳剤の散布量は、複数個の散布ノズル1,…の全てが同時に一周期間に連続して散布する場合における1個の散布ノズル1の散布量と同量となる。
【0026】
これを、数値例を用いて、さらに具体的に説明する。いま、複数個の散布ノズル数nを図1に示すように10個、一周期Tを2秒と設定すると、個々の散布ノズル1は、該2秒を一周期Tとして、所定時間t=[(T/n)=(2/10)]=0.2秒間だけ周期的に散布動作を実行する。
【0027】
このとき、複数個の散布ノズル1,…の全てが同時に散布する場合における各散布ノズル1からの単位時間当たりの吐出量をq(前記図4参照)とすると、周期的に散布動作を実行する個々の散布ノズル1が、所定時間t=0.2秒の間に散布する場合における単位時間当たりの吐出量は、図2に示すように10・qとなる。
【0028】
そして、10個の散布ノズル1,…の全てから同時に連続して散布されるべきアスファルト乳剤の全量とほぼ同量のアスファルト乳剤量が、各散布ノズル1からの0.2秒間ずつの順の散布動作で、散布されることになる。この結果、一周期Tを上記のように短く設定することで、必要量のアスファルト乳剤の散布に際し、複数個の散布ノズル1,…の全てから同時に散布を行う際の散布ノズル1毎の個体差に基因する散布ムラの発生が抑えられる。
【0029】
上述したように、本実施例に係る乳剤散布装置においては、単一の乳剤ポンプ6から吐出されて複数個の散布ノズル1,…の全てから同時に散布すべきアスファルト乳剤量を、個々の散布ノズル1から周期的に所定時間tずつ順に散布することで、散布ノズル1毎の個体差に基因する散布ムラの発生を抑えることができる。
【0030】
また、周期的に散布動作を実行する場合における個々の散布ノズル1の所定時間t内のアスファルト乳剤の散布量が、複数個の散布ノズル1,…の全てが同時に一周期間Tに連続して散布する場合における1個の散布ノズル1の散布量と同量となることで、個々の散布ノズル1からの所定時間tずつの順の散布動作で、複数個の散布ノズル1,…の全てから同時に散布されるべきアスファルト乳剤の全量と同量のアスファルト乳剤量を正確に散布することができる。
【0031】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例に係る乳剤散布装置の系統図。
【図2】上記実施例におけるアスファルト乳剤の散布タイミングチャート。
【図3】従来の乳剤散布装置の系統図。
【図4】上記従来例におけるアスファルト乳剤の散布タイミングチャート。
【符号の説明】
【0033】
1 散布ノズル
2 電磁制御弁
8 コントローラ
10 各別の指令信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車両の幅方向に並設された複数個の散布ノズルを備え、該複数個の散布ノズルにおけるアスファルト乳剤の散布動作を、当該複数個の散布ノズルにおける個々の散布ノズルについて独立に制御するように構成してなることを特徴とする乳剤散布装置。
【請求項2】
上記個々の散布ノズルは、周期的に所定時間だけ上記アスファルト乳剤の散布動作を実行することを特徴とする請求項1記載の乳剤散布装置。
【請求項3】
上記個々の散布ノズルにおける上記所定時間内のアスファルト乳剤の散布量は、上記複数個の散布ノズルの全てが一周期間に同時に連続して散布する場合における前記個々の散布ノズルの散布量と同量であることを特徴とする請求項2記載の乳剤散布装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−291606(P2006−291606A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114919(P2005−114919)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(501132804)住友建機製造株式会社 (271)
【Fターム(参考)】