説明

乳癌及び関連疾患に対する薬剤

本発明は、アンドロゲン受容体(AR)に特異的に結合するが、アロマターゼにより代謝されないステロイド化合物の新しい使用、これらの化合物の調製、これらを含む医薬組成物、及び該化合物の哺乳動物におけるホルモン依存性又はホルモン受容体が調節する癌の予防及び/又は治療への使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4エン−3−オン(以後、4−ヒドロキシテストステロンと称する)及びこの塩類及びエステル類の新しい使用、これらの調製方法、これらを含む医薬組成物、及び哺乳動物におけるある種の疾患、特に癌、の予防及び治療に対する該化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌は殆ど女性のみに関係するが、結腸直腸癌に次いで、乳癌は西欧諸国において最も頻度の高い癌疾患である。ドイツにおいて、乳癌は、女性において診断された全ての癌種の中、統計上約20%になる。大部分の症例の治療は、腫瘍の外科的な除去(乳腺腫癌摘出)、又は、もし腫瘍のサイズが乳房保存療法を妨げるならば、冒された乳房の完全除去からなる。両者の場合共に、手術後、薬剤療法が続く。乳癌の特に厄介な問題は、他の臓器、特に、肝臓、脳、骨、及び皮膚へ広がる転移能が大きいことである。従って、手術は薬剤療法(アジュバント療法)を伴う。この治療法は、またこの疾患の局所的再発を防ぐことを目的とする。
【0003】
もし除去した腫瘍が、エストロゲン受容体を発現するならば、抗エストロゲンが用いられる(タモキシフェン(Tamoxifen)又はアロマターゼ阻害剤)エストロゲン受容体が欠失している場合は、細胞増殖抑制試薬を用いた術後化学療法ということになる。
タモキシフェン(Tamoxifen)はエストロゲン受容体(ER)に結合し、エストロゲンの増殖促進効果を阻害する。アロマターゼ阻害剤は、アンドロゲン前駆体(C19−ステロイド)からエストロゲン産生の最終段階を阻害する。これらは、酵素の活性部位に不可逆的に結合する{アロマターゼ−不活性化剤、即ち、ステロイド性アロマターゼ阻害剤:4−ヒドロキシアンドロステンジオン(Formestane=Lentaron(R))又はエクゼメスタン(Exemestan(Aromasin(R)))、又は酵素のチトクロムp450部分{非ステロイド性アロマターゼ阻害剤:アナストロゾール(Anastrozol(Arimidex(R))及びレトロゾール(Letrozol(Femara(R)))を競合的に阻害する。
もし乳癌がHer2neu遺伝子を過剰発現するならば、この細胞表面タンパク質に対する抗体を、例えばトラスツヅマブ(Trastuzumab (Herceptin(R))を、静脈内に投与する。
【0004】
基礎的及び臨床的データによると、アンドロゲンの芳香族化した代謝物、即ち、エストロゲンは、乳癌、子宮内及び卵巣癌のような、いくつかのホルモン依存性癌の増殖と関係する病原性細胞変化に関与するホルモンであることが分かる。アロマターゼ(芳香族化酵素)は、腫瘍内で直接エストラジオールを合成することができる酵素として最近認知されている。
【0005】
内因性エストロゲンは直接の前駆体としてアンドロステンジオン又はテストステロンから最終的に作られる。乳房組織、特に腫瘍細胞自体、における局所的エストロゲンの産生は、この疾患の治療に対して特別の重要性を持つと考えられてきた。この文脈において、酵素アロマターゼによって行われるステロイド環Aの芳香族化、及びこの阻害は、抗乳癌法において主要な役割を果たすと考えられてきた。
【0006】
本発明以前に、エストロゲン受容体拮抗薬又は治療上の抗体に基づく他の構想以外には、女性の乳癌に対処する従来型の治療方法は、従って、アロマターゼ阻害作用自体に焦点が当てられた。従って、アロマターゼ阻害作用を有すると報告されたステロイド性物質が記載され、例えば、Δ1−テストロラクトン[米国特許2,744,120]、4−ヒドロキシアンドロスト−4−エン−3,17−ジオン及びこのエステル類[例えば、米国特許4,235,893を参照]、10−(1,2−プロパジエニル)−エストロ−4−エン−3,17−ジオン(米国特許4,289,762, 10−(2−プロピニル)−エストロ−4−エン−3,17−ジオン[J. Amer. Chem. Soc., 103, 3221 (1981)及び米国特許4,322,416]、19−チオアンドロステン誘導体(Europ. Pat. Appl. 100566)、アンドロスタ−4,6−ジエン−3,17−ジオン、アンドロスタ−1,4,6−トリエン−3,17−ジオン[G.B. Pat Appl. 2,100,601A]及びアンドロスタ−1,4−ジエン−3,17−ジオン[Cancer Res. (Suppl.) 42, 3327(1982)]である。
【0007】
しかし、エストロゲン受容体(ER)拮抗薬及びアロマターゼ阻害剤を用いて行われた臨床研究によると、これらの化合物は腫瘍増殖及び/又は生育に対して、有意で、十分な阻害効果を持たないことが分かった。例えば、タモキシフェン(Tamoxifen(R))ベースの治療は、タキフィラキシーのような障害を被った(治療失敗)、またいくつかの細胞でエストロゲン類似の効果があるという事実(例えば、血栓症及び子宮内膜癌の危険性)を理由として、タモキシフェン(Tamoxifen(R))は3年から5年以上の長期間投与ができない。アロマターゼ阻害剤のような新薬は、原理的に、更年期の女性のみに用いることができて、さらにまた、ER−ポジティブの腫瘍のみに効果がある。エストロゲン受容体ネガティブ腫瘍の予後はより悪く、また手術後細胞増殖阻害剤のみの処置をすることができて、またいくつかの症例では、Her2neu抗原に対する抗体を静脈に処置することができる。タモキシフェン(Tamoxifen)又はラロキシフェン(raloxifen)の様な選択的エストロゲン受容体修飾因子(SERMs)又はアロマターゼ阻害剤を用いた"ホルモン"治療は、効果がない事が証明された。"ホルモン"治療は、一生続き、通常良好な忍容性がある。今のところ、ER−ネガティブな乳癌に対する"ホルモン"治療は存在しない。
【0008】
ARを発現する安定した遺伝子導入細胞は、アンドロゲンに対する応答能を獲得し、細胞増殖の終了を引き起こすことが報告された(J. Szelei他、"Androgen-Induced Inhibition of Proliferation in Human Breast Cancer MCF7 Cells Transfected with Androgen Receptor", Endocrinol., 138, No. 4, 1406-1412, 1997)。より最近の報告(J. Ortmann他、"Testosterone and 5α-dihydrotestosterone inhibit in vitro growth of human breast cancer cell lines", Gynecol. Endocrinol. 2002; 16: 113-120)によると、テストステロン及び5α−ジヒドロテストステロン(DHT)は、ある種の細胞株で細胞増殖を阻害する。テストステロン自体は、同様な効果を有する。しかし、この臨床的な有効性は、この化合物は急速に代謝されエストラジオール又はジヒドロテストステロン(DHT)になるという事実により妨げられる。乳癌組織内での、局所的アロマターゼ活性によるテストステロンからエストラジオールの局所的生成は、癌増殖を促進する。
【0009】
他方、AR自体は、分化、ホメオスタシス及び男性の二次性徴の発現に関わる過程の修飾因子として知られている。従って、ARを対象とする治療計画は、性腺機能低下症、男性不妊症、前立腺癌、思春期の遅れ、多毛症、アンドロゲン欠乏疾患、老人男性におけるアンドロゲン置換、及び男性型脱毛症などの、男性におけるアンドロゲン関連疾患に向けられてきた。この文脈において、米国特許2,762,818Aの開示は、これらの化合物のアンドロゲン的及び同化作用的特性に基づくアンドロゲン欠乏状態自体を治療するための4−ヒドロキシテストステロン及びこのエステル類の使用以上のものではない。しかし、乳癌細胞に対する活性、又は、そこから本発明の疾患状態に対する有効性を演繹できるような効果を示唆する目的も発見も存在しなかった。さらに、米国公開特許2003/0229063Aは、男性における低アンドロゲン/エストロゲン比(内分泌障害に至る)を取り扱い、またこの目的のために限って、主張されているアロマターゼ阻害効果のみに基づき、4−ヒドロキシテストステロンの使用を試みる。
【0010】
本明細書に参考文献として全体を取り込んだWO2005/062760において、前立腺癌及び乳癌におけるアンドロゲン受容体(AR)の可能な役割が考察されており、またARの存在を検定する事による乳癌診断法が提示されている。しかし、WO2005/062760は、AR活性の阻害による乳腺発生の文脈でAR自体の調節に限っており、治療概念という点でアンドロゲン経由の活性の調節ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ある種の適応疾患に対しては、今や本発明は、AR−ポジティブ細胞及び組織においてテストステロン様の効果(特に同化作用において)を示し、アロマターゼにより代謝されない、アンドロゲン受容体(AR)特異的化合物を伴う、成功した他の治療的アプローチを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、アンドロゲン受容体(AR)に対して特異的親和性を有するステロイド化合物と標的細胞のある受容体状態の間の相関性が満たされるならば、驚くべき効果が、特に考案した治療処理に対して達成される事を発見した。対応する疾患状態に対する有用な予防も同様に提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
従って、ある実施態様において、本発明は、乳癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、上皮性卵巣癌、子宮癌、乳房の良性の増殖性変化又は変質、繊維腺腫、小乳房症、乳腺症、子宮筋腫、これら疾患由来の二次的又は転移性腫瘍、及び縮小する乳房組織からなる群から選択される状態にある患者であって、AR(アンドロゲン受容体)ポジティブな標的細胞又は標的組織を有する患者を治療又は予防するための、アンドロゲン受容体(AR)に特異的に結合、好ましくARに対して特異的に結合するが、アロマターゼ又は5−α−リダクターゼにより代謝されないステロイド化合物の使用を含む。
この実施態様において、患者は、エストロゲン受容体(ER)ポジティブ又はエストロゲン受容体(ER)ネガティブ標的細胞又は標的組織を持つことができる。
【0014】
本発明の他の実施態様に従うと、アンドロゲン受容体(AR)に対して特異的に結合し、また好ましく高い親和性を有する、該同一化合物は、同一疾病状態の治療又は予防に使用されるが、この場合、患者がERネガティブ標的細胞又は標的組織を有する。
本発明の構想を組み合わせてより良い治療見込みを提供することができる、即ち患者がARポジティブ及びERネガティブ標的細胞又は標的組織を持つ場合においてである。
もし他の情報又はデータにより知られてないならば、AR及び/又はERに関する標的細胞又は標的組織の受容体状態を測定する事ができて、またもし望むなら、AR−及び/又はER−特異的抗体を用いる免疫アッセイ法、DNA及び/又はRNAハイブリダイゼーションアッセイ法、又はAR−及び/又はER特異的核酸プローブを伴うPCR増幅テストを含む、当業者に既知の標準的方法で定量することができる。
【0015】
本発明の化合物は、指示された疾病状態に対して治療上及び/又は予防上有効な量を用いるべきである。本発明の"使用"は、前述の適応疾患に対する、特定の化合物、又は適切な担体及び/又は稀釈剤と共に活性成分として上記化合物の入った医薬組成物の治療又は予防法を含む事ができて、また該医薬組成物の調製における使用を含む。
【0016】
本発明の開示した構想に基づき、本発明の化合物自体の、即ち、前もって受容体状態を知ることと離れて、使用を含む好ましい治療又は予防計画を提供する。この理由は、乳癌又は関連疾患のいくつかの従来技術治療計画が、一般的にERポジティブ標的細胞の存在を前提とするからである。これは、大部分の乳癌細胞に対して仮定することができるが、一般的に、有効な治療に感受性が無いERネガティブ細胞が存在する危険性がある。さらに、特にERネガティブ癌細胞が治療期間の間上手く治療されなかった場合に、原発癌由来の転移形成の一般的な危険性がある。本発明の化合物は、ERネガティブな癌細胞及び組織に対して活性が実証されたので、新しい治療様式が開かれ、またこれらは非常に安全に使用できる。
【0017】
従って、本発明のある実施態様において、本明細書に開示した化合物は、受容体状態とは独立して医療上の使用に対して提供され、特に:
(i)局所的投与形態における適用、特に治療すべき又は予防的に関心のある、疾患に罹った身体の部位での適用。この適用法により、性刺激ホルモン分泌(性刺激ホルモンは、腫瘍においてもまた、局所的エストロゲン産生を促進することにより、癌増殖を促進するかも知れない)減少を介した効果とは逆に、標的細胞及び組織のARを介した直接作用が役立つ。
(ii)閉経後女性(彼女らは特にホルモン依存性疾患に罹りやすく、従って乳癌の再発;又は骨粗鬆症の予防又は治療のために)の治療又は予防。ここで再び、本発明の化合物は、局所的に期待した効果を示すことができる。
(iii)単独で又は組み合わせた、治療的又は予防的適応疾患のための使用:
−乳房粘液腺癌、乳房髄様癌及び乳房小様癌(特に、対側乳癌において、及び/又は上記の局所的投与との組合せにおいて);
−アジュバント及び特にネオアジュバント乳癌治療;
−乳癌組織の縮小;
−乳癌の再発又は鎮静に対する予防;
−乳癌由来の皮膚転移(特に上記の局所的投与との組合せにおいて)。
これらの特定の適応疾患の治療又は予防は、本明細書において開示した化合物の特別な活性モードから恩恵を得る。
【0018】
本発明に従い使用される化合物の詳細を以下により詳しく記載する。
ステロイド化合物はアロマターゼ又は5−アルファ−リダクターゼにより代謝されないことが要求される。この要求を満たす可能な化合物は、それぞれの酵素に対して、ARに結合特異的に結合する非芳香族化可能ステロイド化合物、及び非ステロイド性化合物である。如何なる理論に束縛されなくとも、もし化合物がアロマターゼにより芳香族化されるならば、本発明の構想に不利な様々な状況の結果と考えられよう。第1にその様な基質の存在により引き起こされる細胞機構により、アロマターゼ酵素の発現が亢進し、従って重要な標的組織部位において、アロマターゼレベルが増加する。第2に、癌におけるステロイド受容体に結合した化合物の芳香族化により、化合物は、エストロゲン様の、増殖促進活性を示すようになり得る。第3に、結果として、化合物のARを経由する期待した活性が減少し得る。
【0019】
さらに、該化合物は、ARに特異的に結合することが要求される。本発明のこの化合物は、好ましくはアンドロゲン受容体に高い結合親和性を有する、即ち、ARに対してIC50<500nM、好ましくはIC50<100nM、またさらに好ましくはIC50<50nMの範囲であり、ここで、IC50は、参照化合物5α−ジヒドロテストステロン(DHT)の特異的結合を50%減少させるに要する化合物の濃度として定義される。このIC50値は、放射能で標識したDHTを参照化合物として用いる既知の方法で測定できて、例えば、参照濃度1nMの放射能標識した[H]−DHTを用いたRaynaud 他 J. Steroid Biochem. 6, 615-622 (1975)による標準的デクストランで被覆した木炭吸着法、又は参考文献にある同様なIC50測定法により測定できる。標的細胞におけるAR濃度は低く、一般的には約ナノモル程度なので、結合定数の、本発明において検討したオーダーの差は有意である。
【0020】
従って、両者の要求において、この化合物は、通例のC−19ステロイド構造、より好ましくはアンドロスト−4−エン−17−オール−3−オン構造を共有し、ここで該化合物の構造は、さらに1−エン二重結合及び/又は17−オール(ヒドロキシル)基へ結合した置換体により定義することができる。
【0021】
本発明の特別な実施態様において、この化合物は、次の化学式
【化1】

(式中、a,b及びcは、それぞれ互いに独立して、単結合又は二重結合を表し、
は、水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、
は、水素原子又はOR(式中、Rは水素原子又はC〜C直鎖又は分枝アルキル基を表す。)を表し、
は、cが単結合の場合、水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、cが二重結合の場合は、CHR(式中、Rは上記と同様に定義される。)を表し、
は、水素原子、C〜Cアルキル基、非置換又はC〜Cアルキル基で置換されたフェニル基、CORアシル基(式中、Rは、水素原子、C〜C直鎖又は分枝のアルキル基、それぞれ非置換又はC〜Cアルキル基で置換されたフェニル基又はベンゾイルを表す。)、又は生物的代謝又は化学的脱保護により水酸基になるいかなる置換基を表す。)で表される化合物若しくはその医薬的に許容される塩から選択される。
【0022】
確かに芳香族化はしないが、ARに対して強い親和性を約束するという好ましい整合性の観点において、好ましく選択される化合物は、bが二重結合であり、Rが水素原子又は水酸基及び/又はRがメチレン基であり、またRが水素原子、C〜Cアルキル基又はC〜Cアシル基である。特に好ましい化合物は、4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン(4−ヒドロキシテストステロン)(ここで、aは単結合であり、bは二重結合、RはOHであり、またRは水素原子である)、及び17β−ヒドロキシ−6−メチレンアンドロスト−1,4−ジエン(ここで、a及びbは、二重結合であり、R及びRは、それぞれ、水素原子である)、及び対応するエステル類(定義したように、RがCORアシル基を表すように)及び塩類である。
【0023】
また、本発明の化合物は、上記のように定義された化合物に代謝される化合物を含む。例えば、アンドロスト−3,17−ジオン構造(4−エン−又は1,4−ジエン−結合を持ち、任意に6−メチレン基を持つ)が、体内で代謝されて、対応するアンドロスト−17−オール−3−オン構造になる前駆体化合物として含まれる。
さらに、標的細胞に対して、単にアンドロゲン性の効果より主に同化作用活性を有する化合物が好ましく使用される。更に好ましい化合物は、また標的細胞上にアポトーシス誘導効果を示す。
このような特徴は、さらに乳癌又は関連した疾患に対する予防的及び/又は治療的効果に対して寄与することができると考えられた。
【0024】
EP0307135Aは、上記の化学式に分類されるいくつかの化合物を部分的に開示するかも知れないが、この治療構想はアロマターゼ阻害活性のみを扱う、又は、もし可能なアンドロゲン性の活性に関係するとしても、性腺刺激ホルモン分泌(即ち、生殖腺、卵巣、LH-関連効果及びその他を介する作用を必要とする、全身効果)の減少を介して、エストロゲン生合成の阻害効果に関係する。しかし本発明の構想は異なっており、従って、化合物は、明白に異なった規準により選択されるが、その規準は、単独に、又は組み合わせて、標的細胞又は標的組織の受容体状態;投与方法;患者群;及び上記疾患又は予防的状態に対して向けられた検討により関心のある部位に直接働く効果の観点による。
【0025】
本発明の化合物は、アンドロゲン受容体(AR)結合親和性を示す。乳癌細胞を除いた大部分の細胞において、ARを提示する限り、これらの細胞は同化作用効果を誘導することができる。乳癌細胞において、これらの細胞はアポトーシスを引き起こす。これらの化合物は、アロマターゼの基質ではなく、また代謝産物でもなく、従って、アロマターゼにより代謝される化合物の負の効果を共有しない。さらに、本発明の化合物は、5α−リダクターゼの基質ではない。これらの化合物は、例えば、テストステロンの様に容易に代謝されることができないので、これらの化合物の腫瘍細胞への阻害効果は、非常に容易となり、さらに、腫瘍細胞自体にアポトーシスをもたらす効果を示す。従って、これらの化合物は、両方の型の乳癌を治療するために現在使われる一連の化合物より、乳癌細胞の治療において、恐らくより有効である。この予防又は治療概念の他の有益な効果は、エストロゲン受容体ネガティブ(ER−ネガティブ)腫瘍においてさえ、これ等の細胞がARポジティブである可能性が高く、従って、現在は増殖阻害試薬のみで治療している腫瘍は、4−ヒドロキシテストステロンにより薬理学的に取り扱うことが可能であり、これにより、乳癌のホルモン療法の範囲が顕著に増加する。
【0026】
本発明の化合物は、AR特異的化合物であり、またアロマターゼにより代謝されないので、これらの化合物は、ARを介した特異的に規定された治療上又は予防上の使用と結びついた、これらの作用及び効果を十分に働くことができる。このことにより、本発明で選択した化合物は、従来技術とはっきり区別される。
本発明の化合物を用いて行った実験において、これらの化合物は優れた皮膚透過性を有するので、治療の必要のある患者の患部に、治療上又は予防上有効量の本発明の化合物を含む、例えば、軟膏、外用水薬、又はクリーム等の、単純な局所的投与により十分な腫瘍阻害を達成できることを示すことができるだろう。局所的投与の後、化合物(複数)は皮膚を透過して、脂肪組織に集積する。
【0027】
乳癌の場合、好ましくは脂肪親和性の強い活性化合物が、経皮的に吸収され、したがって意図した作用部位に局所的に運ばれるように、薬剤は皮膚に局所的に適用することができる。活性化合物は、乳管周囲の脂肪組織に集積する。長期の治療において、処置した乳房の脂肪体は著しく減少する。この縮小により、エストロゲン形成能を有するエストロゲン形成細胞の量が減少する。活性化合物の脂質親和性及び疎水性により、活性化合物が専ら脂肪組織に局所的に集積して、従って結果的に、如何なる全身的な顕著な作用も示すことができない。
【0028】
本発明の好ましい実施態様によると、意図した作用部位上に直接、又は近傍に局所的に薬剤を適用することを意図する。本発明によると、得られた結果は、活性化合物が顕著に循環血流に吸収されることなく、危険な組織(予防において)又は疾病組織(治療において)において、活性化合物の十分な局所的濃度を示す。この実施態様の利点は、局所的投与それ自体に依存するだけではなく、活性化合物が危険な組織、及び/又は疾患組織に直接的な蓄積であり、循環血流経由の間接的蓄積ではない様な、局所的適用に依存する。
【0029】
原発標的疾患、特に乳癌その他が、上記のように治療されるので、局所的治療上の又は予防上の適用は、大部分女性患者に対して行われ、また特に女性患者の乳房皮膚に行われる、がしかし男性乳癌に対してもまた同じ治療成分が適用される。
【0030】
もし転移癌も治療を施され、及び/又は転移癌への予防が行われうるならば、本発明の薬剤を、付加的に循環血流に顕著な吸収が行われ、従って活性化合物を転移部位にも輸送する血清レベルが形成されるような量を、意図した作用部位に局所的に適用できる。この使用においてまた、とりわけ転移癌が存在する、意図した作用部位上、又は近傍内の局所的吸収がまた、最初に行われる。
本発明の重要な利点は、乳癌予防のためにまた薬剤を使用する可能性である。特に有利な使用の可能性は、いわゆる二次的予防である。乳癌と診断され治療を受ける女性又は男性において、同一部位に再発するある危険性が存在し、また対側乳房に更なる癌発生の高い危険性がある。両者の場合、二次癌がERを有することは予想できない。そこで、手術を受けた、及び対側乳房を、本発明の薬剤で予防的に処理する。
これはまた、ERネガティブな癌の発生を防ぐであろう(特に、乳癌に対する家系的素因を有する患者に一般的である)。
【0031】
いわゆる高危険度の女性の場合、一次予防を行うことができる。このような高危険度群のために使用できる選択基準は、例えば、母側の1親等の少なくとも1女性又は男性親族が45歳以前に一方又は両側が乳癌である、又は乳癌にかかったことがある、又は母側において、1親等の少なくとも1女性又は男性親族及び更なる男性又は女性親族が乳癌である又は乳癌にかかったことがある、という事実である。これらの症例の大部分において、疾患の基となる原因は、2個の"乳癌遺伝子"として既知のBRCA1及びBRCA2の中の1個の遺伝的な欠失である。
【0032】
本発明の好ましい態様に従う局所的な適用は、化合物の疎水性及び高い安全性プロフィールにより、活性化合物の副作用を、実際的に完全に避けるので、一次的予防の指示は、比較的低い又は並の危険度を持つ組織がある場合、直ぐに比較的に気前よく行うことができる。予防は、乳癌の兆候又は症状が発生するずっと以前に始めることができる。
好ましい局所的投与において、本発明の化合物又は組成物は、好ましくは比較的長期にわたって適用され(必要なら一生の間)、また投与は、例えば、1日に1又は2回行われる。局所的な(局部的)適用を意図している本発明の活性化合物は、好ましくは脂溶性の形で提供されるので、これらは容易に脂肪組織に透過することができて、またこれらの予防的及び/又は治療効果を局所的に発揮する。
【0033】
本発明に従い局所的に投与された活性化合物は、乳房の脂肪組織に局在するままであり、また意図した作用を脂質溶解性によって示すので、全身的適用により引き起こされる如何なる副作用も除去される。この副作用を減らす又は除去できるということは、非常に広い予防上の使用を許容する。本発明の薬剤を、患者自身により適用することができる、またこの目的のために、医者を頻繁に訪問することは不要である。
【0034】
さらに一般的に乳癌治療することに対して、及び局所的投与;対側乳癌;アジュバント的及び特に非アジュバント的な乳癌治療、乳癌組織の縮小;乳癌の再発又は鎮静に対する予防;乳癌由来の皮膚転移;等々により、乳癌をより有利に治療することに対して、発明の化合物が示す特別な適切性に、上記記載の利点が寄与する。
【0035】
特に局所的投与において、本発明に従って処方された薬剤は、また好ましくはホルメスタンを含む。
例えば、アセチル化ホルメスタン(例えば、4−O-アセチルアンドロスト−4−エン−3,17−ジオン)のような、ホルメスタン誘導体は、同様に好ましく使用できる。ホルメスタンのアセチル化により、その疎水性、従って皮膚透過性が顕著に増加する。アセチル基は、皮膚透過後の皮下領域に広がるという条件下で、加水分解されるので、実際の活性化合物ホルメスタンが、再びin situ(本来の位置)で作られる。このようなアセチル化ホルメスタンを使用する場合、皮膚をより良く透過する実際の活性化合物の前駆体が、この様にして適用され、また実際の活性化合物が皮下の本来の位置でこの前駆体から形成されるということが認められた。
【0036】
一般的に局所的投与のために、本発明の活性化合物は、脂溶性であり、また局所的適用に非常に適している。既に記載したように、乳房の脂肪組織への蓄積により、全身的副作用が避けられる。この皮膚透過性を改良するために、透過性を促進する従来技術で既知の化合物、例えば、ヒアルロニダーゼ、ジメチルソルビトール又はDMSO(ジメチルスルホキシド)を、本発明の薬剤に添加することができる。
特に、局所的投与は主に、一次予防;乳房保存治療の後に、'原位置での腺管癌'(DCIS、通常は如何なるアジュバント治療も追随しない)に対する手術の後に様々なアジュバント薬剤治療と共に二次予防に対して;及び対側乳癌の予防に対して指示される。
【0037】
一次的予防は、癌に罹る危険性を有する健康な個人の予防的処理に関する。本発明の化合物及び医薬的組成物は、アロマターゼの基質でなく、またエストロゲンに代謝されることができなくて、また男性化しないので、閉経前女性の乳癌の一次予防にもまた使うことができる。二次予防において、この化合物及び組成物は、単独でも用いることができる、又は例えば、タモキシフェン(Tamoxifen)、アロマターゼ阻害剤、ヘルセプチン及び/又は細胞増殖阻害剤と組み合わせて用いることができて、このような組合せのいずれも、治療できる細胞の種類のスペクトルを拡大するであろう。
【0038】
従って本発明はまた、同時の又は遂時の薬剤使用に対する、相伴う、又は分離した投与形態において、本発明の化合物、及びエストロゲン受容体拮抗薬、本発明において開示した化合物とは異なるアロマターゼ阻害剤、細胞増殖阻害剤、及びHer2neuに対する抗体からなる群から選択した化合物を含む、組合せ薬剤を有利に提供する。
【0039】
本発明の"組合せ薬剤"の概念は、一方において本発明の化合物、及び他方において、上記の他の化合物が、共通の処方又は投与形態、又は分離した処方又は投与形態として構成されることを含む。従って、本発明の医薬的薬剤又は調製は、別々に、同時に、又は遂時に使用される共通の目的を共有する、単一組成物、又はその代わりに"部品のキット"産物として一つの処方に具体化できる。
【0040】
本発明は、4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン(以後、4−ヒドロキシテストステロンと記す)及び、既に定義したような共通の構造的及び機能的特徴という観点でこれに類似した化合物は、医薬的に活性化合物として成功裏に使用できるという知見に基づく。特に、適切な担体、及び/又は稀釈剤、及び活性成分として4−ヒドロキシテストステロンを含む医薬的組成物は、乳癌(特に、乳房粘液腺管癌、乳房髄様癌及び乳房小葉癌)、子宮内膜癌、子宮頸癌、上皮性卵巣癌、子宮(卵管)癌、乳房の良性の増殖性変化又は変質、繊維腺腫、小乳房症(更年期周辺)、乳腺症、子宮筋腫、及びこれら疾患由来の二次的又は転移性腫瘍の予防及び/又は治療に用いることができるということを示すことができるに違いない。
【0041】
従って、本発明は、哺乳動物における上記のホルモン依存性又はホルモン受容体調節性癌の(臨床的)予防及び/又は治療に対する医薬組成物の調整における4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン(4―ヒドロキシテストステロン)及び既に定義された類似の化合物の使用を同様に提供する。
一般的に、本発明の化合物及び医薬的製剤は、局所的に、経口的に、直腸経由で、非経口的に(例えば、筋肉内又は静脈内注射、又は輸液)及び/又は持続性製剤として投与できる。
【0042】
本発明の特に好ましい化合物、4−ヒドロキシテストステロン、は例えば米国特許2,762,818Aに開示されており、また市販品が入手可能である(例えば、Bulk Nutrition, Graham, NC. USA;更なる情報はbulknutrition.comを参照;WINKOS GmbH D-79189 Bad Krozingen, DE)。好ましい4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オンの誘導体、特に塩類及びエステル類は、直鎖;分枝鎖;又は環状又は;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、及びベンゾイル基のような芳香族アシル基のような適切なエステル基を含むが、これらに限られない。4及び/又は17ヒドロキシ基、好ましくは17ヒドロキシ基を有する、これらのエステル類を作ることができる。これらの塩類及びエステル類は、既知の方法で調整できる(例えば、米国特許2,762,818Aを参照)。
本発明の化合物及び医薬的製剤は、同化ステロイドであり、またARポジティブな細胞及び組織が表わすアンドロゲン受容体に結合してテストステロン様の効果を発揮する。
【0043】
これら治療インデックスが高いことを見ると、本発明の化合物は、医薬において安全に用いることができる。例えば、投与量を増やしながら単一投与により、処理後7日目に測定した、本発明の化合物のマウスに対するおおよその急性毒性(LD50)は無視できる。
【0044】
本発明の化合物及び医薬的製剤又は組成物は、様々な投薬形態、;例えば、軟膏、クリーム、外用水薬、ゲル、スプレー、又はデポ製剤(小丸薬を含む)を含む経皮的膏薬として局所的に;錠剤、カプセル、砂糖又はフィルムを塗布した錠剤、溶液、又は懸濁液として経口的に:座薬として直腸経由で;例えば、筋肉内又は静脈内注射又は輸液のように非経口的に、投与することができる。好ましい態様に従うと、本発明の化合物は、局所的投与のために計画されている。
投与量は、年齢、体重、患者の健康状態、及び投与形態に依存する;例えば、成人において経口投与に対して適した投与量は、1投与量当たり約10から約150〜1000mgで、一日に1から5回である。
【0045】
本発明は、医薬的に許容される賦形剤(これは担体又は稀釈剤である)と共に本発明の化合物を含む医薬的製剤又は組成物を含む。
本発明の化合物を含む医薬組成物は、通常次の従来行われてきた方法に従い調整され、医薬的に適切な形で投与される。
局所的投与のために、薬剤は、好ましくは軟膏、クリーム、ゲル、乳濁液又は外用水薬として処方される。粉末又は油としての処方もまた、考えられる。処方のベースは、化粧品及び医薬業界の当業者に親しまれて居り、ここで詳細に説明する必要がない。例えば、アーモンド油、ピーナッツ油、オリーブ油、桃中心核油、振りかけ油、植物抽出物、精油のような植物性油脂類;さらに植物性ワックス及び合成及び動物性油脂類又はワックス;レシチン、ラノリンアルコール、カロテン、香料、一価又は多価アルコール、尿素、保存剤、及び着色剤その他を用いることができる。水中の油、又は油中の水乳濁液としての処方は好ましい。
【0046】
適切な薬剤の活性化合物含量は、本発明の化合物が0.0001から20重量%の間、好ましくは0.6から10重量%の間、さらに好ましくは1から5重量%の間であることができる。通例は0.6から5重量%の範囲である。
皮膚透過性を促進するために化合物を混合する場合には、ヒアルロニダーゼを用いる場合は、その含量は、例えば、0.01から1重量%の間、好ましくは0.05から0.2重量%の間、であることができて、もしジメチルソルビトール又はDMSOを用いるならば、1から25重量%の間、好ましくは5から10重量%の間であることができる。
【0047】
例えば、固体経口用形態は、活性化合物と共に、例えば、ラクトース、デクストロース、サッカロース、セルロース、コーンスターチ、又はポテトスターチの様な稀釈剤;例えば、シリカ、滑石、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウムのような潤滑剤;及び/又はポリエチレングライコール類;例えば、澱粉、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルピロリドンのような結合剤;例えば、澱粉、アルギン酸塩、アルギニン、又はグリコール酸ナトリウム澱粉の様な解離剤;発泡剤;着色剤、甘味料;例えば、レシチン、ポリソルベート、ラウリルサルフェートの様な湿潤剤;及び、医薬的処方に用いる一般的に無毒で医薬的に不活性な物質を含むことができる。該医薬的調剤は、例えば、混合、粒状化、錠剤化、砂糖塗布又はフィルム塗布過程のような既知の方法で調整できる。経口投与のための液体分散は、例えば、シロップ、乳濁液、及び懸濁液がある。
【0048】
シロップは、例えば、サッカロース、又はグリセリンを伴うサッカロース、及び/又はマンニトール、及び/又は、ソルビトールを担体として含むことができる。
懸濁液及び乳濁液は、例えば、天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルアルコールを、担体として、含むことができる。
筋肉内注射のための懸濁液又は溶液は、活性化合物と共に、例えば、滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチルのような医薬的に許容された担体、例えば、プロピレングリコールの様なグリコール、及び、もし望むならば、適切量の塩酸リドカインを含むことができる。
【0049】
静脈内注射又は輸液のための溶液は、担体として、例えば、滅菌水を含むことができる、又は好ましくは溶液は、滅菌された、水溶液性の、等張の塩溶液であることができる。
座薬類は、活性化合物と共に、例えば、カカオバター、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル界面活性剤又はレシチンの様な医薬的に許容された担体を含むことができる。
【0050】
標的腫瘍がエストロゲン受容体(ER)ポジティブな場合、本発明の化合物を、既知のエストロゲン受容体拮抗剤(タモキシフェン(Tamoxifen(R)の様な)及び/又は既知のアロマターゼ阻害剤及び/又は既知の細胞増殖阻害剤と共に投与することができる。従って、本発明の医薬組成物は、またエストロゲン受容体拮抗的及び/又はアロマターゼ阻害活性(本明細書で開示した本発明の化合物とは異なる化合物)及び/又は細胞増殖阻害活性を示す既知の有効量の(一種類/複数)化合物を含むことができる。好ましい態様に従うと、4−ヒドロキシテストステロンと適切なある細胞増殖阻害剤の組合せ、又は細胞増殖阻害剤(複数)の組合せは、特に、局所的に投与できる製剤の形(例えば、クリーム)で提供される。
適切なアロマターゼ阻害剤の例は、例えば、米国公開特許2004/0018991A1に開示されており、またホルメスタン及びレンタロン、エクゼメスタン、MDL 18962、7アルファー置換のアンドロステンジオン誘導体、ATD,10−オキシラン及び10−チイラン−置換のアンドロゲン、アタメスタン、その他の様なステロイド性アロマターゼ阻害剤、及びボラゾール、アリミデクス、レトロゾール、ファドロゾール及びログレットイミドの様な非ステロイド性アロマターゼ阻害剤を含む。これらの化合物の記号表示及び入手可能性は、例えば、"Red List", Editio Cantor, Aulendorf (DE, 1999)を参照のこと。
【0051】
適切な細胞増殖阻害剤及び細胞増殖阻害剤との組合せの例として、例えば、AC±T―タクソール(化学名:パクリタクセル(paclitaxel))又はタクソテール(Taxotere)(化学名:ドセタクソール(docetaxol))をともなう/又は伴わないシクロホスファミド(商品名:シクロフォスファミド(Cytoxan))を伴うアドリアマイシン(化学名:ドクソルビシン(doxorubicin));CMF−シクロホスファミド、メトトレクセート及びフルオロウラシル("5-FU"又は5−フルオロウラシル);CAF−シクロホスファミド、アドリアマイシン及びフルオロウラシル("5-FU"又は5−フルオロウラシル);CEF−シクロホスファミド、エピルビシン(アドリアマイシン類似)及びフルオロウラシル("5-FU"又は5−フルオロウラシル);FAC−フルオロウラシル("5-FU"又は5−フルオロウラシル)、アドリアマイシン及びシクロホスファミドがある。
【0052】
一般的に、特に標的組織がエストロゲン受容体ネガティブの場合、本発明の化合物は、また例えば、トラスツズマブ(ハーセプチン(Herceptin(R))の様なHer2neuに対する抗体と共に投与できる。従って、本発明の医薬的組成物は、また、Her2neu拮抗活性を示す有効量の既知化合物を含むことができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
実施例1
本発明の化合物は以下のように合成できる。
第1段階として、2.5gテストステロンを100mlの冷MeOHに溶解する。9mlのNaOH(2%)及び17mlのH(30%)を加えた後、混合物を4℃、24時間攪拌する。得られたエポキシドを氷水で沈殿させる。
第2段階として、2gの乾燥エポキシドを2%のHSOを含む200mlの酢酸に溶解する。該溶液を室温で、4時間攪拌する。反応産物を氷水で沈殿させる。
その後、反応産物を1%のNaOH溶液で洗浄して、アセチルエステルを加水分解する。精製した4−ヒドロキシテストステロンの全収量は、40〜50%の範囲である。
【0054】
実施例2
本発明の局所投与に対するクリームは、以下の量の成分を用いて従来の方法で処方することができる。量は100gのクリーム当たりで与えられている:
4−ヒドロキシ17β−アセチルアンドロスト−4−エン−3−オン 4.5g
セテアリルアルコール 7.5g
パラフィンワックス 3.0g
ナトリウムカルボマー 2.5g
ミリスチン酸イソプロピル 6.0g
モノステアリン酸ソルビタン 1.0g
ポリソルベート20 3.0g
ステアリルアルコール 2.0g
DMSO 5.0g
純水qs 100.0g
得られたクリームを女性又は男性患者の病気に冒された乳房組織上の皮膚に局所的に塗布する。
【0055】
実施例3
本発明のゲルは、以下の量の成分を用いて従来の方法で処方することができる。量は100gのゲル当たりで与えられている:
4−ヒドロキシテストステロン 2.5g
95度エタノール 70.0g
カルボポール980 0.5g
ミリスチン酸イソプロピル 2.5g
トリエタノールアミン 0.5g
純水qs 100.0g
【0056】
実施例4
本発明のスプレーとして用いられる溶液は、以下の処方を用いて従来の方法で調製することができる。量は100gの溶液当たりで与えられている:
4−ヒドロキシテストステロン 2.5g
95度エタノール 70.0g
ミリスチン酸イソプロピル 2.5g
純水qs 100.0g
【0057】
実施例5
各重量が0.150gであり、25mgの活性化合物を含む錠剤は、以下のように調製することができる:
組成(10,000錠剤に対する)
4、17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン 250g
ラクトース 800g
コーンスターチ 415g
滑石粉末 30g
ステアリン酸マグネシウム 5g
4、17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン、ラクトース及び半量のコーンスターチを混合する;混合物を0.5mmメッシュサイズの篩にかける。コーンスターチ(10g)を温水(90ml)に懸濁して、得られたペーストを用いて顆粒化して粉末にする。顆粒を乾燥して、1.4mmメッシュサイズの篩上で粒状化し、その後残量の澱粉、滑石、及びステアリン酸マグネシウムを加えて、注意深く混合して、錠剤に加工する。
【0058】
実施例6
各分量が0.200gで20mgの活性化合物を含むカプセルを調製することができる:
500カプセルに対する組成:
4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン 10g
ラクトース 80g
コーンスターチ 5g
ステアリン酸マグネシウム 5g
この処方物を、2枚の硬いゼラチンカプセルに包み込み、各カプセルに対し分量は0.200gである。
【0059】
実施例7
本発明の局所投与のための軟膏は、以下の量の含有物を用いて、従来の手法で処方することができる。100gの軟膏当たりの量が与えられている:
17β−ヒドロキシ−6−メチレンアンドロスト−1,4−ジエン 2.5g
プロピレングリコール 25.0g
ミリスチン酸イソプロピル 6.0g
モノステアリン酸ソルビタン 1.0g
ポリソルベート80 2.0g
ステアリルアルコール 2.0g
ヒアウルロン酸 0.1g
純水qs 100.0g
得られた軟膏を女性患者の羅患した乳房組織の上の皮膚上に局所的に与える。
【0060】
実施例8
本発明の同時の組合せ局所投与のためのゲルは、以下の量の含有物を用いて、従来の手法により処方することができる。ゲル100g当たりの量は:
4−ヒドロキシテストステロン 2.75g
ホルメスタン 1.25g
エタノール80% 10.0g
カルボポール934P 8.0g
PEG400 2.5g
尿素 3.0g
オレイン酸エチル 0.5g
純水 100.0g
【0061】
実施例9
本発明の同時の組合せ薬剤のための錠剤は、半量の4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オンをホルメスタンに置き変える以外、実施例5に従い処方できる。
【0062】
実施例10
MCF−7細胞を、RPMI1640培地で、37℃で、細胞数が約1×10細胞/mlになるまで培養した。その後、4組の同一MCF−7細胞試料に、ジヒドロテストステロン(DHT)又は4−ヒドロキシテストステロン(4−OHT)を、異なる濃度、即ち10−7M,10−8M,又は10−9Mになるように加えて、生存細胞の測定により細胞の増殖を測定した。37℃の培養の間、3,6及び9日後に細胞数を計数した。対照として、活性試薬を加えずに、MCF−7細胞の増殖を計測した。
DHT又は4−OHTの化合物濃度10−7M,10−8M,及び10−9MによるMCF−7細胞増殖の阻害結果を、それぞれの濃度を、図1A,1B及び1Cに示して、対照と比較した。これらの結果によると、本発明の化合物4−ヒドロキシテストステロンを用いる場合に、MCF−7細胞増殖に対して、4−ジヒドロテストステロンより有意に強く、及び特に対照より強く、顕著な阻害効果の促進を示した。
DHTと比較して驚く程の促進効果は、4−OHTはアンドロゲン受容体(AR)に特異的に強く結合できて、またアンドロゲン性効果より同化作用/アポトーシス効果を示すという、この化合物の効果により説明することができる。これに対して、DHTは、特に、アンドロゲン性効果を示す。
【0063】
実施例11
二重盲検臨床試験を10名の女性患者群について行った。この臨床試験において、特に注意を払った点は、患者の標的乳癌組織の、プロゲステロン受容体(PR)及び特にエストロゲン受容体(ER)に関する、ホルモン受容体状態である;患者の癌は、大部分アンドロゲン受容体(AR)ポジティブと仮定した。この群において、6人の患者は、組織学的に悪性乳癌(C. mammae)であった。この調査した部分群の5人の腫瘍は、プロゲステロン受容体(PR)ネガティブであり、また特に、エストロゲン受容体(ER)ネガティブ(状態レベル0(ゼロ))であることが分かった。Her-2-neuに関しては、3人の患者はネガティブ状態を示し、1人は中庸(レベル1)、また他は強(レベル2)受容体状態であった。6番目の患者において、悪性乳癌が確認されたが、癌組織量は受容体状態の測定には少なすぎた。
残りの4人の患者は、悪性疾患を示さなかったが、正常又は乳腺症的乳房組織を持つようであった。
全10名の女性患者に、活性物質として4−ヒドロキシテストステロンを用いて、局所的に、部分的に、実施例2に記載したクリームを標的乳房間皮膚部分に投与する処置を行った。投与期間3ヶ月の毎日局所的投与を連続した後、治療効果に対する臨床検査を行った。
【0064】
悪性乳癌を有する6人の患者の結果を、第1番目から5番目までの患者の受容体状態と共に、以下の表1に示す。
【表1】

【0065】
治療後検査を行った女性の中では、3人がマンモグラフィーで測定して、乳癌組織の顕著な回復を示した。
この癌部分群の6番目の患者の腫瘍の受容体状態は不明であるが、この患者の場合も明白な臨床的回復が確認された。
残り4名の非悪性疾患状態の患者に関しては、局所的投与の過程で、見かけ上、正常又は乳腺症と思える組織の明白な減少がある事に注目すべきである。
これらの臨床的研究の結果、4−ヒドロキシテストステロン(4−OHT)を含む、本発明による医薬組成物の2つの主要な重要な効果が分かった。第1に、4−OHTは、癌組織を縮小させる上で優れた効果を示し、第2にさらに驚くべきことに、ERネガティブな癌細胞でさえ有効に治療できる。
まとめると、本発明で為された発見は、4−OHTはAR経由で有効に働く、及びアポトーシスが結果的に実現できるという考え方を支持する。
これにより、本発明の発見は、有効な治療及び/又は予防的処置を可能にする。アジュバント治療を含む他の有用な応用の中で、次ぎに続く外科的治療計画を補助又は可能にするために、腫瘍容積の著しい減少を用いることにより、ネオアジュバント治療が特に重要である。
【0066】
実施例12
両側性乳癌及び手術後の皮膚転移を有する42歳の患者に、実施例2に従うクリームを毎日処置した。4週間の処置の後、皮膚転移は消失した。
【0067】
実施例13
大きな乳癌(直径:12cm)、巨大な腫瘍の広がり及び転移肝疾患を有する50歳の患者に部分的腫瘍切除を行い、その後実施例2に従うクリームを毎日処置した。処置の間、患者は更なる腫瘍成長を示さず、切除不能な腫瘍塊の減少すら示した。
【0068】
実施例14
進行乳癌及びリンパ節への腫瘍拡張を有する74歳の患者に毎日、10週間の間処置を行った。腫瘍容積の顕著な減少が起こり、また罹患したリンパ球にはもはや腫瘍が見られなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1A】DHT又は4−OHTの化合物濃度を10−7MにしたときのMCF−7細胞増殖の阻害結果を示す図である。
【図1B】DHT又は4−OHTの化合物濃度を10−8MにしたときのMCF−7細胞増殖の阻害結果を示す図である。
【図1C】DHT又は4−OHTの化合物濃度を10−9MにしたときのMCF−7細胞増殖の阻害結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、上皮性卵巣癌、子宮癌、乳房の良性の増殖性変化又は変質、繊維腺腫、小乳房症、乳腺症、子宮筋腫、これら疾患由来の二次的又は転移性腫瘍、及び縮小する乳房組織からなる群から選択される状態にある患者であって、AR(アンドロゲン受容体)ポジティブな標的細胞又は標的組織を有する患者を治療又は予防するための、アンドロゲン受容体(AR)に特異的に結合するが、アロマターゼにより代謝されないステロイド化合物。
【請求項2】
乳癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、上皮性卵巣癌、子宮癌、乳房の良性の増殖性変化又は変質、繊維腺腫、小乳房症、乳腺症、子宮筋腫、これら疾患由来の二次的又は転移性腫瘍、及び縮小する乳房組織からなる群から選択される状態にある患者であって、ER(エストロゲン受容体)ネガティブな標的細胞又は標的組織を有する患者を治療又は予防するための、アンドロゲン受容体(AR)に特異的に結合するが、アロマターゼにより代謝されないステロイド化合物。
【請求項3】
乳癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、上皮性卵巣癌、子宮癌、乳房の良性の増殖性変化又は変質、繊維腺腫、小乳房症、乳腺症、子宮筋腫、これら疾患由来の二次的又は転移性腫瘍、及び縮小する乳房組織に対する予防又は治療の方法であって、このような治療を必要とし、かつAR(アンドロゲン受容体)ポジティブな標的細胞又は標的組織及び/又はER(エストロゲン受容体)ネガティブ標的細胞又は標的組織を有する患者に、アンドロゲン受容体(AR)に特異的に結合するが、アロマターゼにより代謝されない有効量のステロイド化合物を投与することから成る予防又は治療の方法。
【請求項4】
前記ステロイド化合物が、エストロゲン受容体拮抗剤、このステロイド化合物以外のアロマターゼ阻害剤、細胞増殖阻害剤及びHer2neuに対する抗体から成る群から選択される少なくとも1種の有効量の化合物と共に投与される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
この投与が局所的である請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
下記化学式
【化1】

(式中、a,b及びcは、それぞれ互いに独立して、単結合又は二重結合を表し、
は、水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、
は、水素原子又はOR(式中、Rは水素原子又はC〜C直鎖又は分枝アルキル基を表す。)を表し、
は、cが単結合の場合、水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、cが二重結合の場合は、CHR(式中、Rは上記と同様に定義される。)を表し、
は、水素原子、C〜Cアルキル基、非置換又はC〜Cアルキル基で置換されたフェニル基、CORアシル基(式中、Rは、水素原子、C〜C直鎖又は分枝のアルキル基、それぞれ非置換又はC〜Cアルキル基で置換されたフェニル基又はベンゾイルを表す。)、又は生物的代謝又は化学的脱保護により水酸基になるいかなる置換基を表す。)で表される化合物若しくはその医薬的に許容される塩;
又は活性成分として該化合物、適切な担体及び/又は稀釈剤を含む医薬組成物であって、下記から選択される条件下で治療又は予防するための医薬としての医薬組成物。
(i)局所的投与形態における適用;
(ii)閉経後女性の治療又は予防;
(iii)下記単独で又は組み合わせの、予防又は治療;
−対側乳癌;
−アジュバント及びネオアジュバント乳癌治療;
−乳癌組織の縮小;
−乳癌の再発に対する予防;
−乳癌由来の皮膚転移
【請求項7】
前記化合物が4,17β−ジヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オンである請求項6に記載の化合物又はこの化合物を含む医薬組成物。
【請求項8】
同時又は遂時に薬剤使用するための、一緒の又は分離した投与形態における、(I)及び(II)から成る組合せ薬剤。
(I)下記化学式
【化1】

(式中、a,b及びcは、それぞれ互いに独立して、単結合又は二重結合を表し、
は、水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、
は、水素原子又はOR(式中、Rは水素原子又はC〜C直鎖又は分枝アルキル基を表す。)を表し、
は、cが単結合の場合、水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、cが二重結合の場合は、CHR(式中、Rは上記と同様に定義される。)を表し、
は、水素原子、C〜Cアルキル基、非置換又はC〜Cアルキル基で置換されたフェニル基、CORアシル基(式中、Rは、水素原子、C〜C直鎖又は分枝のアルキル基、それぞれ非置換又はC〜Cアルキル基で置換されたフェニル基又はベンゾイルを表す。)、又は生物的代謝又は化学的脱保護により水酸基になるいかなる置換基を表す。)で表される化合物若しくはその医薬的に許容される塩;
(II)エストロゲン受容体拮抗剤、上記(I)で定義された化合物と異なるアロマターゼ阻害剤、細胞増殖阻害剤及びHer2neuに対する抗体からなる群から選択される化合物
【請求項9】
局所的投与のために処方された請求項8に記載の組合せ薬剤。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate


【公表番号】特表2009−536932(P2009−536932A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508260(P2009−508260)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004221
【国際公開番号】WO2007/131737
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(508335037)
【Fターム(参考)】