説明

乾式不織布および繊維製品

【課題】極細ポリエステル繊維を含み、かつ地合いが均一な乾式不織布、および該乾式不織布を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】目付けが100〜1000g/mの乾式不織布であって、ポリエステルからなり単繊維径DAが500〜1000nmであるポリエステル繊維Aと、ポリエステルからなり単繊維径(DB)が10〜100μmであるポリエステル繊維Bとが前者/後者の重量比3/97〜70/30で含まれ、かつ機械的に絡合処理が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極細ポリエステル繊維を含み、かつ地合いが均一な乾式不織布、および該乾式不織布を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルター用途やワイピング用途などでは、不織布の密度を低くする必要があるため、主として、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布などの乾式不織布が使用されてきた。また、かかる乾式不織布において、フィルター性能(捕集効率やダスト保持量、寿命)やワイピング性能を高めるために、極細繊維と比較的汎用的な繊度を有する繊維とを組合わせることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
他方、最近ではナノファイバーと称せられる、単繊維径が極めて小さい極細繊維の研究開発が盛んに行われている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
このような極細繊維を用いて乾式不織布を得ると、さらにフィルター性能やワイピング性能をある程度高めることが可能であるが、極細繊維を用いて乾式不織布を得る際、極細繊維の分散性が低いため不織布の地合いが悪くなり、フィルター性能やワイピング性能の点で改善の余地があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−319347号公報
【特許文献2】特開2004−162244号公報
【特許文献3】国際公開第2005/095686号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、極細ポリエステル繊維を含み、かつ地合いが均一な乾式不織布、および該乾式不織布を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の繊径を有する極細ポリエステル繊維と、特定の繊径を有するポリエステル繊維とを用いて乾式不織布を得ると、均一な地合いを有する乾式不織布が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「目付けが100〜1000g/mの乾式不織布であって、ポリエステルからなり単繊維径(DA)が500〜1000nmであるポリエステル繊維Aと、ポリエステルからなり単繊維径(DB)が10〜100μmであるポリエステル繊維Bとが前者/後者の重量比3/97〜70/30で含まれ、かつ機械的に絡合処理が施されていることを特徴とする乾式不織布。」が提供される。
【0008】
その際、前記ポリエステル繊維Aにおいて、単繊維径(DA)nmに対する繊維長(LA)nmの比(LA/DA)が30000〜140000の範囲内であることが好ましい。また、前記ポリエステル繊維Bの繊維長(LB)が30〜100mmの範囲内にあることが好ましい。また、前記ポリエステル繊維Aおよびポリエステル繊維Bに捲縮が付与されていることが好ましい。また、前記ポリエステル繊維Aが、島成分と海成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去したものであることが好ましい。また、前記絡合処理がニードルパンチ機によるものであることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、前記の乾式不織布を用いてなる、ワイパー、フィルター、研磨材、断熱材、吸音材、車両内装材、土木用資材、および農業用資材からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、極細ポリエステル繊維を含み、かつ地合いが均一な乾式不織布、および該乾式不織布を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において、ポリエステル繊維Aの単繊維径が500〜1000nmの範囲内であることが肝要である。該単繊維径が500nm未満では、ポリエステル繊維A同士が擬似膠着しやすく均一分散しにくいため、フィルターやワイピング材などの本来の性能が得られず好ましくない。逆に、該該単繊維径が1000nmより大きいと、極細ポリエステル繊維としての効果が低くなり、フィルターやワイピング材などしての性能向上が不十分となるため好ましくない。なお、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には外接円の直径を単繊維径とする。また、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0012】
また、前記ポリエステル繊維Aにおいて、単繊維径(DA)nmに対する繊維長(LA)nmの比(LA/DA)が30000〜140000(より好ましくは40000〜100000)の範囲内であることが好ましい。該比(LA/DA)が30000未満では、繊維長が短くなり過ぎるため、他の繊維との絡みが小さくなり、繊維が脱落する可能性が高くなるおそれがある。逆に、該該比(LA/DA)が140000を越える場合、繊維長が長くなりすぎ、極細ポリエステル繊維A自身の絡みが大きくなり、均一分散が阻害されるおそれがある。
【0013】
前記ポリエステル繊維Aを形成するポリエステルの種類としては、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。
【0014】
前記のようなポリエステル繊維Aの製造方法としては特に限定されないが、国際公開第2005/095686号パンフレットに開示された方法が好ましい。すなわち、単繊維径およびその均一性の点で、ポリエステルポリマーからなりかつその島径(D)が500〜1000nmである島成分と、前記のポリエステルポリマーよりもアルカリ水溶液易溶解性ポリマー(以下、「易溶解性ポリマー」ということもある。)からなる海成分とを有する複合繊維にアルカリ減量加工を施し、前記海成分を溶解除去したものであることが好ましい。なお、前記島径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。なお、島の形状が丸断面以外の異型断面である場合には、前記の島径(D)は、その外接円の直径を用いる。
【0015】
ここで、海成分を形成するアルカリ水溶液易溶解性ポリマーの、島成分を形成するポリエステルポリマーに対する溶解速度比が200以上(好ましくは300〜3000)であると、島分離性が良好となり好ましい。溶解速度が200倍未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解する間に、分離した繊維断面表層部の島成分が、繊維径が小さいために溶解されるため、海相当分が減量されているにもかかわらず、繊維断面中央部の海成分を完全に溶解除去できず、島成分の太さ斑や島成分自体の溶剤侵食につながり、均一な繊維径の超極細繊維が得ることができないおそれがある。
【0016】
海成分を形成する易溶解性ポリマーとしては、特に繊維形成性の良いポリエステル類、脂肪族ポリアミド類、ポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィン類を好ましい例としてあげることができる。更に具体例を挙げれば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとして、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリアルキレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルが最適である。ここでアルカリ水溶液とは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液などを言う。これ以外にも、ナイロン6やナイロン66等の脂肪族ポリアミドに対するギ酸、ポリスチレンに対するトリクロロエチレン等やポリエチレン(特に高圧法低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン)に対する熱トルエンやキシレン等の炭化水素系溶剤、ポリビニルアルコールやエチレン変性ビニルアルコール系ポリマーに対する熱水を例として挙げることができる。
【0017】
ポリエステル系ポリマーの中でも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。また、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性や紡糸安定性の面で問題が生じる可能性がある。また、共重合量が10重量%以上になると、溶融粘度低下作用があるので、好ましくない。
【0018】
一方、島成分を形成するポリエステルポリマーとしては、前述のとおりである。なお、海成分を形成するポリマーおよび島成分を形成するポリマーについて、製糸性および抽出後の極細繊維の物性に影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂等の離型改良剤、等の各種添加剤を含んでいても差しつかえない。
【0019】
前記の海島型複合繊維において、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合したり、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
【0020】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0、特に1.3〜1.5の範囲である。この比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0021】
次に島数は、100以上(より好ましくは300〜1000)であることが好ましい。また、その海島複合重量比率(海:島)は、20:80〜80:20の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が80%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方20%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
【0022】
溶融紡糸に用いられる口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば、中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。吐出された海島型複合繊維は冷却風により固化され、所定の引き取り速度に設定した回転ローラーあるいはエジェクターにより引き取られ、未延伸糸を得る。この引き取り速度は特に限定されないが、200〜5000m/分であることが望ましい。200m/分以下では生産性が悪い。また、5000m/分以上では紡糸安定性が悪い。
【0023】
得られた未延伸糸は、海成分を抽出後に得られる超極細繊維の用途・目的に応じて、そのままカット工程あるいはその後の抽出工程に供してもよいし、目的とする強度・伸度・熱収縮特性に合わせるために、延伸工程や熱処理工程を経由して、カット工程あるいはその後の抽出工程に供することができる。延伸工程は紡糸と延伸を別ステップで行う別延方式でもよいし、一工程内で紡糸後直ちに延伸を行う直延方式を用いてもかまわない。
【0024】
次に、かかる複合繊維を、島径(D)に対する繊維長(L)の比(L/D)が前記の範囲内となるようにカットした後、アルカリ減量加工を施すことにより、前記海成分を溶解除去する。かかるカットは、未延伸糸または延伸糸をそのまま、またいは数十本〜数百万本単位に束ねたトウにしてギロチンカッターやロータリーカッターなどでカットすることが好ましい。
【0025】
前記のアルカリ減量加工は、不織布を製造後に行うことが好ましいが、不織布の製造前であってもよい。かかるアルカリ減量加工において、繊維とアルカリ液の比率(浴比)は0.1〜5%である事が好ましく、さらには0.4〜3%である事が好ましい。0.1%未満では繊維とアルカリ液の接触は多いものの、排水等の工程性が困難となるおそれがある。一方、5%以上では繊維量が多過ぎるため、アルカリ減量加工時に繊維同士の絡み合いが発生するおそれがある。なお、浴比は下記式にて定義する。
浴比(%)=(繊維質量(gr)/アルカリ水溶液質量(gr)×100)
【0026】
また、アルカリ減量加工の処理時間は5〜60分である事が好ましく、さらには10〜30分である事が好ましい。5分未満ではアルカリ減量が不十分となるおそれがある。一方、60分以上では島成分までも減量されるおそれがある。
また、アルカリ減量加工において、アルカリ濃度は2%〜10%である事が好ましい。2%未満では、アルカリ不足となり、減量速度が極めて遅くなるおそれがある。一方、10%を越えるとアルカリ減量が進みすぎ、島部分まで減量されるおそれがある。
【0027】
本発明において、ポリエステル繊維Bの単繊維径DBが10〜100μmの範囲内であることが肝要である。該単繊維径DBが10μm未満では、不織布を製造する際の開繊工程において、ポリエステル繊維B同士が固まりになったり、均一分散性が得られないおそれがあり好ましくない。逆に、該単繊維径DBが100μmよりも大きいと、不織布の地合いが悪くなるおそれがあり好ましくない。なお、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には外接円の直径を単繊維径とする。また、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0028】
前記ポリエステル繊維Bの繊維長(LB)が30〜100mmの範囲内にあることが好ましい。該繊維長が30mm未満では、開繊工程での操業性が悪くなるおそれがある。逆に、該繊維長が100mmを越えると、繊維同士の絡みが大きくなるおそれがある。
【0029】
本発明の乾式不織布は、例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、前記のポリエステル繊維Aまたはその前駆体(海島型複合繊維)と、前記のポリエステル繊維Bとを、ポリエステル繊維A(海島型複合繊維の海成分を溶解除去した後の重量)とポリエステル繊維Bとの重量比が(前者/後者)3/97〜70/30の範囲内となるように用意する。ここで、ポリエステル繊維Aの重量割合が該重量比よりも小さいと、フィルター性能やワイピング性能の性能向上が不十分となり好ましくない。逆に、ポリエステル繊維Aの重量割合が該重量比よりも大きいと、ポリエステル繊維A同士の絡みや繊維脱落の可能性が高くなり好ましくない。なお、不織布全重量に対して10重量%以下であれば、他の繊維をも用いてもよい。
【0030】
また、前記のポリエステル繊維Aまたはその前駆体(海島型複合繊維)と、前記のポリエステル繊維Bとが、捲縮を施された捲縮繊維であると、繊維が絡合しやすく好ましい。その際、かかる捲縮を施す方法としては機械捲縮など従来公知の方法でよい。
【0031】
次いで、比較的長い短繊維を針の付いたローラーを用いて繊維を開繊混合するカード法や開繊された繊維をエアーによってウェブを積層するランドウェーバー等によりウェブを形成した後、機械的に絡合処理を施すことにより、その際、繊維の固定方法としては、ニードルによる繊維同士の絡み合い(ニードルパンチ法)、高圧水流による繊維同士の絡み合い(スパンレース法)等を適宜用いることが出来る。なかでも、ニードルパンチ機を用いたニードルパンチ法が好ましい。
【0032】
次いで、必要に応じて、前述のようにアルカリ減量加工を施すことにより、海島型複合繊維の海成分を溶解除去することにより、乾式不織布が得られる。
かくして得られた乾式不織布において、その目付けが100〜1000g/m(より好ましくは120〜300g/m)の範囲内であることが肝要である。該目付けが100g/m未満では、フィルター性能やワイピング性能などの性能が十分に得られず好ましくない。逆に、該目付けが1000g/mよりも大きいと、高圧水流やニードルにより繊維を絡み合せる際に繊維同士の絡み合いが不十分となったり、アルカリ減量加工で海島型複合繊維の海成分を溶解除去する際、十分に除去できなくなるおそれがある。
【0033】
また、不織布は単層構造に拘る事はなく、繊維構成の異なる多層構造であっても何ら問題ない。更に、短繊維不織布以外に、織物、編物、長繊維不織布等のシート状物を全体重量の20%未満であれば混入しても問題ない。
【0034】
また、かかる乾式不織布において、通気度が200cc/cm/sec以下(より好ましくは、80〜180cc/cm/sec)であることが好ましい。該通気度が200cc/cm/secよりも大きいと、フィルター性能やワイピング性能などの性能が十分に得られないおそれがある。なお、前記通気度はJIS L1096 6.27.1 A法(フラジール法)により測定するものとする。
【0035】
本発明の乾式不織布には、必要に応じて、常法の染色加工、カレンダー加工、エンボス加工、親水加工、撥水加工、揉み加工、起毛加工、開繊加工(ウォーターニードル等)など適宜施してもよい。
【0036】
本発明の乾式不織布は、極細ポリエステル繊維が含まれ、かつ地合いが均一であるので、例えば、ワイパー、フィルター、研磨材、断熱材、吸音材、車両内装材、土木用資材、農業用資材など各種用途に使用される。特に、前記乾式不織布をフィルターおよびワイパーに用いると優れたフィルター性能およびワイピング性能が得られ好ましい。
【実施例】
【0037】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0038】
(1)溶融粘度
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度−溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒−1の時の溶融粘度を見た。
(2)溶解速度測定
海成分および島成分のポリマーを、各々、径0.3mm、長さ0.6mmのキャピラリーを24孔もつ口金から吐出し、1000〜2000m/分の紡糸速度で引き取って得た未延伸糸を残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、83dtex/24フィラメントのマルチフィラメントを作成した。これを所定の溶剤および溶解温度で浴比100として、溶解時間と溶解量から減量速度を算出した。
(3)島径との測定
透過型電子顕微鏡TEMで、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影し、測定した。TEMの機械によっては測長機能を活用して測定し、また無いTEMについては、撮った写真を拡大コピーして、縮尺を考慮した上で定規にて測定すればよい。ただし、繊維径は、繊維断面におけるその外接円の直径を用いた(n数5の平均値)。
(4)繊維長
走査型電子顕微鏡(SEM)により、海成分溶解除去前の超極細短繊維を基盤上に寝かせた状態とし、20〜500倍で測定した。SEMの測長機能を活用して測定した(n数5の平均値)。
(5)引張り強さ及び伸び率
JIS L1913(一般短繊維不織布試験方法)に基づいて実施した。
(6)目付
JIS L1913(一般短繊維不織布試験方法)に基づいて実施した。
(7)厚み
JIS L1913(一般短繊維不織布試験方法)に基づいて実施した。
(8)密度
JIS L1913(一般短繊維不織布試験方法)に基づいて実施した。
(9)通気性
JIS L1913(一般短繊維不織布試験方法)に基づいて実施した。
(10)地合い
出来上がったサンプルの表面の状態を目視にて4段階判定を実施した(地合いが良いものから順に、◎、○、△、×)。
【0039】
[実施例1]
島成分に285℃での溶融粘度が120Pa・secのポリエチレンテレフタレート、海成分に285℃での溶融粘度が135Pa・secである平均分子量4000のポリエチレングリコールを4重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレート(溶解速度比(海/島)=230)を使用し、海:島=10:90の重量比率で島数400の口金を用いて紡糸し、紡糸速度1500m/minで引き取った。アルカリ減量速度差は1000倍であった。これを3.9倍に延伸した後(複合繊維の単繊維径25μm(丸断面)、島成分の径750nm(丸断面))、押し込み捲縮機を用いて、繊維に捲縮を付与させた後に、ギロチンカッターで44mmにカットした極細ポリエステル前駆体繊維(ポリエステル繊維A用)とした。この前駆体繊維と常法により製造されたポリエチレンテレフタレート繊維(1.7dtex×44mm、丸断面、ポリエステル繊維B)を10/90の比率で混綿した後にローラーカードを用いて均一なウェブを得た。このウェブを秤量し、ニードルパンチ機を用いて絡合処理を施し、乾式不織布を得た。その際、絡合処理の条件は下記の通りとした。
針:40番レギュラー針
1回目(表から裏):50P/cm、+6.5mm
2回目(裏から表):100P/cm、+7.5mm
3回目(表から裏):75P/cm、+6.5mm
【0040】
次いで、これを、4%NaOH水溶液(75℃、30分)で処理(前駆体繊維が約10%減量)する事により、前駆体繊維(複合繊維)の海成分を除去することにより、単繊維径750nmのポリエステル繊維とした後に、エアースルー乾燥機にて乾燥を行った。得られた乾式不織布において、不織布の目付け200g/m、ポリエステル繊維Aの単繊維径DAが750nm、繊維長LAが44mm、単繊維径(DA)nmに対する繊維長(LA)nmの比(LA/DA)が58667、ポリエステル繊維Bの単繊維径(DB)が12μm、繊維長(LB)が44mm、ポリエステル繊維Aとポリエステル繊維Bとの重量比(ポリエステル繊維A:ポリエステル繊維B)9:91であった。得られた乾式不織布の物性を表1に示す。
次いで、前記乾式不織布を用いて、フィルターおよびワイパーを得て評価したところ、それぞれ優れたフィルター性能およびワイピング性能を有するものであった。
【0041】
[実施例2]
実施例1で用いた前駆体繊維とポリエステル繊維の比率を30/70に変更した以外は同様の条件にて、不織布を製造した。ポリエステル繊維Aとポリエステル繊維Bとの重量比(ポリエステル繊維A:ポリエステル繊維B)28:72であった。得られた不織布の物性を表1に示す。
次いで、前記乾式不織布を用いて、フィルターおよびワイパーを得て評価したところ、それぞれ優れたフィルター性能およびワイピング性能を有するものであった。
【0042】
[実施例3]
実施例1と同じ繊維、同じ比率であるのに対して、目付を変更(300g/m)しした以外は同様の条件にて、不織布を製造した。得られた不織布の物性を表1に示す。
次いで、前記乾式不織布を用いて、フィルターおよびワイパーを得て評価したところ、それぞれ優れたフィルター性能およびワイピング性能を有するものであった。
【0043】
[比較例1]
実施例1において、用いた前駆体繊維とポリエステル繊維の比率を80/20に変更した以外は実施例1と同様の条件で不織布を製造した。ポリエステル繊維Aとポリエステル繊維Bとの重量比(ポリエステル繊維A:ポリエステル繊維B)78:22であった。得られた不織布の物性を表1に示す。
次いで、前記乾式不織布を用いて、フィルターおよびワイパーを得て評価したところ、地合いが悪く、実施例1で得られたものよりも劣るものであった。
【0044】
[比較例2]
実施例1において、実施例1で用いたポリエステル繊維のみを用いる以外は同様の条件で不織布を製造した。得られた不織布の物性を表1に示す。かかる不織布には極細繊維が含まれていないので、フィルター性能やワイピング性能に劣るものであった。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、極細ポリエステル繊維を含み、かつ地合いが均一な乾式不織布、および該乾式不織布を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目付けが100〜1000g/mの乾式不織布であって、ポリエステルからなり単繊維径DAが500〜1000nmであるポリエステル繊維Aと、ポリエステルからなり単繊維径(DB)が10〜100μmであるポリエステル繊維Bとが前者/後者の重量比3/97〜70/30で含まれ、かつ機械的に絡合処理が施されていることを特徴とする乾式不織布。
【請求項2】
前記ポリエステル繊維Aにおいて、単繊維径(DA)nmに対する繊維長(LA)nmの比(LA/DA)が30000〜140000の範囲内である、請求項1に記載の乾式不織布。
【請求項3】
前記ポリエステル繊維Bの繊維長(LB)が30〜100mmの範囲内にある、請求項1または請求項2に記載の乾式不織布。
【請求項4】
前記ポリエステル繊維Aおよびポリエステル繊維Bに捲縮が付与されている、請求項1〜3のいずれかに記載の乾式不織布。
【請求項5】
前記ポリエステル繊維Aが、島成分と海成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去したものである、請求項1〜4のいずれかに記載の乾式不織布。
【請求項6】
前記絡合処理がニードルパンチ機によるものである、請求項1〜5のいずれかに記載の乾式不織布。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の乾式不織布を用いてなる、ワイパー、フィルター、研磨材、断熱材、吸音材、車両内装材、土木用資材、および農業用資材からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【公開番号】特開2011−6807(P2011−6807A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149781(P2009−149781)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】