乾燥エビおよびその製造方法
【課題】 見栄えがよく且つより良好な喫食感を得られる乾燥エビを提供すること。
【解決手段】 白身肉部と、前記白身肉部の表面の少なくとも一部に位置する赤身薄部とを含み、前記白身肉部と前記赤身薄部は、一体に繋がり、前記白身肉部の少なくとも一部が前記赤身薄部の少なくとも一部を包み込んだ乾燥エビ。
【解決手段】 白身肉部と、前記白身肉部の表面の少なくとも一部に位置する赤身薄部とを含み、前記白身肉部と前記赤身薄部は、一体に繋がり、前記白身肉部の少なくとも一部が前記赤身薄部の少なくとも一部を包み込んだ乾燥エビ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥エビおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、即席カップ麺に使用されている乾燥エビは100〜500程度の通常小型サイズであり、例えば、即席カップ麺の場合では製品1つ当たりに対して約2〜10尾で使用されている。このような乾燥エビは、湯戻しした後も乾燥時の大きさをほぼ維持しており、見た目と喫食感に乏しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、見栄えがよく且つより良好な喫食感を得られる乾燥エビを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題は以下のような本発明により解決される;
(1)白身肉部と、前記白身肉部の表面の少なくとも一部に位置する赤身薄部とを含み、前記白身肉部と前記赤身薄部は、一体に繋がり、前記白身肉部の少なくとも一部が前記赤身薄部の少なくとも一部を包み込んだ乾燥エビ;
(2)前記(1)の乾燥エビを製造する方法であって、
(a)無頭、無尾および無殻の未加熱のエビを背側から腹側の方向に背わたに沿って切り込みを入れること、
(b)(a)で得られたエビを加熱すること、
(c)(b)において加熱されたエビを乾燥すること、
を具備する乾燥エビを製造する方法;
である。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、見栄えがよく且つより良好な喫食感を得られる乾燥エビが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】胸甲が除去されたエビの外観図。
【図2】図1のl−l線に沿って切断された断面図。
【図3】切断の例を示す模式図。
【図4】実施例1(向かって右側)と比較例1(向かって左側)を示す外観図。
【図5】実施例1(向かって右側)と比較例2(向かって左側)の外観を示す外観図。
【図6】実施例1(向かって左側)と比較例3(向かって右側)の外観を示す外観図。
【図7】実施例1(向かって右側)と比較例1(向かって左側)を示す外観図。
【図8】実施例1(向かって左側)と比較例3(向かって右側)を示す外観図。
【図9】比較例4の切断方法Cを示す図面(向かって右側)。
【図10】実施例1と比較例3の湯戻し中の重量の継時的変化を示すグラフ。
【図11】カップ麺の具材として使用する例を示す図。
【図12】切り目を入れたエビの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.乾燥エビ
本発明の乾燥エビは、白身肉部と、前記白身肉部の表面の少なくとも一部に位置する赤身薄部とを含み、前記白身肉部と前記赤身薄部は、一体に繋がり、前記白身肉部の少なくとも一部が前記赤身薄部の少なくとも一部を包み込んだ乾燥エビである。
【0008】
図1は腹節、尾節および尾肢の殻を除去した食用の代表的なエビ1の模式図である。エビ1は、腹節2と前記腹節2の一方の端に連続して位置する頭部5と、腹節2の他端に連続して位置する尾節3と、前記尾節3に連続する尾肢6とを含む。
【0009】
図1のエビ1を線l−lに沿って切断した断面を図2に示す。図2に示すように、殻が除去された一般的な剥きエビ1は、白身肉部11とその表面を構成する表面部分である表皮12を含む。
【0010】
表皮12は、白身肉部11と、白身肉部11および/または表皮12が繋がって一体化している。表皮12は、殻が付いた状態のエビでは、白身肉部11と甲殻、即ち、殻との間に存在する部分である。
【0011】
本発明の態様に従う乾燥エビにおいて、白身肉部は生エビの白身肉部11に相当し、赤身薄部は生エビの表皮12に相当する。即ち、生エビの表皮12が加熱され乾燥されて赤身薄部となる。生エビの表皮12は生の状態であっても本来的に濃色および/または淡色の種々の色、例えば、エビ茶色を示す傾向がある。このような生エビの表皮12は、加熱によって、より鮮やかな色調、例えば、加熱したエビに代表的なオレンジ色などの赤系色を示す。加熱した場合の色調もその濃淡の度合いは広い範囲に亘る。ここで「赤身薄部」とは、生エビの表皮12に相当する部分をいう。「赤身」とは肉眼では識別の困難な程度に薄い赤系色から、鮮やかなオレンジ色および/または黄色味を帯びたなどを含む比較的濃い赤系色までをも示す。エビの種および部位などにより赤身の色調はどのように異なってもよい。本発明の1態様に従う乾燥エビを容易にイメージすることを可能にする観点から、加熱乾燥された表皮12に相当する部分を便宜上「赤身薄部」と称す。上述したように、生の剥きエビにおいて、白身肉部11と表皮12は、これらの少なくとも何れかに由来する組織により一体化されているように見える。本発明の1つの態様である乾燥エビにおいても、白身肉部と赤身薄部は、白身肉部および/または赤身薄部に由来する組織、例えば、繊維状の物質、即ち、繊維質で互いに繋がって一体化しているとも考えられる。
【0012】
乾燥エビは、主に図1に示す胸甲が除去されたエビ1の腹節2および尾節3からなる腹部4の白身肉部11の一部と、白身肉部11に線維質で繋がった表皮12の一部を含むものが、少なくとも加熱および乾燥されたものである。加熱乾燥により表皮12は赤身薄部となる。
【0013】
表皮12は、白身肉部11よりも熱による収縮率が高いため、背側Aから腹側Bに背わたに沿って完全に切断、または背側Aから腹側Bに切り込みを入れた後に加熱をすると、図4の右側に示すように白身肉部11の一部が赤身薄部の一部を内側に巻き込み、一部を包み込んだ状態となる。このような状態を維持した状態で乾燥されたエビが本発明の態様に従う乾燥エビである。
【0014】
ここで、「背側から腹側に背わたに沿って切り込みを入れる」とは、原料となるエビが頭部と腹部と尾肢とを水平にして平坦な場所に置かれたときの高さ方向、即ち、厚み方向にほぼ直行する方向に、背わたの位置にほぼ相当する位置で、背側Aから腹側Bに切り込みを入れることをいう。また「切り込み」とは、背側Aから腹側Bの方向でエビを完全に切断すること、および完全には切断せずに、エビを背側Aから腹側Bの方向に切れ目を作ることの両方を指す。
【0015】
「背側Aから」とは、図1中のA点から生じる矢印方向である。「腹側Bから」とはB点から生じる矢印方向である。「背側Aから腹側Bに」とは図1中A点からB点への方向である。ここで「腹側」とは、エビにおいて歩脚、胸肢および腹肢などのある側をいう。ここで「背側」とは、腹側に対向する側をいう。また腹側と背側の間の位置を「側面側」とも称す。
【0016】
当該乾燥エビは、そのまま食されてもよく、更に何れかのそれ自身公知の調理手段により調理されてから食されてもよい。乾燥エビは、製造における何れかの段階でそれ自身に味付けがなされてもよく、されなくてもよい。更に製造段階における調味の如何に関わらず、乾燥エビの調理段階において調味されてもよく、調味されなくてもよい。
【0017】
乾燥エビの調理の例は、熱湯を注ぐこと、熱湯に加えることおよび煮ることなどのそれ自身公知の何れかの加熱手段による加熱であってもよい。例えば、乾燥エビは、喫食のために、熱湯を注ぐことにより湯戻しされることが好ましい。或いは、乾燥エビは、水を加えることにより水戻しされてもよい。
【0018】
乾燥エビの利用分野は広く、袋入り即席麺や即席カップ麺などの即席麺のかやくとして、おつまみやスナック菓子として、外食産業の食材として、また家庭用または食品産業用の食材として利用されてよい。
【0019】
本発明の態様に従う乾燥エビは、従来の乾燥エビに比べて見栄えがよく、嵩高い。また、従来の乾燥エビに比べて湯戻しの時間が短く、湯戻し後のエビ独特の風味およびプリプリとした食感があり、良好な喫食感を有している。
【0020】
2.製造方法
本発明に従う乾燥エビは、以下の工程を含む方法、またはこれらの工程からなる方法により製造されてもよい;
(a)無頭、無尾および無殻の未加熱のエビを背側から腹側の方向に背わたに沿って切り込みを入れること、
(b)(a)で得られたエビを加熱すること、
(c)(b)において加熱されたエビを乾燥すること。
【0021】
乾燥エビを製造するための原料となるエビは、一般的に食用とされるエビであればどのような種類のエビであってもよい。食用エビの例は、バナメイエビ、クルマエビ、タイショウエビ、サルエビおよびイセエビなどを含んでよい。
【0022】
このような原料のエビを、例えば、以下のような手順により処理することにより、乾燥エビが得られてもよい。
【0023】
原料のエビを洗浄し、腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、無頭、無尾および無殻の、所謂、剥きエビを得る。このとき頭部、尾肢および/または胸甲などの一部が任意に胸部に結合したまま残されてもよい。
【0024】
次に剥きエビに背側から腹側に背わたに沿って切り込みを入れる。即ち、剥きエビの頭部側端と腹部と尾肢側端とがほぼ水平になるように平坦な場所に置かれたときの高さ方向、即ち、厚み方向にほぼ直行する方向に、背わたの位置にほぼ相当する位置で、背側Aから腹側Bに切り込みを入れる。この切り込みは、完全な切断に到っても、一部を切るのみに留まる不完全な切り込みであってもよい。不完全な切り込みの場合、背側から入った切り込みは腹側に達することはない。その結果、背側には切り目があるが、腹側は繋がったままのエビとなる。対照的に、剥きエビが、背側から腹側の方向に背わたに沿って完全に切断された場合、当該剥きエビは切断により、2つの切断物になる。
【0025】
また、任意に、前記切り込みによる切れ目を有するエビまたはエビの切断物に対して、更なる切り込みが入れられてもよい。例えば、長手方向に交差する方向で更に2分、3分または4分など、任意の数に切断されてもよく、切れ目が作られてもよい。或いは、上記の(a)の「切り込みをいれること」の前に、即ち、剥きエビを背側から腹側の方向に背わたに沿って切り込みを入れる前に、剥きエビの長手方向に交わる方向で更なる切り込みが施されてもよい。
【0026】
「更なる切り込み」とは、前記(a)の「背側から腹側の方向に背わたに沿って切り込みを入れること」の前後何れかに限定されるものではない。「更なる切り込み」により、切断が達成されても、または切れ目が施されてもよい。そのような更なる切り込みは、例えば、他の何れの箇所に対して何れの角度および/または何れの程度で行われてもよい。更なる切り込みにより達成される切断の回数または切れ目の個数は、特に制限されるものではない。
【0027】
背側から腹側への切り込みの例を図を用いて説明する。頭部を外し胸甲および尾肢を除去した剥きエビ31を図3(1)に示す。剥きエビ31の左には、剥きエビ31を線m−mで切断した場合の断面を、断面31aとして模式的に示す。
【0028】
この剥きエビを、2回切断して得た切断物を図3(2)に示す。平坦な場所に置いて頭部側端、腹部および尾肢側端をほぼ水平にして平坦な場所に置いたときの高さ方向、即ち、厚み方向にほぼ直行する方向に、背わたの位置にほぼ相当する位置で、背側Cから腹側Dに2つに切断した。図3(2)の切断物の左側には、前記切断の方向を、剥きエビ31の断面31aに対する切断の方向として示した模式図である。図3(2)の切断は、断面31aの3時の方向を腹側、9時の方向を背側とした場合、9時の方向から3時の方向に切り込みを入れることにより達成される。更にこの切断物を長手方向で2つに切断した。このような本発明に従う切断法により得られた切断物の1例が図3(2)の切断物32である。図3(3)および図3(4)は比較例である切断法により得られた切断物の例を示す。
【0029】
図3(3)の切断物33は、2回の切断により得られる。まず、剥きエビを、背側Cから腹側Dへの方向に切断した図3(2)の切断方向で得られた切断面に直行する方向で切断する。この切断方向を、切断物33の左側に、剥きエビ31の断面31aに対する切断の方向として模式的に示す。この切断は、断面31aの3時の方向を腹側、9時の方向を背側とした場合、12時の方向から6時の方向に切り込みを入れることにより達成される。この切断は、腹側と背側の間の位置で且つ長手方向に沿って行うともいう。更に、この切断物を、更に長さ方向で2つに切断した。
【0030】
図3(4)の切断物34は、長手方向に交わる方向に3箇所で切断することにより、所謂、ぶつ切りして得た切断物である。
【0031】
切断されたエビは最終的な製品の種類に応じて調味されてもよい。調味は、例えば、塩、醤油および味噌などの調味料、胡椒、ニンニク、生姜およびカレー粉などの香辛料、砂糖およびハチミツなどの天然甘味料および合成甘味料、酒および調味油などを適宜混合してエビに対して添加してもよく、必要に応じて保存料および着色料などの添加剤を添加してもよい。これらを便宜的に総称して「添加物」と称す。エビに対する添加物の添加は、これらのうちの少なくとも1の添加物を直接ふりかけてもよく、2以上の添加物を組み合わせて1以上の混合物として少なくとも1組ずつふりかけてもよく、全ての添加物を混合物としてふりかけてもよい。或いはこれらの任意の添加物を1の添加物または2以上の添加物を組み合わせて、水および/または液体添加物などに溶解および/または懸濁して、これにエビを漬込んでもよく、そのような溶液または懸濁液をエビにふりかけてもよい。
【0032】
これを熱した湯または油に入れて加熱する。加熱は、肉部の蛋白質が白く変質し、喫食に適する程度に行えばよい。
【0033】
その後、冷却し、乾燥し、本発明に従う乾燥エビを得る。冷却は、放置により自然に行ってもよく、流水、氷水または水などに浸すことにより行ってもよい。また、冷却は、凍結乾燥など、冷却を伴う手段を利用して乾燥する場合などには必須ではない。乾燥は、凍結乾燥、風乾、熱風乾燥および自然乾燥など何れのそれ自身公知の手段により行ってよいが、風味をよくするためには凍結乾燥が好ましい。
【0034】
上述の方法では、添加物による調味を切断後に行う例を挙げたが、当該調味は、切断前、切断後、加熱前、加熱後、冷却前、冷却後、凍結乾燥前、凍結乾燥後および/または喫食直前であってもよく、或いは調味が行われなくともよい。
【0035】
本発明に従う乾燥エビは、加工工程において剥きエビの背ワタに沿って切断されるため、その後の洗浄作業で簡単に背ワタを完全に除去できる。通常切断しないエビは尖った機具に引っ掛けて背ワタを取り除くことが一般的である。しかしながら、当該機具により引っ掛けた背ワタが除去途中で切れてしまい、肉部に背ワタが残る可能性がある。背ワタが残ることで、見た目の悪さ、喫食時のザラつき感、鮮度低下などの保存性などにも影響が出ることが多い。このような問題も本発明の乾燥エビおよびその製造方法により解決することが可能である。
【0036】
このようにして得た乾燥エビは、従来の乾燥エビに比べて見栄えがよく、嵩高い。また、従来の乾燥エビに比べて湯戻しの時間が短く、湯戻し後のエビ独特の風味およびプリプリとした食感があり、良好な喫食感を有している。
【0037】
[例]
1.実施例1
大型サイズ(51/60以上)のバナメイエビを洗浄した後に、腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、所謂、剥きエビを得た。これを剥きエビの頭部側端と腹部と尾肢側端とがほぼ水平になるように平坦な場所に置かれたときの高さ方向、即ち、厚み方向にほぼ直行する方向に、背わたの位置にほぼ相当する位置で背ワタに沿って、背側から腹側に切断した。即ち、図3(2)の32aの方向に切断した。次に、これを更に2等分以下に切断した(これを「カット方法A」と称する)。ここにおいて記載したサイズの表示は、エビのサイズを表すために通常使用される表示であり、453.6g(即ち、1ポンド)当たりの無頭殻付きエビの尾数を示すものである。従って、上記の「51/60以上」のサイズは、453.6g当たりに51〜60尾が含まれるようなエビの大きさである。
【0038】
この切断したエビを熱湯に入れて加熱した。エビの体表面は、本発明においては表皮とも称するが、これは収縮する特性がある。加熱により白身肉部の一部が、表皮の一部を内側にして巻き込むように、即ち、包み込むように、切断面を外側にしてポップコーン状に丸まったエビが得られた。これを冷水に入れて冷却し、凍結乾燥を行った。これにより、加熱され乾燥された表皮に相当する赤身薄部の一部を白身肉部が包み込んだポップコーン状に丸まった形状を維持した本発明の態様に従う乾燥エビが得られた。
【0039】
得られた乾燥エビは、ボリューム感と同時に1尾のエビのような外観を示した。その結果を図4の向かって右側に示した。
【0040】
2.比較例
(1)比較例1
大型サイズ(51/60以上)のバナメイエビを洗浄した後に、腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、所謂、剥きエビを得た。この剥きエビを、実施例1と同様に加熱して冷却した後に凍結乾燥して得た比較例1を得た。比較例1を図4の向かって左側に示した。
【0041】
(2)比較例2
大型サイズ(51/60以上)のバナメイエビを洗浄した後に、腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、所謂、剥きエビを得た。これを背側と腹側との間の辺り、即ち、図3(3)の33aの辺りにナイフを入れて切断し、更に2分した(これを「カット方法B」と称する)。この切断したエビを熱湯に入れて加熱した。これを冷水に入れて冷却し、凍結乾燥を行った。カット方法Bでは、カット方法Aで得られたようなポップコーン状の形態は得られなかった。上述の実施例1と比較した図を図5に示した。
【0042】
(3)比較例3
従来、一般的に使用されるエビ(サイズ200/300以下)を腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、所謂、剥きエビを得た。この剥きエビを凍結乾燥して比較例3を得た。図6に実施例1と比較例3の外観を比較した図を示した。実施例1は比較例3よりも明らかに見栄えがよかった。
【0043】
(4)比較例4
大型サイズ(51/60以上)のバナメイエビを洗浄した後に、腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、所謂、剥きエビを得た。これを長さ方向に3箇所を切断して、4つにぶつ切りにした(これを「カット方法C」と称する、図9を参照されたい。図9の向かって右側の図は、図3(4)の切断物34と同様のものを示す)。この切断したエビを熱湯に入れて加熱した。これを冷水に入れて冷却し、凍結乾燥を行った。カット方法Cではカット方法Aで得られたようなポップコーン状の形態は得られなかった。
【0044】
3.嵩の比較
(1)実施例1と比較例1との比較
実施例1と比較例1の嵩を比べた結果を図7に示した。実施例1の乾燥エビの方が比較例1よりも若干嵩が高かった。実施例1と比較例1は、乾燥重量として共に15g使用した。スライスカットしたエビは嵩が大きいことから即席カップ麺などに使用した場合、見栄えがよい。
【0045】
(2)実施例1と比較例3との比較
実施例1と比較例3の嵩を比べた結果を図8に示した。実施例1の乾燥エビの方が比較例3よりも2倍以上嵩が高かった。実施例1と比較例3は、乾燥重量として共に15g使用した。スライスカットしたエビは嵩が大きいことから即席カップ麺などに使用した場合、小型サイズ(200/300以下)と比較して見栄えがよい。
【0046】
4.漬け込みへの効果
(1)実施例2
実施例1に記載の方法によりエビを切断した後に、アルカリ剤などで漬込み処理を行い、熱湯に入れて加熱した。その結果、実施例1と同様に、エビの表皮(即ち、乾燥後の赤身薄部)の一部を白身肉部が包み込み、切断面を外側にしてポップコーン状に丸まったエビが得られた。これを冷水に入れて冷却し、凍結乾燥を行い、実施例2の乾燥エビを得た。腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去したのみの剥きエビでは漬込み歩留り115〜120%であったのに対して、実施例2の乾燥エビは、漬込み歩留まり140%以上を実現した。これは本発明に従う乾燥エビの場合には切断面からの吸水により、比較例1よりも向上したためであると考えられた。
【0047】
5.湯戻りの効果
実施例1と比較例3の湯戻り重量を比較した。その結果、実施例1の方が早い時間で重量が増えた。結果を表1〜3および図10に示す。このことから本発明に従う乾燥エビは従来の乾燥エビに比べて速い湯戻りが可能であることが示された。
【表1】
【0048】
6.官能試験
実施例1と比較例3について官能試験を行った。実施例1と比較例3をカップ麺に入れ、湯を注いで湯戻ししたものを10名が試食した。試食者が実施例1と比較例3を比較し、より好ましい方に点数(各1点)を入れて貰った。その結果を表4および表5に示す。
【表2】
【0049】
この結果から、本発明に従う乾燥エビは、従来の乾燥エビに比較して、ボリューム感および色合いがよく見栄えがし、湯戻しした後でもその見栄えは維持され、且つプリプリとした触感とエビ特有の風味と旨みがあることが試食者により評価された。
【0050】
7.エビ入り即席カップ麺
実施例1の乾燥エビを即席カップ麺の具材として使用する例を図11(向かって右側)に示す。即席カップ麺用の容器に、それ自身公知の手段により製造した即席ラーメン用の乾燥麺を入れ、その上に実施例1の乾燥エビを6個(乾燥重量1.82g)を加えた。
【0051】
同様に比較例3の乾燥エビを即席カップ麺の具材として使用する例を図11(向かって左側)に示す。即席カップ麺用の容器に、それ自身公知の手段により製造した即席ラーメン用の乾燥麺を入れ、その上に比較例1の乾燥エビを6個(乾燥重量2.13g)を加えた。図11は、お湯を注ぐ前のカップ内の上面図である。実施例1を使用した方が、1個当たりの乾燥エビの大きさが大きくて見栄えがすると共に、ユニークな形状をしており、食欲がそそられる。
【0052】
これらの2種類の乾燥エビを含む即席カップ麺に一般的な即席カップ麺の調理法に従って、湯を注ぎ、任意の時間(約3分)放置した後に喫食に供した。
【0053】
本発明に従う乾燥エビは、従来の乾燥エビに比較して、ボリューム感および色合いがよく見栄えがし、湯戻しした後でもその見栄えは維持され、且つプリプリとした触感とエビ特有の風味と旨みがあった。
【0054】
8.切れ目の効果を示す例
上述の例は、背側から腹側に切断した例を示したが、一部切り目を入れた場合の形態の例を図12に示す。最上段の図は、切れ目を入れた状態の生の剥きエビを左側を背側、右側を腹側に平面においた場合に上から見たときの図である。その下段はそれらを加熱したものを最上段のエビと同様に配置したである。最下段は、切れ目を作る前の生剥きエビを短手方向にぶつ切りに切断した場合の断面に対する切り込みの方向を示す図である。
【0055】
図12(1)には、背側と腹側の間に長手方向に沿って切り込みを入れた後に、長手方向に4つにぶつ切りにした切断物を示した。この切り込みの方向は、最下段に示すように、断面の9時の方向を背側、3時の方向を腹側とした場合、大凡10時〜11時の方向辺りから中心に向かう方向である。このような切断物に対する加熱により、本発明の態様に従うポップコーン状の丸まった形状のエビは得られなかった。
【0056】
図12(2)には、上記のカット方法Bと同様の方向であるが完全に切断せず、切れ目を入れたのみの状態の切断物を示した。この切り込みの方向は、最下段に示すように、大凡12時の方向辺りから中心に向かう方向である。この場合も、加熱により本発明の態様に従うポップコーン状の丸まった形状のエビは得られなかった。
【0057】
図12(3)は、長手方向に4つにぶつ切りにしただけのエビである。この場合も加熱により本発明の態様に従うポップコーン状の丸まった形状のエビは得られなかった。
【0058】
図12(4)には、カット方法Aと同様の方向であるが、完全な切断には至らずに切れ目を入れただけの状態の切断物を示した。即ち、エビの背側から腹側に切り込みを入れて切れ目を作り、更に長手方向に4つにぶつ切りにした切断物である。この切り込みの方向は、最下段に示すように、大凡9時の方向辺りから中心に向かう方向である。この切り方によれば、本発明の態様に従うポップコーン状の丸まった形状のエビが得られた(実施例3)。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、食品業界に手軽で美味しく、ユニーク且つ見栄えのするエビを提供することが可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥エビおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、即席カップ麺に使用されている乾燥エビは100〜500程度の通常小型サイズであり、例えば、即席カップ麺の場合では製品1つ当たりに対して約2〜10尾で使用されている。このような乾燥エビは、湯戻しした後も乾燥時の大きさをほぼ維持しており、見た目と喫食感に乏しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、見栄えがよく且つより良好な喫食感を得られる乾燥エビを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題は以下のような本発明により解決される;
(1)白身肉部と、前記白身肉部の表面の少なくとも一部に位置する赤身薄部とを含み、前記白身肉部と前記赤身薄部は、一体に繋がり、前記白身肉部の少なくとも一部が前記赤身薄部の少なくとも一部を包み込んだ乾燥エビ;
(2)前記(1)の乾燥エビを製造する方法であって、
(a)無頭、無尾および無殻の未加熱のエビを背側から腹側の方向に背わたに沿って切り込みを入れること、
(b)(a)で得られたエビを加熱すること、
(c)(b)において加熱されたエビを乾燥すること、
を具備する乾燥エビを製造する方法;
である。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、見栄えがよく且つより良好な喫食感を得られる乾燥エビが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】胸甲が除去されたエビの外観図。
【図2】図1のl−l線に沿って切断された断面図。
【図3】切断の例を示す模式図。
【図4】実施例1(向かって右側)と比較例1(向かって左側)を示す外観図。
【図5】実施例1(向かって右側)と比較例2(向かって左側)の外観を示す外観図。
【図6】実施例1(向かって左側)と比較例3(向かって右側)の外観を示す外観図。
【図7】実施例1(向かって右側)と比較例1(向かって左側)を示す外観図。
【図8】実施例1(向かって左側)と比較例3(向かって右側)を示す外観図。
【図9】比較例4の切断方法Cを示す図面(向かって右側)。
【図10】実施例1と比較例3の湯戻し中の重量の継時的変化を示すグラフ。
【図11】カップ麺の具材として使用する例を示す図。
【図12】切り目を入れたエビの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.乾燥エビ
本発明の乾燥エビは、白身肉部と、前記白身肉部の表面の少なくとも一部に位置する赤身薄部とを含み、前記白身肉部と前記赤身薄部は、一体に繋がり、前記白身肉部の少なくとも一部が前記赤身薄部の少なくとも一部を包み込んだ乾燥エビである。
【0008】
図1は腹節、尾節および尾肢の殻を除去した食用の代表的なエビ1の模式図である。エビ1は、腹節2と前記腹節2の一方の端に連続して位置する頭部5と、腹節2の他端に連続して位置する尾節3と、前記尾節3に連続する尾肢6とを含む。
【0009】
図1のエビ1を線l−lに沿って切断した断面を図2に示す。図2に示すように、殻が除去された一般的な剥きエビ1は、白身肉部11とその表面を構成する表面部分である表皮12を含む。
【0010】
表皮12は、白身肉部11と、白身肉部11および/または表皮12が繋がって一体化している。表皮12は、殻が付いた状態のエビでは、白身肉部11と甲殻、即ち、殻との間に存在する部分である。
【0011】
本発明の態様に従う乾燥エビにおいて、白身肉部は生エビの白身肉部11に相当し、赤身薄部は生エビの表皮12に相当する。即ち、生エビの表皮12が加熱され乾燥されて赤身薄部となる。生エビの表皮12は生の状態であっても本来的に濃色および/または淡色の種々の色、例えば、エビ茶色を示す傾向がある。このような生エビの表皮12は、加熱によって、より鮮やかな色調、例えば、加熱したエビに代表的なオレンジ色などの赤系色を示す。加熱した場合の色調もその濃淡の度合いは広い範囲に亘る。ここで「赤身薄部」とは、生エビの表皮12に相当する部分をいう。「赤身」とは肉眼では識別の困難な程度に薄い赤系色から、鮮やかなオレンジ色および/または黄色味を帯びたなどを含む比較的濃い赤系色までをも示す。エビの種および部位などにより赤身の色調はどのように異なってもよい。本発明の1態様に従う乾燥エビを容易にイメージすることを可能にする観点から、加熱乾燥された表皮12に相当する部分を便宜上「赤身薄部」と称す。上述したように、生の剥きエビにおいて、白身肉部11と表皮12は、これらの少なくとも何れかに由来する組織により一体化されているように見える。本発明の1つの態様である乾燥エビにおいても、白身肉部と赤身薄部は、白身肉部および/または赤身薄部に由来する組織、例えば、繊維状の物質、即ち、繊維質で互いに繋がって一体化しているとも考えられる。
【0012】
乾燥エビは、主に図1に示す胸甲が除去されたエビ1の腹節2および尾節3からなる腹部4の白身肉部11の一部と、白身肉部11に線維質で繋がった表皮12の一部を含むものが、少なくとも加熱および乾燥されたものである。加熱乾燥により表皮12は赤身薄部となる。
【0013】
表皮12は、白身肉部11よりも熱による収縮率が高いため、背側Aから腹側Bに背わたに沿って完全に切断、または背側Aから腹側Bに切り込みを入れた後に加熱をすると、図4の右側に示すように白身肉部11の一部が赤身薄部の一部を内側に巻き込み、一部を包み込んだ状態となる。このような状態を維持した状態で乾燥されたエビが本発明の態様に従う乾燥エビである。
【0014】
ここで、「背側から腹側に背わたに沿って切り込みを入れる」とは、原料となるエビが頭部と腹部と尾肢とを水平にして平坦な場所に置かれたときの高さ方向、即ち、厚み方向にほぼ直行する方向に、背わたの位置にほぼ相当する位置で、背側Aから腹側Bに切り込みを入れることをいう。また「切り込み」とは、背側Aから腹側Bの方向でエビを完全に切断すること、および完全には切断せずに、エビを背側Aから腹側Bの方向に切れ目を作ることの両方を指す。
【0015】
「背側Aから」とは、図1中のA点から生じる矢印方向である。「腹側Bから」とはB点から生じる矢印方向である。「背側Aから腹側Bに」とは図1中A点からB点への方向である。ここで「腹側」とは、エビにおいて歩脚、胸肢および腹肢などのある側をいう。ここで「背側」とは、腹側に対向する側をいう。また腹側と背側の間の位置を「側面側」とも称す。
【0016】
当該乾燥エビは、そのまま食されてもよく、更に何れかのそれ自身公知の調理手段により調理されてから食されてもよい。乾燥エビは、製造における何れかの段階でそれ自身に味付けがなされてもよく、されなくてもよい。更に製造段階における調味の如何に関わらず、乾燥エビの調理段階において調味されてもよく、調味されなくてもよい。
【0017】
乾燥エビの調理の例は、熱湯を注ぐこと、熱湯に加えることおよび煮ることなどのそれ自身公知の何れかの加熱手段による加熱であってもよい。例えば、乾燥エビは、喫食のために、熱湯を注ぐことにより湯戻しされることが好ましい。或いは、乾燥エビは、水を加えることにより水戻しされてもよい。
【0018】
乾燥エビの利用分野は広く、袋入り即席麺や即席カップ麺などの即席麺のかやくとして、おつまみやスナック菓子として、外食産業の食材として、また家庭用または食品産業用の食材として利用されてよい。
【0019】
本発明の態様に従う乾燥エビは、従来の乾燥エビに比べて見栄えがよく、嵩高い。また、従来の乾燥エビに比べて湯戻しの時間が短く、湯戻し後のエビ独特の風味およびプリプリとした食感があり、良好な喫食感を有している。
【0020】
2.製造方法
本発明に従う乾燥エビは、以下の工程を含む方法、またはこれらの工程からなる方法により製造されてもよい;
(a)無頭、無尾および無殻の未加熱のエビを背側から腹側の方向に背わたに沿って切り込みを入れること、
(b)(a)で得られたエビを加熱すること、
(c)(b)において加熱されたエビを乾燥すること。
【0021】
乾燥エビを製造するための原料となるエビは、一般的に食用とされるエビであればどのような種類のエビであってもよい。食用エビの例は、バナメイエビ、クルマエビ、タイショウエビ、サルエビおよびイセエビなどを含んでよい。
【0022】
このような原料のエビを、例えば、以下のような手順により処理することにより、乾燥エビが得られてもよい。
【0023】
原料のエビを洗浄し、腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、無頭、無尾および無殻の、所謂、剥きエビを得る。このとき頭部、尾肢および/または胸甲などの一部が任意に胸部に結合したまま残されてもよい。
【0024】
次に剥きエビに背側から腹側に背わたに沿って切り込みを入れる。即ち、剥きエビの頭部側端と腹部と尾肢側端とがほぼ水平になるように平坦な場所に置かれたときの高さ方向、即ち、厚み方向にほぼ直行する方向に、背わたの位置にほぼ相当する位置で、背側Aから腹側Bに切り込みを入れる。この切り込みは、完全な切断に到っても、一部を切るのみに留まる不完全な切り込みであってもよい。不完全な切り込みの場合、背側から入った切り込みは腹側に達することはない。その結果、背側には切り目があるが、腹側は繋がったままのエビとなる。対照的に、剥きエビが、背側から腹側の方向に背わたに沿って完全に切断された場合、当該剥きエビは切断により、2つの切断物になる。
【0025】
また、任意に、前記切り込みによる切れ目を有するエビまたはエビの切断物に対して、更なる切り込みが入れられてもよい。例えば、長手方向に交差する方向で更に2分、3分または4分など、任意の数に切断されてもよく、切れ目が作られてもよい。或いは、上記の(a)の「切り込みをいれること」の前に、即ち、剥きエビを背側から腹側の方向に背わたに沿って切り込みを入れる前に、剥きエビの長手方向に交わる方向で更なる切り込みが施されてもよい。
【0026】
「更なる切り込み」とは、前記(a)の「背側から腹側の方向に背わたに沿って切り込みを入れること」の前後何れかに限定されるものではない。「更なる切り込み」により、切断が達成されても、または切れ目が施されてもよい。そのような更なる切り込みは、例えば、他の何れの箇所に対して何れの角度および/または何れの程度で行われてもよい。更なる切り込みにより達成される切断の回数または切れ目の個数は、特に制限されるものではない。
【0027】
背側から腹側への切り込みの例を図を用いて説明する。頭部を外し胸甲および尾肢を除去した剥きエビ31を図3(1)に示す。剥きエビ31の左には、剥きエビ31を線m−mで切断した場合の断面を、断面31aとして模式的に示す。
【0028】
この剥きエビを、2回切断して得た切断物を図3(2)に示す。平坦な場所に置いて頭部側端、腹部および尾肢側端をほぼ水平にして平坦な場所に置いたときの高さ方向、即ち、厚み方向にほぼ直行する方向に、背わたの位置にほぼ相当する位置で、背側Cから腹側Dに2つに切断した。図3(2)の切断物の左側には、前記切断の方向を、剥きエビ31の断面31aに対する切断の方向として示した模式図である。図3(2)の切断は、断面31aの3時の方向を腹側、9時の方向を背側とした場合、9時の方向から3時の方向に切り込みを入れることにより達成される。更にこの切断物を長手方向で2つに切断した。このような本発明に従う切断法により得られた切断物の1例が図3(2)の切断物32である。図3(3)および図3(4)は比較例である切断法により得られた切断物の例を示す。
【0029】
図3(3)の切断物33は、2回の切断により得られる。まず、剥きエビを、背側Cから腹側Dへの方向に切断した図3(2)の切断方向で得られた切断面に直行する方向で切断する。この切断方向を、切断物33の左側に、剥きエビ31の断面31aに対する切断の方向として模式的に示す。この切断は、断面31aの3時の方向を腹側、9時の方向を背側とした場合、12時の方向から6時の方向に切り込みを入れることにより達成される。この切断は、腹側と背側の間の位置で且つ長手方向に沿って行うともいう。更に、この切断物を、更に長さ方向で2つに切断した。
【0030】
図3(4)の切断物34は、長手方向に交わる方向に3箇所で切断することにより、所謂、ぶつ切りして得た切断物である。
【0031】
切断されたエビは最終的な製品の種類に応じて調味されてもよい。調味は、例えば、塩、醤油および味噌などの調味料、胡椒、ニンニク、生姜およびカレー粉などの香辛料、砂糖およびハチミツなどの天然甘味料および合成甘味料、酒および調味油などを適宜混合してエビに対して添加してもよく、必要に応じて保存料および着色料などの添加剤を添加してもよい。これらを便宜的に総称して「添加物」と称す。エビに対する添加物の添加は、これらのうちの少なくとも1の添加物を直接ふりかけてもよく、2以上の添加物を組み合わせて1以上の混合物として少なくとも1組ずつふりかけてもよく、全ての添加物を混合物としてふりかけてもよい。或いはこれらの任意の添加物を1の添加物または2以上の添加物を組み合わせて、水および/または液体添加物などに溶解および/または懸濁して、これにエビを漬込んでもよく、そのような溶液または懸濁液をエビにふりかけてもよい。
【0032】
これを熱した湯または油に入れて加熱する。加熱は、肉部の蛋白質が白く変質し、喫食に適する程度に行えばよい。
【0033】
その後、冷却し、乾燥し、本発明に従う乾燥エビを得る。冷却は、放置により自然に行ってもよく、流水、氷水または水などに浸すことにより行ってもよい。また、冷却は、凍結乾燥など、冷却を伴う手段を利用して乾燥する場合などには必須ではない。乾燥は、凍結乾燥、風乾、熱風乾燥および自然乾燥など何れのそれ自身公知の手段により行ってよいが、風味をよくするためには凍結乾燥が好ましい。
【0034】
上述の方法では、添加物による調味を切断後に行う例を挙げたが、当該調味は、切断前、切断後、加熱前、加熱後、冷却前、冷却後、凍結乾燥前、凍結乾燥後および/または喫食直前であってもよく、或いは調味が行われなくともよい。
【0035】
本発明に従う乾燥エビは、加工工程において剥きエビの背ワタに沿って切断されるため、その後の洗浄作業で簡単に背ワタを完全に除去できる。通常切断しないエビは尖った機具に引っ掛けて背ワタを取り除くことが一般的である。しかしながら、当該機具により引っ掛けた背ワタが除去途中で切れてしまい、肉部に背ワタが残る可能性がある。背ワタが残ることで、見た目の悪さ、喫食時のザラつき感、鮮度低下などの保存性などにも影響が出ることが多い。このような問題も本発明の乾燥エビおよびその製造方法により解決することが可能である。
【0036】
このようにして得た乾燥エビは、従来の乾燥エビに比べて見栄えがよく、嵩高い。また、従来の乾燥エビに比べて湯戻しの時間が短く、湯戻し後のエビ独特の風味およびプリプリとした食感があり、良好な喫食感を有している。
【0037】
[例]
1.実施例1
大型サイズ(51/60以上)のバナメイエビを洗浄した後に、腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、所謂、剥きエビを得た。これを剥きエビの頭部側端と腹部と尾肢側端とがほぼ水平になるように平坦な場所に置かれたときの高さ方向、即ち、厚み方向にほぼ直行する方向に、背わたの位置にほぼ相当する位置で背ワタに沿って、背側から腹側に切断した。即ち、図3(2)の32aの方向に切断した。次に、これを更に2等分以下に切断した(これを「カット方法A」と称する)。ここにおいて記載したサイズの表示は、エビのサイズを表すために通常使用される表示であり、453.6g(即ち、1ポンド)当たりの無頭殻付きエビの尾数を示すものである。従って、上記の「51/60以上」のサイズは、453.6g当たりに51〜60尾が含まれるようなエビの大きさである。
【0038】
この切断したエビを熱湯に入れて加熱した。エビの体表面は、本発明においては表皮とも称するが、これは収縮する特性がある。加熱により白身肉部の一部が、表皮の一部を内側にして巻き込むように、即ち、包み込むように、切断面を外側にしてポップコーン状に丸まったエビが得られた。これを冷水に入れて冷却し、凍結乾燥を行った。これにより、加熱され乾燥された表皮に相当する赤身薄部の一部を白身肉部が包み込んだポップコーン状に丸まった形状を維持した本発明の態様に従う乾燥エビが得られた。
【0039】
得られた乾燥エビは、ボリューム感と同時に1尾のエビのような外観を示した。その結果を図4の向かって右側に示した。
【0040】
2.比較例
(1)比較例1
大型サイズ(51/60以上)のバナメイエビを洗浄した後に、腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、所謂、剥きエビを得た。この剥きエビを、実施例1と同様に加熱して冷却した後に凍結乾燥して得た比較例1を得た。比較例1を図4の向かって左側に示した。
【0041】
(2)比較例2
大型サイズ(51/60以上)のバナメイエビを洗浄した後に、腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、所謂、剥きエビを得た。これを背側と腹側との間の辺り、即ち、図3(3)の33aの辺りにナイフを入れて切断し、更に2分した(これを「カット方法B」と称する)。この切断したエビを熱湯に入れて加熱した。これを冷水に入れて冷却し、凍結乾燥を行った。カット方法Bでは、カット方法Aで得られたようなポップコーン状の形態は得られなかった。上述の実施例1と比較した図を図5に示した。
【0042】
(3)比較例3
従来、一般的に使用されるエビ(サイズ200/300以下)を腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、所謂、剥きエビを得た。この剥きエビを凍結乾燥して比較例3を得た。図6に実施例1と比較例3の外観を比較した図を示した。実施例1は比較例3よりも明らかに見栄えがよかった。
【0043】
(4)比較例4
大型サイズ(51/60以上)のバナメイエビを洗浄した後に、腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去し、所謂、剥きエビを得た。これを長さ方向に3箇所を切断して、4つにぶつ切りにした(これを「カット方法C」と称する、図9を参照されたい。図9の向かって右側の図は、図3(4)の切断物34と同様のものを示す)。この切断したエビを熱湯に入れて加熱した。これを冷水に入れて冷却し、凍結乾燥を行った。カット方法Cではカット方法Aで得られたようなポップコーン状の形態は得られなかった。
【0044】
3.嵩の比較
(1)実施例1と比較例1との比較
実施例1と比較例1の嵩を比べた結果を図7に示した。実施例1の乾燥エビの方が比較例1よりも若干嵩が高かった。実施例1と比較例1は、乾燥重量として共に15g使用した。スライスカットしたエビは嵩が大きいことから即席カップ麺などに使用した場合、見栄えがよい。
【0045】
(2)実施例1と比較例3との比較
実施例1と比較例3の嵩を比べた結果を図8に示した。実施例1の乾燥エビの方が比較例3よりも2倍以上嵩が高かった。実施例1と比較例3は、乾燥重量として共に15g使用した。スライスカットしたエビは嵩が大きいことから即席カップ麺などに使用した場合、小型サイズ(200/300以下)と比較して見栄えがよい。
【0046】
4.漬け込みへの効果
(1)実施例2
実施例1に記載の方法によりエビを切断した後に、アルカリ剤などで漬込み処理を行い、熱湯に入れて加熱した。その結果、実施例1と同様に、エビの表皮(即ち、乾燥後の赤身薄部)の一部を白身肉部が包み込み、切断面を外側にしてポップコーン状に丸まったエビが得られた。これを冷水に入れて冷却し、凍結乾燥を行い、実施例2の乾燥エビを得た。腹節および尾節を包む胸甲、足、触覚および棘、並びに頭部および尾肢を除去したのみの剥きエビでは漬込み歩留り115〜120%であったのに対して、実施例2の乾燥エビは、漬込み歩留まり140%以上を実現した。これは本発明に従う乾燥エビの場合には切断面からの吸水により、比較例1よりも向上したためであると考えられた。
【0047】
5.湯戻りの効果
実施例1と比較例3の湯戻り重量を比較した。その結果、実施例1の方が早い時間で重量が増えた。結果を表1〜3および図10に示す。このことから本発明に従う乾燥エビは従来の乾燥エビに比べて速い湯戻りが可能であることが示された。
【表1】
【0048】
6.官能試験
実施例1と比較例3について官能試験を行った。実施例1と比較例3をカップ麺に入れ、湯を注いで湯戻ししたものを10名が試食した。試食者が実施例1と比較例3を比較し、より好ましい方に点数(各1点)を入れて貰った。その結果を表4および表5に示す。
【表2】
【0049】
この結果から、本発明に従う乾燥エビは、従来の乾燥エビに比較して、ボリューム感および色合いがよく見栄えがし、湯戻しした後でもその見栄えは維持され、且つプリプリとした触感とエビ特有の風味と旨みがあることが試食者により評価された。
【0050】
7.エビ入り即席カップ麺
実施例1の乾燥エビを即席カップ麺の具材として使用する例を図11(向かって右側)に示す。即席カップ麺用の容器に、それ自身公知の手段により製造した即席ラーメン用の乾燥麺を入れ、その上に実施例1の乾燥エビを6個(乾燥重量1.82g)を加えた。
【0051】
同様に比較例3の乾燥エビを即席カップ麺の具材として使用する例を図11(向かって左側)に示す。即席カップ麺用の容器に、それ自身公知の手段により製造した即席ラーメン用の乾燥麺を入れ、その上に比較例1の乾燥エビを6個(乾燥重量2.13g)を加えた。図11は、お湯を注ぐ前のカップ内の上面図である。実施例1を使用した方が、1個当たりの乾燥エビの大きさが大きくて見栄えがすると共に、ユニークな形状をしており、食欲がそそられる。
【0052】
これらの2種類の乾燥エビを含む即席カップ麺に一般的な即席カップ麺の調理法に従って、湯を注ぎ、任意の時間(約3分)放置した後に喫食に供した。
【0053】
本発明に従う乾燥エビは、従来の乾燥エビに比較して、ボリューム感および色合いがよく見栄えがし、湯戻しした後でもその見栄えは維持され、且つプリプリとした触感とエビ特有の風味と旨みがあった。
【0054】
8.切れ目の効果を示す例
上述の例は、背側から腹側に切断した例を示したが、一部切り目を入れた場合の形態の例を図12に示す。最上段の図は、切れ目を入れた状態の生の剥きエビを左側を背側、右側を腹側に平面においた場合に上から見たときの図である。その下段はそれらを加熱したものを最上段のエビと同様に配置したである。最下段は、切れ目を作る前の生剥きエビを短手方向にぶつ切りに切断した場合の断面に対する切り込みの方向を示す図である。
【0055】
図12(1)には、背側と腹側の間に長手方向に沿って切り込みを入れた後に、長手方向に4つにぶつ切りにした切断物を示した。この切り込みの方向は、最下段に示すように、断面の9時の方向を背側、3時の方向を腹側とした場合、大凡10時〜11時の方向辺りから中心に向かう方向である。このような切断物に対する加熱により、本発明の態様に従うポップコーン状の丸まった形状のエビは得られなかった。
【0056】
図12(2)には、上記のカット方法Bと同様の方向であるが完全に切断せず、切れ目を入れたのみの状態の切断物を示した。この切り込みの方向は、最下段に示すように、大凡12時の方向辺りから中心に向かう方向である。この場合も、加熱により本発明の態様に従うポップコーン状の丸まった形状のエビは得られなかった。
【0057】
図12(3)は、長手方向に4つにぶつ切りにしただけのエビである。この場合も加熱により本発明の態様に従うポップコーン状の丸まった形状のエビは得られなかった。
【0058】
図12(4)には、カット方法Aと同様の方向であるが、完全な切断には至らずに切れ目を入れただけの状態の切断物を示した。即ち、エビの背側から腹側に切り込みを入れて切れ目を作り、更に長手方向に4つにぶつ切りにした切断物である。この切り込みの方向は、最下段に示すように、大凡9時の方向辺りから中心に向かう方向である。この切り方によれば、本発明の態様に従うポップコーン状の丸まった形状のエビが得られた(実施例3)。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、食品業界に手軽で美味しく、ユニーク且つ見栄えのするエビを提供することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白身肉部と、前記白身肉部の表面の少なくとも一部に位置する赤身薄部とを含み、前記白身肉部と前記赤身薄部は、一体に繋がり、前記白身肉部の少なくとも一部が前記赤身薄部の少なくとも一部を包み込んだ乾燥エビ。
【請求項2】
請求項1の乾燥エビを製造する方法であって、
(a)無頭、無尾および無殻の未加熱のエビを背側から腹側の方向に背わたに沿って切り込みを入れること、
(b)(a)で得られたエビを加熱すること、
(c)(b)において加熱されたエビを乾燥すること、
を具備する乾燥エビを製造する方法。
【請求項3】
前記(a)において切り込みを入れたエビに、更なる切り込みを入れることを更に具備する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
切り込みを入れたエビに調味を施すことを更に具備する請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記乾燥が凍結乾燥である請求項2〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項1】
白身肉部と、前記白身肉部の表面の少なくとも一部に位置する赤身薄部とを含み、前記白身肉部と前記赤身薄部は、一体に繋がり、前記白身肉部の少なくとも一部が前記赤身薄部の少なくとも一部を包み込んだ乾燥エビ。
【請求項2】
請求項1の乾燥エビを製造する方法であって、
(a)無頭、無尾および無殻の未加熱のエビを背側から腹側の方向に背わたに沿って切り込みを入れること、
(b)(a)で得られたエビを加熱すること、
(c)(b)において加熱されたエビを乾燥すること、
を具備する乾燥エビを製造する方法。
【請求項3】
前記(a)において切り込みを入れたエビに、更なる切り込みを入れることを更に具備する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
切り込みを入れたエビに調味を施すことを更に具備する請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記乾燥が凍結乾燥である請求項2〜4の何れか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−60(P2012−60A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138626(P2010−138626)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000222783)東洋水産株式会社 (21)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000222783)東洋水産株式会社 (21)
【Fターム(参考)】
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