説明

予備処理した活性炭触媒を用いるヒドロクロロフルオロカーボンの脱塩化水素

本発明は、活性炭を脱塩化水素プロセスにおいて用いる前に予備処理する方法を提供する。本方法には、活性炭を、酸、液相の酸化剤、又は気相の酸化剤と混合することを含ませることができる。これらの方法の1以上にかけた活性炭は、脱塩化水素プロセス中に向上した安定性を示すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年8月8日出願の米国出願60/963,913(参照として本明細書中に包含する)に関し、その優先権を主張する。
本発明は、脱塩化水素プロセスにおいて活性炭を使用する方法に関する。より具体的には、本発明は、予備処理した活性炭を用いてヒドロクロロフルオロアルカンからヒドロフルオロアルケンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)をより低い地球温暖化係数(GWP)を有するフッ素化アルケンへ脱塩化水素又は転化するための触媒として用いることができる。これらのフッ素化アルケンは、冷媒、スプレー用高圧ガス、洗浄剤として、及び巨大分子化合物のモノマーとしてなどの広範囲の用途において用いることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、活性炭は速やかに失活し始める傾向があり、このためにHCFCの転化速度が劇的に減少する。したがって、脱塩化水素プロセス中の活性炭の安定性を向上させる方法又はプロセスに対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本出願人は、活性炭触媒を無機物質除去及び/又は酸化すると、予期しなかったことに、特定の脱塩化水素反応、例えば1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパン(HCFC244bb)を脱塩化水素して2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)を形成する反応中において触媒が安定化されることを見出した。
【0005】
したがって、本発明の特定の態様においては、無機物質を除去した活性炭、酸化した活性炭、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される安定化した触媒の存在下においてヒドロフルオロクロロアルカンを脱塩化水素することを含む、フッ素化アルケンの製造方法が提供される。
【0006】
本発明の他の態様においては、活性炭触媒を無機物質除去し、活性炭触媒を酸化することを含む、活性炭触媒の予備処理方法が提供される。
本発明の更に他の態様においては、かかる予備処理方法にしたがって製造される活性炭触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本発明方法の幾つかの態様に関する実験データを示す。
【図2】図2は、本発明方法の幾つかの態様に関する実験データを示す。
【図3】図3は、本発明方法の幾つかの態様に関する実験データを示す。
【図4】図4は、本発明方法の幾つかの態様に関する実験データを示す。
【図5】図5は、本発明方法の幾つかの態様に関する実験データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
有利なことに、本発明によって、隣接する炭素上に少なくとも1つの水素及び少なくとも1つの塩素を有するHCFCの脱塩化水素中における活性炭(AC)の安定性を向上させる新規な方法が見出された。ACは、以下においてより詳細に議論する方法にしたがう脱塩化水素プロセスにおいて用いる前に予備処理することができる。与えるデータにおいて示されるように、この予備処理によってACの安定性及び特性の大きな向上が与えられる。
【0009】
第1の態様においては、ACを室温以上の温度において酸によって予備処理する。このプロセスのために好ましい酸としては、塩酸(HCl)、フッ化水素酸(HF)、又はこの2つの組み合わせが挙げられる。酸による予備処理は、以下の工程を含む:(1)ACを酸の水溶液と混合し;(2)懸濁液を、室温以上の温度において少なくとも第1の時間撹拌し、次に濾過して酸をACから分離し;(3)酸からイオンが実質的に除去されるまでACを蒸留水で洗浄し;そして(4)ACを第1の温度において少なくとも第2の時間乾燥する。ACの試料は、空気中、約50℃〜約120℃又はこれ以上の温度において乾燥することができる。また、ACは、空気中、約100℃〜約110℃の温度において乾燥することもできる。第1の時間は、約0.5〜約24時間又はこれ以上であってよい。また、第2の時間も、約0.5時間〜約24時間又はこれ以上であってよい。
【0010】
第2の態様においては、液相の酸化剤を用いてACの予備処理を行うことができる。この態様においては、予備処理は以下の工程を含む:(1)ACを酸化剤の水溶液と混合し;(2)懸濁液を、室温以上の温度において少なくとも第3の時間撹拌し、次に濾過してACを酸化剤から分離し;(3)ACを第2の温度において少なくとも第4の時間乾燥し;次に(4)窒素のような不活性ガス中において第3の温度で少なくとも第4の時間熱処理する。第3及び第4の時間も、約0.5〜約24時間又はこれ以上であってよい。工程(3)においては、ACを約50℃〜約120℃において乾燥することができる。工程(4)においては、第4の時間は約0.5時間〜約4時間又はこれ以上であってよい。第3の温度は、約250℃〜約750℃又はこれ以上であってよい。また、第3の時間は1時間であってもよく、第3の温度は約400℃であってもよい。液相に関しては、酸化剤の非限定的な例としては、硝酸(HNO)及び過酸化水素(H)の水溶液、又はこれら2つの組み合わせが挙げられる。
【0011】
第3の態様においては、気相の酸化剤を用いてACの予備処理を行うことができる。この態様においては、予備処理は以下の工程を含む:(1)ACを反応中に装填し;(2)純粋か又は希釈した気体状酸化剤を反応器を通して流し;そして(3)ACの少なくとも一部を第4の温度において第6の時間酸化する。工程(2)においては、酸化剤を窒素のような不活性ガスで希釈することができる。この希釈混合物中の酸化剤の濃度は、約1%〜約10%であってよい。工程(3)においては、第6の時間は約5秒〜約12時間又はそれ以上、或いは約2時間であってよい。第4の温度は、約250℃〜約750℃又はこれ以上であってよい。また、第4の温度は約450℃であってもよい。一般に、より低い温度についてはより長い時間が必要である。この酸化工程中において、ACの表面上に酸素含有基が形成され、小割合のACが昇温下において深度酸化のために燃焼除去される可能性がある。気相については、酸化剤の非限定的な例としては、二原子酸素(O)及び二酸化炭素(CO)又はこれら2つの組み合わせが挙げられる。
【0012】
ACは上記に記載の予備処理のいずれか1つの単独によって予備処理することができ、或いはこれら3つの任意の組み合わせによって処理することができる。例えば、ACをHClで予備処理し、次にHNOで第2の予備処理を行うことができる。更に、上記に記載の方法は脱塩化水素プロセスにおいて用いる前に予備処理したACに関するものであるが、本発明はこれらの方法によって消費されたか又は失活したACを処理してACを回復することも意図する。失活したACを上記に記載の処理法にかけ、次に回復したら脱塩化水素プロセスにおいて用いることができる。
【0013】
本発明の脱塩化水素プロセスにおいて用いることができる数多くのHCFCが存在する。下表1に、可能なHCFC、及び脱塩化水素プロセスによって製造される得られるフッ素化アルケンのリストを示す。
【0014】
【表1】

【0015】
任意の上記記載の態様において、脱塩化水素にかけるHCFCは、244bbとしても知られている1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパンであってよく、得られるフッ素化アルケンは1234yfとしても知られている2,3,3,3−テトラフルオロプロペンである。以下の実験データは、脱塩化水素プロセスにおいて用いる前にACを予備処理することにより、HCFCのフッ素化アルケンへの転化を触媒するACの能力を未処理のACによって達成されるものを超えて向上させることができることを示す。脱塩化水素方法は、共に係属している2007年1月3日出願の米国特許出願11/619,592(以下、「592出願」;参照として本明細書中に包含する)に記載されている。ACは、Alfa Aesar Corporationなどの数多くの供給源から入手することができる。
【実施例】
【0016】
実施例1:未処理及びHCl処理AC上での244bbの脱塩化水素:
実施例1においては、未処理及びHClで処理した活性炭(AC)を脱塩化水素触媒として用いた。20ccの触媒顆粒を用いた。92.7%の244bb/6.5%の1233xfの混合物を、6g/時の速度でAC触媒のそれぞれの床に通した。1233xfはCCl=CClCHClのフッ素化中に形成される中間生成物であり、592出願において記載されているように244bbを製造するための原材料として用いられる。この理由のために、244bbの流れは、しばしば若干量の1233xfを含む。触媒床の底部及び触媒床の頂部における温度を記録し、報告した。350〜385℃におけるデータを示す図1に示されるように、ACの安定性は、HClによる処理の後に僅かに向上した。
【0017】
実施例2:HCl−及びHCl&HNO−処理活性炭上での244bbの脱塩化水素:
実施例2においては、上記に記載の方法にしたがってHClで予備処理したAC並びにHCl&HNOの両方で予備処理したACを、脱塩化水素触媒として用いた。20ccの触媒顆粒を用いた。92.7%の244bb/6.5%の1233xfの混合物を、6g/時の速度でAC触媒のそれぞれの床に通した。触媒床の底部及び触媒床の頂部における温度を記録し、報告した。図2において示すように、350〜385℃においては、HClのみで予備処理したACと比較して、HCl&HNOで予備処理したACは遙かに高い安定性を示した。後者については、244bbの転化率は運転10時間後においてもなお80%より高く、一方、前者については、運転10時間後に既に55%を下回った。この結果により、HNOによる液相での酸化処理を、特にHClの予備処理と組み合わせて用いると、ACの安定性を大きく向上させることができることが示唆される。
【0018】
実施例3:HCl−及びHCl&H−処理活性炭上での244bbの脱塩化水素:
実施例3においては、上記に記載の方法にしたがってHClで予備処理したAC並びにHCl&Hの両方で予備処理したACを、脱塩化水素触媒として用いた。20ccの触媒顆粒を用いた。92.7%の244bb/6.5%の1233xfの混合物を、6g/時の速度でAC触媒のそれぞれの床に通した。触媒床の底部及び触媒床の頂部における温度を記録し、報告した。図3において示すように、350〜385℃においては、HClのみで予備処理したACと比較して、HCl&Hで予備処理したACはより高い安定性を示した。後者は10時間の運転後に約70%の244bbの転化率を示し、一方、前者は10時間の運転後に約55%より低い率を示した。この結果により、HClによる予備処理の後にHによる液相でのACの予備処理を行うと、HClのみで予備処理したものを超えてACの安定性を向上させることができることが示唆される。
【0019】
実施例4:HCl−及びHCl&5%O/N−処理活性炭上での244bbの脱塩化水素:
実施例4においては、HClのみで予備処理したAC並びにHCl&5%O/95%Nの混合物で予備処理したACを、脱塩化水素触媒として用いた。20ccの触媒顆粒を用いた。92.7%の244bb/6.5%の1233xfの混合物を、6g/時の速度でAC触媒のそれぞれの床に通した。触媒床の底部及び触媒床の頂部における温度を記録し、報告した。図4において示すように、350〜385℃においては、HCl及び5%O/95%Nの混合物で処理したACは、少なくともほぼ7時間の間(運転3時間目から10時間目まで)その活性を約70%のレベルで保持することができた。これに対して、HClで処理したACの特性は時間と共に低下した。これにより、気体状O混合物によるACの酸化予備処理を、特にHClによる予備処理と組み合わせると、ACの長期間安定性を大きく向上させることができることが示される。
【0020】
実施例5:新品の活性炭及びHNO処理活性炭上での244bbの脱塩化水素:
実施例5においては、未処理のAC、及び上記に記載の方法にしたがってHNOで予備処理したACを、脱塩化水素触媒として用いた。通常の実験においては20ccの触媒顆粒を用いた。97.2%の244bb/2.0%の1233xfの混合物を、6g/時の速度で触媒床に通した。触媒床の底部及び触媒床の頂部における温度を記録し、報告した。図5において示すように、350〜385℃においては、HNOで予備処理したACは、4時間目から8時間目までの間その活性を75%より高いレベルで保持することができた。これに対して、未処理のACの特性は時間と共に間断なく低下した。これにより、HClによる予備処理を行わない場合においても、HNOで予備処理することによってACの安定性を大きく向上させることができることが示される。
【0021】
本発明をその好ましい形態を特に参照して説明したが、特許請求の範囲において規定される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく種々の変更及び修正を行うことができることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物質を除去した活性炭、酸化した活性炭、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される安定化した触媒の存在下においてヒドロフルオロクロロアルカンを脱塩化水素することを含む、フッ素化アルケンの製造方法。
【請求項2】
ヒドロクロロフルオロアルカンが、1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパン、1,1,1,2−テトラフルオロ−3−クロロプロパン、1,1,1,3−テトラフルオロ−3−クロロプロパン、1,1,1,3−テトラフルオロ−2−クロロプロパン、1,1,1,2,3−ペンタフルオロ−2−クロロプロパン、1,1,1,2,3−ペンタフルオロ−3−クロロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロ−3−クロロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロ−2−クロロプロパン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2−クロロプロパン、及び1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−クロロプロパンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒドロクロロフルオロアルカンが1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
フッ素化アルケンが、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、及び1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロペンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
フッ素化アルケンが2,3,3,3−テトラフルオロプロペンである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
安定化した触媒が、塩酸及びフッ化水素酸からなる群から選択される少なくとも1種類の酸の存在下で無機物質除去した活性炭である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
酸が塩酸である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
安定化した触媒が、硝酸及び過酸化水素からなる群から選択される少なくとも1種類の液相酸化剤の存在下で酸化した活性炭である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
安定化した触媒が、O及びCOからなる群から選択される少なくとも1種類の気相酸化剤の存在下で酸化した活性炭である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
活性炭が硝酸の存在下で更に酸化したものである、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
活性炭が過酸化水素の存在下で更に酸化したものである、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
活性炭がOの存在下で更に酸化したものである、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
安定化した触媒が、
活性炭、並びに塩酸及びフッ化水素酸からなる群から選択される少なくとも1種類の酸を含む懸濁液を形成し;
懸濁液を、少なくとも約22℃の温度において、約0.5〜約24時間の第1の時間撹拌し;
懸濁液を濾過して活性炭触媒を酸から分離し;
触媒を洗浄して実質的に全ての遊離イオンを活性炭触媒から除去し;そして
触媒を、少なくとも約50℃の温度において約0.5〜約24時間の第2の時間乾燥する;
ことを含む無機物質除去プロセスにかけた活性炭である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
安定化した触媒が、
活性炭、並びに硝酸及び過酸化水素からからなる群から選択される少なくとも1種類の酸化剤を含む懸濁液を形成し;
懸濁液を、少なくとも約22℃の温度において、約0.5〜約24時間の第1の時間撹拌し;
撹拌に続いて懸濁液を濾過して活性炭を酸化剤から分離し;
濾過に続いて活性炭を、少なくとも約50℃の温度において約0.5〜約24時間の第2の時間乾燥し;そして
触媒を、不活性ガス中、約250℃〜約750℃の温度において約0.5〜約4時間の第3の時間熱処理する;
ことを含む液相酸化プロセスにかけた活性炭である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
安定化した触媒が、
活性炭を気体状酸化剤と約250〜約750℃の温度において約5秒〜約12時間接触させる;
ことを含む気相酸化プロセスにかけた活性炭である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
活性炭触媒を無機物質除去し;そして
活性炭触媒を酸化する;
ことを含む活性炭触媒の予備処理方法。
【請求項17】
無機物質除去が、活性炭触媒を、塩酸及びフッ化水素酸からなる群から選択される少なくとも1種類の酸と接触させることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
酸化が、活性炭を、硝酸、過酸化水素、O、及びCOからなる群から選択される少なくとも1種類の酸化剤と接触させることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法にしたがって製造される活性炭触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−535698(P2010−535698A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520317(P2010−520317)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/072549
【国際公開番号】WO2009/021154
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】