説明

予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリュー

【課題】複雑な予圧力の調整プロセスを改善し、研磨工程、ボルトの取り外し、組み付けステップを省き、大幅に予圧力調整の時間を短縮して、生産コストを引き下げること。
【解決手段】予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリューであって、螺旋運動によって予圧調整装置を軸方向へ変位させ、第一内転動スロットと外転動スロット及び第一転動部品の間、及び第二内転動スロットと外転動溝及び第一転動部品との間に予圧力を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線形伝動装置に関し、特にナット回転式ボール・スクリューの予圧構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来の予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリュー90を示したもので、このナット回転式ボール・スクリュー90は、ナット91と、第一軸受けスリーブ92と、第二軸受けスリーブ93と、複数の転動部品94と、予圧片95とを含む。
【0003】
スクリューを穿設するための通孔を設けたナット91の外縁には二つの転動溝911、912が設けられている。第一軸受けスリーブ92、予圧片95及び第二軸受けスリーブ93が順次それらの外縁にセットされている。前記第一軸受けスリーブ92と第二軸受けスリーブ93にはナット91に対応する転動溝911、912の第一転動溝921及び第二転動溝931が設けられている。前記第一転動溝921及び転動溝911と第二転動溝921及び転動溝912の間にはそれぞれ複数の転動部品94が設けられている。前記転動部品94は、第一軸受けスリーブ92、第二軸受けスリーブ93とナット91の間に提供された伝動媒質である。前記第一軸受けスリーブ92及び第二軸受けスリーブ93にはそれぞれ第第一フランジ922及び第二フランジ932が設置されている。前記第一フランジ922及び第二フランジ932の上にはそれぞれ複数の第一ザグリ穴923及び第二ザグリ穴933が設けられている。前記予圧片95は、前記第一軸受けスリーブ92及び第二軸受けスリーブ93の間に設置される。前記第一ザグリ穴923及び第二ザグリ穴933に対応する通孔951が設けられている。そして、前記第一ザグリ穴923、第二ザグリ穴933及び通孔951は、ボルトを穿設するためである。
【0004】
前記ボルトが締め付けられると、前記第一軸受けスリーブ92は左へ向う予圧力Xを生じ、前記第二軸受けスリーブ93には右へ向かう予圧力Yが生じて、転動部品94と第一転動溝921及び転動溝911の間に圧力を生じさせる。
又、転動部品94と第二転動溝931及び転動溝911の間にも圧力が生じる。
このようにして、ボール・スクリュー運行時の精度及び位置決め精度を向上させることができる。
【0005】
しかしながら、この予圧の調整方式にはつぎのような問題点がある。
【0006】
(1)予圧力の大小は予圧片の厚みを研磨して調整しなければならないので、調整過程で取り外し、ボルトの組み付け(しかもボルトは少なくとも3組以上有る)等の作業を繰りかえさなければならず、組み立て手順が煩雑で時間がかかり、コストも高くなる。
【0007】
(2)ボール・スクリューは、機械に取り付ける場合に大部分がフランジによって機械に固定しなければならない。そのため、ユーザーによってはフランジの厚みに注文をつけることが有る。そのため、従来技術におけるフランジは、予圧片、第一フランジ及び第二フランジで構成される。従って、フランジの厚みは一体式のフランジより厚みが大きい。フランジの厚みを小さくしようとすれば、予圧片、第一フランジ及び第二フランジの間の接触する平面を研磨しなければならない。
しかし、そうすれば第一ザグリ穴および第二ザグリ穴の厚みが縮小されて、相対的にその部位の剛性が下がり、又、ボルトを締め付けた後の全体の剛性にも影響するので、損壊が生じ易い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて成されたもので、本発明の主要な目的は、調整し易い予圧構造を開発してナット回転式ボール・スクリューの使用に供することにある。
本発明の次の目的は、ナット回転式ボール・スクリューのフランジを一体成型のものとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した発明の目的を達成するため、本発明は、予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリューであり、ボール・スクリューと、ナットと、回流コンポーネントと、軸受けスリーブと、予圧調整装置と、を含む。
前記ボール・スクリューは、細長い棒状の構造で、外縁に螺旋状の転動溝が設けてある。
前記ナットは、前記ボール・スクリューを穿設するための通孔があり、前記通孔の内縁には前記転動溝に対応する転動スロットが設けられ、前記転動溝及び転動スロットは負荷経路を形成し、且つ前記ナットの外縁には外転動スロット及び外ねじ山が設けられ、別途軸方向に両端を貫通する回流孔が設けられている。
前記回流コンポーネントは、前記ナットの上に取り付けられ、前記回流コンポーネントには前記負荷経路及び回流孔を連接する回流道が設けられ、前記負荷経路、回流孔及び回流道は循環経路を形成し、前記循環経路には複数の第二転動部品が設けてある。
前記軸受けスリーブは、環状の構造で、内環面に第一内転動スロット及び第二内転動スロットを設け、前記第一内転動スロットは、前記外転動スロットと経路を形成し、複数の第一転動部品の収容設置に供し、別途外環面にフランジが設けてある。
前記予圧調整装置は、環状の構造で、その外環面に外転動溝を設け、前記外転動溝は第二内転動スロットと経路を形成し、複数の第一転動部品の収容設置に供し、別途内環面に内ねじ山を設け、前記内ねじ山は前記外ねじ山と螺合して、前記予圧調整装置を前記ナットの上に設置させ、且つ螺旋運動によって前記予圧調整装置を軸方向へ変位させる、前記予圧調整装置が第一転動部品の方向へ締め付けられると、第一内転動スロットと外転動スロット及び第一転動部品の間、及び第二転動スロットと外転動溝及び第一転動部品の間に予圧力が生じる、若し第一転動部品の反対方向へ変位した場合は、前記予圧力は小さくなる、このようにして予圧力の大小を調整する。
【0010】
上述のように、前記予圧調整装置は、本体及び調整部品によって構成される。 前記外転動溝は前記本体に設置され、前記内ねじ山は前記調整部品の中に設置され、そして前記本体は前記ナットの外縁にセットされ、且つ軸方向へ変位することが出来る。前記調整部品は内ねじ山によって外ねじ山と螺合し、且つ螺旋運動によって前記調整部品を軸方向へ変位させる。前記調整部品は前記本体へ接近し、前記第一内転動スロットと前記外転動スロット及び前記第一転動部品の間、及び前記第二転動スロットと前記外転動溝及び前記第一転動部品の間に予圧力を生じさせる。
【0011】
上述のように、予圧調整装置の位置決め効果を増加するために、予圧調整装置に径方向の固定穴を設けてある。前記固定穴は位置決め部品をその中に螺設するためで、前記予圧力を所要の値まで調整し、更に前記位置決め部品によって前記固定穴へ螺設する。且つ前記位置決め部品の一端と前記外ね山に干渉が生じ、更に摩擦力を生じさせる。このようにして、予圧調整装置が運転時にゆるみ、予圧力が消えるようなことが、起こりにくくすることが出来る。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、従来の複雑な予圧力の調整プロセスを改善したもので、最も時間のかかる研磨工程、及びボルトの取り外しや組み付けのステップを省き、大幅に予圧力調整の時間を短縮することができるものである。
さらに本発明におけるフランジは一体成型して軸受けスリーブに設置してあるため、各種厚みのフランジ需要に対応し、ナット回転式ボール・スクリューの通用性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリューの断面図である。
【図2】本発明に係る予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリューの第一実施例の分解図である。
【図3】本発明に係る予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリューの第一実施例の組み立て図である。
【図4】図3A−Aの断面図である。
【図5】図3B−Bの断面図である。
【図6】本発明に係る予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリューの第二実施例の分解図である。
【図7】本発明に係る予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリューの第二実施例の組み立て図である。
【図8】図7C−Cの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の特徴を明確に説明するため、本発明の従来技術と比較してより進歩したところ等について以降に説明する。
【実施例】
【0015】
図2〜図5は、本発明の第一実施例に係るナット回転式ボール・スクリューを示したものである。
【0016】
本発明は、予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリューであり、スクリュー1と、ナット2と、回流コンポーネント4と、軸受けスリーブ3と、予圧調整装置6と、を含む。
【0017】
前記スクリュー1は、細長い棒状の構造で、その外縁に螺旋状の転動溝11をもうけてある。
【0018】
前記ナット2は、前記スクリュー1を穿設するための通孔を有する。前記通孔の内縁には前記転動溝11に対応する転動スロット21が設けられている。前記転動溝11及び転動スロット21は負荷経路を形成している。
【0019】
前記ナット2の外縁には外転動スロット22及び外ねじ山24が設けてあり、尚前記ナット2の軸方向には両端を貫通する回流孔23が設けてある。
前記回流コンポーネント4は、前記ナット2の上に取り付けられ、前記回流コンポーネント4には前記負荷経路及び回流孔23を連接する回流道41が設けられ、前記負荷経路、回流孔23及び回流道41は循環経路を形成し、前記循環経路には複数の第二転動部品8を設けてある。
【0020】
前記軸受けスリーブ3は、環状の構造をなし、内環面3Bに第一内転動スロット31及び第二内転動スロット32が設けられている。前記第一内転動スロット31は、前記外転動スロット22とで経路を形成し、複数の第一転動部品5の収容設置に供し、尚外環面3Aにフランジ33が設けてある。
【0021】
前記予圧調整装置6は、環状の構造をなし、外環面61に外転動溝611を設け、前記外転動溝611と前記第二内転動スロット32によって複数の第一転動部品5を収容設置するための経路を形成している。別途の内環面には内ねじ山62を設ける。前記内ねじ山62と前記外ねじ山24を螺合することによって、前記予圧調整装置6を前記ナット2の上に設置する。螺旋運動によって前記予圧調整装置6を軸方向Hへ変位させることができる。前記予圧調整装置6が第一転動部品5の方向へ接近すると、第一内転動スロット31と外転動スロット22及び第一転動部品5の間、及び第二転動スロット32と外転動溝611及び第一転動部品5との間に予圧力Zが生じる。
【0022】
前記予圧調整装置6が第一転動部品5の反対方向へ変位した場合は、前記予圧力Zは小さくなる。このようにして、前記予圧調整装置6を回して動かすだけで予圧力Zの大小を調整することが出来る。
【0023】
尚、予圧調整装置6の位置決め効果を増加するため、予圧調整装置6に径方向の固定穴63を設けてある。前記固定穴63は、位置決め部品7をその中に螺設するためのもので、前記予圧力Zが所要の値まで調整されたとき、更に前記位置決め部品7によって前記固定穴63に螺設すると共に、前記位置決め部品7の一端と前記外ねじ山24とが干渉して摩擦力が生じる。このようにして、予圧調整装置が運転時にゆるみ、予圧力が消えるようなことが、起こりにくくすることが出来る。
【0024】
図6〜図8は、本発明の第二実施例に係るナット回転式ボール・スクリューを示したものである。
【0025】
第一実施例と比較して異なるところは、前記予圧調整装置6は、本体6B及び調整部品6Aによって構成される。前記本体6Bの外環面61Bには外転動溝611Bが設けられている。前記外転動溝611Bと前記第二内転動スロット32によって複数の第一転動部品5を収容設置するための経路を形成している。そして本体6Bは前記ナット2の外縁にセットされると共に軸方向へ変位することが出来る。
【0026】
前記調整部品6Aの内環面には内ねじ山61Aが設けられている。前記調整部品6Aは前記内ねじ山61Aによって前記外山24と螺合し、且つ螺旋運動によって前記調整部品6Aを軸方向Hへ変位させ得る。
【0027】
そして前記調整部品6Aは前記本体6Bへ接近し、第一内転動スロット31と外転動スロット22及び第一転動部品5の間、及び第二転動スロット32と外転動溝611B及び第一転動部品5との間に予圧力Zが生じる。
【0028】
尚、前記調整部品には、第一実施例に述べたような固定穴62Aが設けられてる。前記固定穴62Aは位置決め7をその中に螺設して予圧調整装置6が運転時に緩んで予圧力が消えることを防止するためである。
【0029】
その他の構造及び組立て状態は全て第一実施例と同じであるので、ここでは詳しい説明を省略する。
【0030】
以上を総合すると、本発明は従来の複雑な予圧力調整プロセスを改善し、最も時間がかかる研磨工程及び取り外し、或いはボルト組み付けのステップを省き、大幅に予圧力調整の時間を短縮し、且つ本発明のフランジは一体成型して軸受けスリーブに設置されるため、各種厚みのフランジのニーズに応え、ナット回転式ボール・スクリューの通用性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0031】
(従来技術)
90 ナット回転式ボール・スクリュー
91 ナット 911、912 転動溝
92 第一軸受けスリーブ 921 第一転動溝
922 第一フランジ 923 第一ザグリ穴
94 転動部品 95 予圧片
951 通孔 93 第二軸受けスリーブ
931 第二転動溝 932 第二フランジ
933 第二ザグリ穴 X,Y 予圧力
(本発明)
1 スクリュー 11 転動溝
2 ナット 21 転動スロット
22 外転動スロット 23 回流孔
24 外ねじ山 3 軸受けスリーブ
3A 外環面 3B 内環面
31 第一内転動スロット 32 第二内転動スロット
33 フランジ 4 回流コンポーネント
41 回流道 5 第一転動部品
6 予圧調整装置
61、61B 外環面
611、611B 外転動溝
62、61A 内ねじ山
63、62A 固定穴
6A 調整部品 6B 本体
7 位置決め部品 8 第二転動部品
Z 予圧力 H 軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリューと、ナットと、回流コンポーネントと、軸受けスリーブと、予圧調整装置と、を含み、
前記スクリューは、細長い棒状の構造で、その外縁に螺旋状の転動溝をもうけてあり、
前記ナットは、前記スクリューを穿設するための通孔を有し、前記通孔の内縁には前記転動溝に対応する転動スロットが設けられ、前記転動溝及び転動スロットは負荷経路を形成し、且つ前記ナットの外縁には外転動スロット及び外ねじ山が設けてあり、
前記回流コンポーネントは、前記ナットの上に取り付けられ、
前記軸受けスリーブは、環状の構造をなし、内環面に第一内転動スロット及び第二内転動スロットが設けられ、前記第一内転動スロットは、前記外転動スロットとで経路を形成し、複数の第一転動部品の収容設置に供し、
前記予圧調整装置は、環状の構造をなし、外環面に外転動溝を設け、前記外転動溝と前記第二内転動スロットによって複数の第一転動部品を収容設置するための経路を形成し、別途の内環面に内ねじ山を設け、前記内ねじ山と前記外ねじ山を螺合することによって、前記予圧調整装置を前記ナットの上に設置すると共に、螺旋運動によって前記予圧調整装置を軸方向へ変位させ、前記第一内転動スロットと前記外転動スロット及び前記第一転動部品の間、及び前記第二転動スロットと前記外転動溝及び前記第一転動部品との間に予圧力が生じる、ことを特徴とする予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリュー。
【請求項2】
スクリューと、ナットと、回流コンポーネントと、軸受けスリーブと、予圧調整装置と、を含み、
前記スクリューは、細長い棒状の構造で、その外縁に螺旋状の転動溝をもうけてあり、
前記ナットは、前記スクリューを穿設するための通孔を有し、前記通孔の内縁には前記転動溝に対応する転動スロットが設けられ、前記転動溝及び転動スロットは負荷経路を形成し、且つ前記ナットの外縁には外転動スロット及び外ねじ山が設けてあり、
前記回流コンポーネントは、前記ナットの上に取り付けられ、
前記軸受けスリーブは、環状の構造をなし、内環面に第一内転動スロット及び第二内転動スロットが設けられ、前記第一内転動スロットは、前記外転動スロットとで経路を形成し、複数の第一転動部品の収容設置に供し、
前記予圧調整装置は、本体及び調整部品によって構成され、前記本体の外環面には外転動溝が設けられ、前記外転動溝と前記第二内転動スロットによって複数の第一転動部品を収容設置するための経路を形成し、そして本体は前記ナットの外縁にセットされると共に軸方向へ変位することが出来る、前記調整部品の内環面には内ねじ山が設けられ、前記調整部品は前記内ねじ山によって前記外ねじ山と螺合し、且つ螺旋運動によって前記調整部品を軸方向へ変位させる、そして前記調整部品は前記本体へ接近し、前記第一内転動スロットと前記外転動スロット及び前記第一転動部品の間、及び前記第二転動スロットと前記外転動溝及び前記第一転動部品との間に予圧力が生じる、ことを特徴とする予圧構造を有するナット回転式ボール・スクリュー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−117596(P2011−117596A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242166(P2010−242166)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(395011229)上銀科技股▲分▼有限公司 (110)
【Fターム(参考)】