説明

二次電池およびその製造方法

【課題】活物質層平面内のある一方向の膨張収縮だけでなく、2充元あるいは特に厚み方向の膨張収縮に伴う二次電池電極構造の変形も同時に抑制する二次電池を提供する。
【解決手段】弾性体(2)と、弾性体上に形成された集電板(3、4)と、集電板上に形成された活物質層(6、7)と、を有する二次電池であって、集電板、弾性体および活物質層で電極体(1)が構成され、集電板にスリット(8)が設けられ、弾性体は弾性体突起部(5)を有し、弾性体の弾性体突起部が集電板のスリットおよび活物質層の間を通過している二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などにおいては、特に負極活物質層と負極集電体とを一体化した二次電池も含め、充放電にともなう負極の膨張収縮が激しいことから、電池を組み立てた後に行う最初の充放電、もしくは充放電の繰り返しによって、電極内部の部材に不均一な圧力が加わり、電極の部分的な亀裂や断裂、またそこまで至らなくても活物質と導電材との接触率や空隙変化等が生じる。その結果、電池の変形の他、充放電サイクルの繰り返しに伴う容量の低下、抵抗の上昇、安全性の低下等の問題が発生する。
【0003】
従来例として、特許文献1には次のような技術が開示されている。正極合剤塗料を正極集電体2の上に塗布して正極合剤層1を形成した正極板3と、負極合剤塗料を負極集電体5の上に塗布して負極合剤層4a,4bを形成した負極板16との間にセパレータとしての多孔質絶縁層6を介在させ渦巻状に捲回して構成した電極群17における正極板3の伸縮性を向上させるために正極集電体2に伸縮度の大きいアルミニウム合金を用いた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−62049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、電極長手方向の伸縮促進機能として、正極集電体に幅方向に切込み部を設けて構成したことにより、充放電時に正極集電体が切込み部で伸ばされて負極板の伸縮度に近づけることができ、正極板の破断または挫屈を抑制することができると記載されている。しかし、電極活物質の厚み方向の膨張収縮に関しては考慮されていない。活物質と導電材との接触率や空隙変化まで踏み込んで電極微細構造の変形を封じるためには、活物質への一方向のみの応力緩和だけではなく、2次元さらには3次元的な電極の応力緩和が必要である。
【0006】
そこで、本発明では、活物質層平面内のある一方向の膨張収縮だけでなく、2充元あるいは特に厚み方向の膨張収縮に伴う二次電池電極構造の変形も同時に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)弾性体と、弾性体上に形成された集電板と、集電板上に形成された活物質層と、を有する二次電池であって、集電板、弾性体および活物質層で電極体が構成され、集電板にスリットが設けられ、弾性体は弾性体突起部を有し、弾性体の弾性体突起部が集電板のスリットおよび活物質層の間を通過している二次電池。
(2)上記において、集電板が厚さ方向に二層に分割され、二層の集電板の間に弾性体を介在させた二次電池。
(3)上記において、弾性体突起部の集電板表面からの高さは、弾性体に隣接する活物質層の高さより小さい二次電池。
(4)上記において、集電板は、細長い矩形形状であり、集電板のスリットは、集電板の短尺側の方向において、一個以上設けられる二次電池。
(5)上記において、集電板の長手方向において、集電板のスリットの間隔が、電極体の捲回最内側から捲回最外側に向かって広くなる二次電池。
(6)上記において、集電板の短尺側の方向において、集電板のスリットの片方の端が集電板の端部に達している二次電池。
(7)上記において、請求項1乃至6のいずれかにおいて、集電板の面内方向において、弾性体の間に空間部が設けられる二次電池。
(8)上記において、空間部に計測センサーが挿入されている二次電池。
(9)上記において、電極体は、負極体および正極体のいずれかであり、電極体に接するセパレータを有し、電極体およびセパレータで捲回体が構成され、集電板は上集電板および下集電板を有し、上集電板は、下集電板より捲回体の外周側に形成され、弾性体は上集電板および下集電板で内包されており、捲回体の捲回方向において、弾性体は、弾性体内周端部および弾性体外周端部を有し、捲回体の捲回方向において、弾性体内周端部より内側では、上集電板および下集電板は接しており、捲回体の捲回方向において、弾性体外周端部より外側では、上集電板および下集電板は接している二次電池。
(10)上記において、捲回体の捲回方向において、弾性体内周端部では、捲回体は内周端部傾斜面を持ち、捲回体の捲回方向において、弾性体外周端部では、捲回体は外周端部傾斜面を持ち、内周端部傾斜面および外周端部傾斜面は同方向の傾斜を有している二次電池。
(11)上記において、集電板のスリットは集電板の幅方向及び長手方向に向かって複数個設けられている二次電池。
(12)上記において、弾性体と、弾性体上に形成された集電板と、集電板上に形成された活物質層と、を有する二次電池の製造方法であって、集電板、弾性体および活物質層で電極体が構成され、集電板にスリットが設けられ、弾性体は弾性体突起部を有し、弾性体の弾性体突起部が集電板のスリットおよび活物質層の間を通過しており、集電板は、上集電板および下集電板を有し、次の工程を含む二次電池の製造方法(a)突起用弾性体および内部用弾性体を上集電板および下集電板で挟む工程、(b)内部用弾性体が所定の厚みになるように、上集電板および下集電板に荷重をかける工程、(c)内部弾性体の左端より左側の上集電板および内部用弾性体の右端より右側の下集電板に荷重を加え、内部弾性体が弾性体として形成され、突起用弾性体が弾性体突起部として形成される工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、活物質層の膨張収縮に伴う二次電池電極構造の変形を抑制でき、充放電サイクル寿命が向上する。上記した以外の課題、構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態における電極体の構成を示す縦断面図。
【図2】本発明の一実施形態における集電体構成を示す斜視図。
【図3】本発明の一実施形態における集電板を示す斜視図。
【図4】本発明の一実施形態における捲回体横断面の一部を示す模式図。
【図5】本発明の一実施形態における集電板を示す平面図。
【図6】本発明の第二の実施形態における電極体の構成を示す縦断面図。
【図7】本発明の第三の実施形態における電極体の構成を示す縦断面図。
【図8】本発明の第三の実施形態における電極群構成を示す縦断面図。
【図9】本発明の第三の実施形態における捲回体構成の一部を示す横断面図。
【図10】本発明の第一の実施形態における電極体組立方法を示す斜視図。
【図11】本発明の第二の実施形態における集電体組立方法を示す斜視図。
【図12】本発明の第三の実施形態における集電体組立方法を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【実施例1】
【0011】
本実施例では集電板を含む電極構造を図1〜図4を用いて説明する。
【0012】
図1は長手方向に伸びた負極の縦断面構造の一部を示す。電極体としての負極体1の厚み方向中心部に弾性機能を有する弾性体2が、そして、それを上下に挟む形で上負極集電板(例えば銅箔)3と下負極集電板(例えば銅箔)4が配されている。つまり、上負極集電板3および下負極集電板4の内部に弾性体2が包含されている。換言すれば、集電板が厚さ方向に二層に分割され、二層の集電板の間に弾性体2が介在されている。さらに、両集電板の長手方向に、ある間隔P1あるいはP2をもって弾性機能を有する部材の弾性体突起部5が厚み方向に両集電板から複数個突起している。
【0013】
そして、弾性体突起部5に挟まれた上負極集電板3、下負極集電板4の表面に密着してリチウムを保持しうる材料を活物質とする負極活物質層6、7が形成されている。また、弾性体突起部5の集電板表面からの高さHは負極活物質層6、7の層高に合わせた高さに調整されており、少なくとも負極活物質層6、7より突出しないことが好ましい。弾性体突起部5が、圧縮に対して弾性体突起部5の体積変化が小さい、いわゆるポアソン比が大きい弾性体の場合、負極活物質層6、7より突出させないことにより、弾性体突起部5が圧縮されて高さ方向に伸びてきても、セパレータ9、10の変形量を小さく抑えることができる。
【0014】
図2に負極体1から負極活物質層6、7を除いたときの集電板構造の斜視図を示す。集電板左端部20、集電板右端部21は捲回時の最内と最外にそれぞれ対応する。弾性体2のサイズは上負極集電板3または下負極集電板4の全長、全幅にほぼ等しく、全体にわたって上と下の上負極集電板3、下負極集電板4の間に挟まれ、また、弾性体突起部5は上下の上負極集電板3、下負極集電板4から突起している。
【0015】
図3は、上負極集電板3あるいは下負極集電板4の構造を示す斜視図である。集電板には貫通するスリット8が設けられており、本実施例では幅方向に2段に、また長手方向に複数個配置されており、弾性体突起部5は、この集電板に設けられたスリット8を介して、スリット全体から突起する。図3では、弾性体突起部5がスリット8および負極活物質層6、7の間を通過している。図3では、集電板の面内方向において、上負極集電板3および下負極集電板4に設けられたスリット8の位置を合わせているが、両集電板のスリット位置をずらしても良い。
【0016】
図4は、図1に示す負極を用い、本発明の一実施例の形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回後の電極群30の要部を示す模式図である。
【0017】
負極体1の内外には多孔質絶縁層としてセパレータ9、10がそれぞれ密着して接し、さらにその内外には正極電極体11がセパレータ9、10に密着して接する。正極電極体11も正極集電板12(例えばアルミニウム板及び箔)の両面に複合リチウム酸化物を活物質とする正極活物質層13が密着して形成される。
【0018】
負極活物質層6、7の内部では、充電の際には活物質層内にセパレータ9、10を通して正極活物質層13からLiイオンが入ってくるため膨張が生じ、放電の際には逆にLiイオンが正極活物質層13に向かって出ていくため収縮が生じる。
【0019】
このような膨張や収縮は活物質層内で3次元的に発生する。すなわち図4によれば膨張収縮方向はA方向およびB方向に発生する。
【0020】
正負電極体とセパレータ9、10から成る電極シートをある引っ張り応力のもとで捲回して捲回体が形成され、それを電池間の中に収めることになるが、電池性能や伝熱面からみて、電池缶と捲回体とは密着し、かつ、ある許容範囲内の接触圧力がかかっていることが望ましい。
【0021】
しかし、製作組立て時において最適な接触圧力が形成されても、充放電が始まると、正負活物質層6、7、13の膨張収縮による変形を吸収できる手段がないと膨張時には大きな圧縮応力が各活物質層にかかり、活物質層の空隙率の減少により電解質との界面の接触面積や電子伝導パスやイオン伝導パスに変化が生じ、電池性能の低下につながる。特に、長期にわたって充放電サイクルを繰り返す場合には寿命が短くなる。また、電池収縮時でも活物質と電解質の界面が減少したり、導電材やバインダーなどの密着性が低下など性能や熱伝導性の低下が生じたりする。
【0022】
本実施例によれば、A方向における膨張収縮に関しては、集電板に挟まれた弾性体2がA方向に発生する膨張収縮に伴う活物質層の伸縮量を吸収する。また、B方向に発生する膨張収縮に伴う活物質層の伸縮量は集電板から突起し、活物質層と接する弾性体突起部5が吸収する。これらの作用により、高レートで高容量の充放電サイクルを長期間行っても、ミクロな電極構造に与える物理的ダメージを軽減できるため、容量低下や抵抗上昇のスピードが抑制され、長寿命化が図られる。
【0023】
また、内部に挟まれた弾性体2は集電板内に収まっているので負極活物質層6、7やセパレータ9、10には何の影響も及ぼさないため、充放電性能に影響を及ぼすことなく集電板自体に厚み方向の伸縮機能を持たせることができる。
【0024】
なお、上記実施例に用いられる弾性体2に関しては高熱伝導体であることがより好ましい。なぜならば、捲回型の場合、半径方向の熱伝導率が温度分布に大きな影響を及ぼすからである。従って、二枚の集電体に挟まれる弾性体の熱伝導率が大きいほど温度分布の増加を抑制できる。
【0025】
また、上下負極集電板3、4に設けられるスリット8の数や配列に関しては、特に限定するものではないが、電池の形態、すなわち円筒型、角型、積層型によって、それぞれ任意な配列方法を用いればよい。図5を用いてスリット配列の各実施例を示す。図5では、集電板3、4は、細長い矩形形状となっている。
【0026】
まず、スリット8の数に関しては、先の実施例において示された図3のスリット配列と異なるスリット配列の一例を図5(a)に示す。この例ではスリット8は幅方向に1段である。したがって、スリット8の数は図3の例の1/2である。図3または図5のように、スリット8は、集電板3、4の短尺側の方向において、一個設けられていてもよいし、複数個(図5では二個)設けられていてもよい。幅方向に長く伸びたスリット8を有した上負極集電板3、下負極集電板4は、図3のようにスリット8の長さを短くして、スリット数を増やした場合と比べて、引っ張り強度面で劣るが、活物質層側面と弾性体突起側面との接触面積を大きく取れるので変形吸収効果は高くなる。図5において、スリット8に弾性体突起部5を充填させても良いし、スリット8に空間が残るように弾性体突起部5を形成させても良い。スリット8の一部に空間を残すことにより、活物質層の変形を吸収できる。
【0027】
次に、配列パターンであるが、たとえば、円筒型や扁平型のような捲回型の場合、スリットの長手方向の配列に関しては、図3および図5(a)に示すように、捲回体の捲回最内側に相当する集電板左端部20から捲回体の捲回最外側に相当する集電板右端部21に向かってスリット8のピッチPが大きくなるように配列されている。
【0028】
一般に、捲回型の電池では捲回外側から内側に向かって温度が高くなる傾向を示す。従って、電池の過電圧抵抗も内側のほうが小さくなる。その結果、電流密度は捲回内側が大きくなる。これは、単位体積当たりのLiイオンの出入りも大きくなることを意味する。その結果、膨張収縮の度合い、すなわち、周方向(B方向)の単位長さあたりの伸縮量も捲回体内側ほど大きくなる。伸縮量が大きくなり過ぎると、弾性体突起部5では吸収できない場合が生じる。
【0029】
このため、本実施例では内側に位置する集電板ほどスリット8の間隔、すなわち、弾性体突起部5の間隔を狭めて、突起間の周方向(B方向)における活物質長さを短くすることにより、周方向の伸縮量を調整する役割を果たすことになる。
【0030】
また、スリット8の方向は電極の長さと幅の相対関係により、幅方向だけでなく長さ方向にも設けてもよい。たとえば、図5(c)に積層型電池のような矩形型の平板セル形状の場合の集電板スリット配列の一例を示す。この場合、縦(幅)と横(長手方向の長さ)の長さの違いは捲回型に比べて小さいので、縦方向のスリット8だけでなく横方向スリット14を設けることで、XおよびY方向に、よりフレキシブルに弾性体突起部5が膨張収縮に伴う変形量を吸収することができるため、活物質内の応力を緩和し、電極構造の変形を抑止することができる。
【0031】
さらに、スリット8の位置も先の図5(a)で示したような中央部だけでなく、図5(b)に示すように幅方向(集電板3、4の短尺側の方向)の端部15に到達する切り込みを入れることも可能である。端部に達するスリット8を入れることにより、たとえば、図4で示す活物質がB方向に膨張して弾性体突起部5を圧縮した場合、体積変化率の小さい、いわゆるポアソン比が0.5に近い弾性体では圧縮により縮んだ弾性体の体積分はどこかに押し出されなければ変形できない。
【0032】
この場合、端部15に切り込みが入っているので、そこからスリット外へ逃がすことができる。このように本実施例によれば、外力が加わっても体積変化率の小さい弾性体でも変形が可能であり、より容易に活物質の膨張収縮を吸収することができる。また、弾性体材料の選択肢の幅を広げることにもつながる。
【0033】
なお、A方向の膨張収縮を吸収する弾性体2に関しては、集電板の幅方向からはみ出させることで対応できる。
【0034】
本実施例の弾性体としては、樹脂、ゴム(耐酸化還元性)が挙げられる。たとえば高熱伝導材でもあるシリコーンなどが好適である。また、セパレータ材であるポリエチレン、ポリプロピレンも空隙率を大きくすれば代用と成り得る。その他、柔らかい材料としてポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、接着性を有するエポキシ・変成シリコーン樹脂などが挙げられる。
【実施例2】
【0035】
図6に本発明の第二の実施例である長手方向に伸びた負極の縦断面構造の一部を示す。負極体1の厚み方向中心部に弾性機能を有する弾性体2が、そして、それを上下に挟む形で上負極集電板(あるいは集電箔)3と下負極集電板(あるいは集電箔)4が配されている。さらに、両集電板の長手方向に、ある間隔をもって弾性機能を有する弾性体突起部5が厚み方向に両集電板から複数個突起している。そして、弾性体突起部5に挟まれた集電板の表面に密着して負極活物質層6、7が形成されている。
【0036】
本実施例では、二枚の上負極集電板3、下負極集電板4に挟まれた領域の一部が空間部16で占められ、スリット8を含んだ残りの領域が弾性体2で占められている。つまり、集電板3、4の面内方向において、弾性体2の間に空間部16が設けられている。なお、弾性体突起部5と上負極集電板3、下負極集電板4に挟まれた弾性体2とは同一素材であることがより好ましい。
【0037】
本実施例では、空間部16が厚み方向の膨張収縮に対する変形吸収部になる。膨張時には活物質が膨らみ、上負極集電板3は下側に押し下げられ、下負極集電板4は上側に持ち上げられる。
【0038】
第一の実施例と異なり、集電板内部に弾性体を充てんする必要がないので活物質の厚み方向の膨張収縮量や弾性体の弾性率などを考慮して集電板間の間隙や弾性体体積を設計する必要が無くなることから、比較的簡単に製作することができる。
【0039】
また、空間部16の内部の一部を利用して、様々な計測センサーを挿入することができる。例えば、温度センサー、超音波センサー、ひずみセンサーなどを配してモニタリングすることにより電池の異常を早期に検出でき、安全性、信頼性が向上する。
【実施例3】
【0040】
上記実施例では、二枚の集電板に弾性体が挿入されている。従って、上記実施例の集電板を用いて捲回体を構成すれば、弾性体2の厚みの分だけ捲回体体積を増大させ、体積エネルギ密度を低下させることになる。
【0041】
図7には、少しでも体積増加を抑える、捲回型電池に好適な集電板を含む負極体構造の主要部縦断面構造の一部を示す。本実施例では弾性体2が二枚の集電板の間に挟まれる領域の長さLが捲回体の一周分の長さに規定されている。それ以外の領域には上記実施例で示したように弾性体突起部5のみが備わっている。
【0042】
図7の負極体1において、電極体下側が捲回内側面、電極体上側が捲回外側面とする。弾性体2の先端部までは上負極集電板3および下負極集電板4は密着して一体化しており、弾性体2の先端部において上負極集電板3および下負極集電板4の二層に分かれる。
【0043】
二枚の上負極集電板3、下負極集電板4のうち上負極集電板3が位置M1(弾性体2の先端部)において、弾性体2の厚み分だけ上側に膨らみ、そのあとはその高さのまま水平に伸びている。下負極集電板4はそのまま平行に水平に伸びており、位置M2(弾性体2の終端部)において今度は下負極集電板4が弾性体2の厚み分だけ上側に膨らんで上負極集電板3と接し、そのあと両集電板は接したまま水平に伸びている。捲回体の捲回方向において、弾性体の内周端部より内側では、上負極集電板3および下負極集電板4は接しており、捲回体の捲回方向において、弾性体の外周端部より外側では、上負極集電板3および下負極集電板4は接している。
【0044】
これにより、弾性体2は二枚の上負極集電板3、下負極集電板4で内包されることになる。弾性体2の先端部および弾性体2の終端部では、上負極集電板3および下負極集電板4の間に空隙が形成されている。上記の空隙を弾性体2で充填してもよい。
【0045】
また、弾性体2が二枚の集電板の間に挟まれる領域内に必要であれば同図に示すように、前述の弾性体突起部5を設けてもよい。
【0046】
本実施例の負極体1を有する電極群シート構造を図8に示す。負極体1の形状に対応して負極体1と密着するセパレータ9、10や正極電極体11も負極体1と同様の形状変化を示し、電極群シート31、32には傾斜部17、18が形成される。傾斜部17を外周端部傾斜面とすると、捲回体の捲回方向において、弾性体2の外周端部では、捲回体は外周端部傾斜面を持つ。傾斜部18を内周端部傾斜面捲回体とすると、捲回体の捲回方向において、弾性体2の内周端部では、捲回体は内周端部傾斜面を持つ。傾斜部17および傾斜部18は、同一方向に傾斜している、または、ほぼ同一の傾斜角度を有している。
さらに、図9には正負極電極体1、11とセパレータ9、10から構成される先の図8の電極群シートを捲回した一部の横断面図を示す。捲回体最内の捲回開始部S1は集電板内部に弾性体2がない電極群シート31であり、内部弾性体を含む該シートの捲回開始位置S2から一周分捲回され、開始位置S2と同位置に戻った位置T2で内部弾性体を含む電極群シート32の終点であり、そのあとは再び弾性体2がないシート31に戻る。
【0047】
ここで、先の図7の負極体1の構造にすることにより、開始位置S2と終了位置T2において、電極群シートの傾斜部17、18が接触面40にて合わさることにより、先の電極群シート31の傾斜部17、18によって生じる段差を相殺して、いびつな捲回体になることを防止することができ、電池缶にも収まりやすくなる。また、いびつさからくる捲回シート間のギャップも形成されないことから捲回体内部の接触性も維持されることにより、電池性能や熱伝導面からも良好な状態を保つことができる。
【0048】
本実施例により、特に捲回体の半径方向における膨張収縮を、本実施例にある内部の弾性体2の伸縮作用によって捲回体全周にわたって吸収することできる。
【0049】
前述したように捲回型の電池では捲回内側の電流密度が大きくなり易いことから膨張収縮の大きさも大きい。このため、本実施例では捲回体の半径方向中央より内側に弾性体2を有する電極群シート31を当て、捲回体の半径方向中央より外側には設けないようにした。
【0050】
これにより、弾性体2の厚みによる体積増加分を極力抑えて、最小限の体積増加にとどめることができる。ただ、本実施例のように一周だけでなく、容積的に余裕がある場合、少し半径方向に間隔をあけて何周分か設けても勿論かまわない。
【0051】
従って、弾性体2の厚さについては、弾性体2が受け持つ捲回部の膨張収縮量に応じて決定される。
【0052】
なお、本実施例では捲回型として円筒型を対象としたが、同じ捲回型である扁平角型電池にも適用可能である。特に曲率の大きな部分に、弾性体突起部5を密に配置することにより、電極構造の変形を抑制できる。
【実施例4】
【0053】
上記実施例にてとりあげた弾性体付きの集電板および電極体の作製方法の一例について図10〜図12を用いて説明する。
【0054】
本実施例では図10、図11に示すように初めにスリット8を設けた上下の上負極集電板3、下負極集電板4それぞれに、スリットを除いて活物質を塗工しておくことが前提となる。
【0055】
図10は先の図1の負極体1に関する製作方法を示すものである。まず、前記の活物質塗工済みの上負極集電板3、下負極集電板4の間に弾性体が挿入される。弾性体2の幅、長さは上負極集電板3、下負極集電板4のサイズをもとに適当なサイズに調整されている。
【0056】
もし、この弾性体2が非常に変形しやすい材質や、温度が高くなると軟化する材料、あるいは最初は柔らかいが時間が経つにつれてある程度硬化する材料であれば、弾性体の表面41は図10のように平坦でもよいし、比較的変形しにくい材質のものであれば、予めスリット8の形状と位置に合わせて突起部を弾性シート上に形成させておいてもよい。本実施例では、特に、弾性体2が非常に変形しやすい材質の場合に適する製作方法に関するものである。
【0057】
図10は比較的変形しやすい弾性体2を上下の上負極集電板3、下負極集電板4により挟んで上下から弾性体2に向かって押圧を加えて上負極集電板3、下負極集電板4と弾性体2を密着させ、かつ、スリット8から弾性体2を押し出すことによって突起も同時に形成する。
【0058】
なお、セットする弾性体の厚みと押圧のレベルは必要な突起の高さ(=活物質層高)、内部弾性体の必要変形量、弾性体の物性値から予め計算、あるいは試験をして決定しておく。
【0059】
次に、先の図6の空間部16を有する負極体1に関しては、図11に示すように比較的変形しやすい弾性体2を集電板の各スリット8の位置近傍に分割して配置させ、図10と同様に上下の上負極集電板3、下負極集電板4により挟んで上下から弾性体2に向かって押圧を加えることにより、中空部と突起部を同時に形成することができる。
【0060】
図7に示した負極体1の製作に関しては、基本的には図10、図11と同じである。まず、図12−Iに示すように、突起用弾性体50および内部用弾性体51をそれぞれ所定の位置に配置して、予め負極活物質層6、7が塗工された上負極集電板3、下負極集電板4にて挟む。
【0061】
次に、図12−IIに示すように内部用弾性体51を所定の厚みになるように二枚の上負極集電板3、下負極集電板4を上下から均等に荷重F1をかける。
【0062】
次に、図12−IIIに示すように、図の中央、内部用弾性体51の左端22より左側の上負極集電板3と内部用弾性体51の右端23より右側の下負極集電板4を上からと下からそれぞれ内部用弾性体51に向かって荷重F2を加える。
【0063】
これによって図12−IVに示すように、二枚の集電板の一部に挟まれた内部弾性体構造および集電板スリットから押し出された弾性体突起部5が同時に形成される。なお、弾性体突起部5先端のはみ出た部分24に関しては負極活物質層6、7と高さが合うように余分な部分がカットされる。
【0064】
このようにして製作された負極体1であるが、二枚の上負極集電板3、下負極集電板4が捲回時にはがれないようにするためには突起用弾性体50、内部用弾性体51自体が接着性を有することが好ましい。すなわち、接着剤でしかも弾性力のある材料の一例としてエポキシ・変成シリコーン樹脂が本実施例の製作プロセスには有効である。
【0065】
なお、これまでの全ての実施例では膨張収縮が大きい負極体を対象としたが、本発明を正極体に適用しても新たな問題を生じることなく同様な効果が得られるものである。
【0066】
また、特に捲回型の電池において上記実施例で示した二枚の集電板を用いることによる効果として、以下のことが挙げられる。捲回型電池では特に曲率の大きいところでは電極の半径方向の内側と外側で伸縮差が異なるため、集電板を挟んで内側と外側の活物質間で応力が発生し、活物質の剥離や集電板の断裂等の可能性があったが、集電板が捲回半径方向に2分割されているため、内側と外側のそれぞれの集電板が個別に活物質と一緒に動けるため、界面の応力が緩和される。これにより活物資の剥離や集電板の断裂等が抑制される。
【0067】
本発明によるリチウムイオン二次電池の用途は、特に限定されない。例えば、パーソナルコンピュータ、ワープロ、コードレス電話子機、電子ブックプレーヤ、携帯電話、自動車電話、ハンディターミナル、トランシーバ、携帯無線機等の携帯情報通信機器の電源として使用することができる。また、携帯コピー機、電子手帳、電卓、液晶テレビ、ラジオ、テープレコーダ、ヘッドホンステレオ、ポータブルCDプレーヤ、ビデオムービー、電気シェーバー、電子翻訳機、音声入力機器、メモリーカード等の各種携帯機器の電源として使用できる。その他、冷蔵庫、エアコン、テレビ、ステレオ、温水器、オーブン電子レンジ、食器洗い機、乾燥器、洗濯機、照明器具、玩具等の家庭用電気機器として使用できる。また、家庭用、業務用を問わずに、電動工具や介護用機器(電動式車いす、電動式ベッド、電動式入浴設備など)の用電池としても利用可能である。さらに、産業用途として、医療機器、建設機械、電力貯蔵システム、エレベータ、無人移動車両などの電源として、さらには電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、ゴルフカート、ターレット車などの移動体用電源として、本発明を適用することができる。さらには、太陽電池や燃料電池から発生させた電力を本発明の電池モジュールに充電し、宇宙ステーション、宇宙船、宇宙基地などの地上以外で利用可能な蓄電システムとして用いることも可能である。但し、電池サイズが大きくて、高出力、高容量の電池ほど温度やSOCの分布が大きくなり、かつ電極の膨張収縮量も大きくなることから、本発明は小型民生用よりも大型の電力貯蔵用電源、移動体用電源に最も効果を発揮する。
【符号の説明】
【0068】
1 負極体
2 弾性体
3 上負極集電板
4 下負極集電板
5 弾性体突起部
6、7 負極活物質層
8 スリット
9、10 セパレータ
11 正極電極体
12 正極集電板
13 正極活物質層
14 横方向スリット
15 端部
16 空間部
20 集電板左端部
21 集電板右端部
30 電極群
40 接触面
41 弾性体の表面
50 突起用弾性体
51 内部用弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体と、
前記弾性体上に形成された集電板と、
前記集電板上に形成された活物質層と、を有する二次電池であって、
前記集電板、前記弾性体および前記活物質層で電極体が構成され、
前記集電板にスリットが設けられ、
前記弾性体は弾性体突起部を有し、
前記弾性体の弾性体突起部が前記集電板のスリットおよび前記活物質層の間を通過している二次電池。
【請求項2】
請求項1において、
前記集電板が厚さ方向に二層に分割され、
前記二層の集電板の間に前記弾性体を介在させた二次電池。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記弾性体突起部の前記集電板表面からの高さは、前記弾性体に隣接する前記活物質層の高さより小さい二次電池。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記集電板は、細長い矩形形状であり、
前記集電板のスリットは、前記集電板の短尺側の方向において、一個以上設けられる二次電池。
【請求項5】
請求項4において、
前記集電板の長手方向において、前記集電板のスリットの間隔が、前記電極体の捲回最内側から捲回最外側に向かって広くなる二次電池。
【請求項6】
請求項4または5において、
前記集電板の短尺側の方向において、前記集電板のスリットの片方の端が前記集電板の端部に達している二次電池。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記集電板の面内方向において、前記弾性体の間に空間部が設けられる二次電池。
【請求項8】
請求項7において、
前記空間部に計測センサーが挿入されている二次電池。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記電極体は、負極体および正極体のいずれかであり、
前記電極体に接するセパレータを有し、
前記電極体および前記セパレータで捲回体が構成され、
前記集電板は上集電板および下集電板を有し、
前記上集電板は、前記下集電板より前記捲回体の外周側に形成され、
前記弾性体は前記上集電板および前記下集電板で内包されており、
前記捲回体の捲回方向において、前記弾性体は、弾性体内周端部および弾性体外周端部を有し、
前記捲回体の捲回方向において、前記弾性体内周端部より内側では、前記上集電板および前記下集電板は接しており、
前記捲回体の捲回方向において、前記弾性体外周端部より外側では、前記上集電板および前記下集電板は接している二次電池。
【請求項10】
請求項9において、
前記捲回体の捲回方向において、前記弾性体内周端部では、前記捲回体は内周端部傾斜面を持ち、
前記捲回体の捲回方向において、前記弾性体外周端部では、前記捲回体は外周端部傾斜面を持ち、
前記内周端部傾斜面および前記外周端部傾斜面は同方向の傾斜を有している二次電池。
【請求項11】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記集電板のスリットは前記集電板の幅方向及び長手方向に向かって複数個設けられている二次電池。
【請求項12】
弾性体と、
前記弾性体上に形成された集電板と、
前記集電板上に形成された活物質層と、を有する二次電池の製造方法であって、
前記集電板、前記弾性体および前記活物質層で電極体が構成され、
前記集電板にスリットが設けられ、
前記弾性体は弾性体突起部を有し、
前記弾性体の弾性体突起部が前記集電板のスリットおよび前記活物質層の間を通過しており、
前記集電板は、上集電板および下集電板を有し、
次の工程を含む二次電池の製造方法
(a)突起用弾性体および内部用弾性体を前記上集電板および前記下集電板で挟む工程、
(b)前記内部用弾性体が所定の厚みになるように、前記上集電板および前記下集電板に荷重をかける工程、
(c)前記内部弾性体の左端より左側の前記上集電板および前記内部用弾性体の右端より右側の前記下集電板に荷重を加え、前記内部弾性体が前記弾性体として形成され、前記突起用弾性体が前記弾性体突起部として形成される工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−62028(P2013−62028A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197821(P2011−197821)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】