説明

二次電池とその製造方法および電極板製造装置

【課題】 電極芯材に多層のペースト層を塗工して乾燥させる電極板を作成するとともに,電極板の生産性の高い二次電池の製造方法とその二次電池および電極板製造装置を提供すること。
【解決手段】 負極芯材NBに未乾燥の負極ペースト層NA10と負極ペースト層NA20とを重ねた状態で塗工する。乾燥炉の内部では,熱風ノズル1301から熱風Hを未乾燥の上層である負極ペースト層NA20に向けて噴き付けることにより負極ペースト層NA20を乾燥させる。一方,冷却ローラ1302により,負極芯材NBは冷却される。負極ペースト層NA10は,負極ペースト層NA20から熱を奪うとともに,負極芯材NBに熱を奪われる。そのため,負極ペースト層NA20の温度は負極ペースト層NA10の温度より高い。これにより,負極ペースト層NA20,負極ペースト層NA10の順に乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,二次電池とその製造方法および電極板製造装置に関する。さらに詳細には,電極芯材に複数のペースト層を乾燥させて結着させた電極板を備える二次電池とその製造方法および電極板製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池は,携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器,ハイブリッド車両や電気自動車等の車両など,多岐にわたる分野で利用されている。このような二次電池は,正極板と負極板と電解質とを備えるものである。また,正極板と負極板とそれらを絶縁するセパレータとを積み重ねた電極体を用いることが一般的である。
【0003】
このように積層された電極体に用いられる電極板(正極板および負極板)は,電極芯材となる金属箔に活物質を含む合材を塗工した後に乾燥させることにより作成される。これらの電極板のうちには,電極芯材に複数層のペースト層を塗工して乾燥させたものがある。このような複数のペースト層を塗工・乾燥した電極板を製造するには,次のような塗工乾燥方式が一般的である。まず,基材となる電極芯材に1層目を塗工した後に乾燥させる。続いて,乾燥済みの1層目の塗工層の上に2層目を塗工して乾燥させるのである。このように,塗工と乾燥とを順次繰り返すのである(特許文献1の段落[0007]等参照)。
【0004】
このように塗工と乾燥とを順次繰り返す塗工乾燥方式では,同一の組成の層を複数形成した場合に各層間の接着性が良好であるとされている。また,異なる組成の層を複数形成した場合には,異なる物性を同時に満足させることができるとされている(特許文献1の段落[0004]等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−050893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている技術では,基材の側から塗工と乾燥とを順次繰り返すことにより,各層の間でペーストが混じり合わないように多層の塗工層を形成することができる。しかし,これらの技術では,塗工と乾燥とを形成する層の数だけ塗工乾燥工程を繰り返す必要がある。つまり,層の数が増えるほど,その工程数が増えることとなる。このような塗工乾燥方式を用いたのでは,電極板の生産性は低い。
【0007】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,電極芯材に多層のペースト層を塗工して乾燥させる電極板を作成するとともに,電極板の生産性の高い二次電池の製造方法とその二次電池および電極板製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の二次電池の製造方法は,正極芯材または負極芯材にペースト層を塗工する塗工工程と,塗工工程で塗工されたペースト層を乾燥させて正極板または負極板とする乾燥工程と,乾燥工程で乾燥された正極板と負極板とこれらを絶縁するセパレータとを積み重ねて電極体を作成する電極体作成工程と,電極体作成工程で作成された電極体を電池容器に挿入するとともに電池容器に電解液を注入する電池組立工程とを有する二次電池の製造方法である。その塗工工程では,正極芯材および負極芯材の少なくとも一方に2層以上のペースト層をその都度乾燥させることなく重ねて塗工し,乾燥工程では,未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,未乾燥の2層以上のペースト層のうち最表層に近い側のペースト層ほど,当該ペースト層の温度を高くし,未乾燥の2層以上のペースト層のうち最表層から遠い側のペースト層ほど,当該ペースト層の温度を低くする。かかる二次電池の製造方法では,未乾燥の2層以上のペースト層を一工程で乾燥することができる。そのため,生産性が高い。また,層間の境界面でペーストが互いに混じり合うおそれがない。
【0009】
上記に記載の二次電池の製造方法であって,乾燥工程の少なくとも一部では,未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,未乾燥の2層以上のペースト層における最表層のペースト層の側のみから最表層のペースト層を加熱するとよい。このようにすると,最表層側のペースト層の温度が高い状態で各ペースト層が乾燥されるからである。
【0010】
上記に記載の二次電池の製造方法であって,乾燥工程の少なくとも一部では,未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,未乾燥の2層以上のペースト層における最表層のペースト層の表側から最表層のペースト層を加熱するとともに,未乾燥の2層以上のペースト層における最表層のペースト層の反対側から最表層の反対側の面を表側からの加熱より弱く加熱するとよい。このようにしても,最表層側のペースト層の温度が高い状態で各ペースト層が乾燥されることに変わりないからである。
【0011】
上記に記載の二次電池の製造方法であって,乾燥工程の少なくとも一部では,未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,未乾燥の2層以上のペースト層における最表層のペースト層の表側から最表層のペースト層を加熱するとともに,未乾燥の2層以上のペースト層における最表層のペースト層の反対側から最表層の反対側の面を冷却するとよい。このようにすると,最表層側のペースト層の温度がより高い状態で各ペースト層が乾燥されるからである。
【0012】
上記に記載の二次電池の製造方法であって,塗工工程では,2層以上のペースト層をその都度乾燥させることなく重ねて塗工するに際して,2層以上のペースト層のうちの最表層でないペースト層における揮発溶媒として,大気圧下での沸点が当該ペースト層より上層のペースト層における揮発溶媒の大気圧下での沸点以上であるものを用いるとなおよい。より上層に位置するペースト層の乾燥速度がより速くなるからである。これにより,上層のペースト層から順に乾燥するからである。
【0013】
上記に記載の二次電池の製造方法であって,乾燥工程の少なくとも一部では,未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,最表層のペースト層より上方に位置する雰囲気の温度が,正極芯材または負極芯材より下方に位置する雰囲気の温度よりも高いとなおよい。このようにすると,最表層側のペースト層の温度がより高い状態で各ペースト層が乾燥されるからである。
【0014】
上記に記載の二次電池の製造方法であって,乾燥工程の少なくとも一部では,未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,最表層のペースト層より上方に位置する雰囲気の温度が,正極芯材または負極芯材より下方に位置する雰囲気の温度よりも50℃以上高いとなおよい。より上層に位置するペースト層の乾燥速度がさらに速くなるからである。これにより,上層のペースト層から順に乾燥するからである。
【0015】
上記に記載の二次電池の製造方法であって,乾燥工程では,乾燥工程の初期ほど,未乾燥のペースト層の最表層の側からの加熱の度合いと,最表層の反対側からの加熱の度合いとの差が大きく,乾燥工程の後期ほど,未乾燥のペースト層の最表層の側からの加熱の度合いと,最表層の反対側からの加熱の度合いとの差が小さいとさらによい。より上層のペースト層から順に乾燥するとともに,下層のペースト層も確実に乾燥させることができるからである。
【0016】
また,本発明に係る二次電池の製造方法は,正極芯材または負極芯材にペースト層を塗工する塗工工程と,塗工工程で塗工されたペースト層を乾燥させて正極板または負極板とする乾燥工程と,乾燥工程で乾燥された正極板と負極板とこれらを絶縁するセパレータとを積み重ねて電極体を作成する電極体作成工程と,電極体作成工程で作成された電極体を電池容器に挿入するとともに電池容器に電解液を注入する電池組立工程とを有する。そして塗工工程では,2層以上のペースト層をその都度乾燥させることなく重ねて塗工するに際して,2層以上のペースト層のうちの最表層でないペースト層における揮発溶媒として,大気圧下での沸点が当該ペースト層より上層のペースト層における揮発溶媒の大気圧下での沸点より高いものを用いる。かかる二次電池の製造方法では,未乾燥の2層以上のペースト層を一工程で乾燥することができる。そのため,生産性が高い。また,層間の境界面でペーストが互いに混じり合うおそれがない。
【0017】
また,本発明に係る二次電池は,正極芯材の少なくとも片側の面に正極合材層を塗工された正極板と,負極芯材の少なくとも片側の面に負極合材層を塗工された負極板と,正極板と負極板とを絶縁するセパレータとを積み重ねた積層電極体と,積層電極体を内部に備える電池容器と,電池容器の内部に封入された電解液とを有する。そして,正極板および負極板の少なくとも一方は,2層以上の合材層を形成されたものであり,当該2層以上の合材層では,2層以上の合材層のうちの最表層でない合材層に用いられた揮発溶媒が,大気圧下での沸点が当該合材層より上層の合材層に用いられた揮発溶媒の大気圧下での沸点より高いものである。かかる二次電池は,層間の境界面での荒れがほとんどない。
【0018】
また,本発明に係る電極板製造装置は,電極芯材を巻き出す巻き出し部と,電極芯材に2層以上のペースト層を未乾燥の状態で重ねて塗工して塗工層とする塗工部と,塗工層を乾燥させる乾燥炉と,塗工層を乾燥された電極芯材を巻き取る巻取り部とを有する。そして,乾燥炉の少なくとも一部では,塗工された電極芯材の搬送経路より上方に,搬送経路に向かって加熱する加熱装置が配置されているとともに,搬送経路より下方に,搬送経路に向かって冷却する冷却装置が配置されている。かかる電極板製造装置は,未乾燥の2層以上のペースト層を一工程で乾燥させることができる。そのため,生産性が高い。また,層間の境界面でペーストが互いに混じり合うおそれがない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,電極芯材に多層のペースト層を塗工して乾燥させる電極板を作成するとともに,電極板の生産性の高い二次電池の製造方法とその二次電池および電極板製造装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る二次電池の製造方法により製造されるバッテリを説明するための断面図である。
【図2】本発明に係る二次電池の製造方法により製造されるバッテリの捲回電極体を説明するための斜視図である。
【図3】本発明に係る二次電池の製造方法により製造されるバッテリの捲回電極体の捲回構造を説明するための展開図である。
【図4】本発明に係る二次電池の製造方法により製造されるバッテリの正極板の構造を説明するための断面斜視図である。
【図5】第1,第2,第4の実施形態に係る二次電池の製造方法により製造されるバッテリの負極板の構造を説明するための断面斜視図である。
【図6】第1の実施形態に係るペースト層の冷却方法を説明するための概念図である。
【図7】本発明に係るバッテリを製造するのに用いる塗工乾燥装置を説明するための概略構成図である。
【図8】本発明に係る多層ペーストを塗工するための塗液供給装置を説明するための概念図である。
【図9】本発明に係るバッテリを製造するのに用いる捲回装置を説明するための概略構成図である。
【図10】第1の実施形態に係るペースト層の別の冷却方法を説明するための概念図(その1)である。
【図11】第1の実施形態に係るペースト層の別の冷却方法を説明するための概念図(その2)である。
【図12】第2の実施形態に係るバッテリを製造するのに用いる塗工乾燥装置を説明するための概略構成図である。
【図13】第3の実施形態に係るバッテリを製造するのに用いる塗工乾燥装置における乾燥方法を説明するための概念図である。
【図14】本発明に係る実施例における乾燥方法を説明するための斜視図である。
【図15】本発明に係る実施例における負極板の断面を説明するための断面図である。
【図16】本発明に係る比較例における負極板の断面を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池とその製造方法および電極板製造装置について,本発明を具体化したものである。
【0022】
(第1の実施形態)
1.リチウムイオン二次電池
本実施の形態に係るバッテリは,円筒型のリチウムイオン二次電池である。図1に,本形態のバッテリ100の断面図を示す。バッテリ100は,図1に示すように,電池容器101および蓋102からなる電池ケースにより密閉されている。バッテリ100には,捲回電極体200と,正極集電板110と,負極集電板120とが内蔵されている。また,電池容器101の内部には電解液が注入されている。
【0023】
捲回電極体200は,電解液中で充放電を繰り返し,発電に直接寄与するものである。正極集電板110は,後述する捲回電極体200の正極芯材と接続された正極集電体である。その材質は,アルミニウムである。負極集電板120は,後述する捲回電極体200の負極芯材と接続された負極集電体である。その材質は,銅である。図1から正極集電板110と負極集電板120とが接続された捲回電極体200を抜き出した斜視図を図2に示す。
【0024】
電池容器101の内部に注入された電解液は,有機溶媒に電解質を溶解させたものである。有機溶媒として例えば,プロピレンカーボネート(PC)やエチレンカーボネート(EC),ジメチルカーボネート(DMC),エチルメチルカーボネート(EMC)等のエステル系溶媒や,エステル系溶媒にγ−ブチラクトン(γ−BL),ジエトキシエタン(DEE)等のエーテル系溶媒等を配合した有機溶媒が挙げられる。また,電解質である塩として,過塩素酸リチウム(LiClO)やホウフッ化リチウム(LiBF),六フッ化リン酸リチウム(LiPF)などのリチウム塩を用いることができる。
【0025】
図3は,捲回電極体200の捲回構造を示す展開図である。捲回電極体200は,図3に示すように,内側から正極板P,セパレータS,負極板N,セパレータTの順に積み重ねた状態で捲回されたものである。ここで,セパレータSとセパレータTとは同じ材質の絶縁部材である。上記の捲回順の理解のために符号をS,Tとして区別しただけである。
【0026】
図3に示すように正極板Pには,正極塗工部P1と,正極非塗工部P2とがある。正極塗工部P1は,正極芯材に正極活物質等を塗工した箇所である。正極非塗工部P2は,正極芯材に正極活物質等を塗工していない箇所である。したがって正極塗工部P1の厚みは,正極非塗工部P2の厚みよりも厚い。
【0027】
負極板Nには,負極塗工部N1と,負極非塗工部N2とがある。負極塗工部N1は,負極芯材に負極活物質等を塗工した箇所である。負極非塗工部N2は,負極芯材に負極活物質等を塗工していない箇所である。したがって負極塗工部N1の厚みは,負極非塗工部N2の厚みよりも厚い。
【0028】
図3中の矢印Aは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの幅方向(図1でいえば縦方向)を示している。図3中の矢印Bは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの長手方向(図1の捲回電極体200の周方向)を示している。正極塗工部P1の幅方向の塗工幅は,負極塗工部N1の幅方向の塗工幅よりもやや狭い。電解液中のリチウムイオンの濃度が高い場合に,負極活物質にリチウムイオンを吸蔵させることによりその濃度の上昇を抑制するためである。電解液中のリチウムイオンの濃度が上昇しすぎると,リチウムがデンドライト状に析出することがある。このような析出が生ずると,電池性能は低下する。
【0029】
2.電極板
図4は,正極板Pの斜視断面図である。図4中の矢印Aが示す方向は,図3中の矢印Aが示す方向と同じである。すなわち,正極板Pの幅方向である。図4中の矢印Bが示す方向は,図3中の矢印Bが示す方向と同じである。すなわち,正極板Pの長手方向である。
【0030】
図4に示すように,正極板Pは,帯状の正極芯材PBの両面の一部に正極合材層PAが形成されたものである。図4中の左側には,正極板Pの正極非塗工部P2が幅方向に突出している。正極非塗工部P2は,帯状に形成されている。正極非塗工部P2は,正極芯材PBの両面ともに正極合材が塗布されていない領域である。したがって正極非塗工部P2では,正極芯材PBがむき出したままの状態にある。一方,図4中の右側には,正極非塗工部P2に対応するような突出部はない。正極塗工部P1では,正極芯材PBの両面に一様の厚みで正極合材層PAが形成されている。
【0031】
正極合材層PAは,正極芯材PBであるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含む合材を塗布して形成された層である。正極活物質として,ニッケル酸リチウム(LiNiO),マンガン酸リチウム(LiMnO),コバルト酸リチウム(LiCoO)等のリチウム複合酸化物などが用いられる。また,合材には,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),スチレンブタジエンラバー(SBR),ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の結着剤やカルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤が含まれている。
【0032】
図5は,負極板Nの斜視断面図である。図5中の矢印Aが示す方向は,図3中の矢印Aが示す方向と同じである。すなわち,負極板Nの幅方向である。図5中の矢印Bが示す方向は,図3中の矢印Bが示す方向と同じである。すなわち,負極板Nの長手方向である。
【0033】
図5に示すように,負極板Nは,帯状の負極芯材NBの両面の一部に負極合材層NA1および負極合材層NA2が形成されたものである。負極合材層NA1は基材である負極芯材NBの両側の面に形成されている。負極合材層NA2は,負極合材層NA1の外側,すなわち表層側に形成されている。したがって負極板Nでは,図中の上側から,負極合材層NA2,負極合材層NA1,負極芯材NB,負極合材層NA1,負極合材層NA2がこの順に配置されている。
【0034】
図5中の右側には,負極板Nの負極非塗工部N2が幅方向に突出している。負極非塗工部N2は,帯状に形成されている。負極非塗工部N2は,負極芯材NBの両面ともに負極合材が塗布されていない領域である。したがって負極非塗工部N2では,負極芯材NBがむき出したままの状態にある。一方,図5中の左側には,負極非塗工部N2に対応するような突出部はない。負極塗工部N1では,負極芯材NBの両面に一様な厚みで負極合材層NA1および負極合材層NA2が形成されている。
【0035】
負極合材層NA1は,負極芯材NBである銅箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を含む合材を塗布して形成された層である。負極活物質として,非晶質炭素,難黒鉛化炭素,易黒鉛化炭素,黒鉛等の炭素系物質が用いられる。また,合材には,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),スチレンブタジエンラバー(SBR),ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の結着剤やカルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤が含まれている。
【0036】
負極合材層NA2は,耐熱性フィラーを含む合材を塗布して形成された層である。耐熱性フィラーとしてアルミナ,マグネシア,シリカ,チタニアなど(の絶縁性金属酸化物等)が挙げられる。また,結着材は,負極合材層NA2に用いられるものと同じものを用いることができる。
【0037】
3.ペースト層の乾燥方法
本発明のバッテリ100の製造方法に係る複数層のペースト層の乾燥方法について説明する。本形態では,複数層のペースト層を一度の乾燥で一括して乾燥させる。図6は,本発明に係る複数層のペースト層を乾燥させる方法について示す概念図である。負極合材層NA1,NA2を形成する際のペースト層の乾燥について説明する。
【0038】
本形態では,図6に示すように,ペースト層の乾燥に,熱風ノズル1301と,冷却ローラ1302とを用いる。ここで,熱風ノズル1301は,負極ペースト層NA20に熱風Hを吹き付けるためのものである。冷却ローラ1302は,負極芯材NBを支持しつつ搬送するためのものである。また,その搬送に伴って負極芯材NBを冷却する役割も担う冷却装置である。冷却ローラ1302は,冷却水により冷却されている。
【0039】
熱風ノズル1301から噴き出す熱風Hの温度を,例えば70℃と設定する。すると,負極ペースト層NA20に吹き付けられる熱風Hの温度はほぼ70℃である。負極ペースト層NA20より上方の雰囲気の温度もほぼ70℃である。
【0040】
一方,冷却ローラ1302の温度を,例えば20℃と設定する。この冷却ローラ1302を通過する負極芯材NBの温度はほぼ20℃である。負極芯材NBより下方であって冷却ローラ1302の周囲の雰囲気の温度もほぼ20℃である。
【0041】
したがって,負極芯材NBの温度と負極ペースト層NA20の温度との温度差は,およそ50℃である。また,ペースト層NA20より上方の雰囲気の温度と,負極芯材NBより下方であって冷却ローラ1302の周囲の雰囲気の温度との温度差も,およそ50℃である。このように,最表層のペースト層の側から最表層のペースト層を加熱するとともに,その反対側から最表層の反対側の面を冷却するのである。
【0042】
ペーストを塗工された直後,すなわち乾燥前においては,図6に示すように,負極芯材NBの上に負極ペースト層NA10,負極ペースト層NA20がこの順に配置されている。負極ペースト層NA10は,負極活物質を含むペーストの層である。負極ペースト層NA10は,未乾燥の層であり,乾燥後には負極合材層NA1となる層である。負極ペースト層NA20は,耐熱性フィラーを含むペーストの層である。負極ペースト層NA20は,未乾燥の層であり,乾燥後には負極合材層NA2となる層である。つまり,負極ペースト層NA20は,負極ペースト層NA10を乾燥させることなくその上に塗工された層である。負極ペースト層NA10および負極ペースト層NA20の溶媒はともに水である。したがって,負極ペースト層NA10および負極ペースト層NA20の揮発溶媒である水の沸点は同じである。
【0043】
図6では,負極芯材NBは,冷却ローラ1302により支持されている。したがって,冷却ローラ1302に接触している負極芯材NBは冷却ローラ1302により冷却される。より温度の低い冷却ローラ1302のほうが負極芯材NBよりも熱容量が十分に大きいからである。
【0044】
図6において,負極芯材NBおよび負極ペースト層NA10および負極ペースト層NA20は,熱風ノズル1301から噴き出す熱風Hにより図中上方から加熱されている。これらのうち,負極ペースト層NA20が最もよく加熱される。図中上方から,すなわち負極ペースト層NA20,負極ペースト層NA10,負極芯材NBの順に配置されているからである。
【0045】
この乾燥工程において,負極ペースト層NA20では,熱風ノズル1301から噴き出す熱風Hにより熱せられるとともに負極ペースト層NA10に熱を奪われる。負極ペースト層NA10では,負極ペースト層NA20から熱を奪うとともに負極芯材NBに熱を奪われる。したがって,負極ペースト層NA20,負極ペースト層NA10,負極芯材NBの順に温度が高い。すなわち,未乾燥のペースト層のうち最表層に近いものほどその温度が高い。逆に,未乾燥のペースト層のうち最表層から遠いものほどその温度が低い。そのため,負極ペースト層NA20から主に水分が蒸発する。
【0046】
そのため,負極ペースト層NA20のほうが負極ペースト層NA10よりも速く乾燥する。つまり,上層である負極ペースト層NA20の乾燥速度は,下層である負極ペースト層NA10の乾燥速度よりも速い。ここで乾燥速度とは,単位時間当たりに層から揮発する溶媒の分子数のことである。気体では,温度および気圧が同じであれば,体積は分子数にほぼ比例する。また,本形態では,負極ペースト層NA10および負極ペースト層NA20の溶媒がともに水であるため,本形態における乾燥速度は,単位時間に蒸発する水分の重量に比例する。
【0047】
したがって,本形態のバッテリの製造方法に係る多層ペースト層の乾燥工程では,次のような乾燥プロセスを辿る。すなわち,まず負極ペースト層NA20の温度が上昇する。このとき,負極ペースト層NA10の温度はそれほど上昇しない。負極芯材NBを介して冷却ローラ1302により冷却されているからである。そのため,負極ペースト層NA20が乾燥し始める。この乾燥を続けると,負極ペースト層NA20の水分は,ほとんど蒸発する。すなわち,負極ペースト層NA20は,ほとんど乾燥し終わっている。
【0048】
このとき,負極ペースト層NA10は,初期に比べればやや乾燥しているものの,まだ十分に水分が残っている状態である。負極ペースト層NA20による気化熱が少なくなるので,負極ペースト層NA10の温度は,負極ペースト層NA20の乾燥後すぐに100℃近くの温度となる。そして負極ペースト層NA10は,乾燥する。ここで,負極ペースト層NA10から水分が蒸発する際に,負極ペースト層NA20が障害となることはほとんどない。負極ペースト層NA20には水蒸気が通過できる程度の微細な孔が開いているからである。そして乾燥を続けると,負極ペースト層NA10もほとんど乾燥し終える。
【0049】
4.二次電池の製造方法
本形態のバッテリ100の製造方法について説明する。本形態のバッテリ100の製造方法は,電極板の塗工工程および乾燥工程に特徴があるものである。したがって,塗工工程および乾燥工程を中心に説明する。
【0050】
図7に本形態の塗工乾燥装置1000の概略構成図を示す。塗工乾燥装置1000は,電極板を作成するための電極板製造装置である。塗工乾燥装置1000は,図7に示すように,巻き出し部1100と,塗工部1200と,乾燥炉1300と,巻取り部1400とを有している。巻き出し部1100は,巻き出し軸1101を有している。巻き出し軸1101は,電極芯材を巻き出すためのものである。したがって,巻き出し軸1101は,回転することができるようになっている。
【0051】
塗工部1200は,塗液供給部1210と,バックアップローラ1220とを有している。塗液供給部1210は,電極芯材に多層の塗工液を塗工するための塗液供給装置である。バックアップローラ1220は,電極芯材を搬送するとともに,塗液供給部1210による電極芯材への塗工の際に電極芯材を支持するためのものである。
【0052】
塗液供給部1210は,図8に示すように,第1塗液供給口1211と,第2塗液供給口1212と,第1塗液保持部1213と,第2塗液保持部1214とを有している。第1塗液供給口1211は,負極ペースト層NA10を形成する塗工液を負極芯材NBの上に塗工するためのものである。第1塗液保持部1213は,その塗工液を保持するためのたまり部である。第2塗液供給口1212は,負極ペースト層NA20を形成する塗工液を負極ペースト層NA10の上に塗工するためのものである。第2塗液保持部1214は,その塗工液を保持するためのたまり部である。なお,正極芯材PBに塗工を行う場合には,第1塗液供給口1211もしくは第2塗液供給口1212の一方から塗工液を供給するようにすればよい。その場合には,使用しない塗液供給口に塗液を供給しないようにすればよい。または,塗液供給口が1つしかない通常の塗液供給装置を用いることもできる。
【0053】
乾燥炉1300は,1以上あるペースト層のすべての層を一度に乾燥させるためのものである。乾燥炉1300は,図7に示すように,熱風ノズル1301と,冷却ローラ1302とを有している。熱風ノズル1301は,塗工層を加熱し,乾燥させるためのものである。熱風ノズル1301は,電極芯材の搬送経路より上方に,その搬送経路に向かって熱風Hが噴き出すように配置されている。
【0054】
冷却ローラ1302は,電極芯材に接触した状態で支持するとともに,これを搬送するためのローラである。そして,電極芯材に接触してその間に電極芯材を冷却するための冷却装置である。冷却ローラ1302は,電極芯材の搬送経路より下方に,その搬送経路に向かって冷却するように配置されている。なお,既に塗工・乾燥の終わった電極芯材の裏面を塗工・乾燥する際には,その場合の最下層である,乾燥済みの負極合材層NA2が冷却ローラ1302と接触して冷却されることとなる。
【0055】
巻取り部1400は,巻取り軸1401を有している。巻取り軸1401は,塗工層を乾燥させた電極板を巻き取るためのものである。巻取り軸1401は,モータ等の動力に接続されるとともに,一定の回転速度で回転することができるようになっている。
【0056】
したがって,巻き出し軸1101にセットされた電極芯材は,図7中の矢印Cの向きに塗工部1200に搬送されてペーストを塗工される。その後,電極芯材は図7中の矢印Dの向きに乾燥炉1300の内部を搬送されつつ,塗工されたペースト層を乾燥させられる。その後,電極芯材は巻取り軸1401に図7中の矢印Eの向きに巻き取られることとなる。
【0057】
4−1.正極板の作成
正極板Pは,塗工乾燥装置1000により作成する。塗液供給部1210から供給される塗工液は,正極用のものである。ここで,塗工工程について説明する。まず,正極芯材PBを巻き出し軸1101から送り出す。次に,塗液供給部1210により所定の幅と厚みで正極用の塗工液を正極芯材PBに塗工する。これにより,正極芯材PBの上に正極のペースト層が塗工される。続いて乾燥工程について説明する。乾燥工程では,塗工された正極芯材PBは乾燥炉1300の内部に搬送される。乾燥炉1300の内部では,正極のペースト層は,熱風ノズル1301から噴き出す熱風Hにより乾燥される。そして,正極のペースト層が乾燥した正極板Pは,巻取り軸1401に巻き取られる。
【0058】
図7に示した塗工乾燥装置1000は,電極芯材の片面のみを塗工乾燥する装置である。したがって,両面を塗工するには,片側の面に正極合材層PAを形成した後に,その反対側の面に正極合材層PAを形成することとすればよい。そのため,塗工乾燥装置1000に正極芯材PBを2回通すこととなる。ただし,図7の塗工乾燥装置1000の代わりに両面を塗工乾燥する塗工乾燥装置を用いれば,その塗工乾燥装置に正極芯材PBを通す回数は1回でよい。両面塗工乾燥装置は,図7の乾燥炉1300の下流に塗工面の反対側の面に塗工する塗液供給装置と,その下流に乾燥炉を配置したものである。負極板Nについても同様に両面塗工をすることができる。
【0059】
4−2.負極板の作成
負極板Nも,塗工乾燥装置1000により作成する。ただし,塗液供給部1210から供給される塗工液は,負極用のものである。ここで,塗工工程について説明する。まず,塗工乾燥装置1000の巻き出し部1100から負極芯材NBを巻き出す。そして,負極芯材NBは,塗工部1200に搬送される。塗工部1200では,図8に示した塗液供給部1210により,負極芯材NBの上に負極ペースト層NA10が,その負極ペースト層NA10の上に負極ペースト層NA20が塗工される。続いて,塗工液を塗工された負極芯材NBは,乾燥炉1300の内部に搬送される。
【0060】
続いて乾燥工程について説明する。乾燥炉1300の内部では,図6に示したような配置になっている。乾燥炉1300の内部では,前述したように,負極ペースト層NA20が負極ペースト層NA10よりも先に乾燥する。負極ペースト層NA20の乾燥速度が,負極ペースト層NA10の乾燥速度よりも速いからである。負極ペースト層NA10,NA20の乾燥後,電極芯材NBは巻取り軸1401に巻き取られる。このように,本形態では,その都度乾燥させることなく重ねて2層以上のペースト層を塗工して,その2層以上のペースト層を一括して乾燥させるのである。なお,正極板Pと負極板Nとを作成する順序はどちらが先であっても構わない。
【0061】
4−3.電極体作成工程
続いて,図9に示す捲回装置2000を用いて,塗工層を既に乾燥した正極板Pおよび負極板Nに,セパレータS,Tを重ねて捲回する。捲回装置2000は,正極板供給部2001と,負極板供給部2002と,セパレータ供給部2003,2004と,捲回軸2005とを有している。ここで,図3に示したように,内側から正極板P,セパレータS,負極板N,セパレータTの順番に積層されるように積み重ねて捲回する。捲回軸2005が図9の矢印Fの向きに回転することにより,捲回電極体200が作成される。
【0062】
4−4.電池組立工程
続いて,電池容器101に捲回電極体200を挿入する。そして電池容器101の内部に電解液を注入して封止する。これにより,バッテリ100が組み立てられる。この後,コンディショニングやエージングなどの工程や,各種の検査工程を行うとよい。
【0063】
本実施の形態のバッテリの製造方法は,負極芯材NBに負極合材層NA1,負極合材層NA2が順に形成された負極板Nを用いるものである。その負極板Nの作成にあたって,負極芯材NBに負極ペースト層NA10,負極ペースト層NA20をその都度乾燥させることなく重ねて塗工した後に,一括して乾燥させる。その際に,基材から遠い負極ペースト層NA20から乾燥させるのである。こうすると,負極ペースト層NA10で対流等が生じても,負極ペースト層NA20と負極ペースト層NA10との境界面で両者の塗工液が混合するおそれがないからである。
【0064】
5.変形例
5−1.乾燥炉内の冷却
ここで,本実施の形態における変形例について説明する。本形態では,図6や図7に示したように,乾燥炉1300の内部で電極芯材NBの下側に冷却ローラ1302を配置することとした。しかし,冷却ローラ1302以外のものを用いてもよい。例えば,図10に示すように,電極芯材の通過する位置の下方にエアノズル1303を設けるようにしてもよい。エアノズル1303により,電極芯材をフローティングさせるとともに,エアノズル1303から噴出す冷風Rにより電極芯材を冷却することができるからである。
【0065】
ここで冷風Rは,熱風Hよりも低い温度の空気である。したがって,室温より多少高い温度の空気であってもよい。また,室温と同程度の空気であってもよい。また,さらに冷却した空気であってもよい。ただし,熱風Hと冷風Rとの温度差が大きいほど,本発明の効果は大きい。
【0066】
また,図11に示すように,定盤を電極芯材の下側に配置することとしてもよい。定盤の厚みが十分であれば,熱容量も大きいため,電極芯材を十分に冷却することができるからである。なお,定盤に対して電極芯材は摺動して搬送される。
【0067】
5−2.乾燥炉内の加熱
ここで,別の変形例について説明する。本形態では,電極芯材に塗工したペーストの乾燥に,熱風ノズル1301を用いた。しかし,他の加熱装置を用いてもよい。つまり,熱風ノズル1301の代わりに,IR加熱器やその他の加熱器を用いることとしてもよい。ただし,誘導加熱器は用いることができない。ペースト側でなく電極芯材の側から加熱することとなってしまうためである。
【0068】
5−3.その他
また,冷却ローラ1302を,通常のローラとしてもよい。その場合,最表層の負極ペースト層NA20の側のみから加熱することとなり,負極ペースト層NA20と負極ペースト層NA10とで温度差が生じることに変わりないからである。
【0069】
また,最表層である負極ペースト層NA20の反対側から,最表層の側よりも弱く加熱するようにしてもよい。このようにしても,負極ペースト層NA20と負極ペースト層NA10とで温度差が生じることに変わりないからである。ただし,その場合,本発明の効果はそれほど大きくない。
【0070】
6.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係るバッテリ100の製造方法は,電極芯材に複数のペースト層を塗工するとともに,複数の塗工層を一度に乾燥させるものである。そしてその際に,基材側からでなく,表層に近い側のペースト層から乾燥させる。下層のペースト層で対流が生じても,上層と下層のペースト層が混合しないようにするためである。これにより,複数層のペースト層を一度に乾燥させることのできるバッテリ100の製造方法が実現されている。
【0071】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,バッテリに用いられる電極体は,捲回電極体に限らない。したがって,平積みの電極体を有するバッテリであっても適用することができる。積み重ねて積層された積層電極体を用いる二次電池であれば適用することができる。また,本発明は,円筒形状の電池のみならず,角型電池にも適用することができる。
【0072】
また,正極合材層PAや負極合材層NA1,NA2は,それぞれ正極芯材PB,負極芯材NBの両側に形成されているとした。しかし,合材層の形成は片面のみになされているものであってもよい。また,正極板に2層以上の合材層が形成されているものであってもよい。その場合には,負極板に形成されている合材層は1層であってもよい。正極板および負極板の少なくとも一方に2層以上の合材層が形成されていれば本発明を適用することができる。そして,1層のみの合材層を形成する場合には,本実施の形態の塗工乾燥装置1000を用いてもよいし,冷却ローラ1302等の冷却装置を有さない従来の塗工乾燥装置を用いてもよい。また,本形態では,図8に示したように同時に2層を塗工する塗液供給部1210を用いた。しかし,1層のみを塗工する塗液供給部を2箇所に設置して,1層ずつ独立に塗工することにより,芯材に2層を塗工するようにしてもよい。
【0073】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。本形態に係るバッテリの製造方法では,乾燥炉を複数のゾーンに分けて,ペーストを塗工された電極芯材を複数の乾燥ゾーンに通過させて乾燥させる方法である。それ以外の点については,第1の実施形態と同様である。したがって,乾燥工程を中心に説明する。
【0074】
本形態では,図12に示すように,乾燥炉3300は,ゾーンJ,ゾーンK,ゾーンLに分かれている。そしてそれぞれ,異なった乾燥条件が課せられている。図12では,電極芯材は矢印Iの向きに搬送される。従って,電極芯材は塗工された後,ゾーンJ,ゾーンK,ゾーンLの順に搬送されることとなる。
【0075】
図12に示すように,ゾーンJでは,図12中の上方に熱風ノズル3301が,図12中の下方に冷却ローラ3302が配置されている。熱風ノズル3301から噴き出す熱風Hの温度は110℃である。冷却ローラ3302の温度は20℃である。
【0076】
ゾーンKでは,図12中の上方に熱風ノズル3303が,図12中の下方に送風ノズル3304が配置されている。熱風ノズル3303から噴き出す熱風Hの温度は130℃である。送風ノズル3304から噴き出す冷風Rの温度は30℃である。
【0077】
ゾーンLでは,図12中の上方に熱風ノズル3305が,図12中の下方に熱風ノズル3306が配置されている。熱風ノズル3305から噴き出す熱風Hの温度は130℃である。熱風ノズル3306から噴き出す熱風Hの温度は130℃である。
【0078】
したがって,この乾燥炉3300を用いたペースト層の乾燥工程では,乾燥の初期ほど,最表層の側からの加熱の度合いと,その反対側からの加熱の度合いとの差が大きい。一方,乾燥の後期ほど,最表層の側からの加熱の度合いと,その反対側からの加熱の度合いとの差が小さい。
【0079】
ここで,本形態の負極板Nの乾燥工程について説明する。その他の工程については第1の実施形態と同様であるから省略する。負極ペースト層NA10および負極ペースト層NA20を塗工された負極芯材NBは,まず,ゾーンJに搬送させる。ゾーンJでは,負極ペースト層NA20が乾燥する。このとき,負極ペースト層NA10はほとんど乾燥しない。負極芯材NBを介して冷却ローラ3302により冷却されているからである。よって,負極ペースト層NA20の温度は,負極ペースト層NA10の温度よりも高い。
【0080】
続いて,負極芯材NBは,ゾーンKに搬送される。ゾーンKに搬送された直後では,負極ペースト層NA20は半分程度乾燥している。ゾーンKの途中では,負極ペースト層NA20はほとんど乾燥しきった状態となる。そのためそれ以後,負極ペースト層NA20は気化熱を奪われない。そして,負極ペースト層NA10が乾燥し始める。この段階に至っても,負極ペースト層NA20の温度は,負極ペースト層NA10の温度よりも高い。負極ペースト層NA20は,水分をほとんど失って,水の沸点である100℃以上の温度に達しているからである。
【0081】
続いて,負極芯材NBは,ゾーンLに搬送される。ゾーンLに搬送された直後では,負極ペースト層NA10は半分程度乾燥している。ゾーンLでは,負極ペースト層NA20の側からも負極芯材NBの側からも加熱されるので,負極ペースト層NA20および負極ペースト層NA10の残りの水分もほとんどが蒸発する。
【0082】
これにより,負極合材層NA1と負極合材層NA2とを形成された負極板Nが作成される。この後,第1の実施形態と同様の工程を経て,リチウムイオン二次電池が製造される。本形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は,第1の実施形態に係る二次電池の製造方法よりも,負極ペースト層NA20,NA10から水分を確実に蒸発させることができる。ゾーンLでは,両面側から加熱しているからである。
【0083】
なお,両面塗工の場合であっても,負極ペースト層NA10,NA20の乾燥に問題は生じない。既に乾燥している負極合材層NA1,NA2を余分に加熱するのみで,気化熱による熱エネルギーのロスはないからである。
【0084】
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係るバッテリの製造方法は,電極芯材に複数のペースト層を塗工するとともに,複数の塗工層を一度に乾燥させるものである。そしてその際に,基材側からでなく,表層に近い側のペースト層から乾燥させる。下層のペースト層で対流が生じても,上層と下層のペースト層が混合しないようにするためである。これにより,複数層のペースト層を一度に乾燥させることのできるバッテリの製造方法が実現されている。
【0085】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,バッテリに用いられる電極体は,捲回電極体に限らない。したがって,平積みの電極体を有するバッテリであっても適用することができる。積み重ねて積層された積層電極体を用いる二次電池であれば適用することができる。また,本発明は,円筒形状の電池のみならず,角型電池にも適用することができる。
【0086】
また,正極合材層PAや負極合材層NA1,NA2は,それぞれ正極芯材PB,負極芯材NBの両側に形成されているとした。しかし,合材層の形成は片面のみになされているものであってもよい。また,正極板に2層以上の合材層が形成されているものであってもよい。その場合には,負極板に形成されている合材層は1層であってもよい。正極板および負極板の少なくとも一方に2層以上の合材層が形成されていれば本発明を適用することができる。そして,1層のみの合材層を形成する場合には,本実施の形態の乾燥炉3300を有する塗工乾燥装置を用いてもよいし,冷却ローラ3302等の冷却装置を有さない従来の塗工乾燥装置を用いてもよい。
【0087】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。本形態に係るバッテリの製造方法は,負極芯材NBの上に3層以上のペースト層を塗工し,それらのペースト層を全て一度に乾燥させるものである。それ以外の工程は,第1の実施形態の工程と同様である。したがって,多数のペースト層を塗工する工程と,乾燥する工程を中心に説明する。
【0088】
本形態では,負極芯材NBに3層以上の多数のペースト層を形成する。図13は,負極芯材NBにM層のペースト層を形成したところを示す概念図である。ここでMは,3以上の整数である。図13に示すように,負極芯材の側から,第1層,第2層,…,第M層まで形成されている。これらの複数のペースト層のうち最表層は,第M層である。また,これらのペースト層の溶媒は全て水である。
【0089】
本形態のバッテリの製造方法では,図7に示した塗工乾燥装置1000で,塗液供給部にM個の塗液供給口を配置したものを用いればよい。負極芯材NBにM層のペースト層を形成するためである。乾燥炉1300は,M層のペースト層の厚み等に応じて炉長を設計するとよい。また,炉内の設定温度や熱風Hの設定温度を変更してもよい。
【0090】
ここで,本形態のバッテリの製造方法について説明する。第1の実施形態と同様に,負極芯材NBを塗工部1200に搬送する。塗工部1200では,M個の塗液供給口によりM層のペースト層が負極芯材NBの上に形成される。
【0091】
続いて,図13に示すように,M層のペースト層を最表層である第M層の側から加熱する。一方,冷却ローラ1302により負極芯材NBを冷却する。そのため,第M層では,熱風ノズル1301から送風される熱風Hを受ける。第M層では,熱風Hにより加熱されるとともに,第(M−1)層に熱を奪われる。第(M−1)層では,第M層から熱を奪うとともに第(M−2)層に熱を奪われる。
【0092】
そして,第2層では,第3層から熱を奪うとともに,第1層に熱を奪われる。第1層では,第2層から熱を奪うとともに,負極芯材NBに熱を奪われる。負極芯材NBは,第1層から熱を奪うとともに,冷却ローラ1302により冷却される。
【0093】
このように,各層の温度の関係は,以下のようになる。
第M層の温度 ≧ 第(M−1)層の温度 ≧ 第(M−2)層の温度
……… ≧ 第2層の温度 ≧ 第1層の温度
すなわち,未乾燥のペースト層のうち上層にあるものほどその温度が高い傾向にある。逆に,未乾燥のペースト層のうち下層にあるものほどその温度が低い傾向にある。
【0094】
したがって,各層で異なる種類の揮発溶媒を用いた場合には,各層の温度の関係は,以下のようになる。
第M層の温度 > 第(M−1)層の温度 > 第(M−2)層の温度
……… > 第2層の温度 > 第1層の温度
すなわち,未乾燥のペースト層のうち上層にあるものほどその温度が高い。逆に,未乾燥のペースト層のうち下層にあるものほどその温度が低い。
【0095】
このように,最表層の側から加熱することは第1の実施形態と同様である。そのため,M層のペースト層の乾燥順は以下のとおりである。すなわち,第M層,第(M−1)層,・・・,第2層,第1層の順である。
【0096】
また,乾燥速度は,以下のとおりである。すなわち,第M層,第(M−1)層,・・・,第2層,第1層の順で乾燥速度は速い。
【0097】
これにより,M層の負極合材層の形成された負極板Nが作成される。この後,第1の実施形態と同様の工程を経て,リチウムイオン二次電池が製造される。本形態のリチウムイオン二次電池の製造方法では,より多層のペースト層を備える電極板を有する二次電池を製造することができる。
【0098】
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係るバッテリの製造方法は,電極芯材に3層以上のペースト層を塗工するとともに,3層以上の塗工層を一度に乾燥させるものである。そしてその際に,基材側からでなく,表層に近い側のペースト層から乾燥させる。下層のペースト層で対流が生じても,上層と下層のペースト層が混合しないようにするためである。これにより,3層以上のペースト層を一度に乾燥させることのできるバッテリの製造方法が実現されている。
【0099】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,バッテリに用いられる電極体は,捲回電極体に限らない。したがって,平積みの電極体を有するバッテリであっても適用することができる。積み重ねて積層された積層電極体を用いる二次電池であれば適用することができる。また,本発明は,円筒形状の電池のみならず,角型電池にも適用することができる。
【0100】
また,正極合材層PAや負極合材層NA1,NA2等は,それぞれ正極芯材PB,負極芯材NBの両側に形成されているとした。しかし,合材層の形成は片面のみになされているものであってもよい。また,正極板に3層以上の合材層が形成されているものであってもよい。その場合には,負極板に形成されている合材層は1層であってもよい。正極板および負極板の少なくとも一方に3層以上の合材層が形成されていれば本発明を適用することができる。そして,1層のみの合材層を形成する場合には,本発明に係る塗工乾燥装置1000を用いてもよいし,冷却ローラ1302等の冷却装置を有さない従来の塗工乾燥装置を用いてもよい。
【0101】
(第4の実施形態)
第4の実施形態について説明する。本形態と第1の実施形態との相違点は,負極ペースト層NA10と負極ペースト層NA20に用いる溶媒の揮発温度である。それ以外については,第1の実施形態とほぼ同様である。したがって,異なる点を中心に説明する。
【0102】
本形態の製造方法では,図6に示した負極ペースト層NA10の揮発溶媒として,N−メチル−2−ピロリドン(NMP,以下NMPという)を用いる。NMPの大気圧での沸点は202℃である。負極ペースト層NA20の溶媒は水である。その大気圧での沸点はもちろん100℃である。
【0103】
つまり本形態では,負極ペースト層NA20の溶媒の沸点は,負極ペースト層NA10の溶媒の沸点よりも低いのである。そのため,これらの2つのペースト層のうち,まず負極ペースト層NA20が乾燥し,続いて負極ペースト層NA10が乾燥するのである。この乾燥順については,第1の実施形態と同様である。つまり,負極ペースト層NA20の乾燥速度は,負極ペースト層NA10の乾燥速度よりも速い。
【0104】
本形態では,熱風ノズル1301から噴き出す熱風Hの温度を250℃程度に設定する。NMPの沸点よりも高い温度でペースト層を乾燥させるためである。つまり,本形態の乾燥で設定する熱風Hの温度は,第1の実施形態のものよりも高い。
【0105】
続いて,乾燥プロセスについて説明する。2層のペースト層を塗工された負極芯材NBは,乾燥炉1300の内部に搬送される。まず,最表層である負極ペースト層NA20の温度が上昇する。一方,負極ペースト層NA10の温度はそれほど上昇しない。負極芯材NBを介して冷却ローラ1302により冷却されているからである。つまり,負極ペースト層NA20の温度は,負極ペースト層NA10の温度よりも高い。ここで負極ペースト層NA20の温度は100℃に満たないので,負極ペースト層NA10は,ほとんど乾燥しない。
【0106】
このまま乾燥を続けると,負極ペースト層NA20はほとんど乾燥する。そうすると,負極ペースト層NA20は,水の沸点である100℃を超えてその温度が上昇する。そしてやがて,NMPの沸点である202℃を超える。それに続いて,負極ペースト層NA10の温度もNMPの沸点である202℃に達する。その温度付近で,NMPの大部分が揮発する。ここに至っても,負極ペースト層NA20の温度は,負極ペースト層NA10の温度よりも高い。
【0107】
このように,乾燥の途中においても,未乾燥のペースト層のうち最表層に近いものほどその温度が高い。逆に,未乾燥のペースト層のうち最表層から遠いものほどその温度が低い。この乾燥を続けると,やがて負極ペースト層NA10も乾燥する。
【0108】
これにより,負極合材層NA1と負極合材層NA2とを形成された負極板Nが作成される。この後,第1の実施形態と同様の工程を経て,リチウムイオン二次電池が製造される。
【0109】
本形態のバッテリの製造方法により製造されたバッテリは,第1の実施形態のバッテリ100とほぼ同様である。ただし一般的に,正極板および負極板の合材層から完全に溶媒が抜け切るわけではない。また,バッテリとなった後にも,溶媒は合材層中にわずかに残っている。したがって,バッテリを分解してその合材層について適当な分析を行うことにより,その合材層を形成するために用いられた溶媒の種類を特定することは可能である。
【0110】
以上詳細に述べたように,本形態は,1)最表層の側から乾燥させること,2)上層の溶媒ほど揮発温度が低いこと,という特徴点を有している。したがって,本形態は,特徴点1)のみを有している第1の実施形態よりも,下層の対流による上層のペースト層と下層のペースト層とが混じり合うことを抑制することができる。
【0111】
ここで,本形態の変形例について説明する。本形態では,負極板Nを作成するのに塗工乾燥装置1000を用いた。しかし,負極芯材NBの側から冷却しなくとも,本発明の効果を得ることはできる。したがって,冷却ローラ1302を有しない従来の塗工乾燥装置を用いてもよい。ただし,塗工乾燥装置1000を用いたほうが,より効果的あることはいうまでもない。
【0112】
本形態の別の変形例について説明する。本形態では,負極ペースト層NA20の溶媒として水を,負極ペースト層NA10の溶媒としてNMPを用いた。しかし,他の溶媒の組み合わせを用いてもよい。例えば,負極ペースト層NA20の溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)を用い,負極ペースト層NA10の溶媒として水を用いることができる。
【0113】
メチルエチルケトンの沸点は79.5℃である。水の沸点は100℃である。したがって,負極ペースト層NA20の揮発溶媒の温度は,負極ペースト層NA10の揮発溶媒の温度よりも低い。
【0114】
第2の実施形態のようにM層のペースト層を形成するようにしてもよい。その場合には,次のような関係が成り立つ。
第M層の溶媒の揮発温度 ≦ 第(M−1)層の溶媒の揮発温度
第(M−1)層の溶媒の揮発温度 ≦ 第(M−2)層の溶媒の揮発温度
第2層の溶媒の揮発温度 ≦ 第1層の溶媒の揮発温度
【0115】
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係るバッテリの製造方法は,電極芯材に複数のペースト層を塗工するとともに,複数の塗工層を一度に乾燥させるものである。そしてその際に,基材側からでなく,表層に近い側のペースト層から乾燥させる。下層のペースト層で対流が生じても,上層と下層のペースト層が混合しないようにするためである。これにより,複数層のペースト層を塗工の都度乾燥させることなく,一工程で乾燥させることのできるバッテリの製造方法が実現されている。
【0116】
また,本実施の形態に係るバッテリは,正極板Pと負極板Nとそれらの間にセパレータを挟んだ状態で捲回された捲回電極体200を有するものである。負極板Nには,負極芯材NBの両面に2層の負極合材層NA1,NA2が形成されたものである。そしてその2層の負極合材層のうち,最表層の負極合材層NA2にわずかに含まれている溶媒の揮発温度は,その下層に位置する負極合材層NA1にわずかに含まれている溶媒の揮発温度よりも低い。
【0117】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,バッテリに用いられる電極体は,捲回電極体に限らない。したがって,平積みの電極体を有するバッテリであっても適用することができる。積み重ねて積層された積層電極体を用いる二次電池であれば適用することができる。また,本発明は,円筒形状の電池のみならず,角型電池にも適用することができる。
【0118】
また,正極合材層PAや負極合材層NA1,NA2は,それぞれ正極芯材PB,負極芯材NBの両側に形成されているとした。しかし,合材層の形成は片面のみになされているものであってもよい。また,正極板に2層以上の合材層が形成されているものであってもよい。その場合には,負極板に形成されている合材層は1層であってもよい。正極板および負極板の少なくとも一方に2層以上の合材層が形成されていれば本発明を適用することができる。そして,1層のみの合材層を形成する場合には,本発明に係る塗工乾燥装置1000を用いてもよいし,冷却ローラ1302等の冷却装置を有さない従来の塗工乾燥装置を用いてもよい。
【実施例】
【0119】
ここで,表層の乾燥速度を,下層の乾燥速度よりも速くしたものとそうでないものとを比較した実験について説明する。実施例1では,図14に示す乾燥方法により乾燥させた。比較例1では,基材である負極芯材の側から加熱して乾燥させた。ここで示した乾燥条件以外の条件に関しては,実施例1も比較例1も同様である。
【0120】
本実験で用いたサンプルの材料等について以下に示す。負極芯材は,銅箔である。下層の負極ペースト層(図6の負極ペースト層NA10に相当)は,第1の実施形態で説明した負極活物質を含むペーストである。上層の負極ペースト層(図6の負極ペースト層NA20に相当)は,第1の実施形態で説明した耐熱性フィラーを含むペーストである。そしてこれらのペーストの溶媒はともに水である。
【0121】
実施例1における乾燥方法について図14により説明する。図14に示すように,定盤の上にサンプルをおく。定盤の材質はステンレス鋼である。このとき,負極芯材である銅箔が下になるように配置する。このように配置すると,上層の負極ペースト層が最表層となる。そして,ヒートガン301により,熱風Hを上層の負極ペースト層に当てる。定盤は,十分に大きい。そして,熱風Hに比べて十分に温度が低い。
【0122】
したがって,熱風Hを上層の負極ペースト層に当てている状態では,上層の負極ペースト層,下層の負極ペースト層,定盤の順で温度が高い。つまり,上層の負極ペースト層の乾燥速度は下層の負極ペースト層の乾燥速度よりも速い。
【0123】
比較例1における乾燥方法について説明する。比較例1においては,定盤から加熱する。そのため,乾燥途中において,上層の負極ペースト層の温度は下層の負極ペースト層よりも温度が低い。よって,まず下層の負極ペースト層が乾燥する。そして下層の負極ペースト層が乾燥した後に上層の負極ペースト層が乾燥する。したがって,上層の負極ペースト層の乾燥速度は下層の負極ペースト層の乾燥速度よりも遅い。
【0124】
図15は,実施例1における乾燥後の負極板のサンプルの断面を示す断面図である。実施例1では,下層のペースト層の厚みは100μm程度である。上層のペースト層の厚みは20μm程度である。
【0125】
図16は,比較例1における乾燥後の負極板のサンプルの断面を示す断面図である。比較例1では,下層のペースト層の厚みは100μm程度である。上層のペースト層の厚みは60μm程度である。
【0126】
実施例1と比較例1とを比較すると,下層のペースト層はともに100μm程度でほぼ同様である。実施例1における上層のペースト層は,比較例1における上層のペースト層よりも薄い。そして,実施例1における上層のペースト層と下層のペースト層との境界面Xは,比較例1における上層のペースト層と下層のペースト層との境界面Yよりも平坦である。すなわち,凹凸が少ない。境界面Xにおける凹凸は1μm程度である。境界面Yにおける凹凸は10μm程度である。
【符号の説明】
【0127】
100…バッテリ
110…正極集電板
120…負極集電板
200…捲回電極体
1000…塗工乾燥装置
1100…巻き出し部
1200…塗工部
1210…塗液供給部
1211…第1塗液供給口
1212…第2塗液供給口
1220…バックアップローラ
1300,3300…乾燥炉
1301,3301,3303,3305,3306…熱風ノズル
1302,3302…冷却ローラ
1303…エアノズル
304…定盤
1400…巻取り部
2000…捲回装置
2001…正極板供給部
2002…負極板供給部
2003,2004…セパレータ供給部
2005…捲回軸
P…正極板
PA…正極合材層
PB…正極芯材
P1…正極塗工部
P2…正極非塗工部
N…負極板
NA1,NA2…負極合材層
NA10,NA20…負極ペースト層
NB…負極芯材
N1…負極塗工部
N2…負極非塗工部
S,T…セパレータ
X,Y…境界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極芯材または負極芯材にペースト層を塗工する塗工工程と,
前記塗工工程で塗工されたペースト層を乾燥させて正極板または負極板とする乾燥工程と,
前記乾燥工程で乾燥された前記正極板と前記負極板とこれらを絶縁するセパレータとを積み重ねて電極体を作成する電極体作成工程と,
前記電極体作成工程で作成された前記電極体を電池容器に挿入するとともに前記電池容器に電解液を注入する電池組立工程とを有する二次電池の製造方法において,
前記塗工工程では,
前記正極芯材および前記負極芯材の少なくとも一方に2層以上のペースト層をその都度乾燥させることなく重ねて塗工し,
前記乾燥工程では,
未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,
未乾燥の2層以上のペースト層のうち最表層に近い側のペースト層ほど,
当該ペースト層の温度を高くし,
未乾燥の2層以上のペースト層のうち最表層から遠い側のペースト層ほど,
当該ペースト層の温度を低くすることを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池の製造方法であって,
前記乾燥工程の少なくとも一部では,
未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,
未乾燥の2層以上のペースト層における最表層のペースト層の側のみから前記最表層のペースト層を加熱することを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の二次電池の製造方法であって,
前記乾燥工程の少なくとも一部では,
未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,
未乾燥の2層以上のペースト層における最表層のペースト層の表側から前記最表層のペースト層を加熱するとともに,
未乾燥の2層以上のペースト層における最表層のペースト層の反対側から前記最表層の反対側の面を前記表側からの加熱より弱く加熱することを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の二次電池の製造方法であって,
前記乾燥工程の少なくとも一部では,
未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,
未乾燥の2層以上のペースト層における最表層のペースト層の表側から前記最表層のペースト層を加熱するとともに,
未乾燥の2層以上のペースト層における最表層のペースト層の反対側から前記最表層の反対側の面を冷却することを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の二次電池の製造方法であって,
前記塗工工程では,
2層以上のペースト層をその都度乾燥させることなく重ねて塗工するに際して,
2層以上のペースト層のうちの最表層でないペースト層における揮発溶媒として,
大気圧下での沸点が当該ペースト層より上層のペースト層における揮発溶媒の大気圧下での沸点以上であるものを用いることを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の二次電池の製造方法であって,
前記乾燥工程の少なくとも一部では,
未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,
前記最表層のペースト層より上方に位置する雰囲気の温度が,前記正極芯材または前記負極芯材より下方に位置する雰囲気の温度よりも高いことを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の二次電池の製造方法であって,
前記乾燥工程の少なくとも一部では,
未乾燥の2層以上のペースト層を乾燥させるに際して,
前記最表層のペースト層より上方に位置する雰囲気の温度が,前記正極芯材または前記負極芯材より下方に位置する雰囲気の温度よりも50℃以上高いことを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれかに記載の二次電池の製造方法であって,
前記乾燥工程では,
前記乾燥工程の初期ほど,
未乾燥のペースト層の最表層の側からの加熱の度合いと,前記最表層の反対側からの加熱の度合いとの差が大きく,
前記乾燥工程の後期ほど,
未乾燥のペースト層の最表層の側からの加熱の度合いと,前記最表層の反対側からの加熱の度合いとの差が小さいことを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項9】
正極芯材または負極芯材にペースト層を塗工する塗工工程と,
前記塗工工程で塗工されたペースト層を乾燥させて正極板または負極板とする乾燥工程と,
前記乾燥工程で乾燥された前記正極板と前記負極板とこれらを絶縁するセパレータとを積み重ねて電極体を作成する電極体作成工程と,
前記電極体作成工程で作成された前記電極体を電池容器に挿入するとともに前記電池容器に電解液を注入する電池組立工程とを有する二次電池の製造方法において,
前記塗工工程では,
2層以上のペースト層をその都度乾燥させることなく重ねて塗工するに際して,
2層以上のペースト層のうちの最表層でないペースト層における揮発溶媒として,
大気圧下での沸点が当該ペースト層より上層のペースト層における揮発溶媒の大気圧下での沸点より高いものを用いることを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項10】
正極芯材の少なくとも片側の面に正極合材層を塗工された正極板と,負極芯材の少なくとも片側の面に負極合材層を塗工された負極板と,前記正極板と前記負極板とを絶縁するセパレータとを積み重ねた積層電極体と,
前記積層電極体を内部に備える電池容器と,
前記電池容器の内部に封入された電解液とを有する二次電池において,
前記正極板および前記負極板の少なくとも一方は,2層以上の合材層を形成されたものであり,
当該2層以上の合材層では,
2層以上の合材層のうちの最表層でない合材層に用いられた揮発溶媒が,
大気圧下での沸点が当該合材層より上層の合材層に用いられた揮発溶媒の大気圧下での沸点より高いものであることを特徴とする二次電池。
【請求項11】
電極芯材を巻き出す巻き出し部と,
前記電極芯材に2層以上のペースト層を未乾燥の状態で重ねて塗工して塗工層とする塗工部と,
前記塗工層を乾燥させる乾燥炉と,
前記塗工層を乾燥された前記電極芯材を巻き取る巻取り部とを有する電極板製造装置において,
前記乾燥炉の少なくとも一部では,
塗工された前記電極芯材の搬送経路より上方に,前記搬送経路に向かって加熱する加熱装置が配置されているとともに,
前記搬送経路より下方に,前記搬送経路に向かって冷却する冷却装置が配置されていることを特徴とする電極板製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−210478(P2011−210478A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75888(P2010−75888)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】