説明

二次電池

【課題】 負極活物質として合金材料を用いた場合に、巻回中心側における微小短絡を抑制し、充放電サイクル特性を向上させることができる二次電池を提供する。
【解決手段】 正極21は、巻回中心側の外周面露出領域21Cおよび内周面露出領域21Dに絶縁性の保護部材30を有している。保護部材30の幅は、正極集電体21Aよりも0.5mm以上5mm以下の範囲で大きく形成されている。充放電に伴う膨張収縮により変形しやすい巻回中心側の外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eや、または充放電により正極21の幅が伸びた場合に負極22に接触しやすい幅方向端部21Fが保護され、微小短絡が抑制される。保護部材30は、外周面露出領域21Cおよび内周面露出領域21Dの長さ方向における一部に設けられていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極と負極とを電解質を間にして積層し巻回してなる巻回体を備えた二次電池に係り、特に、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含む負極活物質を含む負極を備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR(ビデオテープレコーダ),携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が多く登場し、その小型軽量化が図られている。これらの電子機器のポータブル電源として用いられている電池、特に二次電池はキーデバイスとして、エネルギー密度の向上を図る研究開発が活発に進められている。中でも、非水電解質二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)は、従来の水系電解液二次電池である鉛電池、ニッケルカドミウム電池と比較して大きなエネルギー密度が得られるので、その改良に関する検討が各方面で行われている。
【0003】
リチウムイオン二次電池に使用される負極活物質としては、比較的高容量を示し良好なサイクル特性を有する難黒鉛化性炭素あるいは黒鉛などの炭素系材料が広く用いられている。ただし、近年の高容量化の要求を考えると、炭素系材料の更なる高容量化が課題となっている。
【0004】
このような背景から、炭素化原料と作成条件とを選ぶことにより炭素系材料で高容量を達成する技術が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、かかる炭素系材料を用いた場合には、負極放電電位が対リチウムで0.8V〜1.0Vであり、電池を構成したときの電池放電電圧が低くなることから、電池エネルギー密度の点では大きな向上が見込めない。さらには、充放電曲線形状にヒステリシスが大きく、各充放電サイクルでのエネルギー効率が低いという欠点もある。
【0005】
一方、炭素系材料を上回る高容量負極として、ある種の金属リチウムが電気化学的に合金化し、これが可逆的に生成・分解することを応用した合金材料に関する研究も進められている。例えば、Li−Al合金を用いた高容量負極が開発され、さらには、Li−Si合金からなる高容量負極が開発されている(例えば、特許文献2参照。)。また、Cu6 Sn5 という金属間化合物も開発されている(例えば、特許文献3参照。)。
【非特許文献1】ディ.ラーチャー(D. Larcher)著「ジャーナル オブ ジ エレクトロケミカル ソサエティ(Journal of The Electrochemical Society)」、2000年、5巻、第147号、p1658-1662
【特許文献1】特開平8−315825号公報
【特許文献2】米国特許第4950566号明細書等
【特許文献3】特開平6−325765号公報
【特許文献4】特開平7−230800号公報
【特許文献5】特開平7−288130号公報
【特許文献6】特開平5−234620号公報
【特許文献7】特開2001−266946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Li−Al合金,Si合金あるいはCu6 Sn5 は、充放電に伴い膨張収縮し、充放電を繰り返す度に微粉化するので、サイクル特性が極めて悪いという大きな問題がある。
【0007】
そこで、サイクル特性を改善する手法として、リチウムの吸蔵・放出に伴う膨張収縮に関与しない元素で一部を置換することが検討されており、例えば、LiSis t (0≦s、0<t<2),Liu Si1-v v w (Mはアルカリ金属を除く金属もしくはケイ素を除く類金属を表し、0≦u、0<v<1、0<w<2である),あるいはLiAgTe系合金が提案されている(例えば、特許文献4〜6参照。)。しかし、これらの負極活物質によっても、膨張収縮に由来する充放電サイクル特性の劣化が大きく、高容量という特徴を活かしきれていないのが実状である。特に、正極と負極とを電解質を間にして積層し巻回して用いる場合、構造上の理由により充放電サイクル特性の劣化が顕著に現れる。
【0008】
すなわち、巻回型の電池では、充放電に伴う膨張収縮を繰り返すことにより、例えば図8に示したように、巻回中心側で正極121や負極122が変形して皺や折れ曲りが生じ、そこから微小短絡が起こって充放電サイクル特性が劣化してしまう。また、充放電に伴って正極の幅が伸び、正極の幅方向端部が負極に接触して微小短絡が起こることにより、充放電サイクル特性が劣化してしまうという問題もある。このような充放電サイクル特性の劣化は、とりわけ高温時や過充電の充放電サイクルで著しい。
【0009】
なお、従来では、負極活物質として炭素系材料を用いた巻回型の電池において、電極の端部およびそれに対向する側の電極上に、ポリイミドまたはポリプロピレン製のテープなどの絶縁材を接着し、外部から押圧力が加えられた場合などに電極間の短絡を防止することが提案されている(例えば、特許文献7参照。)。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、負極活物質として合金材料を用いた場合に、巻回中心側における微小短絡を抑制し、充放電サイクル特性を向上させることができる二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による二次電池は、帯状の正極集電体の外周面に外側正極活物質層、内周面に内側正極活物質層をそれぞれ有する正極と、帯状の負極集電体の面上に負極活物質層を有する負極とをセパレータを間にして積層し、巻回した巻回体を備え、負極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含む負極活物質を含み、正極は、巻回中心側に、正極集電体が外側正極活物質層に覆われず露出した外周面露出領域と、正極集電体が内側正極活物質層に覆われず露出した内周面露出領域とを有し、外周面露出領域および内周面露出領域に絶縁性の保護部材が設けられると共に、保護部材の幅が正極集電体よりも0.5mm以上5mm以下の範囲で大きく形成されているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の二次電池によれば、負極が、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含む負極活物質を含むようにしたので、高い容量を得ることができる。また、正極の巻回中心側の外周面露出領域および内周面露出領域に絶縁性の保護部材を設けるようにしたので、充放電に伴う膨張収縮により変形しやすい外周面露出領域および内周面露出領域を保護し、皺や折れ曲りから微小短絡が生じることを抑制することができる。よって、高い容量を保持しつつ、サイクル特性を向上させることができる。更に、保護部材の幅を正極集電体よりも0.5mm以上5mm以下の範囲で大きく形成したので、充放電により正極の幅が伸びた場合にも、正極の幅方向端部を保護部材で覆い、負極との微小短絡を抑制することができる。よって、サイクル特性をより向上させることができる。
【0013】
ここで「幅」とは、正極または負極の巻回方向すなわち長さ方向に対して垂直な方向における寸法をいう。また、0.5mm以上5mm以下という範囲は、幅方向両側の合計であり、片側では0.25mm以上2.5mm以下である。
【0014】
加えて、保護部材を、外周面露出領域および内周面露出領域の長さ方向における一部に設けるようにすれば、外部からの衝撃などを受けて電池が押し潰された場合に、外周面露出領域または内周面露出領域の保護部材で覆われてない部分において、センターピンを用いて正極と負極とを短絡させて電池反応を停止させることができ、安全性を高めることができる。
【0015】
その場合、センターピンの長手方向の切れ目に交差して第1の切欠部を設けるようにすれば、外部からの力で押し潰されたり折れたりした場合に正極と負極とを確実に短絡させることができ、安全性を更に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図において各構成要素は本発明が理解できる程度の形状、大きさおよび配置関係を概略的に示したものであり、実寸とは異なっている。
【0017】
図1は本発明の一実施の形態に係る二次電池の断面構造を表すものである。この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、巻回体20を有している。電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12,13がそれぞれ配置されている。
【0018】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を間にしてかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0019】
巻回体20は、正極21と負極22とをセパレータ23を間にして積層し、渦巻き状に巻回したものであり、中心にはセンターピン24が挿入されている。巻回体20の正極21にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケルなどよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
【0020】
図2は図1に示した正極21の巻回前の構成を表すものである。正極21は、例えば、帯状の正極集電体21Aの外周面に外側正極活物質層21B、内周面に内側正極活物質層21Cを設けたものである。また、正極21は、巻回中心側に、正極集電体21Aが外側正極活物質層21Bに覆われず露出した外周面露出領域21Dと、正極集電体21Aが内側正極活物質層21Cに覆われず露出した内周面露出領域21Eとを有している。内周面露出領域21Eは外周面露出領域21Dよりも長くされており、外周面露出領域21Dの長さは例えば45mm、内周面露出領域21Eの長さは例えば60mmとされている。なお、外周面露出領域21Dと内周面露出領域21Eとは必ずしも同じ長さでなくてもよい。
【0021】
正極集電体21Aは、例えば、厚みが5μm〜50μm程度であり、アルミニウム箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。
【0022】
外側正極活物質層21Bおよび内側正極活物質層21Cは、 正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。リチウムを吸蔵および放出可能な正極材料としては、例えば、硫化チタン(TiS2 ),硫化モリブデン(MoS2 ),セレン化ニオブ(NbSe2 )あるいは酸化バナジウム(V2 5 )などのリチウムを含有しない金属硫化物,金属セレン化物あるいは金属酸化物など、またはリチウムを含有するリチウム含有化合物が挙げられる。
【0023】
中でも、リチウム含有化合物は、高電圧および高エネルギー密度を得ることができるものがあるので好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、またはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が挙げられ、特にコバルト(Co),ニッケルおよびマンガン(Mn)のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧を得ることができるからである。その化学式は、例えば、Lix MIO2 あるいはLiy MIIPO4 で表される。式中、MIおよびMIIは1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0024】
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物の具体例としては、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz 2 (z<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 4 )などが挙げられる。中でも、ニッケルを含む複合酸化物が好ましい。高い容量を得ることができると共に、優れたサイクル特性も得ることができるからである。リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物の具体例としては、例えばリチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-v Mnv PO4 (v<1))が挙げられる。
【0025】
図3は図1に示した負極22の巻回前の断面構成を表すものである。負極22は、例えば、帯状の負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを設けたものである。負極集電体22Aは、例えば、銅箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。この負極集電体22Aの厚みは、例えば5μm〜50μmである。
【0026】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能であり、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む負極材料を含有している。このような負極材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるからである。この負極材料は金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。また、この負極材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
この負極材料を構成する金属元素あるいは半金属元素としては、例えばリチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg),ホウ素(B),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In),ケイ素,ゲルマニウム(Ge),スズ,鉛(Pb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),銀(Ag),亜鉛(Zn),ハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y),パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などが挙げられる。
【0028】
中でも、この負極材料としては、長周期型周期表における14族の金属元素あるいは半金属元素を構成元素として含むものが好ましく、特に好ましいのはケイ素およびスズの少なくとも一方を構成元素として含むものである。ケイ素およびスズは、リチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。具体的には、例えば、ケイ素の単体,合金,あるいは化合物、またはスズの単体,合金,あるいは化合物、またはこれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0029】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素,ニッケル,銅,鉄(Fe),コバルト(Co),マンガン(Mn),亜鉛(Zn),インジウム(In),銀(Ag),チタン(Ti),ゲルマニウム(Ge),ビスマス(Bi),アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ,ニッケル,銅,鉄,コバルト,マンガン,亜鉛,インジウム,銀,チタン,ゲルマニウム,ビスマス,アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0030】
スズの化合物あるいはケイ素の化合物としては、例えば、酸素(O)あるいは炭素(C)を含むものが挙げられ、スズまたはケイ素に加えて、上述した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0031】
中でも、この負極材料としては、スズと、コバルトと、炭素とを構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下であり、かつスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合が30質量%以上70質量%以下であるCoSnC含有材料が好ましい。このような組成範囲において高いエネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるからである。
【0032】
このCoSnC含有材料は、必要に応じて更に他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素,鉄,ニッケル,クロム,インジウム,ニオブ(Nb),ゲルマニウム,チタン,モリブデン(Mo),アルミニウム(Al),リン(P),ガリウム(Ga)またはビスマスが好ましく、2種以上を含んでいてもよい。容量またはサイクル特性を更に向上させることができるからである。
【0033】
なお、このCoSnC含有材料は、スズと、コバルトと、炭素とを含む相を有しており、この相は結晶性の低いまたは非晶質な構造を有していることが好ましい。また、このCoSnC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下はスズなどが凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素が他の元素と結合することにより、そのような凝集あるいは結晶化を抑制することができるからである。
【0034】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。XPSでは、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素が金属元素または半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、CoSnC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、CoSnC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合している。
【0035】
なお、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとCoSnC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、CoSnC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0036】
負極活物質層22Bは、更に、他の負極活物質を含んでいてもよく、また、導電剤,結着剤あるいは粘度調整剤などの充電に寄与しない他の材料を含んでいてもよい。他の負極活物質としては、例えば、天然黒鉛,人造黒鉛,難黒鉛化炭素あるいは易黒鉛化炭素などの炭素材料が挙げられる。導電剤としては、黒鉛繊維,金属繊維あるいは金属粉末などが挙げられる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系高分子化合物、またはスチレンブタジエンゴムあるいはエチレンプロピレンジエンゴムなどの合成ゴムなどが挙げられる。粘度調整剤としては、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0037】
図1に示したセパレータ23は、例えばポリプロピレンあるいはポリエチレンなどのポリオレフィン系の材料よりなる多孔質膜、またはセラミック製の不織布などの無機材料よりなる多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。
【0038】
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、例えば、溶媒と、電解質塩であるリチウム塩とを含んで構成されている。溶媒は、電解質塩を溶解し解離させるものである。溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1, 2−ジメトキシエタン、1, 2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1, 3−ジオキソラン、4メチル1, 3ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、酢酸エステル、酪酸エステルあるいはプロピオン酸エステルなどが挙げられ、これらのいずれか1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
リチウム塩としては、例えば、LiClO4 ,LiAsF6 ,LiPF6 ,LiBF4 ,LiB(C6 5 4 ,CH3 SO3 Li,CF3 SO3 Li,LiClあるいはLiBrが挙げられ、これらのいずれか1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
図4は、図1に示したセンターピン24の構成を表すものである。このセンターピン24は、例えば、ステンレス鋼などよりなる薄い帯状の板を丸めて管状に成形したものであり、直径が例えば2.9mmの円筒状とされている。センターピン24は、巻回体20の中心に挿入しやすくするため両端に傾斜部24Aが設けられると共に、長手方向の一方の端部から他方の端部にかけて切れ目24Bが設けられている。
【0041】
切れ目24Bは、例えば、後述する製造工程において薄い帯状の板を管状に丸めてセンターピン24を作製する際に、対向する長辺の間に隙間をあけることにより設けられたものである。切れ目24Bの幅は、例えば0.5mmである。
【0042】
また、この二次電池では、図2に示したように、正極21の外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eに絶縁性の保護部材30が設けられると共に、この保護部材30の幅が正極集電体21Aよりも0.5mm以上5mm以下の範囲で大きく形成されている。これにより、この二次電池では、充放電に伴う膨張収縮により変形しやすい巻回中心側の外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eを保護し、皺や折れ曲りから微小短絡が発生するのを抑制することができるようになっている。また、充放電により正極21の幅が伸びた場合にも、負極22に接触しやすい幅方向端部21Fを保護し、微小短絡を抑制することができるようになっている。
【0043】
保護部材30は、外部から力がかかった場合の安全性を考慮して、外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eの長さ方向における一部に設けられていることが好ましい。すなわち、外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eの全部を保護部材30で覆わず、一部を露出させるものである。このような構成とすると、外部からの衝撃などを受けて電池が押し潰された場合に、センターピン24が押し潰されて切れ目24Bの縁が外側に開き、その開いた部分がセパレータ23を貫通して正極集電体21Aに達し、更に正極集電体21Aを突き破って正極集電体21Aと負極集電体22Aとの間を短絡させて電池反応を阻止することができ、安全性を高めることができる。
【0044】
更に、保護部材30は、外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eの巻回中心側の端部21Gを回避して設けられていれば、より好ましい。巻回中心側の端部21G近傍はセンターピン24に近いので、その部分を保護部材30で覆わずに露出させておけば、上述したように、センターピン24により正極集電体21Aと負極集電体22Aとの間を確実に短絡させることができるからである。
【0045】
また、保護部材30は、外側正極活物質層21Bおよび内側正極活物質層21Cの巻回中心側の端部21B1,21C1に隣接して設けられていることが好ましい。この部分は特に充放電に伴う膨張収縮により段差による圧力を受けやすいからである。
【0046】
このような保護部材30としては、正極21の表面で安定に存在することができるものであればよく、例えば、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレートよりなる粘着テープが挙げられる。
【0047】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0048】
まず、例えば、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aにドクタブレードあるいはバーコーターなどを用いて均一に塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して外側正極活物質層21Bおよび内側正極活物質層21Cを形成し、正極21を作製する。その際、巻回中心側に、長さが例えば60mmの外周面露出領域21Dと、長さが例えば45mmの内周面露出領域21Eとを形成する。
【0049】
また、図2に示したように、外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eに、外側正極活物質層21Bおよび内側正極活物質層21Cの巻回中心側の端部21B1,21C1に隣接して、保護部材30として上述した材料よりなる粘着テープを設けると共に、この保護部材30の幅を、正極集電体21Aよりも0.5mm以上5mm以下の範囲で大きく形成する。また、保護部材30の長さは例えば15mmとし、保護部材30が外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eの一部のみを覆い、巻回中心側の端部21Gを覆わないようにすることが好ましい。
【0050】
次いで、例えば、負極活物質と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aにドクタブレードあるいはバーコーターなどを用いて均一に塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機により圧縮成型して負極合剤層22Bを形成し、負極22を作製する。ロールプレス機は加熱して用いてもよい。また、目的の物性値になるまで複数回圧縮成型してもよい。更に、ロールプレス機以外のプレス機を用いてもよい。
【0051】
続いて、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などにより取り付ける。そののち、正極21と負極22とをセパレータ23を間にして積層し図2および図3に示した巻回方向に多数回巻回して巻回体20を作製する。
【0052】
巻回体20を作製したのち、上述した材料よりなる薄い帯状の板を丸めて、切れ目24Bを有する管状に成形し、両端に傾斜部24Aを設けることによりセンターピン24を形成し、このセンターピン24を巻回体20の中心に挿入する。続いて、巻回体20を一対の絶縁板12,13で挟み、負極リード26を電池缶11に溶接すると共に、正極リード25を安全弁機構15に溶接して、巻回体20を電池缶11の内部に収容し、電解液を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。そののち、電池缶11の開口端部に電池蓋14,安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を間にしてかしめることにより固定する。これにより、図1に示した二次電池が完成する。
【0053】
この二次電池では、充電を行うと、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。放電を行うと、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。ここでは、正極21の巻回中心側の外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eに絶縁性の保護部材30が設けられているので、充放電に伴う膨張収縮を繰り返すことにより外周面露出領域21Dまたは内周面露出領域21Eが変形して皺や折れ曲りが生じても、微小短絡が防止される。また、充放電により正極21の幅が伸びた場合にも、幅方向端部21Fが保護部材30で保護されて負極22に接触しなくなり、微小短絡が抑制される。これによりサイクル特性が改善される。
【0054】
このように本実施の形態では、負極22が、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含む負極活物質を含むようにしたので、高い容量を得ることができる。また、絶縁性の保護部材30により、充放電による膨張収縮により変形しやすい外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eを保護し、微小短絡を抑制することができる。よって、高い容量を保持しつつ、サイクル特性を向上させることができる。
【0055】
更に、保護部材30の幅を、正極集電体21Aよりも0.5mm以上5mm以下の範囲で大きく形成するようにしたので、充放電により正極21の幅が伸びた場合にも、正極21の幅方向端部21Fを保護部材30で覆い、微小短絡を抑制することができる。よって、サイクル特性をより向上させることができる。
【0056】
加えて、保護部材30を、外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eの巻回中心側の端部21Gを回避して、外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eの長さ方向における一部に設けるようにしたので、外部からの衝撃などを受けて電池が押し潰された場合に、外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eの保護部材30で覆われてない部分において、センターピン24により正極21と負極22とを短絡させて電池反応を阻止することができ、安全性を高めることができる。
【0057】
なお、センターピン24については、図5に示したような構成のものとしてもよい。すなわち、切れ目24Bに対して垂直に交差するように第1の切欠部24Cを設けることにより、正極21と負極22とをより確実に短絡させ、安全性を更に向上させることができるものである。
【0058】
第1の切欠部24Cは、例えば図6に示したように、外力Fで押し潰された場合において切れ目24Bが外側に開く際に、切れ目24Bと第1の切欠部24Cとの交差部分の角部24Dが外に開くように突出し、セパレータ23を貫通して正極21と負極22とを確実に短絡させることができるようになっている。これにより、この二次電池では、外部からの衝撃などの異常が生じた場合に、切れ目24Bのみを有するセンターピン24に比べて、より速やかに電池反応を阻止して、発電機能を安全に喪失させることができる。特に、保護部材30を、外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eの巻回中心側の端部21Gを回避して、外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eの長さ方向における一部に設けるようにした場合に有効である。
【0059】
なお、このようなセンターピン24の材質、厚みは、第1の切欠部24Cの大きさや長さ等との兼ね合を考慮して決定されるもので、通常時は所定の強度を保持し、一方、外力により電池が押し潰された場合にはそれと共に潰れ、角部24Dが外方に開く程度のものとする。
【0060】
第1の切欠部24Cの長さ、すなわちセンターピン24の周方向における寸法は、確実に角部24Dを突出させることのできる程度であることが好ましく、例えばセンターピン24の半周分とされている。また、第1の切欠部24Cの幅、すなわちセンターピン24の長手方向における寸法は、例えば0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。第1の切欠部24Cの本数や、第1の切欠部24Cを設ける位置は特に限定されない。
【0061】
また、このセンターピン24では、上記第1の切欠部24Cに加え、周方向において切れ目24Bに対向する位置に第2の切欠部24Eを有することが好ましい。この第2の切欠部24Eも第1の切欠部24Cと同様に切れ目24Bに対して垂直な方向に設けるものとする。これにより、外力が加わった場合、第1の切欠部24Cだけでなく、第2の切欠部24Eも外側に開いてセパレータ23に食い込み、正極21や負極22に押しつけられることにより、より確実に短絡を生じやすくすることができる。また、この第2の切欠部24Eの大きさ、数等を変更することにより、センターピン30の強度を調節することも可能になる。
【0062】
第2の切欠部24Eの長さは、押し潰されたり折れたりした場合に外側に開くことができる程度であり、例えば、第1の切欠部24Cと同様にセンターピン24の半周分とされている。また、第2の切欠部24Eの幅は、第1の切欠部24Cと同様に、例えば0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましい。なお、第2の切欠部24Eの本数および位置は、第1の切欠部24Cの本数および位置に応じて適切に定めることができるもので、特に限定されるものではない。
【0063】
このようなセンターピン24は、例えば図7に示したように、例えばステンレス鋼よりなる薄い帯状の板41に第1の切欠部24Cおよび第2の切欠部24Eを形成し、板41を丸めて筒状に成形し、両端に傾斜部24Aを設けることにより形成することができる。
【実施例】
【0064】
更に、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0065】
(実施例1〜3)
上記実施の形態で説明した二次電池を作製した。まず、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを、Li2 CO3 :CoCO3 =0.5:1(モル比)の割合で混合し、空気中において900℃で5時間焼成して、正極活物質としてのリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。次いで、このリチウム・コバルト複合酸化物91質量部と、導電剤であるグラファイト6質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤を調整した。続いて、この正極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとし、厚み20μmのアルミニウム箔よりなる正極集電体21Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して外側正極活物質層21Bおよび内側正極活物質層21Cを形成し正極21を作製した。その際、巻回中心側に、長さ45mmの外周面露出領域21Dおよび長さ60mmの内周面露出領域21Eを設けた。
【0066】
正極21を形成したのち、外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eに、外側正極活物質層21Bおよび内側正極活物質層21Cの巻回中心側の端部21B1,21C1に隣接して、保護部材30として長さ15mmのポリプロピレン製粘着テープを貼った。その際、保護部材30の幅を、実施例1では正極集電体21Aよりも5mm(幅方向片側で2.5mm)大きく形成し、実施例2では4mm(幅方向片側で2mm)大きく形成し、実施例3では正極集電体21Aよりも1mm(幅方向片側で0.5mm)大きく形成した。続いて、正極集電体21Aの一端にアルミニウム製の正極リード25を取り付けた。
【0067】
また、負極活物質としてCoSnC含有材料を作製した。まず、原料としてコバルト粉末とスズ粉末と炭素粉末とを用意し、コバルト粉末とスズ粉末とを合金化してコバルト・スズ合金粉末を作製したのち、この合金粉末に炭素粉末を加えて乾式混合した。続いて、この混合物を遊星ボールミルを用いてメカノケミカル反応を利用して合成し、CoSnC含有材料を得た。
【0068】
得られたCoSnC含有材料について組成の分析を行ったところ、コバルトの含有量は29.3質量%、スズの含有量は49.9質量%、炭素の含有量は19.8質量%であった。なお、炭素の含有量は、炭素・硫黄分析装置により測定し、コバルトおよびスズの含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析により測定した。また、得られたCoSnC含有材料についてX線回折を行ったところ、回折角2θ=20°〜50°の間に、回折角2θが1.0°以上の広い半値幅を有する回折ピークが観察された。更に、このCoSnC含有材料についてXPSを行ったところ、CoSnC含有材料中におけるC1sのピークは284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、CoSnC含有材料中の炭素が他の元素と結合していることが確認された。
【0069】
次いで、このCoSnC含有材料60質量部と、導電剤および負極活物質である人造黒鉛28質量部およびカーボンブラック2質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合し、負極合剤を調整した。続いて、この負極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとし、厚み15μmの銅箔よりなる負極集電体22Aの両面に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層22Bを形成した。そののち、負極集電体22Aの一端にニッケル製の負極リード26を取り付けた。
【0070】
続いて、厚み25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムよりなるセパレータ23を用意し、正極21,セパレータ23,負極22,セパレータ23の順に積層して積層体を形成したのち、この積層体を渦巻状に多数回巻回し、巻回体20を作製した。巻回体20の胴部の最大径は13mmとした。
【0071】
巻回体20を作製したのち、ステンレス鋼よりなる薄い帯状の板を丸めて、切れ目24Bを有する管状に成形し、両端に傾斜部24Aを設けることにより、図4に示したようなセンターピン24を形成し、このセンターピン24を巻回体20の中心に挿入した。続いて、巻回体20を一対の絶縁板12,13で挟み、負極リード26を電池缶11に溶接すると共に、正極リード25を安全弁機構15に溶接して、巻回体20を内径13.4mmの電池缶11の内部に収容した。そののち、電池缶11の内部に電解液を注入した。電解液には、炭酸エチレン50体積%と炭酸ジエチル50体積%とを混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1mol/dm3 の含有量で溶解させたものを用いた。
【0072】
電池缶11の内部に電解液を注入したのち、ガスケット17を間にして電池蓋14を電池缶11にかしめることにより、外径14mm、高さ43mmの円筒型の二次電池を得た。
【0073】
実施例1,2に対する比較例1として、保護部材を用いなかったことを除き、他は実施例1,2と同様にして二次電池を作製した。また、比較例2として、保護部材の幅を、正極集電体よりも2mm(幅方向片側では1mm)小さく形成したことを除き、他は実施例1,2と同様にして二次電池を作製した。
【0074】
このようにして得られた実施例1〜3および比較例1,2の二次電池をそれぞれ5個作製し、サイクル特性を調べた。得られた結果を表1に示す。なお、表1において保護部材と正極集電体との幅の差は、保護部材の幅から正極集電体の幅を差し引いた値((保護部材の幅)−(正極集電体の幅))を表し、保護部材の幅のほうが正極集電体の幅よりも大きい場合は+、保護部材の幅のほうが正極集電体の幅よりも小さい場合は−を付している。
【0075】
【表1】

【0076】
サイクル特性としては、2サイクル目の放電容量に対する200サイクル目の放電容量維持率(200サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100(%)を求め、80%以上を良とした。その際、充放電は、45℃の環境下において、上限電圧4.2V、電流1Cの条件で、定電流定電圧充電を行ったのち、電流1C、終止電圧2. 5Vの条件で定電流放電を行った。1Cは、電池容量を1時間で放電しきる電流値である。
【0077】
また、実施例1〜3のそれぞれについて、巻回体20を作製する際の歩留り(良品数/投入数)×100(%)を1日目から5日目まで調べた。投入数は各日とも1000個とした。得られた結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表1からわかるように、正極21の巻回中心側の外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eに、保護部材30を設けると共に、保護部材30の幅を、正極集電体21Aよりもそれぞれ5mm、4mmまたは1mm大きく形成した実施例1〜3では、保護部材を設けなかった比較例1,および保護部材の幅を正極集電体よりも2mm小さく形成した比較例2よりも容量維持率が向上した。
【0080】
また、表2からわかるように、実施例1〜3を比べると、保護部材30の幅を正極集電体21Aよりも大きくするほど歩留りが低下した。これは、保護部材30のはみ出しが多いので、セパレータ23に保護部材30が粘着しやすくなってしまったからであると考えられる。
【0081】
すなわち、正極21の巻回中心側の外周面露出領域21Dおよび内周面露出領域21Eに絶縁性の保護部材30を設けると共に、保護部材30の幅を正極集電体21Aよりも0.5mm以上5mm以下の範囲で大きく形成するようにすれば、サイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0082】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、内周面露出領域21Eのほうが外周面露出領域21Dよりも長くされている場合について説明したが、外周面露出領域21Dを内周面露出領域21Eと同じ長さまたは内周面露出領域21Eよりも長くするようにしてもよい。
【0083】
また、例えば、上記実施の形態および実施例では、溶媒に液状の電解質である電解液を用いる場合について説明したが、電解液に代えて、他の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質、イオン伝導性を有する固体電解質、固体電解質と電解液とを混合したもの、あるいは固体電解質とゲル状の電解質とを混合したものが挙げられる。
【0084】
なお、ゲル状の電解質には電解液を吸収してゲル化するものであれば種々の高分子化合物を用いることができる。そのような高分子化合物としては、例えば、ポリビニリデンフルオロライドあるいはビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ素系高分子化合物、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、またはポリアクリロニトリルなどが挙げられる。特に、酸化還元安定性の点からは、フッ素系高分子化合物が望ましい。
【0085】
固体電解質には、例えば、イオン伝導性を有する高分子化合物に電解質塩を分散させた有機固体電解質、またはイオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などよりなる無機固体電解質を用いることができる。このとき、高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物を単独あるいは混合して、または分子中に共重合させて用いることができる。また、無機固体電解質としては、窒化リチウムあるいはヨウ化リチウムなどを用いることができる。
【0086】
更に、上記実施の形態および実施例では、巻回構造を有する円筒型の二次電池について説明したが、本発明は、巻回構造を有する二次電池であればいずれも適用することができる。
【0087】
加えて、上記実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの長周期型周期表における他の1族の元素、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などの長周期型周期表における2族の元素、またはアルミニウムなどの他の軽金属、またはリチウムあるいはこれらの合金を用いる場合についても、本発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。その際、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質、正極活物質あるいは溶媒などは、その電極反応物質に応じて選択される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る二次電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した正極の巻回前の構成を表す平面図および断面図である。
【図3】図1に示した負極の巻回前の構成を表す断面図である。
【図4】図1に示したセンターピンの構成を表す斜視図である。
【図5】本発明の変形例に係るセンターピンの構成を表す斜視図である。
【図6】図5に示したセンターピンの作用を説明するための断面図である。
【図7】図5に示したセンターピンを用いた二次電池の製造方法における工程を表す平面図である。
【図8】従来の巻回型の電池の問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
【0089】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20…巻回体、21…正極、21A…正極集電体、21B…外側正極活物質層、21C…内側正極活物質層、21D…外周面露出領域、21E…内周面露出領域、21F…幅方向端部、21G…巻回中心側の端部、22…負極、22A…負極集電体、22B…負極活物質層、23…セパレータ、24…センターピン、24A…傾斜部、24B…切れ目、24C…第1の切欠部、24D…角部、24E…第2の切欠部、25…正極リード、26…負極リード、30…保護部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正極集電体の外周面に外側正極活物質層、内周面に内側正極活物質層をそれぞれ有する正極と、帯状の負極集電体の面上に負極活物質層を有する負極とをセパレータを間にして積層し、巻回した巻回体を備え、
前記負極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であり、構成元素として金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を含む負極活物質を含み、
前記正極は、巻回中心側に、前記正極集電体が前記外側正極活物質層に覆われず露出した外周面露出領域と、前記正極集電体が前記内側正極活物質層に覆われず露出した内周面露出領域とを有し、
前記外周面露出領域および前記内周面露出領域に絶縁性の保護部材が設けられると共に、前記保護部材の幅が前記正極集電体よりも0.5mm以上5mm以下の範囲で大きく形成されている
ことを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記保護部材は、前記外周面露出領域および内周面露出領域の長さ方向における一部に設けられていることを特徴とする請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記保護部材は、前記外周面露出領域および内周面露出領域の巻回中心側の端部を回避して設けられていることを特徴とする請求項2記載の二次電池。
【請求項4】
前記保護部材は、前記外側正極活物質層および内側正極活物質層の巻回中心側の端部にそれぞれ隣接して設けられていることを特徴とする請求項2記載の二次電池。
【請求項5】
前記巻回体の巻回中心に、長手方向に切れ目を有すると共に前記切れ目に交差して第1の切欠部を有する管状のセンターピンを備えた
ことを特徴とする請求項2記載の二次電池。
【請求項6】
前記センターピンは、前記切れ目から周方向にずれた位置に、前記切れ目に交差する方向に延びる第2の切欠部を有する
ことを特徴とする請求項5記載の二次電池。
【請求項7】
前記保護部材は、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレートにより構成されていることを特徴とする請求項1記載の二次電池。
【請求項8】
前記負極は、前記負極活物質として、スズ(Sn)およびケイ素(Si)のうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含むことを特徴とする請求項1記載の二次電池。
【請求項9】
前記負極は、前記負極活物質として、スズと、コバルト(Co)と、炭素(C)とを構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下であり、かつスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合が30質量%以上70質量%以下であるCoSnC含有材料を含むことを特徴とする請求項1記載の二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−134760(P2006−134760A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323999(P2004−323999)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】