説明

二次電池

【課題】セパレータや電解液を必要とすることなく、簡単かつ安価に製造でき、かつ安全性にも配慮した二次電池を実現する。
【解決手段】少なくとも電極活物質と電解質とを含有したシート状部材1を有し、少なくとも導電補助剤を含有した導電層2a、2bがシート状部材1の両主面に形成されている。電極活物質は、酸化側と還元側の双方に反応を有する有機化合物(例えば、安定ラジカル基を有する有機化合物)を主体とし、正極活物質と負極活物質は同一の有機化合物で形成されている。また、シート状部材1には少なくとも高分子化合物が含まれている。有機化合物は、ニトロキシルラジカル基、フェルダジルラジカル基、及びニトロニルニトロキシルラジカル基のうちの少なくとも1種以上を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池に関し、より詳しくは有機ラジカル化合物を電極活物質に使用し、該電極活物質の電池電極反応を利用して充放電を繰り返す二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ等の携帯用電子機器の市場拡大に伴い、これら電子機器のコードレス電源としてエネルギー密度が大きく長寿命の二次電池が待望されている。
【0003】
そして、このような要求に応えるべく、リチウムイオン等のアルカリ金属イオンを荷電担体とし、その電荷授受に伴う電気化学反応を利用した二次電池が開発されている。特に、エネルギー密度の大きなリチウムイオン二次電池は、現在では広く普及している。
【0004】
二次電池の構成要素のうち電極活物質(正極活物質及び負極活物質)は、充電反応、放電反応という電池電極反応に直接寄与する物質であり、二次電池の中心的役割を有する。そして、リチウムイオン二次電池では、正極活物質としてリチウム含有遷移金属酸化物、負極活物質として炭素材料を使用し、これらの電極活物質に対するリチウムイオンの挿入反応、及び脱離反応を利用して充放電を行っている。
【0005】
しかしながら、リチウムイオン二次電池は、正極におけるリチウムイオンの移動が律速となるため、充放電の速度が制限されるという問題があった。すなわち、上述したリチウムイオン二次電池では、電解質や負極に比べて正極の遷移金属酸化物中でのリチウムイオンの移動速度が遅く、このため正極での電池反応速度が律速となって充放電速度が制限され、その結果、高出力化や充電時間の短時間化には限界があった。
【0006】
そこで、このような課題を解決すべく、近年、有機ラジカル化合物を電極反応の反応物又は生成物とする二次電池の研究・開発が盛んに行われている。
【0007】
有機ラジカル化合物は、電子軌道の最外殻に不対電子であるラジカルを有している。このラジカルは、一般には反応性に富んだ化学種であり、周囲の物質との相互作用によって、ある程度の寿命をもって消失するものが多いが、共鳴効果や立体障害、溶媒和の状態によっては安定したものとなる。
【0008】
また、ラジカルは反応速度が速いので、安定ラジカルの酸化還元反応を利用して充放電を行うことにより、充電時間を短時間で完了させることが可能となる。また、有機ラジカル化合物は、反応する不対電子がラジカル原子に局在化して存在するため、反応部位の濃度を増大させることができ、これにより高容量の二次電池の実現を期待することができる。
【0009】
さらに、有機ラジカル化合物は、ラジカルのみが反応に寄与するため、サイクル特性が電極活物質の拡散に依存しない安定性に優れた二次電池を得ることが可能と考えられる。また、有機ラジカル化合物は、一般には、炭素や水素、酸素、窒素などの原子量の小さな元素を構成要素とするので、電池の軽量化を図りつつ、容量密度の大きな二次電池を得ることも可能となる。
【0010】
そして、例えば、特許文献1には、二次電池の電極反応に関与する二次電池用活物質であって、該活物質の電極反応における反応物又は生成物が中性のラジカル化合物である二次電池用活物質が提案されている。
【0011】
この特許文献1では、電極活物質として、ニトロキシルラジカル化合物、ニトロニルニトロキシドラジカル化合物、オキシラジカル化合物、窒素ラジカル化合物等を使用し、ラジカルの酸化還元反応を利用して充放電を行っている。そして、上述したようにラジカルは反応速度が大きいことから、高出力で充電も短時間で完了することができる。
【0012】
また、特許文献1の二次電池は、図4に示すように、正極集電体101、正極層102、電解質を含むセパレータ103、負極層104、負極集電体105が順次積層された積層構造を有しており、正極層102及び負極層104のうちの少なくとも一方の電極活物質がラジカル化合物を含有している。
【0013】
また、特許文献2には、活物質層上にポリラジカル化合物層を形成した電極を正極とし、負極に金属リチウムを使用した二次電池が提案されている。
【0014】
リチウムイオン二次電池では、特許文献1にも記載されているように、通常、正極と負極とを電気的に絶縁させるために、両極間にゲル電解質や、ポリエチレン等からなる多孔質のセパレータが介在されている。しかしながら、負極に金属リチウムを使用した場合、このような構成の電池は充放電の繰り返しにより、例えば負極表面にデンドライト(リチウムイオンの還元生成物)が生成し、これが成長するとセパレータの破損を招き、正極と負極が短絡してしまうおそれがある。
【0015】
このため特許文献2では、図5に示すように、集電体111上に形成された活物質層112の表面に、絶縁体であるニトロキシルラジカル化合物等のポリラジカル化合物を塗工し、集電体111、活物質層112及びポリラジカル化合物層113で正極114を形成し、該正極114上に負極115である金属リチウムを積層している。
【0016】
すなわち、特許文献2では、絶縁体であるポリラジカル化合物を正極114の最上層に配し、ポリラジカル化合物層113を負極115に接触させてセパレータを廃することにより、負極115に金属リチウムを使用した場合であっても、負極115でのデンドライト生成による短絡を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2004−207249号公報(請求項1、3、17、20、30、図2)
【特許文献2】特開2007−157496号公報(請求項1、2、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、特許文献1は、電極活物質に中性のラジカル化合物を使用しているものの、正極層102と負極層104との間に、電解質を含むセパレータ103が介装されており、製造コストが高いという問題があった。また、この種の二次電池では、電解液を封入して組み立てられるが、斯かる電解液も高価であり、更なる製造コストの高騰化を招いていた。しかも、電解液は可燃性であり、安全性の面でも問題があった。
【0019】
また、特許文献2は、正極114の一部を構成するポリラジカル化合物層113を負極115と接触させることにより、セパレータを不要としているものの、特許文献1と同様、電解液を封入して使用しなければならず、コスト高を招き、また取扱いにも注意を要し、安全性の面でも問題があった。
【0020】
また、特許文献2に記載されているような電解液を使用しない場合、正極と負極の間にポリマー電解質などの固体電解質を介在させる。このような場合、固体電解質と電極間の界面の接触性が非常に重要となり、電極―固体電解質界面の接触の面でも問題があった。
【0021】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、セパレータや電解液を必要とすることなく、簡単かつ安価に製造でき、かつ安全性にも配慮した二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために本発明に係る二次電池は、電極活物質の電池電極反応により充放電を繰り返す二次電池であって、少なくとも前記電極活物質と電解質とを含有したシート状部材を有すると共に、少なくとも導電補助剤を含有した導電層が前記シート状部材の両主面に形成され、前記電極活物質は、酸化側と還元側の双方に反応を有する有機化合物を主体とすると共に、前記シート状部材には少なくとも高分子化合物が含まれていることを特徴としている。
【0023】
上述したように絶縁性のシート状部材の両主面に導電層が形成されているので、一方の導電層が正極側、他方の導電層が負極側を形成することにより、二次電池を構成することができる。
【0024】
また、本発明の二次電池は、前記電極活物質を構成する正極活物質と負極活物質とは、同一の有機化合物で形成されていることを特徴としている。
【0025】
電極活物質を構成する正極活物質と負極活物質とが、同一の有機化合物で形成されているので、正極と負極とを区別することなく使用することが可能となる。
【0026】
また、本発明の二次電池は、前記有機化合物が、安定ラジカル基を有することを特徴としている。
【0027】
前記有機化合物が、安定ラジカル基を有するので、充電時間を短時間で完了させることができる。
また、本発明の二次電池は、前記有機化合物が、高分子ラジカル化合物又はその誘導体からなることを特徴としている。
【0028】
前記有機化合物が、高分子ラジカル化合物又はその誘導体からなるので、高出力の二次電池を得ることが可能となる。
【0029】
また、本発明の二次電池は、前記有機化合物が、低分子ラジカル化合物又はその誘導体からなり、前記シート状部材は高分子電解質を含有していることを特徴としている。
【0030】
前記有機化合物が、低分子ラジカル化合物又はその誘導体からなり、前記シート状部材は高分子電解質を含有しているので、電極活物質に高分子ラジカル化合物又はその誘導体を使用しなくとも、電解質に電解質塩を含有した高分子電解質を使用することにより、容易にシート化が可能となる。
【0031】
また、本発明の二次電池は、前記有機化合物が、
【0032】
【化4】

【0033】
で表わされるニトロキシルラジカル基、
【0034】
【化5】

【0035】
で表わされるフェルダジルラジカル基、
及び、
【0036】
【化6】

【0037】
で表わされるニトロニルニトロキシルラジカル基のうちの少なくとも1種以上を含有していることを特徴としている。
【0038】
このように有機化合物としては、ニトロキシルラジカル基、フェルダジルラジカル基またはニトロニルニトロキシルラジカル基を含有したものを好んで使用することができる。
【0039】
さらに、本発明の二次電池は、前記シート状部材の上部表層面及び下部表層面のうちの少なくとも一方に前記導電性補助剤が含有されていることを特徴としている。
【0040】
これにより、シート状部材は、上部表層面及び下部表層面を除く部位は電極活物質と電解質を主体として構成されることとなり、正極活物質と負極活物質とを同一の有機化合物で形成しても、正極と負極とが短絡することなく二次電池を形成することができる。
【0041】
また、本発明の二次電池は、前記シート状部材と前記導電層とで電池素体を形成すると共に、前記電池素体が複数積層されていることを特徴としている。
【0042】
上述したように複数の電池素体が積層されているので、積層構造が可能となり、電解液やセパレータを要さなくとも、高容量・高容量の二次電池を実現することが可能となる。
【0043】
また、本発明の二次電池は、前記導電層が、電解質及び電極活物質を含有していることを特徴とするのも好ましい。
【発明の効果】
【0044】
上記二次電池によれば、少なくとも前記電極活物質と電解質とを含有したシート状部材を有すると共に、少なくとも導電補助剤を含有した導電層が前記シート状部材の両主面に形成され、前記電極活物質は、酸化側と還元側の双方に反応を有する有機化合物を主体とすると共に、前記シート状部材には少なくとも高分子化合物が含まれているので、正極活物質と負極活物質とを同一の有機化合物で形成することができる。したがって、高価なセパレータや電解液を要することなく、主要部を一枚のシート状部材で形成されることができ、簡単かつ安価に所望の二次電池を得ることができる。また、可燃性を有する電解液を含まないため、安全性、作業性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る二次電池の一実施の形態(第1の実施の形態)を示す断面図である。
【図2】上記二次電池の製造方法を示す図である。
【図3】本発明に係る二次電池の第2の実施の形態を示す断面図である。
【図4】特許文献1に記載された二次電池の断面図である。
【図5】特許文献2に記載された二次電池の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0047】
図1は本発明に係る二次電池の電池素体の一実施の形態(第1の実施の形態)を示す断面図であって、二次電池は、電池素体を、例えば、所定寸法のコインセルに収納して使用される。
【0048】
この電池素体は、シート状部材1を有し、第1及び第2の導電層2a、2bがシート状部材1の両主面に該シート状部材1と一体的に形成されている。そして、第1及び第2の導電層2a、2bの表面には、第1の集電体3a及び第2の集電体3bがそれぞれ形成されている。
【0049】
シート状部材1は、少なくとも電極活物質と電解質とを含み、かつ高分子化合物が含有されている。
【0050】
また、電極活物質は、充電反応、放電反応という電池電極反応に直接寄与する物質であり、本実施の形態では、電極活物質は、酸化側又は還元側の双方に反応を有する有機化合物を主体として形成されている。そしてこれにより電極活物質を構成する正極活物質及び負極活物質を同一の有機化合物で形成することができる。具体的には、電極活物質は、長時間安定して存在する安定ラジカル基を含有した有機化合物(以下、「有機ラジカル化合物」という。)で形成されている。
【0051】
ここで、安定ラジカル基のラジカル濃度は、定量的にはスピン濃度で評価することができる。このスピン濃度は、単位当たりのラジカル数で定義され、例えば、電子共鳴スペクトルでスペクトル分析することにより測定することができる。
【0052】
そして、本実施の形態では、このように長時間安定して存在する安定ラジカル基として、平衡状態におけるスピン濃度が1021spins/g以上の状態が1秒以上継続するものが使用される。
【0053】
また、このような安定ラジカル基としては、化学式(1)で表されるニトロキシルラジカル基、化学式(2)で表されるフェルダジルラジカル基、化学式(3)で表されるニトロニルニトロキシルラジカル基を挙げることができる。
【0054】
【化7】

【0055】
【化8】

【0056】
【化9】

【0057】
このように電極活物質を酸化側と還元側の双方に反応を有する有機ラジカル化合物を主体とすることにより、電極活物質を構成する正極活物質と負極活物質とを同一の有機化合物で形成することができ、電極活物質と電解質とを一枚のシート状に形成することができ、しかも正極と負極とを区別することなく使用することが可能となる。
【0058】
また、電解質は、正極活物質と負極活物質との間の荷電担体輸送を行なうものであり、本実施の形態ではシート状部材1中に電極活物質と一体的に成形されて存在する。
【0059】
そして、電極活物質及び電解質のうちの少なくともいずれか一方が高分子化合物を含有している。
【0060】
電極活物質が高分子化合物を含有する場合は、電池特性の観点から分子量が100以上と大きく、有機溶媒に溶解し難い物質を使用するのがより好ましい。本発明では電極活物質は安定ラジカル基を含むことから、高分子化合物は安定ラジカル基を含む。したがってこの場合、電極活物質は高分子ラジカル化合物又はその誘導体を含み、これに電解質塩を含有させてシート状部材1が形成される。
【0061】
一方、電極活物質が、低分子ラジカル化合物又はその誘導体で形成される場合は、電解質は、電解質塩を含有した高分子電解質を含み、シート状部材1は、低分子ラジカル化合物又はその誘導体と前記高分子電解質とを含有している。
【0062】
シート状部材1に高分子化合物を含有させたのは、粘弾性体である高分子化合物を含有していないと、電極活物質と電解質の混合体をシート状に成形加工するのが困難なためである。
【0063】
また、第1及び第2の導電層2a、2bは、少なくとも導電補助剤を含有し、導電補助剤の使用材料によっては電極活物質及び電解質を含む場合がある。また、シート状部材1についても、導電補助剤の使用材料によっては、電極活物質及び電解質の他、導電補助剤を含む場合がある。
【0064】
すなわち、導電補助剤としては、特に限定されるものでなく、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等の炭素繊維、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子などを使用することができる。また、導電補助剤を2種類以上混合して用いることもできる。
【0065】
ただし、導電補助剤として、気相成長炭素繊維その他の炭素繊維を使用した場合は、第1及び第2の導電層2a、2bは、導電補助剤の他、電極活物質や電解質を含有し、第1及び第2の導電層2a、2bと接するシート状部材1の上部表層面及び下部表層面には導電補助剤が含有される。すなわち、後述する製造工程から明らかなように、シート状部材1と第1及び第2の導電層2a、2bとは、区別されることなく一体的に形成されるため、導電補助剤として、気相成長炭素繊維その他の炭素繊維を使用した場合は、シート状部材1に含有される電極活物質や電解質が、第1及び第2の導電層2a、2b中にも混入し、第1及び第2の導電層2a、2bに含有される導電補助剤がシート状部材1の上部表層面及び下部表層面にも混入する。したがって、このような場合は、第1及び第2の導電層2a、2bは、導電補助剤、電極活物質及び電解質で形成される。また、シート状部材1は、電極活物質及び電解質を主体とするため、ほぼ絶縁性を確保できるが、該シート状部材1の上部表層面及び下部表層面には導電補助剤が含まれ得ることとなる。
【0066】
尚、第1及び第2の集電体3a,3bとしては、導電性材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、Al、Cu、Ni、Au、Ag、Al合金、ステンレス等の金属箔や金属平板、メッシュ状電極、炭素電極等を使用することができる。
【0067】
このように本実施の形態の二次電池は、少なくとも電極活物質と電解質とを含有したシート状部材1を有すると共に、少なくとも導電補助剤を含有した第1及び第2の導電層2a、2bが前記シート状部材1の両主面に形成され、前記電極活物質は、酸化側と還元側の双方に反応を有する有機化合物を主体とすると共に、前記シート状部材1には少なくとも高分子化合物が含まれているので、高価なセパレータや電解液を有さなくても、電池電極反応に関与する主要部、すなわち電極活物質と電解質とを1枚のシート状部材1で形成するができ、これにより第1の集電体3aと第2の集電体3bとが短絡することもなく、簡単かつ安価な二次電池を得ることができる。しかも、可燃性を有する電解液を使用しないので、安全性・作業性の向上を図ることができる。
【0068】
また、電極活物質を構成する正極活物質及び負極活物質を同一の有機ラジカル化合物で形成することができるので、正極と負極とを区別することなく使用することができ、使い勝手が向上する。
【0069】
次に、上記ニトロキシルラジカル基を有するニトロキシルラジカル化合物、上記フェルダジルラジカル基を有するフェルダジルラジカル化合物、上記ニトロニルニトロキシルラジカル基を有するニトロニルニトロキシルラジカル化合物について、具体的に例示する。
【0070】
(ニトロキシルラジカル化合物)
ニトロキシルラジカル化合物は、一般式(4)で示すことができる。
【0071】
【化10】

【0072】
ここで、X、Xはアルキル基、又はアリール基である。ただし、アルキル基は置換または無置換であってよく、鎖状、環状又は分岐状であってよく、1個以上の酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素またはハロゲン原子を含んでもよい。また、アリール基は置換又は無置換であってもよく、1個以上の酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素またはハロゲン原子を含んでいてもよい。X、Xがヒドロキシル基を含む場合、ヒドロキシル基は金属原子と塩を形成していてもよい。X、Xがアルコキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基のいずれかを含む場合、これら置換基は置換または無置換であってよく、1個以上の酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素またはハロゲン原子を含んでもよい。X、Xは同一であっても異なっていてもよい。X、Xが環を形成してもよい。
【0073】
下記化学反応式(5)は、ニトロキシルラジカル化合物を電極活物質に使用した場合の充放電反応を示す一例であり、充電時は(I)から(II)に反応が進み、放電時は(II)から(I)に反応が進む。
【0074】
【化11】

【0075】
そして、ニトロキシルラジカル化合物としては、化学式(4a)で表されるピペリジノキシラジカル化合物、化学式(4b)で表されるプロキシラジカル化合物、化学式(4c)で表されるピロリノキシラジカル化合物、化学式(4d)で表されるジ−tert-ブチルニトロキシラジカル化合物、化学式(4e)で表されるアザアダマンチルラジカル化合物、化学式(4f)で表されるトリメチルジアザアダマンチルラジカル化合物、化学式(4g)で表される架橋脂環式化合物ニトロキシラジカル化合物、化学式(4h)〜(4l)で示されるような芳香族ニトロキシラジカル化合物などを挙げることができる。
【0076】
【化12】

【0077】
【化13】

【0078】
(フェルダジルラジカル化合物)
フェルダジルラジカル化合物は、一般式(6)で示すことができる。
【0079】
【化14】

【0080】
ここで、X〜Xはアルキル基、又はアリール基である。ただし、アルキル基は置換または無置換であってよく、鎖状、環状または分岐状であってよく、1個以上の酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素またはハロゲン原子を含んでもよい。アリール基は置換または無置換であってよく、1個以上の酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素またはハロゲン原子を含んでもよい。
【0081】
下記化学反応式(7)は、フェルダジルラジカル化合物を電極活物質に使用した場合の充放電反応を示す一例であり、充電時は(I)から(II)に反応が進み、放電時は(II)から(I)に反応が進む。
【0082】
【化15】

【0083】
フェルダジルラジカル化合物としては、化学式(6a)〜(6e)で表される化合物を挙げることができる。
【0084】
【化16】

【0085】
(ニトロニルニトロキシルラジカル化合物)
ニトロニルニトロキシルラジカル化合物は、一般式(8)で示すことができる。
【0086】
【化17】

【0087】
ここで、X〜Xは少なくとも1つのアルキル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、アルコキシカルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、ハロゲン原子、もしくは水素原子を含む置換基である。但し、X〜Xがアルキル基を含む場合、アルキル基は飽和または不飽和であってよく、1個以上の酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素またはハロゲン原子を含んでもよい。X〜Xがアリール基を含む場合、アリール基は置換または無置換であってよく、1個以上の酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素またはハロゲン原子を含んでもよい。アルキル基は置換または無置換であってよく、鎖状、環状または分岐状であってよく、1個以上の酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素またはハロゲン原子を含んでもよい。X、Xは同一であっても異なっていてもよい。X、Xが環を形成してもよい。
【0088】
下記化学反応式(9)は、ニトロニルニトロキシルラジカル化合物を電極活物質に使用した場合の充放電反応を示す一例であり、充電時は(I)から(II)に反応が進み、放電時は(II)から(I)に反応が進む。
【0089】
【化18】

【0090】
そして、ニトロニルニトロキシルラジカル化合物としては、化学式(8a)〜(8h)で表される化合物を挙げることができる。
【0091】
【化19】

【0092】
【化20】

【0093】
次に、有機ラジカル化合物に高分子ラジカル化合物を使用した場合について、図2を参照しながら二次電池の製造方法を説明する。
【0094】
まず、第2の集電体3b上に結着剤を介して導電補助剤を塗布し、図2(a)に示すように、第2の集電体3b上に第2の導電層2bを形成する。
【0095】
また、結着剤は特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース等の各種樹脂を使用することができる。
【0096】
次に、電極活物質となるべき高分子ラジカル化合物を有機溶剤に溶解させてスラリーを作製した後、このスラリーに電解質塩を溶解させ、電極活物質と電解質塩とを含有した混合物を作製する。
【0097】
ここで、有機溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等を使用することができる。
【0098】
また、電解質塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、Li(CFSOC、Li(CSOC等を使用することができる。
【0099】
次いで、このようにして得られた混合物を上記第2の導電層2b上に流延し、有機溶剤を乾燥させ、図2(b)に示すように、第1の混合物層1bを形成する。この場合、第1の混合物層1bと第2の導電層2bとは一体的に形成されることとなるため、導電補助剤として気相成長炭素繊維等の繊維状物質を使用した場合は、第2の導電層2b中には電極活物質や電解質が混入し、第1の混合物層1bの表層面には導電補助剤が混入することとなる。
【0100】
同様に、図2(c)に示すように、第1の集電体3a上に第1の導電層2aを形成し、さらに第2の混合物層1aを形成する。この場合も、第2の混合物層1aと第1の導電層2aとは一体的に形成されるため、導電補助剤として気相成長炭素繊維等の繊維状物質を使用した場合は、第1の導電層2a中には電極活物質や電解質が混入し、第2の混合物層1aの表層面には導電補助剤が混入することとなる。
【0101】
次いで、図2(d)に示すように、第1の混合物層1bの表面と第2の混合物層1aの表面とを接合させ、熱圧着させ、第1及び第2の導電層2a、2bと一体的に形成されたシート状部材1が作製され、これにより電池素体が得られる。
【0102】
そして最後に、この電池素体をコインセルに収納し、二次電池が製造される。
【0103】
このように本実施の形態では、高価なセパレータや電解液を要することなく、二次電池を構成しているので、煩雑な工程を要することもなく安価に製造することができる。しかも可燃性を有する電解液を使用していないので、安全性の向上にも寄与することができる。
【0104】
図3は本発明の第2の実施の形態を示す二次電池であって、本第2の実施の形態は、積層構造とされている。
【0105】
すなわち、シート状部材5(n=1、2、…)と、該シート状部材5と一体的に形成された導電層6、7(n=1、2、…)とを一組とする電池素体8(n=1、2、…)が複数積層され、最下層の導電層7の下面に第2の集電体9が形成され、最上層の導電層6の上面に第1の集電体10が形成されている。
【0106】
また、シート状部材5(n=1、2、…)は、第1の実施の形態と同様、電極活物質と電解質と導電補助剤とで形成され、かつ高分子化合物が含有されている。
【0107】
また、導電層6、7(n=1、2、…)も、第1の実施の形態と同様、少なくとも導電補助剤を含有し、導電補助剤の使用材料によっては電極活物質及び電解質を含む。
【0108】
本発明は、電解液やセパレータを有していないので、この第2の実施の形態のように容易に積層構造とすることができ、これにより高電圧化・高容量化を図ることができ、高出力で所望容量を有する二次電池を得ることが可能となる。
【0109】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態では、電極活物質に高分子ラジカル化合物及びその誘導体を使用した場合を例示したが、電極活物質に低分子ラジカル化合物及びその誘導体を使用する場合は、低分子ラジカル化合物又はその誘導体を有機溶剤に溶解させる一方、電解質塩を含ませた高分子電解質を有機溶剤に溶解させ、両者を混合させた後、導電層上に流延させればよい。
【0110】
この場合、高分子電解質としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ビニルアセテート共重合体等のアクリルニトリル系重合体、さらにはポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、及びこれらのアクリレート体やメタクリレート体の重合体等を挙げることができる。
【0111】
また、上記実施の形態では、第1の混合物層1bと第2の混合物層1aを別々に作製し接合し、シート状部材1を得ているが、1枚の集電体上に導電層及び混合物層を形成し、これを二つに折り曲げ、加熱して混合物層同士を接着させ、その後、折り曲げ部分を切断することにより作製してもよい。また、1枚の集電体上に導電層及びシート状部材を作製し、この上に導電層、集電体を順次作製しても良い。
【0112】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0113】
ピペリジノキシラジカル化合物(前記化学式(4a)参照)の範疇に属する化学式(10)で表されるポリ(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノキシメタクリレート)(以下、「PTMA」という。)を用意した。
【0114】
【化21】

【0115】
次に、このPTMAを有機溶媒であるN−メチル-2-ピロリドンに溶解させ、これに電解質塩であるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF;以下、「LiTFSI」という。)を溶解させ、スラリーを作製した。
【0116】
次いで、集電体としてのAl上に導電補助剤としての気相成長炭素繊維を塗布し、次いで、この気相成長炭素繊維の表面に結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを塗工し、その上に前記スラリーを流延し、有機溶媒を乾燥させ上記PTMAを電極活物質とし、LiTFSIを電解質塩とした混合物層を集電体上に形成した。
【0117】
次いで、これらの集電体上に形成された混合物層を、混合物層の表面同士が接合するように2枚積層し、約100℃の温度で加圧して熱圧着させ、これにより電池素体を作製した。尚、この電池素体の厚みは約200μmであった。
【0118】
そしてその後、この電池素体を2032型コインセルに入れて二次電池とした。
【0119】
この二次電池を0〜2Vで充放電を行った結果、1.5V付近にプラトーを有することが確認された。
【実施例2】
【0120】
実施例1と同様の方法・手順で、PTMAを電極活物質とし、LiTFSIを電解質塩とした混合物層を集電体上に形成した。
【0121】
次いで、この電極を2つに折り曲げ、熱を負荷して混合物層同士を接着させ、折り返し部分を切断し、2032型コインセルに入れて二次電池とした。
【0122】
この二次電池を0〜2Vで充放電を行った結果、1.5V付近にプラトーを有することが確認された。
【実施例3】
【0123】
ニトロニルニトロキシルラジカル化合物として、化学式(8b)で表される2-フェニル−4,4,5,5−テトラメチルイミダゾリン−1−イルオキシル−3−オキシドフェニルニトロニルニトロキシドを用意した。
【0124】
【化22】

【0125】
このニトロニルニトロキシルラジカル化合物をアセトニトリル溶液に溶解させ第1の溶解物を作製した。
【0126】
また、ポリエチレンオキサイド(高分子固体電解質)とLiTFSI(電解質塩)とをアセトニトリル溶液に溶解させ第2の溶解物を得た。そして第1の溶解物と第2の溶解物とを混合し、スラリーを得た。
【0127】
次いで、集電体としてのAl上に導電補助剤としてのカーボンブラックを塗布し、このカーボンブラック上に結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを塗工し、その上に上記スラリーを流延し、有機溶媒であるアセトニトリルを乾燥させ、表面に混合物層が形成された電極を作製した。
【0128】
次いで、これらの混合物層が形成された電極を、混合物層の表面同士が接合するように2枚積層し、約100℃の温度で加圧して熱圧着させ、これにより電池素体を作製した。尚、この電池素体の厚みは約200μmであった。
【0129】
そしてその後、この電池素体を2032型コインセルに入れて二次電池とした。
【0130】
この二次電池を0〜2Vで充放電を行った結果、1.5V付近にプラトーを有することが確認された。
【0131】
本実施例では、集電体上にシート状部材を作製したが、シート状部材を作製したのち、シート状部材の両表面に集電体を貼り付け電池素体を作製してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0132】
電極活物質及び電解質を1枚のシート状に形成することにより、高価なセパレータや電解液が不要で安全性にも配慮した二次電池が実現できる。
【符号の説明】
【0133】
1 シート状部材
2a 第1の導電層(導電層)
2b 第2の導電層(導電層)
〜5シート状部材
〜6 導電層
〜7 導電層
〜8 電池素体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質の電池電極反応により充放電を繰り返す二次電池であって、
少なくとも前記電極活物質と電解質とを含有したシート状部材を有すると共に、少なくとも導電補助剤を含有した導電層が前記シート状部材の両主面に形成され、
前記電極活物質は、酸化側と還元側の双方に反応を有する有機化合物を主体とすると共に、
前記シート状部材には少なくとも高分子化合物が含まれていることを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記電極活物質を構成する正極活物質と負極活物質とは、同一の有機化合物で形成されていることを特徴とする請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記有機化合物は、安定ラジカル基を有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の二次電池。
【請求項4】
前記有機化合物は、高分子ラジカル化合物又はその誘導体からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の二次電池。
【請求項5】
前記有機化合物は、低分子ラジカル化合物又はその誘導体からなり、前記シート状部材は高分子電解質を含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の二次電池。
【請求項6】
前記有機化合物は、
【化1】

で表わされるニトロキシルラジカル基、
【化2】

で表わされるフェルダジルラジカル基、
及び、
【化3】

で表わされるニトロニルニトロキシルラジカル基のうちの少なくとも1種以上を含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の二次電池。
【請求項7】
前記シート状部材の上部表層面及び下部表層面のうちの少なくとも一方に前記導電性補助剤が含有されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の二次電池。
【請求項8】
前記シート状部材と前記導電層とで電池素体が形成されると共に、前記電池素体が複数積層されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の二次電池。
【請求項9】
前記導電層が、前記電解質及び前記電極活物質を含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−165465(P2011−165465A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26372(P2010−26372)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】