説明

二段圧縮機

【課題】冷暖切換可能な空気調和装置に設けられて二段圧縮式の冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続される二段圧縮機において、この二段圧縮機のサイズをできるだけ小さくする。
【解決手段】二段圧縮機(10)に、上記冷媒回路(60)の冷房運転時に低段シリンダ室(55)の吸入口へ吸入される冷媒を過給状態にする低段過給部(1)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二段圧縮式の冷凍サイクルに接続される二段圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、流体を圧縮する圧縮室が上下二段に配置された二段圧縮機が知られている(例えば、特許文献1を参照)。そして、これらの二段圧縮機の中には、二段圧縮式のエコノマイザサイクルを行う冷媒回路に接続されるものがある。
【0003】
ところで、この冷媒回路が冷暖切換可能な空調和装置に設けられる場合、この二段圧縮機の圧縮室の容積は、上記空気調和装置における暖房運転又は冷房運転の定格能力に基づいて決定される。
【0004】
一般に、暖房基準で決定された圧縮室の容積と冷房基準で決定された圧縮室の容積とを比較すると、冷房基準の圧縮室の容積の方が小さい。このことから、冷房基準で圧縮室の容積を決定すると、冷房運転時には効率的な運転が可能であるが、暖房運転時には能力不足気味になってしまう。逆に、暖房基準で圧縮室の容積を決定すると、暖房運転時には効率的な運転が可能であるが、冷房運転時には冷房能力が出過ぎてしまい効率的な運転が望めなくなる。通常は、暖房運転及び冷房運転のどちらでも能力不足が生じないようにするため、暖房基準で圧縮室の容積を決定するのが好ましい。
【0005】
ここで、上記二段圧縮機の場合、低段圧縮室の吐出口と高段圧縮室の吸入口とを接続する接続ラインへ上記冷媒回路の中間圧冷媒をインジェクションすることで、暖房能力を高めている。このことから、暖房基準で圧縮室の容積を決定する際には、暖房能力に対するインジェクション効果の寄与率を考慮する必要がある。この寄与率を大きく設定すればするほど、圧縮室の容積を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−152931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、圧縮室の容積を小さくしすぎると、冷房運転時において冷房能力の不足が生じてしまう場合がある。このため、冷房運転時の能力不足が生じない範囲内でしか圧縮室の容積を小さくすることができなかった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷却運転と加熱運転とが切換可能な空調装置に設けられて二段圧縮式の冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続される二段圧縮機において、冷却運転及び加熱運転における能力の過不足を生じさせることなく、二段圧縮機のサイズをできるだけ小さくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、共に容積を周期的に増減させながら流体を吸入して圧縮する高段圧縮室(36)及び低段圧縮室(37)と、共に上記低段圧縮室(37)から延びる低段吸入路(1a)及び低段吐出路(5)と、共に上記高段圧縮室(36)から延びる高段吸入路(2a)及び高段吐出路(6)とを有する圧縮機構(12)と、該圧縮機構(12)を駆動する電動機(13)とを備え、上記低段吸入路(1a)には二段圧縮式の冷凍サイクルを行う冷媒回路(60)の低圧冷媒が流通する低圧ライン(81,80)が連通し、上記高段吐出路(6)には上記冷媒回路(60)の高圧冷媒が流通する高圧ライン(80,81)が連通し、上記低段吐出路(5)と上記高段吸入路(2a)とを連通する接続ライン(7)には上記冷媒回路(60)の中間圧冷媒が流通する中間圧ライン(82)が連通し、
冷却運転(空気調和装置の場合には冷房運転)と加熱運転(空気調和装置の場合には暖房運転)とが切換可能な上記冷媒回路(60)が有する熱源側熱交換器(61)と利用側熱交換器(62)との間に設けられた二段圧縮機を前提としている。
【0010】
そして、この二段圧縮機は、上記利用側熱交換器(62)を冷却する上記冷媒回路(60)の冷却運転時に、上記低段吸入路(1a)を通じて上記低圧ライン(81,80)から上記低段圧縮室(37)へ吸入される冷媒を過給状態にする低段過給部(1)を備えていることを特徴としている。
【0011】
第1の発明では、上記低段過給部(1)により、上記冷却運転時に低段圧縮室(37)へ吸入される冷媒の最大量が、上記低段過給部(1)を設けない場合に比べて大きくなる。これに伴って、上記冷却運転時における利用側熱交換器(62)の最大冷却能力が大きくなる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、上記低段過給部(1)は、上記電動機(13)の運転周波数に対応する周期で開閉されるとともに上記低圧ライン(81,80)に低段バッファ空間部(3b)を介して連通する上記低段吸入路(1a)であり、
上記冷媒回路(60)の冷却運転時における冷媒の音速をc1[m/s]、上記電動機(13)の最大運転周波数をfmax[Hz]、上記低段圧縮室(37)の容積をV1[m3]、上記低段吸入路(1a)の通路面積をM1[m2]とした場合に、上記低段吸入路(1a)の長さL1が、0.9×Lm1≦L1≦1.1×Lm1(ただし、Lm1=(c1/(4×fmax)−(V1/M1))の関係を満たしていることを特徴としている。
【0013】
第2の発明では、上記低段吸入路(1a)が、上記冷却運転時に上記低段圧縮室(37)の吸入冷媒を過給状態にする長さL1に設定されている。そして、上記電動機(13)が最大運転周波数の時に、上記低段圧縮室(37)へ吸入される冷媒が過給状態となる。これにより、上記低段圧縮室(37)へ吸入される冷媒の最大量が大きくなる。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記利用側熱交換器(62)を加熱する上記冷媒回路(60)の加熱運転時に、上記高段吸入路(2a)を通じて上記接続ライン(7)から上記高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒を過給状態にする高段過給部(2)を備えていることを特徴としている。
【0015】
第3の発明では、上記高段過給部(2)により、上記加熱運転時における高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒の最大量が、上記高段過給部(2)を設けない場合に比べて大きくなる。これに伴って、上記加熱運転時における利用側熱交換器(62)の最大加熱能力が大きくなる。
【0016】
第4の発明は、第3の発明において、上記高段過給部(2)は、上記電動機(13)の運転周波数に対応する周期で開閉されるとともに上記高圧ライン(80,81)に高段バッファ空間部(4b)を介して連通する上記高段吸入路(2a)であり、上記冷媒回路(60)の加熱運転時における冷媒の音速をc2[m/s]、上記電動機(13)の最大運転周波数をfmax[Hz]、上記高段圧縮室(36)の容積をV2[m3]、上記高段吸入路(2a)の通路面積をM2[m2]とした場合に、上記高段吸入路(2a)の長さL2が、0.9×Lm2≦L2≦1.1×Lm2(ただし、Lm2=(c2/(4×fmax)−(V2/M2))の関係を満たしていることを特徴としている。
【0017】
第4の発明では、上記高段連通路部(2a)が、上記加熱運転時に上記高段圧縮室(36)の吸入冷媒を過給状態にする長さL2に設定されている。そして、上記電動機(13)が最大運転周波数の時に、上記高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒が過給状態となる。これにより、上記高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒の最大量が大きくなる。
【0018】
第5の発明は、第2の発明において、上記高段吸入路(2a)は、上記利用側熱交換器(62)を加熱する上記冷媒回路(60)の加熱運転時に、上記高段吸入路(2a)を通じて上記接続ライン(7)から上記高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒を過給状態にする高段過給部(2)であり、上記電動機(13)の運転周波数に対応する周期で開閉されるとともに上記高圧ライン(80,81)に高段バッファ空間部(4b)を介して連通するように構成され、上記冷媒回路(60)の加熱運転時における冷媒の音速をc2[m/s]、上記電動機(13)の最大運転周波数をfmax[Hz]、上記高段圧縮室(36)の容積をV2[m3]、上記高段吸入路(2a)の通路面積をM2[m2]とした場合に、上記高段吸入路(2a)の長さL2が、0.9×Lm2≦L2≦1.1×Lm2(ただし、Lm2=(c2/(4×fmax)−(V2/M2))の関係を満たす一方、上記高段吸入路(2a)の長さL2が、上記低段吸入路(1a)の長さL1よりも短く設定されていることを特徴としている。
【0019】
第5の発明では、上記加熱運転時において、上記高段吸入路(2a)を通過する冷媒の圧力損失が、上記低段吸入路(1a)を通過する冷媒の圧力損失よりも小さくなる。これにより、上記低段圧縮室(37)に比べて、より多くの冷媒が上記高段圧縮室(36)へ吸入されやすくなる。
【0020】
ここで、上記二段圧縮機(10)へ上記冷媒回路(60)の中間圧冷媒をインジェクションして加熱運転の能力を増加させる場合に、上記低段圧縮室(37)に対して、より多くの冷媒が吸入されるようにすると、上記低段圧縮室(37)から上記高段圧縮室(36)へ向かう冷媒の量が増える。この冷媒の量が増え過ぎると、上記二段圧縮機(10)へインジェクションされにくくなる場合があり、上記高段圧縮室(36)から吐出される冷媒の量が増えないことがある。
【0021】
第5の発明では、上記低段圧縮室(37)に比べて、より多くの冷媒が上記高段圧縮室(36)へ吸入されやすくなるので、上記高段圧縮室(36)から吐出される冷媒の量が増えやすくなる。
【0022】
第6の発明は、第2の発明において、上記高段吸入路(2a)は、上記利用側熱交換器(62)を加熱する上記冷媒回路(60)の加熱運転時に、上記高段吸入路(2a)を通じて上記接続ライン(7)から上記高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒を過給状態にする高段過給部(2)であり、上記電動機(13)の運転周波数に対応する周期で開閉されるとともに上記高圧ライン(80,81)に高段バッファ空間部(4b)を介して連通するように構成され、上記冷媒回路(60)の加熱運転時における冷媒の音速をc2[m/s]、上記電動機(13)の最大運転周波数をfmax[Hz]、上記高段圧縮室(36)の容積をV2[m3]、上記高段吸入路(2a)の通路面積をM2[m2]とした場合に、上記高段吸入路(2a)の長さL2が、
0.9×Lm2≦L2≦1.1×Lm2(ただし、Lm2=(c2/(4×fmax)−(V2/M2))の関係を満たす一方、上記低段吸入路(1a)の通路面積M1が、上記高段吸入路(2a)の通路面積M2よりも大きく設定されていることを特徴としている。
【0023】
第6の発明では、上記冷却運転時において、上記低段吸入路(1a)を通過する冷媒の圧力損失が、上記高段吸入路(2a)を通過する冷媒の圧力損失よりも小さくなる。これにより、上記高段圧縮室(36)に比べて、より多くの冷媒が上記低段圧縮室(37)へ吸入されやすくなる。これにより、上記低段圧縮室(37)から吐出される冷媒の量が増えやすくなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、上記低段過給部(1)により、上記冷却運転時における利用側熱交換器(62)の最大冷却能力を大きくすることができる。この最大冷却能力が大きくなった分だけ、低段圧縮室(37)の容積を小さくすることができ、二段圧縮機のサイズを小さくすることができる。
【0025】
また、上記第2の発明によれば、上記低段吸入路(1a)を所定の長さL1にすることにより、上記冷却運転時における上記低段圧縮室(37)の最大冷媒吸入量を大きくすることができ、この最大冷媒吸入量が増えた分だけ、低段圧縮室(37)の容積を小さくすることができる。このように、比較的に容易な手段で、低段圧縮室(37)の容積を小さくすることができる。
【0026】
尚、上記電動機(13)において、最大運転周波数よりも小さな運転周波数の時、極端に言えば、最小運転周波数の時に冷媒を過給状態にしたとしても、上記低段圧縮室(37)の最大冷媒吸入量を大きくすることができにくい。このことから、上記第2の発明では、上記低段圧縮室(37)の最大冷媒吸入量を確実に大きくすることを目的として、上記電動機(13)が最大運転周波数のときに冷媒を過給状態にするように上記低段吸入路(1a)の長さを設定している。
【0027】
また、上記第3の発明によれば、上記高段過給部(2)により、上記加熱運転時における利用側熱交換器(62)の最大加熱能力を大きくすることができる。この最大加熱能力が大きくなった分だけ、高段圧縮室(36)の容積をさらに小さくすることができ、二段圧縮機のサイズをより一層小さくすることができる。
【0028】
また、上記第4の発明によれば、上記高段吸入路(2a)を所定の長さL2にすることにより、上記加熱運転時における上記高段圧縮室(36)の最大冷媒吸入量を大きくすることができ、この最大冷媒吸入量が増えた分だけ、高段圧縮室(36)の容積を小さくすることができる。このように、比較的に容易な手段で、高段圧縮室(36)の容積を小さくすることができる。
【0029】
また、上記第5の発明によれば、上記高段吸入路(2a)の長さL2を上記低段吸入路(1a)の長さL1よりも短く設定することにより、上記低段圧縮室(37)に比べて、より多くの冷媒が上記高段圧縮室(36)へ吸入されやすくなる。この結果、上記高段吸入路(2a)及び上記低段吸入路(1a)を同じ長さにした場合に比べて、上記高段圧縮室(36)から吐出される冷媒の量が増えやすくなり、加熱運転時の能力を向上させやすくすることができる。
【0030】
また、上記第6の発明によれば、上記低段吸入路(1a)の通路面積M1を上記高段吸入路(2a)の通路面積M2よりも大きく設定することにより、上記高段圧縮室(36)に比べて、より多くの冷媒が上記低段圧縮室(37)へ吸入されやすくなる。この結果、上記高段吸入路(2a)及び上記低段吸入路(1a)を同じ面積にした場合に比べて、上記低段圧縮室(37)から吐出される冷媒の量が増えやすくなり、冷却運転時の能力を向上させやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施形態に係るマフラ付き二段圧縮機の縦断面図である。
【図2】本実施形態に係るマフラ付き二段圧縮機の圧縮機構付近の縦断面図である。
【図3】本実施形態に係るマフラ付き二段圧縮機の圧縮機構の横断面図である。
【図4】本実施形態に係る空気調和装置の冷媒回路図である。
【図5】本実施形態の変形例1に係るマフラ付き二段圧縮機の圧縮機構付近の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。まず、本発明の実施形態に係るマフラ付き二段圧縮機(以下、圧縮機という。)(10)の構成について説明した後、この圧縮機(10)が接続された冷媒回路(60)を有する空気調和装置について説明する。
【0033】
〈マフラ付き二段圧縮機〉
図1は本実施形態に係る圧縮機(10)の構成を示す縦断面図である。このマフラ付き圧縮機(10)は、図1に示すように、圧縮機本体部(10a)とマフラ部(3,4)とを備えている。
【0034】
−圧縮機本体部−
上記圧縮機本体部(10a)は、図1に示すように、ケーシング(11)と圧縮機構(12)と電動機(13)とを備えている。
【0035】
(ケーシング)
上記ケーシング(11)は、両端を閉塞した縦長円筒状の密閉容器で構成されており、円筒状の胴部(14a)と該胴部(14a)の上端側を閉塞する上部鏡板(14b)と該胴部(14a)の下端側を閉塞する下部鏡板(14c)とを備えている。上記胴部(14a)には、該胴部(14a)の下側部分を貫通して第1から第3のインレットチューブ(15a,15b,15c)が取り付けられている。又、上部胴部(14a)の上側部分を貫通して吐出管(17)が取り付けられている。上記ケーシング(11)に、上記電動機(13)及び上記圧縮機構(12)が収容されている。
【0036】
上部鏡板(14b)の頂部には、該頂部を貫通してターミナル端子(9)が取り付けられている。このターミナル端子(9)には、電気配線を介してインバータ(図示なし)が接続されている。このインバータは、上記電気配線を通じて電動機(13)へ電流を供給するとともに、その電流の周波数を所定範囲内で調整することが可能に構成されている。つまり、上記圧縮機(10)の運転容量は、上記インバータにより、所定範囲内で自在に変更することが可能となっている。
【0037】
下部鏡板(14c)の底部には、油溜め部が形成されている。この油溜め部には、上記圧縮機構(12)の摺動部分を潤滑する潤滑油が貯留される。
【0038】
(電動機)
上記電動機(13)は、共に円筒状に形成されたステータ(18a)及びロータ(18b)を備えている。上記ステータ(18a)は、上記ケーシング(11)の胴部(14a)に固定されている。このステータ(18a)の中空部に上記ロータ(18b)が配置されている。このロータ(18b)の中空部には、該ロータ(18b)を貫通するように回転軸(20)が固定されており、ロータ(18b)と回転軸(20)が一体で回転するようになっている。
【0039】
この回転軸(20)は、上下に延びる主軸部(21)を有し、この主軸部(21)の下端寄りに2つの偏心部(22,23)が一体に形成されている。これらの偏心部(22,23)は、低段側偏心部(22)と該低段側偏心部(22)よりも上側の高段側偏心部(23)であり、何れも主軸部(21)よりも大径に形成されている。上記低段側偏心部(22)及び高段側偏心部(23)の軸心は主軸部(21)の軸心に対して所定距離だけ偏心しており、低段側偏心部(22)及び高段側偏心部(23)の偏心方向は互いに180度ずれている。
【0040】
又、主軸部(21)の下端部には遠心ポンプ(24)が設けられている。この遠心ポンプ(24)は、上記油溜め部の潤滑油に浸漬している、そして、上記回転軸(20)の回転に伴い潤滑油を回転軸(20)内の給油路(図示省略)へ汲み上げた後で、圧縮機構(12)および電動機(13)の各摺動部へ供給する。
【0041】
(圧縮機構)
上記圧縮機構(12)は、図2に示すように、上側から下側に向かって、フロントヘッド(30)、高段シリンダ(31)、ミドルプレート(32)、低段シリンダ(33)、及びリアヘッド(34)の順で積層され、これらの部材(30,31,32,33,34)は、複数のボルト(35)で締結されてなる。尚、フロントヘッド(30)と高段シリンダ(31)とミドルプレート(32)とからなる部分が高段圧縮部(12a)を構成し、ミドルプレート(32)と低段シリンダ(33)とリアヘッド(34)とからなる部分が低段圧縮部(12b)を構成する。
【0042】
又、これらの部材(30,31,32,33,34)の中心部分には、上述した回転軸(20)が挿入される貫通孔部が設けられている。上記フロントヘッド(30)及びリアヘッド(34)における貫通孔部の内周面は、上記回転軸(20)の主軸部(21)を回転支持するすべり軸受部を構成している。又、上記高段シリンダ(31)及び低段シリンダ(33)の貫通孔部は、フロントヘッド(30)、ミドルプレート(32)及びリアヘッド(34)の貫通孔部よりも大径に形成されている。
【0043】
上記高段シリンダ(31)において、該高段シリンダ(31)の上端開口面がフロントヘッド(30)で閉塞され、上記高段シリンダ(31)の下端開口面がミドルプレート(32)で閉塞されることにより、上記高段シリンダ(31)における貫通孔部の部分が閉空間となる。この閉空間が高段シリンダ室を構成する。この高段シリンダ室には上記回転軸(20)の高段側偏心部(23)が位置し、この高段側偏心部(23)に高段ピストン(38)が外嵌している。この高段ピストン(38)の外周面には、該外周面から径方向外方へ延びる高段側ブレードが一体に形成されている。
【0044】
一方、上記低段シリンダ(33)において、該低段シリンダ(33)の上端開口面がミドルプレート(32)で閉塞され、該低段シリンダ(33)の下端開口面がリアヘッド(34)で閉塞されることにより、上記低段シリンダ(33)における貫通孔部の部分が閉空間となる。この閉空間が低段シリンダ室(55)を構成する。この低段シリンダ室(55)には上記回転軸(20)の低段側偏心部(22)が位置し、この低段側偏心部(22)に低段ピストン(39)が外嵌している。この低段ピストン(39)の外周面には、該外周面から径方向外方へ延びる低段側ブレード(41)が一体に形成されている。
【0045】
次に、各シリンダ(31,33)について説明する。尚、各シリンダ(31,33)は、同じ構成であるため、低段シリンダ(33)について説明し、高段シリンダ(31)の説明は部分的に省略する。
【0046】
上記低段シリンダ(33)には、図3に示すように、平面視で一部が低段シリンダ室(55)に開口する円形溝(42)が形成されている。この円形溝(42)がブッシュ溝(42)であり、このブッシュ溝(42)に低段側ブレード(41)が位置している。
【0047】
各ブッシュ溝(42)には、平面視で半月状に形成された一対のブッシュ(43)が上記低段側ブレード(41)を挟むような状態で内嵌されている。尚、このブッシュ(43)の円弧面はブッシュ溝(42)の内周面に対して摺接可能であり、上記ブッシュ(43)のフラット面は上記低段側ブレード(41)の側面に対して摺接可能である。
【0048】
又、上記低段シリンダ(33)には、該低段シリンダ(33)における内周面と外周面との間を径方向へ貫通する低段側の低段吸入貫通路(44)が形成されている。この低段吸入貫通路(44)における内周面側の開口端(44a)は、偏心回転運動する低段ピストン(39)の外周面によって開閉される。上記低段ピストン(39)が1回転するたびに、低段吸入貫通路(44)の開口端(44a)が所定時間だけ開く。そして、この低段吸入貫通路(44)に、上記第1インレットチューブ(15a)の端部が挿入固定されている。
【0049】
尚、上記高段シリンダ(31)の高段吸入貫通路(54)も、上記低段側の低段吸入貫通路(44)と同様に、上記高段ピストン(38)が1回転するたびに、高段吸入貫通路(54)が所定時間だけ開く。そして、この高段吸入貫通路(54)に、上記第2インレットチューブ(15b)の端部が挿入固定されている。
【0050】
又、上記低段シリンダ室(55)は、上記低段側ブレード(41)によって2つの空間に仕切られている。一方は上記第1インレットチューブ(15a)に連通する吸入側の空間部であり、他方は上記リアヘッド(34)に形成された低段側吐出孔(45)が開口する吐出側の空間部である。この吸入側及び吐出側の空間部が、低段圧縮室(37)を構成する。尚、上記高段シリンダ室における吸入側の空間部は、第2インレットチューブ(15b)に連通し、上記高段シリンダ室における吐出側の空間部には、上記フロントヘッド(30)に形成された高段側吐出孔(8b)が開口している。そして、この高段シリンダ室における吸入側及び吐出側の空間部が、高段圧縮室(36)を構成する。
【0051】
上記フロントヘッド(30)の上面には、この高段側吐出孔を覆うマフラカバー(46)が設けられている。このマフラカバー(46)の内側には高段側吐出室(47)が形成されている。そして、このマフラカバー(46)には、該マフラカバー(46)を貫通して高段側吐出室(47)と上記ケーシング(11)の内部空間とを連通する貫通孔が形成されている。そして、上記高段側吐出孔(8b)から上記高段側吐出室(47)と上記ケーシング(11)の内部空間とを経て上記吐出管(17)に至るまでの冷媒の流路が、高段吐出路(6)を構成する。
【0052】
上記リアヘッド(34)は、厚肉円環状の本体部(34a)と厚肉円環状の閉鎖板(34b)とを有している。尚、本体部(34a)及び閉鎖板(34b)の中空部分には、上記回転軸(20)の主軸部(21)が位置している。
【0053】
上記本体部(34a)は、該本体部(34a)の厚肉部に略環状の凹陥部(48)が形成されている。この凹陥部(48)は、上記本体部(34a)の下面に開口している。この凹陥部(48)の開口面を上記閉鎖板(34b)が閉塞することにより、上記凹陥部の部分が閉空間となる。この閉空間が低段側吐出室(49)を構成する。
【0054】
上記本体部(34a)には、該本体部(34a)を上下方向に貫通して上記低段側吐出室(49)と上記低段圧縮室(37)とを連通する連通孔(45)が形成されている。この連通孔(45)が、上述した低段側吐出孔(45)を構成する。又、上記本体部(34a)には、該本体部(34a)の厚肉部を径方向へ貫通して上記低段側吐出室(49)と上記本体部(34a)の外部とを連通する連通孔(51)が形成されている。この連通孔(50)に、第3インレットチューブ(15c)の端部が挿入固定されている。そして、上記低段側吐出孔(45)から上記低段側吐出室(49)及び上記連通孔(51)を経て上記第3インレットチューブ(15c)に至るまでの冷媒の流路が、低段吐出路(5)を構成する。
【0055】
−マフラ部−
上記マフラ部(3,4)は、低段側吸入マフラ(3)と高段側吸入マフラ(4)とで構成されている。これらのマフラ(3,4)は、何れも両端を閉塞した縦長円筒状の密閉容器である。これらのマフラ(3,4)を冷媒通路の途中に設けることにより、上記マフラ(3,4)よりも下流側の冷媒通路で生じた冷媒の脈動が、上記マフラ(3,4)よりも上流側の冷媒通路を流れる冷媒に伝わるのを抑えることが可能である。
【0056】
図1に示すように、各マフラ(3,4)の上端部には、該上端部を貫通して冷媒流入管継手(3a,4a)が取り付けられている。又、上記低段側吸入マフラ(3)の下端部には、該下端部を貫通して低段側吸入管が取り付けられている。この低段側吸入管の一端は上記ケーシング(11)の第1インレットチューブ(15a)に接続され、他端は上記低段側吸入マフラ(3)のマフラ空間(低段バッファ空間部)(3b)の上部に開口している。
【0057】
ここで、上記低段圧縮室(37)から上記低段側吸入マフラ(3)の低段マフラ空間(3b)へ至るまでの通路が、低段吸入路(1a)である。この低段吸入路(1a)は、上記低段吸入貫通路(44)を含み、この低段吸入貫通路(44)の開閉に伴って、開閉する。
【0058】
この低段吸入路(1a)の長さL1は、上記冷媒回路(60)の冷房運転時における冷媒の音速をc1[m/s]、上記電動機(13)の最大運転周波数をfmax[Hz]、上記低段圧縮室(37)の容積をV1[m3]、上記低段吸入路(1a)の通路面積をM1[m2]とした場合に、式1の関係を満たしている。
【0059】
L1=c1/(4×fmax)−(V1/M1) (式1)
又、上記高側吸入マフラ(4)の下端部には、該下端部を貫通して高段側吸入管が取り付けられている。この高段側吸入管の一端は上記ケーシング(11)の第2インレットチューブ(15b)に接続され、他端は上記高段側吸入マフラ(4)のマフラ空間(高段バッファ空間部)(4b)の上部に開口している。
【0060】
ここで、上記高段圧縮室(36)から上記高段側吸入マフラ(4)のマフラ空間(4b)に至るまでの通路が、上記高段吸入路(2a)である。この高段吸入路(2a)は、上記高段吸入貫通路(54)を含み、この高段吸入貫通路(54)の開閉に伴って、開閉する。
【0061】
この高段吸入路(2a)の長さL2は、上記冷媒回路(60)の暖房運転時における冷媒の音速をc2[m/s]、上記電動機(13)の最大運転周波数をfmax[Hz]、上記高段圧縮室(36)の容積をV2[m3]、上記高段吸入路(2a)の通路面積をM2[m2]とした場合に、式2の関係を満たしている。
【0062】
L2=c2/(4×fmax)−(V2/M2) (式2)
又、この高段吸入路(2a)の長さL2は、低段吸入路(1a)の長さL1よりも短くなっている。
【0063】
〈冷媒回路〉
次に、圧縮機(10)が接続される冷媒回路(60)について説明する。この冷媒回路(60)は、冷暖切換可能な空気調和装置に備えられている。この冷媒回路(60)は、二段圧縮式のエコノマイザサイクルを行うように構成されており、該冷媒回路(60)内には冷媒として二酸化炭素が封入されている。
【0064】
上記冷媒回路(60)には、上記圧縮機(10)の他に、四路切換弁(71)、室外熱交換器(熱源側熱交換器)(61)、室内熱交換器(利用側熱交換器)(62)、過冷却熱交換器(63)、冷房用膨張弁(64)、暖房用膨張弁(72)及び減圧弁(65)が接続されている。
【0065】
上記四路切換弁(71)は4つのポートを備えており、第1ポート(P1)と第2ポート(P2)が連通し且つ第3ポート(P3)と第4ポート(P4)が連通する冷房位置(図4に実線で示す状態)と、第1ポート(P1)と第3ポート(P3)が連通し且つ第2ポート(P2)と第4ポート(P4)が連通する暖房位置(図4に破線で示す状態)とに切換可能になっている。そして、上記四路切換弁(71)の第1ポート(P1)には上記圧縮機(10)の吐出管(17)から延びる第9冷媒配管(18)が接続され、第4ポート(P4)には上記低段側吸入マフラ(3)の冷媒流入管継手(3a)から延びる第1冷媒配管(70a)が接続されている。
【0066】
上記室外熱交換器(61)は、該室外熱交換器(61)の近傍に設けられた室外ファン(図示なし)によって取り込まれた室外空気と上記冷媒回路(60)の冷媒とを熱交換するものであり、クロスフィン式のフィン・アンド・チューブ型熱交換器で構成されている。上記四路切換弁(71)の第2ポート(P2)から延びる第2冷媒配管(70b)が、上記室外熱交換器(61)の一端に接続されている。そして、上記室外熱交換器(61)の他端から延びる第3冷媒配管(66)は分岐して一方は上記過冷却熱交換器(63)の高温側通路(63a)の一端に接続され、他方は上記減圧弁(65)の一端部に接続されている。又、この第3冷媒配管(66)の分岐前の部分には暖房用膨張弁(72)が接続されている。
【0067】
上記過冷却熱交換器(63)は、上記高温側通路(63a)の他に低温側通路(63b)が設けられており、高温側通路(63a)を通過する冷媒と低温側通路(63b)を通過する冷媒とが熱交換するように構成されている。そして、上記高温側通路(63a)の他端から延びる第4冷媒配管(69a)は上記冷房用膨張弁(64)の入口部に接続されている。
【0068】
上記減圧弁(65)は、該減圧弁(65)の弁開度を調整することにより、冷媒を所定の圧力まで減圧させることができるように構成されている。この冷媒の減圧量は、上記冷房用膨張弁(64)及び暖房用膨張弁(72)の減圧量よりも小さくなるように設定されている。この減圧弁(65)から延びる第5冷媒配管(67a)は上記過冷却熱交換器(63)の低温側通路(63b)の一端に接続されている。又、この低温側通路(63b)の他端から延びる第6冷媒配管(67b)は、上記圧縮機(10)の第3インレットチューブ(15c)から延びて上記高段側吸入マフラ(4)の冷媒流入管継手(4a)に接続される接続配管(7)の途中に連通している。
【0069】
上記暖房用膨張弁(72)は、上記四路切換弁(71)が暖房位置にあるときには該暖房用膨張弁(72)の弁開度を調節して冷媒を所定の圧力まで減圧する。一方、上記四路切換弁(71)が冷房位置にあるときには該暖房用膨張弁(72)の弁開度は全開位置に設定されている。
【0070】
上記冷房用膨張弁(64)は、上記四路切換弁(71)が冷房位置にあるときには該冷房用膨張弁(72)の弁開度を調節して冷媒を所定の圧力まで減圧する。一方、上記四路切換弁(71)が暖房位置にあるときには該冷房用膨張弁(72)の弁開度は全開位置に設定されている。この冷房用膨張弁(64)の他端部から延びる第7冷媒配管(69b)は、上記室内熱交換器(62)の一端に接続されている。
【0071】
上記室内熱交換器(62)は、該室内熱交換器(62)の近傍に設けられた室内ファン(図示なし)によって取り込まれた室内空気と上記冷媒回路(60)の冷媒とを熱交換するものであり、クロスフィン式のフィン・アンド・チューブ型熱交換器で構成されている。この室内熱交換器(62)の他端から延びる第8冷媒配管(70)は、上記低段側吸入マフラ(3)の冷媒流入管継手(3a)に接続されてる。
【0072】
そして、上記四路切換弁(22)が冷房位置に設定されると、上記室外熱交換器(61)が放熱器となり、室内熱交換器(62)が蒸発器となって冷房運転が行われる。一方、上記四路切換弁(22)が暖房位置に設定されると、上記室外熱交換器(61)が蒸発器となり、室内熱交換器(62)が放熱器となって暖房運転が行われる。
【0073】
−運転動作−
上記圧縮機(10)の動作について説明した後、冷媒回路(60)の動作について詳細に説明する。
【0074】
〈マフラ付き二段圧縮機〉
上記圧縮機(10)では、上記電動機(13)の回転軸(20)が回転すると、該回転軸(20)の各偏心部(22,23)に取り付けられたピストン(38,39)がシリンダ室(36,37)内を偏心回転する。これにより、各ピストン(38,39)と各シリンダ室(36,37)との間に形成される圧縮室の容積が周期的に変動し、該圧縮室で冷媒の吸入動作、圧縮動作及び吐出動作が連続的に行われる。
【0075】
上記圧縮機構(12)の低段圧縮室(37)には、上記低段側吸入マフラ(3)及び上記低段吸入路(1a)を通過した冷媒が吸入される。ここで、上記低段吸入路(1a)は所定の間隔で開閉しているため、上記低段圧縮室(37)へ吸入される冷媒の速度は不均一になりやすく、この低段吸入路(1a)を流れる冷媒は脈動している。
【0076】
一方、上記低段吸入路(1a)は、この脈動によって発生する慣性力を利用して冷媒の過給効果を起こすことが可能な長さ、つまり上述した式1に基づいて算出された長さL1に設定されている。
【0077】
これにより、上記電動機(13)における冷房運転時の運転周波数が最大値付近になったときに、冷媒の過給が起こり、上記低段圧縮室(37)への冷媒吸入量が増加する。この冷媒吸入量の増加によって、上記空気調和装置の冷房能力が増加する。
【0078】
上記低段圧縮室(37)で圧縮して吐出された冷媒は、上記接続配管(7)を通過する途中で上記第6冷媒配管(67b)から流れてきた冷媒と合流する。この合流した冷媒が、上記高段側吸入マフラ(4)及び上記高段吸入路(2a)を通過して上記圧縮機構(12)の高段圧縮室(36)へ吸入される。ここで、上記高段吸入路(2a)は、上記低段吸入路(1a)と同様に所定の間隔で開閉している。このため、上記高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒の速度は不均一になりやすく、この高段吸入路(2a)を流れる冷媒は脈動している。
【0079】
一方、上記高段吸入路(2a)は、この脈動によって発生する慣性力を利用して冷媒の過給効果を起こすことが可能な長さ、つまり上述した式2に基づいて算出された長さL2に設定されている。
【0080】
これにより、上記電動機(13)における暖房運転時の運転周波数が最大値付近になったときに、冷媒の過給が起こり、上記高段圧縮室(36)への冷媒吸入量が増加する。この冷媒吸入量の増加によって、上記空気調和装置の暖房能力が増加する。
【0081】
そして、上記高段圧縮室(36)で臨界圧力を超える圧力まで圧縮された冷媒は、上記圧縮機本体部(10a)のケーシング(11)内に吐出された後で上記吐出管(17)を通じて、上記ケーシング(11)の外側へ吐出される。
【0082】
〈冷媒回路〉
次に、上記空気調和装置における冷媒回路(60)の運転動作について説明する。
【0083】
−冷房運転−
上記空気調和装置の冷房運転時には、上記四路切換弁(71)が冷房位置に設定される。又、上記冷房用膨張弁(64)の弁開度は必要に応じて調整され、上記暖房用膨張弁(72)の弁開度は全開に設定される。
【0084】
これにより、上記第9冷媒配管(18)と第2冷媒配管(70b)と上記第3冷媒配管(66)とが高圧ライン(80)となり、上記第4冷媒配管(69a)と上記第8冷媒配管(70)と上記第1冷媒配管(70a)とが低圧ライン(81)となる。又、上記四路切換弁(71)の切換動作によらずに、第5冷媒配管(67a)と第6冷媒配管(67b)とが中間圧ライン(82)となる。そして、図4に示す実線方向へ冷媒が循環することにより、上記冷媒回路(60)で蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
【0085】
上記圧縮機(10)から吐出された高圧冷媒は、上記室外熱交換器(61)に流入する。上記室外熱交換器(61)に流入した高圧冷媒は、上記室外ファンから送られる室外空気へ放熱した後、該室外熱交換器(61)を流出する。この高圧冷媒は、全開状態の暖房用膨張弁(72)を通過した後で分流して、一部が上記過冷却熱交換器(63)の高温側通路(63a)へ流入し、残りが上記減圧弁(65)で所定圧力まで減圧されて中間圧冷媒となった後で上記過冷却熱交換器(63)の低温側通路(63b)へ流入する。
【0086】
上記過冷却熱交換器(63)では、上記高温側通路(63a)の高圧冷媒と上記低温側通路(63b)の中間圧冷媒とが熱交換する。上記高圧冷媒は上記中間圧冷媒に放熱して冷却された後、上記高温側通路(63a)を流出する。一方、上記中間圧冷媒は上記高圧冷媒から吸熱して加熱された後、上記低温側通路(63b)を流出する。
【0087】
一方、上記高温側通路(63a)を流出した高圧冷媒は、上記冷房用膨張弁(64)に流入して所定の圧力まで減圧される。この減圧で上記高圧冷媒は二相状態の低圧冷媒となった後で上記冷房用膨張弁(64)を流出する。この冷房用膨張弁(64)を流出した低圧冷媒は、上記室内熱交換器(62)に流入する。上記室内熱交換器(62)では、その低圧冷媒が該室内熱交換器(62)の近傍に配置された室内ファンの室内空気から吸熱して蒸発し、低圧ガス冷媒となった後、該室内熱交換器(62)を流出する。このとき、上記低圧冷媒によって室内空気が冷却され、この冷却された空気が室内へ送られる。これにより、室内が冷房される。
【0088】
上記室内熱交換器(62)を流出した低圧ガス冷媒は、低段側吸入マフラ(3)を経て上記圧縮機(10)の上記低段圧縮室(37)へ吸入される。尚、上記電動機(13)が最大運転周波数のときには、上述したように、上記低段圧縮室(37)へ吸入されようとする低圧ガス冷媒が過給状態となる。
【0089】
そして、上記低段シリンダ室(55)へ吸入された低圧ガス冷媒は、上記低段圧縮室(37)で圧縮された後に吐出される。上記低段圧縮室(37)から吐出された冷媒は、上記過冷却熱交換器(63)の低温側通路(63b)を流出した中間圧冷媒と合流し、この合流後の冷媒が上記高段側吸入マフラ(4)を経て上高段圧縮室(36)へ吸入される。この冷媒は、上記高段圧縮室(36)で圧縮されて高圧冷媒となった後に上記ケーシング(11)内を通じて上記室外熱交換器(61)へ吐出される。このように冷媒が循環することにより、空気調和装置の冷房運転が行われる。
【0090】
−暖房運転−
上記空気調和装置の暖房運転時には、上記四路切換弁(71)が暖房位置に設定される。又、上記暖房用膨張弁(72)の弁開度は必要に応じて調整され、上記冷房用膨張弁(64)の弁開度は全開に設定される。
【0091】
これにより、上記第4冷媒配管(69a)と上記第8冷媒配管(70)と上記第1冷媒配管(70a)とが高圧ライン(80)となり、上記第9冷媒配管(18)と第2冷媒配管(70b)と上記第3冷媒配管(66)とが低圧ライン(81)となる。そして、図5に示す破線方向へ冷媒が循環することにより、上記冷媒回路(60)で蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
【0092】
上記圧縮機(10)から吐出された高圧冷媒は、上記四路切換弁(71)を経て上記室内熱交換器(62)に流入する。
【0093】
上記室内熱交換器(62)では、その高圧冷媒が該室内熱交換器(62)の近傍に配置された室内ファンの室内空気へ放熱した後、該室内熱交換器(62)を流出する。このとき、上記低圧冷媒によって室内空気が加熱され、この加熱された空気が室内へ送られる。これにより、室内が暖房される。
【0094】
上記室内熱交換器(62)を流出した高圧冷媒は、全開状態の冷房用膨張弁(64)と上記過冷却熱交換器(63)の高温側通路(63a)とを通過した後で、その一部が分岐して上記減圧弁(65)へ流れ、残りが上記暖房用膨張弁(72)へ流れる。
【0095】
上記減圧弁(65)へ流入した高圧冷媒は、該減圧弁(65)で所定圧力まで減圧されて中間圧冷媒となった後で上記過冷却熱交換器(63)の低温側通路(63b)へ流入する。
【0096】
上記過冷却熱交換器(63)では、上記高温側通路(63a)の高圧冷媒と上記低温側通路(63b)の中間圧冷媒とが熱交換する。上記高圧冷媒は上記中間圧冷媒に放熱して冷却され、上記中間圧冷媒は上記高圧冷媒から吸熱して加熱される。
【0097】
上記暖房用膨張弁(72)へ吸入した高圧冷媒は、該減圧弁(65)で所定圧力まで減圧されて低圧冷媒となった後で上記室外熱交換器(61)へ流入する。上記室外熱交換器(61)に流入した低圧冷媒は、上記室外ファンから送られる室外空気で冷却されて蒸発した後、上記室外熱交換器(61)を流出する。
【0098】
上記室外熱交換器(61)を流出した低圧冷媒は、低段側吸入マフラ(3)を経て上記圧縮機(10)の上記低段圧縮室(37)へ吸入される。そして、上記低段圧縮室(37)へ吸入された低圧ガス冷媒は、上記低段圧縮室(37)で圧縮された後に吐出される。上記低段圧縮室(37)から吐出された冷媒は、上記過冷却熱交換器(63)の低温側通路(63b)を流出した中間圧冷媒と合流し、この合流後の冷媒が上記高段側吸入マフラ(4)を経て上記高段圧縮室(36)へ吸入される。
【0099】
尚、上記電動機(13)が最大運転周波数のときには、上述したように、上記高段圧縮室(36)へ吸入されようとする中間圧冷媒が過給状態となる。そして、この中間圧冷媒は、上記高段圧縮室(36)で圧縮されて高圧冷媒となった後に上記ケーシング(11)内を通じて上記吐出間(17)から吐出される。このように冷媒が循環することにより、空気調和装置の暖房運転が行われる。
【0100】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、上記低段吸入路(1a)が、上記冷房運転時に上記低段圧縮室(37)の吸入冷媒を過給状態にする長さL1に設定されている。そして、上記電動機(13)が最大運転周波数の時に、上記低段圧縮室(37)へ吸入される冷媒が過給状態となる。冷媒が過給状態になると、上記低段圧縮室(37)へ吸入される冷媒の最大量が大きくなり、この最大冷媒吸入量が増えた分だけ、低段圧縮室(37)の容積を小さくすることができる。これにより、上記圧縮機(10)のサイズを小さくすることができる。
【0101】
又、本実施形態によれば、上記高段吸入路(2a)が、上記高段圧縮室(36)の吸入冷媒を過給状態にする長さL2に設定されている。そして、上記電動機(13)が最大運転周波数の時に、上記高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒が過給状態となる。冷媒が過給状態になると、上記高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒の最大量が大きくなり、この最大冷媒吸入量が増えた分だけ、高段圧縮室(36)の容積をさらに小さくすることができる。これにより、上記圧縮機(10)のサイズをより一層小さくすることができる。
【0102】
又、本実施形態によれば、上記高段吸入路(2a)の長さL2を上記低段吸入路(1a)の長さL1よりも短く設定することにより、上記低段圧縮室(37)に比べて、より多くの冷媒が上記高段圧縮室(36)へ吸入されやすくなる。この結果、上記高段吸入路(2a)及び上記低段吸入路(1a)を同じ長さにした場合に比べて、上記高段圧縮室(36)から吐出される冷媒の量が増えやすくなり、暖房運転時の能力を向上させやすくすることができる。
【0103】
−実施形態1の変形例−
図5に示す変形例1の圧縮機では、上記実施形態とは違い、上記高段吸入路(2a)の通路面積M2が、上記低段吸入路(1a)の通路面積M1よりも小さく設定されている。
【0104】
この場合には、冷房運転時において、上記低段吸入路(1a)を通過する冷媒の圧力損失が、上記高段吸入路(2a)を通過する冷媒の圧力損失よりも小さくなる。これにより、上記高段圧縮室(36)に比べて、より多くの冷媒が上記低段圧縮室(37)へ吸入されやすくなる。これにより、上記低段圧縮室(37)から吐出される冷媒の量が増えやすくなる。この結果、上記冷房運転時の能力を向上させやすくすることができる。
【0105】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0106】
上記本実施形態では、上記低段側吸入マフラ(3)の低段マフラ空間(3b)が低段バッファ空間部を構成し、上記高段側吸入マフラ(4)のマフラ空間(4b)が高段バッファ空間部を構成していたが、これに限定される必要はない。例えば、上記低段バッファ空間部がアキュムレータで構成されていてもよい。この場合、上記アキュムレータへ流入した冷媒の脈動を抑えることが可能な所定容量の空間がアキュムレータ内に形成されている必要がある。
【0107】
又、上記本実施形態では、上記圧縮機構(12)が、いわゆるスイング型の圧縮機構で構成されているが、これに限定される必要はなく、ロータリ型、スクロール型、及びレシプロ型等の容積型の圧縮機構で構成されていてもよい。
【0108】
又、上記本実施形態では、上記低段吸入路(1a)の長さL1が、式1を満たすように設定されていたが、これに限定されず、0.9×Lm1≦L1≦1.1×Lm1(ただし、Lm1=(c1/(4×fmax)−(V1/M1))の関係を満たす範囲内であればよい。この長さL1の範囲は、上記低段吸入路(1a)が本実施形態の長さL1のときに冷媒の過給効果が最大となり、この長さL1よりも長く又は短くなるにつれて冷媒の過給効果が小さくなるという特性に基づいて定められている。
【0109】
又、上記高段吸入路(2a)の長さL2についても、式2を満たすように設定されているが、これに限定されず、0.9×Lm2≦L2≦1.1×Lm2(ただし、Lm2=(c2/(4×fmax)−(V2/M2))の関係を満たす範囲内であればよい。この長さL2の範囲も、上述した特性に基づいて定められる。
【0110】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上説明したように、本発明は、二段圧縮式の冷凍サイクルに接続される二段圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0112】
1a 低段吸入路(低段過給部)
2a 高段吸入路(高段過給部)
3 低段側吸入マフラ
3b 低段マフラ空間(低段バッファ空間部)
4 高段側吸入マフラ
4b 高段マフラ空間(高段バッファ空間部)
10 圧縮機
11 ケーシング
12 圧縮機構
13 電動機
36 高段圧縮室
37 低段圧縮室
38 高段ピストン
39 低段ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共に容積を周期的に増減させながら流体を吸入して圧縮する高段圧縮室(36)及び低段圧縮室(37)と、共に上記低段圧縮室(37)から延びる低段吸入路(1a)及び低段吐出路(5)と、共に上記高段圧縮室(36)から延びる高段吸入路(2a)及び高段吐出路(6)とを有する圧縮機構(12)と、該圧縮機構(12)を駆動する電動機(13)とを備え、
上記低段吸入路(1a)には二段圧縮式の冷凍サイクルを行う冷媒回路(60)の低圧冷媒が流通する低圧ライン(81,80)が連通し、上記高段吐出路(6)には上記冷媒回路(60)の高圧冷媒が流通する高圧ライン(80,81)が連通し、上記低段吐出路(5)と上記高段吸入路(2a)とを連通する接続ライン(7)には上記冷媒回路(60)の中間圧冷媒が流通する中間圧ライン(82)が連通し、
冷却運転と加熱運転とが切換可能な上記冷媒回路(60)が有する熱源側熱交換器(61)と利用側熱交換器(62)との間に設けられた二段圧縮機であって、
上記利用側熱交換器(62)を冷却する上記冷媒回路(60)の冷却運転時に、上記低段吸入路(1a)を通じて上記低圧ライン(81,80)から上記低段圧縮室(37)へ吸入される冷媒を過給状態にする低段過給部(1)を備えていることを特徴とする二段圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記低段過給部(1)は、上記電動機(13)の運転周波数に対応する周期で開閉されるとともに上記低圧ライン(81,80)に低段バッファ空間部(3b)を介して連通する上記低段吸入路(1a)であり、
上記冷媒回路(60)の冷却運転時における冷媒の音速をc1[m/s]、上記電動機(13)の最大運転周波数をfmax[Hz]、上記低段圧縮室(37)の容積をV1[m3]、上記低段吸入路(1a)の通路面積をM1[m2]とした場合に、
上記低段吸入路(1a)の長さL1が、
0.9×Lm1≦L1≦1.1×Lm1(ただし、Lm1=(c1/(4×fmax)−(V1/M1))の関係を満たしていることを特徴とする二段圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記利用側熱交換器(62)を加熱する上記冷媒回路(60)の加熱運転時に、上記高段吸入路(2a)を通じて上記接続ライン(7)から上記高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒を過給状態にする高段過給部(2)を備えていることを特徴とする二段圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、
上記高段過給部(2)は、上記電動機(13)の運転周波数に対応する周期で開閉されるとともに上記高圧ライン(80,81)に高段バッファ空間部(4b)を介して連通する上記高段吸入路(2a)であり、
上記冷媒回路(60)の加熱運転時における冷媒の音速をc2[m/s]、上記電動機(13)の最大運転周波数をfmax[Hz]、上記高段圧縮室(36)の容積をV2[m3]、上記高段吸入路(2a)の通路面積をM2[m2]とした場合に、
上記高段吸入路(2a)の長さL2が、
0.9×Lm2≦L2≦1.1×Lm2(ただし、Lm2=(c2/(4×fmax)−(V2/M2))の関係を満たしていることを特徴とする二段圧縮機。
【請求項5】
請求項2において、
上記高段吸入路(2a)は、上記利用側熱交換器(62)を加熱する上記冷媒回路(60)の加熱運転時に、上記高段吸入路(2a)を通じて上記接続ライン(7)から上記高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒を過給状態にする高段過給部(2)であり、上記電動機(13)の運転周波数に対応する周期で開閉されるとともに上記高圧ライン(80,81)に高段バッファ空間部(4b)を介して連通するように構成され、
上記冷媒回路(60)の加熱運転時における冷媒の音速をc2[m/s]、上記電動機(13)の最大運転周波数をfmax[Hz]、上記高段圧縮室(36)の容積をV2[m3]、上記高段吸入路(2a)の通路面積をM2[m2]とした場合に、
上記高段吸入路(2a)の長さL2が、
0.9×Lm2≦L2≦1.1×Lm2(ただし、Lm2=(c2/(4×fmax)−(V2/M2))の関係を満たす一方、
上記高段吸入路(2a)の長さL2が、上記低段吸入路(1a)の長さL1よりも短く設定されていることを特徴とする二段圧縮機。
【請求項6】
請求項2において、
上記高段吸入路(2a)は、上記利用側熱交換器(62)を加熱する上記冷媒回路(60)の加熱運転時に、上記高段吸入路(2a)を通じて上記接続ライン(7)から上記高段圧縮室(36)へ吸入される冷媒を過給状態にする高段過給部(2)であり、上記電動機(13)の運転周波数に対応する周期で開閉されるとともに上記高圧ライン(80,81)に高段バッファ空間部(4b)を介して連通するように構成され、
上記冷媒回路(60)の加熱運転時における冷媒の音速をc2[m/s]、上記電動機(13)の最大運転周波数をfmax[Hz]、上記高段圧縮室(36)の容積をV2[m3]、上記高段吸入路(2a)の通路面積をM2[m2]とした場合に、
上記高段吸入路(2a)の長さL2が、
0.9×Lm2≦L2≦1.1×Lm2(ただし、Lm2=(c2/(4×fmax)−(V2/M2))の関係を満たす一方、
上記低段吸入路(1a)の通路面積M1が、上記高段吸入路(2a)の通路面積M2よりも大きく設定されていることを特徴とする二段圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−136967(P2012−136967A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288503(P2010−288503)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】