説明

二液分別塗布型速硬化性水性接着剤及び該水性接着剤を用いた接着方法

【課題】短時間接着性と高耐久性能の二つの性能を併せ持ち、JISK6806第1種1号煮沸繰り返し耐水接着性試験にも合格する接着剤及び接着方法の提供。
【解決手段】(a1)水性樹脂エマルジョンと(a2)アセトアセチル化ポリビニルアルコールを含有する(a12)エマルジョン混合物100質量部に(a3)イソシアネート化合物を5〜30質量部と、(a4)カオリンクレーを5〜50質量部を混合したA液と、(b1)ヒドラジド化合物の1〜15質量%水溶液であるB液とからなる二液分別塗布型速硬化性水性接着剤であって、当該(a12)エマルジョン混合物における(a2)アセトアセチル化ポリビニルアルコール樹脂分の混合比率が3〜30質量%であり、かつ、当該A液における(a1)水性樹脂エマルジョンと(a2)アセトアセチル化ポリビニルアルコールの樹脂分の総和が15質量%以上65質量%未満である二液分別塗布型速硬化性水性接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂エマルジョン、アセトアセチル化ポリビニルアルコール(以下AA化PVAと記す)、イソシアネート化合物とカオリンクレーを含有するA液と、ヒドラジド化合物を含有するB液(プライマー組成物)とからなる二液分別塗布型速硬化性水性接着剤及び該水性接着剤を用いた接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
戸建て住宅等に用いられる壁パネルを工場生産する場合、さまざまなサイズのパネルを製造することになる。これらを効率よく製造するには短時間で接着する接着剤が必要不可欠である。
また、構造用部材として用いられる壁パネルや集成材の接着においては、JIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験に合格することが求められる。しかし、このJIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験は非常に苛酷な試験であり(試験条件は後述する)、水性接着剤を用いてこの試験に合格することは非常に難しい課題であった。
【0003】
従来、短時間接着性と高耐久性能の二つの性能を併せ持つ接着剤としては、改質イソバン(イミド化変性した無水マレイン酸−イソブチレン樹脂)水溶液に架橋剤を混合した第一液と、グリオキザールを含有する第二液とからなる二液分別塗布型の接着剤が知られている(例えば特許文献1)。しかし、この接着剤はグリオキザールの毒性が欠点としてあげられる。
【0004】
JIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験に合格する水性接着剤としては、一般に「水性ビニルウレタン系接着剤」と呼ばれる接着剤が知られている。
従来の水性ビニルウレタン系接着剤はエチレン−酢酸ビニルエマルジョン、酢酸ビニルアクリルエマルジョン、アクリルエマルジョン、アクリルスチレンエマルジョン、SBRラテックス等の樹脂エマルジョンを成膜成分とし、それにポリビニルアルコール(PVA)水溶液を配合し硬化剤であるイソシアネート化合物を混合して使用する接着系である。PVAの水酸基とイソシアネート化合物のイソシアネート基が反応して三次元架橋することにより高度の耐久性をもつ接着が得られる。
水性ビニルウレタン系接着剤の硬化剤として一般的にポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(以下クルードMDIと記すことがある)が使用されている。その理由はそのコストの安さ、取り扱いのしやすさのためである。
【0005】
一方、AA化PVAとヒドラジド化合物とが接触すると、短時間でゲル化する性質を利用した短時間接着性を持つ接着剤も知られている(例えば、特許文献2〜4)。しかし、この接着剤は耐水接着性を付与するために金属塩等を混合しているが、上述のような構造用部材である壁パネルにおいては、その耐久性(特に煮沸耐水性能)は十分ではなかった。
【0006】
例えば、水性ビニルウレタン系接着剤にAA化PVAを使用し分別塗布型のシステムを採ることにより高速接着性(初期立ち上がり接着強度に優れた)の性質を付与する試みとしては、分別塗布型の高速接着システムについては特許文献2に開示されている。この中ではヒドラジド化合物をプライマーとして使用している。
この特許の実施例に記載される接着剤においては、JIS K6852で規定される耐水接着性(冷水3時間浸漬後測定)の試験を行っているが、より高度の耐水性能であるJIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験には到底合格するものではなかった。従って、構造用部材に用いる接着剤としては不十分な性能であり、未だ満足のできるものではなかった。
【0007】
また、特許文献4においては、樹脂エマルジョン及びAA化PVAを含有する第1剤とヒドラジド誘導体を含有する第2剤から成る速硬化接着剤であって、前記第1剤における前記樹脂エマルジョンの樹脂分と、前記AA化PVAの樹脂分との合計が45〜65質量%の範囲にあると共に、前記AA化PVAの重合度が1000〜2500の範囲にあることを特徴とする速硬化接着剤が開示される。また、前記第1剤にイソシアネート化合物を添加することも開示されている。
この特許のイソシアネート化合物を添加した実施例に記載される接着剤においてすら、JIS K6806で規定される第1種2号の耐温水接着性の試験には合格するものの、より高度の耐水性能であるJIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験には合格するものではなかった。つまり、この特許に示される接着剤は短時間接着の高速化を主目的としており、最終接着の耐久性までは考慮されておらず、短時間接着と耐久性の両立は出来ていないことから、構造用部材に用いる接着剤としては不十分な性能であり、未だ満足のできるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平3−24511号公報
【特許文献2】特公平1−60192号公報
【特許文献3】特許第2939324号公報
【特許文献4】特許第3181048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、短時間接着が可能であると同時に、構造用部材で必要とされる高耐水性能、具体的にはJIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験をクリアする、二液分別塗布型で硬化速度の極めて速い水性接着剤を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題をクリアする接着剤の開発を鋭意検討してきた。
そのなかで、特に水性接着剤に配合される粉体に着目した。従来、粉体は接着剤皮膜の物性改善の見地から充填材として配合されている。しかし、本発明者らはAA化PVAを用いた水性ビニルウレタン接着剤の系においては、配合される粉体が、硬化剤であるイソシアネート化合物の反応性に影響を及ぼし、その結果として短時間接着及びJIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着強度にも影響を及ぼしていることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は次の第1〜6の発明から構成される。
【0011】
すなわち、第1の発明は、(a1)水性樹脂エマルジョンと(a2)AA化PVAを含有する(a12)エマルジョン混合物100質量部に
(a3)イソシアネート化合物を5〜30質量部と、(a4)カオリンクレーを5〜50質量部を混合したA液と、
(b1)ヒドラジド化合物の1〜15質量%水溶液であるB液とからなる二液分別塗布型速硬化性水性接着剤であって、
当該(a12)エマルジョン混合物における(a2)AA化PVA樹脂分の混合比率が3〜30質量%であり、かつ、
当該A液における(a1)水性樹脂エマルジョンと(a2)AA化PVAの樹脂分の総和が15質量%以上65質量%未満であり、
JIS K 6806の煮沸繰返し試験方法において、圧縮せん断接着強さが1種1号の合格基準である5.88N/mm以上であることを特徴とする二液分別塗布型速硬化性水性接着剤に関するものである。
これらの成分が、上記の範囲内にあるときに本発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤の性能が最大限に発揮される。
【0012】
また、第2の発明は、(a4)カオリンクレーが、メジアン径が0.5〜10μmであり、かつ、5%スラリーのpH値が5〜8であることを特徴とする第1の発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤に関するものである。
カオリンクレーが上記の条件を満たすとき、短時間接着及びJIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着強度に優れる。
【0013】
第3の発明は、(a2)AA化PVAの重合度が、1500〜2500であることを特徴とする第1又は第2の発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤に関するものである。
AA化PVAの重合度が上記の範囲にあるとき、短時間接着及びJIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着強度に優れる。
【0014】
第4の発明は、(b1)ヒドラジド化合物が、アジピン酸ジヒドラジド又はカルボジヒドラジドであることを特徴とする第1〜第3の発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤に関するものである。
これらヒドラジド化合物はAA化PVA水溶液と容易に高速に反応してゲル化する物質である。
【0015】
第5の発明は、(x1)被着材に対して、B液を塗布する工程、
(x2)当該被着材のB液塗布面に、さらにA液を重ねて塗布する工程、
(x3)工程x1及びx2によりB液及びA液が塗布された被着材塗布面に、他の被着材を接触、圧締することにより接着する工程、
を含むことを特徴とする第1〜第4のいずれかの発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤を用いた接着方法に関するものである。
【0016】
第6の発明は、(y1)被着材に対して、B液を塗布する工程、
(y2)他方の被着材に対して、A液を塗布する工程、
(y3)工程y1で得られたB液塗布面と、工程y2で得られたA液塗布面とを接触、圧締することにより接着する工程、
を含むことを特徴とする第1〜第4のいずれかの発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤を用いた接着方法に関するものである。
これら第5と第6の発明に係る接着方法を採ると、第1〜4の発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤の性能を最大限に引き出せるため好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤又は当該水性接着剤を用いた接着方法は、短時間接着が可能であると同時に、煮沸繰り返し耐水接着性能に極めて優れる。さらに常態での接着性能にも優れるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0019】
[水性樹脂エマルジョンについて]
本発明の(a1)水性樹脂エマルジョンとしては、酢酸ビニルエマルジョン、酢酸ビニルアクリルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニルエマルジョン、アクリルエマルジョン、アクリルスチレンエマルジョン、SBR(スチレン−ブタジエン共重合体)ラテックス、クロロプレンラテックス、天然ゴムラテックス等を用いることができる。コストと接着性能の観点から用途により使いわけているが、エチレン−酢酸ビニルエマルジョンとアクリルスチレンエマルジョンの併用がコストと性能のバランス上好ましい。
【0020】
[AA化PVAについて]
本発明における(a2)AA化PVAについては、特許文献2で製造方法などを説明している。一般的には、高重合度のPVAは接着強度が向上するが水溶液粘度が上昇して流動性が低くなり取り扱い難くなる。ケン化度については高い方が耐水接着強度が強くなるが、低温になると流動性が低くなり取り扱い難くなる。
本発明においては、(a2)AA化PVAの重合度が1500〜2500であると、短時間接着及びJIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着強度に優れるため好ましい。
このようなAA化PVAの市販品としては、ゴーセファイマーZ320、Z410(日本合成化学工業社製商品名)等があり、これらが使用できる。
【0021】
[エマルジョン混合物について]
本発明における、(a12)エマルジョン混合物は上記(a1)水性樹脂エマルジョンと(a2)AA化PVAとを含有するものであり、当該(a12)エマルジョン混合物における(a2)AA化PVA樹脂分の混合比率が3〜30質量%であり、かつ、
当該A液における(a1)水性樹脂エマルジョンと(a2)AA化PVAの樹脂分の総和が15質量%以上65質量%未満である。
【0022】
(a12)エマルジョン混合物における(a2)AA化PVAが3質量%未満であると短時間接着強さ、耐煮沸繰り返し強度ともに低くなり、30質量%を超えると系全体の粘度が高くなり実用的でない。またAA化PVAはコストが高いので接着剤全体のコストも高くなる。
また、A液の樹脂分((a1)と(a2)の樹脂分の総和)が15質量%未満であると短時間接着強度が低くなる傾向がある。そして、この系において樹脂分が65質量%を超えるものを製造しようとすると固体原料であるPVAを溶解する水を使用する関係上、製造が難しくなることがある。樹脂分の好ましい範囲としては、20〜50質量%、特に好ましくは30〜45質量%である。
【0023】
[イソシアネート化合物について]
(a3)イソシアネート化合物としては、従来公知の芳香族、脂肪族、脂環族又は芳香脂肪族イソシアネート化合物を用いることができる。ここで、芳香脂肪族イソシアネート化合物とは、芳香族環とイソシアネート基とがアルキル基を介して結合した一連の化合物をいう。
(a3)イソシアネート化合物の使用量は、上記(a12)エマルジョン混合物100質量部に対して5〜30質量部である。(a3)イソシアネート化合物の使用量が5質量%未満であると耐煮沸繰り返し接着強度が低くなり、30質量%を超えるとコストが高いので実用的でない。好ましくは、性能とコストのバランスから10〜25質量%が好ましい。
【0024】
本発明で用いることができる(a3)イソシアネート化合物としては、具体的には以下のようなものが挙げられる。
【0025】
芳香族イソシアネート化合物としては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエ−テルジイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジフェニルプロパン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシネ−ト、4,4′−ジフェニルプロパンジイソシアネート、3,3′−ジメトキシジフェニル−4,4′−ジイソシアネート等が挙げられる。
【0026】
脂肪族イソシアネート化合物としては、例えば、1,3−トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,3−ペンタメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
脂環族イソシアネート化合物としては、例えば、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0028】
芳香脂肪族イソシアネート化合物としては、例えば、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、ω,ω′−ジイソシアネート1,4−ジエチルベンゼン、1,3−ビス(1−イソシアネート1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−イソシアネート1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(α,α−ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼン等が挙げられる。
【0029】
また、本発明では、(a3)イソシアネート系化合物としては、前記例示の芳香族、脂肪族、脂環族、芳香脂肪族イソシアネート化合物による二量体や三量体、反応生成物又は重合物(例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの二量体や三量体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネートなど)等も用いることができる。これらのなかでも、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートが、コストの安さ、取り扱いのしやすさの点から好ましい。
【0030】
[カオリンクレーについて]
一般にカオリンクレーとは、含水珪酸アルミニウムを主成分とする天然鉱石、カオリナイト(Al22・2SiO2・2H2O)、パイロフィライト(Al22・4SiO2・H2O)を粉砕分級したものであり、タルク、炭酸カルシウムの無機充填材とは化学組成に違いがある。(タルクは含水珪酸マグネシウム(Mg2Si410(OH)2)を主成分とした鉱石からなる。)
本発明における(a4)カオリンクレーとしては、上記のうち、カオリナイト及び/又はパイロフィライトからなる含水カオリン及び/又は焼成カオリンを用いることができる。
本発明では、(a4)カオリンクレーが、メジアン径が0.5〜10μmであり、かつ、5%スラリーのpH値が5〜8であると、短時間接着及びJIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着強度に優れるため好ましい。
(a4)カオリンクレーの使用量は、上記(a12)エマルジョン混合物100質量部に対して、5〜50質量部である。(a4)カオリンクレーの使用量が5質量%未満であると耐水性が充分に発現しないという不具合が生じやすく、50質量%を超えると粘度が高くなりすぎるという不具合が生じやすい。好ましくは、作業性と性能のバランスから10〜40質量%が好ましい。
【0031】
ここで、本発明における「メジアン径」および「5%スラリーのpH値」について説明する。
本発明における「メジアン径」は、粉体約0.001gと蒸留水15mlとを石英ガラス製容器に入れ、これを超音波振動装置にかけて2分間分散させた後、直ちにレーザー回折式粒度分布測定装置(例えば堀場製作所製LA−500)を用いて測定して得られた値である。
また、本発明における「5%スラリーのpH値」は、粉体0.25gと蒸留水5mlとをプラスチック製容器に入れて密閉し、これを超音波振動装置にかけて3分間分散させた後、遠心分離器で固液を分離させてその上澄みのpHをpHメーター(例えば堀場製作所製F−51S)を用いて測定して得られた値である。
【0032】
[ヒドラジド化合物を含有するB液について]
本発明のB液は、プライマー組成物であり、(b1)ヒドラジド化合物の1〜15質量%濃度水溶液が使用できる。(b1)ヒドラジド化合物を含有するB液に関しては、ヒドラジド化合物の溶解度が使用濃度の限界になる。すなわち、それぞれのヒドラジド化合物の水への溶解度があり溶解度以上の濃度であると、その安定性が悪くなりヒドラジド化合物が析出、沈降することになるため、適宜選択すればよい。通常は1〜15質量%程度である。また、1質量%未満では塗布した時に有効な量のヒドラジド化合物が接着面に残らない。
(b1)ヒドラジド化合物の具体例としては、例えばカルボジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライ
ン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどのヒドラジド化合物等が挙げられる。なかでも、アジピン酸ジヒドラジド、カルボジヒドラジドがAA化PVAとの反応性の速さの観点から特に好ましい。
【0033】
[二液分別塗布型速硬化性水性接着剤について]
本発明における「二液分別塗布型速硬化性水性接着剤」は、二通りの使用方法が採用でき、このような使用方法で用いるのが好ましい。
予めプライマー組成物である本発明におけるB液を塗布しておいた被着材の上に本発明におけるA液を塗布し、他の被着材を接触、圧締することによって瞬時にゲル化することにより短時間で接着強さが発現するよう接着することができる。具体的には、(x1)被着材に対して、B液を塗布する工程、
(x2)当該被着材のB液塗布面に、さらにA液を重ねて塗布する工程、
(x3)工程x1及びx2によりB液及びA液が塗布された被着材塗布面に、他の被着材を接触、圧締することにより接着する工程、からなる接着方法が採用できる。
また、被着材の接着すべき両表面に各々異なる液、すなわち本発明におけるA液とB液を各々塗布しておき、これらの塗布面同士が接触することによって瞬時にゲル化し、さらにこれを圧締することによって、短時間で接着強さが発現するような水性接着剤をも指す。具体的には、(y1)被着材に対して、B液を塗布する工程、
(y2)他方の被着材に対して、A液を塗布する工程、
(y3)工程y1で得られたB液塗布面と、工程y2で得られたA液塗布面とを接触、圧締することにより接着する工程、からなる接着方法が採用できる。
【0034】
[その他の成分について]
A液にその安定性を付与するために水酸化ナトリウムなどの塩基性物質、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元性物質を添加することができる。さらに、粘度、粘性を改質するための増粘剤、粉体を安定に分散させるための分散剤、接着性を改善するための有機溶剤、界面活性剤等を添加することも出来る。また、着色剤、消泡剤、防腐剤、有機充填材を添加することも出来る。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0036】
各実施例と比較例の接着強さ試験の方法は以下のとおり行った。
【0037】
〔耐煮沸繰り返し接着試験〕
JIS K6806に準じ、以下のように圧縮せん断接着強さ試験を行った。
[標準の試験体の作成方法と試験方法]
被着材のカバ材にB液であるプライマー組成物を刷毛で塗布量40g/mで塗布し、室温で30〜60分間、乾燥する。
その同じ面にA液の接着剤を塗布量250g/mで塗布した後、他のカバ材を貼り合わせ、圧力約1MPaで24時間圧締する。その後7日間、標準状態で養生する。
[標準の試験方法]
上記で得られた試験体を養生後、試験片を煮沸水中に4時間浸漬した後、60℃の空気中で20時間乾燥し、更に煮沸水中に4時間浸漬してから、室温の水中に冷めるまで浸し、濡れたままの状態で、圧縮せん断接着強さ試験を行った。
JIS K6806第1種1号の合格条件は耐煮沸繰り返し接着強さが5.88N/mm以上である。
【0038】
〔短時間接着試験〕
[標準の試験体の作成方法と試験方法]
被着材のホワイトウッドにB液のプライマー組成物を刷毛で塗布量40g/mで塗布し、室温で30〜60分間、乾燥する。その同じ面にA剤を塗布量250g/mで塗布し、ラワン合板を貼り合わせ、1分間置き、その後、圧力約1MPaで1分間圧締する。直ちに割裂接着強さ試験を行った。
実用条件として、短時間接着試験における割裂接着強さが100N/40mm以上あれば作業上問題が少ないといえる。
【0039】
各実施例と比較例で用いた材料等は以下のとおりである。
〔水性樹脂エマルジョン〕
アクリルスチレンエマルジョン(樹脂分50.1質量%、pH3.0、粘度60mPa・s、ガラス転移温度5℃)
エチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョン(樹脂分55質量%、商品名:スミカフレックス480HQ/住友化学製)
〔AA化PVA〕
商品名:ゴーセファイマーZ210(日本合成化学工業社製/重合度約1100)
商品名:ゴーセファイマーZ320(日本合成化学工業社製/重合度約1700)
商品名:ゴーセファイマーZ410(日本合成化学工業社製/重合度約2400)
〔イソシアネート化合物〕
商品名:ルプラネートM5S(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート/BASF INOAC ポリウレタン社製)
商品名:デスモジュールI(イソホロンジイソシアネート/住化バイエルウレタン社製)
〔粉体〕
商品名:ASP−170(カオリンクレー/林化成社製/メジアン径6.8μm/pH 7.5)
商品名:ジョージアカオリン(カオリンクレー/山陽クレー工業社製/メジアン径0.8μm/pH 7.4)
商品名:アイスバーグ(カオリンクレー/バーゲス・ピグメント社製/メジアン径3.0μm/pH 7.0)
商品名:BIカオリン(カオリンクレー/山陽クレー工業社製/メジアン径4.0μm/pH 6.5)
商品名:HAカオリン(カオリンクレー/山陽クレー工業社製/メジアン径4.8μm/pH 7.2)
商品名:AAカオリン(カオリンクレー/山陽クレー工業社製/メジアン径6.9μm/pH 5.7)
商品名:STカオリンクレー(カオリンクレー/竹原化学工業社製/メジアン径4.2μm/pH 5.7)
商品名:TPクレー(カオリンクレー/山陽クレー工業社製/メジアン径6.5μm/pH 7.2)
商品名:ミクロエースK−1(タルク/日本タルク社製/メジアン径3.8μm/pH 9.3)
商品名:タルクSW(タルク/日本タルク社製/メジアン径4.7μm/pH 8.3)
商品名:スーパーS(炭酸カルシウム/丸尾カルシウム社製/メジアン径2.1μm/pH 8.5)
〔ヒドラジド化合物〕
アジピン酸ジヒドラジド
【0040】
〔実施例1〕
アクリルスチレンエマルジョンを34質量部、エチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョンを11.5質量部、ゴーセファイマーZ320の16.5質量%水溶液を54.5質量部、安定化剤として水酸化ナトリウム0.1質量部、亜硫酸水素ナトリウム0.2質量部を混合した水性樹脂エマルジョン(総量100.3質量部)に、ルプラネートM5Sを18質量部、ASP−170を18質量部混合してA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
【0041】
〔実施例2〕
実施例1における、ASP−170の18質量部を、ジョージアカオリン18質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔実施例3〕
実施例1における、ASP−170の18質量部を、アイスバーグ18質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔実施例4〕
実施例1における、ASP−170の18質量部を、BIカオリン18質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
【0042】
〔実施例5〕
実施例1における、ASP−170の18質量部を、HAカオリン18質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔実施例6〕
実施例1における、ASP−170の18質量部を、AAカオリン18質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔実施例7〕
実施例1における、ASP−170の18質量部を、STカオリン18質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔実施例8〕
実施例1における、ASP−170の18質量部を、TPクレー18質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔実施例9〕
実施例1における、ASP−170の18質量部を、AAカオリン18質量部に、ゴーセファイマーZ320の16.5質量%水溶液の54.5質量部をゴーセファイマーZ410の16.5質量%水溶液の54.5質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔実施例10〕
実施例1における、ASP−170の18質量部を、AAカオリン18質量部に、ルプラネートM5Sの18質量部をルプラネートM5Sの12質量部、デスモジュールIの6質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
【0043】
〔比較例1〕
アクリルスチレンエマルジョンを37.5質量部、エチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョンを12.5質量部、ゴーセファイマーZ320の20質量%水溶液を50質量部、安定化剤として水酸化ナトリウム0.1質量部、亜硫酸水素ナトリウム0.2質量部を混合した水性樹脂エマルジョン(総量100.3質量部)に、ルプラネートM5Sを18質量部混合してA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔比較例2〕
アクリルスチレンエマルジョンを34質量部、エチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョンを11.5質量部、ゴーセファイマーZ320の16.5質量%水溶液を54.5質量部、安定化剤として水酸化ナトリウム0.1質量部、亜硫酸水素ナトリウム0.2質量部を混合した水性樹脂エマルジョン(総量100.3質量部)に、ルプラネートM5Sを18質量部、ミクロエースK−1を18質量部混合してA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔比較例3〕
比較例2における、ミクロエースK−1の18質量部を、タルクSWを18質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔比較例4〕
比較例2における、ミクロエースK−1の18質量部を、スーパーSを9質量部に、ルプラネートM5Sの18質量部をルプラネートM5Sの16.5質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔比較例5〕
実施例6における、ゴーセファイマーZ320の16.5%水溶液の54.5質量部をゴーセファイマーZ210の16.5質量%水溶液の54.5質量部に変更した以外は同様にしてA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
〔比較例6〕
アクリルスチレンエマルジョンを37.5質量部、エチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョンを12.5質量部、ゴーセファイマーZ320の20質量%水溶液を50質量部、安定化剤として水酸化ナトリウム0.1質量部、亜硫酸水素ナトリウム0.2質量部を混合した水性樹脂エマルジョン(総量100.3質量部)に、ルプラネートM5Sを15.5質量部、AAカオリンを3質量部混合してA液を得た。B液はアジピン酸ジヒドラジド6%水溶液である。
この構成で耐煮沸繰り返し耐水接着試験と短時間接着試験を行った。
【0044】
【表1】

【0045】
各実施例と比較例の結果を表1に示す。表から明らかなように、実施例の接着剤はいずれも実用上十分な短時間接着強さを有するとともにJIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着試験に適合するものであった。
これに対し、比較例の接着剤は短時間接着強さとJIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着試験の双方を満足するものは得られず、本発明に係る接着剤及び接着方法の明細書記載の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る二液分別塗布型速硬化性水性接着剤及び水性接着剤を用いた接着方法は、短時間接着が可能であると同時に、JIS K6806第1種1号の耐煮沸繰り返し接着性試験にも合格することから、従来は不可能とされてきた構造用部材製造用の速硬化性かつ高耐久性水性接着剤及び接着方法を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)水性樹脂エマルジョンと(a2)アセトアセチル化ポリビニルアルコールを含有する(a12)エマルジョン混合物100質量部に
(a3)イソシアネート化合物を5〜30質量部と、(a4)カオリンクレーを5〜50質量部を混合したA液と、
(b1)ヒドラジド化合物の1〜15質量%水溶液であるB液とからなる二液分別塗布型速硬化性水性接着剤であって、
当該(a12)エマルジョン混合物における(a2)アセトアセチル化ポリビニルアルコール樹脂分の混合比率が3〜30質量%であり、かつ、
当該A液における(a1)水性樹脂エマルジョンと(a2)アセトアセチル化ポリビニルアルコールの樹脂分の総和が15質量%以上65質量%未満であり、
JIS K6806の煮沸繰返し試験方法において、圧縮せん断接着強さが1種1号の合格基準である5.88N/mm以上であることを特徴とする二液分別塗布型速硬化性水性接着剤。
【請求項2】
(a4)カオリンクレーが、メジアン径が0.5〜10μmであり、かつ、5%スラリーのpH値が5〜8であることを特徴とする請求項1に記載の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤。
【請求項3】
(a2)アセトアセチル化ポリビニルアルコールの重合度が、1500〜2500であることを特徴とする請求項1又は2に記載の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤。
【請求項4】
(b1)ヒドラジド化合物が、アジピン酸ジヒドラジド又はカルボジヒドラジドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤。
【請求項5】
(x1)被着材に対して、B液を塗布する工程、
(x2)当該被着材のB液塗布面に、さらにA液を重ねて塗布する工程、
(x3)工程x1及びx2によりB液及びA液が塗布された被着材塗布面に、他の被着材を接触、圧締することにより接着する工程、
を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤を用いた接着方法。
【請求項6】
(y1)被着材に対して、B液を塗布する工程、
(y2)他方の被着材に対して、A液を塗布する工程、
(y3)工程y1で得られたB液塗布面と、工程y2で得られたA液塗布面とを接触、圧締することにより接着する工程、
を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の二液分別塗布型速硬化性水性接着剤を用いた接着方法。


【公開番号】特開2011−178852(P2011−178852A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43078(P2010−43078)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】