二相ステンレス鋼部材とその製造方法およびその表面処理方法、固体高分子型燃料電池とそのセパレータ、導通部材並びにバイオデバイス
【課題】従来にない形態の表層をもつ二相ステンレス鋼部材を提供する。
【解決手段】本発明の二相ステンレス鋼部材は、CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相およびγ相で組織された二相ステンレス鋼基材からなる二相ステンレス鋼部材であって、微細かつ多数の特定方位へ突出した針状のロッドを有する表層と、該表層を支持する母層とからなることを特徴とする。この二相ステンレス鋼部材は、固体高分子型燃料電池用セパレータ、バイオデバイス等の種々の用途がある。
【解決手段】本発明の二相ステンレス鋼部材は、CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相およびγ相で組織された二相ステンレス鋼基材からなる二相ステンレス鋼部材であって、微細かつ多数の特定方位へ突出した針状のロッドを有する表層と、該表層を支持する母層とからなることを特徴とする。この二相ステンレス鋼部材は、固体高分子型燃料電池用セパレータ、バイオデバイス等の種々の用途がある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用セパレータ等の導通部材の他、細胞培養や遺伝子の機能解析等に利用され得るバイオデバイスなど多用途な二相ステンレス鋼部材およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、成分組成や金属組織の相違により主に、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼に区別される。その他、析出硬化系ステンレス鋼や、フェライト相(α相)とオーステナイト相(γ相)の混在した金属組織をもつ二相ステンレス鋼もある。
【0003】
これらのステンレス鋼は、いずれも表面に不働態被膜を形成して耐蝕性に優れ、金属であることから比較的加工性がよく、さらに導電性もあるため、あらゆる分野で利用されている。その一例として、最近では、固体高分子型燃料電池用セパレータにもステンレス鋼が用いられつつある。このステンレス鋼製セパレータは、従来のカーボン製セパレータに対して、コスト、加工性、耐衝撃性等のいずれの点でも優れる。もっとも、ステンレス鋼製セパレータは、前述の不働態被膜の存在ゆえに接触抵抗が高くなり易く、燃料電池の効率低下の要因ともなり得る。そこで、ステンレス鋼の耐蝕性を生かしつつ、その接触抵抗を低下させたセパレータ等が種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2002/23654号公報
【特許文献2】特開2001−32056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、塩化第二鉄水溶液中のステンレス鋼に交番電解エッチングを施して、その表面に多数の微細なピットを形成すると共にそのピットの周縁に微細突起を林立させた燃料電池用セパレータを提案している。もっともこの特許文献1のセパレータは、ステンレス鋼板の表面を粗面化して、電極とセパレータとの間の接触抵抗を低下させることを開示しているに留まる。ちなみに、特許文献1中の表1にはFe−Ni−Cr合金系のオーステナイト系ステンレス鋼の記載もあるが、後述する本発明に関係するような(α+γ)二相に関する記載や上記の微細突起の方向制御に関する記載等は一切ない。
【0006】
特許文献2では、ステンレス鋼の表面に導電性を有する炭化物や硼化物の金属介在物を、不働態被膜を突き破るようにして分散・露出させ、表面粗度を所定の範囲にして接触抵抗を低下させた燃料電池用セパレータを提案している。もっとも、このようなセパレータは、金属介在物の脱落等を生じ易く、接触抵抗ひいては燃料電池の出力が安定しないおそれがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、種々の用途に利用可能な、表面性状を緻密に制御した二相ステンレス鋼部材およびその製造方法や表面処理方法、さらにはその二相ステンレス鋼部材を用いた具体的な部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼を用いて、その表面にγ相を制御しつつ析出させ、他方のα相のみを選択的に除去して、微細かつ多数のγ相からなる針状ロッドを特定方位に突出させることに成功した。そしてこの成果を発展させることで、本発明者は以降に述べる種々の発明を完成させるに至った。
【0009】
〈二相ステンレス鋼部材〉
(1)本発明の二相ステンレス鋼部材は、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)からなる基本元素と鉄(Fe)並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相およびγ相で組織された二相ステンレス鋼基材からなる二相ステンレス鋼部材であって、
微細かつ多数の特定方位へ突出した針状のロッドを有する表層と、該表層を支持する母層と、からなることを特徴とする。
【0010】
(2)本発明の二相ステンレス鋼部材は表層とその表層を支持する母層とを有し、その表層には針状のロッドが微細かつ多数存在し、しかも、それらのロッドはある特定の方位に向いている。このため、本発明の二相ステンレス鋼部材は耐腐蝕性に優れることは勿論、従来のステンレス鋼部材では達成困難であった様々な作用、効果を発現する。
【0011】
例えば、本発明の二相ステンレス鋼部材をセパレータ等の導通部材に使用した場合であれば、表層の針状のロッドが導体に確実に接触するため、二相ステンレス鋼部材と導体との間の接触抵抗は低下すると共に安定する。この理由は、析出相が導電性を確保しつつも、母層が耐腐食性を保持するためと考えられる。
【0012】
また、細胞を担持する基板(バイオデバイスの一つ)として本発明の二相ステンレス鋼部材を使用した場合であれば、従来の平滑基板を用いた場合に比較して、細胞と基板との接着面積が極めて少ない。これは、細胞がロッド上に存在することで基板と点接触しているためである。このような点接点により、一般的に使用されているトリプシンなどの毒薬を使用することなく、容易に細胞を基板から剥離することが可能となるという利点がある。
【0013】
いずれにしても本発明の二相ステンレス鋼部材は、従来の部材とは少なくとも表層の形態が全く異なっている。このため、上記の用途以外にも種々の用途へ利用可能であって、従来の部材では得られなかった顕著な優れた効果が期待される。
【0014】
〈二相ステンレス鋼部材の製造方法〉
本発明の二相ステンレス鋼部材は、上記のような形態を備える物である限り、その製造方法または表面処理方法等は問わない。
【0015】
(1)もっとも、本発明の二相ステンレス鋼部材の表層は、ミクロンオーダさらにはナノオーダレベルの微細で、多数のロッドが一定の方位を向いているマイクロ剣山の様相を呈している。このような特殊な表層を従来の切削、研磨、型成形等で加工または製作することは実質的に不可能か非常に困難である。そこで上記の二相ステンレス鋼部材は、例えば、本発明に含まれる次のような製造方法により製造されると好ましい。
【0016】
すなわち本発明の二相ステンレス鋼部材の製造方法は、CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成されたステンレス鋼素材を、α単相となる第1変態点以上の温度に加熱した後に急冷する溶体化熱処理工程と、
該溶体化熱処理工程後の前記ステンレス鋼素材を、前記第1変態点未満でかつγ相の析出する第2変態点以上の温度に加熱保持した後に急冷してα相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼基材とする時効熱処理工程と、
該二相ステンレス鋼基材の少なくとも表面に形成されたα相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程と、を備え、
本発明の二相ステンレス鋼部材を得ることを特徴とする。
【0017】
本発明の製造方法では、先ず、溶体化熱処理工程により、試料内部組織を均質なα相にし、その後の時効熱処理工程でγ相を析出させる。この際、金属の相変態による自己組織化現象を巧く利用することで、少なくとも表層部分で、特定方位に向いたγ相を析出させ得る。この状態の二相ステンレス鋼基材に対して選択的エッチング工程を施し、例えば、α相をエッチングして除去すれば、γ相からなる微細かつ多数の針状のロッドが表層部分に形成されることになる。このように本発明の製造方法によれば、本発明の二相ステンレス鋼部材を容易にかつ確実に得ることができる。
【0018】
(2)ところで、本発明の二相ステンレス鋼部材の表層の形態は、前述した選択的エッチング工程前のγ相の析出形態に大きく影響を受ける。そこで、金属の相変態による自己組織化現象をより積極的に活用しまたは制御して、少なくとも表層中におけるγ相の析出形態を所望の形態にするのが好ましい。この点本発明者は、試行錯誤を繰り返し鋭意研究したところ、時効熱処理工程前のステンレス鋼素材の表面にNiメッキを施すことで、所望する微細な針状のロッドが表層部分に多数形成されることを新たに見出した。
【0019】
すなわち、本発明の二相ステンレス鋼部材の製造方法は、前述した各工程に加えて、さらに、前記時効熱処理工程前のステンレス鋼素材の表面にニッケル(Ni)メッキ層を形成するNiメッキ工程と、前記時効熱処理工程後でかつ前記選択的エッチング工程前に該二相ステンレス鋼基材上のNiメッキ層を除去するメッキ除去工程とを備えると、好ましい。
【0020】
(3)さらに、本発明者は、Niを含まないステンレス鋼素材であっても、本発明の二相ステンレス鋼部材が製造可能であることを見出した。すなわち、本発明の二相ステンレス鋼部材の製造方法は、
Crからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成されたステンレス鋼素材の表面にニッケル(Ni)を含むNi層を形成するNi層形成工程と、
前記Ni層が形成された前記ステンレス鋼素材を加熱して該Ni層のNiを該ステンレス鋼素材に拡散させる加熱拡散処理工程と、
前記加熱拡散処理工程後の前記ステンレス鋼素材を、前記第1変態点未満でかつγ相の析出する第2変態点以上の温度に加熱保持した後に急冷してα相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼基材とする時効熱処理工程と、
前記二相ステンレス鋼基材上のNi層を除去するNi層除去工程と、
前記二相ステンレス鋼基材の少なくとも表面に形成されたα相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程と、を備え、
本発明の二相ステンレス鋼部材を得ることを特徴とする。
【0021】
Niを含まないステンレス鋼素材は、α単相であり、二相領域をもたない。そこで、本発明の製造方法では、Niを含まないステンレス鋼素材の表面にNi層を形成し、Ni層からステンレス鋼素材にNiを拡散させる。そのため、Ni層が形成された素材の表層部分を(α+γ)二相領域とすることが可能となる。
【0022】
〈二相ステンレス鋼部材の表面処理方法〉
さらに本発明は、上述の二相ステンレス鋼部材の製造方法としてのみならず、既存の二相ステンレス鋼部材に対する表面処理方法としても把握される。
【0023】
すなわち、本発明は、CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼部材の表面から該α相または該γ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程により、微細かつ多数の特定方位へ突出した針状のロッドを有する表層を該二相ステンレス鋼部材の表面に形成することを特徴とする二相ステンレス鋼部材の表面処理方法であってもよい。
【0024】
〈導通部材〉
本発明の二相ステンレス鋼部材は、例えば導通部材に好適であるから本発明は次のようにも把握される。
【0025】
すなわち本発明は、電気的に通電可能な導体に接触して通電経路を構成する導通部材であって、本発明の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とする導通部材としてもよい。
【0026】
〈固体高分子型燃料電池およびそのセパレータ〉
また、上記した本発明の導通部材の好適な一形態として、固体高分子型燃料電池用セパレータがある。そこで本発明は次のようにも把握される。
【0027】
(1)すなわち本発明は、中央に設けられた固体高分子電解質膜と該固体高分子電解質膜の一方側に接して設けられた燃料電極と該固体高分子電解質膜の他方側に接して設けられた酸化電極と該燃料電極および該酸化電極の外側に設けられたセパレータとからなる単位電池を積層してなり、該セパレータと該燃料電極との間に燃料ガスを供給すると共に該セパレータと該酸化電極との間に酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池において、本発明の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータでもよい。
【0028】
(2)さらに本発明は、そのセパレータを用いた固体高分子型燃料電池であってもよい。
【0029】
〈バイオデバイス〉
さらに本発明の二相ステンレス鋼部材は、従来にない特殊な形態の表層を有すると共に、耐蝕性や通電性にも優れることから、例えば、細胞培養や細胞の遺伝子解析等に用いられるバイオデバイスとしても有望である。そこで本発明は、細胞を担持するバイオデバイスであって、本発明の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とするバイオデバイスであってもよい。
【0030】
〈二相ステンレス鋼部材の種々の形態〉
本発明をさらに発展させて考えると、本発明は前述したような針状のロッドを有する表層をもつ二相ステンレス鋼部材に限定して考える必要はない。要するに、本発明は、(α+γ)二相のうちのいずれか一相を選択的にエッチング等して除去された二相ステンレス鋼部材であれば足る。
【0031】
(1)このような本発明の二相ステンレス鋼部材の一形態として、例えば、二相ステンレス鋼チューブがある。すなわち、CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相およびγ相で組織された二相ステンレス鋼基材からなる二相ステンレス鋼チューブであって、前記二相ステンレス鋼基材は管状であり、外周面と内周面とを連通する微細な連通路の形成された管壁からなることを特徴とする二相ステンレス鋼チューブも本発明に含まれる。
【0032】
(2)このように形態の異なる二相ステンレス鋼部材であっても、前述した製造方法や表面処理方法を実質的に利用可能である。例えば、上記の二相ステンレス鋼チューブの場合であれば、前述した本発明の二相ステンレス鋼部材の製造方法や表面処理方法中の工程を利用しつつ、α相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼チューブの管壁の内周面および/または外周面から、α相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程により、該管壁の外周面と内周面とを連通する微細な連通路を形成することを特徴とする二相ステンレス鋼チューブの製造方法または表面処理方法により得られる。これらの二相ステンレス鋼チューブの製造方法または表面処理方法も本発明に含まれることはいうまでもない。
【0033】
〈付加的構成〉
本発明の二相ステンレス鋼部材またはその製造方法若しくは表面処理方法は、上述した構成に加えて、次に列挙する構成中から任意に選択した一つまたは二つ以上がさらに付加されるものであると好適である。なお、下記から選択された構成は、複数の発明に重畳的かつ任意的に付加可能であることを断っておく。
【0034】
また、便宜上、二相ステンレス鋼部材等とその製造方法や表面処理方法とを区別して記載するが、下記に示したいずれの構成も、カテゴリーを越えて相互に適宜組み合わせ可能である。例えば、ステンレス鋼の組成に関する構成であれば、二相ステンレス鋼部材自体にも、その製造方法や表面処理方法にも関連することはいうまでもない。また、一見、「方法」に関する構成のように見えても、プロダクトバイプロセスとして理解すれば、「物」に関する構成ともなり得る。
【0035】
(1)二相ステンレス鋼部材
(i)前記表層のロッドは、γ相からなる。
(ii)前記母層はα相を含み、α単相またはα相中にγ相の析出した(α+γ)二相からなる。
(iii)前記針状のロッドは、単位面積あたりの数であるロッド密度が10000〜40000本/mm2、より好ましくは20000〜30000本/mm2である。
(iv)前記針状のロッドは、平均ロッド長が10〜200μm、より好ましくは50〜100μmである。
(v)前記針状のロッドは、平均ロッド径が100〜10000nm、より好ましくは100〜5000nmである。
【0036】
(2)二相ステンレス鋼チューブ
(i)前記管壁は(α+γ)二相からなり、前記連通路はγ相が溶出して形成されたものである。
(ii)前記管壁は、理論密度に対する嵩密度の比によって求まる気孔率が10〜80%、より好ましくは20〜50%である。
(iii)前記管壁は、半径方向の壁厚が50〜1000μm、より好ましくは100〜200μmである。
(iv)前記連通路は、前記(α+γ)二相からなる管壁より、α相またはγ相が選択的に溶出されて形成されたものである。
【0037】
(3)製造方法または表面処理方法
(i)前記溶体化熱処理工程および/または時効熱処理工程は、アルゴン(Ar)ガス雰囲気で行う。
(ii)前記溶体化熱処理工程は、1000〜1400℃で1〜50分間加熱する工程である。加熱温度は1200〜1300℃であるとより好ましい。また、加熱時間は1〜20分間であるとより好ましい。
(iii)前記時効熱処理工程は、窒素(N2)ガス雰囲気で行う。
(iv)前記時効熱処理工程は、1100〜1400℃で1〜40分間加熱する工程である。加熱温度は1100〜1300℃であるとより好ましい。また、加熱時間は1〜15分間であるとより好ましい。
(v)前記選択的エッチング工程は、前記二相ステンレス鋼基材を酸性雰囲気で電解エッチングする工程である。
(vi)前記選択的エッチング工程は、硫酸溶液からなる電解液を用いて電解エッチングする工程である。
(vii)前記溶体化熱処理工程および/または前記時効熱処理工程でおこなう急冷は、冷却速度が300〜600℃/秒、より好ましくは400〜500℃/秒である。
(viii)前記溶体化熱処理工程および/または前記時効熱処理工程でおこなう急冷は、水冷である。
(ix)前記Ni層形成工程は、厚さ10〜1000μm、より好ましくは厚さ100〜200μmのNi層を形成する工程である。
(x)前記Ni層形成工程は、電解Niメッキ、無電解Niメッキまたは真空蒸着により行う。
(xi)前記Ni層除去工程は、リン酸溶液からなる電解液を用いて電解エッチングする工程である。
(xii)前記加熱拡散処理工程は、Arガス雰囲気またはN2ガス雰囲気で行う。
(xiii)前記加熱拡散処理工程は1100〜1400℃で1〜40分間加熱する工程である。加熱温度は1100〜1300℃であるとより好ましい。また、加熱時間は5〜240分間であるとより好ましい。
(xiv)前記加熱拡散処理工程でおこなう急冷は、冷却速度が300〜600℃/秒、より好ましくは400〜500℃/秒である。
【0038】
〈その他〉
(1)本明細書でいう「二相ステンレス鋼部材」または「ステンレス鋼素材」は、その形態を問わない。またステンレス鋼素材は、例えば、インゴット状、棒状、管状、板状等の素材であっても良いし、最終的な形状またはそれに近い構造部材自体であっても良い。
【0039】
(2)「改質元素」は、Fe、Ni、Cr以外であって、強度、靱性、金属組織等の二相ステンレス鋼の特性改善に有効な元素である。改善される特性の種類は問わない。改質元素の具体例は、C:0.01〜50質量%、Si:0.1〜9質量%、Mo:0.1〜4質量%、Nb:1〜10質量%、Mn:0.1〜10質量%、Ti:0.1〜1質量%、Cu:0.5〜4質量%等であり、各元素の組合せは任意である。これらの改質元素の含有量は例示した範囲には限られず、また、その含有量は通常微量である。但し、(α+γ)二相が確実に得られる範囲内となるように、シェフラーの組織図上のCr当量(Creq=%Cr+1.5%Si+%Mo+0.5%Nb)およびNi当量(Nieq=%Ni+0.5%Mn+30%C)を考慮して、基本元素(Cr、Ni)および改質元素の含有量が調整されるのがよい。
【0040】
「不可避不純物」は、原料中に含まれる不純物、製鋼時に混入等する不純物などがあり、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素である。本発明に係るステンレス鋼素材の場合であれば、例えば、P、S、C等がある。不可避不純物の含有量は0.05質量%以下さらには0.01質量%以下が好ましい。
【0041】
なお、本発明のステンレス鋼素材は基本元素が必須元素であって、不可避不純物は勿論のこと改質元素などの基本元素以外は任意元素である。従って、改質元素を含まないステンレス鋼素材または二相ステンレス鋼部材等も当然ながら本発明の範囲内にある。
【0042】
(3)特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限xおよび上限yを含む。また、本明細書に記載した数値は、上限または下限として記載した数値の他、実施例中に列記したような数値も含めて、任意に組み合わせられことにより、別の「a〜b」のような範囲を構成し得ることを断っておく。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例のFe−Cr−Ni系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材に施した熱処理の工程図である。
【図2】各実施例に係る選択的エッチングに用いた装置の模式図である。
【図3】実施例のFe−Cr−Ni系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の表層のSEM写真である。
【図4】熱処理およびNiメッキの相違による析出相への影響を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】熱処理およびNiメッキの相違による析出相への影響を示す電子後方散乱パターン(EBSP)写真である。
【図6】実施例のFe−Cr系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材に施した熱処理の工程図である。
【図7】実施例のFe−Cr系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の表層のSEM写真である。
【図8】実施例のFe−Cr系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の表層のSEM写真と、Niメッキのパターニングを示す説明図である。
【図9】実施例のFe−Cr系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の表層のSEM写真と、Niメッキのパターニングを示す説明図である。
【図10A】本実施例に係る固体高分子型燃料電池の1セルを示す断面図である。
【図10B】本実施例に係る固体高分子型燃料電池の1セルの分解斜視図である。
【図11】本実施例に係るセパレータとカーボン電極との接触状況を示す模式図である。
【図12A】本実施例に係る二相ステンレス鋼部材(バイオデバイス)に担持された細胞に電圧を印加する様子を示す図である。
【図12B】従来のガラス基板に担持された細胞に電圧を印加する様子を示す図である。
【図13】本実施例に係る二相ステンレス鋼チューブを示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。
【0045】
なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明の二相ステンレス鋼部材のみならず、二相ステンレス鋼チューブ、固体高分子型燃料電池およびそのセパレータ等、さらにはそれらの製造方法や表面処理方法にも適宜適用できるものであることを断っておく。また、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0046】
〈組成〉
本発明に係るステンレス鋼素材または二相ステンレス鋼基材は、(α+γ)二相となり得る組成をもち、基本元素であるCrおよびNiの組成が重要となる。
【0047】
先ず、ステンレス鋼素材や二相ステンレス鋼基材全体を100質量%としたときに、Crの下限は10質量%、12質量%、14質量%、18質量%さらには20質量%であると好ましい。Crの上限は45質量%、40質量%、35質量%、30質量%さらには25質量%であると好ましい。Crが過少ではγ相が生成しにくくなり好ましくない。Crが過多ではγ相が過多となり好ましくない。
【0048】
次に、ステンレス鋼素材としてNiを含むステンレス鋼を用いるのであれば、ステンレス鋼素材や二相ステンレス鋼基材全体を100質量%としたときに、Niの下限は0.5質量%、1質量%さらには3質量%であると好ましい。Niの上限は15質量%、12質量%さらには8質量%であると好ましい。Niが過少では、γ相が生成しにくくなり好ましくない。Niの含有量が多いとγ相が生成しやすく機械的特性も向上するが、Niが過多ではγ相が過多となり好ましくない。
【0049】
また、ステンレス鋼素材としてNiを含まないステンレス鋼を用いるのであれば、Niは、針状のロッドが形成される二相ステンレス鋼基材の表層部分の限られた領域に少なくとも含まれればよい。この表層部分の限られた領域におけるNi含有量が、上記の範囲にあればよい。表層部分を規定するのは困難であるが、敢えて規定するのであれば、表面からの厚さが1〜1000μmの範囲である。なお、本明細書で「Niを含まないステンレス鋼」とは、実質的にNiを含まないと見なされるα単相のステンレス鋼であって、ステンレス鋼素材全体を100質量%としたときに、Ni含有量が0%であるものはもちろん、残部元素としてNiを0.5質量%未満含有するものも含む。
【0050】
〈部材〉
(1)二相ステンレス鋼部材
本発明の二相ステンレス鋼部材は、特徴的な表層と、それを支持する母層とからなる。表層に形成される針状のロッドは、例えば、金属の相変態による自己組織化現象により形成されたγ相からなる。このため、ミクロ的に詳しく観ればその形態が完全に均一とはなり難い。もっとも、ある程度全体的に観れば、各ロッドの形態は均等である。ただ、そのロッドの形態自体を明確に特定しまたは表現することは困難である。
【0051】
そこで、間接的ではあるが、針状のロッドの形態は、例えば、単位面積あたりの数であるロッド密度を用いて規定され得る。このロッド密度は、10000〜40000本/mm2さらには20000〜30000本/mm2であると好ましい。このロッド密度が過小では平滑基板に近くなり好ましくない。このロッド密度が過大ではエッチング液が試料内部まで浸透し難くなるので好ましくない。ちなみに、このロッド密度は、電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0052】
また、針状のロッドの形態は平均ロッド長を用いて規定され得る。この平均ロッド長が50〜200μmさらには50〜100μmであると好ましい。
【0053】
この平均ロッド長が過小では表面積が少なくなってしまうので好ましくない。この平均ロッド長が過大では析出相の制御が困難となり好ましくない。ちなみに、この平均ロッド長は、電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0054】
さらに、針状のロッドの形態は、平均ロッド径を用いて規定され得る。この平均ロッド径が100〜10000nmさらには100〜5000nmであると好ましい。
【0055】
この平均ロッド径が過小ではエッチング時に消滅するので好ましくない。この平均ロッド径が過大ではロッド状とはいえず好ましくない。ちなみに、この平均ロッド径は、電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0056】
また、二相ステンレス鋼部材は、複数のロッドを有する部位(ロッド突出部)と、ロッドを有さない部位(平滑部)と、を併せもつ表層を備えてもよい。ロッド突出部では母層の表面がロッドに覆われるが、平滑部では母層の表面が露出する。たとえば、二相ステンレス鋼部材のある面において、ロッド部と平滑部とが規則的に配置されていてもよい。
【0057】
(2)二相ステンレス鋼チューブ
前述したように二相ステンレス鋼チューブは、本発明の二相ステンレス鋼基材の一変形形態である。この二相ステンレス鋼チューブは、外周面と内周面とを連通する微細な連通路の形成された管壁から構成される。この二相ステンレス鋼チューブは、例えば、微細なメッシュサイズが要求される管状フィルターなどに利用できる。より具体的には、血液を採取する際に、血球をトラップして血清のみを採取するフィルター機能付き医療用針等に利用可能である。
【0058】
この二相ステンレス鋼チューブの場合も、前述した二相ステンレス鋼部材の場合と同様に、連通路の形態を直接的に規定することは困難である。そこで、例えば、次のような方法で二相ステンレス鋼チューブを間接的に特定することが可能である。二相ステンレス鋼チューブの管壁は、理論密度に対する嵩密度の比によって求まる気孔率が5〜80%、さらには気孔率が20〜60%であると好ましい。この気孔率は電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0059】
また、二相ステンレス鋼チューブの管壁は、半径方向の壁厚が100〜2000μmさらには200〜1000μmであると好ましい。この壁厚は電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0060】
なお、前記連通路は、前記(α+γ)二相からなる管壁からα相またはγ相が選択的に溶出されて形成される。通常はα相が溶出してγ相が残存することになる。もっとも、管壁が完全にどちらから一方の単相になる必要はない。逆にいえば、エッチングによる溶出の程度を調整することで、連通路のサイズを調整することが可能である。
【0061】
〈製造方法または表面処理方法〉
(1)溶体化熱処理工程および時効熱処理工程
これらの熱処理はいずれも、他の気体の影響を避けるため、およびγ相の形態制御のため、特定の雰囲気下で行うのが好ましい。例えば、Arガス雰囲気、N2ガス雰囲気などである。溶体化熱処理工程と時効熱処理工程で熱処理を行う雰囲気を統一すると、設備費等の製造コスト削減となる。もっとも、溶体化熱処理工程はArガス雰囲気で行う一方、時効熱処理工程はN2ガス雰囲気で行うのもよい。これは熱処理雰囲気を変えることで、γ相の形態を制御できるからである。例えば、Ar雰囲気ではγ相は微細なロッド状となる。一方、窒素雰囲気では析出相サイズが大きくなり、γ相の機械的強度の大きい析出相を生成できる。
【0062】
(1−1)溶体化熱処理工程
溶体化熱処理工程の加熱温度は、α+γ相からα相への変態温度+50℃以上、融点−50℃以下が好ましい。加熱温度が過小ではCrやNiなどがFe中に均一に固溶しない。加熱温度が過大では、ステンレス鋼素材等の形状や寸法が変化し易くなり、エネルギー効率も悪い。溶体化熱処理工程の加熱時間は、10〜6000分間さらには30〜1200分間が好ましい。加熱時間が過少ではCrやNiなどがFe中に均一に固溶しない。加熱時間が過多ではエネルギー効率が悪い。なお、Niを含まないステンレス鋼素材のように素材がα単相からなる場合には、溶体化熱処理工程を必ずしも行わなくともよい。ステンレス鋼素材にNiが含まれない場合に溶体化熱処理工程を行うのであれば、その加熱温度は1100〜1400℃さらには1100〜1300℃が好ましい。
【0063】
(1−2)時効熱処理工程
時効熱処理工程の加熱温度は、500〜1000℃さらには600〜900℃が好ましい。加熱温度が過小でも過大でも、所望するγ相の析出が得られない。時効熱処理工程の加熱時間は、1〜100分間さらには5〜20分間が好ましい。加熱時間が過少では、少なくとも表層部分に所望の形態をしたγ相を充分に析出させることができない。加熱時間が過多ではエネルギー効率が悪く、析出相が成長して微細な針状のロッド状の表層が得難い。
【0064】
(1−3)ステンレス鋼の組成と熱処理条件
もっとも、最適な加熱温度や加熱時間は、ベースとなるステンレス鋼の組成によっても異なる。例えば、素材がFe−25Cr−6Ni(単位:質量%)の場合であれば、α単相となる第1変態点が1473K(1200℃)で、γ相の析出する第2変態点が527K(800℃)である。このため、溶体化熱処理工程の加熱温度は1200〜1300℃、時効熱処理工程の加熱温度は900〜1100℃が好ましい。素材がFe−25Cr(単位:質量%)の場合であれば、溶体化熱処理工程を行うのであれば、1100〜1300℃が好ましい。また、時効熱処理工程の加熱温度は850〜1100℃が好ましい。
【0065】
(2)Ni層形成工程
Ni層形成工程は、時効熱処理工程前のステンレス鋼素材の表面にNi層を形成する工程である。Ni層は、γ相を所望する態様で析出させる際の下地処理的に作用する。従って、Ni層形成工程は時効熱処理工程前に行うのが良い。もっとも、時効熱処理工程前であれば、溶体化熱処理工程後である必要はなく、溶体化熱処理工程前にNiメッキ工程を施しておくこともできる。
【0066】
ちなみに、Ni層がγ相の析出態様に影響する理由は次のように考えられる。γ相はNi原子を取り込んで成長していく。したがって、Ni原子を表層に存在させることで意図的にNiリッチ層の形成が可能となり、Niメッキされた領域でγ相を重点的に生成させることが可能になったと考えられる。
【0067】
Ni層が形成される限り、メッキでも真空蒸着でもいずれの方法であってもよい。メッキであれば、電解メッキでも無電解メッキでもよい。もっとも、均一に成膜が可能な点で電解メッキが優れる。また、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法などにより成膜してもよい。このとき、Ni層の厚さは10〜1000μmさらには100〜200μmであると好ましい。Ni層の厚さが過小だとNi原子の拡散量が少なくなり、厚さが過大だとγ相が過多となり好ましくない。
【0068】
(3)加熱拡散処理工程
Niを含まないステンレス鋼素材を用いる際には、γ相の析出に要するNi原子を、Ni層からステンレス鋼素材に拡散させる必要がある。そのため、Ni層形成工程と時効熱処理工程との間に、加熱拡散処理工程を行う。ステンレス鋼素材にNiが含まれない場合は、Ni層形成工程および加熱拡散処理工程は必須の工程となる。
【0069】
また、加熱拡散処理工程では、主としてNi層が形成された表面の表層部にのみNiが拡散する。そのため、二相ステンレス鋼部材のγ相の析出位置を制御することが可能となる。すなわち、ステンレス鋼素材のうち、針状のロッドを突出させたい部位にのみNi層を選択的に形成すればよい。これにより、複数のロッドを有する部位と、ロッドを有さない部位と、を併せもつ表層を備える二相ステンレス鋼部材が、容易に得られる。
【0070】
加熱拡散処理工程の加熱温度は、1100〜1400℃さらには1100〜1300℃が好ましい。加熱温度が過小では、Ni原子が十分に拡散させることができず、その結果、時効熱処理工程にてγ相を十分に析出させることができない。また、加熱温度が過大では、酸化が進行しやすくなるため望ましくない。加熱拡散処理工程の加熱時間は、1〜300分間さらには5〜240分間が好ましい。加熱時間が過少では、表層部分にNiを十分に拡散させることができず、その結果、時効熱処理工程にてγ相を十分に析出させることができない。加熱時間が過多ではエネルギー効率が悪く、析出相が成長して微細な針状のロッド状の表層が得難い。
【0071】
また、加熱拡散処理工程は、他の気体の影響が少ない特定の雰囲気下で行うのが好ましい。例えば、Arガス雰囲気、N2ガス雰囲気などである。前述の溶体化熱処理工程および/または時効熱処理工程と熱処理を行う雰囲気を統一すると、設備費等の製造コスト削減となる。
【0072】
(4)Ni層除去工程
Ni層除去工程は、時効熱処理工程後でかつ後述する選択的エッチング工程前に二相ステンレス鋼基材上のNi層を除去する工程である。Ni層形成工程を行わない場合はNi層除去工程も不要であることは当然であるが、Ni層を形成した場合、このNi層除去工程を行わないと、選択的エッチング工程を緻密にかつ効率的に行うことが難しい。
【0073】
Ni層除去工程は、精密研磨により行うこともできるが、表層となる二相ステンレス鋼基材の表面も同時に研磨してしまうおそれが高い。そこで、Ni層除去工程も、エッチングによりなされると好ましい。この場合のエッチング工程は、通常、電解液の組成、濃度や時間等のエッチング条件が選択的エッチング工程と異なる。例えば、Ni層除去工程のエッチングは、リン酸溶液からなる電解液を用いて電解エッチングする工程であると好ましい。
【0074】
(5)選択的エッチング工程
選択的エッチング工程は、二相ステンレス鋼基材の少なくとも表面に形成されたα相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する工程である。通常、α相をエッチング除去する場合とγ相をエッチング除去する場合とでエッチング条件は異なる。もっともいずれの場合でも、二相ステンレス鋼基材は酸性雰囲気で電解エッチングされることが多い。そして、α相をエッチング除去する場合であれば、二相ステンレス鋼基材を硫酸溶液からなる電解液を用いて電解エッチングすると好ましい。電解液の組成、濃度や時間等のエッチング条件は、二相ステンレス鋼基材の組成、γ相の析出態様、所望する二相ステンレス鋼部材の表層などによって適宜選択される。
【0075】
〈用途〉
本発明の二相ステンレス鋼部材は、前述したような固体高分子型燃料電池用セパレータ、通電部材、バイオデバイスなどの他、熱交換器にも利用され得る。
【実施例】
【0076】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0077】
《二相ステンレス鋼部材の製造》
《1.Fe−Cr−Ni系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の製造》
Fe−25%Cr−6%Ni(単位は質量%、以下同様)の組成をもつサイズ20mm×20mm×1mmステンレス鋼素材に次に示す各処理を施して、特定方位へ指向した直径100〜1000nmの柱(針状のロッド)が表面に多数形成されたナノ・ニードル基板(二相ステンレス鋼部材)を製作した。参考までに、図1に熱処理の工程図を、図2に電解エッチングの模式図を示した。
【0078】
(1)溶体化熱処理工程
上記のステンレス鋼素材(供試材)を1300℃のAr雰囲気中で20分間加熱した後、水冷して溶体化熱処理を施した。
【0079】
(2)Niメッキ工程
このステンレス鋼素材の表面にNiメッキを施した。このNiメッキはステンレス鋼素材をスルファミン酸ニッケル浴に浸漬し、0.1A/mm2×20分間の通電を行って、厚さ100μmのNiメッキ層を形成した。
【0080】
(3)時効熱処理工程
Niメッキ層の形成されたステンレス鋼素材をさらに900℃のAr雰囲気中で10分間加熱した後、水冷して時効熱処理を施した。これにより、γ相が析出した二相ステンレス鋼基材が得られた。時効熱処理前に予めNiメッキを施しておくことで、析出相(γ相)の生成方向の制御が容易となる。
【0081】
(4)メッキ除去工程
二相ステンレス鋼基材の表面にあるNiメッキ層をエッチングにより電解研磨した。エッチング条件は次の通りである。先ず、電解液として、濃リン酸とエレクトログロー(上村工業製)とを3:1の体積割合で混合したものを用意した。この電解液を200mlのSUS316(JIS)製ビーカに入れ、そのビーカの温度(浴温)を60℃に保持した。供試材である二相ステンレス鋼基材を陽極とし、対極(陰極)には電解液を入れた前記ビーカをそのまま使用した。電解条件は、供試材の表面積を8.8cm2と見積って、5Aの定電流を30分間流した。
【0082】
この後の供試材の重量を測定して求めたところ、表面から約120μm程度が研磨されたことが解った。
【0083】
(5)選択的エッチング工程
Niメッキ層を除去した二相ステンレス鋼基材の表面からさらに、主にα相のみをエッチングにより除去した。
【0084】
エッチング条件は次の通りである。先ず、電解液として、47%(単位:体積%、以下同様)の濃硫酸を水で5倍に希釈し、約10%の硫酸を用意した。この電解液を200mlのSUS316(JIS)製ビーカに入れ、そのビーカの温度(浴温)を60℃に保持した。供試材である二相ステンレス鋼基材を陽極とし、対極(陰極)には電解液を入れた前記ビーカをそのまま使用した。電解条件は、1Aの定電流とした。電解時間は5分間とした。こうして、本発明に係る実施例であるナノ・ニードル基板を得た。
【0085】
〈二相ステンレス鋼部材の評価〉
上記のナノ・ニードル基板を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図3に示す。図3に示した表面写真は、1500倍したものである。
【0086】
図3より明らかなように、特定の方向に指向した微細で多数の針状ロッドが形成されることが解った。
【0087】
〈熱処理の影響〉
(1)前述したステンレス鋼素材(Fe−25%Cr−6%Ni)を用いて、熱処理の異なる次の3つの供試材を製作した。
【0088】
供試材1:Ar雰囲気中で、溶体化熱処理工程(1300℃×20分間)および時効熱処理工程(900℃×10分間)を施した。
【0089】
供試材2:Ar雰囲気中での溶体化熱処理工程(1300℃×20分間)と、N2雰囲気中での時効熱処理工程(900℃×10分間)とを施した。
【0090】
供試材3:前述したNiメッキ工程を施した後で、供試体1と同様な溶体化熱処理工程および時効熱処理工程を施した。
【0091】
(2)上記の供試材1〜3について、SEM観察を行った結果を図4に、EBSP(Electron BackScattering Pattern)観察の結果得られた方位マップを図5に示した。
【0092】
これらの結果から、供試材1と供試材2を比較すると明らかなように、時効熱処理工程をAr雰囲気で行った場合よりもN2雰囲気で行った場合の方が、粒内析出量が多くなることが解った。また、供試材3のように時効熱処理前に予めNiメッキを行った場合、母相である固溶体の特定の結晶面に沿って新たに形成された析出相(ウイドマンステッテン状析出相)が多く観られることが解った。
【0093】
《2.Fe−Cr系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の製造》
Fe−25%Cr(単位は質量%、以下同様)の組成をもつサイズ20mm×20mm×1mmステンレス鋼素材に次に示す各処理を施して、特定方位へ指向した直径100〜1000nmの柱(針状のロッド)が表面に多数形成されたナノ・ニードル基板(二相ステンレス鋼部材)を製作した。参考までに、図6に熱処理の工程図を、図2に電解エッチングの模式図を示した。
【0094】
(1)溶体化熱処理工程
上記のステンレス鋼素材(供試材)を1300℃のAr雰囲気中で20分間加熱した後、水冷して溶体化熱処理を施した。
【0095】
(2−1)Niメッキ工程
このステンレス鋼素材の表面にNiメッキを施した。このNiメッキはステンレス鋼素材をスルファミン酸ニッケル浴に浸漬し、0.1A/mm2×20分間の通電を行って、厚さ100μmのNiメッキ層を形成した。
【0096】
(2−2)加熱拡散処理工程
Niメッキ層の形成されたステンレス鋼素材を、1100℃のAr雰囲気中で180分間加熱した後、水冷して時効熱処理を施した。Niメッキが施されているため、Niを含まないステンレス鋼素材にNiが拡散する。
【0097】
(3)時効熱処理工程
Niメッキ層の形成されたステンレス鋼素材をさらに870℃のAr雰囲気中で10分間加熱した後、水冷して時効熱処理を施した。これにより、γ相が析出した二相ステンレス鋼基材が得られた。
【0098】
(4)メッキ除去工程
二相ステンレス鋼基材の表面にあるNiメッキ層をエッチングにより電解研磨した。エッチング条件は次の通りである。先ず、電解液として、濃リン酸とエレクトログロー(上村工業製)とを3:1の体積割合で混合したものを用意した。この電解液を200mlのSUS316(JIS)製ビーカに入れ、そのビーカの温度(浴温)を60℃に保持した。供試材である二相ステンレス鋼基材を陽極とし、対極(陰極)には電解液を入れた前記ビーカをそのまま使用した。電解条件は、供試材の表面積を8.8cm2と見積って、5Aの定電流を30分間流した。
【0099】
この後の供試材の重量を測定して求めたところ、表面から約120μm程度が研磨されたことが解った。
【0100】
(5)選択的エッチング工程
Niメッキ層を除去した二相ステンレス鋼基材の表面からさらに、主にα相のみをエッチングにより除去した。
【0101】
エッチング条件は次の通りである。先ず、電解液として、47%(単位:体積%、以下同様)の濃硫酸を水で5倍に希釈し、約10%の硫酸を用意した。この電解液を200mlのSUS316(JIS)製ビーカに入れ、そのビーカの温度(浴温)を60℃に保持した。供試材である二相ステンレス鋼基材を陽極とし、対極(陰極)には電解液を入れた前記ビーカをそのまま使用した。電解条件は、1Aの定電流とした。電解時間は5分間とした。こうして、本発明に係る実施例であるナノ・ニードル基板を得た。
【0102】
〈二相ステンレス鋼部材の評価〉
上記のナノ・ニードル基板を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図7に示す。図7より、Niを含まないステンレス鋼素材を用いても、特定の方向に指向した微細で多数の針状ロッドが形成されることが解った。
【0103】
《3.所定の位置に針状ロッドをもつ二相ステンレス鋼部材の製造》
(1)前述したステンレス鋼素材(Fe−25%Cr)を用い、上記と同様の各処理を施し、特定方位へ指向した直径100〜1000nmの針状のロッドが表面の所定の位置に多数形成されたナノ・ニードル基板(二相ステンレス鋼部材)を作製した。ただし、上記(2−1)のNiメッキ工程においては、レジストによりNiメッキをパターニングし、下記の異なるパターンを施すことで二種類のナノ・ニードル基板を得た。
【0104】
基板1:Niメッキ工程において、素材の表面に幅100μmのNiメッキを100μmの間隔で平行に2本形成した。
【0105】
基板2:Niメッキ工程において、素材の表面に50μm×50μmのNiメッキを50μmの等間隔で9個(3個×3個)形成した。
【0106】
(2)上記の基板1および基材2について、SEM観察を行った結果をそれぞれ図8および図9に示す。Niメッキを施した部位にのみ針状ロッドが形成されることがわかった。
【0107】
《固体高分子型燃料電池》
上述した二相ステンレス鋼部材をセパレータに応用した固体高分子型燃料電池を図10Aおよび図10Bに示した。
【0108】
固体高分子型燃料電池は、分子中にプロトン交換基をもつ固体高分子電解質膜がプロトン導電性電解質として機能することを利用したものである。具体的には図10A、図10Bに示すように、固体高分子型燃料電池Fは、固体高分子電解質膜1の両側にそれぞれ酸化電極2と燃料電極3が接合されている。さらに、それら電極の外側に、ガスケット4を介しセパレータ5が配置される。酸化電極2側のセパレータ5には空気供給口6と空気排出口7が設けられ、燃料電極3側のセパレータ5には水素供給口8と水素排出口9が設けられる。
【0109】
セパレータ5には、水素g及び空気oの導通及び均一分配のため、水素g及び空気oの流動方向に延びる複数の溝10が形成されている。また、給水口11から送り込んだ冷却水wはセパレータ5の内部を循環した後、排水口12から排出させる。このセパレータ5に内蔵された水冷機構により、発電時の発熱に依る固体高分子電解質膜等の過熱が抑制される。
【0110】
水素供給口8から燃料電極3とセパレータ5との間隙に送り込まれた水素gは、電子を放出したプロトンとなって固体高分子電解質膜1を透過し、酸化電極2とセパレータ5との間隙を通過する空気o中の酸素と反応してによって燃焼する。そして、酸化電極2と燃料電極3との間の負荷に電力が供給され得る。
【0111】
一般的に燃料電池は、1セル当りの発電量が極く僅かである。このため、一対のセパレータ5、5間を1単位としたセルを複数積層することで、所望の出力(電力量)が確保される。もっとも、多数のセルを積層した場合、セパレータ5と各電極2、3との間の接触抵抗が大きくなり、電力損失も大きくなって、固体高分子型燃料電池Fの発電効率が低下し易い。
【0112】
ここで本実施例の二相ステンレス鋼部材のように、酸化電極2および燃料電極3と接触するセパレータ5の表層を、前述した微細な多数の針状のロッドが突出した形態とすると、セパレータと電極との間の接触抵抗の低減が可能となる。これは図11に示すように、二相ステンレス鋼部材からなるセパレータ5の表面に形成された微細なロッドが酸化電極2および燃料電極3(カーボン電極)に突刺さるようにして接触または結合するために、両者の接触が確実に行われるようになったからと考えられる。しかも、そのセパレータ5の表層を支持する母層自体は、γ相が成長する際にCr元素をはき出すために高Crの不働態被膜が確実に形成され、電解液等に対する耐食性も確保される。
【0113】
従って、本実施例に係る二相ステンレス鋼部材を用いれば、加工性や耐衝撃性等に優れるステンレス鋼製でありつつも、耐食性と電気特性の両立を図った固体高分子型燃料電池用セパレータが容易に得られる。
【0114】
ちなみに、本実施例に係る二相ステンレス鋼部材と前述した本実施例の各工程を施さないステンレス鋼製の平滑板との間の接触抵抗を、カーボンシートをはさみこんで荷重0.1〜2MPaで負荷しながら10sec間隔の条件下で測定して比較した。この結果、本実施例に係る二相ステンレス鋼部材を用いた場合は、単なる平滑板を用いた場合よりも、接触抵抗が20%低減することが解った。
【0115】
《バイオデバイス》
従来の平滑なガラス基板に替えて、本実施例に係るナノ・ニードル基板上に細胞を付着させた場合、細胞はナノ・ニードル基板の先端に接着し、その下部には大きな空間が存在することになる。このため例えば、この空間に薬品を含浸させて、細胞の上部と下部を異なる環境とするが可能となる。
【0116】
また、遺伝子の機能解析を行う場合に必要となる遺伝子導入アレイとしても、ナノ・ニードル基板を活用できる。ナノ・ニードル基板を用いた場合、その表面に付着させた細胞は、その表層にある微細な針状ロッドが足場となって、細胞をほぼ点接触状態で担持するようになる。このため、ナノ・ニードル基板に電圧を印加すると、針状ロッドで支持されている細胞膜付近に電界を集中して付与することが可能となる。ここで例えば、エレクトロポレーション法を用いれば、細胞への遺伝子導入効率を向上させることが可能となる。この様子を図12Aおよび図12Bに示す。
【0117】
なお、エレクトロポレーション法とは、矩形電圧を印加することによって、細胞表面に可逆的な穿孔を形成し、細胞外からの拡散効果によって細胞内への物質導入を行う手法である。
【0118】
《二相ステンレス鋼チューブ》
Fe−25%Cr−6%Ni(単位は質量%、以下同様)の組成をもつサイズφ2mm×20mmの管状のステンレス鋼素材に、前述した溶体化熱処理工程(N2雰囲気、1300℃×20分間)と、時効熱処理工程(N2雰囲気、900℃×10分間)と、選択的エッチング工程(10%硫酸×5分間)を施して、微細な連通路をもつ二相ステンレス鋼チューブを製作した。この二相ステンレス鋼チューブのSEM写真を図13に示した。これから明らかなように、管壁がポーラス状となったマイクロチューブが完成した。
【符号の説明】
【0119】
1 固体高分子電解質膜
2 酸化電極
3 燃料電極
5 セパレータ
F 固体高分子型燃料電池
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用セパレータ等の導通部材の他、細胞培養や遺伝子の機能解析等に利用され得るバイオデバイスなど多用途な二相ステンレス鋼部材およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、成分組成や金属組織の相違により主に、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼に区別される。その他、析出硬化系ステンレス鋼や、フェライト相(α相)とオーステナイト相(γ相)の混在した金属組織をもつ二相ステンレス鋼もある。
【0003】
これらのステンレス鋼は、いずれも表面に不働態被膜を形成して耐蝕性に優れ、金属であることから比較的加工性がよく、さらに導電性もあるため、あらゆる分野で利用されている。その一例として、最近では、固体高分子型燃料電池用セパレータにもステンレス鋼が用いられつつある。このステンレス鋼製セパレータは、従来のカーボン製セパレータに対して、コスト、加工性、耐衝撃性等のいずれの点でも優れる。もっとも、ステンレス鋼製セパレータは、前述の不働態被膜の存在ゆえに接触抵抗が高くなり易く、燃料電池の効率低下の要因ともなり得る。そこで、ステンレス鋼の耐蝕性を生かしつつ、その接触抵抗を低下させたセパレータ等が種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2002/23654号公報
【特許文献2】特開2001−32056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、塩化第二鉄水溶液中のステンレス鋼に交番電解エッチングを施して、その表面に多数の微細なピットを形成すると共にそのピットの周縁に微細突起を林立させた燃料電池用セパレータを提案している。もっともこの特許文献1のセパレータは、ステンレス鋼板の表面を粗面化して、電極とセパレータとの間の接触抵抗を低下させることを開示しているに留まる。ちなみに、特許文献1中の表1にはFe−Ni−Cr合金系のオーステナイト系ステンレス鋼の記載もあるが、後述する本発明に関係するような(α+γ)二相に関する記載や上記の微細突起の方向制御に関する記載等は一切ない。
【0006】
特許文献2では、ステンレス鋼の表面に導電性を有する炭化物や硼化物の金属介在物を、不働態被膜を突き破るようにして分散・露出させ、表面粗度を所定の範囲にして接触抵抗を低下させた燃料電池用セパレータを提案している。もっとも、このようなセパレータは、金属介在物の脱落等を生じ易く、接触抵抗ひいては燃料電池の出力が安定しないおそれがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、種々の用途に利用可能な、表面性状を緻密に制御した二相ステンレス鋼部材およびその製造方法や表面処理方法、さらにはその二相ステンレス鋼部材を用いた具体的な部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼を用いて、その表面にγ相を制御しつつ析出させ、他方のα相のみを選択的に除去して、微細かつ多数のγ相からなる針状ロッドを特定方位に突出させることに成功した。そしてこの成果を発展させることで、本発明者は以降に述べる種々の発明を完成させるに至った。
【0009】
〈二相ステンレス鋼部材〉
(1)本発明の二相ステンレス鋼部材は、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)からなる基本元素と鉄(Fe)並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相およびγ相で組織された二相ステンレス鋼基材からなる二相ステンレス鋼部材であって、
微細かつ多数の特定方位へ突出した針状のロッドを有する表層と、該表層を支持する母層と、からなることを特徴とする。
【0010】
(2)本発明の二相ステンレス鋼部材は表層とその表層を支持する母層とを有し、その表層には針状のロッドが微細かつ多数存在し、しかも、それらのロッドはある特定の方位に向いている。このため、本発明の二相ステンレス鋼部材は耐腐蝕性に優れることは勿論、従来のステンレス鋼部材では達成困難であった様々な作用、効果を発現する。
【0011】
例えば、本発明の二相ステンレス鋼部材をセパレータ等の導通部材に使用した場合であれば、表層の針状のロッドが導体に確実に接触するため、二相ステンレス鋼部材と導体との間の接触抵抗は低下すると共に安定する。この理由は、析出相が導電性を確保しつつも、母層が耐腐食性を保持するためと考えられる。
【0012】
また、細胞を担持する基板(バイオデバイスの一つ)として本発明の二相ステンレス鋼部材を使用した場合であれば、従来の平滑基板を用いた場合に比較して、細胞と基板との接着面積が極めて少ない。これは、細胞がロッド上に存在することで基板と点接触しているためである。このような点接点により、一般的に使用されているトリプシンなどの毒薬を使用することなく、容易に細胞を基板から剥離することが可能となるという利点がある。
【0013】
いずれにしても本発明の二相ステンレス鋼部材は、従来の部材とは少なくとも表層の形態が全く異なっている。このため、上記の用途以外にも種々の用途へ利用可能であって、従来の部材では得られなかった顕著な優れた効果が期待される。
【0014】
〈二相ステンレス鋼部材の製造方法〉
本発明の二相ステンレス鋼部材は、上記のような形態を備える物である限り、その製造方法または表面処理方法等は問わない。
【0015】
(1)もっとも、本発明の二相ステンレス鋼部材の表層は、ミクロンオーダさらにはナノオーダレベルの微細で、多数のロッドが一定の方位を向いているマイクロ剣山の様相を呈している。このような特殊な表層を従来の切削、研磨、型成形等で加工または製作することは実質的に不可能か非常に困難である。そこで上記の二相ステンレス鋼部材は、例えば、本発明に含まれる次のような製造方法により製造されると好ましい。
【0016】
すなわち本発明の二相ステンレス鋼部材の製造方法は、CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成されたステンレス鋼素材を、α単相となる第1変態点以上の温度に加熱した後に急冷する溶体化熱処理工程と、
該溶体化熱処理工程後の前記ステンレス鋼素材を、前記第1変態点未満でかつγ相の析出する第2変態点以上の温度に加熱保持した後に急冷してα相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼基材とする時効熱処理工程と、
該二相ステンレス鋼基材の少なくとも表面に形成されたα相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程と、を備え、
本発明の二相ステンレス鋼部材を得ることを特徴とする。
【0017】
本発明の製造方法では、先ず、溶体化熱処理工程により、試料内部組織を均質なα相にし、その後の時効熱処理工程でγ相を析出させる。この際、金属の相変態による自己組織化現象を巧く利用することで、少なくとも表層部分で、特定方位に向いたγ相を析出させ得る。この状態の二相ステンレス鋼基材に対して選択的エッチング工程を施し、例えば、α相をエッチングして除去すれば、γ相からなる微細かつ多数の針状のロッドが表層部分に形成されることになる。このように本発明の製造方法によれば、本発明の二相ステンレス鋼部材を容易にかつ確実に得ることができる。
【0018】
(2)ところで、本発明の二相ステンレス鋼部材の表層の形態は、前述した選択的エッチング工程前のγ相の析出形態に大きく影響を受ける。そこで、金属の相変態による自己組織化現象をより積極的に活用しまたは制御して、少なくとも表層中におけるγ相の析出形態を所望の形態にするのが好ましい。この点本発明者は、試行錯誤を繰り返し鋭意研究したところ、時効熱処理工程前のステンレス鋼素材の表面にNiメッキを施すことで、所望する微細な針状のロッドが表層部分に多数形成されることを新たに見出した。
【0019】
すなわち、本発明の二相ステンレス鋼部材の製造方法は、前述した各工程に加えて、さらに、前記時効熱処理工程前のステンレス鋼素材の表面にニッケル(Ni)メッキ層を形成するNiメッキ工程と、前記時効熱処理工程後でかつ前記選択的エッチング工程前に該二相ステンレス鋼基材上のNiメッキ層を除去するメッキ除去工程とを備えると、好ましい。
【0020】
(3)さらに、本発明者は、Niを含まないステンレス鋼素材であっても、本発明の二相ステンレス鋼部材が製造可能であることを見出した。すなわち、本発明の二相ステンレス鋼部材の製造方法は、
Crからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成されたステンレス鋼素材の表面にニッケル(Ni)を含むNi層を形成するNi層形成工程と、
前記Ni層が形成された前記ステンレス鋼素材を加熱して該Ni層のNiを該ステンレス鋼素材に拡散させる加熱拡散処理工程と、
前記加熱拡散処理工程後の前記ステンレス鋼素材を、前記第1変態点未満でかつγ相の析出する第2変態点以上の温度に加熱保持した後に急冷してα相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼基材とする時効熱処理工程と、
前記二相ステンレス鋼基材上のNi層を除去するNi層除去工程と、
前記二相ステンレス鋼基材の少なくとも表面に形成されたα相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程と、を備え、
本発明の二相ステンレス鋼部材を得ることを特徴とする。
【0021】
Niを含まないステンレス鋼素材は、α単相であり、二相領域をもたない。そこで、本発明の製造方法では、Niを含まないステンレス鋼素材の表面にNi層を形成し、Ni層からステンレス鋼素材にNiを拡散させる。そのため、Ni層が形成された素材の表層部分を(α+γ)二相領域とすることが可能となる。
【0022】
〈二相ステンレス鋼部材の表面処理方法〉
さらに本発明は、上述の二相ステンレス鋼部材の製造方法としてのみならず、既存の二相ステンレス鋼部材に対する表面処理方法としても把握される。
【0023】
すなわち、本発明は、CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼部材の表面から該α相または該γ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程により、微細かつ多数の特定方位へ突出した針状のロッドを有する表層を該二相ステンレス鋼部材の表面に形成することを特徴とする二相ステンレス鋼部材の表面処理方法であってもよい。
【0024】
〈導通部材〉
本発明の二相ステンレス鋼部材は、例えば導通部材に好適であるから本発明は次のようにも把握される。
【0025】
すなわち本発明は、電気的に通電可能な導体に接触して通電経路を構成する導通部材であって、本発明の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とする導通部材としてもよい。
【0026】
〈固体高分子型燃料電池およびそのセパレータ〉
また、上記した本発明の導通部材の好適な一形態として、固体高分子型燃料電池用セパレータがある。そこで本発明は次のようにも把握される。
【0027】
(1)すなわち本発明は、中央に設けられた固体高分子電解質膜と該固体高分子電解質膜の一方側に接して設けられた燃料電極と該固体高分子電解質膜の他方側に接して設けられた酸化電極と該燃料電極および該酸化電極の外側に設けられたセパレータとからなる単位電池を積層してなり、該セパレータと該燃料電極との間に燃料ガスを供給すると共に該セパレータと該酸化電極との間に酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池において、本発明の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータでもよい。
【0028】
(2)さらに本発明は、そのセパレータを用いた固体高分子型燃料電池であってもよい。
【0029】
〈バイオデバイス〉
さらに本発明の二相ステンレス鋼部材は、従来にない特殊な形態の表層を有すると共に、耐蝕性や通電性にも優れることから、例えば、細胞培養や細胞の遺伝子解析等に用いられるバイオデバイスとしても有望である。そこで本発明は、細胞を担持するバイオデバイスであって、本発明の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とするバイオデバイスであってもよい。
【0030】
〈二相ステンレス鋼部材の種々の形態〉
本発明をさらに発展させて考えると、本発明は前述したような針状のロッドを有する表層をもつ二相ステンレス鋼部材に限定して考える必要はない。要するに、本発明は、(α+γ)二相のうちのいずれか一相を選択的にエッチング等して除去された二相ステンレス鋼部材であれば足る。
【0031】
(1)このような本発明の二相ステンレス鋼部材の一形態として、例えば、二相ステンレス鋼チューブがある。すなわち、CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相およびγ相で組織された二相ステンレス鋼基材からなる二相ステンレス鋼チューブであって、前記二相ステンレス鋼基材は管状であり、外周面と内周面とを連通する微細な連通路の形成された管壁からなることを特徴とする二相ステンレス鋼チューブも本発明に含まれる。
【0032】
(2)このように形態の異なる二相ステンレス鋼部材であっても、前述した製造方法や表面処理方法を実質的に利用可能である。例えば、上記の二相ステンレス鋼チューブの場合であれば、前述した本発明の二相ステンレス鋼部材の製造方法や表面処理方法中の工程を利用しつつ、α相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼チューブの管壁の内周面および/または外周面から、α相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程により、該管壁の外周面と内周面とを連通する微細な連通路を形成することを特徴とする二相ステンレス鋼チューブの製造方法または表面処理方法により得られる。これらの二相ステンレス鋼チューブの製造方法または表面処理方法も本発明に含まれることはいうまでもない。
【0033】
〈付加的構成〉
本発明の二相ステンレス鋼部材またはその製造方法若しくは表面処理方法は、上述した構成に加えて、次に列挙する構成中から任意に選択した一つまたは二つ以上がさらに付加されるものであると好適である。なお、下記から選択された構成は、複数の発明に重畳的かつ任意的に付加可能であることを断っておく。
【0034】
また、便宜上、二相ステンレス鋼部材等とその製造方法や表面処理方法とを区別して記載するが、下記に示したいずれの構成も、カテゴリーを越えて相互に適宜組み合わせ可能である。例えば、ステンレス鋼の組成に関する構成であれば、二相ステンレス鋼部材自体にも、その製造方法や表面処理方法にも関連することはいうまでもない。また、一見、「方法」に関する構成のように見えても、プロダクトバイプロセスとして理解すれば、「物」に関する構成ともなり得る。
【0035】
(1)二相ステンレス鋼部材
(i)前記表層のロッドは、γ相からなる。
(ii)前記母層はα相を含み、α単相またはα相中にγ相の析出した(α+γ)二相からなる。
(iii)前記針状のロッドは、単位面積あたりの数であるロッド密度が10000〜40000本/mm2、より好ましくは20000〜30000本/mm2である。
(iv)前記針状のロッドは、平均ロッド長が10〜200μm、より好ましくは50〜100μmである。
(v)前記針状のロッドは、平均ロッド径が100〜10000nm、より好ましくは100〜5000nmである。
【0036】
(2)二相ステンレス鋼チューブ
(i)前記管壁は(α+γ)二相からなり、前記連通路はγ相が溶出して形成されたものである。
(ii)前記管壁は、理論密度に対する嵩密度の比によって求まる気孔率が10〜80%、より好ましくは20〜50%である。
(iii)前記管壁は、半径方向の壁厚が50〜1000μm、より好ましくは100〜200μmである。
(iv)前記連通路は、前記(α+γ)二相からなる管壁より、α相またはγ相が選択的に溶出されて形成されたものである。
【0037】
(3)製造方法または表面処理方法
(i)前記溶体化熱処理工程および/または時効熱処理工程は、アルゴン(Ar)ガス雰囲気で行う。
(ii)前記溶体化熱処理工程は、1000〜1400℃で1〜50分間加熱する工程である。加熱温度は1200〜1300℃であるとより好ましい。また、加熱時間は1〜20分間であるとより好ましい。
(iii)前記時効熱処理工程は、窒素(N2)ガス雰囲気で行う。
(iv)前記時効熱処理工程は、1100〜1400℃で1〜40分間加熱する工程である。加熱温度は1100〜1300℃であるとより好ましい。また、加熱時間は1〜15分間であるとより好ましい。
(v)前記選択的エッチング工程は、前記二相ステンレス鋼基材を酸性雰囲気で電解エッチングする工程である。
(vi)前記選択的エッチング工程は、硫酸溶液からなる電解液を用いて電解エッチングする工程である。
(vii)前記溶体化熱処理工程および/または前記時効熱処理工程でおこなう急冷は、冷却速度が300〜600℃/秒、より好ましくは400〜500℃/秒である。
(viii)前記溶体化熱処理工程および/または前記時効熱処理工程でおこなう急冷は、水冷である。
(ix)前記Ni層形成工程は、厚さ10〜1000μm、より好ましくは厚さ100〜200μmのNi層を形成する工程である。
(x)前記Ni層形成工程は、電解Niメッキ、無電解Niメッキまたは真空蒸着により行う。
(xi)前記Ni層除去工程は、リン酸溶液からなる電解液を用いて電解エッチングする工程である。
(xii)前記加熱拡散処理工程は、Arガス雰囲気またはN2ガス雰囲気で行う。
(xiii)前記加熱拡散処理工程は1100〜1400℃で1〜40分間加熱する工程である。加熱温度は1100〜1300℃であるとより好ましい。また、加熱時間は5〜240分間であるとより好ましい。
(xiv)前記加熱拡散処理工程でおこなう急冷は、冷却速度が300〜600℃/秒、より好ましくは400〜500℃/秒である。
【0038】
〈その他〉
(1)本明細書でいう「二相ステンレス鋼部材」または「ステンレス鋼素材」は、その形態を問わない。またステンレス鋼素材は、例えば、インゴット状、棒状、管状、板状等の素材であっても良いし、最終的な形状またはそれに近い構造部材自体であっても良い。
【0039】
(2)「改質元素」は、Fe、Ni、Cr以外であって、強度、靱性、金属組織等の二相ステンレス鋼の特性改善に有効な元素である。改善される特性の種類は問わない。改質元素の具体例は、C:0.01〜50質量%、Si:0.1〜9質量%、Mo:0.1〜4質量%、Nb:1〜10質量%、Mn:0.1〜10質量%、Ti:0.1〜1質量%、Cu:0.5〜4質量%等であり、各元素の組合せは任意である。これらの改質元素の含有量は例示した範囲には限られず、また、その含有量は通常微量である。但し、(α+γ)二相が確実に得られる範囲内となるように、シェフラーの組織図上のCr当量(Creq=%Cr+1.5%Si+%Mo+0.5%Nb)およびNi当量(Nieq=%Ni+0.5%Mn+30%C)を考慮して、基本元素(Cr、Ni)および改質元素の含有量が調整されるのがよい。
【0040】
「不可避不純物」は、原料中に含まれる不純物、製鋼時に混入等する不純物などがあり、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素である。本発明に係るステンレス鋼素材の場合であれば、例えば、P、S、C等がある。不可避不純物の含有量は0.05質量%以下さらには0.01質量%以下が好ましい。
【0041】
なお、本発明のステンレス鋼素材は基本元素が必須元素であって、不可避不純物は勿論のこと改質元素などの基本元素以外は任意元素である。従って、改質元素を含まないステンレス鋼素材または二相ステンレス鋼部材等も当然ながら本発明の範囲内にある。
【0042】
(3)特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限xおよび上限yを含む。また、本明細書に記載した数値は、上限または下限として記載した数値の他、実施例中に列記したような数値も含めて、任意に組み合わせられことにより、別の「a〜b」のような範囲を構成し得ることを断っておく。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例のFe−Cr−Ni系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材に施した熱処理の工程図である。
【図2】各実施例に係る選択的エッチングに用いた装置の模式図である。
【図3】実施例のFe−Cr−Ni系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の表層のSEM写真である。
【図4】熱処理およびNiメッキの相違による析出相への影響を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】熱処理およびNiメッキの相違による析出相への影響を示す電子後方散乱パターン(EBSP)写真である。
【図6】実施例のFe−Cr系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材に施した熱処理の工程図である。
【図7】実施例のFe−Cr系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の表層のSEM写真である。
【図8】実施例のFe−Cr系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の表層のSEM写真と、Niメッキのパターニングを示す説明図である。
【図9】実施例のFe−Cr系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の表層のSEM写真と、Niメッキのパターニングを示す説明図である。
【図10A】本実施例に係る固体高分子型燃料電池の1セルを示す断面図である。
【図10B】本実施例に係る固体高分子型燃料電池の1セルの分解斜視図である。
【図11】本実施例に係るセパレータとカーボン電極との接触状況を示す模式図である。
【図12A】本実施例に係る二相ステンレス鋼部材(バイオデバイス)に担持された細胞に電圧を印加する様子を示す図である。
【図12B】従来のガラス基板に担持された細胞に電圧を印加する様子を示す図である。
【図13】本実施例に係る二相ステンレス鋼チューブを示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。
【0045】
なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明の二相ステンレス鋼部材のみならず、二相ステンレス鋼チューブ、固体高分子型燃料電池およびそのセパレータ等、さらにはそれらの製造方法や表面処理方法にも適宜適用できるものであることを断っておく。また、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0046】
〈組成〉
本発明に係るステンレス鋼素材または二相ステンレス鋼基材は、(α+γ)二相となり得る組成をもち、基本元素であるCrおよびNiの組成が重要となる。
【0047】
先ず、ステンレス鋼素材や二相ステンレス鋼基材全体を100質量%としたときに、Crの下限は10質量%、12質量%、14質量%、18質量%さらには20質量%であると好ましい。Crの上限は45質量%、40質量%、35質量%、30質量%さらには25質量%であると好ましい。Crが過少ではγ相が生成しにくくなり好ましくない。Crが過多ではγ相が過多となり好ましくない。
【0048】
次に、ステンレス鋼素材としてNiを含むステンレス鋼を用いるのであれば、ステンレス鋼素材や二相ステンレス鋼基材全体を100質量%としたときに、Niの下限は0.5質量%、1質量%さらには3質量%であると好ましい。Niの上限は15質量%、12質量%さらには8質量%であると好ましい。Niが過少では、γ相が生成しにくくなり好ましくない。Niの含有量が多いとγ相が生成しやすく機械的特性も向上するが、Niが過多ではγ相が過多となり好ましくない。
【0049】
また、ステンレス鋼素材としてNiを含まないステンレス鋼を用いるのであれば、Niは、針状のロッドが形成される二相ステンレス鋼基材の表層部分の限られた領域に少なくとも含まれればよい。この表層部分の限られた領域におけるNi含有量が、上記の範囲にあればよい。表層部分を規定するのは困難であるが、敢えて規定するのであれば、表面からの厚さが1〜1000μmの範囲である。なお、本明細書で「Niを含まないステンレス鋼」とは、実質的にNiを含まないと見なされるα単相のステンレス鋼であって、ステンレス鋼素材全体を100質量%としたときに、Ni含有量が0%であるものはもちろん、残部元素としてNiを0.5質量%未満含有するものも含む。
【0050】
〈部材〉
(1)二相ステンレス鋼部材
本発明の二相ステンレス鋼部材は、特徴的な表層と、それを支持する母層とからなる。表層に形成される針状のロッドは、例えば、金属の相変態による自己組織化現象により形成されたγ相からなる。このため、ミクロ的に詳しく観ればその形態が完全に均一とはなり難い。もっとも、ある程度全体的に観れば、各ロッドの形態は均等である。ただ、そのロッドの形態自体を明確に特定しまたは表現することは困難である。
【0051】
そこで、間接的ではあるが、針状のロッドの形態は、例えば、単位面積あたりの数であるロッド密度を用いて規定され得る。このロッド密度は、10000〜40000本/mm2さらには20000〜30000本/mm2であると好ましい。このロッド密度が過小では平滑基板に近くなり好ましくない。このロッド密度が過大ではエッチング液が試料内部まで浸透し難くなるので好ましくない。ちなみに、このロッド密度は、電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0052】
また、針状のロッドの形態は平均ロッド長を用いて規定され得る。この平均ロッド長が50〜200μmさらには50〜100μmであると好ましい。
【0053】
この平均ロッド長が過小では表面積が少なくなってしまうので好ましくない。この平均ロッド長が過大では析出相の制御が困難となり好ましくない。ちなみに、この平均ロッド長は、電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0054】
さらに、針状のロッドの形態は、平均ロッド径を用いて規定され得る。この平均ロッド径が100〜10000nmさらには100〜5000nmであると好ましい。
【0055】
この平均ロッド径が過小ではエッチング時に消滅するので好ましくない。この平均ロッド径が過大ではロッド状とはいえず好ましくない。ちなみに、この平均ロッド径は、電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0056】
また、二相ステンレス鋼部材は、複数のロッドを有する部位(ロッド突出部)と、ロッドを有さない部位(平滑部)と、を併せもつ表層を備えてもよい。ロッド突出部では母層の表面がロッドに覆われるが、平滑部では母層の表面が露出する。たとえば、二相ステンレス鋼部材のある面において、ロッド部と平滑部とが規則的に配置されていてもよい。
【0057】
(2)二相ステンレス鋼チューブ
前述したように二相ステンレス鋼チューブは、本発明の二相ステンレス鋼基材の一変形形態である。この二相ステンレス鋼チューブは、外周面と内周面とを連通する微細な連通路の形成された管壁から構成される。この二相ステンレス鋼チューブは、例えば、微細なメッシュサイズが要求される管状フィルターなどに利用できる。より具体的には、血液を採取する際に、血球をトラップして血清のみを採取するフィルター機能付き医療用針等に利用可能である。
【0058】
この二相ステンレス鋼チューブの場合も、前述した二相ステンレス鋼部材の場合と同様に、連通路の形態を直接的に規定することは困難である。そこで、例えば、次のような方法で二相ステンレス鋼チューブを間接的に特定することが可能である。二相ステンレス鋼チューブの管壁は、理論密度に対する嵩密度の比によって求まる気孔率が5〜80%、さらには気孔率が20〜60%であると好ましい。この気孔率は電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0059】
また、二相ステンレス鋼チューブの管壁は、半径方向の壁厚が100〜2000μmさらには200〜1000μmであると好ましい。この壁厚は電子顕微鏡観察により求めることができる。
【0060】
なお、前記連通路は、前記(α+γ)二相からなる管壁からα相またはγ相が選択的に溶出されて形成される。通常はα相が溶出してγ相が残存することになる。もっとも、管壁が完全にどちらから一方の単相になる必要はない。逆にいえば、エッチングによる溶出の程度を調整することで、連通路のサイズを調整することが可能である。
【0061】
〈製造方法または表面処理方法〉
(1)溶体化熱処理工程および時効熱処理工程
これらの熱処理はいずれも、他の気体の影響を避けるため、およびγ相の形態制御のため、特定の雰囲気下で行うのが好ましい。例えば、Arガス雰囲気、N2ガス雰囲気などである。溶体化熱処理工程と時効熱処理工程で熱処理を行う雰囲気を統一すると、設備費等の製造コスト削減となる。もっとも、溶体化熱処理工程はArガス雰囲気で行う一方、時効熱処理工程はN2ガス雰囲気で行うのもよい。これは熱処理雰囲気を変えることで、γ相の形態を制御できるからである。例えば、Ar雰囲気ではγ相は微細なロッド状となる。一方、窒素雰囲気では析出相サイズが大きくなり、γ相の機械的強度の大きい析出相を生成できる。
【0062】
(1−1)溶体化熱処理工程
溶体化熱処理工程の加熱温度は、α+γ相からα相への変態温度+50℃以上、融点−50℃以下が好ましい。加熱温度が過小ではCrやNiなどがFe中に均一に固溶しない。加熱温度が過大では、ステンレス鋼素材等の形状や寸法が変化し易くなり、エネルギー効率も悪い。溶体化熱処理工程の加熱時間は、10〜6000分間さらには30〜1200分間が好ましい。加熱時間が過少ではCrやNiなどがFe中に均一に固溶しない。加熱時間が過多ではエネルギー効率が悪い。なお、Niを含まないステンレス鋼素材のように素材がα単相からなる場合には、溶体化熱処理工程を必ずしも行わなくともよい。ステンレス鋼素材にNiが含まれない場合に溶体化熱処理工程を行うのであれば、その加熱温度は1100〜1400℃さらには1100〜1300℃が好ましい。
【0063】
(1−2)時効熱処理工程
時効熱処理工程の加熱温度は、500〜1000℃さらには600〜900℃が好ましい。加熱温度が過小でも過大でも、所望するγ相の析出が得られない。時効熱処理工程の加熱時間は、1〜100分間さらには5〜20分間が好ましい。加熱時間が過少では、少なくとも表層部分に所望の形態をしたγ相を充分に析出させることができない。加熱時間が過多ではエネルギー効率が悪く、析出相が成長して微細な針状のロッド状の表層が得難い。
【0064】
(1−3)ステンレス鋼の組成と熱処理条件
もっとも、最適な加熱温度や加熱時間は、ベースとなるステンレス鋼の組成によっても異なる。例えば、素材がFe−25Cr−6Ni(単位:質量%)の場合であれば、α単相となる第1変態点が1473K(1200℃)で、γ相の析出する第2変態点が527K(800℃)である。このため、溶体化熱処理工程の加熱温度は1200〜1300℃、時効熱処理工程の加熱温度は900〜1100℃が好ましい。素材がFe−25Cr(単位:質量%)の場合であれば、溶体化熱処理工程を行うのであれば、1100〜1300℃が好ましい。また、時効熱処理工程の加熱温度は850〜1100℃が好ましい。
【0065】
(2)Ni層形成工程
Ni層形成工程は、時効熱処理工程前のステンレス鋼素材の表面にNi層を形成する工程である。Ni層は、γ相を所望する態様で析出させる際の下地処理的に作用する。従って、Ni層形成工程は時効熱処理工程前に行うのが良い。もっとも、時効熱処理工程前であれば、溶体化熱処理工程後である必要はなく、溶体化熱処理工程前にNiメッキ工程を施しておくこともできる。
【0066】
ちなみに、Ni層がγ相の析出態様に影響する理由は次のように考えられる。γ相はNi原子を取り込んで成長していく。したがって、Ni原子を表層に存在させることで意図的にNiリッチ層の形成が可能となり、Niメッキされた領域でγ相を重点的に生成させることが可能になったと考えられる。
【0067】
Ni層が形成される限り、メッキでも真空蒸着でもいずれの方法であってもよい。メッキであれば、電解メッキでも無電解メッキでもよい。もっとも、均一に成膜が可能な点で電解メッキが優れる。また、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法などにより成膜してもよい。このとき、Ni層の厚さは10〜1000μmさらには100〜200μmであると好ましい。Ni層の厚さが過小だとNi原子の拡散量が少なくなり、厚さが過大だとγ相が過多となり好ましくない。
【0068】
(3)加熱拡散処理工程
Niを含まないステンレス鋼素材を用いる際には、γ相の析出に要するNi原子を、Ni層からステンレス鋼素材に拡散させる必要がある。そのため、Ni層形成工程と時効熱処理工程との間に、加熱拡散処理工程を行う。ステンレス鋼素材にNiが含まれない場合は、Ni層形成工程および加熱拡散処理工程は必須の工程となる。
【0069】
また、加熱拡散処理工程では、主としてNi層が形成された表面の表層部にのみNiが拡散する。そのため、二相ステンレス鋼部材のγ相の析出位置を制御することが可能となる。すなわち、ステンレス鋼素材のうち、針状のロッドを突出させたい部位にのみNi層を選択的に形成すればよい。これにより、複数のロッドを有する部位と、ロッドを有さない部位と、を併せもつ表層を備える二相ステンレス鋼部材が、容易に得られる。
【0070】
加熱拡散処理工程の加熱温度は、1100〜1400℃さらには1100〜1300℃が好ましい。加熱温度が過小では、Ni原子が十分に拡散させることができず、その結果、時効熱処理工程にてγ相を十分に析出させることができない。また、加熱温度が過大では、酸化が進行しやすくなるため望ましくない。加熱拡散処理工程の加熱時間は、1〜300分間さらには5〜240分間が好ましい。加熱時間が過少では、表層部分にNiを十分に拡散させることができず、その結果、時効熱処理工程にてγ相を十分に析出させることができない。加熱時間が過多ではエネルギー効率が悪く、析出相が成長して微細な針状のロッド状の表層が得難い。
【0071】
また、加熱拡散処理工程は、他の気体の影響が少ない特定の雰囲気下で行うのが好ましい。例えば、Arガス雰囲気、N2ガス雰囲気などである。前述の溶体化熱処理工程および/または時効熱処理工程と熱処理を行う雰囲気を統一すると、設備費等の製造コスト削減となる。
【0072】
(4)Ni層除去工程
Ni層除去工程は、時効熱処理工程後でかつ後述する選択的エッチング工程前に二相ステンレス鋼基材上のNi層を除去する工程である。Ni層形成工程を行わない場合はNi層除去工程も不要であることは当然であるが、Ni層を形成した場合、このNi層除去工程を行わないと、選択的エッチング工程を緻密にかつ効率的に行うことが難しい。
【0073】
Ni層除去工程は、精密研磨により行うこともできるが、表層となる二相ステンレス鋼基材の表面も同時に研磨してしまうおそれが高い。そこで、Ni層除去工程も、エッチングによりなされると好ましい。この場合のエッチング工程は、通常、電解液の組成、濃度や時間等のエッチング条件が選択的エッチング工程と異なる。例えば、Ni層除去工程のエッチングは、リン酸溶液からなる電解液を用いて電解エッチングする工程であると好ましい。
【0074】
(5)選択的エッチング工程
選択的エッチング工程は、二相ステンレス鋼基材の少なくとも表面に形成されたα相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する工程である。通常、α相をエッチング除去する場合とγ相をエッチング除去する場合とでエッチング条件は異なる。もっともいずれの場合でも、二相ステンレス鋼基材は酸性雰囲気で電解エッチングされることが多い。そして、α相をエッチング除去する場合であれば、二相ステンレス鋼基材を硫酸溶液からなる電解液を用いて電解エッチングすると好ましい。電解液の組成、濃度や時間等のエッチング条件は、二相ステンレス鋼基材の組成、γ相の析出態様、所望する二相ステンレス鋼部材の表層などによって適宜選択される。
【0075】
〈用途〉
本発明の二相ステンレス鋼部材は、前述したような固体高分子型燃料電池用セパレータ、通電部材、バイオデバイスなどの他、熱交換器にも利用され得る。
【実施例】
【0076】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0077】
《二相ステンレス鋼部材の製造》
《1.Fe−Cr−Ni系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の製造》
Fe−25%Cr−6%Ni(単位は質量%、以下同様)の組成をもつサイズ20mm×20mm×1mmステンレス鋼素材に次に示す各処理を施して、特定方位へ指向した直径100〜1000nmの柱(針状のロッド)が表面に多数形成されたナノ・ニードル基板(二相ステンレス鋼部材)を製作した。参考までに、図1に熱処理の工程図を、図2に電解エッチングの模式図を示した。
【0078】
(1)溶体化熱処理工程
上記のステンレス鋼素材(供試材)を1300℃のAr雰囲気中で20分間加熱した後、水冷して溶体化熱処理を施した。
【0079】
(2)Niメッキ工程
このステンレス鋼素材の表面にNiメッキを施した。このNiメッキはステンレス鋼素材をスルファミン酸ニッケル浴に浸漬し、0.1A/mm2×20分間の通電を行って、厚さ100μmのNiメッキ層を形成した。
【0080】
(3)時効熱処理工程
Niメッキ層の形成されたステンレス鋼素材をさらに900℃のAr雰囲気中で10分間加熱した後、水冷して時効熱処理を施した。これにより、γ相が析出した二相ステンレス鋼基材が得られた。時効熱処理前に予めNiメッキを施しておくことで、析出相(γ相)の生成方向の制御が容易となる。
【0081】
(4)メッキ除去工程
二相ステンレス鋼基材の表面にあるNiメッキ層をエッチングにより電解研磨した。エッチング条件は次の通りである。先ず、電解液として、濃リン酸とエレクトログロー(上村工業製)とを3:1の体積割合で混合したものを用意した。この電解液を200mlのSUS316(JIS)製ビーカに入れ、そのビーカの温度(浴温)を60℃に保持した。供試材である二相ステンレス鋼基材を陽極とし、対極(陰極)には電解液を入れた前記ビーカをそのまま使用した。電解条件は、供試材の表面積を8.8cm2と見積って、5Aの定電流を30分間流した。
【0082】
この後の供試材の重量を測定して求めたところ、表面から約120μm程度が研磨されたことが解った。
【0083】
(5)選択的エッチング工程
Niメッキ層を除去した二相ステンレス鋼基材の表面からさらに、主にα相のみをエッチングにより除去した。
【0084】
エッチング条件は次の通りである。先ず、電解液として、47%(単位:体積%、以下同様)の濃硫酸を水で5倍に希釈し、約10%の硫酸を用意した。この電解液を200mlのSUS316(JIS)製ビーカに入れ、そのビーカの温度(浴温)を60℃に保持した。供試材である二相ステンレス鋼基材を陽極とし、対極(陰極)には電解液を入れた前記ビーカをそのまま使用した。電解条件は、1Aの定電流とした。電解時間は5分間とした。こうして、本発明に係る実施例であるナノ・ニードル基板を得た。
【0085】
〈二相ステンレス鋼部材の評価〉
上記のナノ・ニードル基板を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図3に示す。図3に示した表面写真は、1500倍したものである。
【0086】
図3より明らかなように、特定の方向に指向した微細で多数の針状ロッドが形成されることが解った。
【0087】
〈熱処理の影響〉
(1)前述したステンレス鋼素材(Fe−25%Cr−6%Ni)を用いて、熱処理の異なる次の3つの供試材を製作した。
【0088】
供試材1:Ar雰囲気中で、溶体化熱処理工程(1300℃×20分間)および時効熱処理工程(900℃×10分間)を施した。
【0089】
供試材2:Ar雰囲気中での溶体化熱処理工程(1300℃×20分間)と、N2雰囲気中での時効熱処理工程(900℃×10分間)とを施した。
【0090】
供試材3:前述したNiメッキ工程を施した後で、供試体1と同様な溶体化熱処理工程および時効熱処理工程を施した。
【0091】
(2)上記の供試材1〜3について、SEM観察を行った結果を図4に、EBSP(Electron BackScattering Pattern)観察の結果得られた方位マップを図5に示した。
【0092】
これらの結果から、供試材1と供試材2を比較すると明らかなように、時効熱処理工程をAr雰囲気で行った場合よりもN2雰囲気で行った場合の方が、粒内析出量が多くなることが解った。また、供試材3のように時効熱処理前に予めNiメッキを行った場合、母相である固溶体の特定の結晶面に沿って新たに形成された析出相(ウイドマンステッテン状析出相)が多く観られることが解った。
【0093】
《2.Fe−Cr系ステンレス鋼素材を用いた二相ステンレス鋼部材の製造》
Fe−25%Cr(単位は質量%、以下同様)の組成をもつサイズ20mm×20mm×1mmステンレス鋼素材に次に示す各処理を施して、特定方位へ指向した直径100〜1000nmの柱(針状のロッド)が表面に多数形成されたナノ・ニードル基板(二相ステンレス鋼部材)を製作した。参考までに、図6に熱処理の工程図を、図2に電解エッチングの模式図を示した。
【0094】
(1)溶体化熱処理工程
上記のステンレス鋼素材(供試材)を1300℃のAr雰囲気中で20分間加熱した後、水冷して溶体化熱処理を施した。
【0095】
(2−1)Niメッキ工程
このステンレス鋼素材の表面にNiメッキを施した。このNiメッキはステンレス鋼素材をスルファミン酸ニッケル浴に浸漬し、0.1A/mm2×20分間の通電を行って、厚さ100μmのNiメッキ層を形成した。
【0096】
(2−2)加熱拡散処理工程
Niメッキ層の形成されたステンレス鋼素材を、1100℃のAr雰囲気中で180分間加熱した後、水冷して時効熱処理を施した。Niメッキが施されているため、Niを含まないステンレス鋼素材にNiが拡散する。
【0097】
(3)時効熱処理工程
Niメッキ層の形成されたステンレス鋼素材をさらに870℃のAr雰囲気中で10分間加熱した後、水冷して時効熱処理を施した。これにより、γ相が析出した二相ステンレス鋼基材が得られた。
【0098】
(4)メッキ除去工程
二相ステンレス鋼基材の表面にあるNiメッキ層をエッチングにより電解研磨した。エッチング条件は次の通りである。先ず、電解液として、濃リン酸とエレクトログロー(上村工業製)とを3:1の体積割合で混合したものを用意した。この電解液を200mlのSUS316(JIS)製ビーカに入れ、そのビーカの温度(浴温)を60℃に保持した。供試材である二相ステンレス鋼基材を陽極とし、対極(陰極)には電解液を入れた前記ビーカをそのまま使用した。電解条件は、供試材の表面積を8.8cm2と見積って、5Aの定電流を30分間流した。
【0099】
この後の供試材の重量を測定して求めたところ、表面から約120μm程度が研磨されたことが解った。
【0100】
(5)選択的エッチング工程
Niメッキ層を除去した二相ステンレス鋼基材の表面からさらに、主にα相のみをエッチングにより除去した。
【0101】
エッチング条件は次の通りである。先ず、電解液として、47%(単位:体積%、以下同様)の濃硫酸を水で5倍に希釈し、約10%の硫酸を用意した。この電解液を200mlのSUS316(JIS)製ビーカに入れ、そのビーカの温度(浴温)を60℃に保持した。供試材である二相ステンレス鋼基材を陽極とし、対極(陰極)には電解液を入れた前記ビーカをそのまま使用した。電解条件は、1Aの定電流とした。電解時間は5分間とした。こうして、本発明に係る実施例であるナノ・ニードル基板を得た。
【0102】
〈二相ステンレス鋼部材の評価〉
上記のナノ・ニードル基板を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図7に示す。図7より、Niを含まないステンレス鋼素材を用いても、特定の方向に指向した微細で多数の針状ロッドが形成されることが解った。
【0103】
《3.所定の位置に針状ロッドをもつ二相ステンレス鋼部材の製造》
(1)前述したステンレス鋼素材(Fe−25%Cr)を用い、上記と同様の各処理を施し、特定方位へ指向した直径100〜1000nmの針状のロッドが表面の所定の位置に多数形成されたナノ・ニードル基板(二相ステンレス鋼部材)を作製した。ただし、上記(2−1)のNiメッキ工程においては、レジストによりNiメッキをパターニングし、下記の異なるパターンを施すことで二種類のナノ・ニードル基板を得た。
【0104】
基板1:Niメッキ工程において、素材の表面に幅100μmのNiメッキを100μmの間隔で平行に2本形成した。
【0105】
基板2:Niメッキ工程において、素材の表面に50μm×50μmのNiメッキを50μmの等間隔で9個(3個×3個)形成した。
【0106】
(2)上記の基板1および基材2について、SEM観察を行った結果をそれぞれ図8および図9に示す。Niメッキを施した部位にのみ針状ロッドが形成されることがわかった。
【0107】
《固体高分子型燃料電池》
上述した二相ステンレス鋼部材をセパレータに応用した固体高分子型燃料電池を図10Aおよび図10Bに示した。
【0108】
固体高分子型燃料電池は、分子中にプロトン交換基をもつ固体高分子電解質膜がプロトン導電性電解質として機能することを利用したものである。具体的には図10A、図10Bに示すように、固体高分子型燃料電池Fは、固体高分子電解質膜1の両側にそれぞれ酸化電極2と燃料電極3が接合されている。さらに、それら電極の外側に、ガスケット4を介しセパレータ5が配置される。酸化電極2側のセパレータ5には空気供給口6と空気排出口7が設けられ、燃料電極3側のセパレータ5には水素供給口8と水素排出口9が設けられる。
【0109】
セパレータ5には、水素g及び空気oの導通及び均一分配のため、水素g及び空気oの流動方向に延びる複数の溝10が形成されている。また、給水口11から送り込んだ冷却水wはセパレータ5の内部を循環した後、排水口12から排出させる。このセパレータ5に内蔵された水冷機構により、発電時の発熱に依る固体高分子電解質膜等の過熱が抑制される。
【0110】
水素供給口8から燃料電極3とセパレータ5との間隙に送り込まれた水素gは、電子を放出したプロトンとなって固体高分子電解質膜1を透過し、酸化電極2とセパレータ5との間隙を通過する空気o中の酸素と反応してによって燃焼する。そして、酸化電極2と燃料電極3との間の負荷に電力が供給され得る。
【0111】
一般的に燃料電池は、1セル当りの発電量が極く僅かである。このため、一対のセパレータ5、5間を1単位としたセルを複数積層することで、所望の出力(電力量)が確保される。もっとも、多数のセルを積層した場合、セパレータ5と各電極2、3との間の接触抵抗が大きくなり、電力損失も大きくなって、固体高分子型燃料電池Fの発電効率が低下し易い。
【0112】
ここで本実施例の二相ステンレス鋼部材のように、酸化電極2および燃料電極3と接触するセパレータ5の表層を、前述した微細な多数の針状のロッドが突出した形態とすると、セパレータと電極との間の接触抵抗の低減が可能となる。これは図11に示すように、二相ステンレス鋼部材からなるセパレータ5の表面に形成された微細なロッドが酸化電極2および燃料電極3(カーボン電極)に突刺さるようにして接触または結合するために、両者の接触が確実に行われるようになったからと考えられる。しかも、そのセパレータ5の表層を支持する母層自体は、γ相が成長する際にCr元素をはき出すために高Crの不働態被膜が確実に形成され、電解液等に対する耐食性も確保される。
【0113】
従って、本実施例に係る二相ステンレス鋼部材を用いれば、加工性や耐衝撃性等に優れるステンレス鋼製でありつつも、耐食性と電気特性の両立を図った固体高分子型燃料電池用セパレータが容易に得られる。
【0114】
ちなみに、本実施例に係る二相ステンレス鋼部材と前述した本実施例の各工程を施さないステンレス鋼製の平滑板との間の接触抵抗を、カーボンシートをはさみこんで荷重0.1〜2MPaで負荷しながら10sec間隔の条件下で測定して比較した。この結果、本実施例に係る二相ステンレス鋼部材を用いた場合は、単なる平滑板を用いた場合よりも、接触抵抗が20%低減することが解った。
【0115】
《バイオデバイス》
従来の平滑なガラス基板に替えて、本実施例に係るナノ・ニードル基板上に細胞を付着させた場合、細胞はナノ・ニードル基板の先端に接着し、その下部には大きな空間が存在することになる。このため例えば、この空間に薬品を含浸させて、細胞の上部と下部を異なる環境とするが可能となる。
【0116】
また、遺伝子の機能解析を行う場合に必要となる遺伝子導入アレイとしても、ナノ・ニードル基板を活用できる。ナノ・ニードル基板を用いた場合、その表面に付着させた細胞は、その表層にある微細な針状ロッドが足場となって、細胞をほぼ点接触状態で担持するようになる。このため、ナノ・ニードル基板に電圧を印加すると、針状ロッドで支持されている細胞膜付近に電界を集中して付与することが可能となる。ここで例えば、エレクトロポレーション法を用いれば、細胞への遺伝子導入効率を向上させることが可能となる。この様子を図12Aおよび図12Bに示す。
【0117】
なお、エレクトロポレーション法とは、矩形電圧を印加することによって、細胞表面に可逆的な穿孔を形成し、細胞外からの拡散効果によって細胞内への物質導入を行う手法である。
【0118】
《二相ステンレス鋼チューブ》
Fe−25%Cr−6%Ni(単位は質量%、以下同様)の組成をもつサイズφ2mm×20mmの管状のステンレス鋼素材に、前述した溶体化熱処理工程(N2雰囲気、1300℃×20分間)と、時効熱処理工程(N2雰囲気、900℃×10分間)と、選択的エッチング工程(10%硫酸×5分間)を施して、微細な連通路をもつ二相ステンレス鋼チューブを製作した。この二相ステンレス鋼チューブのSEM写真を図13に示した。これから明らかなように、管壁がポーラス状となったマイクロチューブが完成した。
【符号の説明】
【0119】
1 固体高分子電解質膜
2 酸化電極
3 燃料電極
5 セパレータ
F 固体高分子型燃料電池
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム(Cr)およびニッケル(Ni)からなる基本元素と鉄(Fe)並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相およびγ相で組織された二相ステンレス鋼基材からなる二相ステンレス鋼部材であって、
微細かつ多数の特定方位へ突出した針状のロッドを有する表層と、
該表層を支持する母層と、
からなることを特徴とする二相ステンレス鋼部材。
【請求項2】
前記表層のロッドはγ相からなり、前記母層は少なくともα相を含む請求項1に記載の二相ステンレス鋼部材。
【請求項3】
前記表層は、複数の前記ロッドを有する部位と該ロッドを有さない部位とを併せもつ請求項1または2記載の二相ステンレス鋼部材。
【請求項4】
中央に設けられた固体高分子電解質膜と該固体高分子電解質膜の一方側に接して設けられた燃料電極と該固体高分子電解質膜の他方側に接して設けられた酸化電極と該燃料電極および該酸化電極の外側に設けられたセパレータとからなる単位電池を積層してなり、
該セパレータと該燃料電極との間に燃料ガスを供給すると共に該セパレータと該酸化電極との間に酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池において、
請求項1〜3のいずれかに記載の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項4に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータからなることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
【請求項6】
電気的に通電可能な導体に接触して通電経路を構成する導通部材であって、
請求項1〜3のいずれかに記載の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とする導通部材。
【請求項7】
細胞を担持するバイオデバイスであって、
請求項1〜3のいずれかに記載の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とするバイオデバイス。
【請求項8】
CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成されたステンレス鋼素材を、α単相となる第1変態点以上の温度に加熱した後に急冷する溶体化熱処理工程と、
該溶体化熱処理工程後の前記ステンレス鋼素材を、前記第1変態点未満でかつγ相の析出する第2変態点以上の温度に加熱保持した後に急冷してα相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼基材とする時効熱処理工程と、
該二相ステンレス鋼基材の少なくとも表面に形成されたα相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程と、を備え、
請求項1または2に記載の二相ステンレス鋼部材を得ることを特徴とする二相ステンレス鋼部材の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記時効熱処理工程前のステンレス鋼素材の表面にニッケル(Ni)を含むNi層を形成するNi層形成工程と、
前記時効熱処理工程後でかつ前記選択的エッチング工程前に該二相ステンレス鋼基材上のNi層を除去するNi層除去工程と、
を備える請求項8に記載の二相ステンレス鋼部材の製造方法。
【請求項10】
Crからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成されたステンレス鋼素材の表面にニッケル(Ni)を含むNi層を形成するNi層形成工程と、
前記Ni層が形成された前記ステンレス鋼素材を加熱して該Ni層のNiを該ステンレス鋼素材に拡散させる加熱拡散処理工程と、
前記加熱拡散処理工程後の前記ステンレス鋼素材を、前記第1変態点未満でかつγ相の析出する第2変態点以上の温度に加熱保持した後に急冷してα相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼基材とする時効熱処理工程と、
前記二相ステンレス鋼基材上のNi層を除去するNi層除去工程と、
前記二相ステンレス鋼基材の少なくとも表面に形成されたα相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程と、を備え、
請求項1〜3のいずれかに記載の二相ステンレス鋼部材を得ることを特徴とする二相ステンレス鋼部材の製造方法。
【請求項11】
前記Ni層形成工程は、Niを主成分とするNiメッキ液中に前記ステンレス鋼素材の少なくとも一部を浸漬して該素材の表面に前記Ni層としてNiメッキ層を形成するNiメッキ工程である請求項9または10に記載の二相ステンレス鋼部材の製造方法。
【請求項12】
さらに、前記加熱拡散処理工程前のステンレス鋼素材を、α単相となる第1変態点以上の温度に加熱した後に急冷する溶体化熱処理工程を備える請求項10に記載の二相ステンレス鋼部材の製造方法。
【請求項13】
CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼部材の表面から該α相または該γ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程により、微細かつ多数の特定方位へ突出した針状のロッドを有する表層を該二相ステンレス鋼部材の表面に形成することを特徴とする二相ステンレス鋼部材の表面処理方法。
【請求項1】
クロム(Cr)およびニッケル(Ni)からなる基本元素と鉄(Fe)並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相およびγ相で組織された二相ステンレス鋼基材からなる二相ステンレス鋼部材であって、
微細かつ多数の特定方位へ突出した針状のロッドを有する表層と、
該表層を支持する母層と、
からなることを特徴とする二相ステンレス鋼部材。
【請求項2】
前記表層のロッドはγ相からなり、前記母層は少なくともα相を含む請求項1に記載の二相ステンレス鋼部材。
【請求項3】
前記表層は、複数の前記ロッドを有する部位と該ロッドを有さない部位とを併せもつ請求項1または2記載の二相ステンレス鋼部材。
【請求項4】
中央に設けられた固体高分子電解質膜と該固体高分子電解質膜の一方側に接して設けられた燃料電極と該固体高分子電解質膜の他方側に接して設けられた酸化電極と該燃料電極および該酸化電極の外側に設けられたセパレータとからなる単位電池を積層してなり、
該セパレータと該燃料電極との間に燃料ガスを供給すると共に該セパレータと該酸化電極との間に酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池において、
請求項1〜3のいずれかに記載の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項4に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータからなることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
【請求項6】
電気的に通電可能な導体に接触して通電経路を構成する導通部材であって、
請求項1〜3のいずれかに記載の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とする導通部材。
【請求項7】
細胞を担持するバイオデバイスであって、
請求項1〜3のいずれかに記載の二相ステンレス鋼部材からなることを特徴とするバイオデバイス。
【請求項8】
CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成されたステンレス鋼素材を、α単相となる第1変態点以上の温度に加熱した後に急冷する溶体化熱処理工程と、
該溶体化熱処理工程後の前記ステンレス鋼素材を、前記第1変態点未満でかつγ相の析出する第2変態点以上の温度に加熱保持した後に急冷してα相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼基材とする時効熱処理工程と、
該二相ステンレス鋼基材の少なくとも表面に形成されたα相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程と、を備え、
請求項1または2に記載の二相ステンレス鋼部材を得ることを特徴とする二相ステンレス鋼部材の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記時効熱処理工程前のステンレス鋼素材の表面にニッケル(Ni)を含むNi層を形成するNi層形成工程と、
前記時効熱処理工程後でかつ前記選択的エッチング工程前に該二相ステンレス鋼基材上のNi層を除去するNi層除去工程と、
を備える請求項8に記載の二相ステンレス鋼部材の製造方法。
【請求項10】
Crからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成されたステンレス鋼素材の表面にニッケル(Ni)を含むNi層を形成するNi層形成工程と、
前記Ni層が形成された前記ステンレス鋼素材を加熱して該Ni層のNiを該ステンレス鋼素材に拡散させる加熱拡散処理工程と、
前記加熱拡散処理工程後の前記ステンレス鋼素材を、前記第1変態点未満でかつγ相の析出する第2変態点以上の温度に加熱保持した後に急冷してα相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼基材とする時効熱処理工程と、
前記二相ステンレス鋼基材上のNi層を除去するNi層除去工程と、
前記二相ステンレス鋼基材の少なくとも表面に形成されたα相またはγ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程と、を備え、
請求項1〜3のいずれかに記載の二相ステンレス鋼部材を得ることを特徴とする二相ステンレス鋼部材の製造方法。
【請求項11】
前記Ni層形成工程は、Niを主成分とするNiメッキ液中に前記ステンレス鋼素材の少なくとも一部を浸漬して該素材の表面に前記Ni層としてNiメッキ層を形成するNiメッキ工程である請求項9または10に記載の二相ステンレス鋼部材の製造方法。
【請求項12】
さらに、前記加熱拡散処理工程前のステンレス鋼素材を、α単相となる第1変態点以上の温度に加熱した後に急冷する溶体化熱処理工程を備える請求項10に記載の二相ステンレス鋼部材の製造方法。
【請求項13】
CrおよびNiからなる基本元素とFe並びに不可避不純物および/または特性改善に有効な改質元素からなる残部元素とで構成され、α相とγ相の混在した(α+γ)二相からなる二相ステンレス鋼部材の表面から該α相または該γ相の一方を選択的にエッチングして除去する選択的エッチング工程により、微細かつ多数の特定方位へ突出した針状のロッドを有する表層を該二相ステンレス鋼部材の表面に形成することを特徴とする二相ステンレス鋼部材の表面処理方法。
【図1】
【図2】
【図6】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図2】
【図6】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【公開番号】特開2009−221607(P2009−221607A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36803(P2009−36803)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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