説明

二置換ピペリジン及び中間体の製法

本発明は、ピログルタミン酸(S)を原料として、式(I)
【化1】


(式中、P1及びP2は、カルボン酸基及びオキシアミン基を保護する基である)で表される化合物の製法に関する。本発明は、新規な中間体にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,5-二置換ピリジンの製法及び新規な中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
国際特許出願公開WO02/10172には、抗菌剤として有用な新規のアザビシクロ化合物及び式(A)
【化1】

(式中、R'1、R'2、R3、Z及びnは、上記出願において定義されたとおりである)の中間体化合物、これらの中間体化合物の中でも、特に、上記式(A)において、n=1及びA'=CH2である化合物に相当する式(A1
【化2】

のピペリジンを使用する前記アザビシクロ化合物の製法が開示されている。
【0003】
式(A1)の化合物の中でも、当業者にとって公知であり、国際特許出願公開WO02/10172において記載されたものである式(I)
【化3】

(式中、P1及びP2は、カルボン酸官能基の保護基及びオキシアミン官能基の保護基を表す)の化合物は、特に興味深いものである。
【0004】
式(I)の化合物は、異性体(2S,5R)及び(2S,5S)の混合物の形である。
【0005】
式(I)の化合物は、国際特許出願公開WO02/10172、特に、実施例32に記載されているように、保護化シス-5-ヒドロキシ-ピペリジン-2-カルボン酸を原料として得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、式(I)の化合物を製造する新規な方法にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の式(I)の化合物を製造する新規な方法は、式(b)
【化4】

(式中、P1及びP3は、カルボン酸官能基の保護基及び窒素の保護基を表す)の化合物を、HCl発生剤によって処理して、式(II)
【化5】

(式中、P1及びP3は上記のとおり定義される)の化合物を生成し、この化合物を、単離することなく、ヒドロキシルアミン誘導体によって処理して、式(III)
【化6】

(式中、P1及びP3は上記のとおり定義され、及びP2はオキシムの保護基を表す)の化合物を生成し、この化合物のアミンを酸の作用によって脱保護化して、式(IV)
【化7】

(式中、P1及びP2は上記のとおり定義される)の化合物を生成し、この化合物を塩基の作用によって環化して、式(V)
【化8】

(式中、P1及びP2は上記のとおり定義される)の化合物を生成し、この化合物のオキシム官能基を還元剤の作用によって還元して、式(I)の所望の化合物を生成し、必要であれば、この化合物を酸の作用によって塩の形とすることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
式(b)のβ-ケトスルホキソニウム化合物は、式(a)
【化9】

(式中、P1及びP3は上記のとおり定義される)の保護化(S)ピログルタミン酸を原料とし、その環を、テトラヒドロフラン中、水素化ナトリウムの存在下、トリメチルスルホキソニウムヨウ化物の作用により開環することによって生成される。
【0009】
カルボン酸官能基の保護基P1は、特に、アルキル、アリル、ベンジル又はp-ニトロベンジルエステル残基であり、当業者にとって公知の同等の残基も好適である。
【0010】
1は、好ましくはベンジル基である。
【0011】
窒素の保護基P3は、特に、カルバメートを形成し、好ましくは、3級ブトキシカルボニル又はベンジルオキシカルボニル基であり、当業者にとって知られており、Greene(有機合成における保護基, 第3版)に開示されたもののような電子吸引性基でもよい。
【0012】
3は、好ましくは3級ブトキシカルボニル基である。
【0013】
ヒドロキシルアミンの保護基P2は、特に、ベンジル又はアリル残基である。
【0014】
2は、好ましくはベンジル基である。
【0015】
HClを発生させ、式(II)の化合物の生成を可能にする条件は、好ましくは、強酸の存在下において塩化リチウムを使用することからなる。単に塩酸を使用することもできる。強酸は、例えば、塩酸、硫酸、スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸又はエタンスルホン酸)である。
【0016】
本発明を実施する好適な条件によれば、メタンスルホン酸の存在下において塩化リチウムを使用する。
【0017】
これは、例えば、テトラヒドロフラン又はジオキサンのようなエーテル中、ジメチルスルホキシド中又は酢酸エチルのようなエステル中で行われる。
【0018】
式(II)の化合物のケトン官能基の保護化は、中間体を単離することなく、選択した保護基に応じて、当業者にとって公知の条件下で達成される。
【0019】
アミン官能基の脱保護化は、酸、例えば、塩酸、スルホン酸、トリフルオロ酢酸又はアルカンスルホン酸の作用によって達成される。保護基の性質に応じて、これらの条件は当業者にとって公知である。有利な条件は、3級-ブトキシカルボニル基を使用し、メタンスルホン酸の作用によって、これを開裂することからなるものである。これは、例えば、酢酸エチル中で行われる。
【0020】
式(III)の保護化α-クロロオキシムは、好ましくは、単離することなく、すなわち、反応溶媒の溶液中で使用される。式(IV)の保護化α-クロロオキシムについても、同様である。
【0021】
式(IV)の化合物を環化するために使用される塩基は、例えば、アルカリ金属酸化物、炭酸塩又は炭酸水素塩、好ましくは炭酸水素ナトリウム、又はアミンタイプ塩基、例えば、トリエチルアミンである。
【0022】
オキシム官能基を還元するために使用される還元剤は、例えば、酸(例えば塩酸)の存在下におけるアルカリ金属ボロヒドリッド、ジボラン又はボラン-ピリジンタイプの試薬である。これは、メタノール又はエタノールのようなアルコール中、又はジクロロメタンのような他の有機溶媒中で行われる。
【0023】
式(I)の化合物の塩化は、必要であれば、化合物に可溶相の酸を添加することによって達成される。
【0024】
式(I)の生成物を得るために使用される酸の塩の中でも、とりわけ、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸又はリン酸のような無機酸にて、又はギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、グリオキシル酸、アスパラギン酸、アルカンスルホン酸(例えば、メタン及びエタンスルホン酸)、アリールスルホン酸(例えば、ベンゼン-及びパラトルエン-スルホン酸)のような有機酸にて形成された塩が挙げられる。
【0025】
塩は、好ましくは、容易に結晶化できるものである。特に、シュウ酸塩が好ましい。
【0026】
タイプ(II)と同様に、タイプ(a)及び(b)の化合物は公知であり(これらの化合物の式は上述のとおりである)、論文J. Chem. Soc. Chem. Comm. 1993, p. 1434-1435及びTet. Letters Vol. 29, No. 18, p. 2231-4 (1988)を参照できる。
【0027】
化合物(b)及び(II)を環化させることを目的とする工程を試みた。
【0028】
化合物(b)の環化は可能ではあるが、ロジウムを基材とする試薬の使用を含む。このタイプの試薬の工業的規模での適用は、必ずしも、実用的なものとはいえず、非常に高価である。さらに、達成される収率は、必ずしも、満足できるものではない。ロジウムに代わるものとしては、効果的なものは見つかっていない。
【0029】
一方、化合物(II)の環化は、恐らくカルボニル基の反応性のため、達成が不可能であった。
【0030】
本発明は、特に、魅力的な条件下において、ほぼ70%程度の全収率で、式(I)の中間体を調製する方法を提供するものであり、従来の失敗を解消することができる。
【0031】
本発明の方法を使用して得られる式(III)、(IV)及び(V)の化合物は新規であり、新規な産業用化合物及び、特に式(I)の化合物の調製に要求される中間体化合物として、本発明の対象物を構成する。
【0032】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものである。
【実施例】
【0033】
(2S)-5-ベンジルオキシアミノ-ピペリジン-2-カルボン酸、ベンジルエステル及びそのシュウ酸塩
調製:(5S)-5-3級-ブチルオキシカルボニルアミノ-6-ベンジル-オキシ-2,6-ジオキソヘキシリドジメチルスルホキソニウム
室温において、撹拌下、トリメチルスルフオキソニウムヨウ素化物のTHF(0.4L)溶液に、ナトリウム水素化物(オイル中60%、15g、0.375モル)を添加した。反応混合物をDMSO(0.5L)で希釈し、ついで、−10℃に冷却した。L-ベンジル-N-Boc-グルタメート(100g、0.313モル)のTHF(0.35 L)溶液を添加した。反応混合物を0℃まで加温し、45分間撹拌し、ついで、20℃において、塩化ナトリウム(450g)、水(1.5L)及び酢酸エチル(0.5L)の混合物に添加した。有機相を単離し、塩化アンモニウム(180g)の水(0.6L)溶液で、ついで、塩化アンモニウム(200g)の水(0.6L)溶液で洗浄した。水相を酢酸エチルにて抽出した。合せた有機相を乾燥し、ついで、減圧下、20℃において、溶液を容積0.4Lまで濃縮し、ついで、メチル-3級-ブチルエーテル(0.25 L)を添加することによって、生成物を沈殿させた。懸濁液を−10℃に冷却し、2時間撹拌し、濾過し、ついで、酢酸エチル/メチル-3級-ブチルエーテル(7:3)混合物にて洗浄した(1×50mL)。減圧下、40℃において結晶を乾燥して、所望のβ-ケト-スルホキソニウム(114.7g、279モル、収率89%)を得た。
NMRδ(400 MHz, MeOD):1.49(s, 9H, C4H9), 1.92(m, 1H), 2.13(m, 1H), 2.26(m, 2H), 3.50(s, 6H, S(CH3)2), 4.20(m, 1H), 5.25(m, 2H), 7.45(m, 5H, C6H5)
【0034】
ステージA:(S)-5-(ベンジルオキシイミノ)-2-3級-ブトキシカルボニル-アミノ-6-クロロ-ヘキサン酸ベンジルエステル(E+Z)
室温において、THF(1.71 mL)中のβケトスルホキソニウム(114g、0.277モル)及び塩化リチウム(13.3g、0.314ミリモル)の混合物に、メタンスルホン酸(29.3g、0.305モル)を、ゆっくりと添加した。反応混合物を50℃に5時間加熱し、ついで、室温に冷却した。ベンジルヒドロキシルアミン塩酸塩(46.4g、0.291モル)及び酢酸ナトリウム(29.6g、0.361モル)を添加した。反応混合物を酢酸エチル(0.5L)及び水(0.5L)にて希釈し、ついで、室温において18時間撹拌した。有機相を単離し、容積0.4Lまで濃縮し、ついで、塩化ナトリウム(25g)の水(0.25 L)溶液にて洗浄した。水相を分離し、ついで、酢酸エチル(0.2L)にて抽出した。有機相を合わせ、硫酸ナトリウム(100g)と共に1時間撹拌した。混合物を濾過し、酢酸エチルにてすすいだ(2×0.1L)。α-クロロオキシム溶液を、次の工程(そのままで使用する)のために冷蔵庫に保存した(130.8g、0.275モル、収率99.3%)。
NMRδ(400 MHz, CDCl3):1.45(s, 9H, C4H9), 1.96(m, 1H, CHAHB), 2.16(m, 1H, CHAHB), 2.47(m, 2H, CH2), 4.06及び4.20(2s, 2H, CH2Ph), 4.38(m, 1H), 5-5.4(m, 4H), 7.35(m, 10H, 2×C6H5)
m/z(+ESI, LCMS):475.0 [MH+]
【0035】
ステージB:(S)-5-(ベンジルオキシイミノ)-ピペリジン-2-カルボン酸ベンジルエステル(E+Z)
α-クロロオキシム溶液(0.275モル)を、共沸蒸留によって、容積0.5Lまで乾燥し、ついで、酢酸エチル(0.5L)にて希釈した。溶液を0℃に冷却した。15分間で、メタンスルホン酸(136g、1.42モル)を添加した。反応混合物を40℃に1時間加熱し、ついで、炭酸水素ナトリウム(279g、3.40モル)の水(1L)溶液に添加する前に、室温に冷却した。反応混合物を50℃に3時間加熱し、ついで、室温に冷却した。有機相を単離し、ついで、塩化ナトリウム(50g)の水(0.5L)溶液にて洗浄した。水相を酢酸エチル(0.5L)にて抽出した。有機相を合わせた。溶液をシリカ(100g)と混合し、ついで、20分間放置した。溶液を濾過し、ついで、酢酸エチルにて洗浄した。ピペリジン-オキシム溶液を容積0.2Lまで濃縮し、次の工程のために冷蔵庫に保存した(88.8g、0.262モル、収率95.3%)。
オキシムのE及びZ異性体をクロマトグラフィーによって分離し、ついで、NMRによって分析した。
NMR(異性体Eと想定)δ(400 MHz, CDCl3):1.8(m, 1H), 2.25(m, 3H), 3.15(m, 1H), 3.35(d, 1H), 3.62(d, 1H), 3.64(d, 1H), 5.1(s, 2H, CH2Ph), 5.2(s, 2H, CH2Ph), 7.37(m, 10H, 2×C6H5)
NMR(異性体Zと想定)δ(400 MHz, CDCl3):1.9(m, 1H), 2.20-2.60(m, 4H), 3.35 (d, 1H), 3.64(d, 1H), 4.3(d, 1H), 5.1(s, 2H, CH2Ph), 5.2(s, 2H, CH2Ph), 7.37(m, 10H, 2×C6H5)
【0036】
ステージC:(2S)-5-(ベンジルオキシアミノ)-ピペリジン-2-カルボン酸ベンジルエステル及びそのシュウ酸塩((2S,5R)及び(2S,5S)の50/50混合物)
ステージBで得られたピペリジン‐オキシムの溶液における酢酸エステルを、蒸留及び容積0.2Lへの希釈によって、メタノールにて置き換えた。ピペリジン‐オキシム溶液(0.261モル)を、0℃において、30分間で、HCl(1.32モル)のメタノール(0.31 L)溶液に添加した。反応混合物に、0℃において、4時間で、ボロン‐ピリジン(45.4g、0.49モル)を添加した。混合物を室温まで加温し、ついで、一夜撹拌した。溶液を容積0.18 Lまで濃縮し、ついで、ジクロロメタン(0.36 L)及び水(0.36 L)にて希釈した。50%ソーダ水溶液を添加して、pHを7とした。水相を分離し、ついで、ジクロロメタン(0.27 L)にて抽出した。有機相を水にて洗浄した。(2S)-5-(ベンジルオキシアミノ)-ピペリジン-2-カルボン酸ベンジルエステル溶液を取り出し、ジクロロメタンを、蒸留及びつづく容積0.72 Lへの希釈によって、酢酸エチルにて置き換えた。シュウ酸(23.78g)の酢酸エチル(0.27 L)溶液を40分間で添加した。懸濁液を、室温において2時間撹拌し、濾過し、酢酸エチルにて洗浄し(3×90ml)、30℃において乾燥して、オキシアミンシュウ酸塩を粉末として得た(95.32g、0.221モル、収率85%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、P1及びP2は、カルボン酸官能基又はオキシアミン官能基を保護する基を表す)の化合物を製造する方法であって、式(b)
【化2】

(式中、P1は上述のとおり定義され、P3はアミンの保護基を表す)の化合物を、HCl発生剤によって処理して、式(II)
【化3】

(式中、P1及びP2は上記のとおり定義される)の化合物を生成し、この化合物を、単離することなく、ヒドロキシルアミン誘導体によって処理して、式(III)
【化4】

(式中、P1及びP3は上記のとおり定義され、及びP2はオキシムの保護基を表す)の化合物を生成し、この化合物のアミンを酸の作用によって脱保護化して、式(IV)
【化5】

(式中、P1及びP2は上記のとおり定義される)の化合物を生成し、この化合物を塩基の作用によって環化して、式(V)
【化6】

(式中、P1及びP2は上記のとおり定義される)の化合物を生成し、この化合物のオキシム官能基を還元剤の作用によって還元して、式(I)の化合物を生成し、必要であれば、この化合物を酸の作用によって塩の形とすることを特徴とする式(I)の化合物の製法。
【請求項2】
1がベンジル基を表すことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
3が3級-ブトキシ-カルボニル基を表すことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
2がベンジル基を表すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
式(b)の化合物を、メタンスルホン酸の存在下、塩化リチウムにて処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
式(III)の化合物のアミンを、この化合物を予め単離することなく、メタンスルホン酸の作用によって脱保護化することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
式(IV)の化合物の環化を、炭酸水素ナトリウムの作用によって行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
式(III)
【化7】

(式中、P1、P2及びP3は、請求項1のとおり定義される)の化合物。
【請求項9】
式(IV)
【化8】

(式中、P1及びP2は請求項1のとおり定義される)の化合物。
【請求項10】
式(V)
【化9】

(式中、P1及びP2は請求項1のとおり定義される)の化合物。

【公表番号】特表2010−539147(P2010−539147A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524543(P2010−524543)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001280
【国際公開番号】WO2009/090320
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(508276176)
【Fターム(参考)】