説明

二軸混練押出機及び二軸混練押出機での負荷トルク算出方法

【課題】左右一対の混練スクリュが設けられた混練部と、混練スクリュ駆動用の駆動モータと、混練部と駆動モータとを連結する減速部と、を有する二軸混練押出機において、混練スクリュに働く負荷トルクを正確に算出する方法を提供する。
【解決手段】二軸混練押出機1には、駆動モータ3と減速部4との間に出力軸3aの負荷トルクを検出するトルク検出手段5が設けられ、混練部2と減速部4との間に混練スクリュ12a,12b間に生じる回転位相差を検出する位相差検出手段6が設けられていて、検出された負荷トルクと回転位相差とから各混練スクリュ12a,12bの負荷トルクを算出する負荷算出手段7が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸混練押出機、及びこの二軸混練押出機に備えられた混練スクリュに作用する負荷トルクを算出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二軸混練押出機は、バレル内に設けられた混練室に対して左右一対の混練スクリュが回転自在に挿通された混練部と、これら両混練スクリュの回転駆動力を発生する駆動モータと、駆動モータの回転駆動力を減速し且つ各混練スクリュへ分配する減速部とを有している。
二軸混練押出機では、駆動モータの駆動によりバレル内で2本の混練スクリュを回転させつつ、バレルに設けられた投入ホッパから被混練材料を投入すると、この被混練材料は混練スクリュで混練されながらバレル先端へ向けて圧送され、バレル先端側に設けられた吐出部から押し出されるようになる。
【0003】
かかる二軸混練機では、被混練材料が十分に溶融していなかったり混練されにくい材料であったりした際に、混練スクリュに高い負荷(負荷トルク)が加わってクラックの発生や折損に至るおそれがある。そこで混練スクリュに高負荷トルクが加わらないように監視する必要があった。
そこで、負荷トルクを求める方法として、混練スクリュの入力軸に歪ゲージを貼り付けて、発生する出力信号をテレメータ式の測定器によって非接触で取り込むことが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−179212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、テレメータ式を採用する場合、歪ゲージ側には電波発信用の電源(電池)、発信器などが、入力軸近傍にはアンテナなどが必要になるため、混練スクリュ軸に取り付けられるテレメータ測定器が大型化する。これに対して、図3に示す如く、二軸混練押出機の多くは2本の混練スクリュの軸間距離が短い上に、複数の軸受部50や歯車51等が多数配備されており、スペース的にテレメータ測定器の設置が困難なことが多い。
なお、駆動モータの出力軸など広いスペースを有するところに、トルクセンサを取り付けることは可能であるが、この場合、2本の混練スクリュに生じた負荷トルクの合成値が検出されることになる。そのため、両混練スクリュに生じたトルクが同位相で生じているときなら問題なくとも、逆位相で生じたときには検出値の相殺が起こり、適正な負荷の監視ができない危険性があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、混練スクリュに発生する負荷トルクを正確且つ確実に検知することができる二軸混練押出機、及び、二軸混練押出機における負荷トルクの算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
すなわち、本発明に係る二軸混練押出機は、一対の混練スクリュが回転自在に挿通された混練部と、前記混練スクリュを回転駆動させる駆動モータと、混練部と駆動モータとの間に配備され且つ駆動モータの回転駆動力を減速し前記一対の混練スクリュへ分配する減速部と、を有するものであって、前記駆動モータと減速部との連結間に、当該駆動モータの出力軸に発生する負荷トルクを検出するトルク検出手段が設けられると共に、混練部と減速部との連結間に、一対の混練スクリュの間に生じる回転の位相差を検出する位相差検出手段が設けられ、前記トルク検出手段が検出した負荷トルクと位相差検出手段が検出した回転の位相差とから、一対の混練スクリュのそれぞれに発生する負荷トルクを算出する負荷算出手段が設けられていることを特徴とする。
【0007】
これにより、各混練スクリュに発生する負荷トルクを正確且つ確実に検出できることとなる。加えて、負荷算出手段は、2本の混練スクリュに生じたトルクが同位相で生じようと逆位相で生じようと、各混練スクリュごとに分離させてトルクを算出することができるので、適正な負荷の監視が可能となる。
なお、前記位相差検出手段は、混練スクリュの入力軸の周りに一定間隔で設けられ且つ前記回転軸と一体回転可能となっている被検部と、前記被検部を非接触で検出する非接触センサと、を有しているとよい。
【0008】
この位相差検出手段は、2本の混練スクリュに生じる「ねじれ角」をズレを、回転の位相差として検出するものである。この位相差検出手段は、非接触型であるため省スペース化を図ることができ、2本の混練スクリュの軸距が短い場合にも採用可能となっている。
なお好ましくは、前記被検部は、混練スクリュの入力軸に同軸状に設けられた歯車の歯先部とするとよい。
一方、本発明に係る二軸混練押出機での負荷トルク算出方法は、一対の混練スクリュが回転自在に挿通された混練部と、前記混練スクリュを回転駆動させる駆動モータと、混練部と駆動モータとの間に配備され且つ駆動モータの回転駆動力を減速し一対の混練スクリュへ分配する減速部と、を有する二軸混練押出機に対し、前記駆動モータと減速部との連結間で当該駆動モータの出力軸に発生する負荷トルクを検出すると共に、前記混練部と減速部との連結間で一対の混練スクリュ間に生じる回転の位相差を検出し、検出された負荷トルクと回転の位相差とから、一対の混練スクリュのそれぞれに発生する負荷トルクを算出することを特徴とする。
【0009】
この負荷トルク算出方法によれば、駆動モータの出力軸に発生する負荷トルクと、一対の混練スクリュ間に生じる回転の位相差とから、各混練スクリュに発生する負荷トルクを確実に算出することができる。なお、検出された負荷が予め定めた異常値に至った場合には、異常警報の報知や混練スクリュの回転停止などを行うとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る二軸混練押出機及び負荷トルク算出方法によれば、駆動モータの出力軸に発生する負荷トルクと一対の混練スクリュ間に生じる回転の位相差とから、各混練スクリュに発生する負荷トルクを確実に算出することができる。このように算定された負荷トルクを用いることで、混練スクリュの負荷状況を正確且つ確実に監視できるので、混練スクリュをクラックの発生や折損などから保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る二軸混練押出機の1つの実施形態を示している。
この二軸混練押出機1は、一対の混練スクリュ12a,12bが回転自在に挿通された混練部2と、一対の混練スクリュ12a,12bに対する回転駆動力を発生する駆動モータ3と、これら混練部2と駆動モータ3との間に配備された減速部4とを有している。
駆動モータ3と減速部4との連結間には、トルク検出手段5が設けられ、混練部2と減速部4との連結間には、位相差検出手段6が設けられている。トルク検出手段5の出力と位相差検出手段6の出力は、負荷算出手段7へ入力されるものとなっている。
【0012】
詳しくは、混練部2は、左右にめがね孔状にくり抜かれた状態で設けられた一対の混練室10a,10bを有したバレル11に対し、それぞれの混練室10a,10b内に左右一対の混練スクリュ12a,12bが回転自在に挿通されたものである。
バレル11には、上流側(図1の右側)寄りに投入ホッパ(図示せず)が設けられ、下流側(図1の左側)となるバレル先端側に吐出部16が設けられている。
混練スクリュ12a,12bは、入力軸17a,17bとこの入力軸17a,17bから下流側へ延びたスクリュ部18a,18bとを有していている。入力軸17a,17bへは、駆動モータ3の出力軸3aから減速部4を介して回転駆動力が入力される。
【0013】
スクリュ部18a,18bは、混練セグメントや送りセグメントが軸方向に適宜配置されたもので、両混練スクリュ12a,12bの回転時には、半溶融又は溶融状態に加熱された被混練材料を混練室10a,10b内で混練しつつ下流側へ向けて圧送できるようになっている。
減速部4は、駆動モータ3の出力軸3aと連結される入力軸20と、この入力軸20へ入力された回転駆動力を減速しつつ、混練スクリュ12a,12bの入力軸17a,17bへ向けて2系統へ分配する複数段のギヤ部21とを有したものである。
【0014】
なお、入力軸20と駆動モータ3との連結間には、カップリング装置22を設けておき、必要に応じて動力の伝達を切断可能にしておくのが好適とされる。
位相差検出手段6は、混練部2と減速部4との連結間であって入力軸17a,17bの適宜位置において、2本の混練スクリュ12a,12bのそれぞれの回転角を検出し、それらの両者間に生じる位相差を検出するようになっている。
各混練スクリュ12a,12bの回転角は、各混練スクリュ12a,12bの入力軸17a,17bに対して一体回転可能に設けた被検歯車26a,26bと、この被検歯車26a,26bに近接させて設けた非接触式の距離センサ27a,27bとを組み合わせることで検出することができる。すなわち、被検歯車26a,26bのまわりには周方向に一定間隔をおいて歯先部が並んでおり、電磁式、超音波式、光学式の距離センサ27a,27bで、かかる歯先部を被検部としてピックアップし検出信号を出力する。
【0015】
図2に示すように、各距離センサ27a,27bからは、混練スクリュ12a,12bの回転数に応じて一定波形(例えば、正弦波や矩形波)の信号が得られ、これらの波形信号は信号処理回路等で構成された位相差抽出手段28へ取り込まれる。2本の混練スクリュ12a,12bに発生した負荷トルク(ねじれ角)が同じときには、図2(a)のように互いの波形の位相は一致するが、負荷トルクが異なるときには、図2(b)に示すように波形間に位相差θεが生じ、位相差抽出手段28はこの位相差θεを検出することができる。
【0016】
なお、被検歯車26a,26bは、混練スクリュ12a,12bの入力軸方向に厚みを持たせた円板状の回転体に対し、その外周面に、周方向で一定間隔に被検マーク(白黒マーク等)を表示したものに置換することができる。その他、被検歯車26a,26bは、円板状の回転体に対し、その外周部に周方向で一定間隔に切欠を設けることで風車状に形成したもの、白黒の格子模様が長手方向に印刷された帯体を入力軸17a,17bに直接巻き付けたものなど、種々のものに置換することも可能である。
トルク検出手段5は、駆動モータ3と減速部4との連結間であって減速部4の入力軸20の適宜位置に配備され、減速部4の入力軸20、換言すれば、駆動モータ3の出力軸3aに発生する負荷トルク負荷トルク(以降、駆動側トルクと呼ぶこともある)を検出するものである。本実施形態のトルク検出手段5は、入力軸20に対して設けられたトルクメータ30であって、このトルクメータ30で検出された駆動側トルク値が負荷算出手段7に入力される。
【0017】
なお、トルクメータ30は、出力軸3aやカップリング装置22に設けてもよい。駆動モータ3の出力軸3a近傍には、設置スペースが比較的広く存在するため、被検歯車30を設ける代わりに、入力軸20へ歪ゲージを貼り付けて、発生する出力信号をテレメータ測定器によって非接触で取り込む方式を採用することも可能である。
負荷算出手段7は、トルク検出手段5で得られた駆動側トルクと、位相差抽出手段28の出力結果(回転位相差)とを取り込んで、これらを基に、左右一対の混練スクリュ12a,12bにおける負荷トルクを個別に算出するようになっている(具体的な算出方法は後述)。
【0018】
次に、上述した二軸混練押出機1の作動態様、すなわち、二軸混練押出機での負荷トルク算出方法を説明する。
駆動モータ3により、減速部4を介して混練部2の混練スクリュ12a,12bを回転駆動させ、投入ホッパから被混練材料を投入すると、被混練材料は両混練スクリュ12a,12bの回転を受けて混練室10a,10b内で混練されつつ下流側へ向けて圧送され、吐出部16から押し出されるようになる。
この間、トルク検出手段5では駆動側トルクを検出し、検出値は負荷算出手段7へ取り込まれる。
【0019】
位相差検出手段6では、距離センサ27a,27bが、混練スクリュ12a,12bにおける回転状況を検出し、検出された波形信号は位相差抽出手段28へ取り込まれる。位相差抽出手段28では、両混練スクリュ12a,12bにおける回転波形を比較し、両波形間に生じている位相差θε(図2(b)参照)を検出する。
負荷算出手段7では、位相差抽出手段28で検出された回転位相差と、トルク検出手段5で得られた駆動側トルクとを用いて、左右の混練スクリュ12a,12bにおける個別の負荷トルクを算出する。
【0020】
負荷算出手段7における負荷トルクの算出は次の通りである。
まず、求めようとする右側の混練スクリュ12aの負荷トルクをTRとおき、左側の混練スクリュ12bの負荷トルクをTLとおく。また、TMをトルク検出手段5で検出される駆動側トルク、θR,θL を入力軸17a,17bのねじれ角、KR,KL を入力軸17a,17bのねじれ剛性とする。
このとき、式(1)〜式(3)の関係が成り立ち、それらより式(4)が導出される。
【0021】
【数1】

【0022】
一般に、左右の混練スクリュ12a,12bはねじれ剛性が同じとなるように設計されている場合が多く、その場合、KR=KLとおくことができるため、式(4)は式(5)の如く変形される。
【0023】
【数2】

【0024】
式(1)と式(5)より、右側の混練スクリュ12aの負荷トルクTRと、左側の混練スクリュ12bの負荷トルクTLは、式(6),式(7)のようになる。
【0025】
【数3】

【0026】
ゆえに、トルクメータ30で得られた駆動側トルクTMと、位相差検出手段6で検出された回転位相差θε(θε=θR−θL)を(式6)及び(式7)に代入することで、TR及びTLを算出できる。
なお、KRとKLとが同じでない場合では、式(1)〜式(4)を変形することで得られた式(8)及び式(9)を用い、TR及びTLを求めるとよい。
【0027】
【数4】

【0028】
加えて、負荷算出手段7は、式(6),式(7)又は式(8),式(9)を使って算出した負荷トルクTR,TLが、左右の混練スクリュ12a,12bに許容範囲を超えたと判断したときには、例えば、駆動モータ3の制御部32を制御し、必要に応じて非常停止(混練スクリュ12a,12bの回転停止)を実行してもよい。制御部32の制御と同時又は制御部32の制御は行わずに、運転管理者への異常報知を行うようにしてもよい。
このようにして、左右の混練スクリュ12a,12bに許容範囲を超える負荷トルクが加わらないように監視することができ、混練スクリュ12a,12bをクラックの発生や折損などから保護することができる。
【0029】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る二軸混練押出機の模式図である。
【図2】(a)は2本の混練スクリュにおける回転位相差の無い状態を示した図であり、(b)は、2本の混練スクリュにおける回転位相差が発生した状態を示した図である。
【図3】二軸押出混練機の内部を示した図である。
【符号の説明】
【0031】
1 二軸混練押出機
2 混練部
3 駆動モータ
4 減速部
5 トルク検出手段
6 位相差検出手段
7 負荷算出手段
10a,10b 混練室
11 バレル
12a,12b 混練スクリュ
17a,17b 混練スクリュの入力軸
26a,26b 被検歯車
27a,27b 距離センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の混練スクリュが回転自在に挿通された混練部と、前記混練スクリュを回転駆動させる駆動モータと、混練部と駆動モータとの間に配備され且つ駆動モータの回転駆動力を減速し前記一対の混練スクリュへ分配する減速部と、を有する二軸混練押出機において、
前記駆動モータと減速部との連結間に、当該駆動モータの出力軸に発生する負荷トルクを検出するトルク検出手段が設けられると共に、混練部と減速部との連結間に、一対の混練スクリュの間に生じる回転の位相差を検出する位相差検出手段が設けられ、
前記トルク検出手段が検出した負荷トルクと位相差検出手段が検出した回転の位相差とから、一対の混練スクリュのそれぞれに発生する負荷トルクを算出する負荷算出手段が設けられていることを特徴とする二軸混練押出機。
【請求項2】
前記位相差検出手段は、混練スクリュの入力軸の周りに一定間隔で設けられ且つ前記回転軸と一体回転可能となっている被検部と、前記被検部を非接触で検出する非接触センサと、を有していることを特徴とする請求項1に記載の二軸混練押出機。
【請求項3】
前記被検部は、混練スクリュの入力軸に同軸状に設けられた歯車の歯先部であることを特徴とする請求項2に記載の二軸混練押出機。
【請求項4】
一対の混練スクリュが回転自在に挿通された混練部と、前記混練スクリュを回転駆動させる駆動モータと、混練部と駆動モータとの間に配備され且つ駆動モータの回転駆動力を減速し一対の混練スクリュへ分配する減速部と、を有する二軸混練押出機に対し、
前記駆動モータと減速部との連結間で当該駆動モータの出力軸に発生する負荷トルクを検出すると共に、前記混練部と減速部との連結間で一対の混練スクリュ間に生じる回転の位相差を検出し、
検出された負荷トルクと回転の位相差とから、一対の混練スクリュのそれぞれに発生する負荷トルクを算出することを特徴とする二軸混練押出機での負荷トルク算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−196302(P2009−196302A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42895(P2008−42895)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】