説明

二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムおよび二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法

【課題】ポリアリーレンスルフィド樹脂と液晶性ポリエステルのアロイ材において、フィルム中の液晶性ポリエステルの再凝集を抑制し、延伸によるポリアリーレンスルフィド樹脂と液晶性ポリエステル界面に発生するボイドを抑制することで、低熱膨張性に優れた二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】液晶性ポリエステル(a)1〜60重量部とポリアリーレンスルフィド樹脂(b)40〜99重量部を合計100重量部となるよう配合した二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムであり、該フィルム中のポリアリーレンスルフィド樹脂(b)が連続相であり、液晶性ポリエステル(a)が分散相であり、液晶性ポリエステル分散粒子の平均粒子径が0.1〜0.8μmであることを特徴とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、低熱膨張性に優れた二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに関するものであり、さらに詳しくは、回路基板、工程紙・離形材料、製版印刷材料、光学・ディスプレイ材料などの各種工業材料用途において好適に用いられる二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気、電子部品分野において、機器の小型化や高機能化の観点から、ハンダ耐熱性、熱および湿度に対する高寸法安定性、低吸水性および高周波特性などの諸特性が高次元でバランスした絶縁材料への要求が増加している。その中で、ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略称する場合がある)は、耐熱性、低吸水性、湿度に対する高寸法安定性、高周波特性などの利点を有するため、回路用絶縁材料用として注目を集めている。しかし、PPSは、熱膨張係数が大きいため、ガラス繊維や粒状の無機充填材を添加して熱膨張を抑える必要があった(特許文献1、2)。しかし、これらの方法は、必ずしも満足いくものではなく、表面平滑性、コスト面で問題を抱えており、新規な手法の開発が望まれていた。
【0003】
また、近年、プラスチックの高性能化に対する要求がますます高まり、種々の新規性能を有するポリマーが数多く開発され市場に供されているが、中でも分子鎖の平行な配列を特徴とする光学異方性の液晶性ポリエステルなどの液晶性ポリマーが優れた成形性と機械的性質を有する点で注目され、電気・電子部品用途を中心とした射出成形品用途で需要が拡大している。
【0004】
これらの液晶性ポリエステルの優れた特性を熱可塑性樹脂に付与することを目的として、熱可塑性樹脂と液晶性ポリエステルのアロイが種々検討されている(特許文献3)。しかし、液晶性ポリエステルは、液晶構造という剛直なメソゲンが隙間なく配列する特殊な分子構造を有しており、凝集力が強く自由体積が小さいために、他の熱可塑性樹脂とのアロイにおいては一旦微細な分散構造を形成することができたとしても、熱滞留や物理的せん断場の変化などによって、液晶性ポリエステル相が再凝集してしまい、安定的な材料とすることができなかった。
【0005】
また、PPS樹脂中に液晶性ポリエステルを含有し熱膨張を抑えたフィルムが提案されている(特許文献5)。しかし、得られたPPSフィルム中に分散する液晶性ポリエステルの分散性は十分ではなく、延伸によってポリフェニレンスルフィド樹脂と液晶性ポリエステルの界面でボイドが発生し、フィルム破れが発生するため製膜安定性が十分でない問題があった。
【特許文献1】特開平5−310957号公報
【特許文献2】特許第2952923号公報
【特許文献3】特開平8−170024号公報
【特許文献4】特開2004−244630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を解決し、ポリアリーレンスルフィド樹脂と液晶性ポリエステルのアロイ材において、フィルム中の液晶性ポリエステルの再凝集を抑制し、延伸によるポリアリーレンスルフィド樹脂と液晶性ポリエステル界面に発生するボイドを抑制することで、低熱膨張性に優れた二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、含有する液晶性ポリエステルの分散粒径を0.1〜0.8μmとすることで、これまでのポリアリーレンスルフィドフィルムに対して顕著に熱膨張係数が改良された二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムが得られることを見いだし、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)液晶性ポリエステル(a)1〜60重量部とポリアリーレンスルフィド樹脂(b)40〜99重量部を合計100重量部となるよう配合した二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムであり、該フィルム中のポリアリーレンスルフィド樹脂(b)が連続相であり、液晶性ポリエステル(a)が分散相であり、液晶性ポリエステル分散粒子の平均粒子径が0.1〜0.8μmであることを特徴とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム、
(2)更に、熱膨張係数が50ppm/℃以下であることを特徴とする上記(1)記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム、
(3)フィルム中のボイド率が1%未満である上記(1)および(2)に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム、
(4)液晶性ポリエステルが下記構造単位(I)〜(V)から構成される液晶性ポリエステルであることを特徴とした上記(1)〜(3)に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム、
【0009】
【化1】

【0010】
(5)液晶性ポリエステル(a)とポリアリーレンスルフィド樹脂(b)の含有量の和を100重量部としたときに、エポキシ基、アミノ基およびイソシアナート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する相溶化剤(c)を0.01〜3重量部添加する請求項1〜3に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム、
(6)樹脂圧2MPa以上で溶融混練した液晶性ポリエステルとポリアリーレンスルフィド樹脂の組成物を溶融押出しして二軸延伸することを特徴とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法、
(7)樹脂圧3MPa以上で溶融混練した液晶性ポリエステルとポリアリーレンスルフィド樹脂の組成物を溶融押出しして二軸延伸することを特徴とする上記(6)に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、ポリアリーレンスルフィド樹脂と液晶性ポリエステルのアロイ材とすることで、フィルム中の液晶性ポリエステルの再凝集を抑制し、延伸によるポリアリーレンスルフィド樹脂と液晶性ポリエステル界面に発生するボイドを抑制することで、低熱膨張性に優れた二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の液晶性ポリエステル(a)は、異方性溶融相を形成し得るポリエステルであり、例えば芳香族オキシカルボニル単位、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルである。
【0013】
芳香族オキシカルボニル単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などから生成した構造単位、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位としては、例えば、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどから生成した構造単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などから生成した構造単位が挙げられる。
【0014】
液晶性ポリエステルの具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族ジカルボン酸および/または脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボンから生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステルなどが挙げられる。
【0015】
特に好ましいのは、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶性ポリエステルである。
【0016】
【化2】

【0017】
上記構造単位(I)はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位であり、構造単位(II)は4,4´−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位を、構造単位(III)はハイドロキノンから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸から生成した構造単位を、構造単位(V)はイソフタル酸から生成した構造単位を各々示す。
【0018】
構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65〜80モル%であり、より好ましくは68〜75モル%である。また、構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60〜75モル%であり、より好ましくは65〜73モル%である。また、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して60〜92モル%であり、好ましくは60〜70モル%であり、より好ましくは62〜68モル%である。 特に、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して62〜68モル%である場合には、本発明の特性である成形加工性がバランス良く発現するため好ましい。構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は実質的に等モルであるが、ポリマーの末端基を調節するためにカルボン酸成分またはヒドロキシル成分を過剰に加えてもよい。すなわち「実質的に等モル」とは、末端を除くポリマー主鎖を構成するユニットとしては等モルであるが、末端を構成するユニットとしては必ずしも等モルとは限らないことを意味する。
【0019】
本発明において使用する上記液晶性ポリエステルの製造方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。
【0020】
例えば、上記液晶性ポリエステルの製造において、次の製造方法が好ましく挙げられる。
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4´−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンとテレフタル酸、イソフタル酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステルおよび4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸のジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸およびテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0021】
なかでもp−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法が好ましい。
【0022】
さらに、4,4´−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンの合計使用量とテレフタル酸およびイソフタル酸の合計使用量は、実質的に等モルである。無水酢酸の使用量は、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4´−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンのフェノール性水酸基の合計の1.15当量以下であることが好ましく、1.10当量以下であることがより好ましく、下限については1.0当量以上であることが好ましい。
【0023】
本発明の液晶性ポリエステルを脱酢酸重縮合反応により製造する際に、液晶性ポリエステルが溶融する温度で減圧下反応させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。例えば、所定量のp−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸、無水酢酸を攪拌翼、留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら加熱し水酸基をアセチル化させた後、液晶性ポリエステルの溶融温度まで昇温し、減圧により重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。アセチル化させる条件は、通常130〜300℃の範囲、好ましくは135〜200℃の範囲で通常1〜6時間、好ましくは140〜180℃の範囲で2〜4時間反応させる。重縮合させる温度は、液晶性ポリエステルの溶融温度、例えば、250〜350℃の範囲であり、好ましくは液晶性ポリエステルの融点+10℃以上の温度である。重縮合させるときの減圧度は通常0.1mmHg(13.3Pa)〜20mmHg(2660Pa)であり、好ましくは10mmHg(1330Pa)以下、より好ましくは5mmHg(665Pa)以下である。なお、アセチル化と重縮合は同一の反応容器で連続して行っても良いが、アセチル化と重縮合を異なる反応容器で行っても良い。得られたポリマーは、それが溶融する温度で反応容器内を例えば、およそ1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口よりストランド状に吐出することができる。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少ない優れたポリマーを得ることができ好ましい。
【0024】
本発明の液晶性ポリエステルを製造する際に、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。例えば、本発明の液晶性ポリエステルのポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕し、窒素気流下、または、減圧下、液晶性ポリエステルの融点−5℃〜融点−50℃(例えば、200〜300℃)の範囲で1〜50時間加熱し、所望の重合度まで重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。固相重合法は高重合度のポリマーを製造するための有利な方法である。
【0025】
液晶性ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0026】
本発明の液晶性ポリエステルは、数平均分子量は3,000〜25,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜20,000、より好ましくは8,000〜18,000の範囲である。
【0027】
なお、この数平均分子量は液晶性ポリエステルが可溶な溶媒を使用してGPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により測定することが可能である。
【0028】
また、本発明における液晶性ポリエステルの溶融粘度は1〜200Pa・sが好ましく、10〜200Pa・sがより好ましく、さらには10〜100Pa・sが特に好ましい。
【0029】
なお、この溶融粘度は液晶性ポリエステルの融点+10℃の条件で、ずり速度1000/sの条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0030】
なお、本発明では、融点(Tm)とは示差熱量測定において、重合を完了したポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1 )の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2 )を指す。
【0031】
本発明のポリアリーレンスルフィド(b)とは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を有するホモポリマーあるいはコポリマーであり、Arとしては下記の式(A)〜式(K)などで表される単位を挙げることができる。
【0032】
【化3】

【0033】
(R1、R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィドの繰り返し単位としては、上記の式(A)で表される構造式が好ましく、これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、フィルム物性と経済性の観点から、ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略称することがある)が好ましく例示され、ポリマーの主要構成単位として下記構造式で示されるp−フェニレンスルフィド単位を好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む樹脂である。かかるp−フェニレンスルフィド成分が80モル%未満では、ポリマーの結晶性や熱転移温度などが低く、PPSの特徴である耐熱性、寸法安定性、機械特性および誘電特性などを損なうことがある。
【0034】
【化4】

【0035】
上記PPS樹脂において、繰り返し単位の20モル%未満、好ましくは10モル%未満であれば、共重合可能な他のスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。繰り返し単位の20モル%未満、好ましくは10モル%未満の繰り返し単位としては、例えば、3官能単位、エーテル単位、スルホン単位、ケトン単位、メタ結合単位、アルキル基などの置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位およびカーボネート単位などが例として挙げられ、具体例として、下記の構造単位を挙げることができる。これらのうち一つまたは二つ以上共存させて構成することができる。この場合、該構成単位は、ランダム型またはブロック型のいずれの共重合方法であってもよい。
【0036】
【化5】

【0037】
PPS樹脂の溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、温度315℃で剪断速度1,000(1/sec)のもとで、100〜10,000Pa・sの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは200〜4,000Pa・sの範囲である。
【0038】
本発明でいうPPSは種々の方法、例えば、特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、あるいは、特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きい重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0039】
本発明において、得られたPPS樹脂を、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水および酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネートおよび官能基ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化など、種々の処理を施した上で使用することも可能である。
【0040】
次に、PPS樹脂の製造法を例示するが、本発明では特にこれに限定されない。
【0041】
例えば、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230〜280℃で重合反応させる。重合後にポリマーを冷却し、ポリマーを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマーを得る。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃、10〜60分攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄、乾燥してPPS粉末を得る。この粉末ポリマーを酸素分圧10トール以下、好ましくは5トール以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃のイオン交換水で数回洗浄し、5トール以下の減圧下で乾燥する。かくして得られたポリマーは、実質的に線状のPPSポリマーであるので、安定した延伸製膜が可能になる。
【0042】
PPS樹脂の加熱による架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気や酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素やアルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。加熱処理温度は、通常170〜280℃が選択され、より好ましくは200〜270℃であり、また、加熱処理時間は、通常0.5〜100時間が選択され、より好ましくは2〜50時間であるが、この両者を制御することにより目標とする粘度レベルを得ることができる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置であってもよいが、効率よくしかも均一に処理するためには、回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置を用いることが好ましい。
【0043】
PPS樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間は0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間加熱処理する方法を例示することができる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置でもよいが、効率よくしかもより均一に処理するためには回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置を用いることが好ましい。本発明で用いるPPS樹脂は、引張破断伸度の向上の目標を達成するために熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPSであることが好ましい。
【0044】
本発明で用いられるPPS樹脂は、脱イオン処理を施されたPPS樹脂であることが好ましい。脱イオン処理の具体的方法としては、酸水溶液洗浄処理、熱水洗浄処理、および有機溶剤洗浄処理などを例示することができ、これらの処理は2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
PPS樹脂の有機溶剤洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、有機溶剤としては、PPS樹脂を分解する作用などを有していないものであれば特に制限はなく、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒の中で、N−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムが特に好ましく用いられる。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合系で使用してもよい。
【0046】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要に応じて適宜攪拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度について特に制限はなく、常温〜300℃の範囲で任意の温度を選択することができる。洗浄温度が高くなるほど、洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の温度で十分効果が得られる。また、有機溶媒洗浄を施されたPPS樹脂は残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
【0047】
PPS樹脂の熱水洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱し攪拌することにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の方が多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0048】
PPS樹脂の酸水溶液洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要に応じて適宜攪拌または加熱することも可能である。用いられる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸および酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸やジクロロ酢酸などのハロゲン置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸やクロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸やサリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸およびフマル酸などのジカルボンン酸、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸および珪酸などの無機酸性化合物などが挙げられる。中でも酢酸と塩酸が好ましく用いられる。酸処理を施されたPPS樹脂は、残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。また、洗浄に用いられる水は、酸処理によりPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。酸水溶液洗浄処理を施すと、PPS樹脂の酸末端成分が増加して、他の熱可塑性樹脂と混合する場合に分散混合性が高まる効果が得られやすく好ましい。
【0049】
本発明における液晶性ポリエステル(a)とポリアリーレンスルフィド樹脂(b)との配合比は、液晶性ポリエステル(a)1〜60重量部とポリアリーレンスルフィド樹脂(b)40〜99重量部であることが本発明において重要であるが、より好ましくは、液晶性ポリエステル(a)10〜50重量部とポリアリーレンスルフィド樹脂(b)50〜90重量部、さらに好ましくは液晶性ポリエステル(a)30〜40重量部とポリアリーレンスルフィド樹脂(b)60〜70重量部である。これらは、ポリマー成分が合計100重量部となるように配合するものである。液晶性ポリエステルの配合量が1重量部未満の場合、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの熱膨張係数を低減できない場合があり、液晶性ポリエステルの配合量が60重量部を越えると液晶性ポリエステルが連続相となり、製膜においてフィルム破れが発生する場合がある。
【0050】
また、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムでは、ポリアリーレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、液晶性ポリエステルが分散相となる相構造を形成することが必要であるが、液晶性ポリエステルの配合量が60重量部以下の場合,液晶性ポリエステルが分散相を形成することができ、本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの熱膨張係数を低減することができる。液晶性ポリエステルが連続相を形成する場合、製膜における延伸工程でフィルム破れが発生し、安定した製膜が実施できない場合がある。
【0051】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、フィルム中に存在する液晶性ポリエステル分散粒子の平均粒子径が、0.1〜0.8μmであることが必須であるが、好ましくは、0.3〜0.7μm、より好ましくは0.4〜0.6μmである。液晶性ポリエステル分散粒子の平均粒子径が0.1μm未満の場合、液晶性ポリエステルの特性である剛性や熱寸法安定性などがポリアリーレンスルフィド樹脂に付与されない場合があり、液晶性ポリエステル分散粒子の平均粒子径が0.8μmを越えると、フィルム中にボイドが発生しやすくなり、本発明の効果である低熱膨張係数が得られない場合がある。
【0052】
ここでいう分散粒子の平均粒子径とは、フィルム長手方向の径と幅方向の径と厚さ方向の径の平均値を意味する。該平均粒子径は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡などの手法を用いて測定することができる。例えば、サンプルを超薄切片法で作成し、透過型電子顕微鏡を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、1万倍で写真を撮影して、得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、任意の50個の分散相を選択し、画像処理を行うことにより、平均粒子径を計算することができる。
【0053】
液晶性ポリエステル(a)の分散相の形状は、球状もしくは細長い島状、小判状、あるいは繊維状であることが好ましい。分散相のアスペクト比は、1〜30の範囲であることが好ましい。より好ましい分散相のアスペクト比の範囲は2〜20であり、さらに好ましい範囲は2〜10である。これら島成分のアスペクト比を上記範囲にすることにより、本発明の効果を得やすくなる。ここで、アスペクト比は、分散相の平均長径/平均短径の比を意味するものである。該アスペクト比は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡などの手法を用いて測定することができる。例えば、サンプルを超薄切片法で作成し、透過型電子顕微鏡を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、1万倍で写真を撮影して、得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、任意の50個の分散相を選択し、画像処理を行うことにより、アスペクト比を計算することができる。
【0054】
フィルム中の液晶性ポリエステルの粒子径を本発明の範囲とするためには、後述する本発明の混練により得られたアロイ組成物を溶融製膜することにより得ることができる。該混練により得られるアロイ組成物中に含まれる液晶性ポリエステル粒子の平均粒子径は、0.1〜0.8μmであることが好ましく、より好ましくは、0.3〜0.7μm、さらに好ましくは0.4〜0.6μmである。アロイ組成物中の液晶性ポリエステル分散粒子の平均粒子径が0.1μm未満の場合、液晶性ポリエステルの特性である剛性や熱寸法安定性などがポリアリーレンスルフィド樹脂に付与されない場合があり、アロイ組成物中の液晶性ポリエステル分散粒子の平均粒子径が0.8μmを越えると、製膜における押出しにおいて、液晶性ポリエステルが再凝集する場合があり、また、フィルム中にボイドが発生しやすくなり、本発明の効果である低熱膨張係数が得られない場合がある。
【0055】
アロイ組成物中に含まれる液晶性ポリエステル粒子の平均粒子径とは、分散粒子の長径を意味する。該平均粒子径は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡などの手法を用いて測定することができる。例えば、サンプルを超薄切片法で作成し、透過型電子顕微鏡を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、1万倍で写真を撮影して、得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、任意の50個の分散相を選択し、画像処理を行うことにより、平均粒子径を計算することができる。
【0056】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドの製造方法においては、製膜における溶融押出し工程において液晶性ポリエステルとポリアリーレンスルフィド樹脂を混練する方法を用いることができるが、液晶性ポリエステルとポリアリーレンスルフィド樹脂をあらかじめ混練してマスターチップ化し、該マスターチップを溶融押出しして製膜する方法がより好ましく用いられる。
【0057】
本発明においては、液晶性ポリエステル粒子の分散性の向上と滞留時の再凝集抑制、および製膜延伸における液晶性ポリエステル粒子周りのボイド抑制を目的として、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の基を有する相溶化剤(c)を液晶性ポリエステル(a)とポリアリーレンスルフィド樹脂(b)の合計100重量部に対し、0.01〜3重量部添加することが好ましい。
【0058】
かかる相溶化剤の(c)具体例としては、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4‘−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2.2.5.5.−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビスフェノール類のグリシジルエーテル、ビスフェノールの替わりにハロゲン化ビスフェノールを用いたもの、ブタンジオールのジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系化合物等々のグリシジルエポキシ樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、エポキシ化大豆油等の線状エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の環状系の非グリシジルエポキシ樹脂などが挙げられる。またその他ノボラック型エポキシ樹脂も挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂はエポキシ基を2個以上有し、通常ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて得られるものである。また、ノボラック型フェノール樹脂はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる。原料のフェノール類としては特に制限はないがフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、レゾルシノール、p−ターシャリーブチルフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールSおよびこれらの縮合物が挙げられる。エポキシ樹脂の中でも、特にグリシジルエステル型のエポキシ樹脂が好ましく、中でもシクロジカルボン酸型のエポキシ樹脂が好ましく、具体例としては、ジャパンエポキシレジン製のエピコート191Pなどが挙げられる。
【0059】
またその他エポキシ基を有するオレフィン共重合体も挙げられる。かかるエポキシ基を有するオレフィン共重合体(エポキシ基含有オレフィン共重合体)としては、オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体が挙げられる。また、主鎖中に二重結合を有するオレフィン系重合体の二重結合部分をエポキシ化した共重合体も使用することができる。
【0060】
オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入するための官能基含有成分の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
【0061】
これらエポキシ基含有成分を導入する方法は特に制限なく、α−オレフィンなどとともに共重合せしめたり、オレフィン(共)重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。
【0062】
エポキシ基を含有する単量体成分の導入量はエポキシ基含有オレフィン系共重合体の原料となる単量体全体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが適当である。
【0063】
本発明で特に有用なエポキシ基含有オレフィン共重合体としては、α−オレフィンとα、β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合成分とするオレフィン系共重合体が好ましく挙げられる。上記α−オレフィンとしては、エチレンが好ましく挙げられる。また、これら共重合体にはさらに、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル、スチレン、アクリロニトリル等を共重合することも可能である。
【0064】
またかかるオレフィン共重合体はランダム、交互、ブロック、グラフトいずれの共重合様式でも良い。
【0065】
α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合してなるオレフィン共重合体は、中でも、α−オレフィン60〜99重量%とα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル1〜40重量%を共重合してなるオレフィン共重合体が特に好ましい。
【0066】
上記α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルとしては、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルおよびエタクリル酸グリシジルなどが挙げられるが、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。
【0067】
α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g―ポリスチレン、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−アクリロニトリル−スチレン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−PMMA、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。
【0068】
さらに、相溶化剤の具体例として、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の官能基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナート基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0069】
上記のエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の官能基を有するアルコキシシランが本発明の相溶化剤として好ましく、中でも、イソシアネート基を有するアルコキシシランが液晶性ポリエステルを含む二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの分散相の分散不良による粗大分散物を低減しやすく、平均分散径を本発明の好ましい範囲に制御しやすくなり、本発明の効果が得られやすくなるため最も好ましい。
【0070】
また、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の官能基を有するアルコキシシランを用いた場合、ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの間にシロキサン結合を形成しやすく、分散相の界面近傍にシロキサン結合が存在しやすい。TEM−EDX法などを用いて分散相の界面近傍にシリコン原子を検出することができる。本発明では、熱可塑性樹脂Aからなる分散相の界面にシロキサン結合に起因するシリコン(Si)原子を含むことが好ましい。
【0071】
相溶化剤(c)の配合量は、液晶性ポリエステル(a)とポリアリーレンスルフィド樹脂(b)の合計100重量部に対して、0.01〜3重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜1.0重量部であり、更に好ましくは0.2〜0.5重量部である。相溶化剤(c)の配合量が0.01重量部未満の場合、液晶性ポリエステル粒子の分散性が悪化する場合があり、3重量部を超えるとガス量の増加によるフィルム破れが発生したり、増粘による製膜性悪化を引き起こしたりする場合がある。
【0072】
また本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムにおいては、液晶性ポリエステル粒子とポリアリーレンスルフィド樹脂連続相の界面相の平均厚みが0.01μm以上であることが本発明の効果を得るために好ましい態様であり、より好ましくは0.02μm以上である。
【0073】
界面厚みの測定は、例えば、任意のフィルム断面の電子顕微鏡観察により、任意の50個の粒子について測定することで算出することができる。界面厚みは、任意断面のもっとも界面厚みの厚い部分をもって測定するものとする。
【0074】
本発明の液晶性ポリエステルには、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料および顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤などの通常の添加剤、熱可塑性樹脂以外の重合体を配合して、所定の特性をさらに付与することができる。
【0075】
また本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの熱膨張係数は、50ppm/℃以下であることが好ましい。より好ましくは、40ppm/℃以下であり、さらに好ましくは、30ppm/℃以下である。熱膨張係数が50ppm/℃を越えると、回路材料用フィルムや工程・離型材料用フィルム、印刷材料用フィルムなどの加工時に熱変形してカールしたりする場合がある。
【0076】
二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの熱膨張係数を上記範囲とする方法は、フィルム中に含まれる液晶性ポリエステル粒子の平均粒子径を本願規定の範囲とし、本願規定の製造方法によって得ることができる。
【0077】
また本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムのボイド率は1%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.5%以下であり、さらに好ましくは、0.3%以下であり、もっとも好ましいのは0%である。フィルム中のボイド率が1%を越えると、製膜における延伸工程においてフィルム破れを発生する場合があり、また、本発明の低熱膨張化の効果が得られない場合がある。
【0078】
二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムのボイド率を上記範囲とする方法は、フィルム中に含まれる液晶性ポリエステル粒子の平均粒子径を本願発明の範囲とすることにより得ることができる。また、液晶性ポリエステル粒子相とポリアリーレンスルフィド樹脂連続相との界面厚みを本願記載の範囲とすることが好ましい態様である。
【0079】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムはフィルム厚みが10μm以上300μm以下が好ましく、より好ましくは15μm〜100μm、さらに好ましくは20μm〜60μmである。フィルム厚みが10μmより薄い場合は、フィルムを取り扱うときに容易に変形してしまうため、取扱いが困難となる場合がある。また、フィルム厚みが300μmを超える場合は、製膜における延伸工程でフィルム破れが発生しやすく生産性が悪化する場合がある。
【0080】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、脂肪酸エステルおよびワックスなどの有機滑剤など他の成分が添加されてもよい。
【0081】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを構成するポリアリーレンスルフィド樹脂と液晶性ポリエステルが含まれる混合物を混合する時期は、特に限定されないが、溶融押出前に、ポリアリーレンスルフィド樹脂と液晶性ポリエステルの混合物を予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップ化する方法が好ましく用いられる。該ポリアリーレンスルフィドは、あらかじめ不活性粒子と混合させたものを使用してもかまわない。マスターチップ化する場合、二軸押出機などのせん断応力のかかる高せん断混合機を用いて混練する方法などが好ましく例示される。その場合、通常の一軸押出機に該混合されたマスターチップ原料を投入して溶融製膜してもよいし、高せん断を付加した状態でマスターチップ化せずに直接にシーティングしてもよい。二軸押出機で混合する場合、分散不良物を低減させる観点から、3条二軸タイプまたは2条二軸タイプのスクリューを装備したものが好ましい。
【0082】
通常の混練ではニーディングブロックを多く組み込んだり、流路を制限したりしてせん断速度を高くすることで自由体積を減少して分散性を向上する検討がなされるが、液晶性ポリエステルは、物理的なせん断力を与えると粘度が著しく低下する性質を有しているため、樹脂圧が向上せず液晶性ポリエステルの分散性が向上しない場合がある。
【0083】
そこで、本発明では、液晶性ポリエステルが、液晶開始温度以上融点以下の温度域においてせん断速度を適度に保ちながら、樹脂の供給量を制御し、樹脂温度を液晶性ポリエステルの液晶開始温度以上融点以下の範囲に保ちながら混練することによって、樹脂圧を2MPa以上という、通常の液晶性ポリエステルアロイの製造条件ではあり得ない高圧にすることによって、液晶性ポリエステル粒子の平均粒径が低下できることを見出したものである。
【0084】
ここで液晶開始温度とは、せん断速度1000(1/秒)の条件下で流動を開始する温度であり、例えば剪断応力加熱装置(CSS−450)により剪断速度1,000(1/秒)、昇温速度5.0℃/分、対物レンズ60倍において測定し、視野全体が流動開始する温度を測定することで定められる。
【0085】
液晶開始温度は、与えるせん断速度によって±5℃程度変化するため、押出条件によっては適正な温度が変化するが、好ましくは液晶開始温度−5℃〜融点以下の温度であり、より好ましくは液晶開始温度−2℃〜液晶開始温度+5℃であり、より好ましくは液晶開始温度±2℃の範囲である。
【0086】
本発明において、樹脂圧を上記範囲とする方法は、フィード量を従来の制御範囲よりも大きな範囲で制御することにより得ることができる。例えば、従来の制御範囲が吐出量10〜12kg/時間の35mmφ押出機では、フィード量を上げることで18〜20kg/時間とすると樹脂圧を倍増することが可能であるが、通常このような場合には供給過多となり,ベントからの樹脂のあふれ出し等の異常が起こり、従来では不可能であった。そこで本発明では、樹脂温度の制御と、スクリュー回転数を制御することで、樹脂に与えるせん断速度を500〜3000/s、より好ましくは800〜2000/sとすることで、異常を起こすことなく樹脂圧を高めることが可能となる。液晶性ポリエステル粒子分散性の観点から、樹脂圧は3MPa以上がより好ましい。樹指圧の上限は押出機によって左右され、より高圧に耐えられる機械を用いれば10MPaでの混練も可能である。樹脂圧が2MPa未満の場合、液晶性ポリエステル粒子の平均粒径が増加する場合があり、また、液晶性ポリエステル粒子とポリアリーレンスルフィド連続相との界面厚みが低下する場合がある。
【0087】
ここで言う樹脂圧とは、樹脂が受ける圧力であり、例えば測定したい押出機部位に樹脂圧計をつけることにより測定できる。
【0088】
本発明において、液晶性ポリエステルとポリアリーレンスルフィド樹脂との混練圧力を2MPa以上とするために、混練温度、せん断速度800〜2000の範囲におけるポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度ηaに対する液晶性ポリエステルの溶融粘度ηbの比ηb/ηaが0.5〜1.5の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.2であり、もっとも好ましくは0.9〜1.1である。
【0089】
二軸押出機の構成としては、噛み合い型、二軸同方向回転スクリューが好ましく、スクリュー長/径比(L/D)は25〜60が好ましく、より好ましくは30〜50であり、さらに好ましくは40〜45である。
【0090】
押出機はベントを一カ所以上有していることが好ましく、より好ましくは2カ所以上に有していることであり、ベントの場所としては、サイドフィーダー後のニーディングブロックの後ろに設置することが好ましく、より好ましくはサイドフィーダー前のニーディングブロックの前にも設置すると樹脂の発生ガスが効率良く除去できるので好ましい。
【0091】
混練方法としては、1)液晶性ポリエステル、ポリアリーレンスルフィド樹脂、任意成分である充填材およびその他の添加剤との一括混練法、2)まず液晶性ポリエステルにその他の添加剤を高濃度に含む液晶性ポリエステル組成物(マスターペレット)を作成し、次いで規定の濃度になるように液晶性ポリエステル、ポリアリーレンスルフィド樹脂、任意成分である充填材および残りの添加剤を添加する方法(マスターペレット法)、3)液晶性ポリエステルとその他の添加剤の一部を一度混練し、ついで残りのポリアリーレンスルフィド樹脂、任意成分である充填材および残りの添加剤を添加する分割添加法など、どの方法を用いてもかまわない。
【0092】
次いで、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを製造する方法について、不活性粒子として粒径1.2μmの炭酸カルシウムを用い、ポリアリーレンスルフィド樹脂としてポリ−p−フェニレンスルフィド(PPSと略称することがある)と液晶性ポリエステルからなる二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造を例にとって説明する。もちろん、本発明は、下記の記載に限定されない。
【0093】
本発明では、まず、PPSと炭酸カルシウムのマスター原料を作成する。PPSと炭酸カルシウムを二軸混練押出機に投入し、重量分率が95/5〜70/30となるマスター原料を作成する。混合・混練方法は、特に限定されることはなく各種混合・混練手段が用いられる。例えば、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、ブレンダーあるいはタンブラー等の混合機を利用して混合し、その後、溶融混練機にて溶融混練することでもよい。
【0094】
次いで、PPSと液晶性ポリエステルのマスター原料を作成する。PPSと液晶性ポリエステルを二軸混練押出機に投入し、PPSと液晶性ポリエステルの重量分率が99/1〜40/60のブレンド原料を作成することが好ましい。ブレンド原料の樹脂組成物の混合・混練方法は、上記記載の混合・混練手段が好ましく用いられる。
【0095】
PPSと炭酸カルシウムあるいはPPSと液晶性ポリエステルの混練は、それぞれをベント式の二軸混練押出機に供給し、溶融混練してブレンドチップを得る。二軸押出機などのせん断応力のかかる高せん断混合機を用いることが好ましく、さらに、分散不良物を低減させる観点から、3条二軸タイプまたは2条二軸タイプのスクリューを装備したものが好ましく、そのときの滞留時間は1〜5分の範囲が好ましい。また、混練部を220〜350℃の温度範囲とすることが好ましく、さらに好ましい温度範囲は220〜300℃である。混練部の温度範囲を好ましい範囲にすることは、せん断応力を高めやすく、分散不良物も低減できる効果が高くなり、分散相の平均粒子径を本発明の好ましい範囲に制御することができる。また、スクリュー回転数を100〜500回転/分とすることが好ましく、さらに好ましくは200〜400回転/分の範囲である。また、二軸押出機の(スクリュー軸長さ/スクリュー軸径)の比率は25〜60の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは30〜50の範囲である。さらに、二軸スクリューにおいて、混練力を高めるためにニーディングパドルなどによる混練部を設けることは好ましく、その混練部を2箇所以上設けて、各混練部の間を通常のフィードスクリューとしたスクリュー形状にすることはさらに好ましい。
【0096】
PPSと液晶性ポリエステルを混合する上で、相溶化剤が添加されると、分散不良物が低減できて相溶性が高まることがある。
【0097】
次いで、上記ペレタイズ作業により得られた、PPSと炭酸カルシウムのマスター原料およびPPSと液晶性ポリエステルからなるマスター原料を、必要に応じてPPSや製膜後の回収原料や粒子を混合した原料を一定の割合で適宜混合して、180℃で3時間以上減圧乾燥した後、300〜350℃の温度、好ましくは320〜340℃に加熱された押出機に投入する。その後、押出機を経た溶融ポリマーをフィルターに通過させた後、その溶融ポリマーをTダイの口金を用いてシート状に吐出する。このシート状物を表面温度20〜70℃の冷却ドラム上に密着させて冷却固化し、実質的に無配向状態の未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを得る。
【0098】
次に、この未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを二軸延伸し、二軸配向させる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を用いる。延伸温度については、フィルムを構成するPPSや液晶性ポリエステルの混同組成により異なるが、例えば、PPSが60重量部、炭酸カルシウムが0.3重量部、液晶性ポリエステルが40重量部からなる樹脂組成物を例にとって以下説明する。
【0099】
未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを加熱ロール群で加熱し、長手方向(MD方向)に2.6〜4倍、より好ましくは2.8〜3.8倍、さらに好ましくは、3.0〜3.6倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。延伸温度は、Tg(PPSのガラス転移温度)〜(Tg+50)℃、好ましくは(Tg+5)〜(Tg+50)℃、さらに好ましくは(Tg+5)〜(Tg+40)℃の範囲である。その後20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0100】
MD延伸に続く幅方向(TD方向)の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸温度はTg〜(Tg+60)℃が好ましく、より好ましくは(Tg+5)〜(Tg+50)℃、さらに好ましくは(Tg+10)〜(Tg+40)℃の範囲である。延伸倍率は2.6〜4倍、より好ましくは2.8〜3.8倍、さらに好ましくは3.0〜3.6倍の範囲である。
【0101】
次に、この延伸フィルムを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。好ましい熱固定温度は、200〜275℃、より好ましくは220〜270℃、さらに好ましくは240〜265℃の範囲である。熱固定時間は0.2〜30秒の範囲で行うことが好ましい。さらにこのフィルムを40〜180℃の温度ゾーンで幅方向に弛緩しながら冷却する。弛緩率は、引張破断伸度を向上させる観点から1〜10%であることが好ましく、より好ましくは1〜8%、さらに好ましくは1〜5%の範囲である。
【0102】
さらに、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得る。
【0103】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
(1)フィルム厚み
23℃65%RHの雰囲気下でアンリツ(株)製電子マイクロメータ(K−312A型)を用いて、針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
【0104】
(2)界面厚み
フィルムの任意断面を切削し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した。任意の分散粒子の界面に存在する両相と色の異なる中間相の厚みを界面の垂直方向に測定した。1つの粒子の内もっとも界面厚みの厚い部分について測定し、50個について平均数平均界面厚みを算出して、界面厚みとした。
【0105】
(3)平均粒子径
予備混練で得られたアロイ組成物の任意断面およびフィルムを(ア)長手方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(イ)幅方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(ウ)フィルム面に対して平行な方向に切断し、サンプルを超薄切片法で作製した。分散相のコントラストを明確にするために、オスミウム酸やルテニウム酸、リンタングステン酸などで染色してもよい。切断面を透過型電子顕微鏡(日立製H−7100FA型)を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、2万倍で写真を撮影した。得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、任意の50個の分散相を選択し、必要に応じて画像処理を行うことにより、次に示すようにして分散相の大きさを求めた。ひとつの画像で分散相が100個未満の場合は、同じ方向の別の切断面を観察して100個の分散相を選択することができる。(ア)の切断面に現れる個々の分散相のフィルム厚み方向の最大長さ(la)と長手方向の最大長さ(lb)、(イ)の切断面に現れる個々の分散相のフィルム厚さ方向の最大長さ(lc)と幅方向の最大長さ(ld)、(ウ)の切断面に現れる個々の分散相のフィルム長手方向の最大長さ(le)と幅方向の最大長さ(lf)を求めた。次いで、分散相の形状指数I=(lbの数平均値+leの数平均値)/2、形状指数J=(ldの数平均値+lfの数平均値)/2、形状指数K=(laの数平均値+lcの数平均値)/2とした場合、分散相の平均分散径を(I+J+K)/3とした。
【0106】
(4)ボイド率
フィルムサンプルをフィルム表面と平行方向に切削し、その切削断面の透過型電子顕微鏡写真を撮る。上記顕微鏡観察は、フィルムサンプルにもよるが、100〜100万倍の倍率範囲で適宜選択して観察すればよい。この顕微鏡写真による画像のボイド部分をマーキングして、そのボイド部分をハイビジョン画像解析処理装置PIAS−VI(ピアス社製)を用いて画像処理を行い、ボイド面積の総和を算出し、下記式によりボイド率を求める。ボイド率は、30視野について測定し平均値とした。
ボイド率(%)={(ボイド面積の総和(μm)/切断面積(μm)}
(5)熱膨張係数
熱機械測定装置TMA/SS6100(セイコーインスツルメンツ社製)を用い、試料幅4mm、試料長さ(チャック間距離)20mmのサンプルに対し、荷重3gを負荷した。室温から250℃(設定255℃)まで昇温速度10℃/分で昇温させ、10分間保持した。その後、20℃まで10℃/分で降温させた。そのとき降温部分の240℃から30℃までの寸法変化量から、下記式により熱膨張係数を求めた。なお、熱膨張係数は、フィルム長手方向および幅方向の平均値とした。
熱膨張係数α(ppm/℃)={(L240−L30)/L0}/ΔT×10
L0:23℃におけるフィルムの長さ
L240:降温時240℃におけるフィルムの長さ
L30:降温時30℃におけるフィルムの長さ
ΔT:温度変化量(240−30=210)
【実施例】
【0107】
(参考例1)
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870g(6.300モル)、4,4´−ジヒドロキシビフェニル327g(1.890モル)、ハイドロキノン89g(0.810モル)、テレフタル酸292g(1.755モル)、イソフタル酸157g(0.945モル)および無水酢酸1367g(フェノール性水酸基合計の1.03当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた後、320℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に90分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0108】
この液晶性ポリエステル(B−1)はp−オキシベンゾエート単位がp−オキシベンゾエート単位、4,4´−ジオキシビフェニル単位および1,4−ジオキシベンゼン単位の合計に対して70モル%、4,4´−ジオキシビフェニル単位が4,4´−ジオキシビフェニル単位および1,4−ジオキシベンゼン単位の合計に対して70モル%、テレフタレート単位がテレフタレート単位およびイソフタレート単位の合計に対して65モル%からなり、Tm(液晶性ポリエステルの融点)は314℃、液晶開始温度は295℃で、数平均分子量12,000であり、高化式フローテスターを用い、温度325℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が15Pa・sであった。
【0109】
なお、融点(Tm)は示差熱量測定において、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)とした。
【0110】
液晶開始温度は、剪断応力加熱装置(CSS−450)により剪断速度1,000(1/秒)、昇温速度5.0℃/分、対物レンズ60倍において測定し、視野全体が流動開始する温度として測定した。
【0111】
また、分子量は液晶性ポリエステルが可溶な溶媒であるペンタフルオロフェノールを使用してGPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により測定し、数平均分子量を求めた。
(参考例2)液晶性ポリエステル
B−2 シベラス(LCP)東レ製
(参考例3)ポリフェニレンスルフィド
A−1 ポリフェニレンスルフィド(PPS) 東レ製T1881
(参考例4)
C−1 ジャパンエポキシレジン製 エピコート191P(シクロジカルボン酸型エポキシ樹脂)
C−2 シェルジャパン製 カージュラE10(ネオデカン酸グリシジルエステル)
C−3 信越化学社製 KBE9007(γ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン)
(実施例1、2)
参考例3のPPS樹脂(A−1)80重量部と不活性粒子として粒径1.2μmの炭酸カルシウムを20重量部となるように配合し、300℃に加熱された、ベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数300回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングして20重量%粒子マスターチップを作製した。
【0112】
ついで、参考例1で作成した液晶性ポリエステル(B−1)40重量部と参考例3のPPS樹脂(A−1)60重量部(実施例1)、液晶性ポリエステル(B−1)30重量部と参考例3のPPS樹脂(A−1)70重量部(実施例2)と、相溶化剤として参考例4のエピコート191P(C−1)0.4重量部を配合し、樹脂温度296℃となるようシリンダ温度を調整したベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数200回転/分、吐出量100kg/時間、樹脂圧3.1MPaで溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドチップを作製した。該ブレンドチップ中の液晶性ポリエステル粒子の平均粒子径を表1に示すが、液晶性ポリエステル粒子の分散性は良好であった。
【0113】
ついで、該PPS/液晶性ポリエステルブレンドチップ原料に対し、全チップに対し炭酸カルシウム粒子濃度が0.3重量%となるようあらかじめ作製した炭酸カルシウム20重量%マスターチップを配合して、150℃で3時間減圧乾燥した後、全チップに対しステアリン酸カルシウム0.05重量%を添加し、溶融部が320℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。
【0114】
次いで押出機で溶融したポリマーを温度320℃に設定したフィルターで濾過した後、温度320℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸ポリフェニレスルフィドフィルムを作製した。
【0115】
この未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、110℃の温度でフィルムの縦方向に3.5倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度110℃、延伸倍率3.5倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度265℃で5秒間の熱処理を行った後、150℃にコントロールされた冷却ゾーンで横方向に3%弛緩処理を行い室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚み30μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作製した。
【0116】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、液晶性ポリエステルの分散性、低熱膨張性に優れたものであった。
(実施例3,4)
実施例1において、PPS樹脂/液晶性ポリエステルブレンドチップの混練条件として、樹脂圧力を2.6、2.0MPaとする以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0117】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、液晶性ポリエステルの分散性、低熱膨張性に優れたものであった。
(実施例5)
実施例1において、参考例1で作成した液晶性ポリエステル(B−1)20重量部と参考例3のPPS樹脂(A−1)80重量部とする以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0118】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、液晶性ポリエステルの分散性、低熱膨張性に優れたものであった。
(実施例6)
実施例1において、参考例1で作成した液晶性ポリエステル(B−1)5重量部と参考例3のPPS樹脂(A−1)95重量部とする以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0119】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、液晶性ポリエステルの分散性に優れるが、熱膨張係数の低下が不十分であった。
(実施例7)
実施例1において、参考例1で作成した液晶性ポリエステル(B−1)60重量部と参考例3のPPS樹脂(A−1)40重量部とする以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0120】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、液晶性ポリエステルの分散性、低熱膨張性に優れたものであったが、フィルム中のボイド率が増加した。
(実施例8)
実施例1において、参考例4のエポキシ化合物を添加しない以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0121】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、製膜における溶融押出しにおいて、液晶性ポリエステルが再凝集しており、フィルム中のボイド率が増加し、熱膨張係数の低下が不十分であった。
(実施例9)
実施例1において、参考例4のエピコート191P(C−1)を1.5重量部配合する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0122】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、エピコートのガス化のためボイド率が増加し、熱膨張係数の低下が不十分であった。
(実施例10)
実施例1において、参考例4のカージュラE10(C−2)を0.4重量部配合する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0123】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、製膜における溶融押出しにおいて、液晶性ポリエステルが再凝集しており、フィルム中のボイド率が増加し、熱膨張係数の低下が不十分であった。
(実施例11)
実施例1において、参考例4のKBE9007(C−3)を0.5重量部配合する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0124】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、液晶性ポリエステルの分散性、低熱膨張性に優れたものであった。
(比較例1)
実施例1においてポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部とする以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0125】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、熱膨張係数が不十分であった。
(比較例2)
実施例1において、PPS樹脂/液晶性ポリエステルブレンドチップの混練条件として、樹脂圧力を1.7MPaとする以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0126】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、液晶性ポリエステルの分散性が不十分であり、フィルムのボイド率が増加し、熱膨張係数の低下が不十分であった。
(比較例3)
実施例1において、参考例1で作成した液晶性ポリエステル(B−1)70重量部と参考例3のPPS樹脂(A−1)30重量部とする以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作製した。しかし、液晶性ポリエステルの配合量が多く、製膜延伸によるフィルム破れが多発して製膜不可であった。
(比較例4)
実施例1において、参考例1で作成した液晶性ポリエステル(B−1)0.5重量部と参考例3のPPS樹脂(A−1)95.5重量部とする以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0127】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、液晶性ポリエステルの分散性に優れるが、液晶性ポリエステルの配合量が少ないため熱膨張係数が不十分であった。
(比較例5)
実施例1において、参考例1の液晶性ポリエステルとしてシベラス(B−2)を用いる以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0128】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、液晶性ポリエステルの分散性が不十分であり、熱膨張係数が不十分であった。
【0129】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、低熱膨張性に優れたフィルムであり、特に、回路基板材料用フィルムとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性ポリエステル(a)1〜60重量部とポリアリーレンスルフィド樹脂(b)40〜99重量部を合計100重量部となるよう配合した二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムであり、該フィルム中のポリアリーレンスルフィド樹脂(b)が連続相であり、液晶性ポリエステル(a)が分散相であり、液晶性ポリエステル分散粒子の平均粒子径が0.1〜0.8μmであることを特徴とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項2】
フィルムの熱膨張係数が50ppm/℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項3】
フィルム中のボイド率が1%未満であることを特徴とする請求項1および2に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
液晶性ポリエステルが下記構造単位(I)〜(V)から構成される液晶性ポリエステルであることを特徴とした請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【化1】

【請求項5】
液晶性ポリエステル(a)とポリアリーレンスルフィド樹脂(b)の含有量の和を100重量部としたときに、エポキシ基、アミノ基およびイソシアナート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する相溶化剤(c)を0.01〜3重量部添加する請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項6】
樹脂圧2MPa以上で溶融混練した液晶性ポリエステルとポリアリーレンスルフィド樹脂の組成物を溶融押出しして二軸延伸することを特徴とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法。
【請求項7】
樹脂圧3MPa以上で溶融混練した液晶性ポリエステルとポリアリーレンスルフィド樹脂の組成物を溶融押出しして二軸延伸することを特徴とする請求項6に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−291222(P2007−291222A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120133(P2006−120133)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】