説明

二軸配向ポリエステルフィルムおよび包装袋

【課題】 ポリエステルフィルムの特長である、低吸湿性、寸法安定性、平面性、透明性を維持したままで、かつ、包装材料用フィルムとして要求される耐屈曲ピンホール性、耐衝撃性を併せ持つポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 A層とB層が交互に5層以上積層されたポリエステルフィルムであって、A層がポリエステル樹脂(A)からなり、B層がポリエステル樹脂(B)99〜60質量%およびエラストマー(C)1〜40質量%からなり、かつ、B層の1層当たりの平均層厚みをt、エラストマー(C)のフィルム厚み方向の平均分散径をdとしたとき、d≦t≦2dの関係を満足することを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを用いた蒸着フィルム、包装用フィルムならびに包装袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムの代表例であるポリエチレンテレフタレート二軸延伸フィルムは、良好な機械強度、熱的特性、湿度特性、その他多くの優れた特性から、工業材料、磁気記録材料、光学材料、情報材料、包装材料など幅広い分野において使用されている。
【0003】
しかしながら、耐屈曲ピンホール性、耐衝撃性が特に重要となる包装材料用途では、ポリエチレンテレフタレートフィルムはその強靱さの裏返しである硬さ故に特性が不十分であり、柔軟性に優れ、耐衝撃性やゲルボテストに代表される耐屈曲ピンホール性、さらにはそれらの低温での優れた特性を有するポリアミド二軸延伸フィルムが多く使用されている。
【0004】
また、芳香族ポリアミドは芳香環を有することで吸湿性については改善されるが、溶融製膜が困難であり、溶液製膜であっても特殊で危険性の高い溶媒を使用しなければならず、生産性に劣るという問題がある。
【0005】
それに対して、ポリエステルは溶融製膜可能であり、吸湿性にも乏しいことから、ポリアミドのような問題は生じないが、先に述べたように包装材料に要求される耐屈曲ピンホール性、耐衝撃性に劣るという課題があった。
【0006】
これらの問題点に対し、従来、ポリエステルの耐屈曲ピンホール性を向上させる試みとして、たとえば、特許文献1には、特定のヤング率を有する柔軟性ポリエステルフィルムが開示されている。
【0007】
また、特許文献2、特許文献3には、特定分子量のポリテトラメチレングリコールを特定の割合でポリエステルに混合したポリエステルフィルムが開示されている。なお、特許文献2においては、さらに特定の粒子を特定量添加することも記載されている。
【0008】
さらには、特許文献4には、特定量のポリテトラメチレングリコールを含有する変性ポリブチレンテレフタレートにポリエチレンテレフタレートを添加してなる柔軟性ポリエステルフィルムが開示されており、特許文献5には、融点の異なる二つのポリエステルを混練し耐屈曲性に優れたポリエステルフィルムを得る方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、これら従来の手法では、フィルムの機械特性や透明性が悪化したり、酸化アルミニウムや酸化ケイ素などを用いた透明蒸着性が悪いなどの問題あり、さらには、最も重要な耐屈曲ピンホール性、製袋後の耐衝撃性が未だ不十分であるという問題があった。
【0010】
さらに、特許文献6にはフィルム中に特定のガラス転移点を有するポリマーが分散しており、その分散径が特定範囲内であることで包装材料としての特性に優れるポリエステルフィルムが開示されている。しかしながら、このフィルムでは低ガラス転移点ポリマーの分散位置を制御できていないため、分散状態に偏りが起こることが不可避であるため、フィルム中に特性ばらつきが起こり、強度が弱いところに応力集中しピンホールが発生したり、破袋したりするという問題があった。
【特許文献1】特開平6−79776号公報
【特許文献2】特開平7−330926号公報
【特許文献3】特開平8−41184号公報
【特許文献4】特開2001−11213号公報
【特許文献5】特開2003−113259号公報
【特許文献6】特開2004−18742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上記した問題点を解消することにある。すなわち、ポリエステルフィルムの特長を維持したままで、かつ、耐屈曲ピンホール性、および耐衝撃性に優れる二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、A層とB層が交互に5層以上積層されたポリエステルフィルムであって、A層がポリエステル樹脂(A)からなり、B層がポリエステル樹脂(B)99〜60質量%およびエラストマー(C)1〜40質量%からなり、かつ、B層の1層当たりの平均層厚みをt、エラストマー(C)のフィルム厚み方向の平均分散径をdとしたとき、d≦t≦2dの関係を満足することを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルムによって達成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、包装材料として要求される耐屈曲ピンホール性、耐衝撃性に優れた特性を有するものであり、この優れた特性を生かしてガスバリアフィルムや包装用フィルムとして好適に使用することができ、特に食品包装用途などに好ましく使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、A層とB層が交互に5層以上積層されることが必要である。積層数は好ましくは10〜2000層、より好ましくは30〜1000層、特に好ましくは50〜500層である。積層数が4層以下では耐屈曲ピンホール性や突刺強さなどにも優れたフィルムが得難い。また、積層数の上限は特に限定されるものではないが、2000層を越えると、1層当たりの層厚みが極めて薄くなってしまい、A層を構成する樹脂とB層を構成する樹脂を単にブレンドした単層フィルムと同等の特性しか得られない場合がある。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、A層がポリエステル樹脂(A)からなり、B層がポリエステル樹脂(B)99〜60質量%とエラストマー(C)1〜40質量%からなることが必要である。耐屈曲ピンホール性、耐衝撃性、耐熱寸法安定性、透明性の観点からはエラストマー(C)の添加量が2〜20質量%であればより好ましく、3〜10質量%であれば特に好ましい。
【0016】
また、本発明のポリエステルフィルムにおいて、B層の1層当たりの平均層厚みtとエラストマー(C)のフィルム厚み方向の平均分散径dの関係が、d≦t≦2dの関係を満足することが必要である。d≦t≦1.8dであれば更に好ましく≦t≦1.5dであれば特に好ましい。tとdが係る関係を満足すると、エラストマー(C)がフィルム中に均一に分散し、分散状態に偏りが起こらないためである。また、エラストマー(C)同士の最近接分散間距離を小さくすることが可能となり、屈曲や落下衝撃などの変形で発生する応力を均一分散することができ、耐屈曲ピンホール性や耐衝撃性が向上する。一方、d>tの関係となる場合は、製膜後のエラストマー(C)に残留応力があったり、エラストマーが原因の厚み斑が発生することがあり特性に劣ってしまう。一方、t>2dであると、エラストマー(C)の分散状態が偏ってしまい、A層とB層を交互に多層積層した意義が乏しくなり、特性向上が認められないためである。
【0017】
ここで、B層の1層当たりの平均層厚みtとエラストマー(C)のフィルム厚み方向の平均分散径dの関係が、d≦t≦2dの関係を満足するようにする達成方法としては、特に限定されるものではないが、溶融状態でA層とB層を交互に積層した後、スクエアミキサーやスタティックミキサーを用いてd≦t≦2dの関係を満足するように積層数を増加させる方法を好ましく用いることができる。さらに、A層とB層の押出機からの吐出量比率を変更することでtをさらに好ましい範囲内とでき、さらに好ましい範囲である、d≦t≦1.8d、d≦t≦1.5dの関係を達成することができる。なお、エラストマー(C)のフィルム厚みの平均分散径dについては、エラストマー(C)とマトリックス樹脂であるポリエステル樹脂(B)との相溶性、溶融粘度差によって決まることから、予めB層のみからなる単層フィルムを作成し、その際のdを評価することで、tの範囲を決定することができる。
【0018】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとは、主鎖中の主要な結合をエステル結合とする高分子化合物の総称であって、通常、ジカルボン酸成分とグリコール成分もしくはジカルボン酸エステル化合物とグリコール成分を重縮合反応させることによって得ることができる。ここで、ジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホンジカルボン酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸などを挙げることができる。また、ジカルボン酸エステル化合物としては上記ジカルボン酸化合物のエステル化物、例えばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸2−ヒドロキシエチルメチルエステル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、ダイマー酸ジメチルなどを挙げることができる。一方、ジヒロドキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族ジヒドロキシ化合物などが挙げられる。これらの中でも、ジカルボン酸化合物としてはテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸もしくはこれらのジメチルエステル化合物を、ジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコールなどを好ましく用いることができる。特に、テレフタル酸もしくはテレフタル酸ジメチルと、エチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレートおよびテレフタル酸もしくはテレフタル酸ジメチルと、1,4−ブタンジオールからなるポリブチレンテレフタレートを用いることが好ましい。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムのA層を構成するポリエステル樹脂(A)およびB層を構成するポリエステル樹脂(B)としては、融点が245〜265℃であるエチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステルと融点が190〜240℃であるブチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステルからなることが好ましい。ここで、エチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステルとは、95モル%以上がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステル樹脂のことである。融点が245℃未満であれば、フィルムの耐熱性が劣り、寸法安定性などが悪化する場合がある。また、融点が265℃を越えると、B層に添加するエラストマー(C)との熱特性差が拡がりすぎてしまい、溶融押出性、製膜安定性に悪影響する場合がある。寸法安定性の点からは、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とする芳香族ポリエステルは融点が250〜265℃であれば更に好ましい。一方、ブチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステルとは、70モル%以上がブチレンテレフタレート単位からなるポリエステル樹脂のことである。融点が190℃未満であれば、耐熱性が悪化する場合がある。一方、融点を240℃以上とすることはブチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする限りは困難である。更に好ましい融点としては200〜235℃であり、一層好ましくは210〜235℃である。
【0020】
さらに、エチレンテレテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステル98〜70質量%とブチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステル2〜30質量%を混合してポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)とすることが好ましい。なお、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)に使用する芳香族ポリエステルは同一であっても良いし、異なっても良い。また、混合割合も同一であっても良いし、異なっていても良い。耐屈曲ピンホール性の点でポリブチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステルを10〜30質量%とすることが更に好ましい混合割合であり、耐熱性も考慮すると15〜25質量%であれば特に好ましい。
【0021】
エチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステルとブチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステルの混合方法としては、重合段階で、エチレングリコールとブチレングリコールの共存下でテレフタル酸とエステル化反応させることにより、もしくはテレフタル酸のエステル誘導形成体とエステル交換反応により重縮合して共重合ポリエステルとする方法(この際、第3の共重合成分を重合系に共存させても良い)、または、エチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートを別々に重合(共重合ポリエステルでも良い)、ペレット化し、製膜時に所定の混合比となるようにブレンド、乾燥し、溶融押出を行うことで混合する方法などが挙げられるが、後者の別々に重合した芳香族ポリエステルを混合する方法が、ポリエステル樹脂の取扱い性、フィルムの耐熱性の点から好ましい。
【0022】
本発明で用いるエラストマー(C)とは、高温で可塑化されてプラスチックスと同様に成形でき、常温(20〜30℃)ではゴム弾性体の性質を示し、エントロピー弾性を発揮させるためのゴム成分(ソフトセグメント)と高温(100℃以上の温度領域)では流動するが常温(20〜30℃)では塑性変形を阻止する仕掛けを作るために必要な拘束成分(ハードセグメント)よりなるポリマーである。エラストマーとしては、ポリスチレン系エラストマー(ハードセグメント:ポリスチレン、ソフトセグメント:ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリブタジエン、エチレン−プロピレン共重合ゴムなど)、ポリオレフィン系エラストマー(ハードセグメント:ポリエチレンまたはポリプロピレン、ソフトセグメント:エチレン−プロピレン共重合ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリブタジエンなど)、ポリエステル系エラストマー(ハードセグメント:ポリエステル、ソフトセグメント:ポリエーテルまたはポリエステル)、ポリアミド系エラストマー(ハードセグメント:ポリアミド、ソフトセグメント:ポリエーテルまたはポリエステル)、その他としてハードセグメントをシンジオ−1,2−ポリブタジエンとし、ソフトセグメントをアタクチック−1,2−ポリブタジエンとしたものなどが挙げられる。さらにエラストマーに水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミド基及び無水マレイン酸成分などの官能基および官能基形成成分を一部導入してもよい。これらの中でもポリスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーが耐衝撃性改善のためには好ましい。具体的には、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー)、SEBS(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンコポリマー)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンコポリマー)、SEP(スチレン−エチレン/プロピレンコポリマー)などのポリスチレン系エラストマー、HYTREL(東レ・デユポン製)、ARNITEL(Akzo Chemie製)、ペルプレン(東洋紡製)、LOMOD(General Electric製)などのポリエステル系エラストマーが好適に使用できる。透明性、耐熱性、製膜安定性の点で特にポリエステル系エラストマーを用いることが好ましい。
【0023】
なお、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを再ペレット化し、自己回収原料として使用する場合には、A層にエラストマー(C)を含有してもよい。しかし、この場合でも、A層中に含まれるエラストマー(C)の量と、B層中に含まれるエラストマー(C)の量との重量比(A/B)が0.001〜0.5であることが好ましく、0.001〜0.3であるとさらに好ましく、0.001〜0.2であれば特に好ましい。エラストマー(C)の含有重量比(A/B)が0.5を越えると耐熱性、蒸着や印刷といった二次加工性、積層精度に劣る場合がある。
【0024】
上記したA層およびB層に含まれるポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)やエラストマー(C)の組成およびその量は、プロトン核磁気共鳴分光法(H−NMR)もしくはカーボン13核磁気共鳴分光法(13C−NMR)により、モル比率、又は重量比率の定量を行うことができる。
【0025】
また、エラストマー(C)のフィルム面内方向の平均分散径は1〜10μmであることが好ましい。耐屈曲性、耐衝撃性の観点から面内方向の平均分散径が2〜10μmであればさらに好ましく、3〜8μmであれば特に好ましい。エラストマー(C)の面内方向の平均分散径がかかる範囲内であれば、フィルムの断面を観察したとき、単位断面積当たりのエラストマー出現個数が多くなり、また、フィルム厚み方向に任意の場所で鉛直に直線を引いた際にエラストマーと直線が交叉する回数が多くなり、屈曲や落下衝撃などの変形で発生する応力を効率よく分散することができ、耐屈曲ピンホール性や耐衝撃性が大きく向上する。平均分散径が1μm未満であると、単位断面積当たりのエラストマー出願個数が少なくなり、特性に劣る場合がある。一方、平均分散径が10μmを越える場合にも、マトリックスであるポリエステル(B)との間ではく離が発生した場合にフィルムの破壊につながってしまうために特性に劣る場合がある。
【0026】
ここで、エラストマー(C)の面内方向の平均分散径および厚み方向平均分散径dは以下のようにして定量を行うことができる。フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、フィルムの断面がサンプル面となるようにミクロトームをしようして超薄切片を作成する。このフィルム断面の薄膜切片を四酸化ルテニウムにて染色し、透過型電子顕微鏡を用いて倍率2万倍でフィルム断面写真を撮影する。得られた写真から染色されて観察されるエラストマー(C)について面内方向の分散径と厚み方向の分散径を10ヶ所測定し、その平均値をそれぞれ面内方向の平均分散径もしくは厚み方向の平均分散径dとした。
【0027】
ここで、エラストマー(C)の分散径を制御する方法としては、特に限定されるものではないが、マトリックス樹脂であるポリエステルとの相溶性、溶融粘度差やズリ速度、ドラフト比などの溶融押出条件、さらに、面内方向の分散径は特に延伸条件によって制御する方法を挙げることができる。特に、同じエラストマーを用いた場合は、延伸条件によりより高配向化することで、面内方向の分散径を大きくすることが可能であり、その結果上記した好ましい平均分散径範囲を満足することで包装材料として優れた特性を発揮することが可能となる
本発明の積層ポリエステルフィルムにおけるA層およびB層には、取扱い性、加工性を向上させるために、平均粒子径0.01〜5μmの粒子を含有することが好ましい。A層およびB層に添加することができる粒子は、たとえば、内部粒子、無機粒子、有機粒子を好ましく用いることができる。本発明の好ましい態様の積層ポリエステルフィルムでは、A層およびB層に、粒子を、好ましくは0.01〜3質量%、より好ましくは0.03〜3質量%、さらに好ましくは0.05〜2質量%、特に好ましくは0.05〜1質量%含有させることができる。
【0028】
本発明の積層ポリエステルフィルムのA層およびB層中に内部粒子を析出させる方法としては例えば、特開昭48−61556号公報、特開昭51−12860号公報、特開昭53−41355号公報、および特開昭54−90397号公報などに記載の技術を採用することができる。さらに、特公昭55−20496号公報や特開昭59−204617号公報などに記載の他の粒子を併用することもできる。平均粒子径を0.01〜5μmとすると、フィルムに欠陥が生じない。
【0029】
本発明の積層ポリエステルフィルムのA層およびB層に含有させることができる無機粒子としては、例えば、湿式および乾式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸アルミ、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミ、マイカ、カオリン、クレーなど、有機粒子としては、スチレン、シリコーン、アクリル酸類、メタクリル酸類、ポリエステル類、ジビニル化合物などを構成成分とする粒子を使用することができる。なかでも、湿式および乾式シリカ、アルミナなどの無機粒子およびスチレン、シリコーン、アクリル酸、メタクリル酸、ポリエステル、ジビニルベンゼンなどを構成成分とする粒子を使用することが好ましい。さらに、これらの内部粒子、無機粒子および有機粒子は二種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、5層以上の積層フィルムであり、この積層ポリエステルフィルムの製造方法は、A層用のポリエステル樹脂(A)とB層用のポリエステル樹脂(B)とを交互に配置することから、2台以上の溶融押出機を用いて、各々の押出機に該熱可塑性樹脂を供給し、溶融押出を行い、Tダイ上部に設置したフィードブロックやスタティックミキサー、マルチマニホールドなどを用いて積層する方法を好ましく用いることができる。
【0031】
特に好ましい製造方法としては、ポリエステル樹脂(A)およびポリエステル樹脂(B)とをフィードブロックにて3層以上に積層した後、スタティックミキサーを用いて積層数を増加させ、Tダイからシート状に吐出し、金属冷却ロール上で急冷することによって、未延伸シートを得る方法を挙げることができる。この時、各層の厚みムラを低減し、層間の接着力の大きなフィルムを得るためには、上記A層の主たる構成成分であるポリエステル樹脂(A)の融点と、B層の主たる構成成分であるポリエステル樹脂(B)の融点の差が10℃以下であることが好ましい。また、上記A層をフィルム両最外層に積層することで、滑り性、表面の耐熱性が良好となるので好ましい。
【0032】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、厚み12μm換算での曇度が0.01〜5%であることが好ましい、曇度が0.01%未満のフィルムは技術的に生産が困難な場合があり経済的でない。また、曇度が5%を越えるとフィルムの外観、透明性が劣るために、透明袋などの包装材料として使用した場合に内容物の視認性に劣ったり、商品価値が低下して見える場合がある。曇度としては、0.1〜4%であればさらに好ましく、特に内部曇度が0.1〜3%であることが好ましい。曇度を掛かる好ましい範囲とする手法については特に限定されるものではないが、ポリエステル樹脂とエラストマー(C)の相溶性が悪いもの、例えばエラストマーとして、ポリプロピレンを含むようなオレフィン系エラストマーを使用した場合には、ポリエステル樹脂マトリックス中で界面はく離を起こし、ボイドが形成されることで曇度が大きくなってしまう場合がある。また、滑剤として添加する無機粒子なども必要以上に多量に添加することで曇度を大きくしてしまう場合がある。また、平均粒子径の大きな粒子を使用すると、特に表面曇度が大きくなり、マット調の表面を形成する場合がある。曇度を好ましい範囲とするためには、エラストマーとしてポリエステル系エラストマーを使用し、また、滑剤粒子はA層およびB層のうち最表層となる層にのみ添加することが好ましい。
【0033】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、面配向係数が0.164〜0.180であることが好ましい。面配向係数は長手、幅、厚み方向の各屈折率をそれぞれNx、Ny、Nzとしたとき、(Nx+Ny)/2−Nzで算出される値であり、分子鎖の面方向の配向度合を示すパラメータである。好ましくは0.164〜0.180、さらに好ましくは0.167〜0.180、特に好ましくは0.169〜0.180であり、掛かる好適な範囲とすることで、分子鎖を面内に配向させ、突刺強さ、面衝撃に優れるフィルムとすることができる。また、面内への配向により、エラストマーの分散径が円盤形状となり、より効率よく、屈曲変形や衝撃エネルギーを吸収、分散させることができ、耐屈曲ピンホール特性に優れるフィルムを得ることができる。掛かる好ましい範囲にするには、二軸延伸での延伸倍率とその際の温度、さらには熱固定工程にて結晶化および非晶配向をコントロールする方法があげられる。
【0034】
本発明の積層ポリエステルフィルムの複屈折の絶対値は0.025以下であることが好ましく、アッベ屈折計で測定される長手方向、幅方向の屈折率をそれぞれNx、Nyとしたとき、その差の絶対値、|Nx−Ny|より算出される。大きいほどフィルム面内の分子鎖の配向が偏っていることを意味しており、0.025を超えると十分な突刺強度が発現しない恐れがある。好ましくは0.01以下、さらに好ましくは0.005以下であり、最も好ましいのは0となることであるが、逐次二軸延伸方式での製膜で0とするのは容易ではない。掛かる好ましい範囲にするのにも、二軸延伸での延伸倍率とその際の温度で配向バランスをコントロールする方法が好ましく用いられる。
【0035】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは、フィルムの厚み方向の屈折率が1.515〜1.47であることが好ましい。さらに好ましくは1.51〜1.48、より好ましくは1.505〜1.48、特に好ましくは1.5〜1.48である。厚み方向の屈折率を掛かる好ましい範囲にすることで、突刺強さと面衝撃、耐屈曲ピンホール特性に優れるフィルムを得ることができる。厚み方向の屈折率を掛かる好ましい範囲とするのも、二軸延伸での延伸倍率とその際の温度をコントロールすることで行うことができるが、さらに二軸延伸後の熱固定工程で面配向した結晶を成長させることで、特に厚み方向の屈折率を制御する方法が好ましく用いられる。
【0036】
本発明の積層ポリエステルフィルムは厚みが6〜50μmであることが好ましく、より好ましくは7〜25μm、特に好ましくは8〜20μmである。厚みが50μmを越えると耐屈曲ピンホール性に劣る場合があり、また6μm未満では突刺強さに劣る場合がある。
【0037】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは包装材料として食品や飲料、あるいは工業材料などの包装袋に好適に用いることができるが、さらにガスバリア性を高めることでより好ましく用いることができる。そのために、フィルムの少なくとも片面に、金属アルミニウム、酸化珪素、酸化アルミニウムなどの金属化合物もしくは、金属酸化物からなる蒸着層を設けることが好ましい。ポリエステルフィルムの表面に蒸着されるこれらの金属化合物もしくは、金属酸化物は、単独で用いても良いし、2種類以上の化合物を混合して用いても良い。
【0038】
また、蒸着簿膜の作製方法としては、真空蒸着法、EB蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができるが、生産性やコストの点から、真空蒸着法が最も好ましい。また、積層ポリエステルフィルムと蒸着層との密着性を向上させるために、フィルムの表面をあらかじめコロナ放電処理やアンカーコート剤を塗布するなどの方法により前処理しておくことが望ましい。
【0039】
このようにして蒸着層が設けられた蒸着ポリエステルフィルムは、屈曲変形してもガスバリア性の低下が少ない。また、耐熱性に優れ、弾性率が大きいため、蒸着後の加工工程における工程張力によってフィルムが伸びることによる蒸着層の破断に起因するガスバリア性低下が起こりにくいという長所がある。
【0040】
また、がズバリア性を付与するために、本発明のフィルムの少なくとも片面にアルミニウム箔を貼り合わせることは好ましいことである。アルミニウム箔の貼合せにはウレタン系やエポキシ系などの接着剤を用いることができる。
【0041】
さらに、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは包装材料として食品や飲料、あるいは工業材料などの包装袋に好適に使用することができるが、そのフィルムの少なくとも片面にポリオレフィンフィルムを貼り合わせることが好ましい。ここで、ポリオレフィンフィルムとしてはヒートシール性を有しているものが好ましく、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、アイオノマー等のシーラントとよばれる無延伸フィルムが特に好ましく用いられる。これらのシーラントを本発明のポリエステルフィルムにラミネートする方法としては、ウレタン系などの接着剤を用いたドライラミネート法や押出ラミネート法などの方法が好ましく用いられる。
【0042】
以下に、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの好ましい製造方法について、具体的に記述する。まず、ポリエステル樹脂としては、市販のポリエチレンテレフタレート樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることができるが、以下のようにして重合し入手する方法を採用してもよい。たとえば、ポリエチレンテレフタレート樹脂の場合、以下の方法により製造することができる。
【0043】
テレフタル酸ジメチル100質量部、およびエチレングリコール70質量部の混合物に、0.09質量部の酢酸マグネシウムと0.03質量部の三酸化アンチモンとを添加して、徐々に昇温し、最終的には220℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行う。ついで、該エステル交換反応生成物に、0.020質量部のリン酸85%水溶液を添加した後、重縮合反応釜に移行する。さらに、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1hPaの減圧下、290℃で常法により重縮合反応を行い、所望の極限粘度のポリエチレンテレフタレート樹脂を得る。粒子を添加する場合は、エチレングリコールに粒子を分散させたスラリーを所定の粒子濃度となるように重合反応釜に添加して、重合を行うことが好ましい。
【0044】
また、ポリブチレンテレフタレートの製造は、たとえば以下のように行うことができる。テレフタル酸100質量部、および1,4−ブタンジオール110質量部の混合物を窒素雰囲気下で140℃まで昇温して均一溶液とした後、0.054質量部のオルトチタン酸テトラ−n−ブチルと、0.054質量部のモノヒドロキシブチルスズオキサイドとを添加し、常法によりエステル化反応を行う。ついで、0.066質量部のオルトチタン酸テトラ−n−ブチルを添加して、減圧下で重縮合反応を行い、所望の極限粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を得る。
【0045】
なお、本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂は、上記のようにして得られたポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートの樹脂チップを、製膜工程における溶融押出前に混合することによって調整することが好ましい。また、エラストマーの分散性の良いフィルムを得るためには、あらかじめポリエチレンテレフタレート樹脂もしくはポリブチレンテレフタレート樹脂中にエラストマーを高濃度で混練したマスターバッチを用いて、フィルム製造の際に所定の濃度となるように希釈樹脂と混合して製膜工程に供することが好ましい方法である。マスターバッチを準備する際に、ベント式二軸押出機を用いて強混練するなどの方法により、エラストマーの分散性の優れたマスターバッチを得ることができる。
【0046】
以上のようにして得られた樹脂を用いて本発明のフィルムを製造する際の好ましい方法について、具体的に記述する。まず、A層およびB層に使用するポリエステル樹脂、エラストマーもしくはエラストマーを含有するマスターバッチを層別に各々に所定の割合で混合し、各々窒素雰囲気、真空雰囲気などで、たとえば150℃5時間の乾燥を行う。その後、個別の押出機に供給し溶融する。ついで、別々の経路にて、フィルターやギヤポンプを通じて、異物の除去、押出量の均整化を行い、フィードブロックにて、A/B/Aの3層に積層する。なお、フィードブロックの時点で最終的な積層総数となるように積層を行ってもよいが、数十層の積層をフィードブロックで一気に行うことは設備に極めて高い精度が要求されることから、フィードブロックでは通常20層以下の積層数とする方法が好ましく用いられる。ついで、スクエアミキサーやスタティックミキサーを用いて、幅方向に2分割し、合流させることによって積層数を当初積層数nに対して(2n−1)層の構成とし、さらに目的とする層数になるように、ミキサーを設け、最終的に所望の積層数に増加させた後、Tダイより冷却ドラム上にシート状に吐出する。
【0047】
その際、例えば、ワイヤー状電極もしくはテープ状電極を使用して静電印加する方法、キャスティングドラムと押出したポリマーシート間に水膜を設けるキャスト法、キャスティングドラム温度をポリエステルのガラス転移点〜(ガラス転移点−20℃)にして押出したポリマーを粘着させる方法、もしくは、これらの方法を複数組み合わせた方法により、シート状ポリマーをキャスティングドラムに密着させ、冷却固化し、未延伸フィルムを得る。これらのキャスト法の中でも、ポリエステルを使用する場合は、生産性や平面性の観点から、静電印加する方法が好ましく使用される。
【0048】
ついで、かかる未延伸フィルムを長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する、あるいは、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法により、または、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行う。
【0049】
かかる延伸方法における延伸倍率としては、それぞれの方向に、好ましくは、3〜5.5倍、さらに好ましくは3.3〜5.3倍、特に好ましくは3.5〜5倍が採用される。また、延伸速度は1,000〜200,000%/分であることが望ましい。また延伸温度は、ガラス転移点〜(ガラス転移点+50℃)の温度が採用されるが、さらに好ましくは(ガラス転移点+10℃)〜(ガラス転移点+40℃)、特に好ましくは長手方向の延伸温度を90〜125℃、幅方向の延伸温度を80〜130℃とするのがよい。また、延伸は各方向に対して複数回行ってもよい。
【0050】
さらに二軸延伸の後にフィルムの熱処理を行う。熱処理はオーブン中、加熱したロール上など従来公知の任意の方法により行うことができる。この熱処理は120℃以上ポリエステルの融点以下の温度で行われるが、延伸温度〜230℃の熱処理温度とするのが好ましい。耐屈曲ピンホール、耐衝撃性の点からは熱処理温度は170〜210℃であればより好ましく、180〜205℃であれば特に好ましい。また、熱処理時間は、他の特性を悪化させない範囲において任意とすることができ、好ましくは1〜60秒間行うのがよい。さらに、熱処理はフィルムを長手方向および/または幅方向に弛緩させて行ってもよい。さらに、インク印刷層や接着剤、蒸着層との接着力を向上させるため、少なくとも片面にコロナ処理を行ったり、コーティング層を設けることもできる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。なお特性は以下の方法により測定、評価した。
【0052】
(1)融点
示差走査熱量計(セイコー電子工業製、RDC220)を用いて測定した。試料5mgをサンプルに用い、25℃から10℃/分で300℃まで昇温した際の吸熱ピーク温度を融点とした吸熱ピークが複数存在する場合は、最も高温側の吸熱ピークのピーク温度を融点とした。
【0053】
(2)屈折率、面配向係数、複屈折の絶対値
ナトリウムD線(波長589nm)を光源とし、マウント液としてヨウ化メチレンを用い、25℃にてアッベ屈折計を用いてフィルム長手方向、幅方向および厚み方向の屈折率を(それぞれNx、Ny、Nz)を測定し、次式で面配向係数(fn)および複屈折の絶対値(|Δn|)を求めた。
fn=(Nx+Ny)/2−Nz。
|Δn|=|Nx−Ny|。
【0054】
(3)平均分散径
フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、フィルムの長手方向−厚み方向断面を観察面とするようにミクロトームを使用して超薄切片を作成した。このフィルム断面の薄膜切片を四酸化ルテニウムにて染色し、透過型電子顕微鏡を用いて倍率2万倍でフィルム断面写真を撮影した。得た写真から染色されて観察されるエラストマー(C)について面内方向の分散径と厚み方向の分散径を10ヶ所測定し、その平均値をそれぞれ面内方向の平均分散径もしくは厚み方向の平均分散径dとした。
【0055】
(4)曇度
JIS K 7105(1985年)に基づいて、ヘーズメーター(スガ試験器社製HGM−2GP)を用いて測定した。マウント液にテトラリンを用いて、サンプル厚みとヘーズの関係から比例式を最小自乗法で算出し、フィルム厚み12μmでのヘーズ(曇度)を算出した。また、比例式の切片が表面ヘーズを示していることから、引き算により内部曇度を算出した。
【0056】
(5)耐屈曲ピンホール性
ポリエステルフィルムに酢酸エチルで4倍に希釈した接着剤(三井武田ケミカル(株)製武ラックA−616、タケネートA−65を質量比で16:1で混合して用いた)を接着剤塗布厚み3g/mとなるようにメタリングバーで塗布し、60℃で1分間乾燥後、厚さ100μmの無延伸の直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(東セロ(株)製FCD−MCS)を貼り合わせた。40℃で7時間エージングを行い評価に供した。評価は、ASTM F−392に準じて、300×210mmの大きさに切り出したラミネートフィルムを、ゲルボフレックステスターを使用し、炭酸ガスを使用した10℃の温度雰囲気にて、500回の繰り返し屈曲試験を実施した。なお、装置に取り付ける際、ポリエステルフィルムが外面となるようにした。試験を5回行い、ピンホール個数の平均値を算出した。ピンホール個数が2個以上の場合は、包装材料としての性能に問題があると判断した。
【0057】
(6)耐衝撃性A
上記と同様にして得たラミネートフィルム2枚をポリエチレンフィルム同士が接触するように重ね合わせ、ヒートシーラーを用いて200℃、0.2秒、圧力0.1MPaの条件で4方をシールして、5%食塩水210cmの入った200mm×135mmの袋を作成した。これを0℃に冷却し高さ2mからシール部分が水平になるようにコンクリート面に20回繰り返し落下させた。途中で破袋あるいは水漏れを起こした場合は破袋までの落下回数を耐衝撃性の指標とした。試験を10袋行い、平均落下回数を調べた。
【0058】
(7)耐衝撃性B
上記と同様にして作成した5%食塩水入りの袋を0℃に冷却し高さ1.5mからシールした袋の長辺部分が鉛直になるようにコンクリート面に20回繰り返し落下させた。途中で破袋あるいは水漏れを起こした場合は破袋までの落下回数を耐衝撃性の指標とした。試験を10袋行い、平均落下回数を調べた。
【0059】
(8)耐突刺ピンホール性
直径40mmのリングにフィルムを弛みのないように張り、先端角度60度、先端R0.5mmのサファイア製針を使用し、円の中央を50mm/分の速度で突き刺し、針が貫通するときの荷重を測定した。
【0060】
(ポリエステルの準備)
実施例には以下のポリエステルを使用した。
【0061】
ポリエステル(1)
テレフタル酸ジメチル100質量部、およびエチレングリコール70質量部の混合物に、0.09質量部の酢酸マグネシウムと0.03質量部の三酸化アンチモンとを添加して、徐々に昇温し、最終的には220℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行う。ついで、該エステル交換反応生成物に、0.020質量部のリン酸85%水溶液を添加した後、重縮合反応釜に移行する。さらに、加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1hPaの減圧下、290℃で常法により重縮合反応を行い、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂を作製した。これを、以下、ポリエステル(1)とする。
【0062】
粒子マスター
上記ポリエステル(1)の重合時のエステル交換反応後に平均粒子径2μmの凝集シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを添加してから重縮合反応を行い、ポリマー中の粒子濃度2質量%の粒子マスターを作製した。
【0063】
ポリエステル(2)
テレフタル酸100質量部、および1,4−ブタンジオール110質量部の混合物を、窒素雰囲気下で140℃まで昇温して均一溶液とした後、オルトチタン酸テトラ−n−ブチル0.054質量部、モノヒドロキシブチルスズオキサイド0.054質量部を添加し、エステル化反応を行った。次いで、オルトチタン酸テトラ−n−ブチル0.066質量部を添加して、減圧下で重縮合反応を行い、固有粘度0.88のポリブチレンテレフタレート樹脂を作製した。その後、140℃、窒素雰囲気下で結晶化を行い、ついで窒素雰囲気下で200℃、6時間の固相重合を行い、固有粘度1.20のポリブチレンテレフタレート樹脂とした。これを、以下、ポリエステル(2)とする。
【0064】
ポリエステル(3)
ポリエステル(1)の重合においてテレフタル酸ジメチル100質量部の代わりに、テレフタル酸ジメチル96質量部、およびイソフタル酸ジメチル4質量部を用いてポリエステル(1)と同様の方法で重合を行い、イソフタル酸4モル%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(融点247℃)を作製した。これを、以下、ポリエステル(3)とする。
【0065】
ポリエステル(4)
ポリエステル(2)の重合においてテレフタル酸100質量部の代わりに、テレフタル酸90質量部、およびイソフタル酸10質量部を用いてポリエステル(2)と同様の方法で重合を行い、イソフタル酸10モル%共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(融点210℃)を作製した。これを、以下、ポリエステル(4)とする。
【0066】
マスターバッチ
ポリエステル(1)とポリエステル系エラストマーである東レデュポン(株)製“ハイトレル”4777(ガラス転移点:−35℃)を質量比で8:2となるように混合し、ベント式二軸押出機に供給して溶融混練を行うことで、エラストマーを20質量%含有するマスターバッチを作製した。
【0067】
(実施例1)
A層を構成するポリエステルAとして、ポリエステル(1)を76質量%、ポリエステル(2)を20質量%、粒子マスターを4質量%の割合で混合して使用した。また、B層はポリエステルBとエラストマーCとして、ポリエステル(1)を60質量%、ポリエステル(2)15質量%、マスターバッチを25質量%の割合で混合して使用した。A層用樹脂、B層用樹脂を、それぞれ、真空乾燥機において170℃で3時間乾燥した後、別々の単軸溶融押出機に供給して溶融混練し、吐出量の比率がA層用ポリマー:B層用ポリマー=4:1となるよう押出し、フィードブロックにてA層用ポリマーが5層、B層用ポリマーが4層で交互に積層するよう合流させ(両外層がA層となるように積層する)、スクエアミキサーを設けることにより129層に分割積層した後、Tダイより25℃に冷却したハードクロムメッキした冷却ドラム上に静電印加しながら押出し未延伸シートを得た。得た未延伸シートをロールを用いて加熱し延伸温度95℃で3.7倍に長手方向に延伸した。その後、冷却ロールで冷却し、次いでフィルム両端を把持してステンター式横延伸熱処理機に通し、予熱80℃、延伸温度100℃でフィルム幅方向に4.2倍延伸した。さらに、幅方向に6%のリラックスを掛けながら、200℃で3秒間の熱固定を施し、冷却し、フィルムを巻き取り、厚さ12μmの二軸配向ポリエステルフィルムを製造した。
【0068】
(実施例2)
実施例1と同じ樹脂組成として、スクエアミキサーの設置数を変更し、最終積層数を65層とした。実施例1と同様に乾燥し、吐出量の比率がA層用ポリマー:B層用ポリマー=5:1となるよう溶融押出を行い未延伸シートを得た。以下、延伸条件を長手方向延伸倍率3.4倍、幅方向延伸倍率4倍に変更(他の条件は実施例1と同じ)して厚み12μmの二軸配向ポリエステルフィルムを製造した。
【0069】
(実施例3)
A層を構成するポリエステルAとして、ポリエステル(3)を66質量%、ポリエステル(2)を30質量%、粒子マスターを4質量%の割合で混合して使用した。また、B層はポリエステルBとエラストマーCとして、ポリエステル(3)を50質量%、ポリエステル(2)25質量%、マスターバッチを25質量%の割合で混合して使用した。そして、スクエアミキサーの設置数を変更し、最終積層数を257層として、かつ、A層とB層の吐出量比率を1:1に変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを製造した。
【0070】
(実施例4)
B層を構成するポリエステルBとエラストマーCとして、ポリエステル(1)を72質量%、ポリエステル(2)18質量%、マスターバッチを10質量%の割合で混合して使用した以外は実施例1と同様にして積層総数129層で厚み12μmの二軸配向ポリエステルフィルムを製造した。
【0071】
(実施例5)
B層はポリエステルBとエラストマーCとして、ポリエステル(1)を80質量%、ポリエステル(2)10質量%、東レデュポン(株)製“ハイトレル”7277(ガラス転移点:12℃)10質量%の割合で混合して使用した以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを製造した。
【0072】
(実施例6)
A層を構成するポリエステルAとして、ポリエステル(1)を85質量%、ポリエステル(4)を10質量%、粒子マスターを5質量%の割合で混合して使用した。また、B層はポリエステルBとエラストマーCとして、ポリエステル(1)を70質量%、ポリエステル(4)5質量%、マスターバッチを25質量%の割合で混合して使用した。A層用樹脂、B層用樹脂を、それぞれ、真空乾燥機において170℃3時間乾燥した後、別々の単軸溶融押出機に供給して溶融混練し、吐出量の比率がA層用ポリマー:B層用ポリマー=3:1となるよう押出し、フィードブロックにてA層用ポリマーが4層、B層用ポリマーが3層で交互に積層するよう合流させ(両外層がA層となるように積層する)、スクエアミキサーを設けることにより113層に分割積層した後、Tダイより20℃に冷却したハードクロムメッキした冷却ドラム上に静電印加しながら押出し未延伸シートを得た。得た未延伸シートをロールを用いて加熱し延伸温度93℃で3.5倍に長手方向に延伸した。その後、冷却ロールで冷却し、次いでフィルム両端を把持してステンター式横延伸熱処理機に通し、予熱80℃、延伸温度95℃でフィルム幅方向に3.9倍延伸した。さらに、幅方向に4%のリラックスを掛けながら、205℃で3秒間の熱固定を施し、冷却し、フィルムを巻き取り、厚さ12μmの二軸配向ポリエステルフィルムを製造した。
【0073】
(実施例7)
フィルム長手方向を温度90℃で4.0倍に延伸し、フィルム幅方向を予熱80℃、延伸温度95℃で4.1倍延伸し、さらに、幅方向へのリラックスを4.2%とした他は、実施例4と同様の製膜に製膜し、厚さ12μmの二軸配向ポリエステルフィルムを製造した。
【0074】
(比較例1)
スクエアミキサーを使用せず、フィードブロックのみを使用して、積層総数9層とする以外は実施例1と同様に製膜を行いポリエステルフィルムを製造した。
【0075】
(比較例2)
実施例1のB層を構成するポリエステルBに実施例1のポリエステルAを使用して、エラストマーCを添加しない以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを製造した。
【0076】
(比較例3)
A層を設けず、ポリエステル樹脂BとエラストマーCからなるB層のみとし、層構成を単層とした他は実施例1と同様に製膜を行い、ポリエステルフィルムを製造した。ただし、フィルム取扱い性向上のためB層のポリマー組成は、ポリエステル(1)56質量%と粒子マスター4質量%、ポリエステル(2)15質量%、マスターバッチ25質量%とした。
【0077】
(比較例4)
吐出量の比率がA層用ポリマー:B層用ポリマー=7:2とする以外は実施例2と同様にして未延伸シートを得て、実施例1の延伸条件を適用して厚み12μmの二軸配向ポリエステルフィルムを製造した。
【0078】
(比較例5)
スクエアミキサーの設置数を変更し、最終積層数を17層として、かつ、A層とB層の吐出量比率を2:1とした以外は実施例1と同様に未延伸シートを得て、延伸条件を長手方向延伸倍率3.5倍、幅方向延伸倍率3.7倍に変更し、他の条件は実施例1と同様にして厚み12μmの二軸配向ポリエステルフィルムを製造した。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
このようにして得た二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1〜4に示す。表より、本発明の積層ポリエステルフィルムは、優れた耐屈曲ピンホール性、耐衝撃性を併せて有しており、包装用フィルムとして優れた特性を有していた。一方、本発明ではない比較例で得たフィルムは、包装用フィルムとして劣るものであった。
【0084】
なお、表中の略号は以下の通りである。
PET:ポリエチレンテレフタレート樹脂
PET−I:イソフタル酸4モル%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂
PBT:ポリブチレンテレフタレート樹脂
PBT−I:イソフタル酸10モル%共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂
また、実施例、比較例において、粒子マスターの主たる構成成分がポリエステル(1)と同一であることから、ポリエステル(1)に含め、原料の混合比を算出した。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの特長である、低吸湿性、寸法安定性、平面性、透明性を維持したまま、包装材料として要求される耐屈曲ピンホール性、耐衝撃性に優れた特性を有することから、包装用途、特に食品包装用途などに好ましく使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A層とB層が交互に5層以上積層されたポリエステルフィルムであって、A層がポリエステル樹脂(A)を用いてなり、B層がポリエステル樹脂(B)99〜60質量%およびエラストマー(C)1〜40質量%を用いてなり、かつ、B層の1層当たりの平均層厚みをt、エラストマー(C)のフィルム厚み方向の平均分散径をdとしたとき、d≦t≦2dの関係を満足することを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
エラストマー(C)がポリエステル系エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(A)が、融点が245〜265℃であるエチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステル98〜70質量%および融点が190〜240℃であるブチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステル2〜30質量%からなることを特徴とする請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
ポリエステル樹脂(B)が、融点が245〜265℃であるエチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステル98〜70質量%および融点が190〜240℃であるブチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする芳香族ポリエステル2〜30質量%からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
エラストマー(C)のフィルム面内方向の平均分散径が1〜10μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
ポリエステルフィルムの面配向係数(fn)が0.164〜0.180であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステルフィルムの少なくとも片面に金属もしくは金属酸化物が蒸着されていることを特徴とする蒸着フィルム。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステルフィルムの少なくとも片面にアルミニウム箔および/またはポリオレフィンフィルムがラミネートされてなることを特徴とする包装用フィルム。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のフィルムからなる包装袋。

【公開番号】特開2006−188049(P2006−188049A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351583(P2005−351583)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】