説明

二酸化炭素分離装置

【課題】二酸化炭素を含む被冷却ガスから二酸化炭素を分離に必要なエネルギーを低減し、かつ、高濃度の二酸化炭素を分離する。
【解決手段】冷媒用ガスを断熱膨張させて低温度とする超音速ノズル5と、低温度となった冷媒用ガスと熱交換可能に配置された二酸化炭素を含む被冷却ガスの流路3と、流路3の内部で固化又は凝縮した二酸化炭素を被冷却ガスから分離する気固分離槽8とを備えた二酸化炭素分離装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電設備や製鉄所などにおいては、二酸化炭素を含むガスが大量に発生する。二酸化炭素は、従来、他の排ガスと共に大気中に放出されてきたが、近年は、大気中の二酸化炭素の温室効果による地球温暖化への懸念から、大気中の二酸化炭素濃度を増加させないこと、言い換えると、様々な工業プロセスの排出ガスから二酸化炭素を分離して大気中に放出しないことの重要性が認識されている。
【0003】
燃焼排ガスなどの二酸化炭素を含むガスからの二酸化炭素分離法として実用化されている処理方法として、アミン化合物を利用した化学吸収法がある。二酸化炭素吸収液としてアミン化合物の溶解液を用い、比較的低温かつ高圧の吸収塔で燃焼排ガスと吸収液とを接触させて二酸化炭素を吸収液に吸収し、次いで、吸収液を比較的高温かつ低圧の再生塔へ送り、吸収液を加熱・減圧することにより、二酸化炭素を吸収液から回収する。使用するアミン化合物の種類によって異なるが、モノエタノールアミン(MEA)の例を記すと、単位吸収液当たりの二酸化炭素吸収量は16〜22Nm/m、供給ガスに残留する二酸化炭素濃度は5〜100ppm、二酸化炭素の分離に必要なエネルギーは4.3〜6.4GJ/ton−COである。このように、二酸化炭素の分離には多大な所要エネルギーおよびコストが必要である。
【0004】
化学吸収法と異なる二酸化炭素分離方法として、化学反応ではなく圧力による気体の溶解度差を利用した物理吸収法もある。これは、吸収液を用いる点では化学吸収法と同じである。この方法も、二酸化炭素分離に必要な熱量やコストが化学吸収法と同様に多大である。
【0005】
また、物理吸着法として、ガスの種類によって吸着性能が異なる吸着剤を利用し、高圧下で特定のガス成分を吸着し、低圧下で吸着したガスを回収することにより、ガス分離する圧力スイング吸着法(PSA)もある。ただし、この方法は、火力発電所で発生するガスのような大流量のガスを処理する場合、プラント規模が大きくなる傾向がある。
【0006】
このため、別法として、二酸化炭素を含むガスを超音速ノズルで断熱膨張させて温度を低下させ、二酸化炭素を固化して分離する方法が提案されている。
【0007】
特許文献1には、二酸化炭素を含むガスを超音速ノズルで断熱膨張させることにより、二酸化炭素を固化してドライアイス粉末にし、超音速ノズルの出口付近に設けた捕集板によって二酸化炭素を分離・回収する方法が開示されている。
【0008】
特許文献2にも同様に、超音速ノズルで二酸化炭素を固化し、超音速ノズルの出口付近に−150〜−190℃の超低温流体が流れる管路を設けて、管路の外面にドライアイスを付着させ分離・回収する方法が開示されている。超音速ノズルで断熱膨張することによって生成したドライアイスは、超音速状態を維持したままではドライアイスの状態を維持しているが、衝撃波の発生により圧力や温度が再び超音速ノズルの上流の状態付近まで回復すると、昇華して二酸化炭素のガスに戻る。そのため、超低温流体が流れる管路を設けてドライアイスの昇華を防止している。
【0009】
特許文献3には、超音速ノズル内の流れを旋回させ、超音速ノズルの断熱膨張によって冷却されて固化した成分を旋回流によって管壁付近に集め、下流側で流れを管壁側と中央側に分離することで固化した成分と非固化成分に分離する方法が開示されている。この方法においては、超音速の状態で分離するため、固化した成分が再びガスに戻る前に分離することができる。
【0010】
特許文献4には、被処理ガスを断熱膨張させる超音速ノズルと、この超音速ノズルから出た被処理ガスを超音速ノズルの膨張部外面に接触させて超低温に冷却する管路と、この管路内に蓄積された固体状のCOを取り出す回収手段を備えたCO回収装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−157306号公報
【特許文献2】特開平9−14831号公報
【特許文献3】特表2002−534248号公報
【特許文献4】特開平7−213860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1〜4に記載されている従来技術においては、超音速ノズルを用いて二酸化炭素を含むガスを断熱膨張させて冷却し、二酸化炭素を固化させて分離している。超音速ノズルで冷却するため、冷却動力が不要であり、化学吸収法に比べて分離に必要なエネルギーを低減できる。
【0013】
一方、超音速ノズルの下流で衝撃波やディフューザにより再び亜音速状態に戻ると、温度や圧力も上昇し、固化した二酸化炭素が再びガスとなる。そのため、特許文献2のように超低温流体が流れる管路を設けて低温を維持し、ドライアイスの昇華を防止する、あるいは、特許文献3のように超音速状態のままで分離する必要がある。特許文献3のように旋回流を用いて分離する手段は、他のガスの混入を防止して二酸化炭素のみを分離するのが困難であるため、分離した二酸化炭素の濃度が低下する可能性がある。
【0014】
本発明の目的は、二酸化炭素を含む被冷却ガスから二酸化炭素を分離に必要なエネルギーを低減し、かつ、高濃度の二酸化炭素を分離することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の二酸化炭素分離装置は、冷媒として用いるガスを断熱膨張させて低温度とする超音速ノズルと、低温度となった前記ガスと熱交換可能に配置された二酸化炭素を含む被冷却ガスの流路配管と、この流路配管の内部で固化又は凝縮した前記二酸化炭素を前記被冷却ガスから分離する気固分離部又は気液分離部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、二酸化炭素を含む被冷却ガスから低い所要エネルギーで高濃度の二酸化炭素を分離することができる。
【0017】
また、本発明によれば、超音速ノズルを流れるガスの流速に比べて、二酸化炭素を含む被冷却ガスの流速を遅くすることができるため、固化又は凝縮した二酸化炭素を容易に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】超音速ノズルと二酸化炭素を含む被冷却ガスの流路配管とを組み合わせた二重管の例を示す断面斜視図である。
【図2】二酸化炭素濃縮部として圧力スイング吸着塔を有する二酸化炭素分離装置の例を示す概略構成図である。
【図3】ガスのマッハ数と、圧力及び温度の変化並びにノズル断面積との関係を示すグラフである。
【図4】二重管と固化又は凝縮した二酸化炭素を分離する気固分離部又は気液分離部との配置の例を示す概略断面図である。
【図5】気固分離部の他の例を示す概略断面図である。
【図6】超音速ノズルと二酸化炭素を含む被冷却ガスの流路配管とを組み合わせた二重管の他の例を示す断面斜視図である。
【図7】二酸化炭素濃縮部として膜分離部を有する二酸化炭素分離装置の例を示す概略構成図である。
【図8】二酸化炭素濃縮部として超音速ノズルを用いる二酸化炭素分離装置の例を示す概略構成図である。
【図9】冷媒用のガスとして外部の空気を用いる二酸化炭素分離装置の例を示す概略構成図である。
【図10】図8の二酸化炭素濃縮部を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、火力発電設備などで発生する二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離する装置に関する。
【0020】
分離する二酸化炭素の濃度は、各国の基準により異なるが、分離後の輸送や貯留の際の経済性に大きく影響するため、99%以上にすることが望ましい。
【0021】
本発明においては、分離対象の二酸化炭素を含む混合ガス(被冷却ガス)以外のガスを超音速に加速して断熱膨張させる超音速ノズルを設けたことを特徴とする。そして、超音速ノズルの下流域には、断熱膨張して低温度となったガスと分離対象の二酸化炭素を含む混合ガスとが熱交換可能となるように混合ガスの流路配管を設けてある。これにより、混合ガスに含まれる二酸化炭素を固化又は凝縮して分離することができる。
【0022】
超音速ノズルで断熱膨張させるガスとしては、圧力スイング吸着法、特定のガス成分を透過するガス透過膜、超音速ノズル等を用いて、二酸化炭素を含む被処理ガスのうち二酸化炭素濃度を低減したものを作製して利用する。すなわち、水素、窒素及び酸素が主成分となったガスを超音速ノズルに導入する。
【0023】
超音速ノズルで断熱膨張させるガスとしては、外部の空気(大気)を用いてもよい。この場合、超音速ノズルで断熱膨張し、二酸化炭素を含む混合ガスと熱交換した後、再び外部に放出しても大気汚染等の問題が生じることがない。
【0024】
好ましくは、この空気に含まれる水蒸気を除湿部にて除去した後、超音速ノズルに導入する。これにより、空気に含まれる水蒸気が凝縮して超音速ノズルが閉塞することを防止することができる。
【0025】
超音速ノズルで断熱膨張したガスとの熱交換で固化した二酸化炭素は、鉛直方向に流下させ、下流側に接続した気固分離槽(気固分離部)又は気液分離槽(気液分離部)の底に溜めて分離する。或いは、固化した二酸化炭素を含む混合ガスの流路配管(以下、単に「流路」ともいう。)に多孔体を設置し、この多孔体に固化した二酸化炭素を付着させることにより、混合ガス中から二酸化炭素を分離する。ここで、多孔体の例としては、網、ハニカム構造体、流路抵抗体(迷路状の邪魔板(邪魔板を組み合わせたもの等)、迷路状の線状部材(メタルファイバ等)を含む。)が挙げられる。
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素分離装置について説明する。
【0027】
前記二酸化炭素分離装置は、冷媒として用いるガス(冷媒用ガス)を断熱膨張させて低温度とする超音速ノズルと、低温度となった冷媒用ガスと熱交換可能に配置された二酸化炭素を含む被冷却ガスの流路配管と、この流路配管の内部で固化又は凝縮した二酸化炭素を被冷却ガスから分離する気固分離部又は気液分離部とを備えている。
【0028】
前記二酸化炭素分離装置において、被冷却ガスは、冷媒用ガスに比べて二酸化炭素を多く含む。
【0029】
前記二酸化炭素分離装置は、さらに、被処理ガスに含まれる二酸化炭素を濃縮して被冷却ガスを作製する二酸化炭素濃縮部を含む。
【0030】
前記二酸化炭素分離装置において、二酸化炭素濃縮部は、被冷却ガスとともに被処理ガスに含まれる二酸化炭素の濃度を低減した冷媒用ガスを作製するものである。
【0031】
前記二酸化炭素分離装置において、超音速ノズル及び流路配管は、二重管を構成し、この二重管の隔壁が熱交換部である。
【0032】
前記二酸化炭素分離装置において、流路配管は、二重管の内管を構成している。
【0033】
前記二酸化炭素分離装置において、超音速ノズルは、二重管の内管を構成している。
【0034】
前記二酸化炭素分離装置においては、冷媒用ガスが空気である。
【0035】
前記二酸化炭素分離装置において、二酸化炭素濃縮部は、圧力スイング吸着部、ガス透過膜を内蔵した膜分離部又は下流部に二重管構造を有する超音速ノズルである。
【0036】
前記二酸化炭素分離装置において、気固分離部又は気液分離部は、被冷却ガスの流入部と、被冷却ガスの流出部と、二酸化炭素の回収部とを有する。
【0037】
前記二酸化炭素分離装置において、二重管は、冷媒用ガス及び被冷却ガスを鉛直方向に流すように設置されている。
【0038】
前記二酸化炭素分離装置において、気固分離部又は気液分離部は、固化した二酸化炭素を捕集する多孔体である。
【0039】
前記二酸化炭素分離装置は、さらに、冷媒用ガスに含まれる水蒸気を除去する除湿部を備え、除湿部を通過した冷媒用ガスを超音速ノズルに導入するように構成してある。
【0040】
前記二酸化炭素分離装置において、被冷却ガスは、二酸化炭素、水素、窒素及び酸素を主成分とする。
【0041】
以下、図面を参照して更に詳しく説明する。
【0042】
図1は、超音速ノズルと二酸化炭素を含む混合ガスの流路とを組み合わせた二重管を示す断面斜視図である。
【0043】
本図において、超音速ノズル5の中心部には、分離対象である二酸化炭素を含む混合ガスを流す流路3(流路配管)が設けてある。超音速ノズル5は、入口部51の直径を大きくし、中間部52の直径を小さくし、出口部53の直径を大きくしてある。一方、流路3は、内径及び外径ともに一定の直管である。超音速ノズル5に流すガスは、二酸化炭素及び水蒸気を含まないことが望ましい。
【0044】
超音速ノズル5に導入されたガスは、中間部52を通過した後、急激に流路が拡大するために超音速に達するとともに、断熱膨張して低温度となる。このため、中間部52から出口部53までの領域に位置する流路3及びこの流路3を流れる混合ガスは、超音速ノズル5を流れる低温度のガスによって冷却される。すなわち、流路3は、超音速ノズル5を流れるガスと流路3を流れる混合ガスとの隔壁としての機能とともに、熱交換部として機能する。結果として、混合ガスに含まれる二酸化炭素は、熱6を奪われ、固化してドライアイス7(固体二酸化炭素)となる。このドライアイス7は、混合ガスとともに搬送される。
【0045】
図2は、二酸化炭素濃縮部を有する二酸化炭素分離装置の例を示したものである。
【0046】
本図において、火力発電所の燃焼排ガスなどの二酸化炭素を含む被処理ガス101は、圧力スイング吸着塔201、202(PSA塔)、超音速ノズル5の内部に設置された流路3、及び気固分離槽8(固体分離部)を順次通過して二酸化炭素除去ガス102となる。これに伴い、気固分離槽8からは、二酸化炭素103が回収される。ここで、圧力スイング吸着塔201、202は、圧力スイング吸着部とも呼ぶことにする。
【0047】
圧力スイング吸着塔201、202は、複数(本図においては2基)設置され、流路の切り替えができるようになっている。圧力スイング吸着塔201、202の内部には、二酸化炭素を吸着する吸着材が充填されている。
【0048】
以下、圧力スイング吸着塔201を吸着部とし、圧力スイング吸着塔202を脱着部として用いる工程について図2を用いて説明する。
【0049】
本図に示すように、バルブ211、213を開とし、バルブ214を閉として、この場合の吸着部である圧力スイング吸着塔201に充填された吸着材に被処理ガス101を接触させることにより、二酸化炭素を吸着させる。圧力スイング吸着塔201からバルブ213を介して配管222に流出したガスは、二酸化炭素が除去されている。この場合において、吸着部である圧力スイング吸着塔201を冷却して二酸化炭素の吸着熱を除去することにより、二酸化炭素の吸着を促進することができる。
【0050】
一方、この場合の脱着部である圧力スイング吸着塔202においては、バルブ215を開とし、バルブ212、216を閉として、減圧ポンプ225を用いて減圧することにより、圧力スイング吸着塔202の内部の吸着材に吸着されていた二酸化炭素を脱着させる。脱着した二酸化炭素を含むガスは、配管223に流出する。この場合において、バルブ212を開又は半開として被処理ガス101又は空気を導入することにより、脱着した二酸化炭素を含むガスの流量を確保してもよい。また、脱着部である圧力スイング吸着塔202を加熱することにより、二酸化炭素の脱着を促進するとともに、被処理ガス101に含まれる二酸化炭素の再吸着を防止することができる。
【0051】
つぎに、圧力スイング吸着塔202を吸着部とし、圧力スイング吸着塔201を脱着部として同様の操作を行う。
【0052】
すなわち、バルブ211、213、215を閉とし、バルブ212、214、216を開として、圧力スイング吸着塔202に充填された吸着材に被処理ガス101を接触させることにより、二酸化炭素を吸着させる。圧力スイング吸着塔202からバルブ216を介して配管222に流出したガスは、二酸化炭素が除去されている。
【0053】
配管222に流出したガスは、圧縮機224(圧縮部)を介して超音速ノズル5に導入され、断熱膨張によって低温度のガスとなる。
【0054】
一方、圧力スイング吸着塔201においては、減圧ポンプ225を用いて減圧することにより、圧力スイング吸着塔201の内部の吸着材に吸着されていた二酸化炭素を脱着させる。脱着した二酸化炭素を含むガスは、配管223に流出する。
【0055】
本図に示す圧力スイング吸着塔201、202は、2基並べて操作している。このため、圧力スイング吸着塔201、202のうち一方で二酸化炭素を吸着材に吸着させるとともに、同時に、もう一方で二酸化炭素を脱着させることができ、二酸化炭素の濃縮処理を効率よく行うことができる。
【0056】
圧力スイング吸着塔201、202によって二酸化炭素を含む被処理ガス101は、二酸化炭素濃度の高いガスと低いガスとに分離されるが、圧力スイング吸着を用いたとしても、二酸化炭素濃度を99%以上とし、かつ、二酸化炭素の回収率を90%以上とするような分離は、一般に困難である。
【0057】
しかし、本図に示す二酸化炭素分離装置においては、圧力スイング吸着塔201、202の後段に、二酸化炭素を更に分離する超音速ノズル5、気固分離槽8等が設けてあるため、圧力スイング吸着のみで二酸化炭素濃度を99%程度の高濃度にする必要はない。また、圧力スイング吸着単独で分離する場合に比べて、吸着材の必要量や圧力スイング吸着塔201、202の容量を削減することができる。
【0058】
圧力スイング吸着塔201、202で分離したガスのうち二酸化炭素濃度の低いガスは、圧縮機4で圧力を上げた後、超音速ノズル5に送られる。
【0059】
図1に示すように、超音速ノズル5は、の直径を大きくし、の直径を小さくし、の直径を大きくしてある。入口部51から流路断面積が減少し、途中(中間部52)のスロート部と呼ばれる流路断面積が最小となる領域を経由して、再び流路断面積が増加して出口部53に至る構造を持つ。
【0060】
超音速ノズル5を流れるガスは、入口部51から亜音速の状態で流入し、流路断面積の減少と共に流速が増加し、スロート部でちょうど音速に等しい流速となる。さらに、流路断面積の増加と共に流速が増し、超音速状態となる。
【0061】
ガスの流速と音速との比は、マッハ数Mと呼ばれている。M<1の状態を亜音速、M>1の状態を超音速という。ガスの圧力や温度は、ガスの流速すなわちマッハ数Mの増加と共に低下する。
【0062】
図3は、断熱で、かつ、ガスの粘性を無視でき、かつ、ガス成分の凝縮が無いものとした場合のマッハ数と、温度、圧力および流路断面積との関係を示したものである。横軸にマッハ数、左の縦軸に温度及び圧力、右の縦軸にスロート部の断面積で規格化した流路断面積をとっている。
【0063】
本図に示すように、ガスが音速を超えて超音速状態になると、温度および圧力は大きく低下する。
【0064】
圧力スイング吸着塔201、202で分離したガスのうち二酸化炭素濃度の高いガスは、配管223を通って図1に示す超音速ノズル5の内部に設けられた 流路3へと流れる。流路3は、流路断面積が一定であるため、ガスの流速は亜音速の状態のままである。これに対して、流路3の周囲に設置した超音速ノズル5には、二酸化炭素濃度の低いガスが流れる。
【0065】
このガスは、超音速に加速されて温度が低下しているため、図1に示すように、流路3の隔壁を介して二酸化炭素濃度の高いガスから二酸化炭素濃度の低いガスへと熱6が移動し、二酸化炭素濃度の高いガスが冷却される。このため、ガス流速が亜音速の状態のままで二酸化炭素濃度の高いガスを冷却することができる。
【0066】
そして、二酸化炭素が固化する温度(昇華点)以下にまで冷却すると、流路3の内部で固化したドライアイス7(固体二酸化炭素)が発生する。酸素、水素、窒素などのガスは、二酸化炭素よりも低い温度で凝縮するため、固化した二酸化炭素(ドライアイス7)とガスとを図2に示す気固分離槽8などで分離することにより、純度の高い二酸化炭素が得られる。
【0067】
特許文献1乃至4のように、二酸化炭素を含むガスを超音速状態にして冷却し、二酸化炭素を固化した場合、超音速ノズルの下流でディフューザや衝撃波の発生によって流速が再び亜音速状態に戻ると、温度も元に戻り、固化した二酸化炭素が再びガスになるため、超音速状態のまま固化した二酸化炭素とガスを分離する必要がある。これに対して、本発明においては、亜音速のまま冷却するため、低温の状態を保つことができ、固化した二酸化炭素とガスとの分離が容易となる。
【0068】
図4および図5は、固化又は凝縮した二酸化炭素を分離する構造の例を示したものである。
【0069】
図4は、気液分離槽8を用いた場合の例である。
【0070】
二酸化炭素の三重点は、5.2atm(527kPa)、−56.6℃(216.55K)であるため、5.2atm以下の圧力においては、二酸化炭素は固化する。一方、5.2atmを超えた条件で二酸化炭素の冷却操作を行った場合、二酸化炭素が液体となる場合もある。
【0071】
本図においては、超音速ノズル5や高濃度の二酸化炭素を含むガスが流れる流路3を鉛直下向きに設置し、流路3の下方に気液分離槽408を設け、気液分離槽408の下部に液体二酸化炭素409が溜まるように構成してある。気液分離槽408には、本図に示すように、複数の穴又はスリットを有する邪魔板421を設けることが望ましい。なお、流路3と気液分離槽408との接続部は、二酸化炭素を含むガス(被冷却ガス)の流入部である。
【0072】
流路3の下流部において発生した液体二酸化炭素粒子407は、気液分離槽408の邪魔板421、壁面等に付着し、液体二酸化炭素409となる。この液体二酸化炭素409を気液分離槽408の底部に設けた配管10より移送し、ガスについては、気液分離槽408の上部に設けた配管11より移送することにより、二酸化炭素とその他のガスとを分離する。ここで、配管11は被冷却ガスの流出部である。また、配管10は二酸化炭素の回収部である。
【0073】
また、図5は、固体分離部の他の例を示す概略断面図である。
【0074】
本図においては、流路3の出口部53の近傍又は出口部53よりも下流側に網12を設置して、固化又は凝縮した二酸化炭素粒子507を網12に付着させて分離する。
【0075】
二酸化炭素粒子507は、固体でも液体でも用いることが可能である。網12に二酸化炭素粒子507が溜まった場合は、網12を交換するように構成してもよい。また、網12に付着した二酸化炭素粒子507を掻き出す機構を設けて、二酸化炭素粒子507を分離するようにしてもよい。
【0076】
図6は、図1と構造の異なる超音速ノズル5及び二酸化炭素を含む被処理ガスの流路603の構造例を示したものである。
【0077】
本図においては、超音速ノズル5の周囲(外側)に二酸化炭素を含む混合ガスが流れる流路603が設けてある。すなわち、超音速ノズル5及び流路603は、二重管を構成している。内側の超音速ノズル5を流れるガスが超音速に加速して温度が低下すると、外側の流路603を流れる二酸化炭素を含む被処理ガスから熱6を奪い、被処理ガスの温度も低下する。二酸化炭素の昇華点以下になると流路603の内部に固体二酸化炭素607が発生する。
【0078】
図1及び図6に示す超音速ノズル5は、ともに、熱交換の効率を上げるために、流路3の隔壁(配管)にフィン構造を持たせても良い。例えば、図1の構造の場合、流路3の内側及び外側にガスの流れを妨げない方向に板状のフィンを設けることにより、ガスと配管との伝熱面積が増加し、熱交換の効率を向上させることができる。
【0079】
上記の例においては、超音速ノズルの前段に二酸化炭素濃度の高いガスと低いガスとに分離する手段として圧力スイング吸着を用いている。
【0080】
これに対して、図7は、ガス透過膜を用いた例を示したものであり、図8は、旋回流を付加した超音速ノズルを用いた例を示したものである。
【0081】
図7においては、二酸化炭素を分離する手段の1段目としてガス透過膜13を内蔵した膜分離部750が設置してある。この例においては、天然ガスや石炭等から水素を製造する場合を想定し、水素及び二酸化炭素の混合ガスから二酸化炭素を分離する。
【0082】
天然ガス又は石炭から水素を製造する場合、天然ガスの水蒸気改質又は石炭のガス化により一酸化炭素及び水とした後、COシフト反応によって一酸化炭素及び水を二酸化炭素及び水素に変換する。この後、二酸化炭素及び水素のうち、二酸化炭素を分離する方法が考えられている。
【0083】
この場合、二酸化炭素を除くガス成分の大部分は水素ガスである。そこで、ガス透過膜13には、水素を選択的に透過する水素透過膜を用いる。COシフト反応後の被処理ガス101は、圧力が高いため、昇圧することなく水素透過膜に導入すると、水素透過膜の表裏の圧力差で、水素ガスが選択的に水素透過膜を透過する。この水素ガスを配管2及び圧縮機4を経由して昇圧してから超音速ノズル5に送ることにより断熱膨張させる。そして、水素透過膜によって水素が大幅に減少した二酸化炭素を含む混合ガスを、配管703を経由して超音速ノズル5内に設置した流路3に通し、超音速に加速されて温度が低下した水素ガスと熱交換させることにより、二酸化炭素を固化して分離する。そして、二酸化炭素を分離した後の水素は、水素透過膜で分離した水素と合わせて利用する。
【0084】
図8においては、二酸化炭素を分離する手段の1段目として旋回流を発生させる超音速ノズル14を用いる。すなわち、本図に示す二酸化炭素分離装置は、超音速ノズルを直列に2段に接続して二酸化炭素を分離するものである。
【0085】
超音速ノズル14においては、二酸化炭素を含む被処理ガス101が超音速に加速され、断熱膨張によって温度が低下して二酸化炭素が固化する。この場合において、超音速ノズル14の内部で旋回流を発生させながら超音速に加速すると、固化した二酸化炭素は、遠心力によって超音速ノズル14の壁面部に集まり、中心部付近には、二酸化炭素以外のガスが集まる。
【0086】
超音速ノズル14の構造を図10に示す。
【0087】
超音速ノズル14の中心軸上にノズル心棒1001があり、ノズルスロート1003の上流側には、ガスの流れに旋回成分を加えるための羽根1002が設けられている。羽根1002は、旋回成分を加えるために超音速ノズル14の中心軸方向に対して一定の角度をもって取り付けられている。すなわち、羽根1002は、超音速ノズル14に中心軸に平行に流入するガスの流れ方向を中心軸に対して旋回する方向に変化させるものである。これにより、二酸化炭素を含む被処理ガスは、旋回しながら超音速まで加速され、固体二酸化炭素1007は、遠心力によって超音速ノズル14の壁面付近に集められる。
【0088】
そこで、本図に示すように、超音速ノズル14の下流部にガス流路を中心部と環状部とに分ける円筒形の隔壁802を設けると、固化した二酸化炭素を含んだ二酸化炭素濃度の高いガスと、固化した二酸化炭素を含まず二酸化炭素濃度の低いガスとに分離することができる。すなわち、超音速ノズル14の下流部に二重管構造を形成することにより、二酸化炭素濃度の異なる2種類のガスを作製する。
【0089】
この超音速ノズル14による分離のみでは、固化した二酸化炭素のみを集めることは困難であり、固化した二酸化炭素と一緒に他のガス成分も混入し、二酸化炭素濃度は99%よりも低いものとなる。また、超音速ノズル14を出て再び亜音速に戻ると、温度も再び元の温度付近まで上昇するため、固化した二酸化炭素は再び気化する。
【0090】
図8においては、超音速ノズル14で分離した二酸化炭素濃度の低いガスを配管2及び圧縮機4を介して超音速ノズル5に導入する。二酸化炭素濃度の低いガスを超音速ノズル5で断熱膨張させて低温度とし、配管803を介して流路3に亜音速で導入された二酸化炭素濃度の高いガスを、流路3の隔壁を介して熱交換(冷却)することにより、二酸化炭素を固化する。固化した二酸化炭素は、気固分離槽8などで分離することにより、高濃度の二酸化炭素として分離することができる。
【0091】
上述の例は、二酸化炭素を含むガスを圧力スイング吸着塔、ガス透過膜、又は旋回流を付加した超音速ノズルを用いて二酸化炭素濃度の高いガスと低いガスとに分離して、二酸化炭素濃度の低いガスを超音速ノズル5で加速し、二酸化炭素濃度の高いガスに含まれる二酸化炭素を固化して分離するものである。
【0092】
図9は、被処理ガスとは別に外部空気を導入して冷却媒体として用いるものである。
【0093】
本図においては、外部より取り入れた空気901を除湿部15及び圧縮機4を介して超音速ノズル5の環状部に導入するようになっている。超音速ノズル5の環状部で加速して冷却された空気901は、流路3に導入された分離対象である被処理ガス101と熱交換した後、空気902として外部に放出される。
【0094】
空気901に含まれる水分(水蒸気)は、除湿部15で除去される。水分を除去された空気901は、圧縮機4で加圧され、超音速ノズル5に送られる。空気901に含まれる水分を除去しないと、超音速ノズル5で断熱膨張させたときに水分が固化して超音速ノズル5の内壁面に付着し、流路が閉塞してしまうおそれがあるからである。
【0095】
分離対象である被処理ガス101にも水分が含まれている場合には、配管953に除湿部を設けて、被処理ガス101に含まれる水分を除去した後、流路3に導入する。
【0096】
以上の例においては、超音速ノズルと二酸化炭素を含む被冷却ガスの流路配管とが同心円状の断面を有する場合を説明してきたが、これに限定されるものではなく、超音速ノズルと異なる中心軸を有する流路配管を用いてもよい。また、流路配管の中心軸は、超音速ノズルの中心軸と平行にする構成に限定されるものではなく、超音速ノズルの下流部(出口部)に超音速ノズルの中心軸に対して交わる(直交する)ように流路配管を配置してもよい。
【符号の説明】
【0097】
2、10、11、222、223、953:配管、3、603:流路、4、224:圧縮機、5:超音速ノズル、6:熱、7:ドライアイス、8:気固分離槽、12:網、13:ガス透過膜、14:超音速ノズル、15:除湿部、51:入口部、52:中間部、53:出口部、101:被処理ガス、102:二酸化炭素除去ガス、103:二酸化炭素、201、202:圧力スイング吸着塔、211、212、213、214、215、216:バルブ、225:減圧ポンプ、407:液体二酸化炭素粒子、408:気液分離槽、409:液体二酸化炭素、607:固体二酸化炭素、750:膜分離部、802:隔壁、901、902:空気、1001:ノズル心棒、1002:羽根、1003:ノズルスロート、1007:固体二酸化炭素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒として用いるガスを断熱膨張させて低温度とする超音速ノズルと、低温度となった前記ガスと熱交換可能に配置された二酸化炭素を含む被冷却ガスの流路配管と、この流路配管の内部で固化又は凝縮した前記二酸化炭素を前記被冷却ガスから分離する気固分離部又は気液分離部とを備えたことを特徴とする二酸化炭素分離装置。
【請求項2】
前記被冷却ガスは、前記ガスに比べて二酸化炭素を多く含むことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項3】
さらに、被処理ガスに含まれる二酸化炭素を濃縮して前記被冷却ガスを作製する二酸化炭素濃縮部を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項4】
前記二酸化炭素濃縮部は、前記被冷却ガスとともに前記被処理ガスに含まれる二酸化炭素の濃度を低減した前記ガスを作製することを特徴とする請求項3記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項5】
前記超音速ノズル及び前記流路配管は、二重管を構成し、この二重管の隔壁が前記熱交換部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項6】
前記流路配管は、前記二重管の内管を構成していることを特徴とする請求項5記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項7】
前記超音速ノズルは、前記二重管の内管を構成していることを特徴とする請求項5記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項8】
前記ガスが空気であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項9】
前記二酸化炭素濃縮部は、圧力スイング吸着部、ガス透過膜を内蔵した膜分離部又は下流部に二重管構造を有する超音速ノズルであることを特徴とする請求項3〜8のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項10】
前記気固分離部又は前記気液分離部は、前記被冷却ガスの流入部と、前記被冷却ガスの流出部と、前記二酸化炭素の回収部とを有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項11】
前記二重管は、前記ガス及び前記被冷却ガスを鉛直方向に流すように設置されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項12】
前記気固分離部又は前記気液分離部は、固化した二酸化炭素を捕集する多孔体であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項13】
さらに、前記ガスに含まれる水蒸気を除去する除湿部を備え、前記除湿部を通過した前記ガスを前記超音速ノズルに導入するように構成したことを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離装置。
【請求項14】
前記被冷却ガスは、二酸化炭素、水素、窒素及び酸素を主成分とすることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−184139(P2012−184139A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48549(P2011−48549)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】