説明

二酸化炭素回生システム及び二酸化炭素回生方法

【課題】火力発電所等からの排ガスを有効利用し、設置コスト及び回収コストが低減でき、且つ気象条件に左右されずにプランクトン藻類を安定的に増殖できる、二酸化炭素回生システム及び二酸化炭素回生方法を提供すること。
【解決手段】培養液を用いてプランクトン藻類を培養する培養槽70と、二酸化炭素を所定の液体に溶解することにより、培養液の二酸化炭素濃度を調整するための二酸化炭素調整用液体を生成する溶解装置50と、溶解装置50によって生成された二酸化炭素調整用液体と、培養槽70の培養液とを混合することにより、所定条件に合致する培養液を生成し、当該生成した培養液を培養槽70に供給する調整槽60とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランクトン藻類を利用した二酸化炭素回生システム及び二酸化炭素回生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の増加に応じて深刻化する地球温暖化問題に対処するために種々の方法が提案されており、その中の一つとして、各種の生物を利用した二酸化炭素回生方法の開発が進められている。例えば、サトウキビやトウモロコシ等の食用植物を基にバイオエタノールを製造する方法が挙げられる。しかし、食用植物を用いた二酸化炭素回生方法では、食料品の価格高騰による食糧供給問題が懸念されている。
【0003】
このような食糧供給問題の懸念がない生物利用型の二酸化炭素回生方法として、プランクトン藻類を利用した二酸化炭素回生システムがある。この二酸化炭素回生システムの一例として、海又は湖沼等に生分解性の浮遊体を設けることで、藻類を増殖させるシステムが提案されている(例えば特許文献1参照)。このシステムにおいては、生分解性の浮遊体を海又は湖沼等の有光層に浮かべることで、当該浮遊体の表面にプランクトン藻類が付着することから、海水又は湖沼等の浅瀬だけでなく、外洋においてもプランクトン藻類を増殖させることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2008−11721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のプランクトン藻類を利用した二酸化炭素回生システムは、二酸化炭素の固定性、コスト性、及びプランクトン藻類の増殖性について種々の問題が生じ得るものであった。
【0006】
まず、二酸化炭素の固定性に関して、従来の方法では、自然界に放出された二酸化炭素をプランクトン藻類に固定していたので、例えば、火力発電所等から放出される二酸化炭素を直接的にプランクトン藻類に供給することができず、二酸化炭素の固定効率を高めることは困難であった。
【0007】
また、コスト性に関して、従来の方法では、多量の二酸化炭素を固定するためには大規模に設備を展開する必要があり、システムの設置コストが多大になるという問題があった。また、海又は湖沼等で培養したプランクトン藻類を回収するためには、プランクトン藻類を海洋上等の比較的長距離を経て運搬する必要があるため、回収コストも多大になるという問題があった。
【0008】
さらに、プランクトン藻類の増殖性に関して、従来の方法では、プランクトン藻類を海又は湖沼等の自然環境下で培養していたので、プランクトン藻類の増殖速度が水温や日照時間等の気象条件に左右され、プランクトン藻類の回収量が一定しないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、二酸化炭素の固定性、コスト性、及びプランクトン藻類の増殖性について有利な二酸化炭素回生システム及び二酸化炭素回生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の二酸化炭素回生システムは、培養液を用いてプランクトン藻類を培養する培養手段と、二酸化炭素を所定の液体に溶解することにより、前記培養液の二酸化炭素濃度を調整するための二酸化炭素調整用液体を生成する気体溶解手段と、前記気体溶解手段によって生成された前記二酸化炭素調整用液体と、前記培養手段から取得した前記培養液とを混合することにより、所定条件に合致する培養液を生成し、当該生成した培養液を前記培養手段に供給する培養液調整手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の二酸化炭素回生システムは、請求項1に記載の二酸化炭素回生システムにおいて、前記気体溶解手段は、二酸化炭素を含む排ガスから固形成分を除去したガス成分を、前記所定の液体に溶解することを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の二酸化炭素回生システムは、請求項1又は2に記載の二酸化炭素回生システムにおいて、前記培養手段は、前記培養液から放出された二酸化炭素を閉じ込める密閉容器を備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の二酸化炭素回生システムは、請求項1から3のいずれか一項に記載のニ酸化炭素回生システムにおいて、前記培養手段は、当該培養手段の外部の光源からの光を、前記プランクトン藻類に対して導光するための導光手段を備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の二酸化炭素回生システムは、請求項1から4のいずれか一項に記載の二酸化炭素回生システムにおいて、前記培養手段は、前記培養液から所定の大きさの前記プランクトン藻類を連続的に回収するための回収手段を備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の二酸化炭素回生システムは、請求項1から5のいずれか一項に記載の二酸化炭素回生システムにおいて、前記培養手段の前記培養液における所定の物性を計測する計測手段と、前記計測手段の計測結果に基づいて、前記気体溶解手段又は前記培養液調整手段の少なくとも一方を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に記載の二酸化炭素回生システムは、請求項6に記載の二酸化炭素回生システムにおいて、前記培養手段における前記プランクトン藻類の生育状況に応じた前記気体溶解手段又は前記培養液調整手段の制御条件を格納する制御条件格納手段を備え、前記制御手段は、前記計測手段の計測結果に基づいて前記培養手段における前記プランクトン藻類の生育状況を特定し、当該特定した生育状況に対応する制御条件を前記制御条件格納手段から取得し、当該取得した制御条件に基づいて前記気体溶解手段又は前記培養液調整手段を制御することを特徴とする。
【0017】
また、請求項8に記載の二酸化炭素回生方法は、二酸化炭素を所定の液体に溶解することにより、プランクトン藻類を培養する培養液の二酸化炭素濃度を調整するための二酸化炭素調整用液体を生成する気体溶解工程と、前記気体溶解工程において生成された前記二酸化炭素調整用液体と、前記培養液を用いて前記プランクトン藻類を培養する培養手段から取得した当該培養液とを混合することにより、所定条件に合致する培養液を生成し、当該生成した培養液を前記培養手段に供給する培養液調整工程と、前記培養液調整工程において混合された前記培養液を用いて、前記培養手段において前記プランクトン藻類を培養する培養工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る二酸化炭素回生システム又は請求項8に係る二酸化炭素回生方法によれば、所定条件に合致する培養液を用いてプランクトン藻類を培養するので、プランクトン藻類の培養に適した条件を維持することができ、プランクトン藻類の培養効率を高めることが可能となるため、多量の二酸化炭素を固定する場合であっても設備規模を抑えることができる等、システムの設置コストを低減できる。
また、海又は湖沼等でプランクトン藻類を培養する場合と異なり、培養手段という特定装置の中でプランクトン藻類を培養できるので、プランクトン藻類を長距離を経て運搬する必要がなくなり、回収コストを低減することができる。
さらに、培養手段という特定装置の中でプランクトン藻類を培養できるので、藻類の増殖速度が水温や日照時間等の気象条件に左右されることがなくなり、プランクトン藻類の回収量を安定させることが可能となる。
【0019】
請求項2に係る二酸化炭素回生システムによれば、固形成分を除去した排ガスから二酸化炭素調整用液体を生成したことで、温暖化の原因となる二酸化炭素を含む排ガスを有効利用することができる。
【0020】
請求項3に係る二酸化炭素回生システムによれば、培養手段に密閉容器を備えたことで、培養手段の培養水の二酸化炭素が逸散することを防止することができ、二酸化炭素の回収効率を高めることができる。特に、二酸化炭素を自然界に放出した上でプランクトン藻類に固定するのではなく、密閉環境下でプランクトン藻類に固定するため、二酸化炭素の固定効率を向上させることができる。
【0021】
請求項4に係る二酸化炭素回生システムによれば、光源からの光をプランクトン藻類へ導光するので、昼間におけるプランクトン藻類への光の照射性が向上し、或いは、夜間においてもプランクトン藻類に光を照射することができるので、プランクトン藻類の光合成による培養を促進することができる。
【0022】
請求項5に係る二酸化炭素回生システムによれば、培養液の液面又は液中から所定の大きさのプランクトン藻類を連続的に回収するので、二酸化炭素が固定化されたプランクトン藻類を効率よく回収でき、二酸化炭素の回生効率を高めることができる。
【0023】
請求項6に係る二酸化炭素回生システムによれば、培養手段に備えた計測手段によって気体溶解手段又は培養液調整手段の少なくとも一方を制御するので、培養手段のプランクトン藻類の状態に応じた培養液の調整が可能となり、培養手段の培養液を適切な条件に保つことができる。
【0024】
請求項7に係る二酸化炭素回生システムによれば、プランクトン藻類の生育状況に対応する制御条件に基づいて気体溶解手段又は培養液調整手段を制御するので、生育状況に応じて制御条件が異なる場合であっても、培養手段の培養液を常に適切な条件に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る二酸化炭素回生システム及び二酸化炭素回生方法の実施の形態を詳細に説明する。まず、〔I〕本実施の形態の基本的概念を説明した後、〔II〕本実施の形態の具体的内容について説明し、〔III〕最後に、本実施の形態に対する変形例について説明する。ただし、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0026】
〔I〕本実施の形態の基本的概念
まず、本実施の形態の基本的概念について説明する。本実施の形態に係る二酸化炭素回生システム及び二酸化炭素回生方法は、二酸化炭素をプランクトン藻類に固定化するものである。
【0027】
ここで、本実施形態で回生の対象とする二酸化炭素を包含するガスの種類やその発生源は任意であるが、例えば、火力発電所の排出ガス、ゴミ焼却施設の燃焼ガス、その他産業活動により発生する二酸化炭素を含有するガスが該当する。
【0028】
プランクトン藻類とは、光合成をするプランクトン及び藻類の総称である。プランクトンは、水中又は水面を浮遊している浮遊生物であり、例えば、珪藻類・藍藻類といった植物プランクトンや、光合成する動物プランクトンが該当する。藻類は、光合成を行う生物のうち、主に水中又は水面に生息している生物であり、地上に生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものである。例えば、緑藻といった微細藻類や、高濃度二酸化炭素に耐性を有する新規微細藻類クロロコックム、ドルシベントラレ、又はガルディエリア属に属する微細藻類が該当する。
【0029】
本実施の形態に係る二酸化炭素回生システムの設置範囲は任意であり、例えば、海、河川、湖沼、又は陸地に、当該二酸化炭素回生システムが設置される。
【0030】
この二酸化炭素回生システムの特徴の一つは、概略的に、培養液を用いてプランクトン藻類を培養する培養手段と、二酸化炭素を所定の液体に溶解することにより、前記培養液の二酸化炭素濃度を調整するための二酸化炭素調整用液体を生成する気体溶解手段と、前記気体溶解手段によって生成された前記二酸化炭素調整用液体と、前記培養手段の前記培養液とを混合することにより、所定条件に合致する培養液を生成し、当該生成した培養液を前記培養手段に供給する培養液調整手段を備えている点にある。これにより、前記二酸化炭素調整用液体を前記培養液に均一に混合することができるため、培養手段の培養液の二酸化炭素濃度を効率良く、且つ正確に管理することができる。
【0031】
〔II〕本実施の形態の具体的内容
次に、本実施の形態の具体的内容について説明する。
【0032】
まず、二酸化炭素回生システムの全体構成、及び、当該二酸化炭素回生システムによる二酸化炭素回生処理の概略を説明する。次に、本実施の形態に係る二酸化炭素回生システムの特徴であるプランクトン藻類培養工程の構成、及び、当該プランクトン藻類培養工程によるプランクトン藻類培養処理についての詳細を説明する。
【0033】
(構成)
図1は、本実施の形態に係る二酸化炭素回生システムの構成を示した概略図である。図1に示すように、二酸化炭素回生システム1は、プランクトン藻類培養工程2と、バイオ燃料製造工程3に大別される。ここで、バイオ燃料とは、1)プランクトン藻類を脱水乾燥させることで製造された燃料、2)脂質を生成するプランクトン藻類を利用して、エステル化反応を利用して製造されたバイオディーゼルフューエル、或いは3)プランクトン藻類をエタノール発酵させて製造されたバイオエタノールを含む。以下では、バイオエタノールを製造する場合を例示するものとし、バイオ燃料製造工程3がバイオエタノール製造工程である場合について説明する。
【0034】
(構成−プランクトン藻類培養工程)
プランクトン藻類培養工程2は、二酸化炭素回生システム1に投入された二酸化炭素の固定化を行うための処理工程であり、溶解工程4及び増殖工程5を含む。
【0035】
溶解工程4は、二酸化炭素を所定の液体に溶解する工程である。この溶解工程4では、火力発電所等から排出された排ガスに含まれる二酸化炭素が所定の液体に溶解されて二酸化炭素調整用液体が生成され、この二酸化炭素調整用液体がプランクトン藻類の培養液に混合され、混合後の培養液が増殖工程5に供給される。
【0036】
増殖工程5は、二酸化炭素を溶解した培養液と自然光等を用いてプランクトン藻類を培養する工程である。この増殖工程5では、プランクトン藻類の培養液に関して、二酸化炭素溶解濃度、pH(potential Hydrogen:水素イオン濃度指数)、水温等を最適化し、自然光等を利用してプランクトン藻類を増殖し、所定量まで増殖されたプランクトン藻類をバイオ燃料製造工程3に供給する。この培養液を最適化する方法は任意であるが、例えば、二酸化炭素濃度に関しては、溶解工程4から定期的に二酸化炭素が溶解された培養液が供給されることで、所定の二酸化炭素溶解濃度が維持される。また、pHに関しては、海水が培養液に導入されることで、所定のpHが維持される。また、水温に関しては、火力発電所等からの排熱を利用することで、所定の水温が維持される。なお、増殖工程5は、日射量が豊富であればプランクトン藻類の増殖を早めることができ、例えば、昼は自然光をプランクトン藻類に照射し、夜は照明灯をプランクトン藻類に照射することで、プランクトン藻類の光合成を連続的に行うことができる。
【0037】
(構成−バイオ燃料製造工程)
バイオ燃料製造工程3は、二酸化炭素回生システム1により培養したプランクトン藻類を用いてエタノール製品を製造するための処理工程であり、分離工程6、糖化工程7、発酵工程8、及び蒸留工程9を含む。
【0038】
分離工程6は、増殖工程5の培養液とプランクトン藻類とを分離する工程である。この分離工程6では、増殖工程5から送られた培養液とプランクトン藻類が分離されて、分離されたプランクトン藻類が糖化工程7に供給される。培養液とプランクトン藻類とを分離する際に、培養液に含まれる二酸化炭素のうち気化した二酸化炭素は、二酸化炭素回生システム1外に放出されないように、火力発電所等から排出された排ガスと共に、溶解工程4に再度送られる。
【0039】
糖化工程7は、プランクトン藻類を糖化する工程である。この糖化工程7では、分離工程6で分離されたプランクトン藻類が、硫酸、水蒸気、或いは酵母等の微生物により加水分解されることで、プランクトン藻類に含まれるデンプン等の有機物が、糖類又はアミノ酸に分解され、プランクトン藻類が糖化される。このように糖化されたプランクトン藻類は、酵母発酵の基質として生成され、発酵工程8に供給される。このプランクトン藻類は、加水分解される前に乾燥させておくことで、効率的に糖類、又はアミノ酸に分解される。なお、プランクトン藻類を加水分解した際に発生した二酸化炭素は、火力発電所等から排出された排ガスと共に、溶解工程4に再度送られる。
【0040】
発酵工程8は、糖化したプランクトン藻類を酵母を用いて発酵させる工程である。この発酵工程8では、糖化工程7により、雑菌が殺菌されて酵母を増殖させやすい状態となったプランクトン藻類の表面に、酵母が添加されることで、エタノール発酵が行われる。そして、発酵生成されたエタノールが蒸留工程9に供給される。
【0041】
発酵工程8で用いる酵母の種類は任意であるが、例えば、アルコール発酵に使用されるサッカロミセス属の酵母が該当する。このサッカロミセス属の酵母のうち、サッカロミセス・セレビッシュ(Saccaromyces cerevisiae)は発酵力が強いのでアルコール発酵に多用されている。また、サッカロミセス・サケ(Saccaromyces sake)は高濃度のアルコールにも耐用を示す点で好ましく、サッカロミセス・ウバルム(Saccaromyces uvarum)は低温でも発酵し得る。なお、海洋で採取したプランクトン藻類を用いた場合、発酵基質に塩分が残留することで、発酵が阻害されるおそれがある。このような高塩分濃度の原料を発酵させるには、酵母としてサッカロミセス・ルーキシイ(Saccaromyces rouxii)のような好塩菌を用いることが好ましい。このサッカロミセス・ルーキシイは、食塩分濃度が15%以上であっても発酵作用を示すことができる。
【0042】
発酵工程8においてプランクトン藻類の発酵を促す方法は任意であるが、例えば、プランクトン藻類の表面に、デンプン、砂糖、グルコース、及び糖蜜からなる群より選ばれた少なくとも一種を添加することが望ましい。また、糖化したプランクトン藻類に発酵原料を配合して発酵させてもよく、例えば、米、トウモロコシ、サトウキビ、テンサイ、コムギ、オオムギ、カラスムギ、バレイショ、サツマイモ、大豆及び乳が該当する。
【0043】
発酵工程8においてプランクトン藻類を発酵する時間又温度は任意であり、例えば、プランクトン藻類に添加する酵母菌等によって適宜設定する。また、発酵の際に、酵母菌から排出された二酸化炭素は、火力発電所等から排出された排ガスと共に、溶解工程4に再度送られる。
【0044】
蒸留工程9は、発酵工程8で生成されたエタノールを蒸留する工程である。この蒸留工程9では、生成されたエタノールが沸騰するまで加熱或いは減圧されて蒸発し、その蒸気が冷やされて再び液体に戻されることで、エタノールに含まれる不純物等が除去される。蒸留後のエタノールは発酵生成物として取り扱われ、例えば、医薬品等のエタノール製品に加工されたり、又は自動車やバイク等の液体燃料(バイオ燃料)に用いられる。また、蒸留工程9で得られた残渣や排水は、プランクトン藻類の構成物が多く含まれているため、増殖工程5に戻して再利用される。また、発酵に利用できなかった有機物は、図示しないゴミ焼却施設で燃焼させる。このとき発生した排ガスは、火力発電所等から排出された排ガスと共に、溶解工程4に再度送られる。
【0045】
なお、二酸化炭素回生システム1によって得られた発酵生成物が、発電燃料として火力発電所に用いられることで、火力発電所で得られた電気が、当該二酸化炭素回生システム1を形成する装置の動力源とされることが望ましい。
【0046】
(プランクトン藻類培養工程の構成)
次に、本実施の形態に係るプランクトン藻類培養工程2の構成について詳細に説明する。図2は本実施の形態に係る二酸化炭素回生システム1のプランクトン藻類培養工程2を示した概略図である。図2に示すように、プランクトン藻類培養工程2の内、溶解工程4は、エリミネータ20、貯留タンク30、コンプレッサ40、溶解装置50、及び調整槽60を備えて構成され、増殖工程5は、培養槽70を備えて構成されている。また、これら各部は管路P1〜P8にて図示のように接続されている。また、これら溶解工程4及び増殖工程5の各装置を制御する制御盤90が設けられている(この制御盤90と各装置の接続線は省略する)。
【0047】
(溶解工程−エリミネータ)
エリミネータ20は、火力発電所等の燃焼装置10の排ガスを気液分離するもので、例えば、当該エリミネータ20の内部には、複数の略方形状の板材21、及び図示しない流量センサが設けられている。
【0048】
複数の板材21は、気体に含まれる液体成分を分離する部材であり、各板材21が鉛直方向に沿って相互に間隔を隔てて、かつ、各板材21が相互に上下交互にずれた位置に配置されている。そして、燃焼装置10から管路P1を介して導入された排ガスが、複数の板材21と衝突し、排ガスに含まれるタール等の液体が板材21に付着することで、ガス成分のみが管路P2を介して貯留タンク30へ導出される。この板材21に付着したタール等の液体は、重力により落下してエリミネータ20の下部に蓄えられ、廃棄物として処理される。この板材21の種類は任意であるが、例えば、普通鉄板や樹脂成形板が該当する。
【0049】
(溶解工程−貯留タンク)
貯留タンク30は、エリミネータ20から管路P2を介して導入された排ガスを貯留するものである。貯留タンク30の形状又は大きさは任意であるが、例えば、培養槽70のプランクトン藻類を所定期間増殖できる程度の排ガスを収容可能な形状及び大きさにて構成されている。この貯留タンク30の内部には、取入口31、及びフィルタ32が設けられている。
【0050】
取入口31は、貯留タンク30内に大気を取り込むためのもので、貯留タンク30の壁部に設けられている。具体的には、この取入口31には、開閉シャッターが設けられており、この開閉シャッターを開閉制御することで、取入口31を開閉することができる。この開閉シャッターの開閉は図示しない圧力弁によって制御されている。フィルタ32は、貯留タンク30に導入された排ガスに含まれる灰等の固形成分であって、エリミネータ20で完全に除去できなかった固形成分を除去するものであり、貯留タンク30と管路P3との接続口近傍に設けられている。
【0051】
(溶解工程−コンプレッサ)
コンプレッサ40は、管路P3を介して導入された貯留タンク30の排ガスを圧縮して、管路P4を介して溶解装置50へ導出するものである。コンプレッサ40の種類は任意あるが、例えば、ススクリュー型、クロール型、又はロータリー型のコンプレッサ40等が該当する。
【0052】
(溶解工程−溶解装置)
溶解装置50は、排ガスを所定の液体に溶解させて、二酸化炭素調整用液体を生成するもので、特許請求の範囲における気体溶解手段に対応する。具体的には、溶解装置50は、管路P4を介してコンプレッサ40から導入された排ガスを、管路P5を介して調整槽60から導入され噴霧された培養液に溶解させて、二酸化炭素調整用液体を生成する。
【0053】
この溶解装置50は、筺体51、ポンプ52、圧力ゲージ53、及び圧力弁54を備えている。筺体51は、生成した二酸化炭素調整用液体を保管する圧力容器である。この筺体51は、中空円筒状にて形成されており、コンプレッサ40から導入された排ガスを所定の圧力で保持することができる。ポンプ52は、調整槽60の培養液を管路P5を介して溶解装置50に導入するためのものである。このポンプ52は、管路P4を介してコンプレッサ40から導入される排ガスとの溶解を効率的に行うために、調整槽60の培養液を噴霧状にして溶解装置50へ導出する。圧力ゲージ53は、筺体51内の圧力を計測するもので、筺体51の内部に設置されている。圧力弁54は、生成された二酸化炭素調整用液体を調整槽60へ導出するためのもので、管路P6に備えられている。この圧力弁54は、溶解装置50内の圧力が所定の圧力値以上となると、圧力ゲージ53からの信号を受けて自動的に開放されて、溶解装置50内の二酸化炭素調整用液体が管路P6を介して調整槽60へ導出される。
【0054】
(溶解工程−調整槽)
調整槽60は、培養槽70の培養液の二酸化炭素を所定の濃度に管理するための貯留槽であり、特許請求の範囲における培養液調整手段に対応する。具体的には、調整槽60は、溶解装置50から管路P6を介して導入された二酸化炭素調整用液体を、当該調整槽60の培養液に導入して、所定の二酸化炭素濃度になるように調整する。また、調整された調整槽60の培養液は、管路P7を介して培養槽70に導出される。この調整槽60の内部には、図示しない二酸化炭素濃度センサが設けられている。二酸化炭素濃度センサは、調整槽60内の濃度を計測する計測手段であり、当該二酸化炭素濃度センサの計測値は、後述する制御盤90に出力される。
【0055】
(増殖工程−培養槽)
培養槽70は、プランクトン藻類を増殖させるための貯留槽であり、特許請求の範囲における培養手段及び密閉容器に対応する。具体的には、培養槽70は、当該培養槽70の培養液がプランクトン藻類の生育に最適な条件となるように、二酸化炭素濃度、pH、水温、栄養塩等を管理して、プランクトン藻類を増殖させる。培養槽70には、蓋71、LED72、反射板73、栄養素供給装置74、還水口75、フィルタ76、77、回収装置80、図示しない水質センサ、及び図示しない日射センサが設けられている。
【0056】
ここでは、培養槽70を立方体状の水槽として図示しているが、その縦断面形状、平面形状(配置)、及び構造は基本的に任意である。例えば、培養槽70の縦断面形状については、円形や矩形の如き任意の縦断面形状の管路を用いて培養槽70を形成することができる。培養槽70の内部に培養液の滞留箇所を生じさせないためには、縦断面形状を円形とすることがより好ましいが、縦断面形状を矩形とした場合であっても、滞留が生じ易い隅部の周辺に誘導羽根を設けることで乱流を生成することで、培養液の滞留を防止することができる。また、培養槽70を管路状に形成する場合には、この培養槽70の平面形状(配置)を円環状や角環状とすることで、培養槽70の内部において培養液と共にプランクトン藻類を流動的に循環させることとし、この循環過程においてプランクトン藻類を生育することができる。この生育方法では、培養槽70に設けた回収装置80で回収対象にならなかった小さなプランクトン藻類が、さらに培養槽70を1周から数周(この周回数はプランクトン藻類の種類に応じた生育速度により異なり得る)する間に、回収対象になる大きさに成長して回収装置80で回収されるため、プランクトン藻類を生育のために1箇所に滞留させておく必要がなくなり、効率的である。また、培養槽70の平面形状(配置)は、当該培養槽70の設置場所に合致した形状とすることができる。また、培養槽70を、上部を開放させた水路状に形成してもよいが、培養槽70の密閉性を維持するためには、上部を閉鎖した管路状とすることが好ましい。
【0057】
培養槽70を図示のように立方体状の水槽とする場合、具体的には以下のように構成することが好ましい。すなわち、培養槽70の開口を覆う位置に蓋71を設けることで、培養槽70の培養液から放出された二酸化炭素を閉じ込め、培養槽70を密閉容器とする。この蓋71は、培養槽70の密閉性を高めることが好ましく、例えば、蓋71と培養槽70の開口との接触部分にパッキン又はシール材が取り付けられる。また、この蓋71の種類は任意であるが、培養槽70に自然光を照射できることが好ましく、例えば、透明なガラス材やプラスチック材等が該当する。
【0058】
LED72は、日射量が少ない夜間等にプランクトン藻類に光を照射するもので、特許請求の範囲における導光手段に対応する。このLED72は、蓋71の内側面に配置されており、培養槽70の形状や大きさに合わせて複数配置される。LED72の動力源は任意であるが、例えば、燃焼装置10から発生した電力を利用してもよい。
【0059】
反射板73は、培養槽70の下部に自然光等の光を導光させるためのものであり、特許請求の範囲における導光手段に対応する。この反射板73は、培養槽70の壁部下方や底面に配置されており、培養槽70の形状や大きさに合わせて複数配置される。
【0060】
栄養素供給装置74は、培養槽70に栄養素としての栄養塩を供給するものであり、培養槽70の蓋71部又は壁部に配置されている。なお、栄養素供給装置74から供給されるプランクトン藻類の栄養素としては、栄養塩に代えて、あるいは栄養塩に加えて、例えば、リンや窒素を用いてもよい。
【0061】
還水口75は、培養槽70の培養液と海水とを循環させるための開口であり、培養槽70の壁部に配置されている。フィルタ76は、還水口75から海水が培養槽70に導入、又は培養液が海洋へ導出される際に、当該培養液に含まれるプランクトン藻類が培養槽70から流出することを防ぐもので、培養槽70と還水口75との接続口近傍に配置されている。フィルタ77は、培養槽70の培養液が管路P8を介して調整槽60に導入される際に、当該培養液に含まれるプランクトン藻類が培養槽70から流出することを防ぐもので、培養槽70と管路P8との接続口近傍に配置されている。
【0062】
図示しない水質センサは、培養槽70内のpH、二酸化炭素濃度、栄養塩濃度、水温、又は水位等を計測するものであり、特許請求の範囲における計測手段に対応する。水質センサの計測項目としては、例えば、pH、溶存二酸化炭素、酸化還元電位、導電率、塩分、温度、溶存酸素及び濁度等が該当する。培養槽70のこの水質センサは、培養槽70の壁部に配置されており、このセンサによって計測されたデータは、後述する制御盤90に出力される。
【0063】
図示しない日射センサは、培養槽70内の日射量を計測するものであり、特許請求の範囲における計測手段に対応する。培養槽70のこの水質センサは、培養槽70の壁部に配置されており、このセンサによって計測されたデータは、後述する制御盤90に出力される。
【0064】
図3は、回収装置80の斜視図であり、図4は、図3の横断面図である。回収装置80は、所定の大きさのプランクトン藻類を連続的に回収するものであり、特許請求の範囲における回収手段に対応する。この回収装置80は、培養槽70の外部に配置されており、パイプ管81、ベルトコンベア82、及び仕切り板83を備えている。
【0065】
パイプ管81は、培養槽70のプランクトン藻類と培養槽70の培養液を流動させる長尺部材であり、培養槽70から引き出された後で再び培養槽70に導入されることで、培養槽70の培養液を回収装置80に連続的に循環させる。このパイプ管81は、当該中央部の縦断面形状が方形状で、当該両端部の縦断面形状が円形状を有しており、プランクトン藻類の回収作業を行う中央部の縦断面積が、両端部の縦断面積よりも大きくなっている。プランクトン藻類の回収作業をする場合には、ベルトコンベア82の設置を考慮して、パイプ管81の中央部の上面の一部が開放される。なお、本実施の形態においては、培養槽70を立方体状の水槽としているため、培養槽70の外部に回収装置80を配置した上で、これら培養槽70と回収装置80をパイプ管81で接続しているが、培養槽70自体を上述のように管路状に形成した場合には、この管路状の培養槽70の一部に回収装置80を設置する。
【0066】
ベルトコンベア82は、プランクトン藻類を次の工程に搬送するもので、パイプ管81の中央部に設けられている。このベルトコンベア82は、メッシュ状にて形成されているので、当該メッシュの径以下の形状のプランクトン藻類を培養液と共に落下させることで、当該メッシュの径以上(所定の大きさ以上)のプランクトン藻類のみを回収することができる。仕切り板83は、パイプ管81の内部の気体が大気中に放出されることを防止するものであり、パイプ管81の中央部の上面から、当該中央部を流れる培養液の液面より下方の位置(培養液中の位置)に至るように配置されている。このように仕切り板83を設けることで、パイプ管81の内部空間を、当該パイプ管81及び仕切り板83で囲繞された密閉空間81aと、当該パイプ管81の外部空間に開放されてベルトコンベア82を配置可能な開放空間81bに区画することができ、特に、密閉空間81aにおいては、パイプ管81の内部の気体が大気中に放出されることを防止することができ、培養液における二酸化炭素の濃度を維持することができる。このような構造により、回収装置80を含む培養槽70を、全体として実質的に密閉容器として構成することができる。
【0067】
なお、各管路P1〜8には、水量制御用のダンパD1、2が図示の位置に設けられている。ダンパD1、2の制御は、後述する制御盤90によって制御されている。
【0068】
(二酸化炭素回生システムの構成−制御盤)
制御盤90は、二酸化炭素回生システム1の動作の制御を行うためのものである。図5は、制御盤90の電気的構成を機能概念的に示したブロック図である。図5に示すように、制御盤90は、溶解装置制御部91、培養槽制御部92、回収装置制御部93、入力部94、及び記憶部95を備えている。
【0069】
溶解装置制御部91は、特許請求の範囲の制御手段に対応するもので、コンプレッサ40、若しくはポンプ52の制御を行う。培養槽制御部92は、特許請求の範囲の制御手段に対応するもので、概略的には、LED72若しくは栄養素供給装置74の制御、還水口75の開閉に対する切替制御、又は管路P7に対するダンパD1の切替制御、若しくは管路P8に対するダンパD2の切替制御を行う。回収装置制御部93は、回収装置80のベルトコンベア82等を制御する。これら溶解装置制御部91、培養槽制御部92、及び回収装置制御部93の具体的構成は任意であるが、例えば、OS(Operating System)等の制御プログラム、各種の処理手順等を規定したプログラム、所要データを格納するための内部メモリ、及び、これらのプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)を備えて構成される。
【0070】
入力部94は、プランクトン藻類の二酸化炭素の固定量等の性状や投入量等、制御盤90による制御に用いられる運転情報を当該制御盤90に入力させる入力手段であり、例えば、キーボードやポインティングデバイスにて構成されている。
【0071】
記憶部95は、入力部94を介して制御盤90に入力された運転情報を格納すると共に、培養槽70におけるプランクトン藻類の生育状況に応じた溶解装置50又は培養槽70の制御条件を含んだ制御テーブルを格納するもので、特許請求の範囲における制御条件格納手段に対応する。この記憶部95は、例えば、ROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリの如き公知の記憶媒体によって構成されている。図6には、記憶部95に格納される制御テーブルの構成例を示す図である。この制御テーブルには、項目「生育状況」に対応する情報として、生育レベル1、2、3の各々に応じた1リットル当りのクロロフィル量(μg/L)もしくは藻類重量(g/L)として「L1」「L2」「L3」が格納されており、項目「制御条件」に対応する情報として、pHの基準範囲である「a1〜a2」「a3〜a4」「a5〜a6」(ここで、a1、a3、又はa5は各基準範囲における下限値、a2、a4、又はa6は各基準範囲における上限値)、二酸化炭素(図中ではCO)濃度の基準値である「b1」「b2」「b3」、栄養塩の濃度の基準値である「c1」「c2」「c3」、及び水温の基準値である「d1」「d2」「d3」が格納されている。なお、図6では簡便化のため、クロロフィル量若しくは藻類重量や各基準範囲や各基準値の具体的数値を「L1」や「a1」のように記号化して示すが、実際には、具体的な数値が制御テーブルに格納される。これら各数値は公知の論理式や実験等に基づいて定めることができる。なお、これら各数値は必ずしも相互に異なるものとする必要はなく、例えば、pHを生育レベルに関わらず同一とした方がよい場合には、「a1〜a2」「a3〜a4」「a5〜a6」は相互に同一の数値となる。また、ここでは、pHについては基準範囲、他の条件については基準値を設定しているが、pHについて基準値を設定したり、他の条件について基準範囲を設定してもよい。
【0072】
(プランクトン藻類培養処理)
次に、二酸化炭素回生システム1によって行われるプランクトン藻類培養処理について説明する。図7は、プランクトン藻類培養処理の流れを示したフローチャートである。なお、特記しない制御に関しては、制御盤90の溶解装置制御部91、培養槽制御部92、又は回収装置制御部93が行うこととする。
【0073】
まず、プランクトン藻類培養処理の準備として、調整槽60及び培養槽70の培養液の貯蔵、及び貯留タンク30の排ガスの貯蔵が行われる。調整槽60及び培養槽70の培養液の貯蔵は、還水口75及びダンパD1を開放することで、海洋の海水が調整槽60及び培養槽70に貯蔵される。この調整槽60及び培養槽70に貯蔵された海水は、プランクトン藻類を増殖させるための培養液として用いられる。また、貯留タンク30の排ガスの貯蔵は、火力発電所等の燃焼装置10の排ガスを管路P1を介してエリミネータ20に導入される。排ガスは、エリミネータ20内部の複数の板材21と衝突することで、当該排ガスに含まれるタール等の液体成分が除去され、ガス成分のみが管路P2を介して貯留タンク30に導出される。これにより、排ガスが貯留タンク30に一時貯蔵される。
【0074】
ここで、燃焼装置10は、火力発電所の炉のように常時稼働している装置を想定しており、当該燃焼装置10から排ガスが常時排出されている。このため、コンプレッサ40は、常時貯留タンク30の排ガスを管路P3を介して導入し、当該コンプレッサ40によって圧縮した排ガスを管路P4を介して溶解装置50へ導出する。なお、貯留タンク30内の圧力が所定値を満たさない場合、図示しない圧力弁によって制御された取入口31は自動的に開閉される。これにより、貯留タンク30内の圧力が一定に制御される。
【0075】
次に、溶解装置制御部91は、調整槽60の二酸化炭素濃度値を取得し(ステップSA−1)、当該取得した二酸化炭素濃度を、記憶部95に記憶されている基準の二酸化炭素濃度と比較する(ステップSA−2)。その結果、二酸化炭素濃度値が基準値より下回ると判定された場合(ステップSA−2、No)、溶解装置制御部91は、ポンプ52を所定時間動作させる(ステップSA−3)。このポンプ52から送られた霧状の培養液にコンプレッサ40で圧縮された気体を溶解させることで、二酸化炭素調整用液体が生成される。ただし、培養液に気体(二酸化炭素)を溶解させる方法としては、本実施の形態で説明した方法に限定されず、公知の方法を含む任意の方法を採用することができる。そして、溶解装置50内の圧力が所定値以上になった場合、圧力弁54が圧力ゲージ53の信号を受けて自動的に開放され、二酸化炭素調整用液体が、管路P6を介して調整槽60に導出される。このステップSA−1からステップSA−3は、調整槽60の培養液が所定の二酸化炭素濃度を満たすまで繰り返し行われる。一方、二酸化炭素濃度値が基準値より上回ると判定された場合(ステップSA−2、Yes)、溶解装置制御部91は次のステップSA−4に進む。
【0076】
次に、培養槽制御部92は、培養槽70に備えられた水質センサからの計測値(培養データ)を取得し(ステップSA−4)、当該取得した計測値を基準値と比較する(ステップSA−5)。この計測値は、pH、二酸化炭素濃度、栄養塩濃度、水温、日射量が該当する。その結果、計測値のうちの一つが基準範囲を逸脱したり基準値より下回ると判定された場合(ステップSA−5、No)、培養槽制御部92は、培養槽70の培養液を増殖処理させる(ステップSA−6)。このステップSA−4からステップSA−6は、培養槽70の培養液が所定の水質条件を満たすまで繰り返し行われる。この培養槽70の培養液の増殖処理については、後述する。
【0077】
一方、計測値が基準値より上回ると判定された場合(ステップSA−5、Yes)、培養槽制御部92は、水質センサから培養槽70の水位を取得し(ステップSA−7)、当該培養槽70の水位や重量から算出されるプランクトン藻類の体積を記憶部95に記憶されている基準の体積と比較する(ステップSA−8)。その結果、プランクトン藻類の体積値が基準値より下回ると判定された場合(ステップSA−8、No)、溶解装置制御部91は、ステップSA−2に戻り、調整槽60の二酸化炭素濃度を取得させる。このステップSA−2からステップSA−8は、培養槽70のプランクトン藻類が所定の体積を満たすまで繰り返し行われる。
【0078】
プランクトン藻類の体積値が基準値より上回ると判定された場合(ステップSA−8、Yes)、回収装置制御部93は、回収装置80を動作させる(ステップSA−9)。回収装置80にて回収された培養槽70のプランクトン藻類は、バイオ燃料製造工程3に搬送され、搬送後に回収装置80を停止する(ステップSA−10)。これにてプランクトン藻類培養工程2が終了する。
【0079】
(プランクトン藻類培養処理−増殖処理)
次に、プランクトン藻類培養処理によって行われる増殖処理について詳細に説明する。図8は、増殖処理の流れを示したフローチャートである。
【0080】
まず、培養槽制御部92は、その時点における培養槽70のプランクトン藻類の生育状況を特定し(ステップSB−1)、当該特定した生育状況に対応する制御条件に基づいて培養槽70を制御する。具体的には、培養槽制御部92は、培養槽70に設けた図示しないダンパを制御することで当該培養槽70から培養液を取得し、この培養液にアセトン等の試薬を投入して攪拌し、分光光度計にて吸光度を測定し、この測定結果と所定のクロロフィル濃度計算式を用いてクロロフィル量を算定する。この際には、攪拌機構や分光光度計を含む公知の自動計測器を用いることができ、あるいは上述した以外の任意の方法でクロロフィル量を算定してもよい。また、クロロフィル量に代えて、藻類重量を直接測定することでもよい。そして、培養槽制御部92は、当該算定したクロロフィル量若しくは藻類重量に基づいて記憶部95の制御テーブルを参照することで、プランクトン藻類の生育状況が生育レベル1から3のいずれに該当するのかを特定し、当該特定した生育レベル1から3に対応する制御条件を当該制御テーブルから取得する。培養槽制御部92は、このように取得された制御条件を、後述するステップSB−2、SB−5、SB−8、SB−11、SB−13における基準範囲や基準値に設定する。
【0081】
次いで、培養槽制御部92は、ステップSA−5において水質センサから取得したpHを、ステップSB−1で設定したpHの基準範囲と比較する(ステップSB−2)。その結果、pHが基準範囲内に収まらないと判定された場合(ステップSB−2、No)、培養槽制御部92は、還水口75を所定時間開放させる(ステップSB−3)。このように還水口75を開放させることで、海水と培養槽70の培養液とが循環し、培養槽70のpHが調整される。還水口75の閉鎖後、培養槽制御部92は、水質センサからの出力を取得する(ステップSB−4)。このステップSB−2からステップSB−4は、培養槽70の培養液のpHが基準範囲内に収まるまで繰り返し行われる。一方、pHが基準範囲内に収まることが確認された場合(ステップSB−2、Yes)、培養槽制御部92は、次のステップSB−5に進む。
【0082】
次に、培養槽制御部92は、水質センサから取得した二酸化炭素濃度を、ステップSB−1で設定した二酸化炭素濃度の基準値と比較する(ステップSB−5)。その結果、二酸化炭素濃度が基準値より下回ると判定された場合(ステップSB−5、No)、培養槽制御部92は、ダンパD1を所定時間開放させる(ステップSB−6)。このダンパD1を開放させることで、調整槽60の培養液が導入され、培養槽70の二酸化炭素濃度が上昇する。ダンパD1の閉鎖後、培養槽制御部92は、再度水質センサからの出力を取得する(ステップSB−7)。このステップSB−5からステップSB−7は、培養槽70の培養液が基準値を満たすまで繰り返し行われる。一方、二酸化炭素濃度が基準値より上回ると判定された場合(ステップSB−5、Yes)、培養槽制御部92は、次のステップSB−8に進む。なお、培養槽制御部92は、ダンパD1の閉鎖後に、或いはダンパD1の開放と同時に、所定時間ダンパD2を開放させてもよい。このダンパD2を開放させることで、培養槽70に導入された調整槽60の培養液の全部又は一部が調整槽60に戻される。
【0083】
次に、培養槽制御部92は、水質センサから取得した栄養塩濃度を、ステップSB−1で設定した栄養塩濃度の基準値と比較する(ステップSB−8)。その結果、栄養塩濃度が基準値より下回ると判定された場合(ステップSB−8、No)、培養槽制御部92は、栄養素供給装置74から所定量の栄養塩を供給させる(ステップSB−9)。この栄養素供給装置74から栄養塩を供給させることで、培養槽70の栄養塩濃度が上昇する。栄養塩の供給後、培養槽制御部92は、再度水質センサからの出力を取得する(ステップSB−10)。このステップSB−8からステップSB−10は、培養槽70の培養液が基準値を満たすまで繰り返し行われる。一方、栄養塩濃度が基準値より上回ると判定された場合(ステップSB−8、Yes)、培養槽制御部92は、次のステップSB−11に進む。
【0084】
次に、培養槽制御部92は、水質センサから取得した水温を、ステップSB−1で設定した水温の基準値と比較する(ステップSB−11)。その結果、水温が基準値より下回ると判定された場合(ステップSB−11、No)、培養槽制御部92は、図示しない管路を介して燃焼装置10の排熱を所定時間供給させ(ステップSB−12)、供給後次のステップに進む。この燃焼装置10から排熱を供給させることで、培養槽70の培養液の水温が上昇する。一方、水温が基準値より上回ると判定された場合(ステップSB−11、Yes)、培養槽制御部92は、次のステップSB−13に進む。
【0085】
次に、培養槽制御部92は、日射センサから取得した日射量を、記憶部95に記憶されている基準の日射量と比較する(ステップSB−13)。ここでは、日射量の基準値については、プランクトン藻類の生育条件に関わらず一定の基準値を設定できると考え、当該一定の基準値を制御テーブルではなく記憶部95に直接記憶させている。ただし、プランクトン藻類の生育条件に応じて日射量の基準値が変り得る場合には、当該基準値についても制御テーブルに含めることができる。
【0086】
その結果、日射量が基準値より下回ると判定された場合(ステップSB−13、No)、培養槽制御部92は、図示しない管路を介してLED72を所定時間動作させ(ステップSB−14)、停止後培養槽70の培養データを取得するためにSA−4の直前に戻る。このLED72を動作させることで、昼夜を問わずプランクトン藻類が増殖される。一方、日射量が基準値より上回ると判定された場合(ステップSB−13、Yes)、再度培養槽70の培養データを取得するためにSA−4の直前に戻り、この処理が繰り返される。
【0087】
(本実施の形態の効果)
このように本実施の形態によれば、所定条件に合致する培養液を用いてプランクトン藻類を培養するので、プランクトン藻類の培養に適した条件を維持することができ、プランクトン藻類の培養効率を高めることが可能となるため、多量の二酸化炭素を固定する場合であっても設備規模を抑えることができる等、システムの設置コストを低減できる。
【0088】
また、海又は湖沼等でプランクトン藻類を培養する場合と異なり、培養槽70という特定装置の中でプランクトン藻類を培養できるので、プランクトン藻類を長距離を経て運搬する必要がなくなり、回収コストを低減することができる。
【0089】
さらに、培養槽70という特定装置の中でプランクトン藻類を培養できるので、藻類の増殖速度が水温や日照時間等の気象条件に左右されることがなくなり、プランクトン藻類の回収量を安定させることが可能となる。
【0090】
また、エリミネータ20により固形成分を除去した排ガスから二酸化炭素調整用液体を生成したことで、温暖化の原因となる二酸化炭素を含む排ガスを有効利用することができる。
【0091】
また、培養槽70を蓋71にて密閉容器としたので、培養槽70の培養水の二酸化炭素が逸散することを防止することができ、二酸化炭素の回収効率を高めることができる。特に、二酸化炭素を自然界に放出した上でプランクトン藻類に固定するのではなく、密閉環境下でプランクトン藻類に固定するため、二酸化炭素の固定効率を向上させることができる。
【0092】
また、光源からの光をプランクトン藻類へ導光するので、昼間におけるプランクトン藻類への光の照射性が向上し、或いは、夜間においてもプランクトン藻類に光を照射することができるので、プランクトン藻類の光合成による培養を促進することができる。
【0093】
また、培養液の液面又は液中から所定の大きさのプランクトン藻類を回収装置80にて連続的に回収するので、二酸化炭素が固定化されたプランクトン藻類を効率よく回収でき、二酸化炭素の回生効率を高めることができる。
【0094】
また、制御盤90によって培養槽70を制御するので、培養槽70のプランクトン藻類の状態に応じた培養液の調整が可能となり、培養槽70の培養液を適切な条件に保つことができる。
【0095】
特に、プランクトン藻類の生育状況に対応する制御条件に基づいて培養槽70を制御するので、生育状況に応じて制御条件が異なる場合であっても、培養槽70の培養液を常に適切な条件に保つことができる。
【0096】
〔III〕本実施の形態に対する変形例
以上、本実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例の一部について説明する。
【0097】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【0098】
(培養液調整手段について)
実施の形態では、制御盤90によって培養液のpH、二酸化炭素濃度、栄養塩濃度、水温、及び日射量を制御しているが、このうちの任意の一部のみを制御対象としたり、その他の任意の制御対象を付加することもできる。例えば、培養液の酸素濃度についても、二酸化炭素濃度と同様の方法により計測すると共に、生育レベルに応じた基準範囲や基準値に基づいて自動的に制御することができる。あるいは、プランクトン藻類の生育量(g/L)を重量測定によって計測し、この生育量に基づいて成長速度(単位時間当りの生育量であり、重量%/時間)を算定し、成長速度が所定速度(例えば10%)程度である場合には、当該成長速度を維持できるように、pH、二酸化炭素濃度、栄養塩濃度、水温、及び日射量を制御し、生育量が増えて成長速度が所定速度(例えば1%)以下に低下した場合には、プランクトン藻類の回収速度(具体例としては回収装置80におけるコンベアの回転速度)を大きくしたり、日射量のみを低下させて光合成を抑制してもよい。また、培養槽70のみでなく、溶解装置50における二酸化炭素濃度についても、その時点における培養槽70のプランクトン藻類の生育状況に対応する基準範囲や基準値を取得して、当該基準値に基づいて自動制御してもよい。また、pH、二酸化炭素濃度、栄養塩濃度、水温、及び日射量の制御の順序や基準範囲若しくは基準値は、プランクトン藻類の種類に応じて自動的に変えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
この発明に係る二酸化炭素回生システム及び二酸化炭素回生方法は、プランクトン藻類を用いた二酸化炭素回生システム及び二酸化炭素回生方法に適用でき、特に培養槽の二酸化炭素濃度を効率よく、且つ正確に管理することに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施の形態に係る二酸化炭素回生システムの構成を示した概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る二酸化炭素回生システムのプランクトン藻類培養工程を示した概略図である。
【図3】回収装置の斜視図である。
【図4】図3の回収装置の横断面図である。
【図5】制御盤の電気的構成を機能概念的に示したブロック図である。
【図6】記憶部に格納される制御テーブルの構成例を示す図である。
【図7】プランクトン藻類培養処理のフローチャートである。
【図8】増殖処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0101】
1 二酸化炭素回生システム
2 プランクトン藻類培養工程
3 バイオ燃料製造工程
4 溶解工程
5 増殖工程
6 分離工程
7 糖化工程
8 発酵工程
9 蒸留工程
10 燃焼装置
20 エリミネータ
21 板材
30 貯留タンク
31 取入口
32、76、77 フィルタ
40 コンプレッサ
50 溶解装置
51 筺体
52 ポンプ
53 圧力ゲージ
54 圧力弁
60 調整槽
70 培養槽
71 蓋
72 LED
73 反射板
74 栄養素供給装置
75 還水口
80 回収装置
81 パイプ管
82 ベルトコンベア
83 仕切り板
90 制御盤
91 溶解装置制御部
92 培養槽制御部
93 回収装置制御部
94 入力部
95 記憶部
D1、D2 ダンパ
P1〜P8 管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液を用いてプランクトン藻類を培養する培養手段と、
二酸化炭素を所定の液体に溶解することにより、前記培養液の二酸化炭素濃度を調整するための二酸化炭素調整用液体を生成する気体溶解手段と、
前記気体溶解手段によって生成された前記二酸化炭素調整用液体と、前記培養手段から取得した前記培養液とを混合することにより、所定条件に合致する培養液を生成し、当該生成した培養液を前記培養手段に供給する培養液調整手段と、
を備えたことを特徴とする二酸化炭素回生システム。
【請求項2】
前記気体溶解手段は、二酸化炭素を含む排ガスから固形成分を除去したガス成分を、前記所定の液体に溶解すること、
を特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素回生システム。
【請求項3】
前記培養手段は、
前記培養液から放出された二酸化炭素を閉じ込める密閉容器を備えること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化炭素回生システム。
【請求項4】
前記培養手段は、当該培養手段の外部の光源からの光を、前記プランクトン藻類に対して導光するための導光手段を備えること、
を特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の二酸化炭素回生システム。
【請求項5】
前記培養手段は、前記培養液の液面又は液中から所定の大きさの前記プランクトン藻類を連続的に回収するための回収手段を備えること、
を特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の二酸化炭素回生システム。
【請求項6】
前記培養手段の前記培養液における所定の物性を計測する計測手段と、
前記計測手段の計測結果に基づいて、前記気体溶解手段又は前記培養液調整手段の少なくとも一方を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の二酸化炭素回生システム。
【請求項7】
前記培養手段における前記プランクトン藻類の生育状況に応じた前記気体溶解手段又は前記培養液調整手段の制御条件を格納する制御条件格納手段を備え、
前記制御手段は、前記計測手段の計測結果に基づいて前記培養手段における前記プランクトン藻類の生育状況を特定し、当該特定した生育状況に対応する制御条件を前記制御条件格納手段から取得し、当該取得した制御条件に基づいて前記気体溶解手段又は前記培養液調整手段を制御すること、
を特徴とする請求項6に記載の二酸化炭素回生システム。
【請求項8】
二酸化炭素を所定の液体に溶解することにより、プランクトン藻類を培養する培養液の二酸化炭素濃度を調整するための二酸化炭素調整用液体を生成する気体溶解工程と、
前記気体溶解工程において生成された前記二酸化炭素調整用液体と、前記培養液を用いて前記プランクトン藻類を培養する培養手段から取得した当該培養液とを混合することにより、所定条件に合致する培養液を生成し、当該生成した培養液を前記培養手段に供給する培養液調整工程と、
前記培養液調整工程において混合された前記培養液を用いて、前記培養手段において前記プランクトン藻類を培養する培養工程と、
を含むことを特徴とする二酸化炭素回生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−22331(P2010−22331A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190706(P2008−190706)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】