二酸化炭素注入射出成形用金型
【技術課題】 CO2注入射出成形用金型において、CO2の注入圧を保持し、かつ不純ガスがCO2に混合するのを防ぐ。
【解決手段】 キャビティ1内における樹脂流動末端部分の金型の突合せ面に、キャビティ1内と連通し、かつガスの通過を許容し、樹脂の通過は阻止する寸法に設定された隙間6を形成する。この隙間6と連通し、かつ金型の外には連通しないガス溜り8を金型内に設け、キャビティ1内から押し出された不純ガスを、前記隙間6から前記ガス溜り8内に逃がして一旦ここに封じ込める。これにより、次に注入されたCO2はキャビティ1内から金型外に逃れることができないため、キャビティ1内に注入されたCO2の圧力を一定に保持できる。また、不純ガスを注入CO2に混合させないことで、CO2の純度を維持する。これにより、成形品の可視面の転写性と光沢性を向上させることができる。
【解決手段】 キャビティ1内における樹脂流動末端部分の金型の突合せ面に、キャビティ1内と連通し、かつガスの通過を許容し、樹脂の通過は阻止する寸法に設定された隙間6を形成する。この隙間6と連通し、かつ金型の外には連通しないガス溜り8を金型内に設け、キャビティ1内から押し出された不純ガスを、前記隙間6から前記ガス溜り8内に逃がして一旦ここに封じ込める。これにより、次に注入されたCO2はキャビティ1内から金型外に逃れることができないため、キャビティ1内に注入されたCO2の圧力を一定に保持できる。また、不純ガスを注入CO2に混合させないことで、CO2の純度を維持する。これにより、成形品の可視面の転写性と光沢性を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビティ内に樹脂を充填した後、キャビティ内の樹脂のスキン層(面)とこれに対向するキャビティ面間に例えば超臨界状態の二酸化炭素(以下「CO2」と称す。)を注入することにより、スキン層をキャビティ面から微小離すことでスキン層の成長を遅延させると共に、スキン層内にCO2を溶解させてスキン層を軟化させた後、保圧と冷却を行うことにより、転写性と光沢性に優れた製品を成形することができる二酸化炭素注入射出成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形に際して樹脂のスキン層とキャビティ面との間にCO2を注入し、続いて保圧と冷却を行うと、注入したCO2がスキン層内に溶解してスキン層を軟化させるため、転写性と光沢性が向上することは知られており、本件出願人は、この成形方法の基本特許として、特許第3445778号を取得している。
このCO2の注入による転写性と光沢性の向上を図る射出成形方法は、成形品によってはその後の塗装工程を省略できるまでになっているが、射出成形上、次のような問題がある。
【0003】
一般に熱可塑性樹脂の射出成形では、樹脂をキャビティ内に充填する工程で、キャビティ中の空気、又は、樹脂自身より発生する所謂不純ガスによって、ショートショットやガス焼けが生じるのを防ぐために、この発生した不純ガスをガスベントより金型の外に排気する必要がある。このガスベントは、樹脂流動末端部分の金型の突合せ面に、キャビティ内と連通したガスが通過し樹脂は通過できない隙間、さらに、これと連通し、かつ、金型の外に連通した排気ガス誘導溝で構成されている。これにより、樹脂充填工程中にキャビティ内の不純ガスを金型の外に排気する事ができる。
【0004】
しかしながら、キャビティ内に樹脂を充填後から型開きまでの工程中に、超臨界状態のCO2を樹脂のスキン層とキャビティの間に注入することにより、転写性及び光沢性を向上させる射出成形方法では、樹脂充填中に、キャビティ内の不純ガスをガスベントより金型の外に排気することは出来るが、樹脂充填工程後に、CO2を樹脂のスキン層と金型の間に注入する工程において、注入したCO2が同じガスベントから金型の外に逃げてしまうため、金型内のCO2の圧力を一定に保持することができず、CO2注入により期待される転写性や光沢性の向上が図れないことがある。
【0005】
そこで、特開2004−223888号の場合は、固定側金型と可動側金型の突合せ面に形成されたガスベントに二酸化炭素注入経路を連通させ、CO2をこのガスベントを経由してキャビティ内に注入する方式を採用している。しかし、この方式は、樹脂充填工程中においてキャビティ内の不純ガスを二酸化炭素注入経路内に一旦逃がし、CO2を注入する工程では、この二酸化炭素注入経路よりCO2をキャビティ内に注入するため、経路中に残留していた不純ガスが注入されるCO2に混合してCO2の純度が低下し、スキン層に対する溶解不良、軟化不良の問題が発生し、結果として転写不良及び光沢不良の問題が生じている。
【0006】
また、特許第3445778号特許発明の場合、CO2を樹脂のスキン層と金型の間に注入する工程においては、注入したCO2が、樹脂の充填経路であるランナー、スプルーを経由して金型の外に逃げてしまうため、金型内におけるCO2の圧力を一定に保持する事ができず、上記と同じように転写不良や光沢不良の問題が生じる。但し、この現象はダイレクトゲート、サイドゲート、ファンゲートで起こりやすく、ピンポイントゲート、トンネルゲート、カーブゲートでは起こりにくい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、斯る点に鑑みて提案されるものであって、その目的は、キャビティ内に注入したCO2の圧力を確実に保持し、かつ、CO2と不純ガスの混合を防ぐことにより、転写不良及び光沢不良の問題を発生させない二酸化炭素注入射出成形用金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明においては、二酸化炭素注入射出成形用金型において、キャビティ内に樹脂を充填した後、キャビティ内の樹脂のスキン層とキャビティ面間に二酸化炭素を注入することにより、転写性と光沢性に優れた成形品を得る射出成形方法に用いられる金型において、キャビティ内における樹脂流動末端部分の金型の突合せ面に、キャビティ内と連通し、かつガスの通過を許容し、樹脂の通過は阻止する寸法に設定された隙間を形成すると共に、この隙間と連通し、かつ金型の外には連通しないガス溜りからなるガス溜りを金型内に設け、樹脂充填工程中にキャビティ内から押し出された不純ガスを、前記隙間から前記ガス溜り内に逃がして一旦ここに封じ込めることにより、次に注入された二酸化炭素がキャビティ内から金型外に逃れるのを阻止してキャビティ内に注入された二酸化炭素圧力を保持するように構成したことを特徴とするものである。
この発明によると、ガスベントから注入したCO2が逃れないため、CO2圧力を保持して転写性と光沢性に優れた製品の成形が可能になると共に、CO2を無駄に消費しないという効果がある。
【0009】
更に、請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型において、固定側金型と可動側金型の突合せ面のうち、いずれか一方のキャビティ内と連通する面であって、前記ガス溜りと干渉しない別の位置に、ガスの通過を許容し、樹脂の通過は阻止する寸法に設定された隙間を形成すると共に、この隙間を二酸化炭素注入回路に連通させてこの隙間よりキャビティ内に二酸化炭素を注入するガス注入回路を設けたことを特徴とするものである。
この発明によると、不純ガスがCO2の注入回路内に残留しないため、次の成形サイクルにおいて、CO2の純度を保持することができる。
【0010】
更に、請求項3に記載の発明においては、請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型において、キャビティ内に溶融樹脂を充填する溶融樹脂流路中に、二酸化炭素がこの溶融樹脂流路を経由して金型外に逃れるのを阻止する二酸化炭素流出阻止手段を設けることにより、キャビティ内に注入された二酸化炭素圧力を保持するように構成したことを特徴とするものである。
この発明によると、スプルー側にCO2の圧力が逃れないため、CO2圧力を保持して転写性と光沢性に優れた製品の成形が可能になる。
【0011】
更に、請求項4に記載の発明においては、請求項3に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型において、前記二酸化炭素流出阻止手段は、溶融樹脂流路中に形成された窪み又は突起又は抵抗板から成ることを特徴とするものである。
この発明によると、溶融樹脂流路を経由してCO2圧力が低下するのを防ぐことができる。
【0012】
更に、請求項5に記載の発明においては、請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型において、前記隙間をキャビティの周囲において、複数箇所に形成すると共に、この隙間がそれぞれ連通する排気ガス誘導溝を金型の突合せ面に形成し、かつこの排気ガス誘導溝を前記ガス溜りに連通させて成ることを特徴とするものである。
この発明によると、成形品の大きさや形状に応じてスムースに不純ガスの排除を行うことができると共に、樹脂の流頭制御を不純ガスの排出位置及び量で行うことができる。
【0013】
更に、請求項6に記載の発明においては、請求項5に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型において、前記排気ガス誘導溝に対し、複数のガス溜りを連通させて設けて成ることを特徴とするものである。
この発明によると、排気ガス誘導溝の距離が長すぎると、樹脂充填時のガス排気が適切に行われない場合があるため、適宜な位置にガス溜りを複数個設けることにより、不純ガスの排気をスムースに行うことができる。
【0014】
〔作用〕
上記請求項1に記載の発明においては、樹脂をキャビティ内に充填する工程で、キャビティ内で発生した不純ガスは、樹脂の流れによって、隙間から排気ガス誘導溝を経由してガス溜り内に押し出される。次にCO2を樹脂のスキン層とキャビティ間に注入すると、このCO2は、キャビティ内において、スキン層を微小キャビティ面から離反させたのち、隙間から排気ガス誘導溝を経由しガス溜り内に少し流入するが、このガス溜り内のガスは逃げ場がないため、キャビティ内のCO2の圧力は一定に保持される。その結果、CO2の溶解及びスキン層の軟化が促進される。その後、保圧工程、冷却工程を経て金型を開くと、転写性と光沢性に優れた製品を取り出すことができる。
なお、ガスが通過し、樹脂が通過できない隙間とは、熱可塑性樹脂を用いた射出成形では、厚さ0.01mm〜0.04mm幅程度である。また、各ガス溜りの容量は、キャビティの容量、隙間、排気ガス誘導溝及び成形条件、樹脂の種類等を考慮して決定される。
【0015】
上記請求項2に記載の発明においては、請求項1記載のガス溜りと干渉しない別の位置に、ガスが通過し樹脂が通過しない隙間があり、この隙間は二酸化炭素注入回路の金型入り口と連通している。この結果、隙間より金型キャビティ内にCO2を注入することで、充填時にガス溜りより排気された不純ガスとCO2との混合が無くなるため、CO2の純度が保たれ、よって、製品の転写性及び光沢性を向上させることができる。
【0016】
上記請求項3に記載の発明においては、スプルーから製品を形成するキャビティ間の溶融樹脂流路中に二酸化炭素流出阻止手段を設けることにより、この阻止手段のところで流入して来たCO2はその流れが阻止され、この作用でCO2の流れは流路の途中で止まる。この結果、樹脂の充填経路を経由して金型の外にCO2が漏れないことから、キャビティ内のCO2の圧力を保持する事ができ、よって、成形品の転写性及び光沢性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以上のとおり、金型内にガス溜りを設けて樹脂をキャビティ内に充填したときに、キャビティ内から押し出された不純ガスを、このガス溜り内に一旦封じ込め、金型外に逃がさないようにすることができる。
この結果、次にCO2をキャビティ内に注入したときに、このCO2はスキン層とキャビティ面間に注入され、更にその一部は隙間からガス溜り内に一部流入するが、何れにしてもガス溜り内には不純ガスが封じ込められているため、キャビティ内からのCO2のそれ以上の流出は止められる。
【0018】
このようにして、キャビティ内のCO2の圧力が一定に維持されるため、CO2によるスキン層の軟化作用を最大限に発揮させることができ、これにより製品の転写性と光沢性を従来のCO2注入方式に比較して格段に向上させることができる。
勿論、CO2が金型外に漏れ出ないことにより、CO2の無駄もなくなる。
【0019】
次に、本発明では、キャビティ内に樹脂を充填したとき、このキャビティ内の不純ガスが、ガスベント内に残留していないため、注入されたCO2の純度をそのまま維持できる。
この結果、従来例にあっては、残留していた不純ガスがCO2に混合し、CO2の純度が低下することにより、CO2によるスキン層の軟化作用に悪影響が出て、転写性及び光沢性の向上を阻害する要因となっていたが、本発明では、この不純ガスがCO2に混合しないため、CO2の純度が保たれる。よって、スキン層の軟化が促進されて転写性と光沢性がより向上する。
また、本発明によると、製品の転写性と光沢性は、ほぼ全ショットにおいて期待したものが得られることから、不良品の発生率を従来例に比較して4〜5分の1に低減することができる。
【実施例1】
【0020】
本実施例1は、請求項1、2及び5、6に対応したもので、図1〜図4に基づいて詳細に説明する。
図1において、符号の1は非可視面側金型Aと可視面側金型Bを合わせて形成されたキャビティ、2はスプルー、3はランナー、4はゲート(トンネルゲート)、5は突き出しピン、6は図1(c)のA-A´断面位置である図2に示すように、キャビティ1の樹脂流動末端部分に形成されたガスが通過し、樹脂が通過できない隙間であって、本実施例1では0.03mm幅である。なお、この隙間6の長さは5mmである。そして、この隙間6は、図1(C)に示すように、キャビティ1をコ字状に取り囲むように形成された排気ガス誘導溝7との間に、キャビティ1内から放射状に複数形成されている(請求項5)。
【0021】
8は同じく図1(C)に示すように、排気ガス誘導溝7において、3ヶ所に接続されたガス溜りであって(請求項6)、この3ヶのガス溜り8の総容量は、前記キャビティ1と隙間6、排気ガス誘導溝7の容量の総和よりも僅かに大きい容量に設定されていて、注入されたCO2は、このガス溜り8内に少量流入するように設計されている。但し、理論的には、注入されたCO2が、隙間6又は排気ガス誘導溝7で止まる容量にガス溜り8の容量を設定しても本発明の目的は達成できる。
以上、隙間6、排気ガス誘導溝7、ガス溜り8を以ってガス溜り回路と称す。
また、上記実施例1では、ガス溜り回路において、ガス溜り8を3ヶ所に設け、排気ガス誘導溝7をコ字状に形成し、隙間6を11ヶ所に形成しているが、キャビティ1の大きさ、形状によっては、例えば樹脂流動端末側に1ヶずつ形成しても良く、それぞれの数は、キャビティ1の大きさ、形状等により決定される。
【0022】
9はガス注入経路であって、このガス流入経路9の上流側は、図示しないCO2供給装置に接続され、先端側は、図1(c)のB-B´断面位置である図3に示すように、キャビティ1における突合せ面に形成したガスが通過し、樹脂が通過できない0.03mm幅、5mm長さのCO2流入隙間10にCO2ガス誘導溝11を経由して接続されている。
図4において符号の12は樹脂、13は不純ガス、14はCO2である。
【0023】
本実施例1において、樹脂充填工程時において、キャビティ1内から排気された不純ガスを溜めておくためのガス溜り8は、排気ガス誘導溝7、隙間6、キャビティ1と連通させ、かつ、樹脂充填工程時に不純ガスがガス溜り8方向に押し出されるように、ゲート4より離れた下流側に配置した。また、CO2を注入するための回路は、CO2ガス注入経路9とCO2注入ガス誘導溝11、CO2注入隙間10、キャビティ1と連通させ、かつ、樹脂充填工程時に不純ガスがガス注入経路9に入りにくいように、ゲート4に近い上流側に配置した。
【0024】
本実施例1の金型で成形する成形品は、図19に示すように、肉厚が2mmで、横210mm、縦148mm、側壁の高さ15mmから成る皿状の製品で、樹脂材料はPPE/PS(GEポリマーランドジャパン株式会社:PX1007)を用いた。樹脂温度280℃、金型温度50℃の条件で成形を実施した。
【0025】
次に、成形工程を図4(A)〜(D)に基づいて説明する。
(A)は型締めを行った状態、(B)は樹脂充填中、(C)は樹脂充填完了状態、(D)はCO2注入状態である。
先ず、(A)のように型締めを行った金型のキャビティ1内に、スプルー2、ランナー3、ゲート4から樹脂12を充填すると、キャビティ1内の不純ガス13は、樹脂12の流れによりキャビティ1内から押し出され、隙間6、排気ガス誘導溝7を経由してガス溜り8に蓄積される。この際、ガス注入経路9側のガス注入隙間10は樹脂流動の上流側に配置したため、不純ガス13が入り込まない。図4(C)の樹脂充填完了時は、ガス溜り8に不純ガス13が保持される。その後、図4(D)のCO2注入時には、注入されたCO214は、樹脂流動経路の上流に位置するガス注入経路9からCO2注入ガス誘導溝11、CO2注入隙間10を経由して樹脂12の可視面側スキン層とキャビティ1間に入り、スキン層を微小後退させながら不純ガス13をガス溜り8側に押し出す。次に、キャビティ1内の樹脂12に保圧をかける保圧工程に移ると、CO2が溶解し、軟化したスキン層が可視面に再度圧接する。その後冷却工程を経て金型を開き、成形品を取り出す。
【0026】
この成形品は、可視面の転写性、光沢性が従来のCO2注入による射出成形品に比較して格段に向上しており、かつ、不良率が大幅に軽減された。この評価結果を表1に示す。成形品の光沢度は図19の転写性評価部分をJIS28741鏡面光沢度測定方法に基づいて測定した。また、成形品の転写不良率は100ショット連続成形を実施した際の転写向上ムラの発生率で評価した。
【表1】
【実施例2】
【0027】
本実施例2は、請求項3に対応したもので、図5〜図7に基づいて詳細に説明する。但し、図1〜図4で説明した符号と同一の符号は、同一の部分及び構成物を指すため、重複を避ける意味から再度の説明は省略し、図1〜図4の構成と違う構成と作用の部分についてのみ詳細に説明する。
図1〜図4では、ゲート4はトンネルゲートであったが、図5〜図7ではサイドゲートである。また、スプルー2から金型の外にCO2が漏れるのを防ぐために、ランナー3の流路壁の一部に図6に示すようにh:2mm、θa:90°、θb:90°、W:2mmの凹形状から成る二酸化炭素流入阻止手段としての窪み15を設けた。
【0028】
本実施例2によると、ランナー3の途中に窪み15を設けたことにより、図7に示すように、の樹脂充填完了後のCO2注入工程では、CO2を樹脂12と金型の間に注入する際、側に侵入して来たCO2は、ランナー3の途中の窪み15において、樹脂12中に直角に突き当り、ここで侵入圧が奪われ、これ以上奥には侵入しなくなる。この結果、キャビティ1内でCO2の圧力を保持する事ができる。その後、キャビティ1内の樹脂12に保圧をかける保圧工程に移り、CO2が溶解し、軟化したスキン層を可視面に再度圧接し、その後冷却工程を経て金型を開き、成形品を取り出した。
なお、窪み15は図6において、h:0.5mm以上、θa:90°以下、θb:90°以下、W:0.5mm以上が望ましい。
【0029】
本実施例2で成形された成形品は、可視面の転写性、光沢性が、従来の窪み15のない場合の、CO2注入による射出成形品に比較して格段に向上しており、かつ、不良率が大幅に軽減された。この成形品の評価結果を表1に示す。
本実施例2では、二酸化炭素流出阻止手段は窪み15であったが、図8、図9に示すようにランナー3の流路壁に突起16あるいは邪魔板のようなものを突出させることにより、CO2がランナー3→スプルー2側に侵入するのを阻止できる。因みに、図9に示す突起16において、h:0.5mm以上、θa:90°以下、θb:90°、W:1.00mm以下が望ましい。
【0030】
なお、実施例1、2では、1点ゲートのみの例であったが、2点ゲートの場合についても、本発明は適用可能である。
この2点ゲートの例を図10(A)〜(C)に示す。この2点ゲートの金型においては、図10に示すように、樹脂流動の下流側に、不純ガスを排気して溜めるためのガス溜り8を設け、さらに、樹脂流動の上流側に、CO2注入回路9を設け、また、図10のようにサイドゲートの場合は、それぞれのランナー3中、または、スプルー2中に図6又は図9に示した窪み15又は突起16を設けることで、可視面の転写性、光沢性が従来のCO2注入による射出成形品に比較して格段に向上し、不良率を大幅に軽減することができた。
【0031】
[比較例1]
本比較例1において、金型は、図11(A)〜(C)に示すように、実施例1にあったガス溜り8の構成を無くし、排気ガス誘導溝7を金型の外に連通させた。
図13(B)の樹脂充填中は、キャビティ1内の不純ガス13は樹脂12の流れにより隙間6、排気ガス誘導溝7を経由して金型の外に排気される。その後、図13(D)のCO2注入時には、樹脂流動経路の上流に位置するガス注入経路9よりCO2がスキン層の可視面側キャビティ1に入るが、不純ガスを排気した隙間6、排気ガス誘導溝7を経由して、注入されたCO2が金型の外に逃げてしまうため、製品の可視面側キャビティ1でCO2の圧力を保持することはできなかった。
本比較例1で成形された成形品の評価結果を表1に示す。
【0032】
[比較例2]
本比較例2は、図14に示すように、実施例1にあったガス溜り8を削除し、図15に示すように、排気ガス誘導溝7とガス注入経路9を連通させた。この金型を用いて行う射出成形工程を図14(A)〜(C)に示す。
図16(B)の樹脂充填中は、キャビティ1内の不純ガス13が樹脂12の流れにより押し出され、ガス注入経路9に排気、蓄積される。その後、図16(D)のCO2注入時には、不純ガス排気用の排気ガス誘導溝7と連通したガス注入経路9よりCO2が成形品の可視面側キャビティ1に入る。この場合、成形品の可視面側キャビティ1でCO2の圧力を保持する事ができるものの、樹脂充填工程中に排気した不純ガス13が、CO2の注入によりガス注入経路9内に逆流していて、この不純ガスが注入されるCO2に混合したままキャビティ1に入るため、得られた製品の不良率が高く、また転写性も光沢性も悪かった。
本比較例2で成形された成形品の評価結果を表1に示す。
【0033】
[比較例3]
本比較例3は、図17に示すように、実施例2の窪み15、突起16を排除した例である。
この比較例3の金型を用いて成形を行うと、図18に示すように、の樹脂充填完了後のCO2注入工程では、CO2を樹脂のスキン層と金型の間に注入する際、CO2がキャビティ1、ランナー3表面を伝わり、スプルー2から金型の外に逃げてしまうため、製品の可視面側キャビティで圧力を保持することはできなかった。この結果、不良率が高く、転写性も光沢性も悪かった。
本比較例3で成形された成形品の評価結果を表1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1の金型の説明図であって、(A)は金型を閉じた状態の断面図、(B)は非可視面側金型の正面図、(C)は可視面側金型の正面図
【図2】図1(C)A−A´線断面図
【図3】図1(C)B−B´線断面図
【図4】実施例1に示す金型の作用を示すもので、(A)は型締めの状態の断面図、(B)は樹脂を充填している状態の説明図、(C)は不純ガスがガス溜りに逃げている状態の説明図、(D)はCO2を注入した状態の説明図
【図5】実施例2に示す金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は可視面側金型の正面図、(C)は非可視面側金型の正面図
【図6】窪みの説明図
【図7】実施例2において、CO2を注入した状態の説明図
【図8】ランナー部に突起を形成した金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は可視面側金型の正面図、(C)は非可視面側金型の正面図
【図9】突起の説明図
【図10】2点ゲート方式の金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は可視面側金型の正面図、(C)は非可視面側金型の正面図
【図11】ガス溜りのない従来の金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は非可視面側金型の正面図、(C)は可視面側金型の正面図
【図12】図11(C)C−C´線断面図
【図13】比較例1の成形工程を示すもので、(A)は型締めの状態の断面図、(B)は樹脂を充填している状態の説明図、(C)は不純ガスがガス溜りに逃げている状態の説明図、(D)はCO2を注入した状態の説明図
【図14】比較例2の金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は可視面側金型の正面図、(C)は非可視面側金型の正面図
【図15】図14(B)D−D´線断面図
【図16】比較例2の成形工程を示すもので、(A)は型締めの状態の断面図、(B)は樹脂を充填している状態の説明図、(C)は不純ガスがガス注入回路に逃げている状態の説明図、(D)はCO2を注入した状態の説明図
【図17】比較例3の金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は可視面側金型の正面図、(C)は非可視面側金型の正面図
【図18】比較例3におけるCO2注入例の説明図
【図19】各実施例及び比較例で成形した製品の説明図
【符号の説明】
【0035】
1 キャビティ
2 スプルー
3 ランナー
4 ゲート
5 突き出しピン
6 隙間
7 排気ガス誘導溝
8 ガス溜り
9 CO2注入経路
11 注入ガス誘導溝
12 樹脂
13 不純ガス
14 CO2
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビティ内に樹脂を充填した後、キャビティ内の樹脂のスキン層(面)とこれに対向するキャビティ面間に例えば超臨界状態の二酸化炭素(以下「CO2」と称す。)を注入することにより、スキン層をキャビティ面から微小離すことでスキン層の成長を遅延させると共に、スキン層内にCO2を溶解させてスキン層を軟化させた後、保圧と冷却を行うことにより、転写性と光沢性に優れた製品を成形することができる二酸化炭素注入射出成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形に際して樹脂のスキン層とキャビティ面との間にCO2を注入し、続いて保圧と冷却を行うと、注入したCO2がスキン層内に溶解してスキン層を軟化させるため、転写性と光沢性が向上することは知られており、本件出願人は、この成形方法の基本特許として、特許第3445778号を取得している。
このCO2の注入による転写性と光沢性の向上を図る射出成形方法は、成形品によってはその後の塗装工程を省略できるまでになっているが、射出成形上、次のような問題がある。
【0003】
一般に熱可塑性樹脂の射出成形では、樹脂をキャビティ内に充填する工程で、キャビティ中の空気、又は、樹脂自身より発生する所謂不純ガスによって、ショートショットやガス焼けが生じるのを防ぐために、この発生した不純ガスをガスベントより金型の外に排気する必要がある。このガスベントは、樹脂流動末端部分の金型の突合せ面に、キャビティ内と連通したガスが通過し樹脂は通過できない隙間、さらに、これと連通し、かつ、金型の外に連通した排気ガス誘導溝で構成されている。これにより、樹脂充填工程中にキャビティ内の不純ガスを金型の外に排気する事ができる。
【0004】
しかしながら、キャビティ内に樹脂を充填後から型開きまでの工程中に、超臨界状態のCO2を樹脂のスキン層とキャビティの間に注入することにより、転写性及び光沢性を向上させる射出成形方法では、樹脂充填中に、キャビティ内の不純ガスをガスベントより金型の外に排気することは出来るが、樹脂充填工程後に、CO2を樹脂のスキン層と金型の間に注入する工程において、注入したCO2が同じガスベントから金型の外に逃げてしまうため、金型内のCO2の圧力を一定に保持することができず、CO2注入により期待される転写性や光沢性の向上が図れないことがある。
【0005】
そこで、特開2004−223888号の場合は、固定側金型と可動側金型の突合せ面に形成されたガスベントに二酸化炭素注入経路を連通させ、CO2をこのガスベントを経由してキャビティ内に注入する方式を採用している。しかし、この方式は、樹脂充填工程中においてキャビティ内の不純ガスを二酸化炭素注入経路内に一旦逃がし、CO2を注入する工程では、この二酸化炭素注入経路よりCO2をキャビティ内に注入するため、経路中に残留していた不純ガスが注入されるCO2に混合してCO2の純度が低下し、スキン層に対する溶解不良、軟化不良の問題が発生し、結果として転写不良及び光沢不良の問題が生じている。
【0006】
また、特許第3445778号特許発明の場合、CO2を樹脂のスキン層と金型の間に注入する工程においては、注入したCO2が、樹脂の充填経路であるランナー、スプルーを経由して金型の外に逃げてしまうため、金型内におけるCO2の圧力を一定に保持する事ができず、上記と同じように転写不良や光沢不良の問題が生じる。但し、この現象はダイレクトゲート、サイドゲート、ファンゲートで起こりやすく、ピンポイントゲート、トンネルゲート、カーブゲートでは起こりにくい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、斯る点に鑑みて提案されるものであって、その目的は、キャビティ内に注入したCO2の圧力を確実に保持し、かつ、CO2と不純ガスの混合を防ぐことにより、転写不良及び光沢不良の問題を発生させない二酸化炭素注入射出成形用金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明においては、二酸化炭素注入射出成形用金型において、キャビティ内に樹脂を充填した後、キャビティ内の樹脂のスキン層とキャビティ面間に二酸化炭素を注入することにより、転写性と光沢性に優れた成形品を得る射出成形方法に用いられる金型において、キャビティ内における樹脂流動末端部分の金型の突合せ面に、キャビティ内と連通し、かつガスの通過を許容し、樹脂の通過は阻止する寸法に設定された隙間を形成すると共に、この隙間と連通し、かつ金型の外には連通しないガス溜りからなるガス溜りを金型内に設け、樹脂充填工程中にキャビティ内から押し出された不純ガスを、前記隙間から前記ガス溜り内に逃がして一旦ここに封じ込めることにより、次に注入された二酸化炭素がキャビティ内から金型外に逃れるのを阻止してキャビティ内に注入された二酸化炭素圧力を保持するように構成したことを特徴とするものである。
この発明によると、ガスベントから注入したCO2が逃れないため、CO2圧力を保持して転写性と光沢性に優れた製品の成形が可能になると共に、CO2を無駄に消費しないという効果がある。
【0009】
更に、請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型において、固定側金型と可動側金型の突合せ面のうち、いずれか一方のキャビティ内と連通する面であって、前記ガス溜りと干渉しない別の位置に、ガスの通過を許容し、樹脂の通過は阻止する寸法に設定された隙間を形成すると共に、この隙間を二酸化炭素注入回路に連通させてこの隙間よりキャビティ内に二酸化炭素を注入するガス注入回路を設けたことを特徴とするものである。
この発明によると、不純ガスがCO2の注入回路内に残留しないため、次の成形サイクルにおいて、CO2の純度を保持することができる。
【0010】
更に、請求項3に記載の発明においては、請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型において、キャビティ内に溶融樹脂を充填する溶融樹脂流路中に、二酸化炭素がこの溶融樹脂流路を経由して金型外に逃れるのを阻止する二酸化炭素流出阻止手段を設けることにより、キャビティ内に注入された二酸化炭素圧力を保持するように構成したことを特徴とするものである。
この発明によると、スプルー側にCO2の圧力が逃れないため、CO2圧力を保持して転写性と光沢性に優れた製品の成形が可能になる。
【0011】
更に、請求項4に記載の発明においては、請求項3に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型において、前記二酸化炭素流出阻止手段は、溶融樹脂流路中に形成された窪み又は突起又は抵抗板から成ることを特徴とするものである。
この発明によると、溶融樹脂流路を経由してCO2圧力が低下するのを防ぐことができる。
【0012】
更に、請求項5に記載の発明においては、請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型において、前記隙間をキャビティの周囲において、複数箇所に形成すると共に、この隙間がそれぞれ連通する排気ガス誘導溝を金型の突合せ面に形成し、かつこの排気ガス誘導溝を前記ガス溜りに連通させて成ることを特徴とするものである。
この発明によると、成形品の大きさや形状に応じてスムースに不純ガスの排除を行うことができると共に、樹脂の流頭制御を不純ガスの排出位置及び量で行うことができる。
【0013】
更に、請求項6に記載の発明においては、請求項5に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型において、前記排気ガス誘導溝に対し、複数のガス溜りを連通させて設けて成ることを特徴とするものである。
この発明によると、排気ガス誘導溝の距離が長すぎると、樹脂充填時のガス排気が適切に行われない場合があるため、適宜な位置にガス溜りを複数個設けることにより、不純ガスの排気をスムースに行うことができる。
【0014】
〔作用〕
上記請求項1に記載の発明においては、樹脂をキャビティ内に充填する工程で、キャビティ内で発生した不純ガスは、樹脂の流れによって、隙間から排気ガス誘導溝を経由してガス溜り内に押し出される。次にCO2を樹脂のスキン層とキャビティ間に注入すると、このCO2は、キャビティ内において、スキン層を微小キャビティ面から離反させたのち、隙間から排気ガス誘導溝を経由しガス溜り内に少し流入するが、このガス溜り内のガスは逃げ場がないため、キャビティ内のCO2の圧力は一定に保持される。その結果、CO2の溶解及びスキン層の軟化が促進される。その後、保圧工程、冷却工程を経て金型を開くと、転写性と光沢性に優れた製品を取り出すことができる。
なお、ガスが通過し、樹脂が通過できない隙間とは、熱可塑性樹脂を用いた射出成形では、厚さ0.01mm〜0.04mm幅程度である。また、各ガス溜りの容量は、キャビティの容量、隙間、排気ガス誘導溝及び成形条件、樹脂の種類等を考慮して決定される。
【0015】
上記請求項2に記載の発明においては、請求項1記載のガス溜りと干渉しない別の位置に、ガスが通過し樹脂が通過しない隙間があり、この隙間は二酸化炭素注入回路の金型入り口と連通している。この結果、隙間より金型キャビティ内にCO2を注入することで、充填時にガス溜りより排気された不純ガスとCO2との混合が無くなるため、CO2の純度が保たれ、よって、製品の転写性及び光沢性を向上させることができる。
【0016】
上記請求項3に記載の発明においては、スプルーから製品を形成するキャビティ間の溶融樹脂流路中に二酸化炭素流出阻止手段を設けることにより、この阻止手段のところで流入して来たCO2はその流れが阻止され、この作用でCO2の流れは流路の途中で止まる。この結果、樹脂の充填経路を経由して金型の外にCO2が漏れないことから、キャビティ内のCO2の圧力を保持する事ができ、よって、成形品の転写性及び光沢性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以上のとおり、金型内にガス溜りを設けて樹脂をキャビティ内に充填したときに、キャビティ内から押し出された不純ガスを、このガス溜り内に一旦封じ込め、金型外に逃がさないようにすることができる。
この結果、次にCO2をキャビティ内に注入したときに、このCO2はスキン層とキャビティ面間に注入され、更にその一部は隙間からガス溜り内に一部流入するが、何れにしてもガス溜り内には不純ガスが封じ込められているため、キャビティ内からのCO2のそれ以上の流出は止められる。
【0018】
このようにして、キャビティ内のCO2の圧力が一定に維持されるため、CO2によるスキン層の軟化作用を最大限に発揮させることができ、これにより製品の転写性と光沢性を従来のCO2注入方式に比較して格段に向上させることができる。
勿論、CO2が金型外に漏れ出ないことにより、CO2の無駄もなくなる。
【0019】
次に、本発明では、キャビティ内に樹脂を充填したとき、このキャビティ内の不純ガスが、ガスベント内に残留していないため、注入されたCO2の純度をそのまま維持できる。
この結果、従来例にあっては、残留していた不純ガスがCO2に混合し、CO2の純度が低下することにより、CO2によるスキン層の軟化作用に悪影響が出て、転写性及び光沢性の向上を阻害する要因となっていたが、本発明では、この不純ガスがCO2に混合しないため、CO2の純度が保たれる。よって、スキン層の軟化が促進されて転写性と光沢性がより向上する。
また、本発明によると、製品の転写性と光沢性は、ほぼ全ショットにおいて期待したものが得られることから、不良品の発生率を従来例に比較して4〜5分の1に低減することができる。
【実施例1】
【0020】
本実施例1は、請求項1、2及び5、6に対応したもので、図1〜図4に基づいて詳細に説明する。
図1において、符号の1は非可視面側金型Aと可視面側金型Bを合わせて形成されたキャビティ、2はスプルー、3はランナー、4はゲート(トンネルゲート)、5は突き出しピン、6は図1(c)のA-A´断面位置である図2に示すように、キャビティ1の樹脂流動末端部分に形成されたガスが通過し、樹脂が通過できない隙間であって、本実施例1では0.03mm幅である。なお、この隙間6の長さは5mmである。そして、この隙間6は、図1(C)に示すように、キャビティ1をコ字状に取り囲むように形成された排気ガス誘導溝7との間に、キャビティ1内から放射状に複数形成されている(請求項5)。
【0021】
8は同じく図1(C)に示すように、排気ガス誘導溝7において、3ヶ所に接続されたガス溜りであって(請求項6)、この3ヶのガス溜り8の総容量は、前記キャビティ1と隙間6、排気ガス誘導溝7の容量の総和よりも僅かに大きい容量に設定されていて、注入されたCO2は、このガス溜り8内に少量流入するように設計されている。但し、理論的には、注入されたCO2が、隙間6又は排気ガス誘導溝7で止まる容量にガス溜り8の容量を設定しても本発明の目的は達成できる。
以上、隙間6、排気ガス誘導溝7、ガス溜り8を以ってガス溜り回路と称す。
また、上記実施例1では、ガス溜り回路において、ガス溜り8を3ヶ所に設け、排気ガス誘導溝7をコ字状に形成し、隙間6を11ヶ所に形成しているが、キャビティ1の大きさ、形状によっては、例えば樹脂流動端末側に1ヶずつ形成しても良く、それぞれの数は、キャビティ1の大きさ、形状等により決定される。
【0022】
9はガス注入経路であって、このガス流入経路9の上流側は、図示しないCO2供給装置に接続され、先端側は、図1(c)のB-B´断面位置である図3に示すように、キャビティ1における突合せ面に形成したガスが通過し、樹脂が通過できない0.03mm幅、5mm長さのCO2流入隙間10にCO2ガス誘導溝11を経由して接続されている。
図4において符号の12は樹脂、13は不純ガス、14はCO2である。
【0023】
本実施例1において、樹脂充填工程時において、キャビティ1内から排気された不純ガスを溜めておくためのガス溜り8は、排気ガス誘導溝7、隙間6、キャビティ1と連通させ、かつ、樹脂充填工程時に不純ガスがガス溜り8方向に押し出されるように、ゲート4より離れた下流側に配置した。また、CO2を注入するための回路は、CO2ガス注入経路9とCO2注入ガス誘導溝11、CO2注入隙間10、キャビティ1と連通させ、かつ、樹脂充填工程時に不純ガスがガス注入経路9に入りにくいように、ゲート4に近い上流側に配置した。
【0024】
本実施例1の金型で成形する成形品は、図19に示すように、肉厚が2mmで、横210mm、縦148mm、側壁の高さ15mmから成る皿状の製品で、樹脂材料はPPE/PS(GEポリマーランドジャパン株式会社:PX1007)を用いた。樹脂温度280℃、金型温度50℃の条件で成形を実施した。
【0025】
次に、成形工程を図4(A)〜(D)に基づいて説明する。
(A)は型締めを行った状態、(B)は樹脂充填中、(C)は樹脂充填完了状態、(D)はCO2注入状態である。
先ず、(A)のように型締めを行った金型のキャビティ1内に、スプルー2、ランナー3、ゲート4から樹脂12を充填すると、キャビティ1内の不純ガス13は、樹脂12の流れによりキャビティ1内から押し出され、隙間6、排気ガス誘導溝7を経由してガス溜り8に蓄積される。この際、ガス注入経路9側のガス注入隙間10は樹脂流動の上流側に配置したため、不純ガス13が入り込まない。図4(C)の樹脂充填完了時は、ガス溜り8に不純ガス13が保持される。その後、図4(D)のCO2注入時には、注入されたCO214は、樹脂流動経路の上流に位置するガス注入経路9からCO2注入ガス誘導溝11、CO2注入隙間10を経由して樹脂12の可視面側スキン層とキャビティ1間に入り、スキン層を微小後退させながら不純ガス13をガス溜り8側に押し出す。次に、キャビティ1内の樹脂12に保圧をかける保圧工程に移ると、CO2が溶解し、軟化したスキン層が可視面に再度圧接する。その後冷却工程を経て金型を開き、成形品を取り出す。
【0026】
この成形品は、可視面の転写性、光沢性が従来のCO2注入による射出成形品に比較して格段に向上しており、かつ、不良率が大幅に軽減された。この評価結果を表1に示す。成形品の光沢度は図19の転写性評価部分をJIS28741鏡面光沢度測定方法に基づいて測定した。また、成形品の転写不良率は100ショット連続成形を実施した際の転写向上ムラの発生率で評価した。
【表1】
【実施例2】
【0027】
本実施例2は、請求項3に対応したもので、図5〜図7に基づいて詳細に説明する。但し、図1〜図4で説明した符号と同一の符号は、同一の部分及び構成物を指すため、重複を避ける意味から再度の説明は省略し、図1〜図4の構成と違う構成と作用の部分についてのみ詳細に説明する。
図1〜図4では、ゲート4はトンネルゲートであったが、図5〜図7ではサイドゲートである。また、スプルー2から金型の外にCO2が漏れるのを防ぐために、ランナー3の流路壁の一部に図6に示すようにh:2mm、θa:90°、θb:90°、W:2mmの凹形状から成る二酸化炭素流入阻止手段としての窪み15を設けた。
【0028】
本実施例2によると、ランナー3の途中に窪み15を設けたことにより、図7に示すように、の樹脂充填完了後のCO2注入工程では、CO2を樹脂12と金型の間に注入する際、側に侵入して来たCO2は、ランナー3の途中の窪み15において、樹脂12中に直角に突き当り、ここで侵入圧が奪われ、これ以上奥には侵入しなくなる。この結果、キャビティ1内でCO2の圧力を保持する事ができる。その後、キャビティ1内の樹脂12に保圧をかける保圧工程に移り、CO2が溶解し、軟化したスキン層を可視面に再度圧接し、その後冷却工程を経て金型を開き、成形品を取り出した。
なお、窪み15は図6において、h:0.5mm以上、θa:90°以下、θb:90°以下、W:0.5mm以上が望ましい。
【0029】
本実施例2で成形された成形品は、可視面の転写性、光沢性が、従来の窪み15のない場合の、CO2注入による射出成形品に比較して格段に向上しており、かつ、不良率が大幅に軽減された。この成形品の評価結果を表1に示す。
本実施例2では、二酸化炭素流出阻止手段は窪み15であったが、図8、図9に示すようにランナー3の流路壁に突起16あるいは邪魔板のようなものを突出させることにより、CO2がランナー3→スプルー2側に侵入するのを阻止できる。因みに、図9に示す突起16において、h:0.5mm以上、θa:90°以下、θb:90°、W:1.00mm以下が望ましい。
【0030】
なお、実施例1、2では、1点ゲートのみの例であったが、2点ゲートの場合についても、本発明は適用可能である。
この2点ゲートの例を図10(A)〜(C)に示す。この2点ゲートの金型においては、図10に示すように、樹脂流動の下流側に、不純ガスを排気して溜めるためのガス溜り8を設け、さらに、樹脂流動の上流側に、CO2注入回路9を設け、また、図10のようにサイドゲートの場合は、それぞれのランナー3中、または、スプルー2中に図6又は図9に示した窪み15又は突起16を設けることで、可視面の転写性、光沢性が従来のCO2注入による射出成形品に比較して格段に向上し、不良率を大幅に軽減することができた。
【0031】
[比較例1]
本比較例1において、金型は、図11(A)〜(C)に示すように、実施例1にあったガス溜り8の構成を無くし、排気ガス誘導溝7を金型の外に連通させた。
図13(B)の樹脂充填中は、キャビティ1内の不純ガス13は樹脂12の流れにより隙間6、排気ガス誘導溝7を経由して金型の外に排気される。その後、図13(D)のCO2注入時には、樹脂流動経路の上流に位置するガス注入経路9よりCO2がスキン層の可視面側キャビティ1に入るが、不純ガスを排気した隙間6、排気ガス誘導溝7を経由して、注入されたCO2が金型の外に逃げてしまうため、製品の可視面側キャビティ1でCO2の圧力を保持することはできなかった。
本比較例1で成形された成形品の評価結果を表1に示す。
【0032】
[比較例2]
本比較例2は、図14に示すように、実施例1にあったガス溜り8を削除し、図15に示すように、排気ガス誘導溝7とガス注入経路9を連通させた。この金型を用いて行う射出成形工程を図14(A)〜(C)に示す。
図16(B)の樹脂充填中は、キャビティ1内の不純ガス13が樹脂12の流れにより押し出され、ガス注入経路9に排気、蓄積される。その後、図16(D)のCO2注入時には、不純ガス排気用の排気ガス誘導溝7と連通したガス注入経路9よりCO2が成形品の可視面側キャビティ1に入る。この場合、成形品の可視面側キャビティ1でCO2の圧力を保持する事ができるものの、樹脂充填工程中に排気した不純ガス13が、CO2の注入によりガス注入経路9内に逆流していて、この不純ガスが注入されるCO2に混合したままキャビティ1に入るため、得られた製品の不良率が高く、また転写性も光沢性も悪かった。
本比較例2で成形された成形品の評価結果を表1に示す。
【0033】
[比較例3]
本比較例3は、図17に示すように、実施例2の窪み15、突起16を排除した例である。
この比較例3の金型を用いて成形を行うと、図18に示すように、の樹脂充填完了後のCO2注入工程では、CO2を樹脂のスキン層と金型の間に注入する際、CO2がキャビティ1、ランナー3表面を伝わり、スプルー2から金型の外に逃げてしまうため、製品の可視面側キャビティで圧力を保持することはできなかった。この結果、不良率が高く、転写性も光沢性も悪かった。
本比較例3で成形された成形品の評価結果を表1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1の金型の説明図であって、(A)は金型を閉じた状態の断面図、(B)は非可視面側金型の正面図、(C)は可視面側金型の正面図
【図2】図1(C)A−A´線断面図
【図3】図1(C)B−B´線断面図
【図4】実施例1に示す金型の作用を示すもので、(A)は型締めの状態の断面図、(B)は樹脂を充填している状態の説明図、(C)は不純ガスがガス溜りに逃げている状態の説明図、(D)はCO2を注入した状態の説明図
【図5】実施例2に示す金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は可視面側金型の正面図、(C)は非可視面側金型の正面図
【図6】窪みの説明図
【図7】実施例2において、CO2を注入した状態の説明図
【図8】ランナー部に突起を形成した金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は可視面側金型の正面図、(C)は非可視面側金型の正面図
【図9】突起の説明図
【図10】2点ゲート方式の金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は可視面側金型の正面図、(C)は非可視面側金型の正面図
【図11】ガス溜りのない従来の金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は非可視面側金型の正面図、(C)は可視面側金型の正面図
【図12】図11(C)C−C´線断面図
【図13】比較例1の成形工程を示すもので、(A)は型締めの状態の断面図、(B)は樹脂を充填している状態の説明図、(C)は不純ガスがガス溜りに逃げている状態の説明図、(D)はCO2を注入した状態の説明図
【図14】比較例2の金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は可視面側金型の正面図、(C)は非可視面側金型の正面図
【図15】図14(B)D−D´線断面図
【図16】比較例2の成形工程を示すもので、(A)は型締めの状態の断面図、(B)は樹脂を充填している状態の説明図、(C)は不純ガスがガス注入回路に逃げている状態の説明図、(D)はCO2を注入した状態の説明図
【図17】比較例3の金型を示すもので、(A)は型締め状態の説明図、(B)は可視面側金型の正面図、(C)は非可視面側金型の正面図
【図18】比較例3におけるCO2注入例の説明図
【図19】各実施例及び比較例で成形した製品の説明図
【符号の説明】
【0035】
1 キャビティ
2 スプルー
3 ランナー
4 ゲート
5 突き出しピン
6 隙間
7 排気ガス誘導溝
8 ガス溜り
9 CO2注入経路
11 注入ガス誘導溝
12 樹脂
13 不純ガス
14 CO2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ内に樹脂を充填した後、キャビティ内の樹脂のスキン層とキャビティ面間に二酸化炭素を注入することにより、転写性と光沢性に優れた成形品を得る射出成形方法に用いられる金型において、キャビティ内における樹脂流動末端部分の金型の突合せ面に、キャビティ内と連通し、かつガスの通過を許容し、樹脂の通過は阻止する寸法に設定された隙間を形成すると共に、この隙間と連通し、かつ金型の外には連通しないガス溜りからなるガス溜り回路を金型内に設け、樹脂充填工程中にキャビティ内から押し出された不純ガスを、前記隙間から前記ガス溜り内に逃がして一旦ここに封じ込めることにより、次に注入された二酸化炭素がキャビティ内から金型外に逃れるのを阻止してキャビティ内に注入された二酸化炭素圧力を保持するように構成したことを特徴とする二酸化炭素注入射出成形用金型。
【請求項2】
固定側金型と可動側金型の突合せ面のうち、いずれか一方のキャビティ内と連通する面であって、前記ガス溜り回路と干渉しない別の位置に、ガスの通過を許容し、樹脂の通過は阻止する寸法に設定された隙間を形成すると共に、この隙間を二酸化炭素注入回路に連通させてこの隙間よりキャビティ内に二酸化炭素を注入するガス注入回路を設けたことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型。
【請求項3】
キャビティ内に溶融樹脂を充填する溶融樹脂流路中に、二酸化炭素がこの溶融樹脂流路を経由して金型外に逃れるのを阻止する二酸化炭素流出阻止手段を設けることにより、キャビティ内に注入された二酸化炭素圧力を保持するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型。
【請求項4】
前記二酸化炭素流出阻止手段は、溶融樹脂流路中に形成された窪み又は突起又は抵抗板から成ることを特徴とする請求項3に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型。
【請求項5】
前記隙間をキャビティの周囲において、複数箇所に形成すると共に、この隙間がそれぞれ連通する排気ガス誘導溝を金型の突合せ面に形成し、かつこの排気ガス誘導溝を前記ガス溜りに連通させて成ることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型。
【請求項6】
前記排気ガス誘導溝に対し、複数のガス溜りを連通させて設けて成ることを特徴とする請求項5に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型。
【請求項1】
キャビティ内に樹脂を充填した後、キャビティ内の樹脂のスキン層とキャビティ面間に二酸化炭素を注入することにより、転写性と光沢性に優れた成形品を得る射出成形方法に用いられる金型において、キャビティ内における樹脂流動末端部分の金型の突合せ面に、キャビティ内と連通し、かつガスの通過を許容し、樹脂の通過は阻止する寸法に設定された隙間を形成すると共に、この隙間と連通し、かつ金型の外には連通しないガス溜りからなるガス溜り回路を金型内に設け、樹脂充填工程中にキャビティ内から押し出された不純ガスを、前記隙間から前記ガス溜り内に逃がして一旦ここに封じ込めることにより、次に注入された二酸化炭素がキャビティ内から金型外に逃れるのを阻止してキャビティ内に注入された二酸化炭素圧力を保持するように構成したことを特徴とする二酸化炭素注入射出成形用金型。
【請求項2】
固定側金型と可動側金型の突合せ面のうち、いずれか一方のキャビティ内と連通する面であって、前記ガス溜り回路と干渉しない別の位置に、ガスの通過を許容し、樹脂の通過は阻止する寸法に設定された隙間を形成すると共に、この隙間を二酸化炭素注入回路に連通させてこの隙間よりキャビティ内に二酸化炭素を注入するガス注入回路を設けたことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型。
【請求項3】
キャビティ内に溶融樹脂を充填する溶融樹脂流路中に、二酸化炭素がこの溶融樹脂流路を経由して金型外に逃れるのを阻止する二酸化炭素流出阻止手段を設けることにより、キャビティ内に注入された二酸化炭素圧力を保持するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型。
【請求項4】
前記二酸化炭素流出阻止手段は、溶融樹脂流路中に形成された窪み又は突起又は抵抗板から成ることを特徴とする請求項3に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型。
【請求項5】
前記隙間をキャビティの周囲において、複数箇所に形成すると共に、この隙間がそれぞれ連通する排気ガス誘導溝を金型の突合せ面に形成し、かつこの排気ガス誘導溝を前記ガス溜りに連通させて成ることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型。
【請求項6】
前記排気ガス誘導溝に対し、複数のガス溜りを連通させて設けて成ることを特徴とする請求項5に記載の二酸化炭素注入射出成形用金型。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−21897(P2007−21897A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207398(P2005−207398)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(591061769)ムネカタ株式会社 (40)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(591061769)ムネカタ株式会社 (40)
【Fターム(参考)】
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