説明

二重乳化油脂組成物及びその製造方法

【課題】加工食品の保存時における風味低下に対して、香り高い風味を付与し、かつ、喫食時までその風味を維持することができ、しかも乳化物の解乳化による香気物質の効果発現をコントロールできる二重乳化油脂組成物及びその製造方法の提供。
【解決手段】最内相となる第一の油相(O1)、最外相となる第二の油相(O2)、及び中間相となる水相(W)がO/W/O型に二重乳化されている油中水中油型乳化物であって、第一の油相中に香気物質を含有し、第二の油相中に乳化剤として、二重乳化油脂組成物全体中、グリセリン飽和脂肪酸モノエステル0.02重量%〜0.5重量%、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.1重量%〜2重量%を必須成分として含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一の油相中に香気物質を含有する油中水中油型に乳化してなる二重乳化油脂組成物により、該乳化物が解乳化して油溶性の香気物質が効果を発現するタイミングをコントロールすることのできる二重乳化油脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に製造されている加工食品において、その大部分は直接消費者には届けられず、流通業者、販売業者を経て消費者に間接的に届けられる。それ故加工食品メーカー等は、販売する食品を日持ちさせるために加熱調理の際、殺菌を十分行い、容器包材に充填している。また、レトルトパウチ食品など、容器包材に充填後に殺菌を行う場合も多い。こうしたことから工業的に製造された加工食品は、いかに流通、販売時の保管条件が良くても、製造直後に比べると充填に用いた容器包材由来の好ましくない風味が付着したり、食品本来の好ましい香りが飛散したり、さらには特定の好ましい味が食品全体に分散してしまい呈味感が低下しているため、消費者が喫食する際には加工食品の風味が大きく低下していることが多い。中でも特に香りについては、その元となる香気物質が油溶性で、かつ、揮発性の高い物質であることが多いため、本来備わっていたはずの食品中の好ましい香りは、消費者が手にした時には消失している場合がほとんどである。即ち香気物質は、調理、殺菌等による加熱操作、容器包材による長期保存等によって、消失あるいは変質しており、消費者が加工食品を手にして加熱等の再調理を行ったときには香気成分が本来の効果を発現せず、消費者は好ましい香りを感ずることなく、風味が低下した状態で喫食しているのが現状である。こうした加工食品の風味が低下するという課題を解決するために、香気物質を食品に保持させる方法として、環状四糖またはこの環状四糖の糖質誘導体と香気物質との混合物を含有せしめることによる香気成分の保持方法(特許文献1)が報告されている。一方、本発明と同様、O/W/O型二重乳化油脂組成物において、最内相油脂、中間水相、最外相油脂にそれぞれ特定の乳化剤を使用することにより、呈味性改善を意図した二重乳化油脂組成物が種々提案されている。例えば、最内相油脂及び中間水相で構成するO/W型の乳化系において、乳化剤として乳由来リン脂質を含有することを特徴とする二重乳化油脂組成物(特許文献2)が報告されている。しかしこれらの方法では、上述のような香気物質の効果発現タイミングをコントロールすることは困難であるだけでなく、原料、組成物の調製に長い時間を要したり、製造コストが高くつくなど、工業的に製造するには種々の問題が生じる恐れがある。
【特許文献1】特開2004−2620号公報
【特許文献2】特開2003−213290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題はこのような現状に鑑み、加工食品の風味低下という未だ解決されていない大きな問題に対して、香り高い風味を付与し、かつ、喫食時までその風味を維持するため、油中水中油型の二重乳化構造において主として油溶性の香気物質を最内相に安定に保持することができ、しかも乳化物の解乳化による香気物質の効果発現をコントロールできる二重乳化油脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、最内相となる第一の油相:O1と最外相となる第二の油相:O2が、O1/W/O2型に二重乳化されている油中水中油型乳化物であって、第一の油相中に香気物質、第二の油相中に特定の乳化剤、中間相となる水相:Wに蛋白質及び糖質を使用することにより、加工食品を工業的に製造した場合でも香気物質が食品中に保持され、消費者が喫食する際にはじめて香気物質の効果が発現するようコントロールできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明の第一は、最内相となる第一の油相(以下、O1とも表記する)、最外相となる第二の油相(以下、O2とも表記する)、及び中間相となる水相(以下、Wとも表記する)がO/W/O型に二重乳化されている油中水中油型乳化物であって、第一の油相中に香気物質を含有し、第二の油相中に乳化剤として、二重乳化油脂組成物全体中、グリセリン飽和脂肪酸モノエステル0.02重量%〜0.5重量%、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.1重量%〜2重量%を必須成分として含有することを特徴とする二重乳化油脂組成物に関する。好ましい実施態様は、中間相となる水相(W)が、蛋白質及び糖質を含有することを特徴とする上記記載の二重乳化油脂組成物に関する。本発明の第二は、第一の油相(O1)と水相(W)とをO/W型に乳化した乳化物を製造した後、該乳化物を第二の油相(O2)中に添加することを特徴とする上記記載の二重乳化油脂組成物の製造方法に関する。好ましい実施態様は、第一の油相(O1)と水相(W)とをO/W型に乳化する際、乳化剤を添加しないことを特徴とする上記記載の二重乳化油脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によれば、食品に香り高い風味を付与でき、しかも油溶性の香気物質を最内相に安定に保持することができるため喫食時においても香り高い風味を維持でき、しかも乳化物の解乳化をコントロールすることで、香気物質の効果発現をコントロールできる。またそのような二重乳化油脂組成物を工業的に非常に簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の二重乳化油脂組成物は、最内相となる第一の油相(以下、O1とも表記する)に香気物質を含有し、中間相となる水相(以下、Wとも表記する)に蛋白質及び糖質を含有し、最外相となる第二の油相(以下、O2とも表記する)に乳化剤としてグリセリン飽和脂肪酸モノエステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを必須成分として含有し、油中水中油(O/W/O)型に乳化してなる二重乳化油脂組成物である。
【0008】
本発明の二重乳化油脂組成物においては、最内相となる第一の油相(O1)と中間水相(W)の比率、さらにはO1とWからなるO/W型乳化物と最外相となる第二の油相(O2)との比率も乳化安定性を向上する上で重要である。従って、最内相となる第一の油相(O1)と中間相となる水相(W)の重量比率(O1/W)を1/9〜1とするのが好ましく、また最外相となる第二の油相(O2)とO1及びWの重量比率(O2/(O1+W))を1/2〜5とするのが好ましい。さらに好ましくは、最内相と中間水相の重量比率(O1/W)が1/5〜1/1.5であり、最外相(O2)とO1及びWの重量比率(O2/(O1及びW))は1/1.2〜2である。本発明において重量比率(O1/W)が1/9より小さいか1より大きい場合、或いは重量比率(O2/(O1+W))が1/2より小さいか5より大きい場合には、O1/W型乳化物自体の乳化安定性が失われる場合があるだけでなく、O1とWからなる乳化物を最外相(O2)に添加して乳化したときにO1とWの乳化物がO2中で乳化形態を維持することができなくなり、W/O型乳化形態に転相してしまう場合もある。
【0009】
本発明の二重乳化油脂組成物に用いられる油脂は、最内相となる第一の油相(O1)、最外相となる第二の油相(O2)いずれも、食用に適するものであれば特に限定されない。例えば、コーン油、あまに油、桐油、サフラワー油、胡桃油、芥子油、向日葵油、綿実油、菜種油、大豆油、辛子油、カポック油、米糠油、胡麻油、玉蜀黍油、落花生油、オリーブ油、椿油、茶油、ひまわり油、ひまし油、椰子油、パーム油、パーム核油、カカオ脂、シア脂、ボルネオ脂等の植物油脂や、魚油、鯨油、牛脂、豚脂、乳脂、羊脂等の動物油脂が挙げられる。また、それらの硬化油、エステル交換油、分別油等から目的に応じて適宜選択し、これを少なくとも1種使用することができる。
【0010】
本発明でいう香気物質は油相に溶解又は分散できるものであれば特に限定はなく、例えば、オレンジ、レモン、ライム、ゆず、かぼす、シークワーサーなどの柑橘抽出物類、ペパーミント、スペアミント、ハーブ油、カルダモン油などの植物抽出精油類、バニラエキストラクト、ココアエキストラクト、オレオレジンに代表されるスパイス類エキストラクト、ハーブ類エキストラクトなどの植物抽出物類、またはこれらを含む天然香気物質、天然香気物質の誘導体、さらには、焙煎処理した小麦ふすまや米糠、あるいはカレー粉、オニオン、ガーリック等のスパイス類、さらにはハーブ類を適当な油脂で加熱抽出した香味油類、バターやチーズ、ホエーなどの乳製品を酵素を利用して分解した乳製品酵素処理品、化学的または半化学的に合成された合成香気物質(香料)などが挙げられる。さらに前記香気物質を含む混合物なども挙げられる。また、日本酒、ブランデー、ワイン、焼酎、みりんなどのアルコール類も本発明の香気物質として挙げることができる。前記のような香気物質は、油脂に溶解しやすい又は分散しやすい物質であり、本発明の二重乳化油脂組成物においては、最内相となる第一の油相(O1)に配合する。本発明における香気物質の配合量については、次の通りである。例えば、前記香味油類においては、最内相の油相としてそのまま使用する、即ち最内相全体中100重量%とすることができる。また、他の油脂類や香気物質と混合することもできる。一方、香味油類を除く前記香気物質は、香味油類や油脂類と併用することが好ましく、香味油類を除く香気物質の配合量としては最内相全体中、0.1〜30重量%が好ましい。香味油類を除く香気物質の配合量が0.1重量部より少ないと、たとえ力価が高い香気成分であっても量が少なすぎて香気物質の効果を満足に発現することができない場合がある。一方、30重量部より多いと、逆に香気物質が多すぎて、香気物質を溶解するための油脂の配合量が極端に制限されてしまい、乳化物自体が満足にできず乳化物から香気物質を含む油脂分が分離してしまう場合がある。
【0011】
本発明における二重乳化油脂組成物に用いられる乳化剤は、グリセリン飽和脂肪酸モノエステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを必須成分としている。前記グリセリン飽和脂肪酸モノエステルの使用量は、二重乳化油脂組成物全体中、0.02重量%〜0.5重量%が好ましく、より好ましい範囲は0.05重量%〜0.2重量%である。使用量が0.02重量%以上であれば喫食時における二重乳化油脂組成物の解乳化のコントロールを満足に行うことができ、加工食品中に香気物質の効果を狙い通りに発現することができる。一方、0.5重量%以下であれば、香気物質を含有する二重乳化油脂組成物自体の乳化安定性を高く保持することでき、且つ、乳化剤特有の悪い風味が加工食品に影響する恐れがない。またグリセリン飽和脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸は炭素数16〜22の飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0012】
本発明のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルについては、ポリグリセリン系の乳化剤であって、主としてヒマシ油を原料とする縮合リシノレイン酸とポリグリセリンとのエステル化により得ることができる。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量は、二重乳化油脂組成物全体中、0.1重量%〜2重量%が好ましく、より好ましい範囲は0.2重量%〜1.3重量%である。使用量が0.1重量%以上であれば、油中水中油型の乳化がほぼ満足に得られ、二重乳化油脂組成物自体が安定となる。一方、2重量%以下であれば、乳化と解乳化の制御が満足に行われやすく、香気物質の効果を加工食品中に狙い通りに発現することができ、且つ、乳化剤特有の悪い風味が加工食品に影響する恐れもない。
【0013】
本発明における二重乳化油脂組成物に用いる乳化剤としては、グリセリン不飽和脂肪酸モノエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖不飽和脂肪酸ポリエステルを併用することが好ましい。グリセリン不飽和脂肪酸モノエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖不飽和脂肪酸ポリエステルについては、構成する脂肪酸は特に限定されず、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、エルカ酸等が挙げられ、これらは少なくとも1種用いることができる。グリセリン不飽和脂肪酸モノエステルの使用量は、二重乳化油脂組成物全体中、0.05重量%〜0.5重量%が好ましく、より好ましい範囲は0.1重量%〜0.3重量%である。使用量が0.05重量%以上であれば、油中水中油型乳化の解乳化制御を満足に行うことができる。一方、0.5重量%以下であれば、香気物質を含有する二重乳化油脂組成物自体の乳化安定性を高く保持することができ、且つ、乳化剤特有の悪い風味が加工食品に影響する恐れがない。ポリグリセリン脂肪酸エステル或いは蔗糖不飽和脂肪酸ポリエステルの使用量は、それぞれ、二重乳化油脂組成物全体中、0.05重量%〜1.5重量%が好ましく、より好ましい範囲は0.1重量%〜1重量%である。使用量が0.05重量%以上であれば、二重乳化油脂組成物の解乳化制御が満足に行うことができる。一方、1.5重量%以下であれば、香気物質を含有する二重乳化油脂組成物自体の乳化安定性を高く保持することでき、且つ、乳化剤特有の悪い風味が加工食品に影響する恐れがない。
【0014】
また、上述の乳化剤以外についても補足的に使用することができる。即ち、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、CSL(ステアロイル乳酸カルシウム)、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベート等が例示できる。実際の乳化剤の選択については、食品の加工工程での混練によるストレスの程度、加熱条件、食品の流通、保存条件、食品全体のpH、食塩の含有量などの条件、及び本発明でいう最内相に含有している香気物質の種類や配合量を考慮した上で、喫食時における二重乳化油脂組成物の解乳化のタイミングを考慮して実施する。例えば、レトルト食品など特に工業的に非常に強い加熱殺菌を行う食品では、レトルト加熱時に二重乳化油脂組成物が解乳化してしまわないよう最外相と中間水相による乳化を強くする必要がある。このような場合には、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量を多くすることが好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルや蔗糖不飽和脂肪酸ポリエステルを併用して乳化を強くすることがより好ましい。
【0015】
本発明に用いる蛋白質としては、乳蛋白質、小麦蛋白質、血液蛋白質、卵蛋白質、大豆蛋白質、えんどう豆蛋白質、とうもろこし蛋白質及びこれらの酵素処理分解物あるいは酸処理分解物からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。乳蛋白質としては、乳清蛋白質濃縮物(WPC)、ホエーパウダー、カゼインナトリウム、酸カゼインなどの精製された製剤的なものだけでなく、脱脂粉乳、全脂粉乳、牛乳などの食品として通常流通している乳製品も例示できる。小麦蛋白質としては、グルテン、グリアジン、グルテニン、血液蛋白質としては、血漿蛋白質、卵蛋白質としては、卵黄、卵白由来の蛋白質などがそれぞれ例示できる。これらの蛋白質のうち、WPC、カゼインナトリウム等の乳蛋白質、脱脂粉乳等の乳製品が好適である。本発明における蛋白質の配合量については、中間水相全体中5〜25重量%が好ましい。蛋白質の配合量が5重量%より少ないと、蛋白質の糖質に対する比率が低くなりすぎてしまい、香気物質を含有する最内相の油相(O1)と中間相(W)で形成されるO/W型乳化形態の安定性の維持ができない場合があるだけでなく、香気物質を含む最内相の油相が二重乳化油脂組成物から分離してしまう場合もある。また、25重量%より多いと、蛋白質の糖質に対する比率が高くなりすぎてしまい、香気物質を含む最内相の油相(O1)と中間相(W)で形成されるO/W型乳化形態の安定性の維持ができない場合がある。
【0016】
本発明に用いる糖質としては、異性化液糖、ソルビトール、水飴、オリゴ糖、トレハロース、エリスリトール、キシリトール、澱粉糖化物、還元オリゴ糖、還元澱粉糖化物、還元水飴、乳糖、還元乳糖、蜂蜜、黒糖、果糖、グリセリン、還元デキストリン、デキストリン類など、糖類であれば液状、粉体を問わず何を使用しても差し支えないが、褐変現象が起こりにくく粘度の低い還元澱粉糖化物、ソルビトール、還元水飴、還元デキストリンなどが好適である。本発明における糖質の配合量については、中間水相全体中20〜80重量%が好ましい。糖質の配合量が20重量%より少ないと、蛋白質の糖質に対する比率が高くなりすぎてしまい、粘度が高くなって、香気物質を含む最内相の油相(O1)と中間相(W)で形成されるO/W型乳化乳化形態の安定性の維持ができない場合がある。また、80重量部より多いと、蛋白質の糖質に対する比率が低くなりすぎてしまい、香気物質を含む最内相の油相(O1)と中間相(W)で形成されるO/W型乳化形態の安定性の維持ができない場合があるだけでなく、二重乳化油脂組成物を保存中に油相が乳化物から分離してしまう場合もある。
【0017】
本発明の二重乳化油脂組成物において、香気物質の保持をより強くするためには、蛋白質が糖質を含む溶液中に分散し、さらに微細なネットワーク構造を形成することで、香気物質を含有する油脂を取り込んで見かけ上安定した乳化構造を形成させることが好ましいと推測している。そして、そのようにして得た乳化構造は香気物質を最内相の油相中に保持し、中間相である水相及び最外相の油相とのO/W/O型二重乳化によってさらに保護されているが、喫食時における再加熱調理などにより二重乳化油脂組成物が解乳化して最外相の油相が外れる際、それまで二重乳化によって強力に保持されてきた低分子物質である香気成分が飛散することで香気物質の効果が発現すると推測する。
【0018】
なお、本発明の二重乳化油脂組成物中には、該組成物を安定化させるためのデキストリン類、澱粉類、ゼラチン、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、寒天等の増粘多糖類、セルロース及びその誘導体、ポリデキストロース、小麦ふすま、大豆繊維、とうもろこし繊維等の食物繊維も使用できる。また、商品性を向上するための香料、着色料、酸化防止剤、保存料、酒精、日持ち向上剤等も適宜使用することができる。
【0019】
本発明の二重乳化油脂組成物が使用される加工食品としては、パン、ドーナツ、ケーキ、マフィン、麺類、パスタなどの小麦粉加工品類、ハム、ソーセージ、ミートボール、ハンバーグなどの畜肉加工品、かまぼこ、ちくわなどの水産練り製品、餃子、焼売、春巻き、卵焼きなどの惣菜類、その他にカレーソース、ハヤシソース、パスタソース、スープ類、麻婆豆腐の素、青椒肉絲の素などの中華料理用ベースソース、かやくご飯の素、釜飯の素、親子丼、牛丼の素などの和惣菜用ベースソース、ドレッシング・マヨネーズ類、その他調理済み加工食品など幅広い食品での利用が例示できるが、これらの中でもカレーソースやシチューなどのレトルトパウチ食品において本発明の効果が顕著に発揮できる。これは即ち以下のことを意味する。レトルト食品、特に容器にアルミ箔を用いたレトルトパウチ食品はレトルト臭と呼ばれる特有のこもった臭いが発生する。これは食品中の香気物質を含む風味素材が長期間保存中にアルミなどの金属や容器材料と化学反応などの相互作用に起因して発生すると推定される。しかし、本発明の二重乳化油脂組成物を用いたレトルト食品においては香気物質が油中水中油型乳化油脂組成物の最内相の油相に添加して封じ込められており、喫食時の再調理加熱時まで乳化物が解乳化しないため、香気物質がアルミニウムフィルム等の金属製の容器材料等と接触することがないのでレトルト臭の発生を防止することができると考えられる。
【0020】
本発明の二重乳化油脂組成物は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、最内相となる油脂に香気物質を加え、70℃に加熱、溶解したものを油相(O1)とする。還元澱粉糖化物にWPCを加え、十分攪拌しつつ混合した後、70℃に加熱して必要に応じて加水して水相粘度を調整したものを中間水相(W)とする。70℃において、水相(W)に油相(O1)を徐々に加えてO/W型乳化物を得る。一方、最外相となる油脂に乳化剤を加え、70℃に加熱、溶解したものを最外相となる油相(O2)とする。この油相(O2)に、先に準備していたO/W型乳化物を徐々に加えてO/W/O型に乳化し、冷却、必要に応じて捏和して、本発明の二重乳化油脂組成物を得る。
【0021】
本発明の二重乳化油脂組成物は、さらに例えば以下のようにして製造することもできる。まず、最内相となる油脂としてガーリックオイル等の香味油を使用し、70℃に加熱したものを油相(O1)とする。水に還元デキストリン粉末と脱脂粉乳を加えて攪拌しつつ十分混合した後、70℃に加熱して中間水相(W)とする。水相(W)に、油相(O1)を徐々に加えてO/W型乳化物を得る。一方、最外相となる油脂に乳化剤を加え、70℃に加熱、溶解したものを最外相となる油相(O2)とする。この油相(O2)に、先に準備していたO/W型乳化物を徐々に加えてO/W/O型に乳化し、60℃にて20分間乳化した後、冷却して捏和機により捏和し、本発明の二重乳化油脂組成物を得る。
【0022】
上記のようにして得られた二重乳化油脂組成物は、香気物質の配合量、加工食品における香気物質の必要量、食品の原材料や加工条件、などによっても様々であるが、本発明にいう加工食品100重量部に対して、好ましくは0.5重量部〜10重量部、より好ましくは1重量部〜5重量部の割合で使用することができる。二重乳化油脂組成物の使用量が0.5重量部以上であると喫食時において香気物質の効果を食品中に発現し、香り高い風味の優れた食品を得ることができる。また、10重量部以下であると、二重乳化油脂組成物由来の油脂分が加工食品自体の風味、食感等を損なうこと無く香気物質の効果を発現させることができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0024】
<レトルトシチューの風味評価>
実施例及び比較例で作製したレトルトシチューに対し、10名のパネラーにより風味評価(4点満点)を行った。そして10名のパネラーの平均値を算出し、評価点とした。その際の評価基準は次の通りである。4点:ホワイトソースの乳風味と香気物質として添加したバター酵素処理物由来のバター風味とが良くマッチしていて香りに深みが感じられて、非常においしい、3点:ホワイトソースの乳風味に加えてバター風味も少々感じられて、おいしい、2点:バター風味があまりなくホワイトソースの乳風味しか感じられず、香りに深みがない、1点:ホワイトソースの乳風味さえもあまり感じられず、レトルト臭がより強く感じられて、おいしくない。
【0025】
<レトルトカレーソースの風味評価>
実施例及び比較例で作製したレトルトカレーソースに対し、10名のパネラーにより風味評価(4点満点)を行った。そして10名のパネラーの平均値を算出し、評価点とした。その際の評価基準は次の通りである。4点:カレーの風味と香味油由来のガーリック風味とが良くマッチしていて香りに深みが感じられて、非常においしい、3点:カレーの風味に加えてガーリック風味も少々感じられて、おいしい、2点:ガーリック風味があまりなくカレーの風味しか感じられず香りに深みがない、1点:カレーの風味さえもあまり感じられず、レトルト臭がより強く感じられて、おいしくない。
【0026】
(実施例1〜4) 二重乳化油脂組成物の作製
表1に示した配合により、二重乳化油脂組成物を製造した。即ち、先ず還元澱粉糖化物、酸糖化水飴からなる糖液に乳清蛋白質濃縮物或いは乳蛋白を加えて混合した後、70℃まで加熱して中間相である水相(W)を得た。香気物質(バター酵素処理物)を菜種油に70℃で溶解して得られた最内相となる油相(O1)を水相に徐々に添加して乳化した後、加水して粘度を調整し、O/W型乳化物を得た。次に、菜種油に乳化剤を添加して70℃まで加熱した最外相となる油相(O2)にO/W型乳化物を攪拌しながら徐々に添加し、70℃にて20分間ホモミキサーにより乳化(特殊機化工業株式会社製、TKホモミキサー使用)させた後、該ホモミキサーにより45℃まで冷却しつつ乳化し、本発明のO/W/O型の二重乳化油脂組成物を得た。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例5〜8) レトルトシチューの作製
小麦粉50部、無塩マーガリン50部を平釜を用いて80℃で10分間加熱して同時に炒めて作製したホワイトソース用ルーに、実施例1〜4の二重乳化油脂組成物10部、チキンエキス4部、食塩3部、白コショウ末2部を添加し、そこへ牛乳400部を加えながら伸ばして85℃まで加熱して作製したホワイトソースをレトルトパウチに充填して、122℃にて30分間レトルト加熱調理殺菌を行ない、レトルトシチューを得た。こうして得られたレトルトシチューについては、25℃にて1ヶ月間保存した後、喫食時に再度ボイルにて5分間加熱調理を行い、封を開けて適当なシチュー皿にとり、風味評価を実施した。評価結果を表2に示した。
【0029】
【表2】

【0030】
(比較例1) レトルトシチューの作製
二重乳化油脂組成物10部の代わりにバター酵素処理物を1部使用した以外は実施例5〜8と同様にしてレトルトシチューを得た。こうして得られたレトルトシチューについては、25℃にて1ヶ月間保存した後、喫食時に再度ボイルにて5分間加熱調理を行い、封を開けて適当なシチュー皿にとり、風味評価を実施した。評価結果を表2に示した。
【0031】
以上の結果より、本発明の二重乳化油脂組成物を添加したレトルトシチューは、ホワイトソースの乳風味とバター酵素処理物由来のバター風味とがバランス良くマッチしていて香りに深みが感じられ、非常においしいと評価された。
【0032】
(実施例9、10) 二重乳化油脂組成物の作製
表3に示した配合により、二重乳化油脂組成物を製造した。即ち、先ず還元デキストリン末に加水して溶解した溶液を調整した後、蛋白質(カゼインナトリウム)を加えて混合した後、70℃まで加熱して中間相となる水相(W)を得た。香味油(ガーリックオイル)を70℃に加熱したものを最内相となる油相(O1)として水相に徐々に添加して乳化し、O/W型乳化物を得た。次に、精製牛脂に3種或いは4種の乳化剤を添加して70℃まで加熱した最外相となる油相(O2)に、O/W型乳化物を徐々に攪拌しながら添加し、60℃で20分間ホモミキサー(特殊機化工業株式会社製、TKホモミキサー使用)により乳化した後、捏和機に送液して冷却しつつ捏和し、本発明のO/W/O型の二重乳化油脂組成物を得た。
【0033】
【表3】

【0034】
(実施例11、12) レトルトカレーソースの作製
カレーフレーク(商品名:プレミアム欧風カレーフレーク、株式会社カネカ製)100部に、水200部を加えながら伸ばし、そこへ実施例9、10で得た二重乳化油脂組成物15部を添加し、十分混合したものに、さらに水200部を加えながら伸ばして85℃まで加熱して作製したカレーソースをレトルトパウチに充填して122℃にて30分間レトルト加熱調理殺菌を行い、レトルトカレーソースを得た。こうして得られたレトルトカレーソースについては、25℃にて1ヶ月間保存した後、喫食時に再度ボイルにて5分間加熱調理を行い、封を開けて適当なカレー皿にとり、風味評価を実施した。評価結果を表4に示した。
【0035】
【表4】

【0036】
(比較例2) レトルトカレーソースの作製
二重乳化油脂組成物15部の代わりに香味油としてガーリックオイルを3部使用した以外は実施例11、12と同様にしてレトルトカレーソースを得た。こうして得られたレトルトカレーソースについては、25℃にて1ヶ月間保存した後、喫食時に再度ボイルにて5分間加熱調理を行い、封を開けて適当なカレー皿にとり、風味評価を実施した。評価結果を表4に示した。
【0037】
以上の結果より、本発明の二重乳化油脂組成物を添加したレトルトカレーソースは、カレーの風味と香味油由来のガーリック風味とがバランス良くマッチしていて香りに深みが感じられて、非常においしいと評価された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最内相となる第一の油相(以下、O1とも表記する)、最外相となる第二の油相(以下、O2とも表記する)、及び中間相となる水相(以下、Wとも表記する)がO/W/O型に二重乳化されている油中水中油型乳化物であって、第一の油相中に香気物質を含有し、第二の油相中に乳化剤として、二重乳化油脂組成物全体中、グリセリン飽和脂肪酸モノエステル0.02重量%〜0.5重量%、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.1重量%〜2重量%を必須成分として含有することを特徴とする二重乳化油脂組成物。
【請求項2】
中間相となる水相(W)が、蛋白質及び糖質を含有することを特徴とする請求項1に記載の二重乳化油脂組成物。
【請求項3】
第一の油相(O1)と水相(W)とをO/W型に乳化した乳化物を製造した後、該乳化物を第二の油相(O2)中に添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の二重乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項4】
第一の油相(O1)と水相(W)とをO/W型に乳化する際、乳化剤を添加しないことを特徴とする請求項3に記載の二重乳化油脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−328254(P2006−328254A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155148(P2005−155148)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】