説明

二重管ダブルパッカー工法

【課題】工期を遅延させずに二重管ダブルパッカー工法を行う。
【解決手段】周壁に複数の注入孔1aを設け、かつリングビット1bを先端に取り付けたケーシング1内に、単管掘削機から受けた打撃力及び回転力を前記リングビット1bに伝える掘削ビットを取り付けたインナーロッドを挿入し、地山Gに削孔を行い、ケーシング1からインナーロッド及び掘削ビットを引き抜いた後、吐出孔3aが形成されたスリーブパイプ3をケーシング1内に挿入するとともに、ケーシング1とスリーブパイプ3との間隙にシール材6を充填し、スリーブパイプ3内に、一対のパッカー4b,4bと、これらのパッカー4b,4bの間に設けられた噴出孔4aと、を備えるインジェクションパイプ4を挿入し、ケーシング1を地山G内に設置した状態で、注入材5を噴出孔4a及び吐出孔3aを介して注入孔1aから地山に注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山に設置され、吐出孔が形成された中空のスリーブパイプ内に、噴出孔が形成された中空のインジェクションパイプを挿入し、該インジェクションパイプの後端から注入材を供給して、該注入材を前記噴出孔及び吐出孔を介して地山に注入する二重管ダブルパッカー工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、二重管ダブルパッカー工法における地山への削孔は、二重管掘削によって行われていた。この二重管掘削とは、まず、ケーシング及びインナーロッドの後端を二重管掘削機のスイベルに接続して、インナーロッドの先端から切削水を噴射するとともにケーシングとインナーロッドとの間隙より泥水を排水しながら、ケーシング及びインナーロッドの先端のビットに二重管掘削機による打撃力と回転力とを伝達することによって削孔を行う。その後、インナーロッドを引き抜き、ケーシング内に中空のスリーブパイプを建て込んだ後、ケーシングを引き抜き、スリーブパイプ内に噴出孔を備えた中空のインジェクションパイプを挿入して、注入材を地山に注入するものである。よって、二重管掘削機のスイベルは、打撃力及び回転力をケーシング及びインナーロッドに伝達してそれぞれを引き抜くことができ、切削水及び泥水の流路と、これらの切削水及び泥水が漏れないようにパッカー機能とを備えている必要がある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−021461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、NATM(New Austrian Tunnelling Method)やTBM(Tunnel Boring Machine)工法等によるトンネル掘削現場では、二重管掘削機は常備されておらず、単管掘削機が常備されていることが多い。しかし、この単管掘削機にはスイベルが備えられていないため、インナーロッドとともにケーシングを地山に打ち込んでも、地山からケーシングを引き抜くことができない。よって、これらの現場で二重管ダブルパッカー工法を採用するには二重管掘削機を準備せねばならず、この二重管掘削機の準備やトンネル掘削現場への搬送に時間を要し、工期が長引く問題があった。
【0004】
本発明の課題は、工期を遅延させずに二重管ダブルパッカー工法を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、例えば図1及び2に示すように、周壁に複数の注入孔1aを設け、かつリングビット1bを先端に取り付けたケーシング1内に、単管掘削が可能な単管掘削機(図示せず)から受けた打撃力及び回転力を前記リングビット1bに伝える掘削ビット2aを取り付けたインナーロッド2を挿入し、
前記単管掘削機に連結した前記インナーロッド2と、前記ケーシング1とによって地山Gに削孔を行い、前記ケーシング1から前記インナーロッド2及び掘削ビット2aを引き抜いた後、
吐出孔3aが形成されたパイプ(例えば、スリーブパイプ3)を前記ケーシング1内に挿入するとともに、前記ケーシング1と前記パイプ(例えば、スリーブパイプ3)との間隙にシール材6を充填し、
前記パイプ(例えば、スリーブパイプ3)内に、該パイプ(例えば、スリーブパイプ3)内の空間を隔てる一対のパッカー4b,4bと、これらのパッカー4b,4bの間に設けられた噴出孔4aと、を備えるインジェクションパイプ4を挿入し、
前記ケーシング1を地山G内に設置した状態で、前記インジェクションパイプ4の後端から注入材5を供給し、該注入材5を前記噴出孔4a及び吐出孔3aを介して前記注入孔1aから地山に注入することを特徴としている。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、単管掘削機にインナーロッドを連結して打撃力及び回転力を与えると、この打撃力及び回転力が、インナーロッドの先端に取り付けられた掘削ビットを介してケーシングに取り付けられたリングビットに伝達される。よって、単管掘削機を用いて、ケーシングと、このケーシング内に挿入されたインナーロッドとによって地山に削孔を行うことができる。削孔後、インナーロッドを引き抜き、ケーシング内にパイプを挿入するとともにケーシングとパイプとの間隙にシール材を充填し、パイプ内にインジェクションパイプを挿入して、このインジェクションパイプの後端から注入材を供給する。これにより、注入材はインジェクションパイプの噴出孔を介して、パイプ内と一対のパッカーとで形成された空間に充填される。その後、注入材は、パイプの吐出孔を介して、ケーシングとパイプとの間隙に充填されたシール材の中を流れ、ケーシングの注入孔を介して地山に注入されて地山が補強される。よって、ケーシングを引き抜く作業を省略することができるため、二重管掘削機がない現場においても、単管掘削機によって二重管ダブルパッカー工法を行うことができ、二重管掘削機を準備及び搬送する必要はなく、工期の遅延を防ぐことができる。また、注入材を地山に注入した後もケーシングは地山内に残置されるため、ケーシングによって、地山の変形を抑制することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の二重管ダブルパッカー工法において、前記単管掘削機は、地質探査用の先進ボーリングマシンであることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、単管掘削機は地質探査用の先進ボーリングマシンであるため、ケーシング及びインナーロッドによって、地山に削孔を確実に行うことができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の二重管ダブルパッカー工法において、前記単管掘削機は、ドリルジャンボであることを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、単管掘削機はドリルジャンボであるため、ケーシング及びインナーロッドによって、地山に削孔を確実に行うことができる上、ドリルジャンボは複数のドリフタを備えているため、同時に複数の削孔を行うことができる。
【0011】
本発明によれば、ケーシングを引き抜く作業を省略することができるため、二重管掘削機がない現場においても、単管掘削機によって二重管ダブルパッカー工法を行うことができ、二重管掘削機を準備及び搬送する必要はなく、工期の遅延を防ぐことができる。また、注入材を地山に注入した後もケーシングは地山内に残置されるため、ケーシングによって、地山の変形を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図を参照して本発明を実施するための実施形態を詳細に説明する。
図1は、TBM工法によるトンネル掘削現場において、二重管ダブルパッカー工法によって掘削方向の地山Gを補強するために、地山G内にケーシング1を設置したものである。図2は、ケーシング1及びインナーロッド2による削孔を示すものである。図3は、二重管ダブルパッカー工法の施工手順を示すものである。
【0013】
図1及び2に示すように、地山G内に設置されたケーシング1の周壁には、複数の注入孔1aが設けられている。このケーシング1は、先端にリングビット1bが接合されており、このリングビット1bに打撃力及び回転力を伝達する掘削ビット2aを取り付けたインナーロッド2をケーシング1内に挿入した状態で、削孔を行う。
【0014】
ケーシング1内には、中空のスリーブパイプ3が挿入されている。このスリーブパイプ3には、所定間隔に筒状体のゴム製のスリーブ3bが嵌められており、スリーブパイプ3及びスリーブ3bには、注入材5の流路としての微小の吐出孔3aが形成されている。このスリーブパイプ3の内側の注入材5に圧力をかけることによって、注入材5は吐出孔3aを押し広げて勢い良くスリーブパイプ3の外へと噴出す。また、スリーブパイプ3の先端には、その径方向外側に開いた複数の棒状の羽部材3cが設けられている。この羽部材3cは、先端がケーシング1の内壁に当接しており、スリーブパイプ3をケーシング1の中心位置に配置させるためのものである。
【0015】
スリーブパイプ3内には、中空のインジェクションパイプ4が挿入されている。このインジェクションパイプ4の先端部には、スリーブパイプ3内の空間をその長軸方向に隔てる一対のパッカー4b,4bが備えられており、インジェクションパイプ4のこれらのパッカー4b,4bの間には、噴出孔4aが形成されている。
【0016】
次に、本発明に係る二重管ダブルパッカー工法の施工手順について詳細に説明する。
【0017】
まず、先端にリングビット1bを備えたケーシング1の中に、先端に掘削ビット2aを備えたインナーロッド2を挿入し、インナーロッド2の後端を地質探査用の先進ボーリングマシンに連結して、地山Gに削孔を行う。詳しくは、インナーロッド2の後端に地質探査用の先進ボーリングマシンから打撃力及び回転力が与えられ、インナーロッド2の先端の掘削ビット2aと、この掘削ビット2aを介して打撃力及び回転力が伝達されるリングビット1bとが、地山Gを掘削する。なお、地質探査用の先進ボーリングマシンは、TBM工法のトンネル掘削現場に常備されるものを用いる。
【0018】
ケーシング1及びインナーロッド2で地山Gに所定長さ削孔した後、図3(a)に示すように、インナーロッド2(図2参照)を引き抜いてケーシング1のみを地山G内に残置する。
【0019】
次に、図3(b)に示すように、ケーシング1内にスリーブパイプ3を挿入する。このとき、スリーブパイプ3の先端には複数の羽部材3c(図1参照)が設けられているため、スリーブパイプ3はケーシング1の中心位置を維持した状態で挿入される。その後、図3(c)に示すように、ケーシング1の内面とスリーブパイプ3の外面との間隙にシール材6を充填する。
なお、シール材6は、ケーシング1内にスリーブパイプ3を挿入する前に充填してもよい。
【0020】
次に、図3(d)に示すように、スリーブパイプ3内にインジェクションパイプ4を挿入し、スリーブパイプ3の最後端側の吐出孔3aが一対のパッカー4b,4bの間に位置するようにし、インジェクションパイプ4の後端から注入材5を圧入する。
【0021】
インジェクションパイプ4の後端から圧入された注入材5は、インジェクションパイプ4内を通り先端側の噴出孔4a(図1参照)を介して、インジェクションパイプ4の外面、スリーブパイプ3の内面、及び一対のパッカー4b,4bによって形成された空間に充填される。その後、注入材5は、スリーブパイプ3の吐出孔3aを押し広げてスリーブパイプ3の外へ噴出し、スリーブパイプ3の外面とケーシング1の内面との間隙に充填されたシール材6の中を流れる。そして、スリーブパイプ3の最後端側の吐出孔3aに近接したケーシング1の注入孔1aを介して地山Gに注入され、地山Gが補強される。
【0022】
ケーシング1の周囲の地山Gに注入材5が適量注入されたら、注入材5の圧入を止め、インジェクションパイプ4を先端方向に所定間隔だけ移動させて、スリーブパイプ3の後端側から2番目の吐出孔3aが一対のパッカー4b,4bの間に位置するようにし、再び注入材5を注入する。
【0023】
その後、注入材5の圧入と、インジェクションパイプ4の先端方向への移動とを繰り返し行い、ケーシング1の周囲の地山Gをケーシング1の後端側から順に補強していく。
【0024】
なお、注入材5を地山Gに注入する前に、注入材5と同じように圧力水をインジェクションパイプ4の後端から供給することによって、シール材6にクラッキングを行ってもよい。
【0025】
地山Gへの注入材5の注入作業が終わったら、インジェクションパイプ4を引き抜き、ケーシング1、スリーブパイプ3はそのまま地山G内に残置しておく。
【0026】
以上の実施形態によれば、地質探査用の先進ボーリングマシンにインナーロッド2を連結して打撃力及び回転力を与えると、この打撃力及び回転力が、インナーロッド2の先端に取り付けられた掘削ビット2aを介してケーシング1に取り付けられたリングビット1bに伝達される。よって、地質探査用の先進ボーリングマシンを用いて、ケーシング1と、このケーシング1内に挿入されたインナーロッド2とによって地山Gに確実に削孔をすることができる。掘削後、インナーロッド2を引き抜き、ケーシング1内にスリーブパイプ3を挿入するとともにケーシング1とスリーブパイプ3との間隙にシール材6を充填し、スリーブパイプ3内にインジェクションパイプ4を挿入して、このインジェクションパイプ4の後端から注入材5を圧入する。これにより、注入材5はインジェクションパイプ4の噴出孔4aを介して、スリーブパイプ3内と一対のパッカー4b,4bとで形成された空間に充填される。その後、注入材5は、スリーブパイプ3の吐出孔3aを介して、ケーシング1とスリーブパイプ3との間隙に充填されたシール材4の中を流れ、ケーシング1の注入孔1aを介して地山Gに注入されて地山Gが補強される。よって、ケーシング1を引き抜く作業を省略することができるため、二重管掘削機がない現場においても、地質探査用の先進ボーリングマシンによって二重管ダブルパッカー工法を行うことができ、二重管掘削機を準備及び搬送する必要はなく、工期の遅延を防ぐことができる。また、注入材5を地山Gに注入した後もケーシング1は地山G内に残置されるため、このケーシング1によって、地山Gの変形を抑制することができる。
【0027】
なお、以上の実施形態においては、地質探査用の先進ボーリングマシンで掘削を行ったが、NATMの現場に常備されるドリルジャンボで行ってもよい。この場合、上記の実施形態で得られた効果の他に、ドリルジャンボは複数のドリフタを備えているため、同時に複数の削孔を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る二重管ダブルパッカー工法において、地山に注入材を注入しているときの断面図である。
【図2】ケーシング及びインナーロッドによって削孔しているときの断面図である。
【図3】本発明に係る二重管ダブルパッカー工法における施工手順を示す図で、(a)はケーシング及びインナーロッドで掘削した後にインナーロッドを引き抜いたときの断面図、(b)はケーシング内にスリーブパイプを挿入したときの断面図、(c)はケーシングとスリーブパイプとの間隙にシール材を充填したときの断面図、(d)はスリーブパイプ内にインジェクションパイプを挿入して注入材を注入しているときの断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ケーシング
1a 注入孔
1b リングビット
2 インナーロッド
2a 掘削ビット
3 スリーブパイプ
3a 吐出孔
3b スリーブ
4 インジェクションパイプ
4a 噴出孔
4b パッカー
5 注入材
6 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁に複数の注入孔を設け、かつリングビットを先端に取り付けたケーシング内に、単管掘削が可能な単管掘削機から受けた打撃力及び回転力を前記リングビットに伝える掘削ビットを取り付けたインナーロッドを挿入し、
前記単管掘削機に連結した前記インナーロッドと、前記ケーシングとによって地山に削孔を行い、前記ケーシングから前記インナーロッド及び掘削ビットを引き抜いた後、
吐出孔が形成されたパイプを前記ケーシング内に挿入するとともに、前記ケーシングと前記パイプとの間隙にシール材を充填し、
前記パイプ内に、該パイプ内の空間を隔てる一対のパッカーと、これらのパッカーの間に設けられた噴出孔と、を備えるインジェクションパイプを挿入し、
前記ケーシングを地山内に設置した状態で、前記インジェクションパイプの後端から注入材を供給し、該注入材を前記噴出孔及び吐出孔を介して前記注入孔から地山に注入することを特徴とする二重管ダブルパッカー工法。
【請求項2】
前記単管掘削機は、地質探査用の先進ボーリングマシンであることを特徴とする請求項1に記載の二重管ダブルパッカー工法。
【請求項3】
前記単管掘削機は、ドリルジャンボであることを特徴とする請求項1に記載の二重管ダブルパッカー工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−274562(P2006−274562A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91543(P2005−91543)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【Fターム(参考)】