説明

二重鋼矢板を使用した土留め構造体、二重鋼矢板の打設工法及び二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法

【課題】鋼矢板を使用する土留め構造体の機械的強度を向上させて外部からの土砂等の流入を防止する。上記土留め構造体によって構築した立坑からのシールドマシンの発進、立坑への到達を安全に迅速に行えるようにする。
【解決手段】本発明の土留め構造体24には内外に密接状態で重ね合わせて配置される内側鋼矢板14と外側鋼矢板15とによって構成される二重鋼矢板1が設けられている。また鋼矢板2を凸字状ないし凹字状に折り曲げられた折曲げ成形部5と、折曲げ成形部5の両端を水平に張り出させ、先端に連結ジョイント10が設けられた水平張出し部6とを有する形状とし、内外の鋼矢板2を互い違いに半ピッチずつずらして配置するという連結構造を採用した。また本発明のシールドマシン20の発進到達工法においても上記構造の二重鋼矢板1を使用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば立坑の施工に使用され、複数枚の鋼矢板を連結しながら地盤中に打設して行くことによって形成される土留め用の構造体に係り、特に構造体の少なくとも一部に二重鋼矢板を配した二重鋼矢板を使用した土留め構造体、二重鋼矢板の打設工法及び二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の建築物や構造物が林立する都市部では、地盤中を掘削し、地下鉄等の軌道を設けたり、下水や雨水等を一ヶ所に集めて流すための大規模な水路等を構築することが頻繁に行われている。この場合、シールドマシンと呼ばれる掘削機械が多く使用されており、地盤中を垂直に掘り起こして構築した立坑と呼ばれる坑道を利用してシールドマシンの搬入、搬出と、地中を水平に掘削し、掘進するための発進、到達とが行われている。
【0003】
また立坑には、シールドマシンが発進する発進立坑とシールドマシンが到達する到達立坑とがあり、これらの立坑の施工に当たっては、図17に示すように、平面視形状が凸字状ないし凹字状をした長尺の鋼矢板101が多数枚使用されていた。これらの鋼矢板101には、左右の端部に対称に配置された連結ジョイント103が設けられており、これらの連結ジョイント103を利用して、図示のように互い違いに多数枚の鋼矢板101を連結して立坑の側壁を形成し、この側壁によって外部の地盤からの側圧(土圧と水圧の両方を含む)を受け、外部からの土砂や地下水等の流入を防止している。
【0004】
また、従来の鋼矢板101の外形寸法を一例として示せば、ピッチ寸法Pが400mm、高さ寸法Hが125mm、厚さtが13mmである。また、これらの鋼矢板101を連結した立坑の側壁の厚さBは、高さ寸法Hの2倍で250mmとなる。従って、例えば1200mmの間口寸法を確保しようとすれば三枚の鋼矢板101が必要となり、第1に鋼矢板101の施工枚数が多くなり工期の長大化につながること、第2に立坑の側壁の厚さが厚くなり、施工現場の状況によっては鋼矢板101の打設が困難になること、第3にシールドマシンの発進部位または到達部位の立坑の強度が不足し、側圧とのバランスが保てないこと等が問題点になっていた。
【0005】
そして、上記の第3の問題点を補うために、シールドマシンの発進到達部位では立坑の強度を補強したり、側圧とのバランスを取るための幾つかの対応措置が図18〜図20に示すように講じられていた。先ず第1の対応措置は地盤改良であり、図18に示すようにシールドマシン105の発進到達部位における立坑107の側壁109外方近傍の地盤Gに薬剤等を注入して軟弱地盤を硬質地盤に改良することが行われていた。尚、図18中、符号Kで示す部分が地盤改良部位であり、地盤改良部位Kの存在によって立坑107の側壁109にかかる側圧の分散が図れ、立坑107内への土砂や地下水の流入が防止されている。
【0006】
しかし、このような地盤改良を行うことは施工コストの増大及び工期の長大化につながる。また、シールドマシン105の発進到達に先立って鋼矢板101の鏡切り作業が必要となるが、シールドマシン105の切羽111が開放された状態での鏡切り作業となるため危険であり、安全面でも問題となっていた。
【0007】
第2の対応措置は、図19及び下記特許文献1に示すような防護工113の構築である。即ち図19に示すように、立坑107の側壁109を形成している鋼矢板101の内面にシールドマシン105によって直接切削することができる壁115を設置し、更に、坑口コンクリート117を打設後、坑口119とシールドマシン105との間に両者の隙間を塞ぐエントランスパッキン121を設置する。また、壁115と鋼矢板101との間の隙間に低強度モルタル等から成る充填材123を充填し、更にシールドマシン105の後部に反力材125と反力壁127とを設置することによって防護工113を構築して上記側圧に対応している。従って、上記のような地盤改良部位Kを形成する場合と同様、シールドマシン105の発進到達に先立っての準備作業が必要であり、施工コストの増大及び工期の長大化を招いていた。
【0008】
第3の対応措置は、図20及び下記非特許文献1に示すような二重鋼矢板129を採用することによって立坑107の側壁109における側圧に対する強度を向上させるという措置である。この二重鋼矢板129は、シールドマシン105の発進到達部位における立坑107の側壁109として設けられる。また、内外に設けられる二枚の鋼矢板101の間には図示のような間隙131が形成されており、この間隙131内に外部の土砂が流入したり、流入した土砂による軟弱な地盤Gに対して薬剤を注入し、地盤改良を行わなければならなかった。また、上記図19に示す第2の対応措置と同様内側の鋼矢板101とシールドマシン105との間にはエントランスパッキン121、シールドマシン105の後部には反力材125と反力壁127とが設けられている。従って、上述の2つの対応措置と同様、シールドマシン105の発進到達に先立っての準備作業が必要であり、施工コストの増大及び工期の長大化を招いていた。
【0009】
【特許文献1】特開2003−214086号広報
【非特許文献1】シールドトンネルの新技術研究会「シールドトンネルの新技術」 株式会社土木工学社 平成7年1月30日 P128 図3−108(e)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような背景技術及び背景技術が抱える問題点の存在を踏まえてなされたものであって、鋼矢板の形状及び連結構造等を工夫することによって隙間なく密着状態で二枚の鋼矢板を内外に重ね合わせた二重鋼矢板の構築を可能とし、当該二重鋼矢板を使用することによってシールドマシンの発進到達部位における側圧に対する強度の向上と、外部からの土砂等の流入の防止と、シールドマシンの発進到達に先立っての準備作業の簡略化と鋼矢板の鏡切り作業の容易化と安全性の向上と、トンネル施工コストの削減及び工期の短縮化とが図れる二重鋼矢板を使用した土留め構造体、二重鋼矢板の打設工法及び二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る二重鋼矢板を使用した土留め構造体は、複数枚の鋼矢板を連結しながら地盤中に打設して行くことによって形成される土留め用の構造体であって、前記構造体の少なくとも一部には鋼矢板を内外に密接状態で重ね合わせて配置した二重鋼矢板が設けられており、当該二重鋼矢板は内側鋼矢板と外側鋼矢板とによって構成されていて、これら2種類の鋼矢板は凸字状ないし凹字状に折り曲げられた折曲げ成形部と、当該折曲げ成形部の両端を水平に張り出させ、先端に連結ジョイントが設けられた水平張出し部とを有しており、連結される一方の鋼矢板の折曲げ成形部における内天面ないし内底面に対し、連結される他方の鋼矢板の水平張出し部が位置するように互い違いに半ピッチずつずらして配置することによって構成したことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、所定形状の鋼矢板を互い違いに半ピッチずつずらすことによって二重鋼矢板が形成され、形成された二重鋼矢板の外方には同一向きで連結された外側鋼矢板が位置し、二重鋼矢板の内方には上記外側鋼矢板に対して密接状態で重ね合わされる同一向きで連結された内側鋼矢板が位置するようになる。従って、土留め構造体の側圧に対する強度が向上し、外側鋼矢板と内側鋼矢板との間への土砂等の流入は生じない。また、形成された二重鋼矢板の厚さは、鋼矢板の形状と連結構造の違いにより、従来の二重鋼矢板の厚さに比べて格段に薄くなるから、適用できる施工現場が拡大し、施工コストの削減と工期の短縮とを図ることができる。
【0013】
本発明の第2の態様に係る二重鋼矢板を使用した土留め構造体は、第1の態様において、前記連結された二重鋼矢板のうち両端に位置する端部鋼矢板の内天面ないし内底面には、鋼矢板の全長に亘って平行に延び、前記連結ジョイントと係合する全長ガイドジョイントが設けられていることを特徴とするものである。
本発明の第2の態様によれば、端部鋼矢板に連接する後続の鋼矢板を打設する際、全長ガイドジョイントに案内されるため傾くことなく、密接状態での正確な鋼矢板の打設が可能となる。また、全長ガイドジョイントは、鋼矢板の全長に亘って形成されているから外部からの土砂等の流入を防止することができる。
【0014】
本発明の第3の態様に係る二重鋼矢板を使用した土留め構造体は、第1または第2の態様において、前記連結された二重鋼矢板のうち中間に位置する中間鋼矢板の内天面ないし内底面には、鋼矢板の挿入側先端部のみに前記連結ジョイントと係合する先端ガイドジョイントが設けられていることを特徴とするものである。
本発明の第3の態様によれば、端部鋼矢板に連接する後続の鋼矢板を打設する際、上記全長ガイドジョイントと共に先端ガイドジョイントが端部鋼矢板における連結側の連結ジョイントと係合することによる係合案内作用によって鋼矢板の打設が一層正確となる。また先端ガイドジョイントは鋼矢板の挿入側先端部のみに形成されているから鋼矢板の打設を円滑に行うことが可能となる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る二重鋼矢板を使用した土留め構造体は、第3の態様において、前記先端ガイドジョイントが設けられている中間鋼矢板に対して連結される他の中間鋼矢板の連結側の連結ジョイントにおける挿入側先端部には前記先端ガイドジョイントとの干渉を回避するための回避用切欠部が形成されていることを特徴とするものである。
本発明の第4の態様によれば、回避用切欠部の存在により先端ガイドジョイントと連結ジョイントの干渉は、鋼矢板の全長に亘って生じないから連結される鋼矢板の頭を揃え、整列状態ですべての鋼矢板を打設することが可能となる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る二重鋼矢板を使用した土留め構造体は、第1〜第4のいずれか1つの態様において、前記内側鋼矢板の挿入側先端部の外面には当該内側鋼矢板の外側に重ね合わされる外側鋼矢板の挿入側先端部を受け入れて固定する端部固定部材が設けられていることを特徴とするものである。
本発明の第5の態様によれば、端部固定部材の存在により外側鋼矢板の打設深さが一様となり、内側鋼矢板と外側鋼矢板の全長を通じての密接状態が確保され、鋼矢板の挿入側先端部からの土砂等の流入が防止される。
【0017】
本発明の第6の態様に係る二重鋼矢板を使用した土留め構造体は、第2〜第5のいずれか1つの態様において、前記全長ガイドジョイントと当該全長ガイドジョイントと係合する連結ジョイントとの間ないし前記端部固定部材と外側鋼矢板の挿入側先端部との間、あるいはこれらの双方には止水シールが設けられていることを特徴とするものである。
本発明の第6の態様によれば、止水シールの存在により、二重鋼矢板の側方及び挿入側先端部からの地下水等の流入が防止され二重鋼矢板の機械的強度の向上が図られる。
【0018】
本発明の第7の態様に係る二重鋼矢板を使用した土留め構造体は、第1〜第6のいずれか1つの態様において、前記内側鋼矢板と外側鋼矢板との間には、耐火シートが設けられていることを特徴とするものである。
本発明の第7の態様によれば、耐火シートの存在によりシールドマシンの発進到達部位の内側鋼矢板を溶断によって鏡切りする際、外側鋼矢板を溶断あるいは傷付けることなく内側鋼矢板を鏡切りすることができる。
【0019】
本発明の第8の態様に係る二重鋼矢板の打設工法は、複数枚の鋼矢板を連結しながら内外に重ね合わせて地盤中に打設して行く二重鋼矢板の打設工法であって、前記二重鋼矢板は凸字状ないし凹字状に折り曲げられた折曲げ成形部と、当該折曲げ成形部の両端を水平に張り出させ、先端に連結ジョイントが設けられた水平張出し部とをそれぞれ有する内側鋼矢板と外側鋼矢板が密接状態で配置される2種類の鋼矢板によって構成されており、前記内側鋼矢板と外側鋼矢板を一枚ずつ個別に打設する場合には、両端部では鋼矢板の内天面ないし内底面に全長に亘って平行に延びる全長ガイドジョイントが形成された端部鋼矢板が使用され、中間部では鋼矢板の内天面ないし内底面の挿入側先端部のみに先端ガイドジョイントが形成された中間鋼矢板が使用されるものであって、一方の端部鋼矢板を地盤中に打設する始端打設工程と、上記一方の端部鋼矢板における全長ガイドジョイントと連結伸張側の連結ジョイントに対して一枚目の中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントと先端ガイドジョイントをそれぞれ係合させて当該一枚目の中間鋼矢板を互い違いに半ピッチずらした状態で打設する二次打設工程と、上記一方の端部鋼矢板における連結伸張側の連結ジョイントと前記一枚目の中間鋼矢板における連結伸張側の連結ジョイントに対して二枚目の中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントと先端ガイドジョイントをそれぞれ係合させて当該二枚目の中間鋼矢板を互い違いに半ピッチずらした状態で打設し、更に三枚目以降の中間鋼矢板を同様に繰り返し打設する中間打設工程と、上記中間打設工程によって打設した終端から二番目に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントと終端に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントに対して他方の端部鋼矢板における連結側の連結ジョイントと全長ガイドジョイントをそれぞれ係合させて当該他方の端部鋼矢板を互い違いに半ピッチずらした状態で打設する終端打設工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の第8の態様によれば、所定の打設手順によって鋼矢板を打設することによって、形成された二重鋼矢板の外方には同一向きで連結された外側鋼矢板が位置し、二重鋼矢板の内方には上記外側鋼矢板に対して密接状態で重ね合わされる同一向きで連結された内側鋼矢板が位置するようになる。従って土留め構造体の側圧に対する強度が向上し、外側鋼矢板と内側鋼矢板との間への土砂等の流入は生じない。また全長ガイドジョイントと先端ガイドジョイントによる係合案内作用によって鋼矢板は傾くことなく、密接状態で正確に打設されるようになる。
【0021】
本発明の第9の態様に係る二重鋼矢板の打設工法は、複数枚の鋼矢板を連結しながら内外に重ね合わせて地盤中に打設して行く二重鋼矢板の打設工法であって、前記二重鋼矢板は凸字状ないし凹字状に折り曲げられた折曲げ成形部と、当該折曲げ成形部の両端を水平に張り出させ、先端に連結ジョイントが設けられた水平張出し部とをそれぞれ有する内側鋼矢板と外側鋼矢板が密接状態で配置される2種類の鋼矢板によって構成されており、前記内側鋼矢板と外側鋼矢板を二枚同時に打設する場合には、両端部では鋼矢板の内天面ないし内底面に全長に亘って平行に延びる全長ガイドジョイントが形成された端部鋼矢板が使用され、中間部では鋼矢板の水平張出し部の先端に連結ジョイントのみが形成された中間鋼矢板が使用されるものであって、一方の端部鋼矢板における全長ガイドジョイントに対して一枚目の中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントを予め係合させ、互い違いに半ピッチずらして重ね合わせた状態で一方の端部鋼矢板と一枚目の中間鋼矢板とを同時に打設する始端同時打設工程と、上記一方の端部鋼矢板における連結伸張側の連結ジョイントに対して二枚目の中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントを係合させると共に、一枚目の中間鋼矢板における連結伸張側の連結ジョイントに対して三枚目の中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントを係合させ、互い違いに半ピッチずらして重ね合わせた状態で二枚目と三枚目の中間鋼矢板を二枚ずつ同時に打設し、更に同様に後続の中間鋼矢板を二枚ずつ同時に打設して行く中間同時打設工程と、上記中間打設工程によって打設した終端から二番目に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントと終端に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントに対して他方の端部鋼矢板における連結側の連結ジョイントと全長ガイドジョイントをそれぞれ係合させて当該他方の端部鋼矢板を互い違いに半ピッチずらした状態で打設する終端打設工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0022】
本発明の第9の態様によれば、所定の打設手順によって鋼矢板を打設することによって、形成された二重鋼矢板の外方には同一向きで連結された外側鋼矢板が位置し、二重鋼矢板の内方には上記外側鋼矢板に対して密接状態で重ね合わされる同一向きで連結された内側鋼矢板が位置するようになる。従って、土留め構造体の側圧に対する強度が向上し、外側鋼矢板と内側鋼矢板との間への土砂等の流入は生じない。また、一度に二枚ずつ鋼矢板が打設できるから施工コストの削減と工期の短縮を図ることができる。また、中間鋼矢板に先端ガイドジョイントを設けたり、先端ガイドジョイントとの干渉を防ぐための回避用切欠部を連結ジョイントに形成する必要がないから部品の共通化を通じて部品点数の削減を図ることができる。また、二枚の鋼矢板は一体になって打設されるから外側鋼矢板と内側鋼矢板との間に隙間は生ぜず、外部からの土砂等の流入は生じないため、円滑な鋼矢板の打設が実行される。
【0023】
本発明の第10の態様に係る二重鋼矢板の打設工法は、第9の態様において、前記中間打設工程によって打設した終端に位置する中間鋼矢板と他方の端部鋼矢板との間に中間鋼矢板をもう一枚打設したい場合には、上記終端打設工程に代えて上記中間打設工程によって打設した終端から二番目に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントに対して、追加する中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントを係合させると共に、終端に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントに対して他方の端部鋼矢板における連結側の連結ジョイントを係合させ、他方の端部鋼矢板における全長ガイドジョイントに対して追加する中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントを予め係合させ、互い違いに半ピッチずらして重ね合わせた状態で他方の端部鋼矢板と追加する中間鋼矢板とを同時に打設する終端同時打設工程を備えるようにしたことを特徴とするものである。
本発明の第10の態様によれば、上記第9の態様による作用効果に加えて、種々の間口寸法の土留め構造体に対応できるようになる。
【0024】
本発明の第11の態様に係る二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法は、複数枚の鋼矢板を連結しながら内外に重ね合わせて地盤中に打設して行くことによって形成される発進用の立坑からシールドマシンを発進させ、あるいは同様の構成の到達用の立坑に対してシールドマシンを到達させるシールドマシンの発進到達工法であって、前記発進用の立坑ないし到達用の立坑を構成する連結された鋼矢板のうち少なくともシールドマシンの発進到達部位に存する鋼矢板には凸字状ないし凹字状に折り曲げられた折曲げ成形部と、当該折曲げ成形部の両端を水平に張り出させ、先端に連結ジョイントが設けられた水平張出し部とをそれぞれ有する内側鋼矢板と外側鋼矢板が密接状態で配置される2種類の鋼矢板によって構成される二重鋼矢板が設けられており、当該二重鋼矢板とシールドマシンの切羽圧とによって側圧のバランスを確保した状態で外側鋼矢板を引き抜き、切羽を開放しないで、直接シールドマシンを発進到達させるようにしたことを特徴とするものである。
【0025】
本発明の第11の態様によれば、二重鋼矢板とシールドマシンの切羽圧とによって側圧のバランスが確保されているからシールドマシンの発進到達を別段の準備作業を講ずることなく直接実行することができ、トンネル施工コストの削減と工期の短縮を図ることができる。またシールドマシンの切羽を開放した状態での鏡切り作業が生じないため安全性も確保されている。
【0026】
本発明の第12の態様に係る二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法は、第11の態様において、前記シールドマシンの発進到達工法によってシールドマシンを発進用の立坑から発進させる場合には、シールドマシンの発進部位の周囲に坑口コンクリートを打設し、養生、固化後において坑口コンクリートの端面にパッキンを設置し、更にシールドマシンの発進部位に存する支保工を撤去した後シールドマシンを投入するシールドマシン投入工程と、発進部位に存する内側鋼矢板を溶断によって鏡切りして切除する内側鋼矢板切除工程と、内側鋼矢板とシールドマシンの切羽圧及び坑口コンクリートとパッキンとによって側圧のバランスを確保した状態で外側鋼矢板を引き抜く外側鋼矢板引抜き工程と、シールドマシンを作動させて発進立坑から発進させるシールドマシン発進工程とを備えていることを特徴とするものである。
本発明の第12の態様によれば、シールドマシンの発進を効率良く少ない工程で短時間に、しかも外部からの土砂等の流入を生じさせないで確実に行うことができる。
【0027】
本発明の第13の態様に係る二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法は、第11または第12の態様において、前記シールドマシンの発進到達部位に存する内側鋼矢板の鏡切り想定円と交わる連結ジョイントの部位には複数の溶断用切欠部が設けられており、当該一つの溶断用切欠部から内側鋼矢板の水平張出し部に沿う方向に炎を当てて途中他の溶断用切欠部を通過させながら上記鏡切り想定円上を溶断するようにしたことを特徴とするものである。
【0028】
本発明の第13の態様によれば、シールドマシンの発進到達部位に存する内側鋼矢板の連結ジョイントに予め溶断用切欠部が設けられているから外側鋼矢板に向けて炎を当てることなく内側鋼矢板の鏡切り作業を実行することができる。また溶断が困難な連結ジョイントの部位に溶断用切欠部を設けることにより内側鋼矢板の鏡切り作業を容易に短時間で行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、鋼矢板の形状と連結構造とを工夫することによって隙間なく密着状態で内側鋼矢板と外側鋼矢板を重ね合わせた二重鋼矢板を構築できる。また当該二重鋼矢板を使用することによってシールドマシンの発進到達部位における側圧に対する強度を向上させ、外部からの土砂等の流入を防止することができる。更にシールドマシンの発進到達に先立っての準備作業が簡略化されトンネル施工コストの削減と工期の短縮が図られ、鋼矢板の鏡切り作業が容易になり安全性も向上する。そして、このような種々の効果を奏する二重鋼矢板を使用した土留め構造体、二重鋼矢板の打設工法及び二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本願発明に係る二重鋼矢板を使用した土留め構造体、二重鋼矢板の打設工法及び二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法を実施するための最良の形態として下記の実施例を例にとって説明する。尚、本明細書において使用する連結伸張側(図中符号Sで示す)とは鋼矢板を継ぎ足して行く側を意味し、主に既に打設した鋼矢板について使用する。また連結側(図中符号Rで示す)とは連結対象となる鋼矢板が存在している側を意味し、主にこれから打設しようとする鋼矢板について使用する。また内方及び内側とは土留め構造体の内部を指し示す方向及び側を意味し、外方及び外側とは土留め構造体の外部を指し示す方向及び側を意味するものとする。
【0031】
また、以下の説明では、最初に二重鋼矢板を構成する各種の鋼矢板の構造を説明し、次いでこれらの鋼矢板を連結することによって形成される二重鋼矢板の構造と、当該二重鋼矢板をシールドマシンの発進到達部位に適用した立坑の側壁を形作っている土留め構造体の構造とについて説明する。そしてその後、二重鋼矢板の打設の手順と、シールドマシンの発進の手順との説明に併せて、本発明の二重鋼矢板の打設工法と二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法について説明する。
【0032】
[実施例]
(1)鋼矢板の構成(図2、図3参照)
図2、図3は二重鋼矢板を構成する各種の鋼矢板の構造を示しており、このうち図2は2種類の端部鋼矢板を示す平面図及び正面図、図3は2種類の中間鋼矢板を示す平面図及び正面図である。二重鋼矢板1は、複数枚の鋼矢板2を内外に密接状態で互い違いに重ね合わせるようにして連結することによって構成されている。そして、連結されている鋼矢板2のうち左端ないし右端に位置している鋼矢板2が端部鋼矢板3であり、中間に位置している鋼矢板2が中間鋼矢板4である。
【0033】
端部鋼矢板3は、凸字状ないし凹字状に折り曲げられた折曲げ成形部5と、折曲げ成形部5の両端を水平に張り出させた水平張出し部6とを有し、折曲げ成形部5の内天面7ないし内底面8には全長ガイドジョイント9、水平張出し部6の両端には、連結ジョイント10がそれぞれ設けられている。折曲げ成形部5は、水平張出し部6との接続部位で幅寸法が大きく内天面7ないし内底面8が形成されている部位で幅寸法が小さくなるように平面視台形状に折曲げ成形されている。
【0034】
水平張出し部6の長さは、上記折曲げ成形部5における内天面7ないし内底面8に連結される二枚の鋼矢板2における2つの水平張出し部6が完全に納まるように内天面7ないし内底面8の幅寸法の2分の1程度に設定されている。また連結ジョイント10は、フック状の部材で左右非対称の形状を有しており、一方の連結ジョイント10が開口部が一例として上向きで基端部に突起を有する突起付き連結ジョイント10A、他方の連結ジョイント10が開口部が一例として下向きで基端部に突起を有しない突起なし連結ジョイント10Bとなっている。そして、これらの折曲げ成形部5、水平張出し部6及び連結ジョイント10は、鋼矢板2の全長に亘って形成されている。
【0035】
また、全長ガイドジョイント9は、次に述べる中間鋼矢板4における連結ジョイント10と係合する係合案内部材であり、連結ジョイント10と同様、フック状を呈しており、図2(a)に示すように突起付き連結ジョイント10Aと係合するループ型全長ガイドジョイント9Aと、図2(b)に示すように突起なし連結ジョイント10Bと係合するリブ型全長ガイドジョイント9Bの2種類が存在している。そして、全長ガイドジョイント9は、端部鋼矢板3の折曲げ成形部5における内天面7ないし内底面8の中間付近に形成されており、連結ジョイント10と同様、鋼矢板2の全長に亘って鋼矢板2の長手方向に沿うように平行に延びている。尚、二枚設けられている端部鋼矢板3を識別する場合には、連結側R始端に位置するものを始端側端部鋼矢板3A、連結伸長側Sの終端に位置するものを終端側端部鋼矢板3Bとして両者を識別する。
【0036】
中間鋼矢板4は、上述の端部鋼矢板3と同様、折曲げ成形部5と、水平張出し部6と、連結ジョイント10とを備え、更に図3に示すように中間鋼矢板4の折曲げ成形部5における内天面7ないし内底面8には、先端ガイドジョイント11が設けられ、この先端ガイドジョイント11と干渉するおそれがある連結ジョイント10に対しては、回避用切欠部12が設けられている。
【0037】
先端ガイドジョイント11は、連結する上述の端部鋼矢板3ないし連結する他の中間鋼矢板4における連結ジョイント10と係合する係合案内部材であり、全長ガイドジョイント9と同様、フック状を呈しており、図3(a)に示すように突起付き連結ジョイント10Aと係合するループ型先端ガイドジョイント11Aと、図3(b)に示すように突起なし連結ジョイント10Bと係合するリブ型先端ガイドジョイント11Bの2種類が存在している。そして、先端ガイドジョイント11は、中間鋼矢板4の折曲げ成形部5における内天面7ないし内底面8の中間付近に形成されており、全長ガイドジョイント9とは異なり、鋼矢板2の挿入側先端部13のみに設けられている。
【0038】
また回避用切欠部12は、上述の先端ガイドジョイント11が設けられている中間鋼矢板4に対して連結される他の中間鋼矢板4の連結側Rの連結ジョイント10に対して形成されている。具体的には当該連結ジョイント10における挿入側先端部13に対して回避用切欠部12は設けられており、上述の先端ガイドジョイント11との干渉を回避するために設けられている。尚、後述するように鋼矢板2を二枚ずつ同時に打設する工法を採用した場合には、別段先端ガイドジョイント11による係合案内作用は不要であるので、先端ガイドジョイント11及び回避用切欠部12を省略した中間鋼矢板4も存在し得る。
【0039】
また、複数枚設けられる中間鋼矢板4を識別する場合には、打設する順番に従い、一枚目の中間鋼矢板を4A、二枚目、三枚目の中間鋼矢板を4B、4Cとし、終端から二番目の中間鋼矢板を4L、終端の中間鋼矢板を4M、終端の中間鋼矢板4Mと終端側端部鋼矢板3Bとの間に追加する中間鋼矢板を4Nとして識別する。
【0040】
(2)二重鋼矢板の構造(図6〜図9参照)
図6は二重鋼矢板を示す平面図(a)と正面図(b)、図7は二重鋼矢板を拡大して示す横断面図である。図8は二重鋼矢板の始端側の一部を更に拡大して示す横断面図、図9は二重鋼矢板の溶断部位を拡大して示す横断面図(a)と二重鋼矢板の端部固定部材周辺を拡大して示す側断面図(b)である。
【0041】
二重鋼矢板1は、上述の各種の鋼矢板2を使用して、これらを複数枚、内外に互い違いに半ピッチずつずらして密接状態で重ね合わせて連結することによって構成されている。そして、すべての鋼矢板2が連結された状態では内側と外側に連結された鋼矢板2が二重に存在するようになる。このうち内側に位置する連結された鋼矢板2を内側鋼矢板14、外側に位置する連結された鋼矢板2を外側鋼矢板15とする。
【0042】
内側鋼矢板14は、外側鋼矢板15より幾分長めに形成されていて、内側鋼矢板14の挿入側先端部13の外面には、内側鋼矢板14の外側に重ね合わされる外側鋼矢板15の挿入側先端部13を受け入れて固定する端部固定部材16が設けられている。端部固定部材16は、鉤状をした部材でその先端は上方を向いており、内側鋼矢板14の外面との間には外側鋼矢板15の板厚より幾分大きめの奥行寸法を有する受入開口17が形成されている。
【0043】
また、前記全長ガイドジョイント9と、この全長ガイドジョイント9と係合する連結ジョイント10との間と、上記端部固定部材16と外側鋼矢板15の挿入側先端部13との間には、図8及び図9(b)に示すように止水シール18が設けられている。止水シール18として一例として水膨脹シールが使用できる。
【0044】
また、内側鋼矢板14と外側鋼矢板15との間には耐火シート19が設けられており、内側鋼矢板14を溶断によって鏡切りする際、外側鋼矢板15を誤って一緒に溶断しないようにしている。耐火シート19はその機能を発揮する公知のものを使用できるが、厚さ1mm以下のステンレス材よりなるシートも使用可能である。
【0045】
この他、内側鋼矢板14には、図6(b)及び図9(a)に示すようにシールドマシン20の発進到達部位における鏡切り想定円21と交わる連結ジョイント10の部位には溶断用切欠部22が複数個所設けられている。そして、溶断時には図9(a)に示すように溶断用ガスバーナのノズル23を一つの溶断用切欠部22に入れ、当該溶断用切欠部22から内側鋼矢板14の水平張出し部6に沿う方向に炎に当てて、途中他の溶断用切欠部22を通過しながら鏡切り想定円21上を溶断して行く。
【0046】
外側鋼矢板15は、内側鋼矢板14より幾分短めに形成されていて、シールドマシン20の発進到達時には上方に引き抜くことができるようになっている。そして、このようにして構成される二重鋼矢板1の外形寸法を一例として示せば、ピッチ寸法Pが600mm、高さ寸法Hが200mm、厚さtが13mmである。従って、図17に示す従来の鋼矢板101を使用した場合に比べて土留め構造体24の側壁27の厚さを50mm薄くでき、間口寸法が1200mm当たり従来3枚の鋼矢板101を必要としていたのに対し、二枚の鋼矢板2で対応できるようになっている。また、前記のような鋼矢板2の形状、連結構造と上述のような外形寸法を採ることによって、本発明で使用する鋼矢板2は、従来の鋼矢板101に比べて断面係数ないし断面二次モーメントの値が格段に大きくなるため機械的強度が大幅に増強されている。
【0047】
(3)土留め構造体の構造(図4、図5参照)
図4は土留め構造体を一部破断して示す斜視図、図5は土留め構造体を示す平面図である。土留め構造体24は複数枚の鋼矢板2、101を一例として矩形枠状に連結しながら地盤G中に打設して行くことによって形成されている。そして、本実施例では土留め構造体24をトンネル施工に先立って構築される立坑26の側壁27として使用している。そして、本発明の土留め構造体24には、シールドマシン20の発進到達部位となる側壁27に上述の二重鋼矢板1が配置され、側圧に対する機械的強度の向上が図られている。また、シールドマシン20の発進到達部位以外の側壁27については、それほど大きな機械的強度を必要としないから、一例として従来の鋼矢板101を使用して従来の連結構造によって側壁27を形成した。
【0048】
(4)二重鋼矢板の打設工法(図10、図11、図16参照)
図10は鋼矢板を一枚ずつ打設する場合の二重鋼矢板の打設の手順を(a)〜(d)の4段階に分けて示す横断面図、図11は鋼矢板を二枚ずつ同時に打設する場合の二重鋼矢板の打設の手順を(a)〜(d)の4段階に分けて示すと共に、終端部の鋼矢板の他の打設手順(e)を併せ示す横断面図である。また図16は鋼矢板を一枚ずつ打設する場合に使用する圧入機(a)と鋼矢板を二枚同時に打設する場合にクレーンと共に使用される振動圧入機(b)を示す側面図である。以下(A)鋼矢板を一枚ずつ打設する場合と、(B)鋼矢板を二枚ずつ同時に打設する場合に分けて説明する。
【0049】
(A)鋼矢板を一枚ずつ打設する場合(図10、図16(a)参照)
内側鋼矢板14と外側鋼矢板15を一枚ずつ個別に打設する場合には、両端部では鋼矢板2の内天面7ないし内底面8に全長ガイドジョイント9が形成された端部鋼矢板3が使用され、中間部では鋼矢板2の内天面7ないし内底面8の挿入側先端部13のみに先端ガイドジョイント11が形成された中間鋼矢板4が使用される。また鋼矢板2の圧入装置として図16(a)に示すような圧入機28が使用される。
【0050】
圧入機28としては騒音の小さなサイレントパイラーが一例として適用できる。圧入機28は、打設した鋼矢板2の上端部をクランプして姿勢を保持するクランプ架台29と、クランプ架台29の先端寄りの上面から上方に立ち上げられている油圧駆動機構を備えた本体部30と、本体部30の前面に設けられ、打設する鋼矢板2の側胴部を挟持して所定ストロークずつ鋼矢板2を圧入することのできる圧入チャック部31とを備えている。そして、鋼矢板2を一枚ずつ個別に打設する場合に適用できる二重鋼矢板の打設工法は、(i)始端打設工程と、(ii)二次打設工程と、(iii)中間打設工程と、(iv)終端打設工程とを備えることによって構成されている。
【0051】
(i)始端打設工程(図10(a)参照)
始端打設工程では始端側端部鋼矢板3Aを地盤G中に打設する。この場合、既に始端側端部鋼矢板3Aと連結する他の鋼矢板2、101が打設されている場合には、当該鋼矢板2、101における連結伸張側Sの連結ジョイント10に始端側端部鋼矢板3Aの連結側Rの連結ジョイント10を係合させた状態で始端側端部鋼矢板3Aを打設する。
【0052】
(ii)二次打設工程(図10(b)参照)
二次打設工程では打設した始端側端部鋼矢板3Aにおける全長ガイドジョイント9と連結伸張側Sの連結ジョイント10に対して一枚目の中間鋼矢板4Aにおける連結側Rの連結ジョイント10と先端ガイドジョイント11をそれぞれ係合させて一枚目の中間鋼矢板4Aを互い違いに半ピッチずらした状態で打設する。本工程では全長ガイドジョイント9と先端ガイドジョイント11とによる係合案内作用によって一枚目の中間鋼矢板4Aは傾くことなく円滑且つ正確に打設される。
【0053】
(iii)中間打設工程(図10(c)参照)
中間打設工程では、始端側端部鋼矢板3Aにおける連結伸張側Sの連結ジョイント10と一枚目の中間鋼矢板4Aにおける連結伸張側Sの連結ジョイント10に対して二枚目の中間鋼矢板4Bにおける連結側Rの連結ジョイント10と先端ガイドジョイント11をそれぞれ係合させて、二枚目の中間鋼矢板4Bを互い違いに半ピッチずらした状態で打設し、更に三枚目以降の中間鋼矢板4C・・・・を同様に繰り返し打設する。この場合、先端ガイドジョイント11は、挿入側先端部13のみに設けられており、先端ガイドジョイント11と同一の部位に位置する連結ジョイント10には回避用切欠部12が形成されているから両者の干渉は生じない。
【0054】
(iv)終端打設工程(図10(d)参照)
終端打設工程では、上記中間打設工程によって打設した終端から二番目の中間鋼矢板4Lの連結伸張側Sの連結ジョイント10と終端に位置する中間鋼矢板4Mの連結伸張側Sの連結ジョイント10に対して、終端側端部鋼矢板3Bにおける連結側Rの連結ジョイント10と全長ガイドジョイント9をそれぞれ係合させて終端側端部鋼矢板3Bを互い違いに半ピッチずらした状態で打設する。この場合、既に終端側端部鋼矢板3Bと連結する他の鋼矢板2、101が打設されている場合には、当該鋼矢板2、101における連結側Rの連結ジョイント10に終端側端部鋼矢板3Bの連結伸張側Sの連結ジョイント10を係合させた状態で終端側端部鋼矢板3Bを打設する。
【0055】
(B)鋼矢板を二枚ずつ同時に打設する場合(図11、図16(b)参照)
内側鋼矢板14と外側鋼矢板15を二枚同時に打設する場合には、両端部では鋼矢板2の内天面7ないし内底面8に全長ガイドジョイント9が形成された端部鋼矢板3が使用され、中間部では鋼矢板2の水平張出し部6の先端に連結ジョイント10のみが形成され、先端ガイドジョイント11を有しない中間鋼矢板4が使用される。また、鋼矢板2の圧入装置として、図16(b)に示すようなクレーン32と共に使用される振動圧入機33が使用される。
【0056】
クレーン32は、打設した鋼矢板2の上端部をクランプして姿勢を保持するクランプ架台34を備えたクランプクレーンが一例として適用できる。クランプ架台34の前端部には、回動自在で伸縮自在のアーム35が設けられており、アーム35の先端部に振動圧入機33が接続されている。振動圧入機33は、内部に設けたバネ36の弾性反発力を利用して鋼矢板2を振動させながら所定ストロークずつ圧入できる装置である。従って、図16(a)に示す圧入機28より圧入力が大きく、二枚の鋼矢板2を同時に圧入することができる構造になっている。そして、鋼矢板2を二枚同時に打設する場合に適用できる二重鋼矢板の打設工法は(i)始端同時打設工程と、(ii)中間同時打設工程と、(iii)終端打設工程あるいは(iii)終端打設工程に代えて(iv)終端同時打設工程とを備えることによって構成されている。
【0057】
(i)始端同時打設工程(図11(a)参照)
始端同時打設工程では、始端側端部鋼矢板3Aにおける全長ガイドジョイント9に対して一枚目の中間鋼矢板4Aにおける連結側Rの連結ジョイント10を予め係合させ、互い違いに半ピッチずらして重ね合わせた状態で始端側端部鋼矢板3Aと一枚目の中間鋼矢板4Aとを同時に打設する。この場合、既に始端側端部鋼矢板3Aと連結する他の鋼矢板2、101が打設されている場合には、当該鋼矢板2、101における連結伸張側Sの連結ジョイント10に始端側端部鋼矢板3Aの連結側Rの連結ジョイント10を係合させた状態で始端側端部鋼矢板3Aと一枚目の中間鋼矢板4Aとを同時に打設する。
【0058】
(ii)中間同時打設工程(図11(b)(c)、図14(a)参照)
中間同時打設工程では、始端側端部鋼矢板3Aにおける連結伸張側Sの連結ジョイント10に対して二枚目の中間鋼矢板4Bにおける連結側Rの連結ジョイント10を係合させると共に、一枚目の中間鋼矢板4Aにおける連結伸張側Sの連結ジョイント10に対して三枚目の中間鋼矢板4Cにおける連結側Rの連結ジョイント10を係合させ、互い違いに半ピッチずらして重ね合わせた状態で二枚目と三枚目の中間鋼矢板4B、4Cを二枚ずつ同時に打設し、更に同様に後続の中間鋼矢板4D、4E・・・・を二枚ずつ同時に打設して行く。尚、同時に打設される内側鋼矢板14と外側鋼矢板15は、図14(a)に示すように予めボルト37によって一体に固定されているため、位置ずれを生じさせることなく一枚の鋼矢板14を打設するのと同様に打設される。
【0059】
(iii)終端打設工程(図11(d)参照)
終端打設工程では、上記中間同時打設工程によって打設した終端から二番目に位置する中間鋼矢板4Lの連結伸張側Sの連結ジョイント10と終端に位置する中間鋼矢板4Mの連結伸張側Sの連結ジョイント10に対して、終端側端部鋼矢板3Bにおける連結側Rの連結ジョイント10と全長ガイドジョイント9をそれぞれ係合させて、終端側端部鋼矢板3Bを互い違いに半ピッチずらした状態で打設する。この場合、既に終端側端部鋼矢板3Bと連結する他の鋼矢板2、101が打設されている場合には、当該鋼矢板2、101における連結側Rの連結ジョイント10に終端側端部鋼矢板3Bの連結伸張側Sの連結ジョイント10を係合させた状態で終端側端部鋼矢板3Bを打設する。
【0060】
(iv)終端同時打設工程(図11(e)参照)
前記中間同時打設工程によって打設した終端に位置する中間鋼矢板4Mと終端側端部鋼矢板3Bとの間に中間鋼矢板4Nをもう一枚打設したい場合には、上記終端打設工程に代えて終端同時打設工程を採用する。終端同時打設工程では、中間打設工程によって打設した終端から二番目に位置する中間鋼矢板4Lの連結伸張側Sの連結ジョイント10に対して追加する中間鋼矢板4Nにおける連結側Rの連結ジョイント10を係合させると共に、終端に位置する中間鋼矢板4Mの連結伸張側Sの連結ジョイント10に対して、終端側端部鋼矢板3Bにおける連結側Rの連結ジョイント10を係合させ、終端側端部鋼矢板3Bにおける全長ガイドジョイント9に対して、追加する中間鋼矢板4Nにおける連結側Rの連結ジョイント10を予め係合させ、互い違いに半ピッチずらして重ね合わせた状態で終端側端部鋼矢板3Bと追加する中間鋼矢板4Nとを同時に打設する。
【0061】
(5)二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法(図1、図12〜15参照)
図1はシールドマシンの発進途中の施工状態を示す側断面図である。図12は鋼矢板を一枚ずつ打設する場合のシールドマシンの発進の手順を6段階に分けた前半の3段階(a)〜(c)を示す側断面図、図13は同上、後半の3段階(a)〜(c)を示す側断面図である。図14は鋼矢板を二枚ずつ同時に打設する場合のシールドマシンの発進の手順を6段階に分けた前半の3段階(a)〜(c)を示す側断面図、図15は同上、後半の3段階(a)〜(c)を示す側断面図である。
【0062】
シールドマシンの発進到達工法は、複数枚の鋼矢板2を連結しながら内外に重ね合わせて地盤G中に打設して行くことによって形成される土留め構造体24によって形成される発進用の立坑26からシールドマシン20を発進させ、あるいは同様の構成の土留め構造体24によって形成される到達用の立坑26に対してシールドマシン20を到達させる工法である。そして、これらの立坑26の側壁27のうち、シールドマシン20の発進到達部位となる側壁27には上述の二重鋼矢板1が設けられており、この二重鋼矢板1とシールドマシン20の切羽38による推進圧とによって側圧のバランスを確保した状態で外側鋼矢板15を引き抜き、切羽38を開放しないで直接シールドマシン20を発進到達させることによって本発明のシールドマシンの発進到達工法は構成されている。
【0063】
シールドマシン20を発進させる場合を例にとって更に具体的に説明すると、本発明のシールドマシンの発進到達工法は、(i)シールドマシン投入工程と、(ii)内側鋼矢板切除工程と、(iii)外側鋼矢板引抜き工程と、(iv)シールドマシン発進工程とを備えることによって構成されている。以下(A)鋼矢板を一枚ずつ打設する場合と、(B)鋼矢板を二枚ずつ同時に打設する場合に分けて説明する。
【0064】
(A)鋼矢板を一枚ずつ打設する場合(図12、図13参照)
鋼矢板2を一枚ずつ打設する場合には、図12(a)に示すように、最初に内側鋼矢板14、次に外側鋼矢板15の順で鋼矢板2を一枚ずつ順番に打設する。また、外側鋼矢板15を打設する際には、内側鋼矢板14との間に耐火シート19を介在させ、外側鋼矢板15の挿入側先端部13が内側鋼矢板14に設けられている端部固定部材16の受入開口17に係止されるように打設する。そして、すべての鋼矢板2、101の打設が完了して土留め構造体24が構築されたところで、図12(b)に示すように土留め構造体24の内部の地盤Gを掘削し、底盤コンクリート39を打設し、養生、固化させた後、支保工40を設置して立坑26を完成させる。
【0065】
(i)シールドマシン投入工程(図12(c)参照)
シールドマシン投入工程では、シールドマシン20の発進部位の周囲に坑口コンクリート41を打設し、養生、固化させた後、坑口コンクリート41の端面にパッキン42を設置する。そして、シールドマシン20の発進部位に存する支保工40を撤去し、シールドマシン20を地上から降ろして立坑26内に投入し、シールドマシン20を所定の発進位置にセットする。
【0066】
(ii)内側鋼矢板切除工程(図9(a)、図13(a)参照)
内側鋼矢板切除工程では、シールドマシン20の切羽38を坑口コンクリート41とパッキン42とによって被覆した状態でガスバーナに溶断用のガスを供給し着火する。ガスバーナのノズル23を、図9(a)に示すように内側鋼矢板14における連結ジョイント10に予め形成されている溶断用切欠部22の一つに入れ、炎が内側鋼矢板14の水平張出し部6に沿う方向に向くようにして、途中、他の溶断用切欠部22を通過させながら鏡切り想定円21上をトレースするようにノズル23を移動させる。そして、このような形態で鏡切りすることにより、安全で誤って外側鋼矢板15を溶断したり傷付けたりすることなく、内側鋼矢板14のみを溶断して鏡切りした不要の内側鋼矢板14を切除することができる。
【0067】
(iii)外側鋼矢板引抜き工程(図13(b)参照)
外側鋼矢板引抜き工程では、内側鋼矢板14とシールドマシン20の切羽38の推進圧及び坑口コンクリート41とパッキン42とによって側圧のバランスを確保した状態で外側鋼矢板15を上方に引き抜く。この状態では図示のようにシールドマシン20が幾分前進しており、シールドマシン20の本体側胴部43にパッキン42が撓み変形しながら当接しているため立坑26の内部空間とは遮断されて側圧のバランスが確保されている。
【0068】
(iv)シールドマシン発進工程(図13(c)参照)
シールドマシン発進工程では、シールドマシン20を作動状態とし、シールドマシン20を所定の速度で推進させながら切羽38を回転させてシールドマシン20を発進用の立坑26から発進させる。尚、この状態でも上記の側圧のバランスはそのまま保たれているから、従来のように地盤改良を行ったり防護工を設置することなく、直接シールドマシン20を発進させることが可能である。
【0069】
(B)鋼矢板を二枚ずつ同時に打設する場合(図14、図15参照)
鋼矢板2を二枚ずつ同時に打設する場合には、内側鋼矢板14と外側鋼矢板15との間に耐火シート19を介在させ、図14(a)に示すように内側鋼矢板14と外側鋼矢板15をボルト37によって固定し、一体化させた状態で地盤G中に打設する。また、図示の実施例では、外側鋼矢板15を内側鋼矢板14よりかなり短めに形成し、内側鋼矢板14の上部に鉄筋44を連結する構成を採用している。そして、すべての鋼矢板2、101の打設が完了して土留め構造体24が構築されたところで、図14(b)に示すように土留め構造体24の内部の地盤Gを掘削し、底盤コンクリート39を打設し、養生、固化させた後、支保工40を設置する。内側鋼矢板14と外側鋼矢板15を固定していたボルト37を撤去すれば立坑26が完成する。
【0070】
そして、前記(A)鋼矢板を一枚ずつ打設する場合と同様の(i)シールドマシン投入工程(図14(c)参照)と、(ii)内側鋼矢板切除工程(図9(a)、図15(a)参照)と、(iii)外側鋼矢板引抜き工程(図15(b)参照)と、(iv)シールドマシン発進工程(図15(c)参照)とを順次実行することによって、地盤改良を行ったり防護工を設置することなく、直接シールドマシン20を発進させることが可能になるのである。
【0071】
[他の実施例]
本願発明に係る二重鋼矢板1を使用した土留め構造体24、二重鋼矢板1の打設工法及び二重鋼矢板1を使用したシールドマシン20の発進到達工法は、以上述べたような構成を基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的な構成の変更や省略等を行うことも勿論可能である。例えば土留め構造体24は、立坑26のように筒状の構造枠体として形成される他、河川や傾斜地の法面工事等にも使用される衝立状の構造枠体としても使用可能である。また土留め構造体24の一部だけでなく土留め構造体24のすべてを二重鋼矢板1によって構成することも可能であるし、二重鋼矢板1を採用しない部位の鋼矢板2として二重鋼矢板1において使用した形状、大きさ及び連結構造の鋼矢板2を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本願発明は、立坑の建設現場やシールド工事の施工現場等において鋼矢板を使用して容易に、正確に効率良く土留め構造体を構築したい場合やシールドマシンの発進到達作業を容易に、安全に、短期間に低コストで実行したい場合に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】シールドマシンの発進途中の施工状態を示す側断面図である。
【図2】2種類の端部鋼矢板を示す平面図及び正面図である。
【図3】2種類の中間鋼矢板を示す平面図及び正面図である。
【図4】土留め構造体を一部破断して示す斜視図である。
【図5】土留め構造体を示す平面図である。
【図6】二重鋼矢板を示す平面図(a)と正面図(b)である。
【図7】二重鋼矢板を拡大して示す横断面図である。
【図8】二重鋼矢板の始端側の一部を更に拡大して示す横断面図である。
【図9】二重鋼矢板の溶断部位を拡大して示す横断面図(a)と二重鋼矢板の端部固定部材周辺を拡大して示す側断面図(b)である。
【図10】鋼矢板を一枚ずつ打設する場合の二重鋼矢板の打設の手順を(a)〜(d)の4段階に分けて示す横断面図である。
【図11】鋼矢板を二枚ずつ同時に打設する場合の二重鋼矢板の打設の手順を(a)〜(d)の4段階に分けて示すと共に、終端部の鋼矢板の他の打設手順(e)を併せ示す横断面図である。
【図12】鋼矢板を一枚ずつ打設する場合のシールドマシンの発進の手順を6段階に分けた前半の3段階(a)〜(c)を示す側断面図である。
【図13】鋼矢板を一枚ずつ打設する場合のシールドマシンの発進の手順を6段階に分けた後半の3段階(a)〜(c)を示す側断面図である。
【図14】鋼矢板を二枚ずつ同時に打設する場合のシールドマシンの発進の手順を6段階に分けた前半の3段階(a)〜(c)を示す側断面図である。
【図15】鋼矢板を二枚ずつ同時に打設する場合のシールドマシンの発進の手順を6段階に分けた後半の3段階(a)〜(c)を示す側断面図である。
【図16】鋼矢板を一枚ずつ打設する場合に使用する圧入機(a)と鋼矢板を二枚ずつ同時に打設する場合にクレーンと共に使用される振動圧入機(b)を示す側面図である。
【図17】従来の鋼矢板の径状、外形寸法及び連結構造を示す平面図である。
【図18】シールドマシンの発進に先立って地盤改良を施した従来のシールドマシンの発進到達工法を示す側断面図である。
【図19】シールドマシンの発進に先立って防護工を設置した従来のシールドマシンの発進到達工法を示す側断面図である。
【図20】立坑の側壁として二重鋼矢板を適用した従来の土留め構造体の構造を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 二重鋼矢板、2 鋼矢板、3 端部鋼矢板、3A 始端側端部鋼矢板、
3B 終端側端部鋼矢板、4 中間鋼矢板、4A 一枚目の中間鋼矢板、
4B 二枚目の中間鋼矢板、4C 三枚目の中間鋼矢板、
4L 終端から二番目の中間鋼矢板、4M 終端の中間鋼矢板、
4N 追加する中間鋼矢板、5 折曲げ成形部、6 水平張出し部、7 内天面、
8 内底面、9 全長ガイドジョイント、9A ループ型全長ガイドジョイント、
9B リブ型全長ガイドジョイント、10 連結ジョイント、
10A 突起付き連結ジョイント、10B 突起なし連結ジョイント、
11 先端ガイドジョイント、11A ループ型先端ガイドジョイント、
11B リブ型先端ガイドジョイント、12 回避用切欠部、13 挿入側先端部、
14 内側鋼矢板、15 外側鋼矢板、16 端部固定部材、17 受入開口、
18 止水シール、19 耐火シート、20 シールドマシン、21 鏡切り想定円、
22 溶断用切欠部、23 (溶断ガスバーナの)ノズル、24 土留め構造体、
26 立坑、27 側壁、28 圧入機、29 クランプ架台、30 本体部、
31 圧入チャック部、32 クレーン、33 振動圧入機、34 クランプ架台、
35 アーム、36 バネ、37 ボルト、38 切羽、39 底盤コンクリート、
40 支保工、41 坑口コンクリート、42 パッキン、43 本体側胴部、
44 鉄筋、101 (従来の)鋼矢板、S 連結伸張側、R 連結側、
P ピッチ寸法、H 高さ寸法、t 厚さ、G 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の鋼矢板を連結しながら地盤中に打設して行くことによって形成される土留め用の構造体であって、
前記構造体の少なくとも一部には鋼矢板を内外に密接状態で重ね合わせて配置した二重鋼矢板が設けられており、当該二重鋼矢板は内側鋼矢板と外側鋼矢板とによって構成されていて、これら2種類の鋼矢板は凸字状ないし凹字状に折り曲げられた折曲げ成形部と、当該折曲げ成形部の両端を水平に張り出させ、先端に連結ジョイントが設けられた水平張出し部とを有しており、連結される一方の鋼矢板の折曲げ成形部における内天面ないし内底面に対し、連結される他方の鋼矢板の水平張出し部が位置するように互い違いに半ピッチずつずらして配置することによって構成したことを特徴とする二重鋼矢板を使用した土留め構造体。
【請求項2】
請求項1において、前記連結された二重鋼矢板のうち両端に位置する端部鋼矢板の内天面ないし内底面には、鋼矢板の全長に亘って平行に延び、前記連結ジョイントと係合する全長ガイドジョイントが設けられていることを特徴とする二重鋼矢板を使用した土留め構造体。
【請求項3】
請求項1または2において、前記連結された二重鋼矢板のうち中間に位置する中間鋼矢板の内天面ないし内底面には、鋼矢板の挿入側先端部のみに前記連結ジョイントと係合する先端ガイドジョイントが設けられていることを特徴とする二重鋼矢板を使用した土留め構造体。
【請求項4】
請求項3において、前記先端ガイドジョイントが設けられている中間鋼矢板に対して連結される他の中間鋼矢板の連結側の連結ジョイントにおける挿入側先端部には前記先端ガイドジョイントとの干渉を回避するための回避用切欠部が形成されていることを特徴とする二重鋼矢板を使用した土留め構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、前記内側鋼矢板の挿入側先端部の外面には当該内側鋼矢板の外側に重ね合わされる外側鋼矢板の挿入側先端部を受け入れて固定する端部固定部材が設けられていることを特徴とする二重鋼矢板を使用した土留め構造体。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項において、前記全長ガイドジョイントと当該全長ガイドジョイントと係合する連結ジョイントとの間ないし前記端部固定部材と外側鋼矢板の挿入側先端部との間、あるいはこれらの双方には止水シールが設けられていることを特徴とする二重鋼矢板を使用した土留め構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、前記内側鋼矢板と外側鋼矢板との間には、耐火シートが設けられていることを特徴とする二重鋼矢板を使用した土留め構造体。
【請求項8】
複数枚の鋼矢板を連結しながら内外に重ね合わせて地盤中に打設して行く二重鋼矢板の打設工法であって、
前記二重鋼矢板は凸字状ないし凹字状に折り曲げられた折曲げ成形部と、当該折曲げ成形部の両端を水平に張り出させ、先端に連結ジョイントが設けられた水平張出し部とをそれぞれ有する内側鋼矢板と外側鋼矢板が密接状態で配置される2種類の鋼矢板によって構成されており、
前記内側鋼矢板と外側鋼矢板を一枚ずつ個別に打設する場合には、両端部では鋼矢板の内天面ないし内底面に全長に亘って平行に延びる全長ガイドジョイントが形成された端部鋼矢板が使用され、中間部では鋼矢板の内天面ないし内底面の挿入側先端部のみに先端ガイドジョイントが形成された中間鋼矢板が使用されるものであって、
一方の端部鋼矢板を地盤中に打設する始端打設工程と、上記一方の端部鋼矢板における全長ガイドジョイントと連結伸張側の連結ジョイントに対して一枚目の中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントと先端ガイドジョイントをそれぞれ係合させて当該一枚目の中間鋼矢板を互い違いに半ピッチずらした状態で打設する二次打設工程と、上記一方の端部鋼矢板における連結伸張側の連結ジョイントと前記一枚目の中間鋼矢板における連結伸張側の連結ジョイントに対して二枚目の中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントと先端ガイドジョイントをそれぞれ係合させて当該二枚目の中間鋼矢板を互い違いに半ピッチずらした状態で打設し、更に三枚目以降の中間鋼矢板を同様に繰り返し打設する中間打設工程と、上記中間打設工程によって打設した終端から二番目に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントと終端に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントに対して他方の端部鋼矢板における連結側の連結ジョイントと全長ガイドジョイントをそれぞれ係合させて当該他方の端部鋼矢板を互い違いに半ピッチずらした状態で打設する終端打設工程とを備えていることを特徴とする二重鋼矢板の打設工法。
【請求項9】
複数枚の鋼矢板を連結しながら内外に重ね合わせて地盤中に打設して行く二重鋼矢板の打設工法であって、
前記二重鋼矢板は凸字状ないし凹字状に折り曲げられた折曲げ成形部と、当該折曲げ成形部の両端を水平に張り出させ、先端に連結ジョイントが設けられた水平張出し部とをそれぞれ有する内側鋼矢板と外側鋼矢板が密接状態で配置される2種類の鋼矢板によって構成されており、
前記内側鋼矢板と外側鋼矢板を二枚同時に打設する場合には、両端部では鋼矢板の内天面ないし内底面に全長に亘って平行に延びる全長ガイドジョイントが形成された端部鋼矢板が使用され、中間部では鋼矢板の水平張出し部の先端に連結ジョイントのみが形成された中間鋼矢板が使用されるものであって、
一方の端部鋼矢板における全長ガイドジョイントに対して一枚目の中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントを予め係合させ、互い違いに半ピッチずらして重ね合わせた状態で一方の端部鋼矢板と一枚目の中間鋼矢板とを同時に打設する始端同時打設工程と、上記一方の端部鋼矢板における連結伸張側の連結ジョイントに対して二枚目の中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントを係合させると共に、一枚目の中間鋼矢板における連結伸張側の連結ジョイントに対して三枚目の中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントを係合させ、互い違いに半ピッチずらして重ね合わせた状態で二枚目と三枚目の中間鋼矢板を二枚ずつ同時に打設し、更に同様に後続の中間鋼矢板を二枚ずつ同時に打設して行く中間同時打設工程と、上記中間打設工程によって打設した終端から二番目に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントと終端に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントに対して他方の端部鋼矢板における連結側の連結ジョイントと全長ガイドジョイントをそれぞれ係合させて当該他方の端部鋼矢板を互い違いに半ピッチずらした状態で打設する終端打設工程とを備えていることを特徴とする二重鋼矢板の打設工法。
【請求項10】
請求項9において、前記中間打設工程によって打設した終端に位置する中間鋼矢板と他方の端部鋼矢板との間に中間鋼矢板をもう一枚打設したい場合には、上記終端打設工程に代えて上記中間打設工程によって打設した終端から二番目に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントに対して、追加する中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントを係合させると共に、終端に位置する中間鋼矢板の連結伸張側の連結ジョイントに対して他方の端部鋼矢板における連結側の連結ジョイントを係合させ、他方の端部鋼矢板における全長ガイドジョイントに対して追加する中間鋼矢板における連結側の連結ジョイントを予め係合させ、互い違いに半ピッチずらして重ね合わせた状態で他方の端部鋼矢板と追加する中間鋼矢板とを同時に打設する終端同時打設工程を備えるようにしたことを特徴とする二重鋼矢板の打設工法。
【請求項11】
複数枚の鋼矢板を連結しながら内外に重ね合わせて地盤中に打設して行くことによって形成される発進用の立坑からシールドマシンを発進させ、あるいは同様の構成の到達用の立坑に対してシールドマシンを到達させるシールドマシンの発進到達工法であって、
前記発進用の立坑ないし到達用の立坑を構成する連結された鋼矢板のうち少なくともシールドマシンの発進到達部位に存する鋼矢板には凸字状ないし凹字状に折り曲げられた折曲げ成形部と、当該折曲げ成形部の両端を水平に張り出させ、先端に連結ジョイントが設けられた水平張出し部とをそれぞれ有する内側鋼矢板と外側鋼矢板が密接状態で配置される2種類の鋼矢板によって構成される二重鋼矢板が設けられており、当該二重鋼矢板とシールドマシンの切羽圧とによって側圧のバランスを確保した状態で外側鋼矢板を引き抜き、切羽を開放しないで、直接シールドマシンを発進到達させるようにしたことを特徴とする二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法。
【請求項12】
請求項11において、前記シールドマシンの発進到達工法によってシールドマシンを発進用の立坑から発進させる場合には、シールドマシンの発進部位の周囲に坑口コンクリートを打設し、養生、固化後において坑口コンクリートの端面にパッキンを設置し、更にシールドマシンの発進部位に存する支保工を撤去した後シールドマシンを投入するシールドマシン投入工程と、発進部位に存する内側鋼矢板を溶断によって鏡切りして切除する内側鋼矢板切除工程と、内側鋼矢板とシールドマシンの切羽圧及び坑口コンクリートとパッキンとによって側圧のバランスを確保した状態で外側鋼矢板を引き抜く外側鋼矢板引抜き工程と、シールドマシンを作動させて発進立坑から発進させるシールドマシン発進工程とを備えていることを特徴とする二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法。
【請求項13】
請求項11または12において、前記シールドマシンの発進到達部位に存する内側鋼矢板の鏡切り想定円と交わる連結ジョイントの部位には複数の溶断用切欠部が設けられており、当該一つの溶断用切欠部から内側鋼矢板の水平張出し部に沿う方向に炎を当てて途中他の溶断用切欠部を通過させながら上記鏡切り想定円上を溶断するようにしたことを特徴とする二重鋼矢板を使用したシールドマシンの発進到達工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−257826(P2006−257826A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79957(P2005−79957)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】