説明

五淋散エキス配合製剤

【課題】優れた膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を有する、五淋散エキス配合製剤を提供する。
【解決手段】1日投与単位あたり(A)バイカリン75〜300mg、(B)グリチルリチン酸又はその塩10〜75mgを含有する五淋散エキス配合製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイカリンと、グリチルリチン酸又はその塩を所定量含有する五淋散エキス配合製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
五淋散は、膀胱及び尿道の炎症性疾患で、症状のそれほど強くない例に広く使用できる可能性が示唆されている漢方薬の処方である。より具体的には、五淋散は、膀胱及び尿道の炎症性疾患において、膀胱、尿道などに違和感があり、それに伴って小便が近くなり、一回の尿量が少なくなったり、排尿痛や残尿感を生じる際の治療薬として使用される(例えば非特許文献1及び2を参照)。五淋散は、前記膀胱及び尿道の炎症性疾患の各種症状に対して幅広く使用できることが知られてはいるが、その対象となるものは症状が軽いものに限られ、すなわち効果が不十分であるという問題点があった。
【0003】
また、漢方の分野においては、原料となる生薬の配合割合については規定があるものの、最終的に得られる漢方製剤に含有される各有効成分の量については明確な規定がないのが現状である。従って、原料となる生薬の産地、収穫時期等によって原料自体の品質にバラツキがあるために、調製される漢方製剤中の有効成分量が一定に保持されていないという問題があった。また、抽出条件の調整によって原料生薬から抽出される有効成分量は大きく変動し、これらの作業は調合者の裁量に委ねられているため、漢方製剤の品質が調合者によって異なることも問題となっていた(例えば非特許文献3及び4を参照)。
【0004】
これらの背景から、膀胱の炎症抑制効果等に優れた五淋散、及びこのような効果が十分に奏され得る五淋散を安定的に提供できることが求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】臨床応用 Vol.9 ,No.5(1990) 15−17頁
【非特許文献2】月刊薬事 Vol. 29, No. 9 (1987) 177−179頁
【非特許文献3】月刊薬事 Vol. 27, No. 6 (1985) 1927−1933頁
【非特許文献4】臨床薬理 21, 1, (1990) 305−310頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、細菌感染による膀胱の炎症、及び膀胱の炎症に伴う頻尿に対して優れた治療効果を有する五淋散エキス配合製剤、ならびに当該五淋散エキス配合製剤の製造方法を提供することを主な目的とする。また、本発明は前記効果を奏し得る五淋散エキス配合製剤を安定的に供給するための品質の管理方法をも提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、バイカリン及びグリチルリチン酸を特定の配合割合で含有する五淋散エキス配合製剤は、細菌感染を原因とする膀胱の炎症性疾患に対して顕著に優れた治療効果を有することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果完成されたものである。
【0008】
本発明は、以下の五淋散エキス配合製剤及びその製造方法を提供するものである。
項1.1日投与単位あたり(A)バイカリン75〜300mg、(B)グリチルリチン酸又はその塩10〜75mgを含有する五淋散エキス配合製剤。
項2.膀胱炎治療用である項1記載の五淋散エキス配合製剤。
項3.膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を備えた五淋散エキス配合製剤の製造方法であって、1日投与単位あたりの前記製剤中のバイカリン及びグリチルリチン酸又はその塩が、
(a)バイカリン75〜300mg、
(b)グリチルリチン酸に換算して10〜75mg、
となるように調整することを特徴とする方法。
項4.膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を備えた五淋散エキス配合製剤の品質管理方法であって、
前記製剤中の(A)バイカリン及び(B)グリチルリチン酸の量を測定し、
1日投与単位あたりの前記製剤中のバイカリン及びグリチルリチン酸又はその塩が、
(a)バイカリン75〜300mg、及び
(b)グリチルリチン酸に換算して10〜75mg、
であることを指標とし、
前記指標(a)及び(b)に基づいて、前記製剤が膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を備えていることを判断する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の五淋散エキス配合製剤は、特定量のバイカリンとグリチルリチン酸を含有し、細菌感染による膀胱の炎症抑制効果、及び膀胱の炎症に伴う頻尿を抑制する効果に優れた製剤である。また、本発明の製剤は、細菌感染による膀胱の炎症に伴う残尿感、排尿痛等の症状の改善作用にも優れている。従って、本発明の五淋散エキス配合製剤は、従来は十分な症状の改善が望めなかった膀胱炎に対しても顕著に優れた治療効果を奏する。また、本発明の製剤は排尿量に影響を与えることはなく、安全に適用できるものである。
【0010】
さらに、本発明の五淋散エキス配合製剤の製造方法によれば、上記優れた効果を奏する五淋散エキス配合製剤を簡便に調製することができる。
【0011】
また、本発明の五淋散エキス配合製剤の品質管理方法によれば、バイカリン及びグリチルリチン酸の含有量を指標として、上記優れた効果を奏する五淋散エキス配合製剤を安定的に供給することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.五淋散エキス配合製剤
本発明の五淋散エキス配合製剤は、五淋散エキスを含有し、且つ最終製剤中の(A)成分:バイカリンと(B)成分:グリチルリチン酸又はその塩が所定の配合量を充足することを特徴とする。以下、各成分について詳述する。
【0013】
(A)成分:バイカリン
バイカリンは、ゴマノハグサ科コガネバナ(学名Scutellaria baicalensis Georgi)の根(オウゴン)に含まれるフラボン誘導体であり、利胆、利尿、抗炎症作用を有することが知られている。
【0014】
(B)成分:グリチルリチン酸
グリチルリチン酸は、カンゾウ(学名Glycyrrhiza)に含まれる成分であり、抗炎症作用を有していることが知られている。本発明においては(B)成分として、グリチルリチン酸の薬学的に許容される塩を用いることもでき、このような塩としては例えばグリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルリチン酸ナトリウム等が挙げられる。なお、カンゾウ中には、グリチルリチン酸は遊離酸及び塩の両方の形態で存在する。本発明の(B)成分としてグリチルリチン酸の塩を用いた場合の含有量は、グリチルリチン酸として換算する。
【0015】
五淋散エキス
五淋散エキスの植物原料は、オウゴン、カンゾウ、シャクヤク、タクシャ、ブクリョウ、トウキ、サンシン、ジオウ、モクツウ、カッセキおよびシャゼンシである。
【0016】
これらの植物原料は、日本薬局方に準じて使用部位が規定されている。本発明において
使用し得る五淋散の調製は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行(昭和50年4月1日発行))に準じて行うことができる。
【0017】
たとえば、「一般用漢方処方の手引き」によれば、その成分および分量(乾燥重量)は、ブクリョウ5〜6、トウキ3、オウゴン3、カンゾウ3、シャクヤク2、サンシシ2、ジオウ3、タクシャ3、モクツウ3、カッセキ3、シャゼンシ3とされており、原則として、これを、その10倍重量の湯で抽出した後、1/2容量になるまで濃縮し、固形分を除いたもの(エキス)が用いられる。
【0018】
また、ジオウ、モクツウ、カッセキおよびシャゼンシを含まないなど、成分や成分比が多少異なるものや製造方法が多少異なるものもあるが、本発明において使用される五淋散エキスには、これらの差異は特に制限されず、いずれもが包含される。
【0019】
本発明において使用される五淋散エキスには、漢方生薬調査会により定められた「漢方製剤の基本的取扱い方針」に規定されるように、現在繁用されている漢方関係の書簡に記載されている漢方処方(生薬配合物)やこれらの漢方処方から得られるエキスおよびエキス末が包含される。すなわち、本発明において五淋散エキスは、前記調製方法によって得られたエキス(エキス形態)を使用してもよく、エキスを常法により製剤化した、いわゆるエキス末(エキス末形態)を使用してもよい。通常、エキス末形態の五淋散がむしろ便宜に使用される。五淋散エキス末の調製方法としては、例えば前述の方法によって得られた抽出液を減圧下で濃縮し、スプレードライ法により乾燥エキスとする、エキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする等の方法が挙げられる。
【0020】
五淋散エキスには、オウゴン由来の上記(A):バイカリン、カンゾウ由来の上記(B):グリチルリチン酸又はその塩が含有されている。本発明の製剤は、(A)成分:バイカリンを五淋散エキス配合製剤の1日投与単位あたり75〜300mg、好ましくは80〜250mg、より好ましくは80〜150mg;且つ、(B)成分:グリチルリチン酸を五淋散エキス配合製剤の1日投与単位あたり10〜75mg、好ましくは10〜40mg含有されるように調製される。五淋散において(A)バイカリン及び(B)グリチルリチン酸の含有量をこの範囲内に規定することで、細菌感染による膀胱の炎症抑制効果に優れ、膀胱の炎症に伴う頻尿を抑制する効果、残尿感、排尿痛等の症状の改善効果にも優れることから、膀胱炎治療用として優れた製剤とすることができる。
【0021】
本発明の製剤における上記(A)成分と(B)成分の含有比率は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、製剤中の(A)成分と(B)成分の含有比率は、(A)成分1重量部に対して(B)成分0.03〜1重量部、好ましくは0.04〜0.5重量部である。
【0022】
本発明の五淋散エキス配合製剤中の上記(A)成分及び(B)成分の含有量は、HPLC等の従来公知の方法によって測定、確認することができる。具体的には、バイカリンは、第十五改正日本薬局方解説書(生薬等)D-71−D-76頁「オウゴン」の定量法に従い、また、グリチルリチン酸又はその塩は、第十五改正日本薬局方解説書(生薬等)D-142−D-151頁「カンゾウ」の定量法に従い測定できる。
【0023】
本発明の製剤は、1日投与単位あたり(A)バイカリンを75〜300mg、且つ(B)グリチルリチン酸を10〜75mg含有し、(A)成分1重量部に対する(B)成分の配合比率が0.03〜1であることが好ましく、1日投与単位あたり(A)バイカリンを80〜250mg、且つ(B)グリチルリチン酸を10〜40mg含有し、(A)成分1重量部に対する(B)成分の配合比率が0.04〜0.5であることがより好ましい。このような配合割合を充足することによって、より一層本発明の効果が顕著に奏される。
【0024】
五淋散エキスの調製方法は、(A)成分及び(B)成分が上記含有量及び含有比率を満たす限り、前述のように従来の方法に従えばよいが、(A)成分及び(B)成分の含有量及び含有比率を範囲内とするために各条件を調整してもよい。具体的には、オウゴン及びカンゾウの剪断方法を調整する(細かく又は荒く刻む)、オウゴン及びカンゾウの産地や収穫時期を選別する、抽出溶媒を調整する、抽出温度を調整する、抽出時間を調整する、抽出回数を増減させる、濃縮方式、乾燥方式を選択する、また(A)成分及び(B)成分が濃い五淋散エキスと薄い五淋散エキスを混合する等の方法が例示される。これらの方法によって、(A)成分及び(B)成分の収率や含有量を調整し、得られた五淋散エキス中の両成分の含有量を確認して、本発明の製剤を調製することができる。また、(A)成分及び(B)成分が上記含有量及び含有比率となるように、例えば、和光純薬工業株式会社より商業的に入手可能な、バイカリンやグリチルリチン酸(又はその塩)の純品を外添してもよい。
【0025】
(1-2)その他の成分
本発明の製剤は、上記五淋散エキスに加えて、薬学的に許容される賦形剤、担体等と共に、従来公知の方法に従って、各種剤型に調製することができる。剤型としては、例えば、液剤(シロップ等を含む)等の液状製剤(懸濁剤を含む)や、錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤形態の経口製剤が挙げられる。
【0026】
本発明の製剤が液状製剤である場合は、凍結保存することもでき、また凍結乾燥等により水分を除去して保存してもよい。凍結乾燥製剤やドライシロップ等は、使用時に滅菌水等を加え、再度溶解して使用される。
【0027】
固形剤として本発明の製剤を調製する場合、例えば、錠剤の場合であれば、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用することができる。このような担体としては、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、カルメロースカルシウム、アルギン酸ナトリウム等の結合剤;乾燥デンプン、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、クロスポビドン、ポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、等の崩壊剤;ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン等保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。さらに錠剤は、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。また、前記五淋散エキスを、ゼラチン、プルラン、デンプン、アラビアガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等を原料とする従来公知のカプセルに充填して、カプセル剤とすることができる。
【0028】
また、丸剤の形態に調製する場合は、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0029】
上記以外に、添加剤として、例えば、界面活性剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節する塩を、得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択し使用することができる。
【0030】
また、アミノ酸、ビタミン類、無機塩類等の他の活性成分を含有させても良い。他の活性成分としては、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、システイン、シスチン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒドロキシリジン、アルギニン、オルニチン、ヒスチジン等のアミノ酸;ビタミンA1、ビタミンA2、カロチン、リコピン(プロビタミンA)、ビタミンB6、ビタミンB1、ビタミンB2、アスコルビン酸、ニコチン酸アミド、ビオチン等のビタミン類;塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩や、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩等の無機塩類が挙げられる。
【0031】
本発明の製剤は、当該分野における通常の方法を用いて散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤などの各種形態に調製することができ、例えば、錠剤は、(A)成分及び(B)成分の含有量を調整した五淋散エキス及びその他錠剤を得るために必要な賦形剤等を適宜添加し、よく混合分散させたのち打錠して得ることができる。また、散剤を調製する場合は、(A)成分及び(B)成分を調整した五淋散エキス及びその他散剤を得る為に必要な賦形剤等を適宜添加し、好適な方法にて粉体化して得ることができる。
【0032】
本発明の五淋散エキス配合製剤を各種剤型に調製した場合の1日あたりの投与量は、患者の状態や症状の程度によって適宜変更され得るが、大人1人に対し、バイカリン量に換算して75〜300mg、グリチルリチン酸量に換算して10〜75mgになるように設定される。また、本発明の製剤は、通常一日1〜3回に分けて経口投与の形態で用いられる。服用時刻は、特に限定されないが、食前または食間が好ましい。
【0033】
成分(A)及び(B)を所定量含有することを特徴とする本発明の五淋散エキス配合製剤は、顕著に優れた細菌性の膀胱の炎症を抑制する効果、及びそれに伴う頻尿の抑制効果を発揮する。さらに、本発明の製剤は、細菌性の膀胱の炎症を抑制することから、細菌性の膀胱の炎症に伴って生じる、残尿感、排尿痛等の症状をも改善し得るものである。本発明の製剤は、これらの作用に基づいて、特に膀胱炎の治療に顕著に優れた効果を発揮する。
【0034】
2.五淋散エキス配合製剤の製造方法
本発明の五淋散エキス配合製剤の製造方法は、上記五淋散エキス配合製剤を簡便に調製するための方法である(『本発明の製造方法』と略記することがある)。
【0035】
すなわち、本発明は、膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を備えた五淋散エキス配合製剤の製造方法であって、1日投与単位あたりの前記製剤中のバイカリン及びグリチルリチン酸又はその塩が、
(a)バイカリン75〜300mg、
(b)グリチルリチン酸に換算して10〜75mg、
となるように調整することを特徴とする方法を提供する。
【0036】
本発明の製造方法によって得られた五淋散エキス配合製剤中の各成分の含有量は、上記のように日本薬局方に記載の方法に従って測定し、確認することができる。
【0037】
測定の結果、製剤中の(A)成分及び(B)成分の含有量及び含有率が上記範囲から外れる場合には、例えば、上記所定の含有量を超える濃い五淋散エキスと、上記所定の含有量に満たない薄い五淋散エキスを混合して、本発明の含有量となるように調整してもよい。
【0038】
五淋散、バイカリン、グリチルリチン酸及び担体等の他の成分については上述の通りである。
【0039】
3.五淋散エキス配合製剤の品質管理方法
本発明は、膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を備えた五淋散エキス配合製剤を安定に提供するための、五淋散エキス配合製剤の品質管理方法を提供する(以下、『本発明の品質管理方法と』略記することがある)。
【0040】
本発明の品質管理方法は、五淋散エキス配合製剤中の(A)バイカリン及び(B)グリチルリチン酸又はその塩を、上述の日本薬局方に記載の方法によって測定し、1日投与単位あたりの前記製剤中のバイカリン及びグリチルリチン酸又はその塩が、
(a)バイカリン75〜300mg、及び
(b)グリチルリチン酸に換算して10〜75mg、
であることを指標とし、
前記指標(a)及び(b)に基づいて、前記製剤が膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を備えていることを判断する方法である。
【0041】
すなわち、測定されたバイカリンとグリチルリチン酸の含有量が前記指標(a)及び(b)の範囲内であれば、五淋散エキス配合製剤が、優れた膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を有しており、当該製剤は適合品と判断することができる。一方、バイカリンとグリチルリチン酸の含有量が、前記指標(a)及び(b)の範囲から外れる場合には、当該製剤は不適合品と判断される。不適合品と判断された場合には、例えば(A)成分及び/又は(B)成分を外添する等して所定の含有量となるように適宜調整し、本発明の所望の効果を奏する製剤とすることができる。
【0042】
本発明の品質管理方法によって、膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を有する五淋散エキス配合製剤を、安定的に市場に供給することができる。
【実施例】
【0043】
以下、試験例等を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<膀胱炎モデル動物の作製及び評価試験>
(1)被験動物(ウサギ(JW・メス)7週齢)にシクロフォスファミド(CP)200mg/kgを3日間静脈内注射した。
(2)2回目のCP注入時に大腸菌106/mLの大腸菌液1mLを膀胱内に注入し、膀胱炎モデルウサギ(n=5/群)を作製した。
(3)CP処理3日目より、下記投与製剤を1日2回(朝・夕)に分けて経口投与した。
(4)上記投与を6日間継続して行った。
(5)最終投与日に下記指標に基づいて頻尿抑制、尿量を測定した。
(6)最終投与日の翌日に剖検し、膀胱粘膜の性状を観察、炎症抑制の程度をスコア化した。
【0044】
なお、何も処置を行っていない動物群を正常群(n=5)とし、膀胱炎モデル動物に対して生理食塩水のみを投与する動物群を陰性対照群(n=5)とした。
【0045】
各製剤は、表3及び4の記載に従って投与した。具体的には、表3及び4に記載の値は被験動物の体重(kg)あたりの1日投与量(Xmg/kg/day)であり、被験動物には、体重を測定しエキス末量が当該1日投与量になるように、二等分して1日2回(朝・夕)に分けて経口投与した。
【0046】
なお、ヒトへの投与量に換算する場合は、薬理効果と薬物動態の種差を考慮し、「CRCテキストブック 日本臨床薬理学会認定CRCのための研修ガイドライン」に基づいて、丸ごとの動物(スナネズミ)への投与量Xmg/kg/dayを、ヒトへの投与量Xmg/body/dayとして換算した。
【0047】
<投与製剤の調製>
実施例1〜17、比較例1〜6は表1に示される生薬を裁断、抽出、乾燥させてエキス末を得た。得られたエキス末を蒸留水30mLに懸濁させて投与製剤を調製した。
【0048】
具体的な調製方法は、表1に示される生薬の混合物1重量部を、日本薬局方「常水」10重量部を用いて約95℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得、減圧下で濃縮してスプレードライを用いて乾燥した「五淋散エキス」(スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給して行ったもの)を用いた。
【0049】
【表1】

【0050】
得られた五淋散エキス中の(A)成分および(B)成分の含有量の確認方法については、以下のとおりである。
【0051】
(A)成分の定量方法
五淋散エキス2.0gをメタノールで十分に抽出したのち、第十五改正日本薬局方解説書(生薬等)D-71−D-76頁「オウゴン」の定量法に従い定量した。
【0052】
カラムはCOSMOSIL「5C18−MS−II」(内径4.6×150mm)(ナカライテスク社製)を、カラム温度は40度にて、移動相に146倍に蒸留水にて希釈したリン酸(和光純薬工業株式会社製)とアセトニトリル(和光純薬工業株式会社製)が18:7となる混液を用い、紫外吸光光度計(株式会社島津製作所製)にて277nmの吸光度を測定した。
【0053】
(B)成分の定量方法
五淋散エキス0.5gを希エタノールで十分に抽出したのち、第十五改正日本薬局方解説書(生薬等)D-142−D-151頁「カンゾウ」の定量法に従い定量した。
【0054】
カラムはCOSMOSIL「5C18−MS−II」(内径4.6×150mm)(ナカライテスク社製)を、カラム温度は20度にて、移動相に15倍に蒸留水にて希釈した酢酸(和光純薬工業株式会社製)とアセトニトリル(和光純薬工業株式会社製)が3:2となる混液を用い、紫外吸光光度計(株式会社島津製作所製)にて254nmの吸光度を測定した。
【0055】
(A)成分及び(B)成分の含有量の調整
得られたエキス中の(A)成分及び(B)成分を定量したうえで、抽出量が少ない場合には細かく刻み、また抽出量が多い場合には粗く刻むなどして目的とする含有量のエキスを得た。エキスが目的とする含有量にならない場合には、投与製剤中に(A)成分及び/又は(B)成分の純品((A)成分:「グリチルリチン酸二カリウム」、(B)成分:「バイカリン」(ともに和光純薬工業株式会社製))を添加して調整した。
【0056】
(製剤性)
得られたエキス末についてその性状から製剤性を評価した。
◎:べたつかない
○:どちらかといえばべたつかない
△:少しべたつく
×:べたつく
【0057】
<評価指標及び結果>
(炎症抑制効果)
膀胱粘膜性状の出血、浮腫について正常群と対比し、スコア化して平均点を算出した。
(出血)
0点:出血なし(正常群)
1点:ごく軽度の出血(やっと認められる、または散在的)
2点:明らかな出血部位がみとめられる
3点:中等度〜強度の出血多数
4点:深紅色の強度の出血斑、軽度の潰瘍(傷害は深部に)

(浮腫)
0点:浮腫なし(正常群)
1点:ごく軽度の浮腫(やっと認められる程度)
2点:明らかな浮腫(周囲と明らかに区分可能)
3点:中等度の浮腫(1mm程度盛り上がっている)
4点:強度の浮腫(1mm以上盛り上がり、周囲にも広がる)
【0058】
上記評価の結果、実施例1〜17を投与した動物群の、出血及び浮腫の評価結果(平均点)はいずれも、陰性対照群と比較して1.5以上減少していた。一方、比較例10(レボフロキサシン水和物)投与群の平均スコアは、陰性対照群に対して1.4の減少に留まった。すなわち、本発明品のほうが、従来膀胱炎の治療薬として使用されてきた抗生物質(レボフロキサシン水和物)よりも、膀胱の炎症抑制において、より高い効果を奏することが示された。
【0059】
(頻尿抑制)
最終投与日の午前10:00〜午後6:00までの排尿回数を測定した。
【0060】
排尿回数は、正常群が平均回数1.5回、陰性対照群が平均回数2.5回であった。この結果より、正常域というためには、排尿回数としては、陰性対照群に対して1回(2.5回−1.5回=1回)の減少が必要であることとした。
【0061】
測定結果より、実施例1〜17の製剤を投与された各群における平均排尿回数は、いずれも陰性対照群に対して1.5回減少した。比較例10(レボフロキサシン水和物)投与群についても同程度の排尿回数の減少が認められた。なお、平均排尿回数が陰性対照群と比較して1回以上減少した場合は○、平均排尿回数が陰性対照群と比較して増加又は減少が1回未満であった場合を×として判定した。判定結果は、表3及び4に示される。
【0062】
(尿量)
最終投与日の午前10時〜午後6時までの排尿量を測定した薬剤の悪影響で尿量に変化をきたすことがあり、そのような製剤は安全性に劣ることから、排尿量について評価した。なお、いずれの動物群においても、尿量において排尿量に変化は認められなかった(2群間検定で有意差なし(p<0.05))。
【0063】
(安全性)
試験期間中の被験動物の状態を観察し、以下の基準により安全性を評価した。
○:体調不良などはみられず健常であった
△:体重が減少するなど体調不良がみられた
×:1匹以上死亡した
【0064】
(総合評価)
(1)製剤製、(2)炎症抑制効果、及び(3)その他の評価の結果を併せ、下記指標に従って総合評価を行った。
【0065】
【表2】

【0066】
なお、上記総合評価の結果が×以外であれば、実用上問題のない範囲である。
【0067】
以上の評価によって得られた結果を下記表3及び4に示す。ここで、炎症抑制について、陰性対照群の出血及び浮腫の平均点は「3.8」であった。
【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
表3及び4より、バイカリンを75〜300mg、グリチルリチン酸を10〜75mg含有する五淋散エキス配合製剤(実施例1〜17)は、膀胱炎の代表的な症状である膀胱の炎症、頻尿に対して優れた改善効果を奏することが示された。また、バイカリンを80〜300mg、グリチルリチン酸を10〜75mg含有した五淋散エキス配合製剤(実施例4〜17)は、優れた抗炎症効果を示した。さらに、バイカリンを80〜250mg、グリチルリチン酸を10〜40mg含有する五淋散エキス製剤(実施例4〜14)は、服用時の患者の負担を軽減でき、製剤性にも優れるものであった。特にバイカリンを80〜150mg、グリチルリチン酸を10〜40mg含有する五淋散エキス配合製剤(実施例4〜12)は、十分な安全性を有するとともに、その製剤性はより望ましいものであった。また、排尿量についてはいずれの実施例製剤も正常群と差はなく、製剤が尿量に影響を与えることがなく、QOLを悪化させない製剤であることが示された。
【0071】
表4に示されるように、(A)成分及び(B)成分のうち(A)成分:バイカリンのみ含有する製剤(比較例1)では炎症抑制効果が不十分であり、(B)成分:グリチルリチン酸のみ含有する製剤(比較例2)では頻尿抑制効果が不十分であった。
【0072】
また、(A)成分及び(B)成分の両方を含有する製剤であっても、各成分の含有量が所定の範囲外である製剤(比較例3〜8)は、製剤性、安全性、炎症抑制又は頻尿抑制の少なくとも1つにおいて十分な効果が得られないことが示された。なお、比較例7及び8はエキス末がべたつくため、製剤化することができなかった。
【0073】
さらに、従来から膀胱炎の治療薬として使用されているウワウルシエキス(比較例9)又はレボフロキサシン水和物(比較例10)を用いた場合でも、症状が十分に改善されていないことが示された。
【0074】
以上を総合すると、通常、有効成分量を多く服用すると、病態への効果も顕著となる傾向があるが、本発明の五淋散エキス配合製剤によれば、有効成分の含有量を多くせずとも、バイカリンとグリチルリチン酸を特定量含有させることによって、製剤性及び安全性に優れるとともに、従来では十分に治療効果が得られなかった膀胱炎の諸症状(頻尿、残尿感等)に対しても顕著に優れた治療効果を奏し得ることが示された。
【0075】
[処方例]
下記表5に処方例1〜9を示す。各処方例における五淋散エキス配合製剤の製造は、以下の通りである。
【0076】
(A)成分及び(B)成分が以下の含有量である五淋散エキス末を得た。得られたエキス(a)〜(h)を用いて、処方例1〜9に従い配合した。常法に従って処方例1〜6を錠剤、処方例7〜9を散剤とした。
(a) (A)成分:30.0mg/g (B)成分:4.0mg/g
(b) (A)成分:20.0mg/g (B)成分:20.0mg/g
(c) (A)成分:30.0mg/g (B)成分:16.0mg/g
(d) (A)成分:32.0mg/g (B)成分:4.0mg/g
(e) (A)成分:32.0mg/g (B)成分:8.0mg/g
(f) (A)成分:32.0mg/g (B)成分:16.0mg/g
(g) (A)成分:83.3mg/g (B)成分:3.3mg/g
(h) (A)成分:83.3mg/g (B)成分:12.3mg/g
【0077】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1日投与単位あたり(A)バイカリン75〜300mg、(B)グリチルリチン酸又はその塩10〜75mgを含有する五淋散エキス配合製剤。
【請求項2】
膀胱炎治療用である請求項1記載の五淋散エキス配合製剤。
【請求項3】
膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を備えた五淋散エキス配合製剤の製造方法であって、1日投与単位あたりの前記製剤中のバイカリン及びグリチルリチン酸又はその塩が、
(a)バイカリン75〜300mg、
(b)グリチルリチン酸に換算して10〜75mg、
となるように調整することを特徴とする方法。
【請求項4】
膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を備えた五淋散エキス配合製剤の品質管理方法であって、
前記製剤中の(A)バイカリン及び(B)グリチルリチン酸の量を測定し、
1日投与単位あたりの前記製剤中のバイカリン及びグリチルリチン酸又はその塩が、
(a)バイカリン75〜300mg、及び
(b)グリチルリチン酸に換算して10〜75mg、
であることを指標とし、
前記指標(a)及び(b)に基づいて、前記製剤が膀胱の炎症抑制作用、及び膀胱の炎症に基づく頻尿を抑制する作用を備えていることを判断する方法。

【公開番号】特開2010−235549(P2010−235549A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87494(P2009−87494)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】