説明

交流直流電圧分離回路

【課題】トランジスタTrのエミッタ電圧帰還効果により、交流電圧ACに対して直流負荷Zdcを見かけ上で高インピーダンスとして、交流電圧ACが直流負荷Zdc側に印加されない交流直流電圧分離回路を提供する。
【解決手段】交流電圧ACと直流電圧DCが重畳された入力電圧が印加される回線10に接続したコンデンサC1で取り出した交流電圧ACを交流負荷Zacに印加する。回線10にトランジスタTrのコレクタを接続してそのエミッタを直流負荷Zdcに接続し、コレクタとベース間に抵抗R1を介装し、ベースを第2のコンデンサC2を介して接地し、エミッタに取り出された直流電圧DCを直流負荷Zdcに印加する。エミッタ電圧帰還効果により、コレクタ側から見た直流負荷Zdcが数10kΩ以上の値となり、交流電圧ACが直流負荷Zdcにより減衰されずに、また直流負荷Zdcに交流電圧ACが印加するようなことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電圧と直流電圧が重畳された入力電圧から、交流電圧と直流電圧をそれぞれに分離して取り出し、交流負荷と直流負荷にそれぞれ印加するようにした交流直流電圧分離回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1つの回線に交流電圧と直流電圧を重畳した入力電圧を印加してこれを伝送し、この入力電圧から交流電圧を分離して取り出して交流負荷に印加するとともに直流電圧を分離して取り出して直流負荷に印加するようにした伝送回線システムが提案されている。交流電圧と直流電圧をそれぞれ別々の回線に印加してこれを伝送する伝送回線システムに比較して、回線の数が少なくて足りる利点がある。しかし、入力電圧から交流電圧と直流電圧をそれぞれに分離して取り出す交流直流電圧分離回路が必要となる。
【0003】
簡単な構造の従来の交流直流電圧分離回路にあっては、図9に示すごとく、交流電圧ACと直流電圧DCが重畳された入力電圧が印加された1つの回線10に、コンデンサC1を接続し、このコンデンサC1を直列に介して交流電圧ACが分離されて取り出され、スピーカー等の交流負荷Zacに印加される。また、回線10に、インダクタンスL1を接続し、このインダクタンスL1を直列に介して直流電圧DCが分離されて取り出され、LED素子等の直流負荷Zdcに印加される。かかる従来構造にあっては、交流電圧ACが直流負荷Zdcに印加されないようにするためには、交流電圧ACに対してインダクタンスL1が交流負荷Zacに比べて十分に高インピーダンスとして作用しなければならない。そこで、交流電圧ACの周波数によっては、かなり大きなインダクタンス値が必要であり、その外形寸法が大きなものとなって、小型化に適していない。なお、インダクタンスL1の値が小さすぎると、直流電圧DCが印加されていない状態でも、交流電圧ACにより直流負荷ZdcとしてのLED素子が点灯するような不具合が生ずる。また、交流電圧ACの周波数により、インダクタンスL1の直流電圧DCを分離して取り出す作用効果に大きな影響を受ける。
【0004】
そこで、かかる従来構造の交流直流電圧分離回路の不具合を解決する技術が、特許第3659136号公報で提案されている。この技術は、交流電圧と直流電圧が重畳された入力電圧から、コンデンサにより交流電圧を分離して取り出すことは上述の従来構造と同じであるが、この取り出された交流電圧の位相を反転させて入力電圧に重畳することで、交流電圧を相互に打ち消しあわせて、直流電圧を分離して取り出すものである。
【特許文献1】特許第3659136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載の技術は、交流電圧の周波数によって直流電圧を分離して取り出す作用効果に影響を受けることもなく、優れたものである。しかるに、入力電圧から分離した交流電圧を位相を反転して入力電圧に重畳するための反転増幅回路が必要であり、回路構成が複雑なものとなる。そこで、より簡単な回路構成でしかも大きな外形寸法のインダクタンスを必要としない交流直流電圧分離回路が望ましい。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の事情に鑑みてなされたもので、トランジスタのエミッタ電圧帰還効果により、交流電圧に対して直流負荷が見かけ上で高インピーダンスとなるようにして、交流電圧が直流負荷側に印加されないようした交流直流電圧分離回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明の交流直流電圧分離回路は、交流電圧と直流電圧が重畳された入力電圧から、前記交流電圧を取り出して交流負荷に印加するとともに前記直流電圧を取り出して直流負荷に印加する交流直流電圧分離回路であって、前記入力電圧が印加される回線に、コンデンサを接続し、前記コンデンサを介して分離されて取り出された前記交流電圧を前記交流負荷に印加し、前記入力電圧が印加される前記回線に、トランジスタのコレクタを接続してそのエミッタを前記直流負荷に接続し、前記トランジスタのコレクタとベース間に抵抗を介装し、前記ベースを第2のコンデンサを介して接地して、前記トランジスタの前記エミッタに分離して取り出された前記直流電圧を前記直流負荷に印加するように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の交流直流電圧分離回路にあっては、交流電圧と直流電圧が重畳された入力電圧が印加される回線に、トランジスタのコレクタとエミッタを直列に介して直流負荷に接続し、コレクタとベース間に抵抗を介装し、ベースを第2のコンデンサを介して接地したので、エミッタ電圧帰還効果により、コレクタ側から見た場合に、コレクタとエミッタ間に介装した抵抗の値の大きさに応じて、直流負荷が数10kΩ以上の値となる。そこで、交流電圧が直流負荷により減衰されることがなく、また直流負荷に交流電圧が印加するようなことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の第1実施例を図1ないし図7を参照して説明する。図1は、本発明の交流直流電圧分離回路の第1実施例の構造を示す回路図である。図2は、図1の第1の等価回路図である。図3は、図1の第2の等価回路図である。図4は、図1の負荷を具体的に示した一例の回路図である。図5は、本発明の交流直流電圧分離回路の第1実施例の特性を検証するためのものであり、(a)は検証のための回路図であり、(b)はその検証回路で測定された周波数対利得を示す特性図である。図6は、直流負荷が接続されない回路の特性を検証するためのものであり、(a)は検証のための回路図であり、(b)はその検証回路で測定された周波数対利得を示す特性図である。図7は、図9に示す従来構造の交流直流電圧分離回路の特性を検証するためのものであり、(a)は検証のための回路図であり、(b)はその検証回路で測定された周波数対利得を示す特性図である。図1ないし図7において、図9に示す部材と同じまたは均等なものには同じ符号を付けて重複する説明を省略する。
【0010】
本発明の交流直流電圧分離回路の第1実施例にあっては、交流電圧ACと直流電圧DCが重畳された入力電圧が印加された回線10に、コンデンサC1を接続し、このコンデンサC1を直列に介して交流電圧ACを分離して取り出し、この交流電圧ACを交流負荷Zacに印加することは、図9に示す従来技術と同じである。しかし、直流電圧DCを分離して取り出す回路が、以下に述べるごとく相違する。まず、回線10にトランジスタTrのコレクタが接続され、そのエミッタが直流負荷Zdcに接続される。すなわち、回線10がトランジスタTrのコレクタとエミッタ間を直列に介して直流負荷Zdcに接続される。さらに、トランジスタTrのコレクタとベース間に抵抗R1が介装されるとともに、トランジスタTrのベースが第2のコンデンサC2を介して接地される。
【0011】
かかる回路構成からなる第1実施例の交流直流電圧分離回路にあっては、トランジスタTrのベース側から見ると、図2に示すごとく、直流負荷Zdc側の見かけ上の抵抗値は、直流負荷Zdcの抵抗値にトランジスタTrの交流増幅率hfeを乗算した値となる。さらに、トランジスタTrのコレクタ側から見ると、図3に示すごとく、直流負荷Zdc側の見かけ上の抵抗値は、回線10が抵抗R1を介して接地されたものとなる。この抵抗R1の値は一例として10kΩが選定される。よって、交流電圧ACに対して、直流負荷Zdc側は、10kΩの高インピーダンスとして作用し、直流負荷Zdcに交流電圧ACが印加されることがない。
【0012】
本発明の交流直流電圧分離回路の第1実施例は、具体的には、図4に示すごとく、交流負荷Zacとしてスピーカーが接続され、直流負荷ZdcとしてLED素子が接続される。このLED素子にあっては、抵抗値が51Ωとかなり小さなものもある。そこで、図9に示す従来技術では、直流電圧DCが遮断された状態でも交流電圧ACにより点灯する場合もあったが、本発明の交流直流電圧分離回路にあっては直流電圧DCが遮断された状態で交流電圧ACにより点灯するようなことがない。
【0013】
発明者らは、本発明の交流直流電圧分離回路の第1実施例の特性を検証するための実験を行った。図5(a)は、本発明の検証回路であり、入力端と出力端の間に10μFのコンデンサC1が直列に介装され、出力端側が交流負荷Zacとしての600Ωの抵抗を介して接地される。また、入力端側が、トランジスタTrのコレクタとエミッタ間を直流負荷Zdcとしての51Ωの抵抗を直列に介して接地され、さらに10kΩの抵抗R1と0.1μFの第2のコンデンサC2を直列に介して接地され、抵抗R1と第2のコンデンサのC2を接続する回線がトランジスタTrのベースに接続されている。かかる図5(a)の検証回路において、入力端に印加した交流電圧ACが減衰されることなく出力端に出力されることが望ましい。入力端に印加する交流電圧ACを30kHz〜30MHzの周波数範囲で変化させて出力端に現れる交流電圧の利得を測定したところ、図5(b)に示すごとく、0.15MHzで−0.63dB、1MHzで−0.75dB、10MHzで−0.78dB、20MHzで−0.83dBとの結果が得られた。
【0014】
これに対して、直流負荷Zdcが接続されていない場合の特性を、図6(a)に示す検証回路を用いて測定した。図6(a)では、入力端と出力端の間に10μFのコンデンサC1が直列に介装され、出力端側が交流負荷Zacとしての600Ωの抵抗を介して接地されただけである。入力端に印加する交流電圧ACを30kHz〜30MHzの周波数範囲で変化させて出力端に現れる交流電圧の利得を測定したところ、図6(b)に示すごとく、0.15MHzで−0.74dB、1MHzで−0.71dB、10MHzで−0.72dB、20MHzで−0.67dBとの結果が得られた。
【0015】
さらに、図9に示す従来構造の特性を、図7(a)に示す検証回路を用いて測定した。図7(a)では、入力端と出力端の間に10μFのコンデンサC1が直列に介装され、出力端側が交流負荷Zacとしての600Ωの抵抗を介して接地される。また、入力端側が、27mHのインダクタンスL1と直流負荷Zdcとしての51Ωの抵抗を直列に介して接地される。入力端に印加する交流電圧ACを30kHz〜30MHzの周波数範囲で変化させて出力端に現れる交流電圧の利得を測定したところ、図7(b)に示すごとく、0.15MHzで−0.74dB、1MHzで−1dB、10MHzで−1.38dB、20MHzで−1.61dBとの結果が得られた。
【0016】
図5(b)、図6(b)、図7(b)に示された測定結果から、本発明の交流直流電圧分離回路の第1実施例にあっては、図9に示す従来構造の交流直流電圧分離回路に比較して、直流負荷Zdcが接続されたにもかかわらず、交流電圧ACの減衰が僅かとなることが明らかである。なお、交流電圧ACが、AM放送の信号電圧である場合には、その周波数範囲は500kHz〜1.6MHzであり、本発明の交流直流電圧分離回路の効果が十分に得られる。また、図7(a)の回路に用いたインダクタンスL1は、現在入手可能な市販の小型のものを用いたとしても、その体積は86.53立方ミリメートル程度であり、基板上に設置するために必要な面積は27.04平方ミリメートル程度を必要とする。これに対して、図5(a)記載の実施例に用いたトランジスタTrは、体積が3.57立方ミリメートル程度であり、設置面積は4.20平方ミリメートル程度である。そして、第2のコンデンサC2および抵抗R1はそれぞれの体積が0.18立方ミリメートル程度でありそれらのそれぞれの設置面積は0.50平方ミリメートル程度である。これらの素子を合計しても総体積は、3.93立方ミリメートル程度であり総設置面積は5.20平方ミリメートル程度である。よって、本発明を実施することにより、従来の構造と比較して、より小型化を図ることができる。
【0017】
次に、本発明の第2実施例を図8を参照して説明する。図8は、本発明の交流直流電圧分離回路の第2実施例の回路図である。図8において、図1ないし図7および図9に示す部材と同じまたは均等な部材には同じ符号を付けて重複する説明を省略する。
【0018】
図8において、交流信号としての交流電圧ACが増幅回路12に印加され、その増幅出力がコンデンサC1と第3のコンデンサC3を直列に介して交流負荷Zacとしてのスピーカーに印加される。コンデンサC1と第3のコンデンサc3を接続する回線10が、交流電圧阻止用の第2のインダクタンスL2と増幅回路12の駆動電源としての直流電圧DCを直列に介して接地される。また、回線10が、トランジスタTrのコレクタとエミッタ間を介して増幅回路12の駆動電圧入力端に接続され、トランジスタTrのコレクタとベエース間に抵抗R1が介装され、トランジスタTrのベースが第2のコンデンサC2を介して接地される。かかる回路構成で、コンデンサC1と第3のコンデンサC3を接続する回線10に、交流電圧ACと直流電圧DCが重畳された入力電圧が印加されることとなる。この第2実施例にあっては、交流電圧ACが増幅回路12の駆動電圧に重畳されて印加されることがなく、増幅回路12での不要な発振や交流電圧ACの利得低下を生ずることがない。
【0019】
なお、上記実施例において、抵抗R1の値および第2のコンデンサC2の値は、上記実施例に限られず、適宜に設計的変更ができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の交流直流電圧分離回路の第1実施例の構造を示す回路図である。
【図2】図1の第1の等価回路図である。
【図3】図1の第2の等価回路図である。
【図4】図1の負荷を具体的に示した一例の回路図である。
【図5】本発明の交流直流電圧分離回路の第1実施例の特性を検証するためのものであり、(a)は検証のための回路図であり、(b)はその検証回路で測定された周波数対利得を示す特性図である。
【図6】直流負荷が接続されない回路の特性を検証するためのものであり、(a)は検証のための回路図であり、(b)はその検証回路で測定された周波数対利得を示す特性図である。
【図7】図9に示す従来構造の交流直流電圧分離回路の特性を検証するためのものであり、(a)は検証のための回路図であり、(b)はその検証回路で測定された周波数対利得を示す特性図である。
【図8】本発明の交流直流電圧分離回路の第2実施例の回路図である。
【図9】従来の交流直流電圧分離回路である。
【符号の説明】
【0021】
10 回線
12 増幅回路
AC 交流電圧
DC 直流電圧
Zac 交流負荷
Zdc 直流負荷
C1 コンデンサ
C2 第2のコンデンサ
C3 第3のコンデンサ
Tr トランジスタ
R1 抵抗
L1 インダクタンス
L2 第2のインダクタンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧と直流電圧が重畳された入力電圧から、前記交流電圧を取り出して交流負荷に印加するとともに前記直流電圧を取り出して直流負荷に印加する交流直流電圧分離回路であって、前記入力電圧が印加される回線に、コンデンサを接続し、前記コンデンサを介して分離されて取り出された前記交流電圧を前記交流負荷に印加し、前記入力電圧が印加される前記回線に、トランジスタのコレクタを接続してそのエミッタを前記直流負荷に接続し、前記トランジスタのコレクタとベース間に抵抗を介装し、前記ベースを第2のコンデンサを介して接地して、前記トランジスタの前記エミッタに分離して取り出された前記直流電圧を前記直流負荷に印加するように構成したことを特徴とする交流直流電圧分離回路。
【請求項2】
請求項1記載の交流直流電圧分離回路において、前記直流負荷がLED素子であることを特徴とする交流直流電圧分離回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−219693(P2008−219693A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56661(P2007−56661)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000006758)株式会社ヨコオ (158)
【Fターム(参考)】