説明

交通システム

【課題】 車両の進行方向を正確に判別することのできる交通システムを提供する。
【解決手段】 交差点Aに流入する道路の車線上にビーコンヘッドを設けた上流側路上通信装置1と、その上流側路上通信装置1よりも車両進行方向下流側に下流側路上通信装置2とをそれぞれ設置する。路上処理装置3は、上流側路上通信装置1および下流側路上通信装置2と接続されており、これらが車両から受け取るアップリンク情報を受信することができる。路上処理装置3は、上流側路上通信装置1で受信したアップリンク情報に含まれる車両IDと同一の車両IDを含むアップリンク情報を所定時間内に下流側路上通信装置2でも受信したと判断される場合には、当該車両IDを有する車両が交差点Aに向かって進行しているものと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路上を走行する車両の進行方向を判定する交通システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車載機との間で路車間通信をすることで、車載機の保持する情報を取得すると共に、車載機に対して交通情報等を提供することができる光ビーコンが普及している。
この光ビーコンを用いたアプリケーションシステムとして、救急車や消防車のような緊急車両を円滑に走行させることを目的とした緊急車両走行支援システムが実用化されている。
【0003】
緊急車両走行支援システムでは、緊急車両が頻繁に通過する道路上に光ビーコン等の路上通信装置を設置しておき、当該路上通信装置との路車間通信により緊急車両が当該路上通信装置設置地点を通過したことを認識し、緊急車両がこれから通過することが予想される交差点における信号機の表示を動的に変更して、緊急車両が円滑に当該交差点を通行できるように支援する(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−184592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ビーコンを利用した緊急車両走行支援システムでは、緊急車両が光ビーコンの設置地点よりも下流側にある交差点に接近中であることを、その光ビーコンと緊急車両との路車間通信によって認識するように構成されている。
具体的には、交差点への流入車線上にのみ光ビーコンのビーコンヘッドを設置し、その車線上を走行する緊急車両との路車間通信により、緊急車両が前記ビーコンヘッドの設置車線を通過したことが認識されるようになっており、緊急車両の走行方向を直接的に認識するわけではない。
【0006】
前記ビーコンヘッドは、通常、直下の車線上を走行する車両とのみ路車間通信を行うが、稀に隣接車線を走行している車両との間で路車間通信が行われるケースがある。例えば、隣接車線を走行する車両と大型車両等が併走している場合、その隣接車線走行車両の発した近赤外光(アップリンク光)が併走大型車両の側面に反射して、前記ビーコンヘッドに到達するケースがある。
その隣接車線の車両走行方向が前記ビーコンヘッドの設置された車線とは逆である場合、交差点から遠ざかる方向に走行する緊急車両と前記ビーコンヘッドとの間で路車間通信が行われることになり、緊急車両が交差点に接近していないにも関わらず、当該交差点の信号機の表示を動的に変更してしまうことがあった。
【0007】
また、緊急車両の場合、現場に急行するために反対車線側を逆走するケースもある。
逆走する緊急車両と光ビーコンが路車間通信した場合にも、当該交差点の信号機の表示を動的に変更してしまう。
【0008】
つまり、単に1台の光ビーコンと路車間通信したことのみをもって緊急車両が交差点に接近したと判断する方法を用いると、緊急車両が交差点から遠ざかる方向に走行しているにも関わらず、交差点に接近していると誤認識してしまうケースがあり、適切な交通信号制御が行われない場合があった。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、車両の走行方向を正確に認識することのできる交通システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一の発明にかかる交通システムは、車両の進行方向が同一である1又は複数の車線上を走行する車両との間で路車間通信を行う第一路上通信装置および第二路上通信装置を備え、前記第二路上通信装置の路車間通信領域は、前記第一路上通信装置の路車間通信領域よりも前記進行方向の下流側に位置しており、前記第一路上通信装置が車両から通信データを受信した後、所定時間以内に前記第二路上通信装置が同一の車両から通信データを受信した場合に、前記通信データを送信した車両の走行方向が前記進行方向であると判定する判定手段を備える(請求項1)。
【0011】
この発明によれば、1台の路上通信装置ではなく、2つの路上通信装置に対して送られる通信データに基づいて、確実に車両の進行方向を判定することができる。
従って、例えば特定の地点に接近する車両が存在するか否かに応じて動作を切り替える必要のある緊急車両支援システムや地点感応式の交通信号制御システム等を運用する場合に、正確な動作を行うことが可能になる。
【0012】
また、前記交通システムに、前記通信データに含まれる車両識別信号に基づいて当該通信データを送信した車両が緊急車両であるか否かを判別する緊急車両判別手段と、前記第二路上通信装置の路車間通信領域よりも前記進行方向の下流側に存在する交差点に設置された信号灯器を制御する交通信号制御機とをさらに備えさせ、前記交差点に向かって進行する車両が存在し、かつ、当該車両が緊急車両であると前記判定手段が判断した場合に、前記交通信号制御機に、当該緊急車両の接近に応じて前記信号灯器における各信号灯色の点灯時間を決定させるようにすることもできる(請求項2)。
【0013】
この発明によれば、2つの路上通信装置に対して送られる通信データに基づいて、確実に車両の進行方向を判定した上で、交差点に近づく緊急車両が検知されたら、その交差点における信号灯器の点灯時間を動的に決定することができるようになる。
例えば、現在赤信号を表示しているのであれば、可能な限り早く赤信号を打ち切って、緊急車両が青信号で通過できるようにし、一方、現在青信号を表示しているのであれば、可能な限りその青信号を継続して緊急車両の走行を支援することが可能になる。
【0014】
なお、前記緊急車両が第一路上通信装置および第二路上通信装置のそれぞれと路車間通信した時刻の差に基づいて前記緊急車両の走行速度を取得する走行速度取得手段を備えておき、前記交通信号制御機に、取得した前記緊急車両の走行速度に基づいて、前記緊急車両に対して表示する信号灯器における各信号灯色の点灯時間を決定させるようにすることが好ましい(請求項3)。
【0015】
2つの路上通信装置との通信時刻の差によって緊急車両の走行速度を取得することが可能になるから、当該走行速度に応じて、緊急車両が交差点に進入するタイミングを正確に予測した上で、きめの細かい交通信号制御を実施することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の交通システムによれば、車両の進行方向を正確に判定することができるため、例えば、緊急車両走行支援システム等のように車両の進行方向に応じて動作するシステムを正確に運用することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の第1の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る交通システムの機器配置の概要を示す模式図であり、上流側路上通信装置1、下流側路上通信装置2、路上処理装置3、信号灯器4Aとこれを制御する交通信号制御機4、中央装置5、車両C及びこの車両Cに搭載される車載機6を含むものである。
【0018】
〔システムの全体構成〕
道路Rは車線1〜4を有しており、車線1と車線2は交差点Aに向かう方向、車線3と車線4は交差点Aから遠ざかる方向を進行方向とする。
そして道路Rには、車線1上にビーコンヘッド1Bおよび車線2上にビーコンヘッド1Cを設け路車間通信を制御する制御機1Aと備える上流側路上通信装置1と、車線1上にビーコンヘッド2Bおよび車線2上にビーコンヘッド2Cを設け路車間通信を制御する制御機2Aと備える下流側路上通信装置2とが設置されている。
【0019】
この上流側路上通信装置1および下流側路上通信装置2は、道路R上の所定の路車間通信領域Q1およびQ2(図1において斜線で示す範囲)において、車両Cに搭載された車載機6との間で通信データを送受信する機能を備えている。
そして、図1にあるように、下流側路上通信装置2は上流側路上通信装置1よりも下流側に設置されており、それぞれの路車間通信領域Q1およびQ2の間が所定の距離(例えば30mなど)だけ離隔するように設置されている。
【0020】
ここで、上流側路上通信装置1や下流側路上通信装置2としては、例えば光ビーコン、電波ビーコンやDSRCなど、無線で路車間通信を実現できる装置であればどのようなものを用いても良いが、路車間通信領域Q1とQ2がお互いに重複しないようにするためには、光ビーコンのような狭域通信を行う路上通信装置を用いることが望ましい。
【0021】
路車間通信領域Q1およびQ2において、上流側路上通信装置1および下流側路上通信装置2から車両Cに対して送信される前記通信データには、進行方向の道路状況に関する情報が含まれており、例えば、どの道路が渋滞しているかに関する渋滞情報や、ある地点までの旅行時間に関する旅行時間情報などが含まれる。なお、これらの情報は、交通管制センターに設置された中央装置5から通信回線を通じて送られ、予め上流側路上通信装置1や下流側路上通信装置2の記憶部に格納されている。
【0022】
一方、車載機6が上流側路上通信装置1や下流側路上通信装置2に対して送信するアップリンク情報には、車両Cを識別するための車両ID情報や前回別の地点に設けられた他の路上通信装置(図示せず)と路車間通信してからの経過時間(路上通信装置設置地点間の旅行時間)に関する情報などが含まれている。
【0023】
また、上流側路上通信装置1および下流側路上通信装置2は、それぞれ路上処理装置3と接続されている。この路上処理装置3は、上流側路上通信装置1および下流側路上通信装置2が車載機6から受信した前記アップリンク情報を取得する機能を備えている。
なお、路上処理装置3は、制御機1Aまたは2Aと同一の筐体内に納められていても良いし、制御機1Aまたは2Aに路上処理装置3と同一の機能を備えさせておく構成でも良い。また、制御機1Aまたは2Aを同一の筐体内に納めるようにしても良い。また、路上処理装置3は、近傍に設置される他の路上装置(例えば交通信号制御機4)と同一の筐体内に納めるようにしても良い。
【0024】
そして、交差点Aには信号灯器4Aとこれを制御する交通信号制御機4が設置されている。道路Rを交差点Aに向かって走行する車両Cは、信号灯器4Aが赤信号であれば交差点Aの手前で停止し、青信号であれば交差点Aを通過することができる。
【0025】
〔上流側路上通信装置1および下流側路上通信装置2の基本的動作〕
以下、上流側路上通信装置1の基本的動作を、図2を用いて説明する。なお、図2は上流側路上通信装置1の制御機1Aの機能ブロック図であるが、下流側路上通信装置2も同様の構成を有し、上流側路上通信装置1と同様の機能を備えている。
【0026】
上流側路上通信装置1は路上処理装置3と接続されており、路上処理装置3と情報をやりとりする。送受信手段101は、路上処理装置3との間でデータを送受信する機能を有し、中央装置5から路上処理装置3経由で送られる前記渋滞情報等を受け取る。受け取った情報は、記憶部121に格納される。
【0027】
路車間通信手段141は、常時、通信領域Q1に対してダウンリンク情報を送信し続けている。このダウンリンク情報は、車載機6に対して通信領域Q1に進入したことを知らせ、車載機6からのアップリンク情報の送信を促すことを主な目的として送信しており、基本的な情報のみが含まれている。
そして、通信領域Q1に進入した車両Cの車載機6は、前記ダウンリンク情報の受信に応じて、当該車両Cの車両IDを含むアップリンク情報を上流側路上通信装置1に対して送信する。なお、車両Cが緊急車両の場合には、このアップリンク情報内に車両Cが緊急車両であることを示す情報が格納されている。そして、受信したアップリンク情報は送受信手段101によって路上処理装置3に送信される。
【0028】
路車間通信手段141は、前記アップリンク情報を受信したら、当該アップリンク情報受信に応じてダウンリンクの切替を実行し、車載機6に対して、車載機6の走行する車線を通知する車線通知情報、前記渋滞情報や旅行時間情報などを含む切替実行後のダウンリンク情報の送信を開始する。当該切替実行後のダウンリンク情報の送信は、概ね250ms程度の間のみ行われる。
【0029】
図1のように車両Cが車線2を走行している場合、車両Cの車載機6とビーコンヘッド1Cが路車間通信を行うから、ビーコンヘッド1Cが車載機6からアップリンク情報を受信する。制御機1Aはいずれのビーコンヘッドで受信したアップリンク情報であるかによって、当該アップリンク情報を送信した車両の走行車線を把握するようになっており、受信した当該アップリンク情報に含まれる車両IDと車線2とを対応付けた車線通知情報を作成して車載機6に対して送信する。そして、その車線通知情報を受信した車載機6は、自己の車両IDを基に自身の走行車線が車線2であると認識することができる。
【0030】
ここでは、同一方向に進行する車線の車線数を2つとしているが、1つでも良いし3つ以上であっても良い。また、車両Cがどの車線を走行していても、上流側路上通信装置1は上述と同じ動作を実行することができる。
なお、下流側路上通信装置2も上流側路上通信装置1と同じ機能を備えており、車両や路上処理装置3との間で情報交換することができるようになっている。
【0031】
〔路上処理装置3の基本的動作〕
以下、路上処理装置3の基本的動作を、図3を用いて説明する。
【0032】
路上処理装置3は、通信回線を通じて中央装置5と情報をやりとりする。中央装置通信手段311は、中央装置5との間でデータを送受信する機能を有し、中央装置5の送信する渋滞情報等を受け取って記憶部321に記憶する。また、上流側路上通信装置1や下流側路上通信装置2等が車両から受信するアップリンク情報等を中央装置5宛に送信する。
なお、各装置との通信においては、通信回線を通じて機器同士を直接接続して通信しても良いし、ルータ等のような通信機器を介して通信しても良い。
【0033】
路上装置通信手段301は、上流側路上通信装置1および下流側路上通信装置2との間で情報をやりとりする。上流側路上通信装置1および下流側路上通信装置2に対しては、中央装置5から受信し記憶部321に格納してある渋滞情報等を送信する。また、上流側路上通信装置1および下流側路上通信装置2から送られてくるアップリンク情報を受け取り、記憶部321に格納する。
【0034】
アップリンク情報判定手段331は、このアップリンク情報に含まれる車両ID情報に着目してその受信時刻や受信の順序を監視する。
そして、上流側路上通信装置1から受信したアップリンク情報に含まれる車両IDと同一の車両IDを含むアップリンク情報を、予め設定された所定時間以内(例えば10秒以内)に下流側路上通信装置2から受信した場合に、当該車両は道路R上を交差点Aに向かって進行する車両であると判定する。なお、前記所定時間は、上流側路上通信装置1と下流側路上通信装置2の路車間通信領域の離隔距離に応じて随時設定変更することができる。
【0035】
この場合、ある車両IDを含むアップリンク情報を上流側路上通信装置1または下流側路上通信装置2のみが受信した場合、あるいは、下流側路上通信装置2が受信した後に上流側路上通信装置1が受信した場合には、当該車両は道路R上を交差点Aに向かって進行する車両ではないと判定する。
【0036】
そして、アップリンク情報判定手段331が道路R上を交差点Aに向かって進行する車両からのアップリンク情報であると判定したもののみを、中央装置通信手段311によって中央装置5宛に送信する。
なお、上流側路上通信装置1または下流側路上通信装置2のみで受信したアップリンク情報等も中央装置5宛に送信するようにしても良いが、その場合は、交差点Aに向かって進行する車両であるか否かについての判定結果に応じた情報をアップリンク情報それぞれに付加して送信することが好ましい。これにより、そのアップリンク情報を受信した中央装置5が、交差点Aに向かって進行する車両からのアップリンク情報であるか否かを識別することができるようになる。
【0037】
また、道路R上を交差点Aに向かって進行する緊急車両からのアップリンク情報に限り、中央装置5宛に送信する方法でもよいし、緊急車両からのアップリンク情報のみについて車両の進行方向を判断するようにし、その判断結果に応じてアップリンク情報を中央装置5宛に送信し、緊急車両以外からのアップリンク情報は無条件で中央装置5宛に送信する方法でも良い。
【0038】
以上のように、路上処理装置3は、上流側路上通信装置1および下流側路上通信装置2が受信したアップリンク情報に基づいて、当該アップリンク情報を送信した車両の進行方向を正確に判定することができ、その判定結果に応じて中央装置5にアップリンク情報を送信できるようになる。
【0039】
なお、路上処理装置3は、上流側路上通信装置1および下流側路上通信装置2における受信時間差とそれぞれの路車間通信領域Q1とQ2間の距離とから、車両の走行速度を算出することができるため、その走行速度を前記アップリンク情報と共に中央装置5や交通信号制御機4に送信しても良い。
【0040】
また、上記のようにして得られる車両の走行速度の平均値を求め、当該平均走行速度と路車間通信領域Q1とQ2間の距離とから、Q1からQ2までの平均走行所要時間を推定することもできる。この平均走行所要時間を一定の周期毎(例えば10分毎)に求め、当該平均走行所要時間に基づいて前記所定時間を随時生成して用いるようにしても良い。この場合、前記所定時間は、平均走行所要時間そのものとしても良いし、平均走行所要時間の2倍の値としたり、平均走行所要時間に対して固定の時間(例えば5秒)を加減したりして生成しても良い。
【0041】
〔中央装置5の基本的動作〕
以下、中央装置5の基本的動作を、図4を用いて説明する。
【0042】
中央装置5には、通信回線を通じて路上に設置された各種装置と情報交換を行うための送信手段501と受信手段511とが備えられており、路上処理装置3と情報をやりとりする機能を備えている。そして、路上処理装置3から受信したアップリンク情報等を受け取って記憶することや、上流側路上通信装置1や下流側路上通信装置2に記憶させるべき渋滞情報等を路上処理装置3宛に送信することができる。
【0043】
緊急車両情報作成手段541は、路上処理装置3から、交差点Aに向かって進行する車両Cのアップリンク情報を受信したら、そのアップリンク情報を送信した車両Cが緊急車両であるか否かを判断し、当該車両Cが緊急車両と判断される場合には交差点Aに設置された交通信号制御機4に対して、緊急車両が接近した旨を通知する緊急車両接近情報を送信する。
なお、路上処理装置3から前記緊急車両の走行速度も受信できている場合には、当該走行速度も緊急車両接近情報と共に交通信号制御機4に対して送信することができる。
【0044】
そして、緊急車両情報作成手段541は、前記緊急車両接近情報を送信した後、前記緊急車両が交差点Aを通過し終えたことが分かった時点で緊急車両通過情報を作成し、その緊急車両通過情報を送信手段501を介して交通信号制御機4に送信する。
なお、緊急車両が交差点Aを通過し終えたか否かは、例えば、交差点Aを通過後に走行しうる複数の道路上に設置された光ビーコン等の路上通信装置(図示せず)のうちのいずれかの路上通信装置から、前記緊急車両が通過した旨の情報を受信すること等により把握することができる。
【0045】
なお、路上処理装置3と中央装置5がそれぞれ有する機能を各装置に配置する方法は、ここに記載したケースに限られない。
例えば、路上処理装置3のアップリンク情報判定手段331によって実現される車両の進行方向判定機能を中央装置5に持たせても良い。この場合、路上処理装置3は、上流側路上通信装置1及び下流側路上通信装置2から受信するアップリンク情報を無条件で即座に中央装置5に送信すれば良い。また、路上処理装置3と中央装置5の双方が有する機能を全て備えた中央装置を置き、その中央装置と上流側路上通信装置1及び下流側路上通信装置2がそれぞれ通信する構成であっても良い。
【0046】
また、中央装置5は交通信号制御機4を含む複数の交通信号制御機との間で情報を交換する機能をも有しており、各交通信号制御機を制御することができる。
【0047】
交通状況取得手段531は、道路上に設置された1又は複数の車両感知器(図示せず)から送信されてくる感知器情報を収集し、交通情報データベース532に蓄積する。そして、これらの感知器情報に基づいて車両感知器の設置された道路やその周辺における交通状況を把握する。この場合、交通状況の把握は例えば5分毎や信号機のサイクル時間毎等の周期で行われる。前記交通状況の把握に当たっては、各道路における交通量、占有時間、平均走行速度、車群の待ち行列長等の指標が用いられる。
例えば、ある交差点では主道路側と従道路側の交通量の比率が大幅に変動したことや、別の交差点では流入交通量が交差点の飽和交通流率を上回り飽和状態に達していること等の状況を把握する。
【0048】
そして、信号制御指令作成手段521は、前記交通状況に基づいて、各交差点の現示に割り当てる青時間、サイクル長やオフセット等を決定し、これらを含む信号制御指令情報を作成する。前記青時間の割当ての決定に当たっては、例えば、交差点における流入路ごとの飽和度や負荷率を算出し、それらの比率に応じて割当てを決定する方法が考えられる。そして、前記作成された信号制御指令情報を随時各交通信号制御機に送信することで、各交通信号制御機の動作に関する指示を与える。
当該信号制御指令情報を受信した各交通信号制御機は、その信号制御指令情報に基づいて信号制御プランを決定する。
【0049】
また、前記信号制御指令情報においては、各交通信号制御機に右折感応制御やジレンマ感応制御等の地点感応制御を実行させるかどうかに関する情報も含まれている。この場合、交通信号制御機4には、緊急車両の接近に応じて緊急車両を優先的に通過させるFAST制御機能が備えられているから、交通信号制御機4に送信する信号制御指令情報では、当該FAST制御の実行可否が指定される。
【0050】
なお、中央装置5は、複数台のコンピュータ装置の組み合わせによって実現されていても良く、例えば、光ビーコンと通信する機能を備えたコンピュータ装置(情報提供装置)と交通信号制御機と通信するコンピュータ装置(信号制御装置)をそれぞれ設け、必要に応じてこれらのコンピュータ装置間でデータをやりとりするようにしても良い。
【0051】
〔交通信号制御機4の基本的動作〕
以下、交通信号制御機4の基本的動作を、図5を用いて説明する。
【0052】
交通信号制御機4は、通信回線を通じて中央装置5と情報をやりとりしており、中央装置通信手段421は、中央装置5の送信する信号制御指令情報を受け取る機能を備える。
交通信号制御機4の信号制御プラン作成手段401は、受信した信号制御指令情報に基づいて1サイクルの開始直前に当該サイクルの信号制御プランを作成して信号制御プランテーブル402に格納する。そして、信号灯器制御手段411は作成された当該信号制御プランに従って信号灯器4Aを制御する。
【0053】
FAST制御手段431は、受信した信号制御指令情報においてFAST制御を許可されている場合には、中央装置通信手段421が中央装置5から緊急車両接近情報を受信したら、その時点で現在の信号灯器4Aの表示状態を確認し、緊急車両が安全に交差点を通過できるように信号制御プランを動的に変更する機能を有する。
具体的には、例えば、緊急車両接近情報受信時の信号灯器4Aが青信号を表示しているのであれば、当該青信号を可能な限り延長するように、前記信号制御プランに格納された当該青信号の秒数を増大させる。
一方、例えば、緊急車両接近情報受信時の信号灯器4Aが赤信号を表示しているのであれば、当該赤信号を可能な限り短縮するように、前記信号制御プランに格納された当該赤信号の秒数を減少させる。
【0054】
なお、FAST制御手段431が信号制御プランを変更した後、中央装置5から緊急車両通過情報を受信したら、FAST制御手段431は、変動させた青信号又は赤信号の秒数を再び変更する。
例えば、青信号の秒数を増大させ、当初よりも長く青信号を表示したのであれば、緊急車両通過を確認できた時点(緊急車両通過情報を受信した時点)で当該青信号の打ち切るようにする。また赤信号の表示秒数を当初よりも短縮していた場合、緊急車両通過を確認できた時点(緊急車両通過情報を受信した時点)で依然として赤信号表示中であれば、当該赤信号の秒数を当初の秒数に戻し、交差側に表示する青信号の時間を当初の信号制御プラン通りに確保する。
【0055】
なお、前記緊急車両の走行速度を取得できている場合には、下流側路上通信装置2の路車間通信領域Q2から交差点Aまでの距離と前記走行速度とから、緊急車両が安全に交差点Aを通過し終えることが可能な程度に、必要な範囲で青信号の延長等をすることができる。そうすることで、緊急車両通過情報を受信しなくても、緊急車両の走行支援を適切に行うことが可能になる。
【0056】
このように、緊急車両の接近に応じて当該緊急車両の通過を支援すると共に、緊急車両が通過した後はすかさず当初のプラン通りの信号制御に復帰するように信号灯器4Aを制御する機能を備えることで、緊急車両の通過による交通流への影響を極力小さくすることができるようになる。
【0057】
なお、本発明における路上処理装置3や交通信号制御機4等の各種装置は、1の筐体内に納められていても良いし、複数の筐体の組み合わせによって実現されても良い。また、これらは、それぞれ1つのコンピュータ装置によって実現されていても良いし、複数のコンピュータ装置を組み合わせて実現されていても良い。
【0058】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0059】
例えば、本実施形態では、路上処理装置3が緊急車両の走行方向を判定した上で、その判定結果に基づいて、中央装置5が交通信号制御機4に対して緊急車両接近情報を送信するようにしたが、路上処理装置3と交通信号制御機4が直接通信可能であれば、路上処理装置3が緊急車両接近情報を作成して交通信号制御機4に送信するようにしても良い。
【0060】
また本実施形態では、車両の進行方向を判別して緊急車両の走行支援を行う方法について説明したが、路上処理装置3等によって実現される車両の進行方向判別機能は、その他さまざまなアプリケーションシステムに応用可能である。
例えば、道路の上り方向と下り方向を区分する中央線の位置が時間帯によって変動するシステムにおいては、時間帯に応じてある車線の車両進行方向が変化することになるが、当該車線上に2台の路上通信装置を設置して車両の進行方向を判別することで、中央線の位置が変化しているにも関わらずそのことに気が付かずに逆送する車両に対して警告を発することができるようになる。
【0061】
また、本実施形態のように2台の路上通信装置を設置して車両の走行速度を取得することで、信号機が青から黄信号に変化するタイミングにおいて、高速走行中の車両のドライバがジレンマ状態に陥ることを回避するように交通信号を制御するいわゆるジレンマ感応制御等を実施することも可能である。
また、3台以上の路上通信装置を設置して、それぞれの路上通信装置における路車間通信時刻に基づいて車両の加速度を取得するようにしても良く、取得した当該加速度を用いてより一層正確に交差点Aへの到着時刻を予測して、当該予測結果に基づいて緊急車両走行支援システムを実現しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る交通システムの機器配置の概要を示す模式図である。
【図2】上流側路上通信装置1の制御機1Aの機能構成の一例を示す図である。
【図3】路上処理装置3の機能構成の一例を示す図である。
【図4】中央装置5の機能構成の一例を示す図である。
【図5】交通信号制御機4の機能構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1A 上流側路上通信装置の制御部
1B、1C 上流側路上通信装置のビーコンヘッド
2A 下流側路上通信装置の制御部
2B、2C 下流側路上通信装置のビーコンヘッド
3 路上処理装置
4 交通信号制御機
4A 信号灯器
5 中央装置
6 車載機
101 送受信手段
121 記憶部
131 ダウンリンク情報作成手段
141 路車間通信手段
301 路上装置通信手段
311 中央装置通信手段
321 記憶部
331 アップリンク情報判定手段
401 信号制御プラン作成手段
402 信号制御プランテーブル
411 信号灯器制御手段
421 中央装置通信手段
431 FAST制御手段
501 送信手段
511 受信手段
521 信号制御指令作成手段
531 交通状況取得手段
532 交通情報データベース
541 緊急車両接近情報作成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向が同一である1又は複数の車線上を走行する車両との間で路車間通信を行う第一路上通信装置および第二路上通信装置を備え、
前記第二路上通信装置の路車間通信領域は、前記第一路上通信装置の路車間通信領域よりも前記進行方向の下流側に位置しており、
前記第一路上通信装置が車両から通信データを受信した後、所定時間以内に前記第二路上通信装置が同一の車両から通信データを受信した場合に、前記通信データを送信した車両の走行方向が前記進行方向であると判定する判定手段を備えること
を特徴とする交通システム。
【請求項2】
前記交通システムは、
前記通信データに含まれる車両識別信号に基づいて、当該通信データを送信した車両が緊急車両であるか否かを判別する緊急車両判別手段と、
前記第二路上通信装置の路車間通信領域よりも前記進行方向の下流側に存在する交差点に設置された信号灯器を制御する交通信号制御機とをさらに備え、
当該交通信号制御機は、
前記交差点に向かって進行する車両が存在し、かつ、当該車両が緊急車両であると前記緊急車両判別手段が判断した場合に、当該緊急車両の接近に応じて前記信号灯器における各信号灯色の点灯時間を決定すること
を特徴とする請求項1に記載の交通システム。
【請求項3】
前記交通システムは、
前記緊急車両が第一路上通信装置および第二路上通信装置のそれぞれと路車間通信した時刻の差に基づいて、前記緊急車両の走行速度を取得する走行速度取得手段をさらに備え、
前記交通信号制御機は、
取得した前記緊急車両の走行速度に基づいて、前記緊急車両に対して表示する信号灯器における各信号灯色の点灯時間を決定すること
を特徴とする請求項2に記載の交通システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−205560(P2009−205560A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48946(P2008−48946)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】