説明

人工水晶の育成方法

【課題】本発明の目的は、種水晶と制御板のあいだに予め隙間を設ける線状欠陥密度の低い人工水晶の育成方法を提供することである。
【解決手段】上記の目的を達成する為に本発明は、水熱法で製造する人工水晶の育成方法において、種水晶と制御板と呼ばれる板のあいだに予め隙間を設けることを特徴とし、また種水晶と板のあいだに予め設けられる隙間が0.3mmから10.0mmであることを特徴として課題を解決するものとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は人工水晶の育成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、正確なクロック発生源として主に電子部品を使用する多くの分野で、時間や周波数などの基準信号として水晶振動子が一般に使われている。このような水晶振動子には、代表的なものとして人工水晶を種水晶から育成して成長させたものをATカット板と称される切断角度に切断された水晶片を用いたものが、それを用いた水晶振動子の発振周波数が非常に安定した温度特性を有することから多用されている。
【0003】
一方工業的に利用される光学用の人工水晶は大型の水晶基板が得られるためにZ面を主面にもつZ板種水晶から育成されることが多いい。このようにZ板種水晶から育成された人工水晶は切り出して使用する水晶片径が大きくとれることから、光学フィルターなど大きな水晶片径を必要とすることの多いい光学用の人工水晶として使用されるが、光学用の人工水晶はその製品の使用条件からも線状欠陥密度が小さいことが必要とされる。
【0004】
一般に人工水晶はオートクレーブと呼ばれる耐圧容器を炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液で充填した容器内で、高温高圧状態下において育成される。これは水熱育成法と呼ばれ、耐圧容器内には高温部と低温部とが設けられており、高温部と低温部とで温度差をつけることによって高温部で溶解した水晶原料が低温部で過飽和溶液になり、水晶の種結晶上に結晶が析出することを利用した結晶成長方法である。
【0005】
光学用人工水晶を含めて、工業的に利用される人工水晶のほとんどが人工水晶から切出した種結晶を用いて育成される。この場合、良く管理された条件下で育成されれば種結晶の表面から新たに発生する線状欠陥は極小に抑えることができる。しかしながら、線状欠陥が存在する種結晶を用いて育成させる場合には線状欠陥密度が高くなる。従って、人工水晶を種結晶に用いる場合には、成長領域中に線状欠陥が新たに発生しないように種結晶を育成させることが非常に重要である。
【0006】
成長領域中に線状欠陥が新たに発生する原因としては、種結晶の格子定数と成長領域の格子定数との差、種表面に付着した異物および成長中に取り込まれた異物が挙げられる。上記異物の混入を防いで低線状欠陥密度の人工水晶を育成する方法は特許(特公昭57−49520)に記載がある。
【特許文献1】
特公昭57−49520号公報
【0007】
また、特定の方位を主に成長・育成させる人工水晶を得るのに、前記の線状欠陥密度を低く抑えることになる不純物の育成中の人工水晶への取り込みの小さな人工水晶の製造方法に関する特許には、以下のものがある。
【特許文献2】
特開2002−115699号公報
【特許文献3】
特開2002−114599号公報
【0008】
なお、出願人は前記した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を、本件出願時までに発見するに至らなかった。
【0009】
しかしながら、上述したような従来の人工水晶の育成方法においては、種水晶と種水晶から成長する人工水晶への不純物の取り込みを小さく抑える制御板とが密接している為に、人工水晶の育成中に育成溶液が先の密接部分に行き渡らず、制御板に金属を用いた場合には密接部分に腐食を起こすといった問題があった。
【0010】
また、上述したような従来の人工水晶の育成方法においては、種水晶と種水晶から成長する人工水晶への不純物の取り込みを小さく抑える効果のある制御板とが密接している為に、制御板に金属を用いた場合には、種水晶と制御板の熱膨張率の違いから、制御板が反るといった現象が発生し、その結果種水晶に応力を与えて、育成する人工水晶に格子不整合起こすといった問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上のような技術的背景のもとでなされたものであり、従がってその目的は、種水晶と制御板のあいだに予め隙間を設ける線状欠陥密度の低い人工水晶の育成方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために本発明は、水熱法により種水晶の片側を板で覆って製造する人工水晶の育成方法において、種水晶と先の制御板と呼ばれる板のあいだに予め隙間を設けることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照しながら、本発明の実施の一形態について説明する。なお、各図においての同一の符号は同じ対象を示すものとする。
【0014】
図1は本発明の人工水晶4の育成の方法を示した、種水晶1と制御板と呼ばれる板2のあいだに隙間3を設けた様子を示す概略の側面模式図である。図4の従来の人工水晶4の育成方法では、種水晶1の支持具として用いられ、同時に種水晶1とは異質な材料から成る制御板と呼ばれる板2によって、前記の種結晶1の上部の基本成長面を遮断することにより、人工水晶4の育成中の異物の混入を防ぎ、新たに人工水晶4中に線状欠陥が発生しないようにされている。この場合、前記の種結晶1の下部の人工水晶4の基本成長面に成長した結晶は線状欠陥密度の低い人工水晶である。
【0015】
ここで前述の異物には、組成がオートクレーブから供給されるFe, 原料のシリカや育成溶液からの不純物から構成される水晶以外の副生成鉱物である。オートクレーブの内壁は育成環境中でこのような副生成物により覆われており、剥離したものが育成溶液のオートクレーブ内の対流に乗って人工水晶4の結晶内に取り込まれる。
【0016】
しかしながら、従来の制御板と呼ばれる人工水晶とは異質の、例えば金属の板2と種水晶1が密接している場合、当然人工水晶4の育成の途中で育成溶液が密接した部分には行き渡らない為に、腐食を起こすといった問題がある。すきまでの腐食は人工水晶4の中に線状欠陥を発生させる原因となる。また、工業用大型オートクレーブ(直径600mmφ以上)を用いて高温加圧環境下で育成されるため、制御板2が金属で出来ている場合、当初平らな板2が反ってその結果、密接した種水晶1に応力が加わり育成される人工水晶4に格子不整合を起こすといった問題がある。
【0017】
そこで、本発明の人工水晶の育成方法においては先述の種水晶1と板2のあいだに隙間3を設けている。この隙間3は0.3mmから10.0mmとすると、より良質な人工水晶4を得ることが出来る。ここで種水晶1と板2は一般に種水晶1と板2の両方の四隅に孔をあけ、その孔に細いワイヤーを通してワイヤーを捻り止める方法がとられる。先述の種水晶1と板2のあいだに偏りなく均一な隙間3を設けるために、板2に種水晶1を取り付ける際、決められた均一な厚さを持つプラスチック製のスペーサーを板2と種水晶1のあいだに挿入し、その状態で先の四隅のワイヤーを捻り止める。その後スペーサーを外すことで板2と種水晶1のあいだに必要な間隔を得ることが出来る。
【0018】
図2は、図1の本発明の人工水晶4の育成の方法を示した、種水晶1と制御板である板2のあいだに隙間3を設けた様子を示す概略の斜視図である。
【0019】
図3は図2により人工水晶の育成を行った様子を示す概略の断面図である。本3図中の点線は、成長した人工水晶の概略の輪郭を示すものである。種水晶1の上面だけでなく片方の側面も覆うような形状をしている。
【0020】
図4は従来の人工水晶4の育成方法を示す概略の模式図である。
【0021】
【発明の効果】
本発明により、種表面からの線状欠陥の発生を防止することが出来る。
【0022】
また本発明により、線状欠陥密度の低い人工水晶が得られ、人工水晶の生産歩留まりを大幅に改善することが出きる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の人工水晶の育成の方法を示した、種水晶と制御板のあいだに隙間を設けた様子を示す概略の側面図である。
【図2】図1の本発明の人工水晶の育成の方法を示した、種水晶と制御板のあいだに隙間を設けた様子を示す概略の斜視図である。
【図3】図2により人工水晶の育成を行った様子を示す概略の断面図である。本3図中の点線は、成長した人工水晶の概略の輪郭を示すものである。
【図4】従来の人工水晶4の育成方法における種水晶1と制御板と呼ばれる板2の位置関係を示す概略の模式図である。
【符号の説明】
1 種水晶
2 板
3 隙間
4 人工水晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水熱法により種水晶の片側を板で覆って製造する人工水晶の育成方法において、
該種水晶と該板のあいだに予め隙間を設けることを特徴とする人工水晶の育成方法。
【請求項2】
種水晶と板のあいだに予め設けられる隙間が0.3mmから10.0mmであることを特徴とする請求項1に記載の人工水晶の育成方法。

【図1】
image rotate



【図2】
image rotate



【図3】
image rotate



【図4】
image rotate