説明

人工皮革用基体

【課題】 長期間の使用後においても型崩れが少なく、ソフトな風合いを有する、乗物用座席、クッションシート、ソファー、椅子などのインテリア製品の上張材などに好適に用いられる人工皮革の基材に用いられる繊維シートを提供することを課題とする。
【解決手段】 織編物と不織布が積層され絡合一体化されている人工皮革用基体において、該織編物を構成している繊維同士の交点または糸同士の交点で固定されていることを特徴とする人工皮革用基体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革の基材に用いられる繊維シートに関する。より詳細には、本発明は、長期間の使用後においても型崩れが少なく、ソフトな風合いを有する、乗物用座席、クッションシート、ソファー、椅子などのインテリア製品の上張材などに好適に用いられる人工皮革の基材に用いられる繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
人工皮革は、従来から、インテリア、衣類、靴、鞄、手袋、乗物用座席の上張材などの様々な用途に利用されている。そのうちでも、鉄道車両用座席、自動車用座席、航空機用座席、船舶用座席などの乗物用座席、クッションシート、ソファー、椅子などのインテリア家具の上張材の分野では、良好な表面耐摩耗性および長期間の使用後においても伸びやへたり、しわの発生の無い高い形態安定性を兼ね備えた人工皮革が強く求められている。
【0003】
近年、繊維不織布を基材とした人工皮革、特に極細繊維不織布を基材とした人工皮革は天然皮革に近似したソフトで充実感のある風合いから、用途を問わず高級素材として採用されている。しかし該基材が極細繊維不織布のみからなるものは、容易に変形しやすいという問題がある。例えば、椅子張りの表皮に使用した場合は、長期間、繰り返し体重がかかるため、歪みを生じやすい。このような歪みを生じる問題に対して、一般的に織編物を人工皮革裏面に貼り合わせることが公知であり、変形に対する効果もあるが、風合いが硬くなり、複雑なデザインを有するものには、皺が生じるため縫製不可能である場合が多い。また、極細繊維不織布に繊維基材を積層したものを基材として人工皮革を製造する方法も公知である(例えば、特許文献1を参照)。この方法から得られる人工皮革は風合いも人工皮革裏面に貼り合わせたものよりはソフトであり、織編物の無いものよりも形態安定性は高い。しかし、従来の織編物を積層し繊維基材としたものは、やはり、使用開始後数年を経た後は、繰り返し体重のかかる部分において歪みを生じる。これは、人工皮革中基材中の織編物を構成している繊維そのもの伸びというよりも、織編物を構成している繊維同士がずれを生じ該織編物の組織が変形していることによると考えられる。上記のように、これまで提案されているものは、長期間の使用における形態安定性という観点からは不十分なものであった。
【0004】
【特許文献1】特公平4−1113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、長期間の使用後においても型崩れしない等、形態安定性に優れ、ソフトで高級感に優れる良好な風合を有する人工皮革用シート基材であり、乗物用座席、クッションシート、ソファー、椅子などのインテリア製品の上張材などに好適に用いることのできる人工皮革用シート基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
乗物用座席、クッションシート、ソファー、椅子などのインテリア製品の上張材などに好適に用いられる形態安定性に優れた人工皮革用シート基材を得るにあたり鋭意検討した結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
1.織編物と不織布が積層され絡合一体化されている人工皮革用基体において、該織編物を構成している繊維同士の交点または糸同士の交点で固定されていることを特徴とする人工皮革用基体、
2.交点での固定が接着剤によるものである1.に記載の人工皮革用基体、
3.接着剤が、織編物を主体的に構成している繊維の融点よりも低融点の樹脂からなる2.に記載の人工皮革用基体、
4. 1.〜3.に記載の人工皮革用基体の表面を起毛して得られるスエード調人工皮革、
5. 1〜3に記載の人工皮革用基体の表面に被覆層を形成して得られる銀付き調人工皮革.
6. 4.に記載のスエード調人工皮革または5.に記載の銀付き調人工皮革を少なくとも座面の上張り素材として用いた製品、
7.下記(1)〜(3)の工程を、(1)(2)(3)、または(1)(3)(2)の順で行うことを特徴とする人工皮革用基体の製造方法、
(1)織編物(S)を主体的に構成している繊維の融点よりも低い融点の接着剤樹脂(R)が、織編物(S)を主体的に構成している繊維同士の交点または糸同士の交点に付与されている織編物(S)を製造する工程
(2)織編物(S)と不織布(N)またはウエブを積層し、絡合一体化する工程
(3)少なくとも接着剤樹脂(R)の融点よりも高い温度で織編物(S)を加熱処理する工程
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の人工皮革用基体は、長期間の使用後においても型崩れしない等、形態安定性に優れ、ソフトで高級感に優れる良好な風合を有しており、その優れた特性を活かして、優れた形態安定性が要求される鉄道乗物用座席、自動車用座席、航空機用座席、船舶用座席などの乗物用座席の上張材、ソファー、クッション、椅子などのインテリア製品の上張材として特に有用であり、またそれ以外の用途、例えば衣料、靴、鞄、小物入れ、手袋などの広範な用途にも有効に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いられる不織布(N)を構成する繊維は、特に制約は無いが、人工皮革とした場合に天皮様の風合いが得られる点から、0.5dtex以下の極細繊維を発現しうる構成が望ましい。その際極細繊維は単成分を用いた直接紡糸から得られるもの、あるいは、少なくとも2種類のポリマーからなる極細繊維発生型繊維から作られる。上記の極細繊維発生型繊維は、例えば、海成分が溶剤または分解することで島成分がフィブリル化する抽出型繊維あるいは機械的にまたは処理剤によって各ポリマーからなる極細繊維にフィブリル化する分割型繊維等があげられる。極細繊維発生型繊維は、必要に応じて延伸、熱処理、機械捲縮、カット等の処理工程を経て、繊度1〜15dtexの短繊維、あるいは長繊維とする。極細繊維を構成するポリマーは、6−ナイロン、66−ナイロン、12−ナイロンなどの溶融紡糸可能なポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、またはそれらの共重合体の溶融紡糸可能なポリエステル類から選ばれる少なくとも1種類のポリマーが用いられる。また、抽出型繊維で抽出または分解除去される成分は、極細繊維成分と溶剤または分解剤に対する溶解性または分解性を異にし、極細繊維成分との相溶性の小さいポリマーであり、かつ紡糸条件下で極細繊維成分より溶融粘度が小さいかあるいは表面張力が小さいポリマーである必要があるが、更に本特許で述べる織編物に付与する低融点樹脂と溶剤または分解剤に対する溶解性または分解性を異にする必要があり、例えば、ポリビニルアルコール系のポリマーが好ましい。さらに、上記極細繊維は、本発明の効果を損なわない限りにおいてカーボンブラック等に代表される顔料で着色あるいは公知の繊維添加剤を添加することは可能である。
【0009】
一方、本発明に用いられる織編物(S)の組織は、特に限定しない。また織編物(S)を構成する繊維は、人工皮革とした場合に、目的の用途における実用上の強度が得られるならば、特に限定することは無く、公知のポリマーからなる繊維を選ぶことが出来る。繊維を複数本束ねた糸により織編物を構成する際には、糸の撚り数は特に制限は無いが、得られる人工皮革の風合いの点から900T/m以下の低撚り数であることが好ましい。また、糸番手としては、目的により適宜変更可能であるが、通常30dtexから200dtexのものが用いられる。上記番手が200dtexを越すと得られる人工皮革は風合いが硬く、また、厚みの薄いものが得られにくい。また30dtexより細い場合、必要な強度を得るためには織本数を高くする必要があるが、その場合、ニードルパンチ法あるいは水流絡合での不織布との絡合の際に、不織布と織編物が一体化されにくい。このような糸番手の糸をマルチフィラメント糸とする場合には、1本辺りのフィラメント数は6〜100本の範囲で設定する。フィラメント数を多くすることで糸自体が柔らかくなる傾向があるが、糸物性は低下してしまい、また後述する貫通処理工程の際に糸が損傷し易くなる傾向も見られるので、目的とする風合いや物性との兼ね合いにおいて適宜設定する。また、糸を構成するフィラメントとして、前記した極細繊維発生型の複合繊維を用いて、貫通工程の後の何れかの段階でこれを極細化することで、マルチフィラメント糸をさらに多くのフィラメント数からなるフィラメント糸とすることができるので、貫通工程時の糸損傷を極力回避しつつ立毛シートとして風合いが良好なものを得ることもできるので好ましい方法の1つである。
織編物の目付は、得られる人工皮革の風合いの観点から、30〜200g/mが好ましい。目付が30g/m未満の場合、織編物の強度が不足し、また、糸ずれにより織編物の形態が崩れやすくなる。また、200g/mを超える場合、得られる人工皮革の風合いが硬くなりやすく、かつ、織編物と不織布の一体化が得られにくい。
【0010】
織編物を構成する繊維、または糸同士の交点の接着は、織編物(S)に付着している接着剤樹脂(R)を加熱処理、溶融することにより行われる。その際、該織編物(S)に付着している接着剤樹脂(R)は、織編物(S)を主体的に構成する繊維を構成する樹脂よりも低融点である必要が有り、絡合一体化させる不織布(N)を構成する樹脂よりも低融点であることが好ましい。例えば、織編物(S)を主体的に構成する繊維および絡合一体化させる不織布(N)を構成する繊維に、6−ナイロン、66−ナイロン、12−ナイロンなどの溶融紡糸可能なポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル類およびそれらの共重合体の溶融紡糸可能なポリエステル類を選んだ場合、接着剤樹脂(R)はポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂またはポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類などの融点が180℃以下である異種のポリマーを選択するか、または変性することで低融点化した同種のポリマーを選択することが好ましく、下限は特に限定されないが、得られる人工皮革の実用に問題ない範囲、例えば50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。
【0011】
接着剤樹脂(R)が付着している織編物(S)得る手段としては、織編物(S)を構成する繊維の紡糸時に接着剤樹脂(R)を鞘とした芯鞘タイプあるいは接着剤樹脂(R)とのサイドバイサイド型の複合紡糸にて得られる複合繊維を用いて織編物(S)を構成する方法、織編物(S)を構成する前の繊維に接着剤樹脂(R)を付与する方法、または、織編物(S)を作成した後、接着剤樹脂(R)を溶解或いは分散している液に含浸させる方法があり、いずかの方法に制限する必要は無い。織編物(S)に付与する接着剤樹脂(R)の存在量は、織編物(S)の重量の0.1〜30%の範囲が好ましい。0.1%以下の場合、接着効果が十分で無く、人工皮革とする際の後工程または着用時に織編物の形態が崩れることを防止できない。また、30%以上の場合、十分な接着効果が得られるが、得られる人工皮革は風合いの硬いものとなってしまう。
【0012】
不織布(N)を構成する繊維は、短繊維であればカードで解繊し、ウェッバーを通してウエブを形成し、また、長繊維であればスパンボンド法などにより紡糸と同時にウエブを形成し不織布(N)とする。得られたウエブは、所望の重さ、厚さに積層し、次いで、必要に応じてニードルパンチ、高速水流などの公知の方法により仮絡合処理が行われた後、織編物(S)と積層される。上記ウエブの目付は、目的とする人工皮革用基体の目付および不織布(N)と織編物(S)の積層構成によるところが大きいが、80〜2000g/mの範囲が好ましく、より好ましくは100〜1500g/mの範囲が好ましい。また、織編物との絡合性確保の点から、織編物と積層する前のウエブのニードルパンチ数は20〜100P/cmの範囲が好ましい。なお、ここでいうパンチ数とは、ニードルパンチ工程を通してウエブの単位面積当たりに突き刺したフェルト針の累計本数であり、例えばフェルト針が10本/cmの密度で配置されたニードルボードをウエブへ50回突き刺せば、そのニードルパンチ工程でのパンチ数は500P/cmである。
【0013】
上記不織布(N)またはウエブと織編物(S)の積層形態は特に制限は無く、不織布(N)またはウエブの中間に織編物(S)を積層する形態あるいは不織布(N)またはウエブの片面に織編物(S)を積層する形態のいずれでも良いが、人工皮革用基体あるいは人工皮革の表面品位の点から、該織編物(S)が人工皮革の表層にならないようにすることが好ましい。
【0014】
上記不織布(N)またはウエブと織編物(S)を絡合一体化し3次元絡合体とするが、絡合方法は特に方法を制限するものでは無い。高目付のウエブを使用する場合、効果的に絡合させるのはニードルパンチ法が好ましい。ニードルパンチの際のパンチ数は、不織布(N)と織編物(S)を絡合一体化させるために、300〜4000P/cmの範囲が好ましく、より好ましくは500〜3500P/cmの範囲である。300P/cm未満では、不織布(N)と織編物(S)の絡合が不充分であり、4000P/cmを超えると不織布(N)および織編物(S)の繊維損傷が目立つようになる。
【0015】
織編物(S)に存在する接着剤樹脂(R)を溶融させ、織編物(S)を構成する繊維同士の交点または糸同士の交点を固定させる工程は、不織布(N)と織編物(S)を積層、絡合化する前でも後でも特に制限は無い。不織布(N)と織編物(S)を積層する前に交点を固定する方法は、加熱処理による接着を効果的に行うことが出来る。また、積層、絡合一体化処理後に織編物(S)を構成する繊維同士の交点または糸同士の交点を固定する方法は織編物(S)と不織布(N)またはウエブの絡合一体化が良好となり易い。上記の不織布(N)と織編物(S)の絡合体は、織編物(S)に付与した接着剤樹脂(R)を溶融させ織編物(S)を構成する繊維同士の交点または糸同士の交点を固定させるために、加熱処理を行う。なお、ここでいう織編物(S)を構成する繊維同士の交点または糸同士の交点とは、織物の場合であれば経繊維と緯繊維の交差している部分、または経糸と緯糸の交差している部分をいう。
そして、得られた3次元絡合体の表面を平滑とするため、公知の方法、例えば加熱処理または加熱プレス処理などにより表面平滑化することが好ましい。得られる3次元絡合体の目付としては、150〜1000g/mの範囲が好ましい。150g/m未満の場合、高分子弾性体の含浸以降の工程での伸び等の形態変化が大きくなり、得られる製品に歪が生じあるいはシワが発生して外観不良を招く場合がある。また、1000g/mを越える場合、高分子弾性体の含浸や凝固および上記極細繊維発生型繊維を極細化する際の工程速度が遅くなり実用的でない。また、加熱プレス処理後の好ましい厚みとしては、1.0〜3.0mmの範囲が好ましくい。1.0mm未満の場合、ポリウレタンの含浸以降の工程での伸び等形態変化が大きくなり、得られる製品に歪が生じあるいはシワが発生して外観不良を招く場合がある。3.0mmを越える場合、得られる3次元絡合体の厚みが厚いため巻き取る際、表面に折れシワが生じ易くなる。
【0016】
本発明の人工皮革用基体には公知の高分子弾性体を含有させることが好ましい。
上記3次元絡合体の内部に含浸する本発明の高分子弾性体としてはポリウレタンやアクリル樹脂等の人工皮革含浸用に用いられる公知の樹脂を何れも用いることが可能である。中でもポリウレタン樹脂が風合や物性の点で好ましい。ポリウレタン樹脂は平均分子量700〜3000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどから選ばれた少なくとも1種のポリマージオール、芳香族ジイソシアネートまたは脂環族ジイソシアネートから選ばれた少なくとも1種の有機ジイソシアネートを主体に、必要に応じて他の有機ジイソシアネートあるいは有機トリイソシアネート、および低分子ジオール、低分子ジアミン、ヒドラジン、ヒドロキシアミンなど活性水素原子2個を有する化合物とを溶液重合法、溶融重合法、塊状重合法などによって重合して得たポリエステルエーテル系ポリウレタン、ポリラクトン系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタンなどが好ましく挙げられる。ポリウレタンの付与方法としては特に制約は無く、上記3次元絡合体をポリウレタン溶液または分散液中でディップおよびニップする方法や、該3次元絡合体上にポリウレタン溶液または分散液を付与し高速回転するロールで摺り込む方法等が挙げられる。ポリウレタンの凝固方法としては、ポリウレタンの非溶剤を含む液に浸漬して湿式凝固するか、ゲル化させた後加熱乾燥して乾式凝固する方法などが挙げられる。
【0017】
上記ポリウレタン溶液または分散液中には、必要に応じてカーボンブラックや顔料などの着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、分散剤等の添加剤を配合することができる。繊維基材に占めるポリウレタンの比率は、人工皮革に柔軟な風合いと弾性回復性を持たせるために、極細繊維化する前で、固形分として質量比で5〜50%、好ましくは10〜40%の範囲で含有させるのがよい。ポリウレタン比率が5%未満の場合には、緻密な弾性体スポンジ(多孔構造)が形成されにくく、柔軟な風合いが得られにくい。ポリウレタン比率が50%を超える場合には、風合いがゴムライクになるので本発明が目的とする用途における素材としては好まれない傾向が強く、また織編物(S)による型崩れ防止効果を阻害する傾向もみられる。
【0018】
次に、極細繊維発生型繊維を用いた場合には、該極細繊維発生型繊維を、繊維構成ポリマーのうちの少なくとも1成分(好ましくは海成分構成ポリマー)を溶解剤若しくは分解剤で処理して、または機械的若しくは化学的処理により極細繊維あるいは極細繊維束に変性して人工皮革用基体を得る。極細繊維発生型繊維の変性処理はポリウレタン溶液の付与前であってもよいが、極細繊維束に変性後にポリウレタン溶液を含浸、凝固すると、ポリウレタンが極細繊維に接着し風合いが硬くなりやすいため、ポリウレタン溶液付与後に極細繊維束に変性することが好ましい。ポリウレタン溶液付与前に変性処理を行う場合には、極細繊維とポリウレタンが接着しないようにポリビニルアルコールなどの溶解除去可能な仮充填剤を不織布に付与した後にポリウレタン溶液を付与し、その後に該仮充填剤を除去することが好ましい。
本発明の人工皮革用基体の見かけ密度は、風合いの点で0.2〜0.7g/cmであることが好ましい。
【0019】
上記で得られた人工皮革用基体はスエード調人工皮革あるいは銀付き調人工皮革のいずれにも仕上げることが出来る。スエード調人工皮革に仕上げる場合は、上記人工皮革用基体をスライス、バフィング等により所望の厚みに調整した後、必要により該ポリウレタンを溶解させる溶剤と非溶解性の溶剤の任意の割合の混液を表面に塗布し該ポリウレタンを溶解させた後、サンドペーパー等による公知の方法でバフィングすることにより上記基体表面の極細繊維束は起毛し染色することによりスエード調人工皮革となる。
【0020】
銀付き調人工皮革に仕上げる場合は、上記人工皮革用基体をスライス、バフィング等により所望の厚みに調整した後、表面に乾式法、湿式法等の公知の方法により被覆層を形成し、銀付き調人工皮革とする。
得られるスエード調人工皮革あるいは銀付き調人工皮革の定荷重伸び率は10%以下が形態安定性の点で好ましく、5%以下がより好ましい。また、残留歪み率は3%以下であることが形態安定性の点で好ましく、2%以下であることがより好ましい。そして、定荷重伸び率と残留歪み率が共に上記好適な範囲を満足することが特に好ましい。
【0021】
以下本発明の実施態様を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部、%等の量、比率に関する記載は断わりが無い限りすべて質量に関するものである。また、定荷重伸びおよび残留歪みの測定はシート表皮用布材料の試験方法(JASO M 403−88 6.5、社団法人自動車技術会制定)に従い、次の方法で行った。
【0022】
幅80mm、長さ250mmの試験片を縦および横の方向から3枚ずつ取り、その中央部に距離100mmの標線を付ける。次にマルテンス形疲労度試験機を用い、上側のつかみに試験片の一端をつかみ、つかみ間隔を150mmとして下側にはつかみ具を含め98.1N(10kgf)の荷重をかける。10分経過後の標線間距離(mm)を測定して荷重を取り去り、試験片を平らな台の上に置き、除重から10分後の標線間距離を測る。定荷重伸び率(%)、残留歪み率(%)は次式で計算し、それぞれ縦および横方向について3枚の平均値で表す。
定荷重伸び率(%)=(L−L)/L×100
残留歪み率(%)=(L−L)/L×100
ここに、L:試験前の標線間距離(mm)
:荷重をかけて10分後の標線間距離(mm)
:除重から10分後の標線間距離(mm)
定荷重伸びおよび残留歪みの数値が低い方が、実際の椅子張り表皮に使用した際、長期間の使用に際しても形態安定性が良い。
【0023】
実施例1
織物(S)の作成
80dtex/36fの仮撚り加工を施したポリエステル製の糸に、800T/mの追加撚糸加工をした後、該糸を軟化温度150℃のポリウレタンの水エマルジョン(大日本インキ社製ハイドランWLI602)を固形分が15%となるよう水で希釈した液に浸漬処理した。糸に対するポリウレタンの付着量は1%であった。そのポリウレタン付着処理を行った糸を経糸とし、また、ポリウレタン付着処理を行わなかった糸を緯糸に使って、織り密度82本×76本/inchで織り加工を行い、目付70g/mの平織物を得た。次いで、得られた平織物を表面温度180℃のカレンダーロールでプレス処理し、経糸と緯糸がその交点で固定された平織物を得た。
【0024】
不織布(N)の作成
島成分がポリエチレンテレフタレート、海成分が低密度ポリエチレンの海島型複合繊維ステープル(島数20、ポリエチレンテレフタレート:低密度ポリエチレン=60:40、繊度4.0dtex、繊維長51mm、捲縮数12山/inch)を使用して、カード、クロスラッパーの工程を経て、ウエブを作成し、仮絡合処理として40P/cmのニードルパンチを行い、目付300g/mの極細繊維発生型繊維からなる不織布(N)を得た。
【0025】
上記不織布(N)に、前記の平織物(S)を積層し、シングルバーブのフェルト針を使用して、最初に不織布(N)側から600P/cm、次いで平織物(S)側から600P/cmのパンチ数でニードルパンチを行い不織布(N)と平織物(S)を絡合一体化させて、目付370g/mの3次元絡合体を得た。ニードルパンチの際、平織物(S)側から突き刺したフェルト針の突き刺し深さは、バーブが不織布(N)側の表面には突き出ない深さとした。得られた3次元絡合体にポリエーテル系ポリウレタンの15%DMF溶液を含浸し、これをジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記することがある)と水の混合液浴中へ浸漬してポリウレタンを湿式凝固し、さらに残存するDMFを水洗除去した後85℃のトルエン浴中で海成分のポリエチレンを抽出除去し、続いて直ちに100℃の熱水浴中で残存するトルエンを共沸させて除去したものを乾燥することで、目付295g/m、厚み0.8mmの人工皮革用基体を得た。得られた人工皮革用基体は柔軟な風合を有し、定荷重伸びは2%、残留歪みは1%以下であった。
得られた基体の平織物(S)側の表面を180番のサンドペーパーにより2回バフィングして、表面を平滑にしつつ厚みを0.7mmとした後、不織布(N)側の表面を240番のサンドペーパーで2回および400番のサンドペーパーで2回順次バフィングしてポリエチレンテレフタレート極細繊維からなる立毛面とし、染色前のスエード調人工皮革を得た。
次にこのスエード調人工皮革を80℃の熱水浴中へ浸漬し、20分間放置して、熱水になじませると同時にリラックスさせた後、高圧液流染色機を使用し、浴比1:15で、分散染料での染色を行い、乾燥して、染色されたスエード調人工皮革を得た。得られたスエード調人工皮革の定荷重伸びは2%、残留歪みは1%以下であった。また、得られたスエード調人工皮革を座面全体の上張りに用いた椅子を作成し、1時間連続して着座使用した後で座面の状態を確認したところ、椅子の座面としての品位を大きく損なうような特段の歪み、しわは見られなかった。
【0026】
比較例1
経糸、緯糸共にポリウレタン付着処理を行わなかった糸を使用して平織物を作成し、またカレンダーロールプレス処理も行わなかった平織物を使用する以外は実施例1と同様の方法にて、人工皮革用基体を得た。得られた人工皮革用基体は柔軟な風合を有しており、定荷重伸びは6%、残留歪みは2%であった。次いで、この人工皮革用基体を用いて、実施例1と同様の方法で両面にバフィング処理を施し、また、染色処理を行って、染色されたスエード調人工皮革を製造した。得られたスエード調人工皮革は、定荷重伸びが8%、残留歪みが3%であった。得られたスエード調人工皮革について、実施例1と同様に、椅子の上張りに用いて着座使用後の状態を確認したところ、椅子の座面としての品位を大きく損なうような歪みやしわが着座使用直後に見られ、また、その歪みは数時間後にも残っているので回復性にも乏しいので、このスエード調人工皮革は、椅子の上張り用途には適さないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の人工皮革用基体は、長期間の使用後においても型崩れが少なく、ソフトな風合いを有する、乗物用座席、クッションシート、ソファー、椅子などのインテリア製品の上張材などに好適に用いられる人工皮革の基材に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織編物と不織布が積層され絡合一体化されている人工皮革用基体において、該織編物を構成している繊維同士の交点または糸同士の交点で固定されていることを特徴とする人工皮革用基体。
【請求項2】
交点での固定が接着剤によるものである請求項1に記載の人工皮革用基体。
【請求項3】
接着剤が、織編物を主体的に構成している繊維の融点よりも低融点の樹脂からなる請求項2に記載の人工皮革用基体。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の人工皮革用基体の表面を起毛して得られるスエード調人工皮革。
【請求項5】
請求項1〜3に記載の人工皮革用基体の表面に被覆層を形成して得られる銀付き調人工皮革.
【請求項6】
請求項4に記載のスエード調人工皮革または請求項5に記載の銀付き調人工皮革を少なくとも座面の上張り素材として用いた製品。
【請求項7】
下記(1)〜(3)の工程を、(1)(2)(3)、または(1)(3)(2)の順で行うことを特徴とする人工皮革用基体の製造方法。
(1)織編物(S)を主体的に構成している繊維の融点よりも低い融点の接着剤樹脂(R)が、織編物(S)を主体的に構成している繊維同士の交点または糸同士の交点に付与されている織編物(S)を製造する工程
(2)織編物(S)と不織布(N)またはウエブを積層し、絡合一体化する工程
(3)少なくとも接着剤樹脂(R)の融点よりも高い温度で織編物(S)を加熱処理する工程

【公開番号】特開2006−348434(P2006−348434A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178196(P2005−178196)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】