説明

人工網膜及びその製造方法

【課題】 曲面状の可撓性材質上に簡易に人工網膜を製造する方法を提案する。
【解決手段】 本発明の人工網膜の製造方法では、人工網膜(NVC)を構成する複数の薄膜デバイス(A1〜A4)を曲面状の可撓性材質(60)上に剥離転写しながら順次積層し、人工網膜(NVC)を製造する。この方法によれば、シリコンウエハを用いた従来技術と比較して製造工程を簡易化できる。また、曲面状の可撓性材質(60)上であっても、容易に人工網膜を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工網膜及びその製造方法に関し、特に、剥離転写法を用いた人工網膜の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、網膜色素変性症や黄斑変性症等の疾病によって損傷した網膜に替わって光の信号を検出し、視神経に情報を伝達する人工網膜(人工臓器)の開発が検討されている。例えば、網膜は眼底部の非常に薄い部分の中に複数の機能を有する細胞(視細胞、水平細胞、双極細胞、神経節細胞)から構成されているので、これらの細胞の生理学的な研究等によって明らかにされたメカニズムを取り入れた新しい情報処理システムをLSIチップによって細胞と同様の機能別に実現し、これらLSIチップを3次元的に積層することで人工網膜を製造することが提案されている(非特許文献1,2)。
【非特許文献1】http://www.sd.mech.tohoku.ac.jp/research/vision/
【非特許文献2】semiconductor FPD World 2002.1 P40
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の非特許文献に開示されている手法でLSIチップを3次元的に積層するには、シリコンウエハを貫通する埋め込み配線の形成、シリコンウエハの薄膜化のための研磨、積層基板間の接続のための微細なバンプ形成、LSIチップの張り合わせにおける精密な位置合わせ、製造工程に耐えられる接着技術の確立など様々な技術的課題が残されている。
【0004】
更に、眼球底部に人工網膜を埋め込むには、曲面状の可撓性材質に人工網膜を形成する技術の確立が必要であるが、上述の非特許文献に開示されている手法ではそのような可撓性材質に人工網膜を形成するのは困難である。
【0005】
そこで、本発明は曲面状の可撓性材質上に簡易に人工網膜を製造する技術を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の人工網膜の製造方法では、人工網膜を構成する複数の薄膜デバイスを曲面状の可撓性材質上に剥離転写しながら順次積層し、人工網膜を製造する。人工網膜を構成する薄膜デバイスを剥離転写しながら積層することにより人工網膜を製造できるので、シリコンウエハを用いた従来技術と比較して製造工程を簡易化できる。また、曲面状の可撓性材質上であっても、容易に人工網膜を製造できる。ここで、「薄膜デバイス」とは、人工網膜を構成する機能素子をいい、例えば、光電変換素子、画素回路、増幅素子、及びパルス変調回路等がこれに該当する。これらの薄膜デバイスは例えばポリシリコンTFT、フォトダイオード等の回路素子によって構成される。
【0007】
本発明の人工網膜の製造方法では、入射光を電気信号に変換する光電変換素子、光電変換素子を駆動する画素回路、光電変換素子によって光電変換された電気信号を増幅する増幅素子、及び増幅素子によって増幅された電気信号をパルス変調して人体の視神経にパルス信号を供給するパルス変調回路を曲面状の可撓性材質上に剥離転写しながら順次積層し、人工網膜を製造する。人工網膜を構成する光電変換素子、画素回路、増幅素子、及びパルス変調回路を剥離転写しながら積層することにより人工網膜を製造できるので、シリコンウエハを用いた従来技術と比較して製造工程を簡易化できる。
【0008】
本発明の人工網膜の製造方法では、入射光を電気信号に変換する光電変換素子、光電変換素子を駆動する画素回路、光電変換素子によって光電変換された電気信号を増幅する増幅素子、及び増幅素子によって増幅された電気信号をパルス変調して人体の視神経にパルス信号を供給するパルス変調回路から成る人工網膜を曲面状の可撓性材質上に製造する方法であって、第1基板上に形成されたパルス変調回路を仮基板上に剥離転写する工程と、第2基板上に形成された増幅素子を仮基板上に剥離転写されたパルス変調回路上に剥離転写して積層する工程と、第3基板上に形成された画素回路を仮基板上に積層された増幅素子上に剥離転写して積層する工程と、第4基板上に形成された光電変換素子を仮基板上に積層された画素回路上に剥離転写して人工網膜を形成する工程と、仮基板上に形成された人工網膜を曲面状の可撓性材質上に剥離転写する工程とを備える。人工網膜を構成する光電変換素子、画素回路、増幅素子、及びパルス変調回路を剥離転写しながら積層することにより人工網膜を製造できるので、シリコンウエハを用いた従来技術と比較して製造工程を簡易化できる。
【0009】
本発明の人工網膜の製造方法では、入射光を電気信号に変換する光電変換素子、光電変換素子を駆動する画素回路、光電変換素子によって光電変換された電気信号を増幅する増幅素子、及び増幅素子によって増幅された電気信号をパルス変調して人体の視神経にパルス信号を供給するパルス変調回路から成る人工網膜を曲面状の可撓性材質上に製造する方法であって、第1基板上に形成されたパルス変調回路を仮基板上に剥離転写する工程と、第2基板上に形成された増幅素子を仮基板上に剥離転写されたパルス変調回路上に剥離転写して積層する工程と、第3基板上に形成された画素回路と光電変換素子を仮基板上に積層された増幅素子上に剥離転写して人工網膜を形成する工程と、仮基板上に形成された人工網膜を曲面状の可撓性材質上に剥離転写する工程とを備える。画素回路と光電変換素子を同一レイヤに形成することで、剥離転写回数を低減し、人工網膜の製造工程をより簡易化できる。
【0010】
本発明の人工網膜は、人工網膜を構成する複数の薄膜デバイスが曲面状の可撓性材質上に剥離転写されることによって積層されて成る。曲面状の可撓性材質上に人口網膜を形成することで、眼球への人工網膜の埋め込みが容易になる。
【0011】
本発明の人工網膜は、入射光を電気信号に変換する光電変換素子、光電変換素子を駆動する画素回路、光電変換素子によって光電変換された電気信号を増幅する増幅素子、及び増幅素子によって増幅された電気信号をパルス変調して人体の視神経にパルス信号を供給するパルス変調回路が曲面状の可撓性材質上に剥離転写されることによって積層されて成る。曲面状の可撓性材質上に人口網膜を形成することで、眼球への人工網膜の埋め込みが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、各図を参照して本発明の実施例について説明する。本発明の人工網膜NVCは入射光を電気信号に変換する光電変換素子(フォトダイオードアレイ)A4と、光電変換素子A4を駆動する画素回路(駆動回路)A3と、光電変換素子A4によって光電変換された電気信号を増幅する増幅素子A2と、増幅素子A2によって増幅された電気信号をパルス変調して人体の視神経にパルス信号を供給するパルス変調回路(パルスモジュレータ)A1とを3次元的に積層した立体積層構造を備えている。パルス変調回路A1は神経節細胞回路に相当し、増幅素子A2及び画素回路A3は水平細胞回路及び双極細胞回路に相当し、光電変換素子A4は視細胞回路に相当する。人間の初期視覚機構は視細胞、水平細胞、及び双極細胞により構成されており、その仕組みを簡単に説明する。視細胞は光を受けると、受光部分のみが興奮し、その興奮は下層の水平細胞に伝達される。水平細胞は隣接する6つの水平細胞と平面的に結合しており、この結合を通した伝達のため、周囲の水平細胞の興奮はネットワークを伝わるようになだらかに変化する。更に、双極細胞は視細胞と水平細胞の両者と結合しており、視細胞と水平細胞との興奮強度の差に対応して興奮する。この興奮は更に下層に伝達され、最終的に脳に到達し、物体の認識が行われる。上述した薄膜デバイス(光電変換素子A4、画素回路A3、増幅素子A2、及びパルス変調回路A1)はこれらの細胞の生理学的な研究等によって明らかにされたメカニズムを取り入れた視覚情報処理システムとして構成されている。
【0013】
本発明では剥離転写法を用いてこれら4種類の薄膜デバイスを3次元的に積層することにより、人工網膜NVCを製造できる。ここで、4種類の薄膜デバイスの各々を単一レイヤに配して4層構造としてもよく(実施例1)、又は光電変換素子A4と画素回路A3を同一レイヤ(同一デバイス層)に含ませて、他の薄膜デバイス(パルス変調回路A1、増幅素子A2)の各々を単一レイヤに配することで3層構造としてもよい(実施例2)。また、これら4種類の薄膜デバイスの中から任意に選ばれた2以上の薄膜デバイスを同一レイヤに含ませて人工網膜NVCを製造してもよい。尚、本明細書で使用する用語「人工網膜」は「人工網膜チップ」、「人工網膜回路」、「人工網膜素子」と別称することもできる。
【実施例1】
【0014】
本実施例ではパルス変調回路A1を第1層目に配し、増幅素子A2を第2層目に配し、画素回路A3を第3層目に配し、光電変換素子A4を第4層目に配して、曲面状の可撓性材質上に剥離転写しながら順次積層し、人工網膜NVCを製造する(4層構造)。
【0015】
まず、第1基板(第1転写元基板)10上に形成されたパルス変調回路A1を仮基板50に仮接着する(図1(a))。パルス変調回路A1はシリコン酸化膜等の下地層12上に形成された薄膜トランジスタTr1等の各種の回路素子によって構成されている(ここでは薄膜トランジスタTr1のみを図示する。)。下地層12と第1基板10との間には剥離層11が形成されている。薄膜トランジスタTr1は下地層12上に形成されたシリコン層(チャネル領域14c、ドレイン領域14d、ソース領域14cを含む)14、シリコン層14を被覆するゲート絶縁膜13、ゲート絶縁膜13を介してチャネル領域14c上に形成されたゲート電極15g、層間絶縁膜16、薄膜トランジスタTr1と他の回路素子を接続する配線17等から構成される。ゲート電極15gと同一のレイヤには配線15が形成されている。薄膜トランジスタTr1の上層は平坦化膜18で被覆されている。平坦化膜18にはパルス変調回路A1と人体の視神経を電気的に接続するためのコンタクトホール18hが開口している。また、配線17にはパルス変調回路A1と増幅素子A2を接続するプラグ19が形成されている。一方、仮基板(転写先基板)50にはパルス変調回路A1を仮接着するための水溶性接着剤51が塗布されている。
【0016】
ここで、第1基板10としては、光透過性の材料で構成するのが望ましく、光透過率10%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。光透過率が低すぎると、照射光の減衰が大きくなり、剥離層11に層内剥離又は界面剥離を生じさせるには大きな照射エネルギーを要する。第1基板10はプロセス温度(350℃〜1000℃)よりも高い温歪点を有する材料で構成されているのが好ましく、例えば、石英ガラス、ソーダガラス、コーニング、日本電気ガラスOA−2等の耐熱ガラス、合成樹脂等が好適である。第1基板10の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1〜5.0mm程度の膜厚が好ましく、0.5〜5.0mm程度がより好ましい。透過光の光量を均一にするためには、第1基板10の厚みは均一であることが望ましい。
【0017】
剥離層11は、照射光の照射を受けて層内剥離及び/又は界面剥離を生じるよう構成された薄膜であり、照射光を受光することで、剥離層11を構成する物質の原子間又は分子間の結合力が消失又は減少するものである。層内剥離又は界面剥離を生じさせる起因としては、例えば、アブレーションや、気体放出などがある。アブレーションとは、照射光を吸収した固体材料が光化学的又は熱的に励起され、その表面や内部の原子又は分子の結合が切断されて放出することをいい、主に、剥離層11の構成材料の全部又は一部が溶融、蒸散などの相変化を伴う。剥離層11の組成としては、例えば、(1)非晶質シリコン、(2)酸化ケイ素、ケイ酸化合物、酸化チタン、チタン酸化物、酸化ジルコニウム、ジルコン酸化合物、酸化ランタン、ランタン酸化化合物などの各種酸化物セラミックス、誘電体、が挙げられる。半導体酸化ケイ素としては、SiO,SiO2,Si32などが挙げられ、ケイ酸化合物としては、例えば、K2SiO3,Li2SiO3,CaSiO3,ZrSiO4,Na2SiO3が挙げられる。酸化チタンとしては、TiO,Ti23,TiO2が挙げられ、チタン酸化合物としては、例えば、BaTiO4,BaTiO3,Ba2Ti920,BaTi511,SrTiO3,PbTiO3,MgTiO3,ZrTiO2,SnTiO4,Al2TiO5,FeTiO3が挙げられる。酸化ジルコニウムとしては、ZrO2が挙げられ、ジルコン酸化合物としては、例えば、BaZrO3,ZrSiO4,PbZrO3,MgZrO3,K2ZrO3が挙げられる。
【0018】
剥離層11として、この他にも、例えば、(3)PZT、PLZT、PLLZT、PBZT等のセラミックス、或いは強誘電体、(4)窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化チタン、などの窒化物セラミックス、(5)有機系高分子材料、(6)金属などが挙げられる。有機系高分子材料としては、−CH2−,−CO−(ケトン),−CONH−(アミド),−NH−(イミド),−COO−(エステル),−N=N−(アゾ),−CH=N−(シフ)などの結合を有するもの、特にこれらの結合を多く有するものであれば特に限定されるものではない。また、有機系高分子材料は、構成式中に芳香族炭化水素を有するものであってもよい。このような有機系高分子材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、エポキシ樹脂などが好適である。また、金属としては、Al,Li,Ti,Mn,In,Sn,Y,La,Ce,Nd,Pr,Gd,Sm又はこれらのうち少なくとも1種を含む合金が挙げられる。
【0019】
剥離層11の膜厚としては、剥離層11の組成、層構成、形成方法などの諸条件で異なるが、1nm〜20μm程度が好ましく、10nm〜20μm程度がより好ましく、41nm〜1μm程度がさらに好ましい。剥離層11の膜厚が薄すぎると、成膜の均一性が損なわれ、剥離にムラが生じることがあり、一方、膜厚が厚すぎると、剥離層11の良好な剥離性を確保するために照射光の光量を多くする必要があるとともに、後工程で剥離層11を除去するのに時間を要する。剥離層11の形成方法は、特に限定されず、膜組成や膜厚などの諸条件に応じて適宜選択される。CVD、蒸着、分子線蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、PVDなどの各種気相成長法、電気めっき、浸漬めっき、無電界めっきなどの各種めっき法、ラングミュア・ブロジェット法、スピンコート、スプレーコート、ロールコート等の塗布法、各種印刷法、転写法、インクジェット法、粉末ジェット法、ゾル・ゲル法等が挙げられる。
【0020】
パルス変調回路A1を仮基板50に仮接着したならば、第1基板10の裏側から照射光90を照射して剥離層11に層内剥離又は界面剥離を誘起させる(図1(b))。すると、剥離層11の分子間結合が弱まるので、パルス変調回路A1が第1基板10から剥離する(図1(c))。照射光90としては、剥離層11の層内剥離又は界面剥離を生じさせるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、X線、紫外線、可視光、赤外線(熱線)、レーザ光、ミリ波、マイクロ波、電子線、放射線(α線、β線、γ線)等が挙げられ、アブレーションを生じさせ易いという点ではレーザ光が好適である。レーザ光としては、気体レーザ、固体レーザなどが挙げられるが、特に、エキシマレーザ、Nd−YAGレーザ、Arレーザ、CO2レーザ、He−Neレーザなどが好適である。エキシマレーザは、短波長で高エネルギーを出力するため、極めて短時間で剥離層11に層内剥離を生じさせることができる。剥離層11内にアブレーションを誘起させるために、波長依存性がある場合は、照射されるレーザ光の波長は100〜350nm程度が望ましい。また、剥離層11に、ガス放出、気化、昇華などの相変化を誘起して層内剥離若しくは界面剥離を生じさせるには、レーザ光の波長は350〜1200nm程度が望ましい。
【0021】
次いで、第2基板(第2転写元基板)20上に形成された増幅素子A2をパルス変調回路A1に剥離転写する(図2(a))。増幅素子A2は下地層22上に形成された薄膜トランジスタTr2等の各種の回路素子によって構成されている(ここでは薄膜トランジスタTr2のみを図示する。)。下地層22と第2基板20との間には剥離層21が形成されている。剥離層21の組成は剥離層11の組成と同様である。薄膜トランジスタTr2は下地層22上に形成されたシリコン層(チャネル領域24c、ドレイン領域24d、ソース領域24cを含む)24、シリコン層24を被覆するゲート絶縁膜23、ゲート絶縁膜23を介してチャネル領域24c上に形成されたゲート電極25g、層間絶縁膜26、薄膜トランジスタTr2と他の回路素子(増幅素子A2を構成する薄膜トランジスタやパルス変調回路A1など)を接続する配線27等から構成される。配線27には増幅素子A2と画素回路A3を接続するプラグ29が形成されている。増幅回路A2の接着面には異方性導電接着剤(異方性導電ペースト又は異方性導電フィルム)28が塗布されている。増幅素子A2をパルス変調回路A1に接着したならば、第2基板20の裏側から照射光90を照射して剥離層21に層内剥離又は界面剥離を誘起させる(図2(b))。すると、剥離層21の分子間結合が弱まるので、増幅素子A2が第2基板20から剥離する(図2(c))。
【0022】
次いで、第3基板(第3転写元基板)30上に形成された画素回路A3を増幅素子A2に剥離転写する(図3(a))。画素回路A3は下地層32上に形成された薄膜トランジスタTr3等の各種の回路素子によって構成されている(ここでは薄膜トランジスタTr3のみを図示する。)。下地層32と第3基板30との間には剥離層31が形成されている。剥離層31の組成は剥離層11の組成と同様である。薄膜トランジスタTr3は下地層32上に形成されたシリコン層(チャネル領域34c、ドレイン領域34d、ソース領域34cを含む)34、シリコン層34を被覆するゲート絶縁膜33、ゲート絶縁膜33を介してチャネル領域34c上に形成されたゲート電極35g、層間絶縁膜36、薄膜トランジスタTr3と他の回路素子(画素回路A3を構成する薄膜トランジスタや増幅素子A2など)を接続する配線37等から構成される。ゲート電極35gと同一のレイヤには配線35が形成されている。配線37には画素回路A3と光電変換素子A4を接続するプラグ39が形成されている。画素回路A3の接着面には異方性導電接着剤38が塗布されている。画素回路A3を増幅素子A2に接着したならば、第3基板30の裏側から照射光90を照射して剥離層31に層内剥離又は界面剥離を誘起させる(図3(b))。すると、剥離層31の分子間結合が弱まるので、画素回路A3が第3基板30から剥離する(図3(c))。
【0023】
次いで、第4基板(第4転写元基板)40上に形成された光電変換素子A4を画素回路A3に剥離転写する(図4(a))。光電変換素子A4は透明電極43、光電変換層44、及び電極45から成るフォトダイオードによって構成され、層間絶縁膜46によって絶縁されている。光電変換素子A4は剥離層41を介して下地層42上に形成されており、画素回路A3との接触面には異方性導電接着剤47が塗布されている。画素回路A3と光電変換素子A4を接着し、第4基板40の裏側から照射光90を照射して剥離層41に層内剥離又は界面剥離を誘起させる(図4(b))。すると、剥離層41の分子間結合が弱まるので、光電変換素子A4が第4基板40から剥離する(図4(c))。これにより、4種類の薄膜デバイス(パルス変調回路A1、増幅素子A2、画素回路A3、及び光電変換素子A4)が3次元的に積層されて成る人工網膜NVCが得られる。
【0024】
次いで、仮基板50上に仮接着されている人工網膜NVCを曲面状の可撓性材質60に接着する(図5(a))。可撓性材質60としては、適度な弾力性を有し、眼球に無害な材質ならば特に限定されることなく用いることができ、例えば、薄膜のプラスチックフィルム、樹脂膜等が好適である。可撓性材質60の接着面には予め接着剤61が塗布されている。人工網膜NVCを可撓性材質60上に接着後、水溶性接着剤51を水洗すると(図5(b))、人工網膜NVCは仮基板50から剥離する(図5(c))。このようにして得られた人工網膜NVCは眼球内部(例えば、神経網膜と網膜色素上皮との間)に埋め込むことにより視力回復を図ることができる。
【0025】
本実施例によれば、上述した剥離転写法を用いて人工網膜NVCを製造するので、シリコンウエハを用いた従来技術と比較して容易に人工網膜NVCを製造できる。特に、剥離転写法を用いることにより、あらゆる表面上への実装が容易になるので、曲面状の可撓性材質60上にも容易に人口網膜NVCを製造することが可能である。また、剥離転写法を用いることにより、各々の薄膜デバイスの製造工程を分離できるため、最適な製造条件下で各薄膜デバイスを製造することが可能となる。
【実施例2】
【0026】
本実施例ではパルス変調回路A1を第1層目に配し、増幅素子A2を第2層目に配し、画素回路A3と光電変換素子A4を第3層目に配して、曲面状の可撓性材質上に剥離転写しながら順次積層し、人工網膜NVCを製造する(3層構造)。
【0027】
まず、実施例1と同様に、仮基板50上にパルス変調回路A1と増幅素子A2を順次積層する。具体的な積層工程は図1、図2に示した通りである。一方、第5基板(第5転写元基板)70上には画素回路A3と光電変換素子A4を予め同一レイヤに形成する(図6(a))。画素回路A3を構成する薄膜トランジスタTr3は下地層72上に形成されたシリコン層(チャネル領域74c、ドレイン領域74d、ソース領域74cを含む)74、シリコン層74を被覆するゲート絶縁膜73、ゲート絶縁膜73を介してチャネル領域74c上に形成されたゲート電極75g、層間絶縁膜76、薄膜トランジスタTr3と他の回路素子(画素回路A3を構成する薄膜トランジスタや増幅素子A2など)を接続する配線77等から構成される。ゲート電極75gと同一のレイヤには配線75が形成されている。薄膜トランジスタTr3のソース電極は光電変換素子A4の光電変換層78に接続している。光電変換層78の上層には電極79が形成されている。これらの画素回路A3と光電変換素子A4は剥離層71を介して下地層72上に形成されており、増幅素子A2との接触面には異方性導電接着剤80が塗布されている。画素回路A3と光電変換素子A4を増幅素子A2に接着し、第5基板70の裏側から照射光90を照射して剥離層71に層内剥離又は界面剥離を誘起させる(図6(b))。すると、剥離層71の分子間結合が弱まるので画素回路A3と光電変換素子A4が第5基板70から剥離する(図6(c))。これにより、4種類の薄膜デバイスが3次元的に積層されて成る人工網膜NVCが得られる。次いで、仮基板50上に仮接着されている人工網膜NVCを曲面状の可撓性材質60に接着し(図7(a))、水溶性接着剤51を水洗すると(図7(b))、人工網膜NVCは仮基板50から剥離する(図7(c))。
【0028】
本実施例によれば、実施例1と比較して剥離転写回数を少なくできるため、位置ずれ等の転写不良による歩留まり低下を抑制できる。尚、本実施例では画素回路A3と光電変換素子A4を同一レイヤに配する構成としたが、2以上の任意の組み合わせから成る薄膜デバイスを同一レイヤに配してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の人工網膜の製造工程断面図である。
【図2】実施例1の人工網膜の製造工程断面図である。
【図3】実施例1の人工網膜の製造工程断面図である。
【図4】実施例1の人工網膜の製造工程断面図である。
【図5】実施例1の人工網膜の製造工程断面図である。
【図6】実施例2の人工網膜の製造工程断面図である。
【図7】実施例2の人工網膜の製造工程断面図である。
【符号の説明】
【0030】
NVC…人工網膜 A1…パルス変調回路 A2…増幅素子 A3…画素回路 A4…光電変換素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工網膜を構成する複数の薄膜デバイスを曲面状の可撓性材質上に剥離転写しながら順次積層し、人工網膜を製造する方法。
【請求項2】
入射光を電気信号に変換する光電変換素子、前記光電変換素子を駆動する画素回路、前記光電変換素子によって光電変換された電気信号を増幅する増幅素子、及び前記増幅素子によって増幅された電気信号をパルス変調して人体の視神経にパルス信号を供給するパルス変調回路を曲面状の可撓性材質上に剥離転写しながら順次積層し、人工網膜を製造する方法。
【請求項3】
入射光を電気信号に変換する光電変換素子、前記光電変換素子を駆動する画素回路、前記光電変換素子によって光電変換された電気信号を増幅する増幅素子、及び前記増幅素子によって増幅された電気信号をパルス変調して人体の視神経にパルス信号を供給するパルス変調回路から成る人工網膜を曲面状の可撓性材質上に製造する方法であって、第1基板上に形成された前記パルス変調回路を仮基板上に剥離転写する工程と、第2基板上に形成された前記増幅素子を前記仮基板上に剥離転写された前記パルス変調回路上に剥離転写して積層する工程と、第3基板上に形成された前記画素回路を前記仮基板上に積層された前記増幅素子上に剥離転写して積層する工程と、第4基板上に形成された前記光電変換素子を前記仮基板上に積層された前記画素回路上に剥離転写して人工網膜を形成する工程と、前記仮基板上に形成された人工網膜を曲面状の可撓性材質上に剥離転写する工程とを備える方法。
【請求項4】
入射光を電気信号に変換する光電変換素子、前記光電変換素子を駆動する画素回路、前記光電変換素子によって光電変換された電気信号を増幅する増幅素子、及び前記増幅素子によって増幅された電気信号をパルス変調して人体の視神経にパルス信号を供給するパルス変調回路から成る人工網膜を曲面状の可撓性材質上に製造する方法であって、第1基板上に形成された前記パルス変調回路を仮基板上に剥離転写する工程と、第2基板上に形成された前記増幅素子を前記仮基板上に剥離転写された前記パルス変調回路上に剥離転写して積層する工程と、第3基板上に形成された前記画素回路と前記光電変換素子を前記仮基板上に積層された前記増幅素子上に剥離転写して人工網膜を形成する工程と、前記仮基板上に形成された人工網膜を曲面状の可撓性材質上に剥離転写する工程とを備える方法。
【請求項5】
人工網膜を構成する複数の薄膜デバイスが曲面状の可撓性材質上に剥離転写されることによって積層されて成る人工網膜。
【請求項6】
入射光を電気信号に変換する光電変換素子、前記光電変換素子を駆動する画素回路、前記光電変換素子によって光電変換された電気信号を増幅する増幅素子、及び前記増幅素子によって増幅された電気信号をパルス変調して人体の視神経にパルス信号を供給するパルス変調回路が曲面状の可撓性材質上に剥離転写されることによって積層されて成る人工網膜。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−51164(P2006−51164A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234610(P2004−234610)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【Fターム(参考)】