説明

人工股関節用ライナー及びそれを用いた人工股関節

【課題】潤滑性が十分に向上でき、局所摩耗が起こりにくく、製造が容易で、且つ人工骨頭に傷を生じにくいライナーと、当該ライナーを用いた人工股関節を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、骨頭22を受容するための凹状の摺動面12を有する人工股関節用のライナー10であって、前記摺動面12は、人工股関節1の使用中において、前記骨頭22からの最大荷重を受ける最大荷重点Pが存在しうる高荷重領域14と、前記最大荷重点Pが存在しない低荷重領域15と、を含み、前記低荷重領域15の表面に陥凹部16が形成され、前記陥凹部16が前記摺動面12の辺縁121まで延びていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節用ライナー及びそれを用いた人工股関節に関し、特に、骨頭との潤滑性を改善できる人工股関節用ライナー及びそれを用いた人工股関節に関する。
【背景技術】
【0002】
疾患や事故等で股関節の機能が著しく低下した場合、股関節の機能を復活させるために、股関節を人工股関節に置換する人工股関節置換術が有効である。人工股関節は、寛骨臼に固定される半球状のライナーと、大腿骨に固定される球状の人工骨頭とを含んでいる。ライナーは凹部を有しており、当該凹部に人工骨頭を摺動可能に受容する。一般的な人工股関節では、ライナーを軟質材料であるポリマー(例えば超高分子量ポリエチレン又はポリエーテルエーテルケトン)から形成し、人工骨頭を硬質材料である金属又はセラミックスから形成しているため、長期間の使用により、ライナーが摩耗しやすい。
【0003】
そこで、ライナーの摩耗を抑制するために、ライナーの凹部の内面(摺動面)を球面状に研磨し、さらにライナーの摺動面の表面を親水性ポリマーで処理する等により、ライナーの摺動面と人工骨頭の表面との摩擦係数を低減している。
【0004】
近年、人工股関節の可動域を大きくし、且つ人工骨頭がライナーから離脱すること(いわゆる「脱臼」)を効果的に抑制するために、外径の大きな人工骨頭とライナーを組み合わせた人工股関節が開発されている。
しかしながら、人工骨頭の外径が大きくなると、人工骨頭の表面とライナーの接触面積が大きくなるため、ライナーの摩耗量が増加しやすい。また、人工骨頭の外径が大きくなると、小径の人工骨頭に比べて、中心角度あたりの表面の長さが長くなる。よって、同じ角速度で人工骨頭を摺動させたときに、大径の人工骨頭の表面での速度は、小径のものに比べて速くなる。その結果、ライナーの摩耗量はさらに増加しやすい。
【0005】
ライナーの摩耗を抑制するために、人工骨頭と同様の金属又はセラミックスからライナーを形成した人工股関節も開発されている。しかしながら、金属やセラミックスは摩擦係数が比較的大きく、また潤滑特性がそれほど良好ではない。そのため、ライナーと人工骨頭との間で、きゅっきゅっというきしみ音(スクイーキング)が発生しやすく、患者のQOL(Quality of Life)の観点から問題がある。
【0006】
ライナーの摩耗を抑制するための別の方法として、人工股関節の周囲にある関節液を、人工骨頭とライナーとの間に効率的に導入して、摩擦係数をさらに低減する試みがなされている。
第1の例として、人工骨頭又は臼蓋ソケット(ライナー)の相対摺動面に凹凸パターンを形成した人工股関節がある(例えば、特許文献1)。潤滑剤(関節液)がこの凹凸面に拘束され、かつ凹部が潤滑剤を供給する役割を果たすと共に凸部で荷重を受けるため、摺動面の潤滑性を長期間にわたり保持できる。
【0007】
第2の例として、人工臼窩(ライナー)の摺動面と人工骨頭の表面との両方に局部的な凹部を設け、且つ人工骨頭の凹部には合成樹脂を埋設した人工関節が知られている(例えば、特許文献2)。人工骨頭と人工臼窩とが加圧状態で摺動すると、骨頭の表面が弾性変形して骨頭に埋設された合成樹脂が盛り上がる。盛り上がった合成樹脂は、人工臼窩との摺動によって塑性変形して、骨頭の表面に固体潤滑膜を形成する。また、人工臼窩の凹部は、潤滑性の液体(関節液)を保持する機能を有する
【0008】
第3の例として、前記第1の例における凹部の代わりに、平面部が形成された人工骨頭を用いた人工股関節がある(例えば、特許文献3)。骨頭の表面(球面)と平面部との境界部分(エッジ)をアール又は面で面取りすることにより、エッジがソケット(ライナー)に食い込む(ガジリ)のが抑制され、且つ体液(関節液)が平面部に広がるのを遮断されることがない。
【0009】
第4の例として、寛骨臼シェル(ライナー)又は人工骨頭に内部通路を設けた人工股関節がある(例えば、特許文献4)。内部通路の直径は、0.127〜2.54mmと極めて細い。内部通路は寛骨臼シェル等の内部を通っており、関節空間に開口した入口と、関節面に開口した出口とを有している。関節空間内に含有される滑液(関節液)は、入口から内部通路を通って出口に達し、そこで関節面を潤滑する。
この例では、複雑な形状の寛骨臼シェル等を形成するために、まず、コンピュータ制御の3次元印刷技術を用いて鋳型を製造し、次いで、その鋳型に溶融金属又は金属合金を入れて鋳造する方法が採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3738750号公報
【特許文献2】特開平7−299086号公報
【特許文献3】特開2008−54809号公報
【特許文献4】特許第3726245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
第1〜第3の例では、ライナーに形成された凹部や平面部(これを「液溜まり」と称する)が独立している。すなわち、液溜まりは人工股関節の外部と繋がっていないため、外部にある関節液が液溜まりに補充されにくい。そのため、潤滑性を十分に向上できない恐れがある。
また、骨頭からの荷重を主に受けているライナー部分に、関節液を効率よく供給する目的から、液溜まりはこの部分に積極的に形成される。そのため、骨頭からの荷重が、液溜まり以外の面(凸面など)に集中することになり、凸面の局所摩耗を促進してしまう恐れがある。
さらに、液溜まりの縁部(エッジ)が面取りされていないライナー(例えば、第1〜第2の例)では、エッジに荷重がかかった状態で、エッジが人工骨頭の表面を引っ掻くため、人工骨頭の表面を傷付ける恐れがある。
【0012】
第4の例では、内部通路を形成するのが容易ではないため、内部通路を有するライナーの製造も非常に困難になる。また、製造方法による制限を受けるため、金属製のライナーに限定される。
また、第4の例でも、他の例と同様に、骨頭からの荷重を主に受けているライナー部分に、関節液を効率よく供給することを目的としているので、内部通路の出口はこの部分に積極的に形成される。そして、出口の縁部(エッジ)は面取りされていないので、エッジに荷重のかかった状態で、エッジが人工骨頭の表面を引っ掻くため、人工骨頭の表面を傷付ける恐れがある。
【0013】
そこで、本発明では、潤滑性が十分に向上でき、局所摩耗が起こりにくく、製造が容易で、且つ人工骨頭に傷を生じにくいライナーと、当該ライナーを用いた人工股関節を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、骨頭を受容するための凹状の摺動面を有する人工股関節用のライナーであって、前記摺動面は、人工股関節の使用中において、前記骨頭からの最大荷重を受ける最大荷重点が存在しうる高荷重領域と、前記最大荷重点が存在しない低荷重領域と、を含み、前記低荷重領域の表面に陥凹部が形成され、前記陥凹部が前記摺動面の辺縁まで延びていることを特徴とする。
【0015】
本発明では、陥凹部を通って関節液が摺動面に補給される。陥凹部は摺動部の縁部まで延びて、そこで外部(関節液で満たされている)と連絡する。関節液は、陥凹部に常に供給されるので、摺動面の潤滑性を十分に向上させることができる。
また、陥凹部は低荷重領域に形成されているので、高荷重領域に凹凸が形成されない。よって、凸部に荷重が偏在することはなく、凸部の局所摩耗を抑制できる。さらに、陥凹部のエッジに最大荷重がかかることはないので、エッジによる人工骨頭の表面損傷を抑制できる。
そして、陥凹部は低荷重領域の表面に設けられているので、陥凹部を備えたライナーを容易に製造できる。
【0016】
本願はさらに、本発明に係るライナーと、当該ライナーの摺動面に受容される人工骨頭とを含む人工股関節に係る発明も含む。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明のライナー及びそれを用いた人工股関節は、潤滑性が十分に向上でき、局所摩耗が起こりにくく、製造が容易で、且つ人工骨頭に傷を生じにくい効果をそうする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、人工股関節の概略部分断面図である。
【図2】図2は、人工股関節に使用されるライナーの概略斜視図である。
【図3】図3は、人工股関節に使用されるライナーの概略断面図である。
【図4】図4は、人工股関節に使用されるライナーの概略底面図である。
【図5】図5(a)人工股関節に使用されるライナーの斜視図断面図であり、図5(b)は、図5(a)を前方に回転させたライナーの斜視図断面図である。
【図6】図6(a)は、本発明に係るライナーの概略底面図であり、図6(b)は、図6(a)のX−X’線における概略断面図である。
【図7】図7(a)は、本発明に係る別のライナーの概略底面図であり、図7(b)は、図7(a)のY−Y’線における概略断面図であり、図7(c)は、図7(a)のV−V’線における概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」及び、それらの用語を含む別の用語)を用いる。それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一の部分又は部材を示す。
【0020】
図1は、左脚の股関節と置換された人工股関節1を示している。人工股関節1は、大腿骨91に固定される大腿骨コンポーネント20と、寛骨93に固定されるライナー10とを含んでいる。
人工股関節1は、自然な股関節と同様に関節包(図示せず)によって包まれている。そして、関節包中は、関節液によって満たされている。よって、人工股関節のうち、他の部材と接触していない部分(図1で外部に露出している部分であり、例えばライナー10の端面13など)は、関節液と接触している。
【0021】
大腿骨コンポーネント20は、大腿骨91の髄腔に挿入されるステム21と、ライナー10に受容される人工骨頭22を含んでいる。
【0022】
ライナー10は、図1及び図2に示すように半球状の形状を有しており、寛骨93の臼蓋94に骨セメント等で固定される外面11と、人工骨頭22を受容するための凹状の内面(摺動面)12とを備えている。
【0023】
図1のように、ライナー10は、端面13の面方位が外側下向きになるように、傾いた状態で臼蓋94に固定される。ライナー10の傾きは、以下のようにして決定される傾斜角度θ(図3参照)により規定される。ライナー10の端面13(図4のように、環状になっている)の中心を「基準点B」(図2〜図4参照)としたとき、基準点Bを通り端面13で規定される規定面13Sと垂直方向に延びる「基準線L」と、基準点Bを通り鉛直方向に延びる「鉛直線G」とのなす角度が、傾斜角度θである。傾斜角度θは、自然な臼蓋94の傾斜角度に合わせて決定するのが望ましい。一般的に、傾斜角度θ=30°〜60°(直立姿勢で測定)となるように固定される。
【0024】
本明細書では、ある姿勢において、摺動面12が人工骨頭22からの最大荷重を受ける点を「最大荷重点P」と称する。最大荷重点Pは、鉛直線Gと摺動面12との交点に位置する。上半身の姿勢によって、臼蓋94に固定されたライナー10の向きが変わるので、最大荷重点Pの位置も変動する。
例えば、図5(a)に示すように、上半身が直立姿勢の状態では、ライナー10の最大荷重点Pは点Pである。上半身を前屈すると、ライナー10は基準点Bを中心に前方向に回転する。例えば、図5(b)のように、ライナー10が角度αだけ前方に回転すると、最大荷重点Pは、点Pから点Pへと移動する。
【0025】
この他にも、上半身を後屈、側方に傾けるなどの上半身の動作により、最大荷重点Pは摺動面12上を回転移動する。一般生活で取る姿勢における最大荷重点Pを、摺動面12上にマッピングすると、領域14が規定できる(図3〜図4のハッチングした領域)。この最大荷重点Pが存在し得る領域14を、本明細書では「高荷重領域14」と称する。図4のように、高荷重領域14は、直立姿勢における最大荷重点P(点P)の周囲に広がっている。従来の人工股関節において、ライナー10の顕著な摩耗が起こる領域は、この高荷重領域14と概ね一致する。
摺動面12のうち、高荷重領域14を除く領域を、本明細書では「低荷重領域15」と称する。一般生活においては、低荷重領域15に最大荷重がかかることはない。
【0026】
図6(a)及び(b)に示すように、本発明では、ライナー10の端面13に接触している関節液を、摺動面12まで効率よく導入するために、低荷重領域15の表面に陥凹部16(摺動面12の表面に形成した凹み)が形成されている。
本発明では、陥凹部16を通って関節液が摺動面12に補給される。詳細には、ライナー10に人工骨頭22を受容したときに、ライナー10の陥凹部16と人工骨頭22の表面221との間に隙間ができる。この隙間が、関節液の液溜まりとして機能する。隙間に溜まった関節液は、接触した人工骨頭22の表面221を濡らし、人工骨頭22が摺動すると、濡れた人工骨頭22の表面221が、ライナー10の摺動面12を濡らす。このようにして、摺動面12の全体に(低荷重領域15のみならず、高荷重領域14にも)、関節液が広がる。
【0027】
本発明の陥凹部16は、摺動面12の辺縁121(摺動面12と端面13との境界)まで延びている。そのため、陥凹部16は端面13を介して外部に開口するので、関節液は陥凹部16に容易に流入する。よって、陥凹部16には関節液が常に供給され、摺動面12は、常に、十分に濡らされることになる。その結果、摺動面12の潤滑性を十分に向上させることができる。
【0028】
本発明のライナー10は、低荷重領域15に陥凹部16を形成している(すなわち、高荷重領域14には陥凹部16を形成していない)ので、高荷重領域14には凹凸が形成されない。よって、高荷重領域に凹凸を設けた従来のライナーの問題(凸部が局所摩耗されやすい)を回避することができる。
また、低荷重領域15に陥凹部16を形成しているので、陥凹部16の縁部(エッジ)に最大荷重がかかることはない。よって、エッジが人工骨頭22の表面221を引っ掻いて、表面221に傷をつけるのを抑制できる。
【0029】
本発明のライナー10では、陥凹部16は低荷重領域15の表面に設けられている(図6(b)参照)ので、外形を成形加工する公知の技術を用いて、陥凹部16を容易に形成できる。また、ライナー10の製造方法による材料の制限を受けないので、樹脂、金属、セラミックなどの材料を用いてライナー10を形成することができる。
【0030】
例えば、ライナー10を、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から形成することができる。本発明のライナー10によれば、高荷重領域14を十分に潤滑できるので、UHMWPEライナー及びPEEKライナーの問題点である「摩耗粉の発生」を効果的に抑制できる。UHMWPEライナー及びPEEKライナー10では、一般的なライナー(陥凹部16を有していない)を形成後に、陥凹部16を切削加工で形成できる。
【0031】
また、ライナー10を、チタン、チタン合金、コバルト−クロム合金などの金属や、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックスから形成することができる。本発明のライナー10によれば、高荷重領域14を十分に潤滑できるので、金属ライナー及びセラミックライナーの問題点である「きしみ音(スクイーキング)」を効果的に抑制できる。金属ライナー及びセラミックライナー10では、ライナー成形用の金型の表面に、陥凹部16に対応する凸部を設けることにより、ライナー10に陥凹部16を形成できる。
【0032】
本発明では、低荷重領域15に陥凹部16を形成しているので、陥凹部16の深さが深くても、人工骨頭22との摺動性に影響しにくい。例えば、陥凹部16の深さd(図6(b)参照)を0.1〜3mmにすることができる。これは、従来例(例えば特許文献1)の凹部の深さ1μm〜10μmに比べて、10〜3000倍も深い。陥凹部16の深さdを0.1〜3mmにすることにより、陥凹部16に保持できる関節液の量を、従来のライナーに比べて10〜3000倍にも増量できるので、摺動面12の潤滑に必要な関節液を、十分に供給できる。さらに、陥凹部16の深さdが深くなると、陥凹部16の開口部(外部に開口して部分)の面積が広くなり、関節液が陥凹部16内に出入りやすくなる、という効果もある。
【0033】
図6に、陥凹部16の好ましい形状の例を示す。
ライナー10の端面13側から観察したときに、円状に見える摺動面12の中心を、摺動面12の中心点Oとする。中心点Oを中心として摺動面12上に円弧を描いたときに、陥凹部16を横切る円弧の長さを「陥凹部16の幅W」と規定する(図6(a)参照)。
図6の例では、陥凹部16が人体の「舌」のような形状になっている。この舌状陥凹部161の特徴は、陥凹部16の幅Wが、摺動面12の辺縁121に向かって広くなっている点にある。これにより、舌状陥凹部161の開口部の面積がより広くなり、関節液が舌状陥凹部161の中に出入りしやすくなる。よって、舌状陥凹部161への関節液の供給が効率よく行われて、摺動面12の潤滑性を十分に向上させることができる。
【0034】
図7に、陥凹部16の別の好ましい形状の例を示す。
図7の例では、陥凹部16がU字状(図7(a)では逆U字になっている)の形状になっている。このU字状陥凹部162は、両端が辺縁121まで延びて外部に開口している(図7(c))。よって、U字状陥凹部162は、2個所で外部と連通している。
U字状陥凹部162は、舌状陥凹部161(図6(a))に比べて、開口部の面積は狭くなる。しかしながら。U字状陥凹部162は2個所で外部に開口しているため、一方の開口部から関節液が流入し、他方の開口部から流出する、というように、関節液をスムーズに流すことができる。よって、U字状陥凹部162への関節液の供給が効率よく行われて、摺動面12の潤滑性を十分に向上させることができる。
【0035】
図7のU字状陥凹部162は、舌状陥凹部161の辺縁121に非凹部17を設けたと見ることもできる(図7(a)、(b))。この非凹部17は、ライナー10に人工骨頭22を受容したとき、摺動面12の内部で人工骨頭22を安定させるのに寄与できる。
【0036】
図6の舌状陥凹部161は、非凹部17を形成しない分だけ、陥凹部16の面積を大きくしやすい。そのため、舌状陥凹部161は、摺動面12の面積が比較的小さく、陥凹部16の面積を確保しにくいライナー10(すなわち、小径の人工骨頭22と共に使用されるライナー10)に適している。
一方、図7のU字状陥凹部162は、摺動面12の面積が比較的大きく、陥凹部16の面積を確保しやすいライナー10(すなわち、大径の人工骨頭22と共に使用されるライナー10)に適している。
【0037】
陥凹部16の面積が広いほど、摺動面12の全体に関節液を供給することができる。その反面、陥凹部16の面積が広すぎれば、陥凹部16を除いた摺動面12の部分が狭くなりすぎて、ライナー10で人工骨頭22を安定して保持できない。そこで、陥凹部16の面積を、摺動面12の面積の3〜50%とすると、摺動面12への関節液の供給が十分に行え、且つ人工骨頭22の安定性も維持できるので好ましい。なお、本明細書において「摺動面12の面積」とは、陥凹部16を形成していない状態での摺動面12の面積を指す。
陥凹部16の面積が3%より小さいと、摺動面12への関節液の供給が不足しやすくなるので好ましくない。一方、陥凹部16の面積が50%より大きいと、人工骨頭22の安定性が低くなりやすいので好ましくない。
【0038】
陥凹部16が、高荷重領域14の近傍まで延びていると、高荷重領域14への関節液の供給が容易になるので好ましい。1つの目安として、陥凹部16を、摺動面12の中心(中心点O)まで延ばすのが好ましい。これにより、高荷重領域14に関節液が供給されやすくなる。
【0039】
本発明のライナー10と、人工骨頭22とを含む人工股関節1は、ライナー10に設けた陥凹部16により、高荷重領域14が十分に潤滑され、また人工骨頭22に傷がつきにくいので、ライナー10の摺動面12と、人工骨頭22の表面221との間の摺動がスムーズである。よって、股関節を動作させたときに股関節に違和感がなく、自然な動作が可能である。
また、本発明のライナー10を用いることにより、高荷重領域14の局所摩耗が抑制されるので、人工股関節1の寿命が長く、人工股関節1の再置換の頻度を低下させることができる。
さらに、本発明のライナー10が製造容易であることから、ライナー10のコストを抑制でき、結果として人工股関節1のコストも抑制することができる。
【0040】
骨頭22に用いる材料としては、コバルト−クロム合金等の生体安全性の高い金属材料や、アルミナ、ジルコニア等のセラミック材料が好適である。また、骨頭22の表面は、非常に滑らかにされており、ライナー10の摺動面12との摩擦係数を極力低くしている。
【0041】
本発明の人工股関節1は、骨頭22を大腿骨91に固定するためのステム21を含むことができる。ステム21は、湾曲した棒状の形状を有し、チタン合金やコバルト−クロム合金等の生体安全性の高い金属材料から成形されている。ステム21は、骨セメントを用いて大腿骨91に固定してもよい(セメントタイプのステム)し、または、ステム21の表面を粗面化して、その粗面と骨組織との結合力のみに依存してもよい(セメントレスタイプ)。
【0042】
本発明のライナー10を使用することにより、人工股関節1の寿命が延び、且つ人工股関節を使用している患者のQOLを向上させることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 人工股関節
10 ライナー
11 ライナーの外面
12 ライナーの内面(摺動面)
121 摺動面の辺縁
13 ライナーの端面
13S 端面で規定される規定面
14 高荷重領域
15 低荷重領域
16 陥凹部
161 舌状陥凹部
162 U字状陥凹部
20 大腿骨コンポーネント
21 ステム
22 人工骨頭
221 人工骨頭の表面
91 大腿骨
93 寛骨
94 臼蓋
17 非凹部
P,P,P 最大荷重点
O 中心点
L 基準線
θ 傾斜角
B 基準点
G 鉛直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨頭を受容するための凹状の摺動面を有する人工股関節用のライナーであって、
前記摺動面は、人工股関節の使用中において、前記骨頭からの最大荷重を受ける最大荷重点が存在しうる高荷重領域と、前記最大荷重点が存在しない低荷重領域と、を含み、
前記低荷重領域の表面に陥凹部が形成され、前記陥凹部が前記摺動面の辺縁まで延びていることを特徴とする人工股関節用ライナー。
【請求項2】
前記陥凹部の幅が、前記摺動面の前記辺縁に向かって広くなることを特徴とする請求項1に記載の人工股関節用ライナー
【請求項3】
前記陥凹部がU字状の経路を形成しており、前記経路の両端で外部と連通していることを特徴とする請求項1に記載の人工股関節用ライナー。
【請求項4】
前記陥凹部の面積が、前記摺動面の3〜50%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の人工股関節用ライナー。
【請求項5】
前記陥凹部が、前記摺動面の中心まで延びていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の人工股関節用ライナー。
【請求項6】
前記ライナーが、超高分子量ポリエチレン又はポリエーテルエーテルケトンから成ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の人工股関節用ライナー。
【請求項7】
前記ライナーが、セラミック材料又は金属材料から成ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の人工股関節用ライナー。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の人工股関節用ライナーと、
前記ライナーの前記摺動面に受容される人工骨頭と、を含む人工股関節。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−87712(P2011−87712A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242683(P2009−242683)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】