説明

人工血管

【課題】末梢に至るに従ってテーパ状に縮径している生体血管内に容易に挿入することができるとともに、挿入後において、生体血管に対するフィッティング性にも優れ、ステップワイズ遠位側吻合を行う際に、端部を管内にスムーズに折り込むことができ、管壁の厚みが均一で凹凸のないスムーズな折り返し部分(周縁)を形成することができる人工血管を提供すること。
【解決手段】外径が22mm以上の管状編織物にヒダを形成してなる人工血管であって、全長の60〜90%の領域において長さ方向に延びる縦ヒダ15が複数形成された第1部分10と、全長の40〜10%の領域において螺旋状の横ヒダ25が形成された第2部分20とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状編織物にヒダを形成してなる人工血管に関し、さらに詳しくは、テーパ状に縮径する生体血管内に容易に挿入することができるとともに、挿入後において、生体血管に対するフィッティング性にも優れた人工血管に関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈などの血管置換手術に使用する人工血管として、管状編織物からなるものが知られている。
管状編織物からなる人工血管には、体内での折れ曲がり(キンク)による潰れ(内腔の閉塞)などを防止するために、クリンプ加工が施されて螺旋状のヒダが形成されており、これにより、当該人工血管は蛇腹状となっている。
【0003】
ここに、クリンプ加工としては、例えば、熱可塑性樹脂繊維からなる管状編織物を丸棒表面に嵌め込み、この管状編織物の上から糸を等間隔で螺旋状に巻き付け、そのまま管状編織物を軸方向に圧縮して縮めることにより螺旋状のヒダを形成し、加熱してセットする方法(特許文献1参照)、熱可塑性樹脂繊維からなる管状編織物(平織したチューブ)を、表面が十分に研磨されたネジ棒に嵌め込み、ネジ溝に沿って適宜の糸を巻き付け、そのままの状態で加熱処理して熱セットする方法(特許文献2参照)などが紹介されている。クリンプ加工により螺旋状のヒダが形成された人工血管は、伸縮や曲がりに強く、人体の血管形状に適合しやすくなる。
【0004】
弓部大動脈を含む広範囲の大動脈病変(大動脈瘤)に対して、上記のような人工血管を用い、エレファントトランク法を併用した弓部大動脈全置換術が行われている。
ここに、「エレファントトランク法」は、生体血管に挿入した人工血管の末梢側を縫合しないで吹き流しの状態とする術式である。
エレファントトランク法を併用した弓部大動脈全置換術においては、弓部大動脈を分岐人工血管によって置換し、その下行側の生体血管(下行大動脈)内に人工血管を吹き流しの状態で挿入する。
なお、エレファントトランク法を併用した弓部大動脈全置換術(一期的治療)を行った後、必要に応じて、人工血管の末梢側の縫合を伴う下行大動脈置換術または経カテーテル的ステントグラフト治療などの二期的治療を行うこともある。
【0005】
一方、エレファントトランク法により下行大動脈(生体血管)に挿入された人工血管の上行側は、生体血管に対して縫合(吻合)される。
ここに、生体血管との好ましい吻合法として、ステップワイズ遠位側吻合が行われている。
この「ステップワイズ遠位側吻合」は、端部(例えば3cm程度)を内部に折り込んだ状態の人工血管を生体血管内に挿入し、この人工血管の折り返し部分(周縁)と、生体血管の開口縁とを吻合した後、折り込まれていた人工血管の端部を生体血管の開口から延び出させる方法である。
【0006】
人工血管の吻合方法としてステップワイズ遠位側吻合を採用することにより、生体血管の開口から端部が延び出た状態で人工血管を固定することができるため、この人工血管と接続すべき上行側の人工血管(例えば、弓部大動脈を置換するための分岐人工血管)との吻合操作を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3337673号明細書
【特許文献2】特開平1−155860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エレファントトランク法により下行大動脈に挿入する人工血管としては、これと上行側で接続する他の人工血管(例えば、弓部大動脈を置換するための分岐人工血管)と同程度の外径(例えば32mm)を有するものが使用される。
【0009】
然るに、下行大動脈などの生体血管は、末梢に至るに従ってテーパ状に縮径しているために、上行側の人工血管と同程度の外径を有する人工血管を生体血管に挿入すると、途中で人工血管を押し進めることができなくなり、無理に挿入しようとすると、生体血管からの外圧やキンクによって人工血管が潰れ、しわくちゃな状態で生体血管内に留置されることになる。そして、このような状態の人工血管によっては、血流を確保することができなくなり、また、ステントグラフト治療などの二期的治療を行うことも不可能となる。
【0010】
テーパ状に縮径する生体血管に挿入することにより発生するこのような問題は、クリンプ加工によって螺旋状のヒダが形成された人工血管であっても同様に発生する。
しかも、螺旋状のヒダが形成された蛇腹状の人工血管は、長さ方向(押込方向)に伸縮するために、生体血管内に挿入する際の押込力が先端に十分に伝達されない。
さらに、螺旋状のヒダが形成された人工血管は、潰れにくい反面、一旦潰れてしまうと、もとの断面形状(血流を確保するための内腔)を回復することは不可能またはきわめて困難である。
【0011】
この場合において、下行大動脈に挿入する人工血管の外径を、下行大動脈の末梢部位にも十分に挿入可能な外径(例えば20mm)とすることも考えられる。
しかし、そのような外径の小さな人工血管によっては、上行側の人工血管(外径が32mmの分岐人工血管)と接続することがきわめて困難となる。
【0012】
ここに、生体血管とのフィッティングが不良である場合には、逆流など血流に乱れが生じ、新たな血管障害を招くことが懸念される。
【0013】
一方、ステップワイズ遠位側吻合を行う場合に、螺旋状のヒダがあるために、人工血管の端部をスムーズに折り込むことができないという問題がある。
また、端部を折り込んだときの折り返し部分(周縁)には、螺旋状のヒダのある部分を折り返したことに起因して凹凸があらわれ、折り返し部分における管壁の厚みも不均一となるため、このような折り返し部分(周縁)を生体血管(開口)に縫合する操作はきわめて困難となる。
【0014】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の第1の目的は、末梢に至るに従ってテーパ状に縮径している生体血管内に容易に挿入することができるとともに、挿入後において、生体血管に対するフィッティング性にも優れた人工血管を提供することにある。
本発明の第2の目的は、エレファントトランク法を併用する弓部大動脈全置換術において、上行側の人工血管と容易に接続することができ、下行大動脈に容易に挿入することができるとともに、挿入後において、下行大動脈に対するフィッティング性にも優れた人工血管を提供することにある。
本発明の第3の目的は、ステップワイズ遠位側吻合を行う際に、端部を管内にスムーズに折り込むことができ、管壁の厚みが均一で凹凸のないスムーズな折り返し部分(周縁)を形成することができる人工血管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明の人工血管は、外径が22mm以上の管状編織物にヒダを形成してなる人工血管であって、
全長の50%以上の領域において、長さ方向に延びるヒダが、周方向に沿って複数形成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の人工血管を構成する管状編織物の外径は22mm以上であるため、大動脈などの血管置換手術に好適に使用することができ、この手術に使用する他の人工血管(例えば、弓部大動脈を置換するための分岐人工血管)と容易に接続することができる。
【0017】
本発明の人工血管の全長の50%以上の領域には、長さ方向に延びるヒダが、周方向に沿って複数形成されている。
従来の人工血管に形成された螺旋状のヒダは、管状編織物の周方向に延びる言わば「横ヒダ」であるのに対し、本発明の人工血管において管状編織物に複数形成されているヒダは、管状編織物の長さ方向に延びる言わば「縦ヒダ」である。
【0018】
そして、本発明の人工血管は、外径が22mm以上の管状編織物からなるものでありながら、長さ方向に延びるヒダ(縦ヒダ)が形成されていることによって折り畳まれた状態となり、見掛けの外径を小さくすることができる。
このため、テーパ状に縮径している生体血管に対して本発明の人工血管(縦ヒダの形成部分)を挿入しても、途中で押し進めることができなくなるようなことはなく、目的位置まで確実に挿入することができる。
また、縦ヒダによって挿入方向における剛性が高くなり、生体血管への押込性も優れたものとなる。
これにより、末梢に至るに従ってテーパ状に縮径している生体血管内に、本発明の人工血管を確実かつ容易に挿入することが可能になる。
【0019】
本発明の人工血管を生体血管に挿入した後、その内腔に血液を流して血圧を掛けることにより、形成されていた縦ヒダが展開して、縦ヒダの形成部分が拡径する(折り畳まれた状態から元の管状編織物の外径のサイズに戻ろうとする)。これにより、人工血管の外周が生体血管の内壁に当接する。すなわち、縦ヒダの形成部分では、テーパ状に縮径している生体血管の内壁に当接するまで人工血管を拡径することができ、この結果、本発明の人工血管は、これを挿入した生体血管に対する優れたフィッティング性を発現することができる。
また、生体血管内に挿入された後の本発明の人工血管には十分な内腔が確保されており、二期的治療としてのステントグラフトの挿入操作などを容易に行うことができる。
【0020】
また、長さ方向に延びるヒダ(縦ヒダ)の形成部分で折り返すことによれば、螺旋状のヒダの形成部分で折り返す場合と比較して、人工血管の端部を管内にスムーズに折り込むことができ、管壁の厚みが均一で、凹凸のない、生体血管との吻合に好適な折り返し部分(周縁)を形成することができる。従って、本発明の人工血管は、ステップワイズ遠位側吻合を行う場合にも好適である。
【0021】
(2)本発明の人工血管には、全長の50%未満の領域において、螺旋状のヒダが形成されていることが好ましい。
このような構成の人工血管によれば、螺旋状のヒダ(横ヒダ)により、折れ曲がりによる潰れなどを防止することができるとともに、ステップワイズ遠位側吻合を行う場合に、長さ方向に延びるヒダ(縦ヒダ)の形成部分と、螺旋状のヒダの形成部分との境界を折り返し部分として、縦ヒダの形成部分の内部(管内)に、螺旋状のヒダの形成部分(端部)をスムーズに折り込むことができ、管壁の厚みが均一で、凹凸のない、生体血管との吻合に好適な折り返し部分(周縁)を形成することができる。
【0022】
(3)上記(2)の人工血管において、全長の60〜90%の領域において長さ方向に延びるヒダ(縦ヒダ)が複数形成された第1部分と、全長の40〜10%の領域において螺旋状のヒダ(横ヒダ)が形成された第2部分とを有することが好ましい。
このような構成の人工血管によれば、ステップワイズ遠位側吻合を行う場合に、第1部分と第2部分との境界を折り返し部分として、第1部分の内部(管内)に、第2部分(端部)をスムーズに折り込むことができ、管壁の厚みが均一で、凹凸のない、生体血管との吻合に好適な折り返し部分(周縁)を形成することができる。
【0023】
(4)上記(3)の人工血管において、第1部分の端部(第2部分が接続されている端部とは反対側の端部)に、前記管状編織物より外径の小さい管状編織物よりなる小径人工血管部を接続してなることが好ましい。
小径人工血管部により、末梢側にある細い生体血管との縫合操作を容易に行うことができる。
【0024】
(5)本発明の人工血管には、全長の50%未満の領域において、同心円状のヒダが複数形成されていてもよい。
【0025】
(6)上記(5)の人工血管において、全長の60〜90%の領域において長さ方向に延びるヒダ(縦ヒダ)が複数形成された第1部分と、全長の40〜10%の領域において同心円状のヒダ(横ヒダ)が複数形成された第2部分とを有していてもよい。
【0026】
(7)本発明の人工血管は、エレファントトランク法により下行大動脈に挿入されるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の人工血管は、末梢に至るに従ってテーパ状に縮径している生体血管内に容易に挿入することができるとともに、挿入後において、生体血管に対するフィッティング性にも優れている。
本発明の人工血管は、エレファントトランク法を併用する弓部大動脈全置換術において、上行側の人工血管(例えば、弓部大動脈を置換するための分岐人工血管)と容易に接続することができる。しかも、末梢に至るに従ってテーパ状に縮径する下行大動脈に容易に挿入することができるとともに、挿入後において、下行大動脈に対するフィッティング性にも優れている。
本発明の人工血管は、ステップワイズ遠位側吻合を行う際に、端部を管内にスムーズに折り込むことができ、管壁の厚みが均一で凹凸のないスムーズな折り返し部分(周縁)を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の人工血管の一実施形態を模式的に示す説明図である。
【図2】図1に示した人工血管のA−A断面である。
【図3】図1に示した人工血管の使用態様(端部を管内へ折り込む操作)を模式的に示す説明図である。
【図4】図1に示した人工血管の使用態様(生体血管への挿入操作)を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明の人工血管の他の実施形態を模式的に示す説明図である。
【図6】本発明の人工血管の更に他の実施形態を模式的に示す説明図である。
【図7】本発明の人工血管の更に他の実施形態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1実施形態>
図1および図2に示す本実施形態の人工血管100は、エレファントトランク法を併用する弓部大動脈全置換術において、エレファントトランク法により下行大動脈に挿入される。
【0030】
この人工血管100は、管状編織物にヒダを形成してなる人工血管であって、長さ方向に延びる12本のヒダ(縦ヒダ15)が、周方向に沿って一定間隔で形成されている第1部分10と、螺旋状のヒダ(横ヒダ25)が形成されている第2部分20とによって構成される。また、第1部分10は、外径が一定である主要部11と、外径が変化するテーパ部12とからなる。
【0031】
本実施形態の人工血管100を構成する管状編織物としては、熱可塑性樹脂繊維の織物または編物からなる管状物を用いることができ、熱可塑性樹脂繊維の平織物を好適に用いることができる。
管状編織物の壁厚としては1mm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜0.5mmである。
【0032】
熱可塑性樹脂繊維を形成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体などのポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリシクロヘキサンテレフタレート,ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル、PTFEやETFEなどのフッ素樹脂などを挙げることができる。これらのうち、化学的に安定で耐久性が良好で、組織反応の少ない、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、PTFEやETFEなどのフッ素樹脂が好ましく、特に好ましくは、重量平均分子量1万〜20万、特に重量平均分子量3万〜10万のポリエステルである。
【0033】
熱可塑性樹脂繊維としては、0.5〜5デニールのモノフィラメントを数〜数百本撚った糸を用いることができる。
熱可塑性樹脂繊維は、ヘパリン、コラーゲン、アセチルサリチル酸、ゼラチン等の抗血栓性材料で被覆処理されていてもよい。
【0034】
管状編織物の外径は、通常22mm以上とされ、好ましくは22〜34mmとされる。外径が22mm以上の管状編織物を用いることにより、大動脈などの血管置換手術に好適に使用できる人工血管を構成することができ、この人工血管を下行大動脈に挿入する場合において、上行側の人工血管(例えば、弓部大動脈を置換するために用いる分岐人工血管)と確実に接続することができる。
【0035】
人工血管100を構成する第1部分10は、その外径が一定である主要部11と、外径が変化するテーパ部12とからなる。
テーパ部12は、全長の一部に縦ヒダ15を形成する場合に必然的に形成される部分である。
ここに、第1部分10(主要部11およびテーパ部12)の外径は、縦ヒダ15の山部(頂部)を基準とした見掛けの外径であり、第1部分10の横断面の形状に外接する円の直径に相当する。
【0036】
第1部分10(主要部11およびテーパ部12)には、12本の縦ヒダ15(12本の山部と、12本の谷部)が、周方向に沿って等角度間隔で形成されている。
なお、縦ヒダの数は特に限定されるものではなく適宜変更することができる。縦ヒダの数は4〜32本であることが好ましく、更に好ましくは8〜16本である。
【0037】
縦ヒダ15が形成されていることにより、第1部分10における外径(見掛けの外径)を小さくすることができる。
主要部11における縦ヒダ15の高さ(山部と谷部との高低差)としては1〜5mmであることが好ましい。
縦ヒダ15の高さが過小である場合には、第1部分10(主要部11)の外径を十分に小さくすることができず、テーパ状に縮径する下行大動脈に挿入する操作をスムーズに行うことができなくなる。
一方、縦ヒダ15の高さが過大である場合には、第1部分10における内腔が狭くなり過ぎて、十分な血流を確保することができなくなるおそれがある。
テーパ部12における縦ヒダ15の高さは、第2部分20に近い(外径が大きくなる)ほど小さくなる。
【0038】
主要部11における縦ヒダ15のピッチとしては1〜5mmであることが好ましい。
テーパ部12における縦ヒダ15のピッチは、第2部分20に近いほど大きくなる。
なお、図2(A−A断面図)において、テーパ部12における縦ヒダ15の図示を省略している。
【0039】
主要部11の外径(d)は、下行大動脈(末梢に至るに従ってテーパ状に縮径する生体血管)に容易に挿入することができ、かつ、挿入後において内腔に血圧を掛けたときに、生体血管に対して良好なフィッティング性を確保する観点から14〜20mmであることが好ましく、好適な一例を示せば20mmである。
【0040】
本実施形態の人工血管100の第2部分20には、螺旋状のヒダ(横ヒダ25)が形成されている。横ヒダ25が形成されている第2部分20は、伸縮や曲がりに強く、人体の血管形状に適合しやすくなる。
【0041】
第2部分20における横ヒダ25の高さ(山部と谷部との高低差)としては0.5〜3mmであることが好ましい。また、横ヒダ25のピッチとしては1〜3mmであることが好ましい。
【0042】
第2部分20の外径(D)は、上行側の人工血管(例えば、弓部大動脈を置換するための分岐人工血管)と確実に接続するという観点から22〜34mmであることが好ましく、更に好ましくは22〜32mmであり、好適な一例を示せば32mmである。
ここに、第2部分20の外径(D)は、横ヒダ25の山部(頂部)を基準とした見掛けの外径である。
【0043】
テーパ状に縮径する生体血管内に人工血管100(第1部分10)を容易に挿入させるために、第2部分20の外径に対する主要部11の外径の比(d/D)は、0.9以下であることが好ましく、更に好ましくは0.8〜0.5である。
【0044】
本実施形態の人工血管100の長さ(L100 )は、100mm以上であることが好ましく、更に好ましくは150〜300mmとされる。
【0045】
第1部分10の長さ(L10)は、下行大動脈(瘤)に挿入するために必要な長さであり、具体的には50mm以上であることが好ましく、更に好ましくは50〜200mmである。
【0046】
人工血管100の全長に対する第1部分10の長さの割合(L10/L100 )は、50%以上であることが必要であり、好ましくは60〜90%とされる。
この割合が50%未満では、下行大動脈(瘤)に挿入するために必要な第1部分10の長さを確保することができなくなり、長さ方向に延びる縦ヒダ15による効果を十分に発揮することができない。
また、この割合が50%未満で折り返し操作を行うと、内側に折り返された人工血管によって縦ヒダが伸び、第1部分の外径が大きくなり、生体血管への挿入が難しくなる虞がある。
【0047】
主要部11の長さ(L11)は30mm以上であることが好ましく、更に好ましくは100〜200mmである。
また、テーパ部12の長さ(L12)は30mm以下であることが好ましく、更に好ましくは10〜20mmである。
第2部分20の長さ(L20)は50mm未満であることが好ましく、更に好ましくは10〜20mmである。
第2部分20の長さ(L20)が過大である人工血管では、ステップワイズ遠位側吻合を行う場合に、横ヒダの形成部分で折り返すことになり、この人工血管の端部をスムーズに折り込むことができなくなる。
【0048】
人工血管100の全長に対する第2部分20の長さの割合(L20/L100 )は、50%未満であることが必要であり、好ましくは40〜5%とされる。
この割合が50%を超えると、第1部分10の長さの割合(L10/L100 )が50%未満となり、下行大動脈(瘤)に挿入する第1部分10の長さを十分に確保することができない。
【0049】
以下、本実施形態の人工血管100をエレファントトランク法によって生体血管へ挿入する操作について説明する。
【0050】
先ず、図3(a)に示す人工血管100の第2部分20(端部)を、第1部分10(テーパ部12)との境界線p上で内側に折り返し(反転させ)、同図(b)に示すように、第1部分10の内部に折り込む。
ここで、折り返し部分となる境界線pは、人工血管100の管軸方向に垂直な平面上にあり、しかも、境界線pにおける縦ヒダ15の高さは殆ど0に近い(縦ヒダも殆ど存在しない)。従って、境界線p上で折り返すことにより、第1部分10の内部に第2部分20をスムーズに折り込むことができ、管壁の厚みが均一で、凹凸のない、生体血管との吻合に好適な折り返し部分(周縁)を形成することができる。
【0051】
次に、図4(a)に示すように、第2部分20が折り込まれた状態の人工血管100を、第1部分10側から生体血管50(末梢に至るに従ってテーパ状に縮径している下行大動脈)内に挿入し、折り返し部分と生体血管50の開口縁51とが吻合可能になるまで、人工血管100を生体血管50内に押し込んだ後、同図(b)に示すように、折り返し部分(周縁)と、生体血管50の開口縁51とを縫合糸Sにより吻合(ステップワイズ遠位側吻合)する。
【0052】
ここで、人工血管100の第1部分10(主要部11)は、縦ヒダ15が形成されていることによって折り畳まれた状態となり、見掛けの外径が小さくなっている。また、この状態から更に折り畳む(例えば、縦ヒダ15を周方向に折り曲げたり、第1部分10の内腔を縮小したりする)ことも可能である。このように外径を小さくできるのは長さ方向に延びる縦ヒダ15だからであって、螺旋状のヒダを形成しても、その部分の外径を小さくすることができない。
さらに、第1部分10(主要部11)は、縦ヒダ15が形成されていることにより挿入方向の剛性も高くなっているので、生体血管50内への人工血管100の押込性も優れたものとなる。
このように、第1部分10における見掛けの外径が小さく、しかも、押込性にも優れていることから、人工血管100を、目的位置(折り返し部分と生体血管50の開口51との吻合が可能となる位置)まで確実かつ容易に挿入することができる。
【0053】
次に、図4(c)に示すように、第1部分10の内部に折り込まれていた第2部分20を、もとの状態に戻すことにより、生体血管50の開口から延び出させる。
これにより、第2部分20が生体血管50の開口から延び出た状態で人工血管100を固定することができるため、この人工血管100を、上行側の人工血管(例えば、弓部大動脈を置換するための分岐人工血管)に対して容易に接続することができる。
【0054】
ここで、生体血管50内に挿入されている第1部分10(主要部11)は、図4(d)に示すように、縦ヒダ15が形成されて見掛けの外径が小さい状態であり、第1部分10と生体血管50の内壁との間には隙間Gが存在している。
【0055】
次に、この人工血管100(第2部分20)に上行側の人工血管を接続した後、内腔に血液を流して血圧を掛ける。これにより、図4(e)および(f)に示すように、第1部分10に形成されていた縦ヒダ15が展開し(もとの管状編織物の外径に戻ろうとし)、第1部分10は、その外周面が生体血管50の内壁に当接するまで拡径する。この結果、生体血管50内における人工血管100(第1部分10)の形状は、生体血管50の形状(個体差のあるテーパ形状)に合致したものとなり、生体血管50に対する優れたフィッティング性が発現される。
【0056】
本実施形態の人工血管100は、外径が22mm以上の管状編織物からなるものであるため、上行側の人工血管と容易に接続することができる。
しかも、本実施形態の人工血管100は、比較的外径の大きい管状編織物からなるものでありながら、縦ヒダ15が形成されている第1部分10において見掛けの外径を小さくすることができる。このため、本実施形態の人工血管100(第1部分10)を、テーパ状に縮径している生体血管に挿入しても、途中で押し進められなくなるようなことはなく、目的位置まで確実に挿入することができる。また、縦ヒダ15により挿入方向における剛性が高くなり、生体血管への押込性も優れたものとなる。これにより、テーパ状に縮径している生体血管(下行大動脈)に対して、本実施形態の人工血管100を確実かつ容易に挿入することができる。
【0057】
そして、この人工血管100をエレファントトランク法によって生体血管に挿入した後、その内腔に血液を流して血圧を掛けることにより、縦ヒダ15が展開して第1部分10の外径が拡大する。このように外径を拡大できるのは長さ方向に延びる縦ヒダ15だからであって、螺旋状のヒダが形成されている人工血管の内腔に血圧を掛けても、その外径は殆ど拡大することはない。
そして、第1部分10の拡径によって外周が生体血管の内壁に当接することにより、本実施形態の人工血管100を挿入した生体血管(下行大動脈)に対する優れたフィッティング性が発現される。
また、生体血管内に挿入された後の人工血管100には十分な内腔が確保されており、二期的治療としてのステントグラフトの挿入操作などを容易に行うことができる。
【0058】
更に、人工血管100の第2部分20を、第1部分10との境界線p上で折り返すことにより、第2部分20を、第1部分10の内側(管内)にスムーズに折り込むことができ、管壁の厚みが均一で、凹凸のない、生体血管との吻合に好適な折り返し部分(周縁)を形成することができる。従って、この人工血管100は、ステップワイズ遠位側吻合を行う場合にも好適である。
【0059】
<第2実施形態>
図5に示す人工血管110は、第1実施形態の人工血管100と同一構成のものに、これを構成する管状編織物より外径の小さい管状編織物よりなる小径人工血管部30が接続されてなる。
図5において、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を用いている。
【0060】
本実施形態の人工血管110を構成する小径人工血管部30は、第1部分10の末梢側端部に接続され、この小径人工血管部30には螺旋状のヒダ(横ヒダ35)が形成されている。
横ヒダ35の高さ(山部と谷部との高低差)としては0.5〜3mmであることが好ましい。また、横ヒダ35のピッチとしては1〜5mmであることが好ましい。
【0061】
小径人工血管部30の外径(d’)は、末梢側の生体血管などに接続するという観点から16〜22mmであることが好ましく、好適な一例を示せば20mmである。
ここに、小径人工血管部30の外径(d’)は、横ヒダ35の山部(頂部)を基準とした見掛けの外径である。
小径人工血管部30の長さ(L30)は10〜100mmであることが好ましく、更に好ましくは30〜50mmである。
【0062】
本実施形態の人工血管110は、弓部大動脈全置換術後の二期的治療として行われる末梢側の縫合を伴う下行大動脈置換術などに好適に用いることができる。
すなわち、末梢側の生体血管と縫合する場合に、外径が22mm以上の管状編織物からなる人工血管を、比較的外径の小さい末梢側の生体血管と縫合することは困難であるため、第1部分10の末梢側端部に小径人工血管部30が接続された人工血管110を用いることにより、末梢側の生体血管との縫合操作を容易に行うことができる。
【0063】
以上、本発明の人工血管の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
例えば、螺旋状のヒダは必須ではなく、図6(a)に示すように、螺旋状のヒダのない第2部分22を有する人工血管120、同図(b)に示すように、長さ方向に延びる縦ヒダが形成された部分のみからなる人工血管130も、本発明に包含される。
【0064】
また、図7に示すように、螺旋状のヒダに代えて同心円状の横ヒダ24が複数形成されている第2部分23を有する人工血管140も、本発明に包含される。
この人工血管140によれば、横ヒダ24の形成部分(第2部分23)で折り返したとしても、管壁の厚みが均一で、凹凸のない、生体血管との吻合に好適な折り返し部分(周縁)を形成することができる。
【符号の説明】
【0065】
100 人工血管
10 第1部分
11 主要部
12 テーパ部
15 縦ヒダ
20 第2部分
25 横ヒダ
110 人工血管
30 小径人工血管部
35 横ヒダ
120 人工血管
22 第2部分
130 人工血管
140 人工血管
23 第2部分
24 横ヒダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径が22mm以上の管状編織物にヒダを形成してなる人工血管であって、
全長の50%以上の領域において、長さ方向に延びるヒダが、周方向に沿って複数形成されている人工血管。
【請求項2】
全長の50%未満の領域において、螺旋状のヒダが形成されている請求項1に記載の人工血管。
【請求項3】
全長の60〜90%の領域において長さ方向に延びるヒダが複数形成された第1部分と、全長の40〜10%の領域において螺旋状のヒダが形成された第2部分とを有する請求項2に記載の人工血管。
【請求項4】
第1部分の端部に、前記管状編織物より外径の小さい管状編織物よりなる小径人工血管部を接続してなる請求項3に記載の人工血管。
【請求項5】
全長の50%未満の領域において、同心円状のヒダが複数形成されている請求項1に記載の人工血管。
【請求項6】
全長の60〜90%の領域において長さ方向に延びるヒダが複数形成された第1部分と、全長の40〜10%の領域において同心円状のヒダが複数形成された第2部分とを有する請求項5に記載の人工血管。
【請求項7】
エレファントトランク法により下行大動脈に挿入される請求項1〜6の何れかに記載の人工血管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−65916(P2012−65916A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214381(P2010−214381)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(394023241)JUNKEN MEDICAL株式会社 (13)
【Fターム(参考)】