説明

人身事故防止システム

【課題】人の力を借りずに線路内に侵入する可能性のあるものを区別して検知し、落下した人のときだけ電車を緊急停止する人身事故防止システムを提供する。
【解決手段】人身事故防止システムは、電車が進入する線路の両側に配設された送信側漏洩伝送路および受信側漏洩伝送路、送信スペクトル拡散信号を発生し上記送信側漏洩伝送路に送信するRFモジュール、受信した漏洩電界の変化を解析して侵入物の位置を特定するセンサーカードを備える人身事故防止システムにおいて、所定の周期の前後する時点で特定された侵入物の位置の差が所定の閾値未満のとき侵入者がいるとして電車を緊急停止するよう指令する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は駅のプラットホームからの人の落下に伴う人身事故を防止する人身事故防止システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人身事故に係る人の侵入を検知する装置として、線路に沿わせてその両側に漏洩同軸ケーブル、漏洩導波管等の漏洩伝送路を布設し、一方の漏洩伝送路より他方の漏洩伝送路へ電波を放射して障害物を検知する。一方の漏洩伝送路の一端にパルス状信号を発生する送信機を接続すると共に他方の漏洩伝送路の同じ側の一端に前記パルス状信号が位置に応じて遅延した信号を受信する受信機を接続し、さらにこの受信機に信号波形から包絡線を取り出すフィルタを接続し、予め障害物がないときの信号波形の包絡線を記憶する記憶装置を設け、この障害物がないときの包絡線とフィルタで取り出した包絡線との差分波形から障害物の位置を検知する演算器を設けた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−95338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、電界を乱すものには落下した人以外にも進入してくる電車や保守点検修理のために線路に降りる作業員なども同様に検知してしまうので、落下した人だけを検知して電車を緊急停止することができないという問題がある。
【0005】
この発明の目的は、人の力を借りずに線路内に侵入する可能性のあるものを区別して検知し、落下した人のときだけ電車を緊急停止する人身事故防止システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る人身事故防止システムは、電車が進入する線路の両側に配設された送信側漏洩伝送路および受信側漏洩伝送路、送信スペクトル拡散信号を発生し上記送信側漏洩伝送路に送信するRFモジュール、受信した漏洩電界の変化を解析して侵入物の位置を特定するセンサーカードを備える人身事故防止システムにおいて、所定の周期の前後する時点で特定された侵入物の位置の差が所定の閾値未満のとき侵入者がいるとして電車を緊急停止するよう指令する。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る人身事故防止システムの効果は、侵入者を電車や作業者から区別して検知し、落下を発見する人や緊急停止ボタンを探す必要もなく、線路内への侵入を瞬時に確実に検知できるので、侵入事象発生から緊急列車停止指示までの時間が短縮できることである。この時間短縮によって人身事故発生率が低下し人命尊重に繋がるし、ダイヤの乱れも抑止できることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明を実施するための最良の形態を図1〜図5により説明する。図1は、人身事故防止システムの概略構成を示す図である。図2は、この発明に係る漏洩電界送受信装置の構成図である。図3は、漏洩電波を受信する様子を示す図である。図4は、この発明に係る侵入位置の検知概念の一例を示す図である。図5は、この発明に係る送信信号の具体例を示す図である。なお、各図中、同一符合は同一部分を示す。
【0009】
この発明に係る人身事故防止システムは、図1に示すように、プラットホーム1に面する線路2内に入った人、電車などの侵入物を検知する侵入検知装置3、プラットホーム1の所定の位置に配置されたRFIDタグ4、作業のために線路内に入る作業員5が携行し電波を発信する作業許可発信機6、電車の運行を制御する電車制御装置7を備える。
侵入検知装置3は、漏洩電界を送受信し漏洩電界の変化があるとき変化のあった位置を特定する漏洩電界送受信装置8、特定した位置に基づき異常侵入者、作業員、または電車の侵入を分析し異常侵入者と判断したとき電車の進入を防止する人身事故防止装置9を備える。
RFIDタグ4は、プラットホーム1に10m間隔でプラットホーム1の位置を表す位置情報が記憶されていて、作業許可発信機6からのポーリングに応答して位置情報を作業許可発信機6に送信する。
作業許可発信機6は、周期的に近傍に有るRFIDタグ4から位置情報を取得して人身事故防止装置9に位置情報で変調された電波を送信する。
【0010】
漏洩電界送受信装置8は、電車が進入する線路2を両側から挟む2つのプラットホーム1の下または線路2の一方の側に面するプラットホーム1の下と線路2の他方の側の地面に配設された送信側漏洩伝送路11および受信側漏洩伝送路12、送信スペクトル拡散信号を発生するRFモジュール13、受信した漏洩電界の変化を解析して位置を特定するセンサーカード14、送信スペクトル拡散信号の反射によるエラーの発生を防止する送信側ターミネータ15、送信スペクトル拡散信号を受信した送信スペクトル拡散信号の反射によるエラーの発生を防止する受信側ターミネータ16を備える。
【0011】
ペアーを成す送信側漏洩伝送路11および受信側漏洩伝送路12は、図3に示すように、それぞれ漏洩伝送路が延在する方向に沿って点在する複数個の漏洩箇所11TH、11TH、11TH、・・・、12TH、12TH、12TH、・・・を有する。そして、送信側漏洩伝送路11から漏洩する電波は、図1に示すように、かまぼこ状の空間内を伝搬している。この電波が伝搬するかまぼこ状の空間の高さはプラットホーム1の高さ以下であり、プラットホーム1上に居る人間は電波の伝搬に影響を与えない。
【0012】
また、送信側漏洩伝送路11および受信側漏洩伝送路12は、例えば、市販の漏洩同軸ケーブルなどを使用する。送信側漏洩伝送路11および受信側漏洩伝送路12の漏洩箇所11TH、11TH、11TH、・・・、12TH、12TH、12TH、・・・は、市販の漏洩同軸ケーブルでは数メートル間隔にその外皮を貫通する貫通スロットである。
【0013】
RFモジュール13は、図2に示すように、基準クロック発生手段21、スイッチ手段22、制御手段23、および送信スペクトル拡散信号発生手段24を有する。
センサーカード14は、検知手段25、参照スペクトル拡散信号発生手段26−1〜26−20、および相関手段27−1〜27−20を有する。
例えば10mの精度で200mのプラットホーム1に沿ってケーブル延長方向の検知範囲とする。
【0014】
送信側漏洩伝送路11および送信側漏洩伝送路11と並設され送信側漏洩伝送路11からの漏洩電波を受信する受信側漏洩伝送路12が接続され、受信側漏洩伝送路12で受信した電波が変化すれば侵入物が侵入したと判定する。
【0015】
ここで、侵入位置の検知概念の一例を説明する。
送信側漏洩伝送路11および受信側漏洩伝送路12として市販の漏洩同軸ケーブルを使用し、送信側漏洩伝送路11および受信側漏洩伝送路12を線路2に沿って敷設し、図4に示すように、例えば、RFモジュール13から1個の送信パルスを送信した場合、送信側漏洩伝送路11の第1番目(最初)の孔(貫通スロット)から漏洩する漏洩電波は受信側漏洩伝送路12の第1番目(最初)の孔(貫通スロット)を介して受信され、センサーカード14に受信信号として到達するが、その到達時間は送信信号発信からΔT1後である。
同様に、RFモジュール13から1個の送信パルスを送信した場合、送信側漏洩伝送路11の第2番目の孔から漏洩する漏洩電波は受信側漏洩伝送路12の第2番目の孔を介して受信され、センサーカード14に受信信号として到達するが、その到達時間は送信信号発信からΔT2後である。
同様に、第3番目の孔を介して受信された受信信号の到達時間は送信信号発信からΔT3後である。
そして、これらΔT1、ΔT2、ΔT3、・・・、ΔT20、つまり到達時間(遅延時間とも言う)ΔTは、漏洩伝送路の長さが分かれば、信号の伝播速度が30万km/秒であることから演算により容易に求められる。
【0016】
従って、センサーカード14においては、システム構成から事前に演算した到達時間(遅延時間)ΔTのデータを保存しておくことにより、受信した実受信信号を当該保存データと照合すれば、どの孔(貫通スロット)を経由してきた受信信号であるか判別できる。
また、漏洩電波の存在領域に人が侵入した場合、侵入物により漏洩電波が、形状が変わるなど変化する。
従って、センサーカード14が受信した信号の変化を検知すれば、送信側漏洩伝送路11および受信側漏洩伝送路12に沿ったどの位置に侵入したのか、検知し、報知することができる。
【0017】
尤も、信号速度は極めて速い、また、センサーカード14の検出動作速度との関係もあり、実際には、送信信号は単一パルスを数秒に1度程度発信するのではなく、例えば図5に例示するようなPN符号と言われているスペクトル拡散信号、例えば数万個のランダムパルス列からなるコード化信号を使えば、検知精度を上げることができる。同一のPN符号を繰返し発信してもよいし、異なるPN符号を次々に発信してもよい。PN符号自体は一般的に知られている公知の符号である。
【0018】
図5に例示のPN符号を使う場合は、センサーカード14は、スペクトル拡散信号を発生するRFモジュール13の出力で高周波の搬送波を位相変調し、送信側漏洩伝送路11に対して出力する。送信側漏洩伝送路11から出力された電波は、受信側漏洩伝送路12で漏洩箇所を介して受信され、センサーカード14に入力される。センサーカード14では、受信電波が、侵入距離に関連した参照スペクトル拡散符号と位相演算され、電界強度の変化により侵入距離を含む侵入物検知が行われる。
【0019】
センサーカード14は、基板上に侵入検知機能を搭載してモジュール化したセンサーカード14の製品形態に構成してあり、検知したい距離、例えば100m、150m、200m、・・・に応じて、その枚数を増やして(増設して)対応できるようにしてある。
【0020】
複数の参照スペクトル拡散信号発生手段26−1〜26−20で侵入者の測定距離10m(±5m)間隔で対応した遅延時間の参照用拡散符号を基準クロック発生手段21から生成し、参照用拡散符号で拡散変調された参照スペクトル拡散信号を出力し、参照スペクトル拡散信号発生手段26−1〜26−20に対応した20個の相関手段27−1〜27−20で受信側漏洩伝送路12が受信した送信スペクトル拡散信号と参照スペクトル拡散信号との相関をとり、位相が一致したときに相関信号を出力し、参照スペクトル拡散信号発生手段26−1〜26−20に設定された固有の各遅延時間に対する相関信号の信号レベルの変動量が設定値以上のときに検知手段25が線路内の10m(±5m)間隔のある場所に侵入物が存在することを検知する。
【0021】
なお、前述の実施の形態1では、測定距離10m(±5m)間隔で対応した遅延時間を設定した20個の参照スペクトル拡散信号発生手段26−1〜26−20を実装とそれに対応した20個の相関手段27−1〜27−20を実装したことで、1台の侵入検知装置3で検知精度±5mを維持したまま検知距離を相関数20個×検知距離10m(±5m)=200mにでき、経済的に優れた高範囲の侵入検知装置3を得ることができる。
【0022】
プラットホーム1に面する線路2内に侵入する物は、電車、作業者、そして誤って落下などした人がある。そして、電車は、時速20km位の速度で進入してくるので、侵入検知装置3で前後2回に亘って検知された位置の差が時速20km位に相当する場合、電車が進入してきたと判断することができる。
一方、誤って落下などした人は落下後殆ど動かないので、侵入検知装置3で前後2回に亘って検知された位置の差が所定の閾値未満であり、人が落下などしたと判断することができる。
作業者は、作業許可発信機6を携行しており、作業許可発信機6がその位置を知らせているので、作業者であれば侵入検知装置3で検知した位置と作業許可発信機6が知らせる位置とが同じくなる。このことを利用して電車、人、作業者を区別して人身事故防止を図る。
【0023】
図6は、この発明に係る人身事故防止装置9の機能ブロック図である。
人身事故防止装置9は、所定の周期で人身事故防止手順を開始する。そして、人身事故防止装置9は、侵入物の検知の有無を侵入検知装置3に問い合わせ、侵入物が検知されていたとき検出された位置情報を入手する位置情報入手手段31と、侵入物が検知されていたとき作業許可発信機6からの電波の有無を判断し、電波が発信されているとき受信し、受信した電波から作業許可発信機6の位置情報を読み取り、作業者以外の侵入物が居るか否かを判断する作業者確認手段32と、作業者以外の侵入物があるとき侵入物の1回目の検知か否かを判断し、1回目の検知のとき位置情報を記憶し人身事故防止手順を終了する位置情報記憶手段33と、2回目の検知のとき記憶されている位置情報と今回の位置情報との差分が所定の閾値以上か否かを判断する電車・人区別手段34と、差分が所定の閾値以上のとき電車が進入してきたと判断し人身事故防止手順を終了する電車確認手段35と、差分が所定の閾値未満のとき人が線路内に侵入したと判断し電車制御装置7に電車を停止するよう指令する電車停止手段36と、を備える。
【0024】
図7は、この発明に係る人身事故防止装置9で実行される人身事故防止手順を示すフローチャートである。
次に、人身事故防止手順について説明する。
電車が運行されている間では、所定の周期(例えば、0.5秒)で人身事故防止手順が開始される。
ステップS1では、侵入物の検知の有無を侵入検知装置3に問い合わせて判断し、侵入物が検知されていないとき人身事故防止手順を終了し、侵入物が検知されているときステップS2に進む。
ステップS2では、侵入物が検出された位置情報を入手する。
ステップS3では、作業許可発信機6からの電波の有無を判断し、電波が有るときステップS4に進み、電波がないときステップS6に進む。
ステップS4では、受信した電波から作業許可発信機6の位置情報を解読する。
ステップS5では、作業者以外の侵入物が居るか否かを判断し、作業者以外の侵入物が検知されないとき人身事故防止手順を終了し、作業者以外の侵入物が検知されたときステップS6に進む。
【0025】
ステップS6では、回数フラグを調べて侵入物の1回目の検知か否かを判断し、1回目の検知のときステップS7に進み、2回目の検知のときステップS8に進む。
ステップS7では、回数フラグに1を設定し、位置情報を記憶し、人身事故防止手順を終了する。
ステップS8では、記憶されている位置情報と今回の位置情報との差分が所定の閾値以上か否かを判断し、差分が所定の閾値以上のときステップS9に進み、差分が所定の閾値未満のときステップS10に進む。
ステップS9では、電車が進入してきたと判断し人身事故防止手順を終了する。
ステップS10では、人が線路内に侵入したと判断し電車制御装置7に電車を停止するよう指令する。
【0026】
この発明に係る人身事故防止システムは、侵入者を電車や作業者から区別して検知し、落下を発見する人や緊急停止ボタンを探す必要もなく、線路内への侵入を瞬時に確実に検知できるので、侵入事象発生から緊急列車停止指示までの時間が短縮できる。この時間短縮によって人身事故発生率が低下し人命尊重に繋がるし、ダイヤの乱れも抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明に係る人身事故防止システムの概略構成を示す図である。
【図2】この発明に係る漏洩電界送受信装置の構成図である。
【図3】漏洩電波を受信する様子を示す図である。
【図4】この発明に係る侵入位置の検知概念の一例を示す図である。
【図5】この発明に係る送信信号の具体例を示す図である。
【図6】この発明に係る人身事故防止装置の機能ブロック図である。
【図7】この発明に係る人身事故防止装置で実行される人身事故防止手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0028】
1 プラットホーム、2 線路、3 侵入検知装置、4 RFIDタグ、5 作業員、6 作業許可発信機、7 電車制御装置、8 漏洩電界送受信装置、9 人身事故防止装置、11 送信側漏洩伝送路、12 受信側漏洩伝送路、13 RFモジュール、14 センサーカード、15 送信側ターミネータ、16 受信側ターミネータ、21 基準クロック発生手段、22 スイッチ手段、23 制御手段、24 送信スペクトル拡散信号発生手段、25 検知手段、26 参照スペクトル拡散信号発生手段、27 相関手段、31 位置情報入手手段、32 作業者確認手段、33 位置情報記憶手段、34 電車・人区別手段、35 電車確認手段、36 電車停止手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電車が進入する線路の両側に配設された送信側漏洩伝送路および受信側漏洩伝送路、送信スペクトル拡散信号を発生し上記送信側漏洩伝送路に送信するRFモジュール、受信した漏洩電界の変化を解析して侵入物の位置を特定するセンサーカードを備える人身事故防止システムにおいて、
所定の周期の前後する時点で特定された侵入物の位置の差が所定の閾値未満のとき侵入者がいるとして電車を緊急停止するよう指令することを特徴とする人身事故防止システム。
【請求項2】
所定の周期の前後する時点で特定された侵入物の位置の差が所定の閾値以上のとき上記電車が進入してきたと判断することを特徴とする請求項1に記載する人身事故防止システム。
【請求項3】
上記送信側漏洩伝送路から上記受信側漏洩伝送路に向かう電気力線は、上記線路が敷設された地面を底とするかまぼこ状の空間内に存在し、上記かまぼこ状の空間の高さはプラットホームの高さよりも低いことを特徴とする請求項1または2に記載する人身事故防止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−157045(P2010−157045A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334078(P2008−334078)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】