説明

伝動ベルト

【課題】エチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とし、走行時に摩耗が少ないと共に、亀裂が生じ難く、耐久性にすぐれる伝動ベルトを提供する。
【解決手段】圧縮ゴム層5と接着ゴム層3が共にエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物からなると共に、接着ゴム層3内に心線2がベルト長手方向に沿って埋設され、接着されている伝動ベルトにおいて、少なくとも圧縮ゴム層5を形成するゴム成分がエチレン−1−ブテンエラストマーとエチレン−1−オクテンエラストマーから選ばれる少なくとも1種を10〜100重量%と残部エチレン−プロピレン−ジエンエラストマーとからなるエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物からなることを特徴とする伝動ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトに関し、詳しくは、走行時に摩耗が少なく、亀裂が生じ難く、かくして、耐久性にすぐれるエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする伝動ベルトを提供する。
【背景技術】
【0002】
伝動ベルトは、従来、例えば、ラップドベルトやローエッジベルトのようなVベルトやVリブドベルト等のような摩擦伝動ベルトとして、更には、タイミングベルト等の噛合い伝動ベルトとして、自動車や一般産業において、動力を伝達するベルトとして広く用いられており、このような伝動ベルトは、通常、心線が接着埋設された接着ゴム層と、この接着ゴム層に一体に積層加硫された圧縮ゴム層とからなり、必要に応じて、接着ゴム層表面や圧縮ゴム層底部に帆布が接着されている。
【0003】
このような伝動ベルトの上記接着ゴム層や圧縮ゴム層には、従来、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、水素化ニトリル−ブタジエンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴム等が用いられており、特に、耐熱性が求められる分野においては、クロロプレンゴムが用いられている。しかし、これらの伝動ベルトでは、耐寒性等の性能において、尚、改善の余地があると共に、環境に対する配慮等の観点から、近年、代表的には、エチレン−プロピレンゴム(EPM)やエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)のようなエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする伝動ベルトが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
エチレン−プロピレン−ジエンゴムをゴム成分とする伝動ベルトは、ゴムの劣化寿命を支配する耐熱性においてクロロプレンゴムをゴム成分とする伝動ベルトよりもすぐれている。しかし、近年、自動車を中心として、伝動ベルトに対する使用レイアウトや環境条件がますます厳しくなっており、エチレン−プロピレン−ジエンゴムをゴム成分とする伝動ベルトであっても、走行時に摩耗が生じることがあり、更に、走行時の衝撃や多軸での正逆屈曲によって、ベルトのゴム層に亀裂が生じやすく、場合によっては、ベルトが破壊に至ることがあり、そのために、更なる改良が求められている。
【特許文献1】特表平09−500930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とし、プーリとの接触面に圧縮ゴム層が露出しているローエッジタイプのVベルトやVリブドベルトのような伝動ベルトにおける上述した問題を解決するためになされたものであって、エチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とし、走行時に摩耗が少ないと共に、亀裂が生じ難く、耐久性にすぐれる伝動ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、圧縮ゴム層と接着ゴム層が共にエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物からなると共に、上記接着ゴム層内に心線がベルト長手方向に沿って埋設され、接着されている伝動ベルトにおいて、少なくとも上記圧縮ゴム層を形成するゴム成分がエチレン−1−ブテンエラストマー(EBM)とエチレン−1−オクテンエラストマー(EOM)から選ばれる少なくとも1種を10〜100重量%と残部エチレン−プロピレン−ジエンエラストマーとからなるエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物からなることを特徴とする伝動ベルトが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の伝動ベルトによれば、圧縮ゴム層と接着ゴム層が共にエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物からなり、少なくとも上記圧縮ゴム層がエチレン−1−ブテンエラストマーとエチレン−1−オクテンエラストマーから選ばれる少なくとも1種(とエチレン−プロピレン−ジエンエラストマーと)からなるエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物からなり、特に、上記エラストマー分子がプロピレンに比べて1−ブテンや1−オクテンに由来するより長鎖の側鎖を有し、従って、エチレン含量が同じであるとき、ゴム成分として、エチレン−1−ブテンエラストマーやエチレン−1−オクテンエラストマーを用いることによって、劣化の起点になりやすいゴム分子中の第3級水素原子の数が少なくなり、ゴムが劣化し難いので、亀裂が生じ難くなると共に、長い側鎖が絡み合うこととエチレン部で架橋点が増加することによって、伸びが大きく、走行時、摩耗が少なく、かくして、耐久性にすぐれるものとみられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、伝動ベルトの一例であるVリブドベルトの横断面図を示し、ベルトの上面は、単層又は複数層のゴム引き帆布1にて形成されており、これに隣接して、接着ゴム層3が積層されている。この接着ゴム層には、複数の心線2が間隔を置いてベルト長手方向に延びるように埋設されている。更に、この接着ゴム層に隣接して、圧縮ゴム層5が積層されている。この圧縮ゴム層には、ベルト内周面に周方向(ベルト長手方向)に延びるように相互に間隔を有する複数のリブ4を有する。圧縮ゴム層5には、その側圧性を高めるために、通常、短繊維6がベルト幅方向に配向して分散されている。
【0009】
本発明において、エチレン−α−オレフィンエラストマーとは、エチレン−α−オレフィン共重合体からなるゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合体からなるゴム又はこれらの混合物をいい、エチレン−プロピレンエラストマーとは、エチレン−プロピレン共重合体からなるゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体からなるゴム(EPDM)又はこれらの混合物をいうものとする。
【0010】
本発明による伝動ベルトにおいては、圧縮ゴム層と接着ゴム層は、共にエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする配合物を一体に加硫接着してなると共に、上記接着ゴム層内に心線が埋設、接着されている。
【0011】
上記心線としては、ポリエステル繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、スチール等を素材とする高強度で低伸度のコードよりなるものが好ましく用いられる。このような心線は、通常、接着処理を施して用いられる。この接着処理は、通常、心線をレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)に浸漬した後、加熱乾燥して、心線の表面に均一な接着処理層を形成する。必要に応じて、この接着処理の前に、心線を多官能イソシアネートや多官能エポキシ化合物の溶液に浸漬した後、加熱乾燥する前処理を施してもよい。
【0012】
本発明による伝動ベルトにおいては、少なくとも上記圧縮ゴム層がエチレン−1−ブテンエラストマーとエチレン−1−オクテンエラストマーから選ばれる少なくとも1種10〜100重量%と残部エチレン−プロピレンエラストマーとからなるエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物からなる。ここに、上述したように、エチレン−プロピレンエラストマーは、EPM、EPDM又はこれらの混合物であるが、本発明においては、好ましくは、EPDMである。このEPDMは、硬さ、強度、耐摩耗性、これらの物性の温度依存性等から、エチレン含量が55〜75重量%の範囲にあるものが好ましく用いられる。
【0013】
本発明によれば、特に、少なくとも圧縮ゴム層をエチレン−1−ブテンエラストマーとエチレン−1−オクテンエラストマーから選ばれる少なくとも1種10〜60重量%、好ましくは、10〜40重量%と上述したようなエチレン−プロピレン−ジエンエラストマーが残部であるエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物から形成することによって、得られる伝動ベルトの高温雰囲気下での走行時の耐摩耗性を改善することができる。
【0014】
このようなEPDMにおけるジエン成分としては、特に、限定されるものではないが、通常、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン又はエチリデンノルボルネン(ENB)等の非共役ジエンが適宜に用いられる。EPDMにおいて、このジエン成分は、通常、0.1〜6.0重量%の範囲である。
【0015】
しかし、本発明において、圧縮ゴム層のゴム成分におけるエチレン−1−ブテンエラストマーやエチレン−1−オクテンエラストマーの割合が10重量%よりも少ないときは、圧縮ゴム層の強さと伸びが共に不十分であって、ベルトの走行寿命が短いうえに、走行時の摩耗が多く、また、異音も発生しやすい。
【0016】
上記エチレン−1−ブテンエラストマーやエチレン−1−オクテンエラストマーは既に知られており、デュポン・ダウ・エラストマーズ社から市販品(「エンゲージ」シリーズ)として入手することができる。このようなエチレン−1−ブテンエラストマーにおける1−ブテンの割合やエチレン−1−オクテンエラストマーにおける1−オクテンの割合は、通常、5〜30重量%の範囲である。
【0017】
このようなエチレン−1−ブテンエラストマーやエチレン−1−オクテンエラストマーは、EPMやEPDMにおけるプロピレン成分に比べて、ゴム分子を形成するポリマー鎖の側鎖がより長鎖のアルキル基である。従って、エチレン−1−ブテンエラストマーやエチレン−1−オクテンエラストマーにおいては、このような長鎖の側鎖がポリマー鎖中のエチレン成分の凝集性を抑えるので、分子に大きい伸びを与えることができ、更に、前述したように、エチレン含量が同じであるとき、ゴムの単位重量当たりの第3級水素原子の数が少ないので、ゴムが劣化し難く、耐久性にすぐれる伝動ベルトを得ることができる。
【0018】
このように、本発明によれば、特に、プーリと接触する圧縮ゴム層として、上述したように、エチレン−1−ブテンエラストマーとエチレン−1−オクテンエラストマーから選ばれる少なくとも1種とEPDMとからなるエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物を用いることによって、ベルト寿命を改善することができる。
【0019】
また、本発明によれば、接着ゴム層も、圧縮ゴム層と同様に、ゴム成分がエチレン−1−ブテンエラストマーやエチレン−1−オクテンエラストマーを含むエチレン−α−オレフィンエラストマーの加硫物からなるものであってもよいが、接着ゴム層は、プーリに直接、接触することは少ないので、通常のエチレン−プロピレンエラストマー、特に、EPDMが用いられる。特に、この場合、EPDMは、前述したように、エチレン含量が55〜75重量%の範囲にあって、物性の温度依存性の小さいものが好ましく用いられる。
【0020】
本発明による伝動ベルトの製造においては、接着ゴム層と圧縮ゴム層とは、それぞれ上述したようなエチレン−α−オレフィンエラストマーに加硫剤のほか、カーボンブラック、加硫促進剤、促進活性剤、軟化剤、老化防止剤等、通常のゴム配合薬剤と、圧縮ゴム層用には、好ましくは、短繊維を混合して、ゴム配合物を調製し、これを適宜の混練手段、例えば、押出機やバンバリーミキサーにて混練した後、カレンダーロールで圧延(シーティング)して、未加硫ゴムシートとし、これをそれぞれ後述するようにして用いて伝動ベルトに成形する。
【0021】
本発明においては、加硫剤として、好ましくは、有機パーオキサイド(有機過酸化物)が用いられ、必要に応じて、共架橋剤が用いられる。この有機パーオキサイドとしては、例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド(DCP)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等を挙げることができる。このような有機パーオキサイドは、エチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、通常、1〜10重量部の範囲で用いられ、好ましくは、1.5〜5重量部の範囲で用いられる。
【0022】
また、上記共架橋剤としては、TAIC、1,2−ポリブタジエン、不飽和カルボン酸金属塩、オキシム類、グアニジン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N−m−フェニレンビスマレイミド、硫黄等が用いられる。
【0023】
本発明においては、必要に応じて、硫黄を加硫剤として用いることができる。この場合には、硫黄は、通常、エチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、通常、0.5〜10重量部の範囲で用いられ、好ましくは、1.0〜5重量部の範囲で用いられる。硫黄を加硫剤として用いる場合には、通常、加硫促進剤が併用される。
【0024】
上記圧縮ゴム層に配合、分散させる短繊維としては、ナイロン6、ナイロン66、ポリエステル、綿、アラミド等からなるものが用いられる。このような短繊維は、通常、繊維径が0.02〜0.5mmであり、繊維長が0.5〜10mmであるものがエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、5〜30重量部の範囲で用いられる。
【0025】
圧縮ゴム層用の未加硫ゴムに短繊維を配合する場合には、圧縮ゴム層用未加硫エチレン−α−オレフィンエラストマーに加硫剤等の配合薬品、カーボンブラック等の補強剤、その他を加え、更に、短繊維を加えて、ゴム配合物とした後、これを混練し、カレンダーロール等の手段を用いて圧延して、所定の厚みのシートを得る。このようにして、短繊維がゴム配合物の圧延方向(列理方向)、即ち、長手方向に配向したゴムシートを得ることができる。
【0026】
本発明による伝動ベルトは、従来より知られている通常の方法によって製造することができる。Vリブドベルトに例をとれば、表面が平滑な円筒状の成形ドラムの周面に1枚又は複数枚のゴム引き帆布を巻き付け、その上に接着ゴム層のための未加硫シートを巻き付ける。この後、この上に心線を螺旋状にスピニングし、更に、その上に接着ゴム層のための未加硫シートを巻き付ける。次いで、この接着ゴム層のための未加硫シートの上に圧縮ゴム層のための未加硫シートをその列理方向が成形ドラムの円周方向と直交するように巻き付けて、環状の積層体とする。この環状の積層体を成形ドラムと共に加硫缶に入れ、蒸気を用いて加熱加圧し、加硫した後、成形ドラムから上記環状の積層体を取り外し、環状物を得る。
【0027】
次に、この環状物を駆動ロールと従動ロールとの間に掛け渡して、所定の張力の下で走行させながら、外側から研削ホイールを当てて、表面に複数のリブを形成した後、所定の幅に裁断すれば、製品としてのVリブドベルトを得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。以下の各実施例及び比較例においては、接着ゴム層のためのEPDM配合物の未加硫シートは、下記組成(重量部)の配合物をカレンダーロールにてシートに圧延したものを用いた。
【0029】
(接着ゴム層のための未加硫ゴム配合物)
エチレン−プロピレン−ジエンゴム1) 100
HAFカーボン(三菱化学(株)製) 50
シリカ2) 20
パラフィンオイル3) 20
ジクミルパーオキサイド(加硫剤) 2.5
ステアリン酸(加硫助剤) 1
酸化亜鉛(加硫助剤) 5
石油樹脂(粘着付与剤)4)
【0030】
(注)1)三井化学(株)製EPT3085、エチレン含量62重量%、プロピレン含量36.1重量%、ジエン含量4.5重量%。
2)トクヤマ(株)製トクシールGu
3)日本サン化学(株)製サンフレックス2280
4)日本ゼオン(株)製クイントンA−100
【0031】
また、各実施例及び比較例において、圧縮ゴム層のためのエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物の未加硫シートはいずれも、表1に示す配合物をカレンダーロールにてシートに圧延したものである。
【0032】
(圧縮ゴム層の物性の測定)
表1に示す圧縮ゴム層用のエチレン−α−オレフィンゴム配合物をカレンダーロールにて圧延して、6de×3mmの6/6ナイロン短繊維をゴム成分100重量部に対して20重量部を圧延(列理)方向に配向分散させた未加硫のゴムシートを得、これを面圧3920kPa、温度160℃で35分間加熱加圧して圧縮ゴム層用の加硫ゴムシートを得た。この加硫ゴムシートについて、JIS K 6251に準拠して硬さ、100%モジュラス、引張強さ及び破断伸びを測定した。結果を表1に示す。
【0033】
(RFL液の調製)
レゾルシン7.31重量部とホルマリン(37重量%)10.8重量部とを混合、攪拌し、これに水酸化ナトリウム水溶液(固形分0.33重量部)を加えて攪拌し、この後、水160.9重量部を加え、5時間熟成して、レゾルシン(R)−ホルマリン(F)樹脂(レゾルシン−ホルマリン初期縮合物(RF)、R/F比=0.5)の水溶液を調製した。このRF水溶液にクロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)ラテックス(固形分40重量%)を上記RF水溶液(固形分)/ラテックス(固形分)重量比が0.25/1となるように加えた後、固形分濃度20重量%となるように水を加えてRFL液を調製した。
【0034】
(心線の接着処理)
心線として、ポリエステルコード(帝人(株)製1000d/2×3、上撚り9.5T/10cm(Z)、下撚り2.19T/10cm)を接着処理して用いた。即ち、予め、上記ポリエステルコードをポリイソシアネートのトルエン溶液(固形分20重量%)に浸漬し、乾燥した後、上記RFL液に浸漬し、200℃で80秒間加熱乾燥し、更に、EPDMのトルエン溶液に浸漬、乾燥し、かくして、ポリエステルコードをRFL接着処理した。
【0035】
(Vリブドベルトの製造)
表面が滑らかな円筒状の成形ドラムの周囲にゴム引き帆布と接着ゴム層を形成するためのエチレン−プロピレン−ジエンゴム配合物の未加硫シートを巻き付けた後、この上に上記接着処理を施したポリエステルコードを螺旋状にスピニングし、更に、その上に上記と同じ接着ゴム層を形成するゴムの未加硫配合物のシートを巻き付けた。
【0036】
次いで、この上に圧縮ゴム層を形成するためのエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物の未加硫シートをその列理方向が成形ドラムの円周方向と直交するように巻き付けて、積層体を形成した後、これを加硫缶中にて内圧7kgf/cm2、外圧7kgf/cm2、温度165℃で35分間、加圧加熱し、蒸気加硫して、環状の加硫物を得た。この環状の加硫物を前述したように加工して、接着ゴム層に上記心線が埋設されており、この接着ゴム層の上面に帆布が接着されていると共に、接着ゴム層の下面にリブゴム層を有するリブ数3、周長975mmのVリブドベルトを得た。
【0037】
(ベルトの走行時の異音性の評価)
図2に示すように、それぞれ直径120mmの駆動プーリ11と従動プーリ12に上記Vリブドベルト13を巻き掛けると共に、中間にベルト走行方向がほぼ直角に変化するように直径70mmのアイドラープーリ14と直径45mmのテンションプーリ15を配設し、上記アイドラープーリの近傍にVリブドベルトの内側に騒音計16を配設した。このようなベルト走行試験装置を用い、上記テンションプーリに水平方向にセット荷重979Nを与え、従動プーリに加える負荷はなしとして、駆動プーリを4900rpmで駆動して、ベルトを200時間走行させたときの音圧(dB)を測定して、走行時の発音性を調べた。異音があるものを×、時折、小さい異音があるが、許容範囲のものを△、異音がないものを○にて示す。結果を表1に示す。
【0038】
(ベルトの摩耗量測定)
図3に示すように、それぞれ直径120mmの駆動プーリ21と従動プーリ22に上記Vリブドベルト23を巻き掛けると共に、中間にベルト走行方向がほぼ直角に変化するように直径45mmのテンションプーリ24を配設した。このようなベルト走行試験装置を用い、上記テンションプーリに水平方向にセット荷重834Nを与え、従動プーリに加える負荷はなしとして、駆動プーリを4900rpmで図示した方向に駆動して、室温(25℃)又は120℃の雰囲気下でベルトを200時間走行させた。室温での走行試験の前後のベルトの重量変化を測定し、圧縮ゴム層の比重からベルトの損失摩耗量を容積にて求めると共に、120℃での走行試験の前後のベルトの重量変化を測定し、室温に対する保持率を求めた。ここに、上記保持率は、室温で200時間走行させた後のベルト重量をWTとし、120℃で200時間走行させた後のベルト重量をWH とするとき、(WH/WT)×100(%)で定義される。結果を表1に示す。
【0039】
(ベルトの走行寿命の測定)
前記図2に示すベルト走行試験装置を用いて、雰囲気温度120℃において、テンションプーリ15に水平方向にセット荷重979Nを与えると共に、従動プーリ12に4900rpmにて2kW/リブの負荷がかかるようにして走行させ、一定時間ごとに走行を停止し、ベルトの圧縮ゴム層にクラックが発生するまでの走行時間を走行寿命とした。結果を表1に示す。
【0040】
実施例2〜5及び7〜10
表1中の実施例2〜5及び7〜10に示すエチレン−α−オレフィンゴム配合物をそれぞれ圧縮ゴム層用として用いた以外は、それぞれ実施例1と同様にして、加硫ゴムシートを得、硬さ、100%モジュラス、引張強さ及び破断時伸びを測定した。また、表1中の実施例2〜5及び7〜10に示すゴム配合物をそれぞれ圧縮ゴム層用として用いた以外は、それぞれ実施例1と同様にして、Vリブドベルトを製造し、走行時の異音、走行に基づくベルト摩耗量及びベルトの走行寿命を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0041】
実施例6
表1中の実施例6に示すエチレン−α−オレフィンゴム配合物を圧縮ゴム層用として用いると共に、硫黄を加硫剤として用いた以外は、実施例1と同様にして、圧縮ゴム層用の加硫ゴムシートを得、硬さ、100%モジュラス、引張強さ及び破断伸びを測定した。また、表1中の実施例6に示すゴム配合物を圧縮ゴム層用として用いると共に、硫黄を用いて加硫した以外は、実施例1と同様にして、Vリブドベルトを製造し、実施例1と同様にして、走行時の異音、走行に基づく摩耗量及び走行寿命を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
比較例1
表2中の比較例1に示すEPDM配合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、加硫ゴムシートを得、この加硫ゴムシートについて硬さ、100%モジュラス、引張強さ及び破断伸びを測定した。結果を表2に示す。また、表2中の比較例1に示すEPDM配合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、Vリブドベルトを製造し、走行時の異音、走行に基づく摩耗量及び走行寿命を測定した。結果を表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
(注)1)デュポン・ダウ・エラストマーズ製ノーデルP4725
2)デュポン・ダウ・エラストマーズ製エンゲージ8180
3)デュポン・ダウ・エラストマーズ製エンゲージ7380
4)東海カーボン(株)製シースト3
5)サンオイル(株)製サンバー2280
6)大内新興化学(株)製ノクセラーTET
7)旭化成(株)製ナイロン短繊維、レオナ66、6de/3mm
【0046】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、本発明に従って、圧縮ゴム層をエチレン−1−ブテン共重合体とエチレン−1−オクテン共重合体から選ばれる少なくとも1種(とEPDMと)をゴム成分とする配合物の加硫物から形成することによって、特に、破断伸びを改善することができ、かくして、このような圧縮ゴム層を有する伝動ベルトは、走行時、異音が発生し難いと共に、亀裂が生じ難く、走行寿命が改善される。また、特に、少なくとも圧縮ゴム層をエチレン−1−ブテンエラストマーとエチレン−1−オクテンエラストマーから選ばれる少なくとも1種と共に、所定割合のエチレン−プロピレン−ジエンエラストマーを併用して形成することによって、ベルト走行時の摩耗を高温においてもよく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】Vリブドベルトの一例の横断面図である。
【図2】ベルト走行時の発音性と高温走行時の屈曲寿命を調べるためのベルト走行試験機を示す図である。
【図3】ベルトの損失摩耗量を測定するためのベルト走行試験機を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1…ゴム引き帆布
2…心線
3…接着ゴム層
4…リブ
5…圧縮ゴム層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮ゴム層と接着ゴム層が共にエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物からなると共に、上記接着ゴム層内に心線がベルト長手方向に沿って埋設され、接着されている伝動ベルトにおいて、少なくとも上記圧縮ゴム層を形成するゴム成分がエチレン−1−ブテンエラストマーとエチレン−1−オクテンエラストマーから選ばれる少なくとも1種を10〜100重量%と残部エチレン−プロピレン−ジエンエラストマーとからなるエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物からなることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項2】
少なくとも圧縮ゴム層がエチレン−1−ブテンエラストマーとエチレン−1−オクテンエラストマーから選ばれる少なくとも1種10〜60重量%と残部エチレン−プロピレン−ジエンエラストマーとからなるエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物からなる請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項3】
少なくとも圧縮ゴム層がエチレン−1−ブテンエラストマーとエチレン−1−オクテンエラストマーから選ばれる少なくとも1種10〜40重量%と残部エチレン−プロピレン−ジエンエラストマーとからなるエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とする加硫物からなる請求項2に記載の伝動ベルト。
【請求項4】
伝動ベルトがベルト長手方向に沿って心線を埋設した接着ゴム層とベルト内周面に周方向に延びる複数のリブを有する圧縮ゴム層とを含む加硫物からなるVリブドベルトである請求項1から3のいずれかに記載の伝動ベルト。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−153059(P2006−153059A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341223(P2004−341223)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】