説明

伝送線路素子および電子機器

【課題】導電体パターン層の電気長を離散的に変更することが可能な伝送線路素子および電子機器を提供する。
【解決手段】誘電体層20に中空の流路21を設けると共に、この流路21内に二種類の流体F1,F2を流路21の延長方向において互いに混ざり合わずに並存させる。駆動部40により流路21内の流体F1,F2の導電体パターン層10に対する位置関係を変化させることで、導電体パターン層10の電気長を離散的な二値に変化させる。流路21A〜21Cを互いに連通せず独立させると共に、駆動部40を流路21A〜21Cの各々に設けることが好ましい。駆動部40により流路21A〜21Cに独立に流体F1,F2の導電体パターン層10に対する位置関係を変化させることが可能となり、導電体パターン層10の電気長として、離散的な多値を任意に選択することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems;マイクロマシン)の要素技術を応用した伝送線路素子、およびそのような伝送線路素子を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波回路での周波数調整や位相調整、インピーダンス整合等を行う手法として、伝送線路の電気長を変えることが行われている。伝送線路の電気長は、例えば、伝送線路となる導電体パターン層に接する誘電体層の誘電率を変化させることによって調整可能である。また、例えば特許文献1では、誘電体層内に設けた流路内で導電性流体を移動させることによって、この導電性流体よりなる伝送線路の形状を変更することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−117636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、1種類の導電性流体の移動により伝送線路の形状を変更し、これにより回路特性を連続的に変更するので、伝送線路の電気長が離散的な二値または多値をとるように調整することは、瞬間的には可能でも安定させることは不可能であった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、導電体パターン層の電気長を離散的に変更することが可能な伝送線路素子、およびそのような伝送線路素子を備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の伝送線路素子は、以下の(A)〜(C)の構成要素を備えたものである。
(A)信号を伝送するための導電体パターン層
(B)導電体パターン層に接して設けられ、導電体パターン層に交差する中空の流路を有し、流路内に二種類以上の流体が流路の延長方向において互いに混ざり合わずに並存している誘電体層
(C)流路内の流体の導電体パターン層に対する位置関係を変化させる駆動部
【0007】
本発明の電子機器は、信号を伝送する上記本発明の伝送線路素子を備えたものである。
【0008】
本発明の伝送線路素子および電子機器では、駆動部により流路内の流体の導電体パターン層に対する位置関係が変化させられると、導電体パターン層の電気長が、流路内において導電体パターン層との交差位置を占める流体の比誘電率に応じて変化する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の伝送線路素子および電子機器によれば、誘電体層に中空の流路を設けると共に、この流路内に二種類以上の流体を流路の延長方向において互いに混ざり合わずに並存させ、駆動部により流路内の流体の導電体パターン層に対する位置関係を変化させるようにしたので、導電体パターン層の電気長を離散的に変更することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る伝送線路素子の一例を表す平面図および断面図である。
【図2】図1に示した伝送線路素子の他の例を表す平面図および断面図である。
【図3】図2に示した誘電体層の構成を表す断面図である。
【図4】図2に示した伝送線路素子の製造方法の一例を工程順に表す断面図である。
【図5】図4に続く工程を表す断面図である。
【図6】図5に続く工程を表す断面図である。
【図7】図6に続く工程を表す断面図である。
【図8】図7に続く工程を表す断面図である。
【図9】図8に続く工程を表す断面図である。
【図10】図9に続く工程を表す断面図である。
【図11】図2に示した伝送線路素子の作用を説明するための図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る伝送線路素子の一例を表す平面図である。
【図13】図12に示した伝送線路素子の作用を説明するための図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係る伝送線路素子の一例を表す平面図である。
【図15】図14に示した伝送線路素子の作用を説明するための図である。
【図16】本発明の第4の実施の形態に係る伝送線路素子の一例を表す平面図である。
【図17】図16に示した伝送線路素子の作用を説明するための図である。
【図18】図2に示した伝送線路素子の一適用例としての逆Fアンテナの構成を表す平面図である。
【図19】本発明の伝送線路素子の適用例に係る電子機器の機能ブロック図である。
【図20】図2に示した伝送線路素子の変形例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(複数の流路が互いに連通している例および互いに連通せず独立している例、1液−1気体方式)
2.第2の実施の形態(2液方式)
3.第3の実施の形態(2液−1気体方式)
4.第4の実施の形態(多液によるアレイ化の例)
5.適用例1(逆Fアンテナ)
6.適用例2(電子機器)
【0012】
(第1の実施の形態)
図1(A)は、本発明の第1の実施の形態に係る伝送線路素子の平面構成(X−Y平面構成)を表すものであり、図1(B)は、図1(A)に示したIB−IB線に沿った断面構成(Z−X断面構成)を表すものである。この伝送線路素子1は、通信機器または計測器などに用いられ、伝送線路としての導電体パターン層10に沿って、X軸方向に、例えば高周波(例えば、60GHz程度)の信号を伝送するものである。導電体パターン層10は、誘電体層20およびシリコン(Si)等よりなる基板30の上に設けられている。
【0013】
導電体パターン層10は、前述した高周波等の信号をX軸方向に沿って伝送するための信号線路(伝送線路)としての機能を有しており、誘電体層20上に所定パターンで設けられている。導電体パターン層10は、例えば、Al−CuやAl−SiなどのAl合金、あるいはAu,Cuなどの金属材料等により構成されている。
【0014】
誘電体層20は、導電体パターン層10に接して、具体的には導電体パターン層10の下に設けられている。誘電体層20は、導電体パターン層10に交差する中空の流路21を有している。流路21内には、二種類の流体F1,F2が流路21の延長方向において互いに混ざり合わずに並存している。また、この流路21には、流路21内の流体F1,F2の導電体パターン層10に対する位置関係を変化させる駆動部40が設けられている。これにより、この伝送線路素子1では、導電体パターン層10の電気長を離散的に変更することが可能となっている。
【0015】
すなわち、導電体パターン層10の電気長d´は、d´=d/√εr(dは導電体パターン層10の物理長、εrは流体の比誘電率)で表され、流路21内における導電体パターン層10との交差位置P(以下、単に交差位置Pという。)を占める流体の比誘電率によって変化する。よって、交差位置Pに流体F1または流体F2のいずれかを位置させることにより、導電体パターン層10の電気長d´を変化させることが可能となる。
【0016】
流体F1は例えば空気などの気体であり、流体F2は例えば流体F1とは比誘電率の異なる気体または液体であることが好ましい。特に、流体F2が液体であれば、より好ましい。液体は気体よりも更に比誘電率が大きいので、電気長d´の調整範囲を更に大きくすることが可能となる。液体としては具体的には水または水銀が挙げられる。中でも水は、安全性に優れているので好ましい。水銀はある程度の粘性を有し、制御しやすいという利点がある。
【0017】
導電体パターン層10と流路21との間は、漏電防止のため、誘電体層20により隔てられている。
【0018】
駆動部40は、流体F2を流路21に導入または排出させることにより、流路21内の交差位置Pを占める流体を流体F1または流体F2のいずれかに切り替えるためのものであり、例えば、マイクロフルイディクスの分野で用いられるマイクロポンプなどのMEMSアクチュエータにより構成されている。例えば、周波数が数kHzないし数MHzのダイヤフラムポンプが望ましい。
【0019】
流路21は、例えば図1(A)に示したように、Y軸方向に複数(図1(A)では例えば3本)の流路21A,21B,21Cを有している。各流路21A〜21Cは、例えば、一端が閉鎖され、他端が開放されている。閉鎖端の側には流体F1が配置され、開放端の側には流体F2が配置されている。これら流路21A〜21Cは、開放端の側においてX軸方向の流路21Dを介して互いに連通しており、流路21Dに駆動部40が接続されている。この場合には、導電体パターン層10の電気長d´として、離散的な二値(交差位置Pを流体F1が占める場合と、流体F2が占める場合)を任意に選択することが可能となる。
【0020】
図2は、流路21および駆動部40の他の例を表したものである。流路21A〜21Cは、図2に示したように、互いに連通せず独立しており、駆動部40が流路21A〜21Cの各々に設けられていることが好ましい。このようにすれば、駆動部40により流路21A〜21Cごとに独立に流体F1,F2の導電体パターン層10に対する位置関係を変化させることが可能となる。よって、導電体パターン層10の電気長d´として、離散的な多値(図2では、流路21Aのみ交差位置Pを流体F2が占める場合、流路21A,21Bの交差位置Pを流体F2が占める場合、流体21A〜21Cのすべての交差位置Pを流体F2が占める場合、および流路21A〜21Cのすべての交差位置Pを流体F1が占める場合の四値)を任意に選択することが可能となる。
【0021】
図3は、図2に示した誘電体層20の構成を表したものである。誘電体層20は、第1層20A,第2層20Bおよび第3層20Cの3層構造を有している。第1層20Aは、基板30の全面に設けられ、基板30の側から例えば酸化シリコン(SiO2 )膜20A1と、窒化シリコン(Si3 N4 )膜20A2とを順に積層した構成を有している。第2層20Bは、例えば酸化シリコン(SiO2 )により構成され、第1層20Aの上面のうち流路21以外の領域に設けられている。第3層20Cは、導電体パターン層10と流路21内の流体Fとの間の漏電防止のための絶縁層であり、例えば酸化シリコン(SiO2 )により構成され、第2層20Bおよび流路21の上に全面に設けられている。第3層20Cには、後述する製造工程において犠牲層を除去するための開口20C1が設けられている。この開口20C1は、Al−Cu合金またはAl−Si合金などよりなる封止部20C2により封止されている。
【0022】
この伝送線路素子1は、例えば次のようにして製造することができる。
【0023】
図4ないし図10は、伝送線路素子1の製造方法を工程順に表したものである。なお、ここでは、図2および図3に示した流路21A〜21Cが互いに連通せず独立している伝送線路素子1を形成する場合について説明する。図4ないし図10において(A)はZ−X断面図、(B)はZ−Y断面図をそれぞれ表している。
【0024】
まず、図4(A)および図4(B)に示したように、Si等からなる基板30上に、例えば減圧CVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法により、上述した材料よりなる酸化シリコン膜20A1および窒化シリコン膜20A2をそれぞれ、例えば、500nm,300nm程度の厚みで一様に形成する。これにより、誘電体層20の第1層20Aが形成される。
【0025】
次いで、第1層20A上に、リン(P)を含む多結晶シリコン膜(図示せず)を、例えば300nm程度の厚みで一様に形成する。続いて、図5(A)および図5(B)に示したように、多結晶シリコン膜に対して、フォトリソグラフィを行い、ドライエッチング装置を用いて加工することにより、流路21Aを形成するための犠牲層22を形成する。
【0026】
そののち、第1層20Aおよび犠牲層22の上に、例えば減圧CVD法により、酸化シリコンよりなる第2層20Bを、例えば500nm程度の厚みで一様に形成し、例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing ;化学機械研磨)により平坦化する。続いて、図6(A)および図6(B)に示したように、例えば減圧CVD法により、酸化シリコンよりなる第3層20Cを一様に形成する。これにより、第1層20A,第2層20Bおよび第3層20Cの積層構造を有する誘電体層20が形成される。
【0027】
誘電体層20を形成したのち、誘電体層20の上に、例えばスパッタ法により、Al−Cu合金またはAl−Si合金よりなる金属膜(図示せず)を形成する。続いて、図7(A)および図7(B)に示したように、この金属膜に対してリソグラフィを行い、ドライエッチング装置を用いて加工することにより、導電体パターン層10を形成する。
【0028】
導電体パターン層10を形成したのち、図8(A)および図8(B)に示したように、図示しないマスクを用いたエッチングにより、第3層20Cに、犠牲層を除去するための開口20C1を設ける。
【0029】
開口20C1を設けたのち、図9(A)および図9(B)に示したように、例えばXeF2 (フッ化キセノン)などのガスを使用して、開口20C1を介して犠牲層22と反応させることにより、犠牲層22を除去し、流路21(21A〜21C)を形成する。
【0030】
犠牲層22を除去したのち、図10(A)および図10(B)に示したように、例えばスパッタ法により、開口20C1に、Al−Cu合金またはAl−Si合金などよりなる封止部20C2を高温で形成し、開口20C1を封止する。最後に各流路21A〜21Cに駆動部40を設ける。以上により、図2および図3に示した伝送線路素子1が完成する。
【0031】
この伝送線路素子1では、高周波等の信号が、導電体パターン層10に沿ってX軸方向に伝送する。このとき、流路21内の流体F1,F2の導電体パターン層10に対する位置関係は、駆動部40により、図11(A)に示したような交差位置Pを流体F1(例えば空気)が占めている場合と、図11(B)に示したような交差位置Pを流体F2(例えば、比誘電率1を超える気体または液体)が占めている場合とに変化する。この場合、導電体パターン層10の実効誘電率は、図11(A)では低く、図11(B)では高くなり、導電体パターン層10の電気長は図11(B)のほうが短くなる。
【0032】
例えば、図1(A)に示したように、流路21A〜21Cが流路21Dを介して互いに連通しており、流路21Dに駆動部40が接続されている場合には、導電体パターン層10の電気長d´は、離散的な二値(交差位置Pを流体F1が占める場合と、流体F2が占める場合)をとり、交差位置Pを流体F1,F2のいずれが占めるかによって任意に選択することが可能となる。
【0033】
また、例えば、図2に示したように、流路21A〜21Cが互いに連通せず独立しており、駆動部40が複数の流路21A〜21Cの各々に設けられている場合には、流路21A〜21Cには、駆動部40により独立に流体F2が導入または排出される。よって、流路21A〜21Cに端から順に流体F2が導入され、流体F2が交差位置Pを占めることにより、導電体パターン層10の電気長d´が変化する。
【0034】
この場合、導電体パターン層10の電気長d´は、離散的な多値(図2では、流路21Aのみ交差位置Pを流体F2が占める場合、流路21A,21Bの交差位置Pを流体F2が占める場合、流体21A〜21Cのすべての交差位置Pを流体F2が占める場合、および流路21A〜21Cのすべての交差位置Pを流体F1が占める場合の四値)をとり、各流路21A〜21C内の流体F1,F2の導電体パターン層10に対する位置関係によってそれらのいずれかを任意に選択することが可能となる。
【0035】
このように本実施の形態では、誘電体層20に中空の流路21を設けると共に、この流路21内に二種類の流体F1,F2を流路21の延長方向において互いに混ざり合わずに並存させ、駆動部40により流路21内の流体F1,F2の導電体パターン層10に対する位置関係を変化させるようにしたので、導電体パターン層10の電気長を離散的に変更することが可能となる。
【0036】
特に、流路21A〜21Cを互いに連通せず独立させると共に、駆動部40を流路21A〜21Cの各々に設けるようにしたので、駆動部40により流路21A〜21Cごとに独立に流体F1,F2の導電体パターン層10に対する位置関係を変化させることが可能となる。よって、導電体パターン層10の電気長d´として、離散的な多値を任意に選択することが可能となる。
【0037】
以下、本発明の第2ないし第4の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、流体F1として気体、流体F2として液体を用いた1液−1気体方式の場合について説明したが、第2ないし第4の実施の形態は流体の種類や数を第1の実施の形態とは異ならせたものである。
【0038】
(第2の実施の形態)
図12は、本発明の第2の実施の形態に係る伝送線路素子の平面構成を表したものである。この伝送線路素子は、流体F21,F22として比誘電率の互いに異なる二種類の液体を用いた2液方式のものであることを除いては、第1の実施の形態と同様の構成を有し、第1の実施の形態と同様にして製造することができる。よって、対応する構成要素には同一の符号を付して説明する。
【0039】
導電体パターン層10および誘電体層20は、第1の実施の形態と同様に構成されている。各流路21A〜21Cは、互いに連通せず独立していると共に両端が開放端とされている。駆動部40は、流路21A〜21Cの各々の両端に設けられている。
【0040】
流体F21,F22は、上述したように比誘電率の互いに異なる二種類の液体であり、例えば水および油のように、混ざり合わない二種類の液体であることが望ましい。本実施の形態は、第1の実施の形態のように流体F1として気体、流体F2として液体を用いると実効誘電率の差が大きくなりすぎる場合に有効である。比誘電率の近い二種類の液体を用いることにより、実効誘電率の制御精度を調整することが可能である。
【0041】
この伝送線路素子では、高周波等の信号が、導電体パターン層10に沿ってX軸方向に伝送する。このとき、流路21A〜21Cには、駆動部40により独立に流体F21,F22のいずれかが導入または排出される。よって、流体F21,F22の導電体パターン層10に対する位置関係は、駆動部40により、図13(A)に示したように交差位置Pを流体F21が占めている場合と、図13(B)に示したように交差位置Pを流体F22が占めている場合とに変化する。ここで、例えば流体F21の比誘電率が流体F22の比誘電率よりも小さい(大きい)場合には、図13(A)では導電体パターン層10の実効誘電率は低く(高く)、図13(B)では導電体パターン層10の実効誘電率は高く(低く)なる。よって、流路21A〜21Cに端から順に流体F22が導入されると共に流体F21が排出され、流体F22が交差位置Pを占めることにより、導電体パターン層10の電気長d´が変化する。
【0042】
この場合、導電体パターン層10の電気長d´は、離散的な多値(図12では、流路21Aのみ交差位置Pを流体F22が占める場合、流路21A,21Bの交差位置Pを流体F22が占める場合、流体21A〜21Cのすべての交差位置Pを流体F22が占める場合、および流路21A〜21Cのすべての交差位置Pを流体F21が占める場合の四値)をとり、各流路21A〜21C内の流体F21,F22の導電体パターン層10に対する位置関係によってそれらのいずれかを任意に選択することが可能となる。
【0043】
このように本実施の形態では、流体F21,F22として比誘電率の異なる二種類の液体を用いるようにしたので、第1の実施の形態と同様に導電体パターン層10の電気長を離散的に変更することが可能となると共に、実効誘電率の制御精度を調整することが可能となる。
【0044】
(第3の実施の形態)
図14は、本発明の第3の実施の形態に係る伝送線路素子の平面構成を表したものである。この伝送線路素子は、流体F21,F22の間に流体F1として空気または空気とは比誘電率の異なる気体を配置した2液−1気体方式のものである。このことを除いては、本実施の形態の伝送線路素子は、第2の実施の形態と同様の構成、作用および効果を有し、第2の実施の形態と同様にして製造することができる。よって、対応する構成要素には同一の符号を付して説明する。
【0045】
導電体パターン層10および誘電体層20は、第1の実施の形態と同様に構成されている。各流路21A〜21Cは、第2の実施の形態と同様に、互いに連通せず独立していると共に両端が開放端とされている。駆動部40は、第2の実施の形態と同様に、流路21A〜21Cの各々の両端に設けられている。
【0046】
流体F21,F22は、第2の実施の形態と同様に、比誘電率の互いに異なる二種類の液体である。本実施の形態では、流体F21,F22の間に流体F1として気泡を挟んでいるので、流体F21,F22として混ざり合う二種類の液体を用いることが可能となる。また、流体F1,F21,F22の三種類の液体を用いることにより、実効誘電率に三状態を設けることが可能となる。
【0047】
この伝送線路素子では、高周波等の信号が、導電体パターン層10に沿ってX軸方向に伝送する。このとき、流路21A〜21Cには、駆動部40により独立に流体F21,F22のいずれかが導入または排出される。よって、流体F1,F21,F22の導電体パターン層10に対する位置関係は、駆動部40により、図15(A)に示したように交差位置Pを流体F1が占めている場合と、図15(B)に示したように交差位置Pを流体F21が占めている場合と、図15(C)に示したように交差位置Pを流体F22が占めている場合とに変化する。ここで、例えば流体F21の比誘電率が流体F22の比誘電率よりも小さい場合には、導電体パターン層10の実効誘電率は、図15(A)では低く、図15(B)では標準、図15(C)では高く、という三状態に変化する。よって、流路21A〜21Cの端から順に流体F1,F21,F22の導電体パターン層10に対する位置関係を変化させることにより、導電体パターン層10の電気長d´が、第2の実施の形態よりも更に多数の離散的な値をとって変化する。
【0048】
このように本実施の形態では、流体F21,F22の間に流体F1を配置し、流体F21,F22として比誘電率の互いに異なる二種類の液体、流体F1として空気または空気とは比誘電率の異なる気体を用いるようにしたので、流体F21,F22として混ざり合う二種類の液体を用いることが可能となる。また、実効誘電率に三状態を設けることが可能となり、導電体パターン層10の電気長を、第1および第2の実施の形態よりも更に多数の離散的な値に変化させることが可能となる。よって、第1の実施の形態の効果に加えて、実効誘電率の制御精度を更に細かく調整することが可能となる。
【0049】
(第4の実施の形態)
図16は、本発明の第4の実施の形態に係る伝送線路素子の平面構成の一例を表したものである。この伝送線路素子は、複数組の流路21A〜21Cを、導電性パターン層10の延長方向に並べて配置したものである。流路21A〜21Cの操作方法は、第1の実施の形態で説明した1液−1気体方式、第2の実施の形態で説明した2液方式、第3の実施の形態で説明した2液−1気体方式のいずれも適用可能である。よって、本実施の形態の伝送線路素子は第1ないし第3の実施の形態と同様の構成を有し、第1ないし第3の実施の形態と同様にして製造することができる。
【0050】
図17は、一例として、一組の流路21A〜21C(図16において一点鎖線で囲まれた領域)を拡大して表したものである。各流路21A〜21Cは、例えば、第1の実施の形態の図2と同様に、互いに連通せず独立していると共に一端が閉鎖され、他端が開放されており、各開放端に駆動部40が設けられている。流体の種類は複数の流路21A〜21Cの各々ごとに異なっており、例えば、流路21Aには流体F1,F31、流路21Bには流体F1,F32、流路21Cには流体F1,F33がそれぞれ配置されている。流体F1は空気または空気とは比誘電率の異なる気体である。流体F31,F32,F33は比誘電率の互いに異なる三種類の液体である。これにより、1液−1気体方式であっても実効誘電率の調整分解能を更に細かくすることが可能となる。
【0051】
(適用例1)
図18は、上記実施の形態で説明した伝送線路素子1の一適用例としての逆Fアンテナ2の平面構成(X−Y平面構成)を表すものである。この逆Fアンテナ2は、交流電源Vacが供給される給電点P1を基準として、X軸方向に沿って右側の伝送線路である右側伝送線路1Rと、左側の伝送線路である左側伝送線路1Lとからなる伝送線路1を備えている。この逆Fアンテナ2は、給電点P1の位置をX軸方向に沿って変化させることにより、周波数変化およびインピーダンス整合を行うことが可能となっている。
【0052】
この逆Fアンテナ2は、例えば、右側伝送線路1Rの下の誘電体層20にはY軸方向の3本の流路23A〜23Cが設けられている。また、左側伝送線路1Lの下の誘電体層20にはY軸方向の6本の流路23D〜23Iが設けられている。これらの流路23A〜23Iは互いに連通せず独立しており、駆動部40が複数の流路23A〜23Iの各々に設けられており、流路23A〜23Iごとに独立に流体F1,F2の導電体パターン層10に対する位置関係を変化させるようになっている。
【0053】
この逆Fアンテナ2では、流路23A〜23Iに端から順に流体F2が導入され、流体F2が交差位置Pを占めることにより、導電体パターン層10の電気長d´、すなわち左側伝送線路1Lまたは右側伝送線路1Rの線路長が変化する。具体的には、流体F1が空気であり、流体F2が比誘電率1を超える気体または液体である場合には、流体F2が交差位置Pを占めると導電体パターン層10の電気長は短くなる。
【0054】
この場合、導電体パターン層10の電気長d´、すなわち左側伝送線路1Lまたは右側伝送線路1Rの線路長は、離散的な多値(図18では、流路23Aのみ交差位置Pを流体F2が占める場合、流路23A,23Bの交差位置Pを流体F2が占める場合、流体23A〜23Cの交差位置Pを流体F2が占める場合、流体23A〜23Dの交差位置Pを流体F2が占める場合、流体23A〜23Eの交差位置Pを流体Fが占める場合、流体23A〜23Fの交差位置Pを流体F2が占める場合、流体23A〜23Gの交差位置Pを流体Fが占める場合、流路23A〜23Iのすべての交差位置Pを流体F2が占める場合、および流路23A〜23Iのすべての交差位置Pを流体F1が占める場合の十値)をとり、各流路23A〜23I内の流体F1,F2の導電体パターン層10に対する位置関係によってそれらのいずれかを任意に選択することが可能となる。
【0055】
このようにして逆Fアンテナ2では、左側伝送線路1Lまたは右側伝送線路1Rの線路長の長さを調整する(長くしたり短くしたりする)ことにより、周波数を変化させると共に、左側伝送線路1Lと右側伝送線路1Rとの長さのバランスを変えることにより、インピーダンス整合を行っている。すなわち、給電点P1の位置を変更したのと同じ効果が得られるため、アンテナ長を変えることができ、周波数可変アンテナを構成することが可能である。また、アンテナの共振周波数を任意に選択することができるため、大きな面積を必要とせず、小型化に適している。なお、この他にも、整合回路を構成したり、位相の調整等も行うことも可能である。
【0056】
(適用例2)
図19は、上記実施の形態で説明した伝送線路素子1を搭載した電子機器の一例としての通信装置の機能ブロック構成を表すものである。この通信装置は、上記実施の形態で説明した伝送線路素子1を後述するアンテナ303(例えば、適用例1で説明した逆Fアンテナ2)として搭載したものであり、例えば、携帯電話器、情報携帯端末(PDA)、無線LAN機器などである。
【0057】
この通信装置は、例えば、送信系回路300Aと、受信系回路300Bと、送受信経路を切り替える送受信切替器301と、高周波フィルタ302と、送受信用のアンテナ303とを備えている。
【0058】
送信系回路300Aは、2つのデジタル/アナログ変換器(DAC;Digital/Analogue Converter)311I,311Qと、2つのバンドパスフィルタ312I,312Qとを備えている。これらのDAC311I,311Qおよびバンドパスフィルタ312I,312Qは、Iチャンネルの送信データおよびQチャンネルの送信データに対応したものである。送信系回路300Aはまた、変調器320および送信用PLL(Phase-Locked Loop )回路313と、電力増幅器314とを備えている。変調器320は、上記した2つのバンドパスフィルタ312I,312Qに対応した2つのバッファアンプ321I,321Qおよび2つのミキサ322I,322Qと、移相器323と、加算器324と、バッファアンプ325とを含んで構成されている。
【0059】
受信系回路300Bは、高周波部330、バンドパスフィルタ341およびチャンネル選択用PLL回路342と、中間周波回路350およびバンドパスフィルタ343と、復調器360および中間周波用PLL回路344とを備えている。この受信系回路300Bはまた、Iチャンネルの受信データおよびQチャンネルの受信データに対応した2つのバンドパスフィルタ345I,345Qおよび2つのアナログ/デジタル変換器(ADC;Analogue/Digital Converter)346I,346Qを備えている。高周波部330は、低ノイズアンプ331と、バッファアンプ332,334と、ミキサ333とを含んで構成されている。中間周波回路350は、バッファアンプ351,353と、自動ゲイン調整(AGC;Auto Gain Controller)回路352とを含んで構成されている。復調器360は、バッファアンプ361と、上記した2つのバンドパスフィルタ345I,345Qに対応した2つのミキサ362I,362Qおよび2つのバッファアンプ363I,363Qと、移相器364とを含んで構成されている。
【0060】
この通信装置では、送信系回路300AにIチャンネルの送信データおよびQチャンネルの送信データが入力されると、それぞれの送信データを以下の手順で処理する。すなわち、まず、DAC311I、311Qにおいてアナログ信号に変換し、引き続きバンドパスフィルタ312I,312Qにおいて送信信号の帯域以外の信号成分を除去したのち、変調器320に供給する。続いて、変調器320において、バッファアンプ321I,321Qを介してミキサ322I,322Qに供給し、引き続き送信用PLL回路313から供給される送信周波数に対応した周波数信号を混合して変調する。そののち、両混合信号を加算器324において加算することにより、1系統の送信信号とする。この際、ミキサ322Iに供給する周波数信号に関しては、移相器323において信号移相を90°シフトさせることにより、Iチャンネルの信号とQチャンネルの信号とが互いに直交変調されるようにする。最後に、バッファアンプ325を介して電力増幅器314に供給することにより、所定の送信電力となるように増幅する。この電力増幅器314において増幅された信号は、送受信切換器301および高周波フィルタ302を介してアンテナ303に供給されることにより、そのアンテナ303を介して無線送信される。この高周波フィルタ302は、通信装置において送信または受信する信号のうちの周波数帯域以外の信号成分を除去するバンドパスフィルタとして機能する。
【0061】
一方、アンテナ303から高周波フィルタ302および送受信切換器301を介して受信系回路300Bに信号が受信されると、その信号を以下の手順で処理する。すなわち、まず、高周波部330において、受信信号を低ノイズアンプ331で増幅し、引き続きバンドパスフィルタ341で受信周波数帯域以外の信号成分を除去したのち、バッファアンプ332を介してミキサ333に供給する。続いて、チャンネル選択用PPL回路342から供給される周波数信号を混合し、所定の送信チャンネルの信号を中間周波信号とすることにより、バッファアンプ334を介して中間周波回路350に供給する。続いて、中間周波回路350において、バッファアンプ351を介してバンドパスフィルタ343に供給することにより中間周波信号の帯域以外の信号成分を除去する。そして、引き続きAGC回路352でほぼ一定のゲイン信号としたのち、バッファアンプ353を介して復調器360に供給する。続いて、復調器360において、バッファアンプ361を介してミキサ362I,362Qに供給したのち、中間周波用PPL回路344から供給される周波数信号を混合し、Iチャンネルの信号成分とQチャンネルの信号成分とを復調する。この際、ミキサ362Iに供給する周波数信号に関しては、移相器364において信号移相を90°シフトさせることにより、互いに直交変調されたIチャンネルの信号成分とQチャンネルの信号成分とを復調する。最後に、Iチャンネルの信号およびQチャンネルの信号をバンドパスフィルタ345I,345Qに供給することによりIチャンネルの信号およびQチャンネルの信号以外の信号成分を除去したのち、ADC346I,346Qに供給してデジタルデータとする。これにより、Iチャンネルの受信データおよびQチャンネルの受信データが得られる。
【0062】
この通信装置は、上記実施の形態で説明した伝送線路素子をアンテナ303として搭載しているため、上記実施の形態において説明した作用により、優れた高周波特性を有する。
【0063】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、誘電体層20が導電体パターン層10の下に設けられている場合について説明したが、発振器(オシレーター)またはフェーズシフタなど他の用途では、図20に示したように、誘電体層20は導電体パターン層10の上に設けられていてもよい。
【0064】
また、上記実施の形態において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0065】
更に、上記実施の形態では、本発明の伝送線路素子を携帯電話機などの通信装置に代表される電子機器に適用する場合について説明したが、これに限られるものではなく、通信装置以外の電子機器(例えば、計測器など)に適用することも可能である。これらのいずれの場合においても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0066】
1…伝送線路素子、1R…右側伝送線路、1L…左側伝送線路、10…導電体パターン層(伝送線路)、20…誘電体層、20A…第1層、20B…第2層、20C…第3層、20C1…開口、30…基板、40…駆動部、2…逆Fアンテナ、300A…送信系回路、300B…受信系回路、303…アンテナ、P1…給電点、Vac…交流電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を伝送するための導電体パターン層と、
前記導電体パターン層に接して設けられると共に前記導電体パターン層に交差する中空の流路を有し、前記流路内に二種類以上の流体が前記流路の延長方向において互いに混ざり合わずに並存している誘電体層と、
前記流路内の流体の前記導電体パターン層に対する位置関係を変化させる駆動部と
を備えた伝送線路素子。
【請求項2】
前記流路は複数設けられると共に互いに連通せず独立しており、
前記駆動部は、前記複数の流路の各々に設けられている
請求項1記載の伝送線路素子。
【請求項3】
前記流体の種類は、前記複数の流路の各々ごとに異なる
請求項2記載の伝送線路素子。
【請求項4】
前記流路と前記導電体パターン層との間は、前記誘電体層により隔てられている
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の伝送線路素子。
【請求項5】
前記流体は、空気と、空気とは比誘電率の異なる気体または液体とである
請求項4記載の伝送線路素子。
【請求項6】
前記流体は、比誘電率の互いに異なる二種類の液体である
請求項4記載の伝送線路素子。
【請求項7】
前記流体は、比誘電率の互いに異なる二種類の液体と、前記二種類の液体の間に配置された空気または空気とは比誘電率の異なる気体とである
請求項4記載の伝送線路素子。
【請求項8】
前記誘電体層は、前記導電体パターン層の下に設けられている
請求項4記載の伝送線路素子。
【請求項9】
前記駆動部が、MEMSアクチュエータにより構成されている
請求項8記載の伝送線路素子。
【請求項10】
信号を伝送する伝送線路素子を備え、
前記伝送線路素子は、
信号を伝送するための導電体パターン層と、
前記導電体パターン層に接して設けられると共に前記導電体パターン層に交差する中空の流路を有し、前記流路内に二種類以上の流体が前記流路の延長方向において互いに混ざり合わずに並存している誘電体層と、
前記流路内の流体の前記導電体パターン層に対する位置関係を変化させる駆動部と
を有する電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−97283(P2011−97283A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248118(P2009−248118)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】