説明

伸縮性不織布

【課題】従来の伸縮性不織布と比較して伸縮特性が一層高い伸縮性不織布を提供すること。
【解決手段】本発明の伸縮性不織布は、スパンボンド法で形成された連続繊維からなる弾性繊維層の各面に、スパンボンド法で形成された連続繊維からなる実質的に非弾性の非弾性繊維層がそれぞれ配されてなる繊維シートを延伸加工し、次いで該延伸を緩和させ伸縮性を発現させて得られたものである。弾性繊維層が、熱可塑性エラストマーを含有する繊維を含んでいる。或いは、弾性繊維層が、熱可塑性エラストマーを含有する繊維と、該熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性樹脂からなる繊維とを含んでいる。熱可塑性エラストマーとしては例えば、230℃における溶融粘度が100〜700Pa・sで且つ溶融張力が0.2〜2.0cNであるスチレン系エラストマーが用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は伸縮性不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性的に伸縮可能なウエブの上下面に、非弾性的に伸長可能なウエブを重ね合わせ、これらを熱溶着、超音波溶着、ニードルパンチング又は水流交絡によって間欠的に接合し、次いで一方向に延伸することで伸縮性シートを製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、接合部が熱溶着等によって硬くなってしまい、シートの肌触りが損なわれてしまう。また、ウエブ間の接合力を十分に得ようとすると、厚み感がなくなり、ふんわりした感触が得られない。
【0003】
特許文献2には、ポリプロピレン系の共重合体からなる熱可塑性エラストマーからなるスパンボンドウエブの層を有する弾性不織ウエブが記載されている。この弾性不織ウエブは、スパンボンド−メルトブローン−スパンボンドの構造や、スパンボンド−スパンボンドの構造を有している。この弾性不織ウエブは、弾性を有する層を引き伸ばした状態で該層に非弾性の層を結合し、次いでその引き伸ばしを弛緩させることで得られる。従ってこの弾性不織布ウエブは、その弛緩状態では非弾性の層がひだ寄せされた状態となっており、弾性の層との一体感がなく外観が良好とは言えない。
【0004】
【特許文献1】特開2001−18315号公報
【特許文献2】特表平7−503502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、伸縮性を始めとする各種特性が一層向上した伸縮性不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、スパンボンド法で形成された連続繊維からなる弾性繊維層の各面に、スパンボンド法で形成された連続繊維からなる実質的に非弾性の非弾性繊維層がそれぞれ配されてなる繊維シートを延伸加工し、次いで該延伸を緩和させ伸縮性を発現させて得られた伸縮性不織布を提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の伸縮性不織布は、従来の伸縮性不織布と比較して伸縮特性や肌触りが一層高いものとなる。また引張強度が高くなる。更に、弾性繊維層と非弾性繊維層との接合が良好になり、層間剥離が起こりづらくなる。その上、弛緩状態でひだが形成されず外観が良好である。しかも弾性繊維層を生産性よく、容易に高坪量にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の伸縮性不織布は、弾性繊維層を有している。伸縮性不織布は、後述する図1に示すようにその各面に実質的に非弾性の非弾性繊維層が積層されている。伸縮性不織布は、スパンボンド法で形成された連続繊維からなる弾性繊維層の各面に、スパンボンド法で形成された連続繊維からなる実質的に非弾性の非弾性繊維層がそれぞれ配されてなる繊維シートを延伸加工し、次いで該延伸を緩和させ伸縮性を発現させて得られたものである。
【0009】
弾性繊維層は、熱可塑性エラストマーを含有する弾性繊維を含んでいる。弾性繊維層は、熱可塑性エラストマーを含有する弾性繊維のみからなるか、又は熱可塑性エラストマーを含有する弾性繊維及び該熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性樹脂からなる非弾性繊維を含んでいる。弾性繊維は1種又は2種以上を用いることができる。弾性繊維層に非弾性繊維が含まれる場合、非弾性繊維は1種又は2種以上を用いることができる。
【0010】
熱可塑性エラストマーとしては、当該技術分野において従来用いられているものと同様のものを特に制限なく用いることができる。例えばスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等を用いることができる。
【0011】
熱可塑性エラストマーとしてスチレン系エラストマーを用いる場合、該エラストマーとしては、その溶融粘度が230℃において100〜700Pa・sであるものが好ましく用いられる。また、スチレン系エラストマーとしては、その溶融張力が0.2〜2.0cNであるものが好ましくは用いられる。この範囲の溶融粘度は、従来用いられているスチレン系エラストマーの溶融粘度と比較して低いレベルにあり、またこの範囲の溶融張力は、従来用いられているスチレン系エラストマーの溶融粘度と比較して高いレベルにある。つまり、このスチレン系エラストマーは、低溶融粘度及び高溶融張力を有することによって特徴付けられる。このような特徴を有するスチレン系エラストマーを構成樹脂として含む弾性繊維を用いることで、本実施形態の伸縮性不織布は、その伸縮特性が従来のものに比較して一層高くなる。
【0012】
特に、スチレン系エラストマーが低溶融粘度及び高溶融張力を有することによって、弾性繊維を溶融紡糸するときの糸切れが起こりにくくなり、細径の連続繊維を容易に製造することができる。また、糸切れによるショットがないため、肌触りの良いものが得られる。弾性繊維を細径にできることは、不織布の地合いにムラが生じづらくなり、更に伸縮特性の向上に大きく寄与する。弾性繊維を連続繊維(フィラメント)にできることも、伸縮特性の向上に大きく寄与する。連続繊維とは実質的に連続であり10cm以上の長さのものを意味する。これらの観点から、スチレン系エラストマーの溶融粘度を200〜700Pa・s、特に300〜600Pa・sとすると、伸縮特性が一層向上する。スチレン系エラストマーの溶融張力を0.2〜1.5cN、特に0.5〜1.5cNとすることも同様の効果がある。
【0013】
前記のショットとは、溶融紡糸時の糸切れによって生じる繊維の塊のようなものである。溶融紡糸時に繊維が切れると、切れた繊維が縮もうとするので繊維が丸まり塊のようになることが原因で発生する。ショットが生じると、不織布がざらついた感じになる。
【0014】
スチレン系エラストマーの溶融粘度及び溶融張力は、キャピログラフ(東洋精機製)を用いて測定される。測定条件は次の通りである。バレルのシリンダー直径は10mm、ピストン直径は9.55mmである。ダイのノズル孔の直径は1.0mmである。バレルを230℃に保ち、気泡が入らないように少量ずつ樹脂ペレットをシリンダー内に入れながら棒で押して充填する。樹脂を充填後、樹脂温度が安定するまで約5分間保持する。溶融粘度は、ピストン速度5mm/分における粘度の安定点で測定する。この時のせん断速度は60sec-1である。溶融張力は、同温度にてピストン速度15mm/分、ドロー速度15m/分におけるテンションを測定して求められる。各測定はN=3の平均とした。
【0015】
弾性繊維を構成する樹脂の溶融時の粘度指標として、当該技術分野において一般的な指標であるメルトインデックス(ASTM D1238、190℃、2.16kg)を採用することもできる。メルトインデックスが好ましくは4〜50g/10min、より好ましくは6〜20g/10minであると、通常成形温度よりも低い温度(例えば成形温度よりも50〜100℃低め)に設定される押出機の温度範囲において、成形時の押出機樹脂圧を低く抑えることができる。しかしメルトインデックスは、ある特定の温度での粘度指標に過ぎず、樹脂は温度を上げていくにつれてその粘度が低下していき、低下具合は樹脂によって異なる。そのため、メルトインデックスは成形性の良さを示す一つの目安となるが、必ずしもすべての場合にあてはまるとは限らない。
【0016】
スチレン系エラストマーは、そのガラス転移点温度Tgが−40〜−15℃、特に−30〜−20℃であることが、伸縮特性の一層の向上の点、及び弾性繊維がべたつき感を呈することを抑える点から好ましい。
【0017】
またスチレン系エラストマーは、その示差走査熱量分析(DSC)による変曲点温度が200〜250℃、特に230〜250℃であることが、物理架橋点(スチレン系エラストマーの場合はスチレンブロックどうし)の結合力が比較的低い温度で弱くなるので、温度を上げた際に粘度の低下が大きくなる点で好ましい。
【0018】
スチレン系エラストマーのガラス転移点温度及びDSCによる変曲点温度は、何れもDSCによる測定で求められる。測定条件は、3〜5mgの試料を窒素雰囲気中で、−60℃から昇温速度10℃/分にて加熱して測定して求めることができる。
【0019】
スチレン系エラストマーの具体例としては、モノマー成分として(1)スチレン、エチレン及びブチレンを含むもの(例えば主鎖骨格がSEBS)、(2)スチレン、エチレン及びプロピレンを含むもの(例えば主鎖骨格がSEPS)、(3)スチレン及びブチレンを含むもの(例えば主鎖骨格がSBS)、(4)スチレン及びイソプレンを含むもの(例えば主鎖骨格がSIS)などが挙げられる。これらのうち、(1)スチレン、エチレン及びブチレンを含むもの、(2)スチレン、エチレン及びプロピレンを含むもの、又は(1)及び(2)の双方を用いると、前記の諸物性を容易に満たすスチレン系エラストマーが得られるので好ましい。
【0020】
前記のスチレン系エラストマーは、先に述べた溶融粘度及び溶融張力を有しているので、それ単独で溶融紡糸しても紡糸性が非常に良好である。これに対して従来のスチレン系エラストマーは、それ単独での紡糸性が低いので、他の樹脂を併用して紡糸性を高めていた。しかしその分、スチレン系エラストマーが本来的に有する伸縮特性が損なわれていた。従って、単独で溶融紡糸可能な前記のスチレン系エラストマーは、それが本来的に有する伸縮性が損なわれない観点から極めて有利である。つまり、弾性繊維層に含まれる弾性繊維は、樹脂成分として、前記のスチレン系エラストマーのみから構成されていることが特に好ましい。
【0021】
また従来、スチレン系エラストマーの溶融粘度を下げる目的で、パラフィンオイルなどのオイル成分を含有させて繊維化する試みが行われてきた。オイル成分は繊維の表面にブリードアウトする場合があり、それに起因して他の樹脂との融着性が低下することがある。これに対して前記のスチレン系エラストマーにオイル成分を添加する必要はない。オイル成分が含まれていない弾性繊維は、伸縮時の永久歪が小さくなるばかりでなく、弾性繊維どうしの融着性、及び非弾性繊維との融着性が高くなる。その結果、弾性繊維層と、非弾性繊維層との接合が良好になり、層間剥離が起こりづらくなる。また伸縮性不織布の表面の毛羽立ちも抑えられる。更に、オイル成分が含まれていないことで、弾性繊維の溶融紡糸時に、揮発成分の発生が少なくなり、環境負荷が小さくなる。これらの観点から、本実施形態における弾性繊維はオイル成分を実質的に含んでいないことが好ましい。実質的に含んでいないとは、オイル成分を全く含まないことを意味せず、弾性繊維の製造時に不可避的に混入するオイル成分は許容する趣旨である。
【0022】
熱可塑性エラストマーとしては、上述のスチレン系エラストマー以外に、ポリオレフィン系エラストマーを用いることができる。熱可塑性エラストマーとしてポリオレフィン系エラストマーを用いる場合、該エラストマーとしては、プロピレン含有率が80〜90重量%で、密度が0.855〜0.880g/cm3であるプロピレンを主体とするものが好ましく用いられる。このポリオレフィン系エラストマーは、プロピレンを主体とするもの、つまりプロピレン・α−オレフィン共重合体である。以下の説明では、このポリオレフィン系エラストマーをポリプロピレン系エラストマーと呼ぶこととする。
【0023】
ポリプロピレン系エラストマーにおける前記のプロピレン含有率は、従来用いられているポリプロピレン系エラストマーのプロピレン含有率と比較して低いレベルにある。またポリプロピレン系エラストマーにおける前記の密度は、従来用いられているポリプロピレン系エラストマーの密度と比較して低いレベルにある。つまり、このポリプロピレン系エラストマーは、低プロピレン含有率及び低密度を有することによって特徴付けられる。このような特徴を有するポリプロピレン系エラストマーを構成樹脂として含む弾性繊維を用いることで、本実施形態の伸縮性不織布は、その伸縮特性が従来のものに比較して一層高くなる。
【0024】
前記のポリプロピレン系エラストマーが低プロピレン含有率及び低密度を有することによって、弾性繊維層と非弾性繊維層との融着性が高くなり、また弾性繊維自体の取り扱い性(例えば膠着しづらい等)も良好になる。更に伸縮性不織布の表面の毛羽立ちも抑えられる。その上、弾性繊維自体の引張強度が高くなり、ひいては伸縮性不織布の引張強度も高くなる。これらの観点から、ポリプロピレン系エラストマーのプロピレン含有率を80〜90重量%、特に82〜88重量%とすると、前記の諸特性が一層向上する。ポリプロピレン系エラストマーの密度を0.855〜0.880g/cm3、特に0.860〜0.870g/cm3とすることも同様の効果がある。
【0025】
ポリプロピレン系エラストマーにおけるプロピレン含有率は、次の方法で測定される。ポリプロピレン系エラストマーについて13C−NMR測定を行う。得られたNMRスペクトルから、プロピレンとその他のα−オレフィン成分との重量比を算出する。そして、プロピレンの重量比を100%換算したものをプロピレン含有率とする。またポリプロピレン系エラストマーの密度は、JIS−K7112のC法(浮沈法)に準拠して測定される。なお、密度の測定環境は23℃、50%RHであり、浸漬液にはエタノール/蒸留水を使用する。
【0026】
ポリプロピレン系エラストマーの重合方法に特に制限はないが、重合触媒としてメタロセン触媒を用いると、得られるポリプロピレン系エラストマーが均質なものとなるので好ましい。メタロセン触媒を用いる場合の重合法としては、不活性溶媒を用いたスラリー法、溶媒を用いない気相法、モノマーを溶媒として用いるバルク重合法等を用いることができる。メタロセン触媒は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の遷移金属をπ電子系のシクロペンタジエニル基又は置換シクロペンタジエニル基等を含有する不飽和環状化合物ではさんだ構造の化合物であるメタロセンと、アルミニウム化合物等の助触媒とを組み合わせたものである。メタロセンとしては、例えば、チタノセン、ジルコノセン等が挙げられる。アルミニウム化合物としては、例えば、アルキルアルミノキサン、アルキルアルミニウム、アルミニウムハライド、アルキルアルミニウムハライド等が挙げられる。
【0027】
ポリプロピレン系エラストマーはそのメルトフローレート(MFR)が2〜350g/10min、特に20〜200g/10minであることが、弾性繊維を溶融紡糸するときの糸切れが一層起こりにくくなり、一層細径の連続繊維を容易に製造し得る点から好ましい。MFRは、ASTM D−1238に準拠して測定される。なおその測定条件は、230℃、荷重2.16kgである。
【0028】
ポリプロピレン系エラストマーはその融解熱量値Aが2〜20mJ/mg、特に4〜18mJ/mgであることが好ましく、かつ融解熱量値Bが12〜24mJ/mg、特に13〜22mJ/mgであることが好ましい。各融解熱量値が前記の範囲内であると、引張強度を適度に保ちながら伸縮性が向上し、かつ溶融紡糸性が良くなるので好ましい。各融解熱量値は、示差走査熱量測定(DSC)で求められる。融解熱量値Aは、10℃/分で昇温しながらDSC曲線を得、その160〜165℃に現れた吸熱ピークにおける熱量から求められる。融解熱量値Bは、10℃/分で昇温しながらDSC曲線を得、その40〜60℃に現れた吸熱ピークにおける熱量と融解熱量値Aとの和から求められる。
【0029】
プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、炭素数2又は4〜20のα−オレフィンが挙げられる。例えばエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのα−オレフィンのうちエチレン、1−ブテンが特に好ましく用いられる。
【0030】
ポリプロピレン系エラストマーは、その重量平均分子量が140,000〜280,000、特に150,000〜240,000であることが好ましい。
【0031】
前記のポリプロピレン系エラストマーは、先に述べたプロピレン含有率及び密度を有しているので、それ単独で溶融紡糸しても紡糸性が非常に良好である。従って、他の樹脂を併用して紡糸性を高める必要はない。他の樹脂を併用すると、ポリプロピレン系エラストマーが本来的に有する伸縮性が損なわれる可能性がある。つまり、弾性繊維は、樹脂成分として、前記のポリプロピレン系エラストマーのみから構成されていることが特に好ましい。
【0032】
ポリオレフィン系エラストマーとしては、上述したポリプロピレン系エラストマーの他に、エチレンを主体とするポリオレフィン系エラストマーを用いることも好ましい。以下、このポリオレフィン系エラストマーを、ポリエチレン系エラストマーと呼ぶ。このポリエチレン系エラストマーは、エチレン・α−オレフィン共重合体である。このポリエチレン系エラストマーは、低密度であることによって特徴付けられる。具体的には、その密度が0.855〜0.895g/cm3であることが好ましい。この範囲の密度は、従来用いられているポリエチレン系エラストマーの密度と比較して低いレベルにある。このような特徴を有するポリエチレン系エラストマーを構成樹脂として含む弾性繊維を用いることで、本実施形態の伸縮性不織布は、その伸縮特性が従来のものに比較して一層高くなる。
【0033】
前記の範囲の低密度であることに加えて、ポリエチレン系エラストマーは、そのエチレン含有率が低いことが好ましい。具体的には、ポリエチレン系エラストマーは、そのエチレン含有率が80〜90重量%に設定されていることが好ましい。この範囲のエチレン含有率は、従来用いられてきたポリエチレン系エラストマーのエチレン含有率と比較して低いレベルにある。
【0034】
特に、前記のポリエチレン系エラストマーが低密度を有し且つ低エチレン含有率を有することによって、前述したポリプロピレン系エラストマーを用いた場合と同様の有利な効果が奏される。この観点から、ポリエチレン系エラストマーの密度を特に0.860〜0.870g/cm3とし、またエチレン含有率を82〜88重量%とすることが更に好ましい。ポリエチレン系エラストマーの密度及びエチレン含有率は、上述したポリプロピレン系エラストマーの密度及びプロピレン含有率と同様の方法で測定される。
【0035】
ポリエチレン系エラストマーの重合方法に特に制限はないが、上述のポリプロピレン系エラストマーと同様に、重合触媒としてメタロセン触媒を用いると、得られるポリエチレン系エラストマーが均質なものとなるので好ましい。メタロセン触媒の詳細については、先に述べた通りである。
【0036】
ポリエチレン系エラストマーはそのメルトフローレート(MFR)が、上述したポリプロピレン系エラストマーと同様に、2〜350g/10min、特に5〜200g/10minであることが好ましい。また、ポリエチレン系エラストマーはその融解熱量値が10〜80mJ/mg、特に20〜40mJ/mgであることが好ましい。融解熱量値がこの範囲内であると、引張強度を適度に保ちながら伸縮性が向上し、かつ溶融紡糸性が良くなるので好ましい。融解熱量値は、示差走査熱量測定(DSC)で求められる。融解熱量値は、10℃/分で昇温しながらDSC曲線を得、その40〜60℃に現れた吸熱ピークにおける熱量から求められる。
【0037】
ポリエチレン系エラストマーは、上述の物性値を有するものであることに加えて、以下に述べる動的粘弾性特性を有していることが好ましい。これによって、このポリエチレン系エラストマーから構成される弾性繊維を含む本実施形態の伸縮性不織布は、従来の伸縮性不織布と比較して高モジュラスで、伸縮のヒステリシスが良好なものとなる。高モジュラスであることは、通気性や肌触りを高める目的で伸縮性不織布の坪量を低くして、該不織布を薄手のものにした場合や、弾性繊維の繊維径を小さくした場合であっても、良好な伸縮特性が発揮されることになるので有利である。つまり、伸縮性不織布が伸ばしやすくなり、且つ伸ばされた状態から収縮するときの強度が高くなる。
【0038】
ポリエチレン系エラストマーは、20℃、周波数2Hzで測定された動的粘弾性の貯蔵弾性率G’が好ましくは1×104〜8×106Paになっている。これに加えてポリエチレン系エラストマーは、20℃、周波数2Hzで測定された動的粘弾性の動的損失正接tanδ値が好ましくは0.2以下になっている。tanδ値の下限に特に制限はなく、小さければ小さいほど好ましいが、現在の工業的技術で達成可能な下限値は0.005程度である。
【0039】
前記の貯蔵弾性率G’は、ポリエチレン系エラストマーの動的粘弾性測定における弾性成分を表す指標、すなわち硬さを表す指標である。一方動的損失正接tanδ値は、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”との比G”/G’で表され、ポリエチレン系エラストマーが変形する際にどのくらいエネルギーを吸収するかを表す指標である。ポリエチレン系エラストマーの貯蔵弾性率G’が前記の下限値未満であると、モジュラスが低いため、伸縮のヒステリシスが十分なものにならない場合がある。G’の値が上限値を超えると、モジュラスが高いため伸長時に大きな力を必要とし、硬い感触のものとなる場合がある。また、降伏が生じるので残留歪みが大きくなる場合がある。一方、ポリエチレン系エラストマーの動的損失正接tanδ値が前記の上限値を超えると、変形したときの残留歪みが大きくなり、伸縮特性が十分なものとならない場合がある。
【0040】
ポリエチレン系エラストマーの動的粘弾性測定は、上述の通り、20℃、周波数2Hz、引張モードで行われる。与える歪みは0.1%である。本実施形態における具体的な測定は、Anton Paar社製のPhysica MCR500を用いて行った。なお試料は、長さ30mm、幅10mm、厚さ0.8mmの板状のものとした。
【0041】
エチレンと共重合されるα−オレフィンとしては、炭素数3〜20のα−オレフィンが挙げられる。その例としては、ポリプロピレン系エラストマーに関して上述した説明が適用される。α−オレフィンのうちプロピレン、1−ブテンが特に好ましく用いられる。
【0042】
ポリエチレン系エラストマーは、その重量平均分子量が50,000〜280,000、特に70,000〜240,000であることが好ましい。
【0043】
前記のポリエチレン系エラストマーは、先に述べた密度及びエチレン含有率を有しているので、それ単独で溶融紡糸しても紡糸性が非常に良好である。従って、他の樹脂を併用して紡糸性を高める必要はない。他の樹脂を併用すると、ポリエチレン系エラストマーが本来的に有する伸縮性が損なわれる可能性がある。つまり、弾性繊維は、樹脂成分として、前記のポリエチレン系エラストマーのみから構成されていることが特に好ましい。
【0044】
熱可塑性エラストマーとしては、上述のものの他に、10〜50重量%の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAと、下記式(1)で表される繰り返し単位を主体とする重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を用いることもできる。このブロック共重合体は、20℃、周波数2Hzで測定された動的粘弾性の貯蔵弾性率G’が1×104〜8×106Paであり、且つ同温度及び同周波数で測定された動的粘弾性の動的損失正接tanδ値が0.2以下であることが好ましい。
【0045】
【化2】

【0046】
前記のブロック共重合体における芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン、ジメチルアミノエチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらの芳香族化合物のうち、工業的生産性、コストの点からスチレンを用いることが好ましい。
【0047】
重合体ブロックAは、ブロック共重合体中に好ましくは10〜50重量%含まれ、更に好ましくは15〜30重量%含まれる。ブロック共重合体における重合体ブロックAの量をこの範囲内とすることで、ブロック共重合体の成形性や耐熱性が良好になり、また伸縮特性や柔軟性も良好になる。
【0048】
重合体ブロックAに加えて、ブロック共重合体は、前記の式(1)で表される繰り返し単位を主体とする重合体ブロックBを含んでいる。ブロック共重合体中における重合体ブロックBの量は、ブロック共重合体中における重合体ブロックAの量の残部である。即ち、ブロック共重合体中における重合体ブロックBの量は、好ましくは50〜90重量%、更に好ましくは70〜85重量%である。
【0049】
重合体ブロックBは、式(1)で表される繰り返し単位に加えて、以下の式(2)で表される繰り返し単位を更に含んでいてもよい。式(2)で表される繰り返し単位は、重合体ブロックB中に20モル%以下、特に10モル%以下の量で含まれ得る。勿論、重合体ブロックBは、式(2)で表される繰り返し単位を含んでいなくてもよい。
【0050】
【化3】

【0051】
ブロック共重合体における重合体ブロックAと重合体ブロックBとの配列様式としては種々のものがある。好ましくは線状の配列様式、特に基本型がA−B−A型であるトリブロックであることが、ブロック共重合体の伸縮特性が良好になる点から好ましい。
【0052】
ブロック共重合体から構成される弾性繊維は、他の一般的なエラストマー繊維に比べ、べたつき性ないしタック性が小さいという利点も有する。これによっても、ブロック共重合体から構成される弾性繊維を含む本実施形態の伸縮性不織布は、肌触りが良好なものとなる。
【0053】
ブロック共重合体は、上述の構造を有するものであることに加えて、以下に述べる動的粘弾性特性を有している。これによって、このブロック共重合体から構成される弾性繊維を含む本実施形態の伸縮性不織布は、従来の伸縮性不織布と比較して高モジュラスで、伸縮のヒステリシスが良好なものとなる。高モジュラスであることの利点は、先に述べた通りである。
【0054】
ブロック共重合体は、20℃、周波数2Hzで測定された動的粘弾性の貯蔵弾性率G’が好ましくは1×104〜8×106Pa、更に好ましくは5×104〜5×106Pa、一層好ましくは1×105〜1×106Paになっている。これに加えてブロック共重合体は、20℃、周波数2Hzで測定された動的粘弾性の動的損失正接tanδ値が好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.1以下、一層好ましくは0.05以下になっている。貯蔵弾性率G’及び動的損失正接tanδ値の意義及び測定方法については、先に述べた通りである。
【0055】
ブロック共重合体は例えば次の工程で合成できる。先ず、シクロヘキサン等の炭化水素溶媒に、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を適宜の順序で添加し、有機リチウム化合物や金属ナトリウム等を開始剤としてアニオン重合を行い共役ジエンに基づく二重結合を有する共重合体を得る。共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、ヘキサジエン等が用いられる。特にイソプレンを用いることが好ましい。
【0056】
次に、この共重合体の共役ジエンに基づく二重結合に水素を添加して、目的とするブロック共重合体を得る。共役ジエンに基づく二重結合の水素添加率は、その80%以上、特に90%以上であることが、耐熱性、耐候性の点から好ましい。水素添加反応は、白金、パラジウム等の貴金属系触媒や、有機ニッケル化合物、有機コバルト化合物又はこれらの化合物と他の有機金属化合物との複合触媒を用いて行うことができる。水素添加率は、ヨウ素価測定法によって算出される。
【0057】
以上説明した各種の熱可塑性エラストマーを含有する弾性繊維の繊維形態としては、(イ)前記の熱可塑性エラストマー単独、又は該エラストマーと、他の樹脂とのブレンドからなる単独繊維、(ロ)前記の熱可塑性エラストマーと、他の樹脂とを構成樹脂とする芯鞘型又はサイド・バイ・サイド型の複合繊維などが挙げられる。特に、前述した種々の観点から、前記の熱可塑性エラストマー単独からなる単独繊維を用いることが好ましい。
【0058】
弾性繊維が前記の熱可塑性エラストマー及び他の樹脂を含む場合、当該他の樹脂としては、例えば従来スチレン系エラストマーと併用されていた樹脂であるポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンとエチレン等の共重合体などからなるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどからなるポリエステル系樹脂、ポリアミド樹脂等の溶融紡糸可能な樹脂を用いることができる。或いは、前記の熱可塑性エラストマーとは異なる種類のエラストマー、例えばゴム、SBS、SIS、SEBS、SEPS等のスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーを用いることもできる。これらは二種以上を組み合わせて用いることもできる。この場合、弾性繊維における前記の熱可塑性エラストマーの含有量は10〜99重量%、特に40〜80重量%、とりわけ50〜80重量%であることが好ましい。
【0059】
弾性繊維層は、前記の熱可塑性エラストマーを含有する弾性繊維のみから構成されていてもよい。或いは、目的とする伸縮性不織布の伸縮特性を高める、低コスト化を図る、生産性を高める等の観点から、弾性繊維層には、前記の熱可塑性エラストマーを含有する弾性繊維に加えて、該弾性繊維と異なる他の弾性繊維が含まれていてもよい。他の弾性繊維としては、前記の熱可塑性エラストマーを含有する弾性繊維と共に不織布を形成し得るものであればその種類に特に制限はない。他の弾性繊維としては、弾性繊維層全体の重量に対する当該他の弾性繊維の配合割合は5〜80重量%、特に5〜50重量%であることが好ましい。
【0060】
また弾性繊維層には、肌触り、風合いを良くする点、強度を高める観点から、前記の熱可塑性エラストマーを含有する弾性繊維に加えて、非弾性繊維が含まれていてもよい。或いは、前記の熱可塑性エラストマーを含有する弾性繊維及び該弾性繊維と異なる他の弾性繊維に加えて、非弾性繊維が含まれていてもよい。非弾性繊維としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル(PETやPBT)、ポリアミド等からなる繊維等が挙げられる。非弾性繊維は、親水性でも撥水性でも良い。また、芯鞘型又はサイド・バイ・サイド型の複合繊維、分割繊維、異形断面繊維、捲縮繊維、熱収縮繊維等を用いることもできる。これらの非弾性繊維は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。弾性繊維層が、弾性繊維と非弾性繊維とを含んで構成されている場合、前者/後者の重量比は、20/80〜80/20、特に30/70〜70/30であることが、良好な伸縮特性を有し、高い強度を実現させ、肌触りが良好で、風合いが向上する点から好ましい。
【0061】
先に述べた通り、本発明の伸縮性不織布は、弾性繊維層の各面に実質的に非弾性の非弾性繊維層が積層されている。図1には本発明の伸縮性不織布の好ましい一実施形態における断面構造の模式図が示されている。本実施形態の伸縮性不織布10は、弾性繊維層1の各面に、同一の又は異なる、実質的に非弾性の非弾性繊維層2,3が積層されて構成されている。
【0062】
弾性繊維層1は弾性繊維を含む集合体である。弾性繊維層1は、伸ばすことができ且つ伸ばした力から解放したときに収縮する性質を有するものである。弾性繊維層1は、少なくとも面と平行な一方向において、100%伸長後に収縮させたときの残留歪みが20%以下、特に10%以下であることが好ましい。この値は、少なくとも、MD方向及びCD方向の何れか一方において満足することが好ましく、両方向において満足することがより好ましい。
【0063】
弾性繊維層1に含まれる弾性繊維は、スパンボンド法で形成されたものである。スパンボンド法においては溶融した樹脂をノズル孔より押し出し、この押し出された樹脂を、半溶融状態において冷風や機械的ドローによって延伸することで連続繊維を得る。弾性繊維層1をスパンボンド法で形成することで、該弾性繊維層1を生産性よく、容易に高坪量のものとすることができる。このことは、伸縮性不織布10の強度を容易に高め得る点から有利である。
【0064】
弾性繊維層1に含まれる弾性繊維は、スパンボンド法で形成された連続繊維である。弾性繊維が連続繊維であると、ノズルリップから半溶融状態に押し出された樹脂を冷風や機械的ドローによって連続して伸長されるので、繊維径が細くなるばかりでなく、繊維径のバラツキが少なくなるという利点がある。これによって、不織布を透かして見たときの地合いが良好となり、また不織布の伸縮特性のバラツキが小さくなる。繊維径の細いものが得られるということは、冷風の容量を小さくでき、製造コストの点でもメリットがある。
【0065】
非弾性繊維層2,3は、伸長性を有するが、実質的に非弾性のものである。ここでいう、伸長性は、構成繊維自体が伸長する場合と、構成繊維自体は伸長しなくても、繊維どうしの交点において熱融着していた両繊維どうしが離れたり、繊維どうしの熱融着等により複数本の繊維で形成された立体構造が構造的に変化したり、構成繊維がちぎれたりして、繊維層全体として伸長する場合の何れであっても良い。
【0066】
非弾性繊維層2,3を構成する繊維としては、弾性繊維層1に含まれ得る伸長性の非弾性繊維として先に説明したものと同様のものを用いることができる。非弾性繊維層2,3を構成する繊維は、特にポリオレフィン系樹脂を含んで構成されていることが好ましい。そのような繊維としては、例えば、(イ)ポリオレフィン系樹脂単独又は複数種類のポリオレフィン系樹脂のブレンド物からなる単繊維や、(ロ)ポリオレフィン系樹脂が鞘部を構成している芯鞘型複合繊維、(ハ)サイド・バイ・サイド型複合繊維において、少なくとも一の構成樹脂がポリオレフィン系樹脂であるもの、(ニ)分割要素の少なくとも一種がポリオレフィン系樹脂である分割繊維などが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−αオレフィン共重合体などが挙げられる。
【0067】
弾性繊維層1と同様に、非弾性繊維層2,3も、スパンボンド法で形成された連続繊維から構成されている。非弾性繊維層2,3をスパンボンド法で形成することで、十分な強度を有する伸縮性不織布を得ることができる。
【0068】
2つの非弾性繊維層2,3は、構成繊維の材料、坪量、厚み等に関して同じであっても良く、或いは異なっていてもよい。芯鞘型の複合繊維の場合、芯がPET、PP、鞘が低融点PET、PP、PEが好ましい。特にこれらの複合繊維を用いると、弾性繊維層の構成繊維との熱融着が強くなり、層剥離が起こりにくい点で好ましい。
【0069】
2つの非弾性繊維層2,3のうち少なくとも一方は、その厚みが弾性繊維層1の厚みの1.2〜20倍、特に1.5〜5倍になっていることが好ましい。一方、坪量に関しては、2つの非弾性繊維層2,3のうち少なくとも一方は、その坪量よりも弾性繊維層の坪量の方が高くなっていることが好ましい。換言すれば、非弾性繊維層は、弾性繊維層よりも厚く且つ坪量が小さいことが好ましい。厚みと坪量とがこのような関係になっていることで、非弾性繊維層は、弾性繊維層に比較して厚みのある嵩高なものとなる。その結果、伸縮性不織布10は柔らかで風合いの良好なものとなる。
【0070】
非弾性繊維層2,3の厚みそのものに関しては、0.05〜5mm、特に0.1〜1mmであることが好ましい。一方、弾性繊維層1の厚みそのものに関しては、非弾性繊維層2,3の厚みよりも小さいことが好ましく、具体的には0.01〜2mm、特に0.1〜0.5mmであることが好ましい。厚みの測定は伸縮性不織布断面をマイクロスコープにより50〜200倍の倍率で観察し、各視野において平均厚みをそれぞれ求め、3視野の厚みの平均値として求めることができる。
【0071】
非弾性繊維層2,3の坪量そのものに関しては、弾性繊維層1の表面を均一に覆う観点及び残留歪みの観点から、それぞれ1〜60g/m2、特に5〜15g/m2であることが好ましい。一方、弾性繊維層1の坪量そのものに関しては、伸縮特性及び残留歪みの観点から、非弾性繊維層2,3の坪量よりも大きいことが好ましい。具体的には5〜80g/m2、特に10〜40g/m2であることが好ましい。
【0072】
構成繊維の繊維径に関し、弾性繊維層1の構成繊維は、通気性及び伸縮特性の観点から、その繊維径が5μm以上、特に10μm以上が好ましく、100μm以下、特に40μm以下であることが好ましい。一方、非弾性繊維層2,3の構成繊維は、その繊維径が1〜30μm、特に10〜20μmであることが好ましい。つまり、非弾性繊維層2,3の構成繊維としては、弾性繊維層1の構成繊維よりも細めのものを用いることが好ましい。これによって、表層に位置する非弾性繊維層2,3の構成繊維の融着点が増加する。融着点の増加は、伸縮性不織布10の毛羽立ち発生の防止に有効である。さらに、細めの繊維を用いることで肌触りの良い伸縮性不織布10が得られる。
【0073】
図1に示すように、弾性繊維層1と、非弾性繊維層2,3とは、弾性繊維層1の構成繊維が繊維形態を保った状態で、繊維交点の熱融着によって全面で接合されている。つまり、部分接合されている従来の伸縮性不織布とは、接合状態が異なっている。弾性繊維層1と、非弾性繊維層2,3とが全面接合されている本実施形態の伸縮性不織布10においては、弾性繊維層1と、非弾性繊維層2,3との界面及びその近傍において、弾性繊維層1の構成繊維と、非弾性繊維層2,3の構成繊維との交点が熱融着しており、実質的に全面で均一に接合されている。全面で接合されていることによって、弾性繊維層1と、非弾性繊維層2,3との間に浮きが生じること、つまり、両層が離間して空間が形成されることが防止される。両層間に浮きが生じると、弾性繊維層と非弾性繊維層との一体感がなくなり伸縮性不織布10の風合いが低下する傾向にある。本実施形態によれば、あたかも一層の不織布ごとき一体感のある多層構造の伸縮性不織布が提供される。
【0074】
「弾性繊維層1の構成繊維が繊維形態を保った状態」とは、弾性繊維層1の構成繊維のほとんどが、熱や圧力等を付与された場合であっても、フィルム状、又はフィルム−繊維構造に変形していない状態をいう。弾性繊維層1の構成繊維が繊維形態を保った状態にあることで、本実施形態の伸縮性不織布10には十分な通気性が付与されるという利点がある。
【0075】
弾性繊維層1は、その層内において、構成繊維の交点が熱融着している。同様に、非弾性繊維層2,3も、その層内において、構成繊維の交点が熱融着している。
【0076】
2つの非弾性繊維層2,3のうちの少なくとも一方においては、その構成繊維の一部が弾性繊維層1に入り込んだ状態、及び/又は、弾性繊維層の構成繊維の一部が少なくとも一方の非弾性繊維層2,3に入り込んだ状態になっている。このような状態になっていることで、弾性繊維層1と、非弾性繊維層2,3との一体化が促進され、両層間に浮きが生じることが一層効果的に防止される。結果としてそれぞれの層の表面に追従した形で層と層が組み合わさっている状態となる。非弾性繊維層の構成繊維は、その一部が弾性繊維層1に入り込み、そこにとどまっているか、或いは弾性繊維層1を突き抜けて、他方の非弾性繊維層にまで到達している。それぞれの各層において表面繊維間を結ぶ面をマクロ的に想定したとき、この面から層の内側に形成される繊維空間に、他の層の構成繊維の一部が前記層の断面厚み方向へ入り込んでいる。非弾性繊維層の構成繊維が弾性繊維層1に入り込み、そこにとどまっている場合、該構成繊維は、更に弾性繊維層1の構成繊維と交絡していることが好ましい。同様に、非弾性繊維層の構成繊維が弾性繊維層1を突き抜けて、他方の非弾性繊維層にまで到達している場合には、該構成繊維は、他方の非弾性繊維層の構成繊維と交絡していることが好ましい。これは伸縮性不織布の厚み方向断面をSEMやマイクロスコープなどで観察した際に、層間において実質的に空間が形成されていないことで確認される。また、ここで言う「交絡」とは、繊維どうしが十分に絡み合っている状態を意味し、繊維層を単に重ね合わせただけの状態は交絡に含まれない。交絡しているか否かは、例えば、繊維層を単に重ね合わせた状態から、繊維層を剥離するときに要する力と、繊維層を重ね合わせ、それに熱融着を伴わないエアスルー法を適用した後に、繊維層を剥離する力とを比較して、両者間に実質的に差異が認められる場合には、交絡していると判断できる。
【0077】
非弾性繊維層の構成繊維を、弾性繊維層に入り込ませる、及び/又は、弾性繊維層の構成繊維を非弾性繊維層に入り込ませるには、非弾性繊維層の構成繊維と非弾性繊維層の構成繊維を熱融着させる処理前において非弾性繊維または弾性繊維の少なくともどちらかがウエブ状態(熱融着していない状態)であることが好ましい。構成繊維を他の層に入り込ませる観点から、ウエブ状態である繊維層は、短繊維の方が長繊維に比べ自由度が高いことから好ましい。
【0078】
また、非弾性繊維層の構成繊維を、弾性繊維層1に入り込ませる、及び/又は、弾性繊維層の構成繊維を非弾性繊維層に入り込ませるには、エアスルー法を用いることが好ましい。エアスルー法を用いることで、相対する繊維層に構成繊維を入り込ませ、また、相対する繊維層から構成繊維を入り込ませることが容易となる。またエアスルー法を用いることで、非弾性繊維層の嵩高さを維持しつつ、非弾性繊維層の構成繊維を、弾性繊維層1に入り込ませることが容易となる。非弾性繊維層の構成繊維を、弾性繊維層1を突き抜けさせて他方の非弾性繊維層にまで到達させる場合にも、同様にエアスルー法を用いることが好ましい。特に、ウエブ状態の非弾性繊維層を、弾性繊維層と積層して、エアスルー法を用いることが好ましい。この場合、弾性繊維層はその構成繊維同士が熱融着をしていてもよい。さらに、後述する製造方法において説明するように、特定の条件下でエアスルー法を行うことで、また、熱風の通りをよくするため伸縮性不織布の通気性、特に弾性繊維層の通気度を高いものとすることで、繊維をより均一に入り込ませることができる。エアスルー法以外の方法、例えばスチームを吹きかける方法も使用することができる。また、スパンレース法、ニードルパンチ法などを用いることも可能であるが、その場合には非弾性繊維層の嵩高さが損なわれたり、表面に弾性繊維層の構成繊維が表面にでてきてしまい、得られる伸縮性不織布の風合いが低下する傾向にある。
【0079】
特に、非弾性繊維層の構成繊維が、弾性繊維層1の構成繊維と交絡している場合には、エアスルー法のみによって交絡していることが好ましい。
【0080】
エアスルー法によって繊維を交絡させるためには、気体の吹きつけ圧、吹きつけ速度、繊維層の坪量や厚み、繊維層の搬送速度等を適切に調整すればよい。通常のエアスルー不織布を製造するための条件を採用しただけでは、非弾性繊維層の構成繊維と弾性繊維層1の構成繊維とを交絡させることはできない。後述する製造方法において説明するように、特定の条件下でエアスルー法を行うことによって、本発明において目的とする伸縮性不織布が得られる。
【0081】
エアスルー法では一般に、所定温度に加熱された気体を、繊維層の厚み方向に貫通させている。その場合には、繊維の交絡及び繊維交点の融着が同時に起こる。しかし本実施形態においては、エアスルー法によって各層内の構成繊維間で繊維交点を融着させることは必須ではない。換言すれば、エアスルー法は、非弾性繊維層の構成繊維を、弾性繊維層1に入り込ませるために、或いは、該構成繊維を弾性繊維層1の構成繊維と交絡させ、そして、非弾性繊維層の構成繊維と弾性繊維層の構成繊維とを熱融着させるために必要な操作である。また、繊維が入り込む方向は、加熱された気体の通過方向と非弾性繊維層と弾性繊維層との位置関係によって変わる。非弾性繊維層は、エアスルー法によって、その構成繊維内で繊維交点が融着されたエアスルー不織布となることが好ましい。
【0082】
以上の説明から明らかなように、本実施形態の伸縮性不織布の好ましい形態においては、実質的に非弾性の非弾性エアスルー不織布の厚み方向内部に、構成繊維が繊維形態を保った状態の弾性繊維層1が含まれており、該エアスルー不織布の構成繊維の一部が弾性繊維層1に入り込んだ状態、及び/又は、弾性繊維層の構成繊維の一部が非弾性繊維層に入り込んだ状態になっている。更に好ましい形態においては、エアスルー不織布の構成繊維の一部が弾性繊維層1の構成繊維とエアスルー法によってのみ交絡している。弾性繊維層1がエアスルー不織布の内部に含まれていることによって、弾性繊維層1の構成繊維は、実質的に伸縮性不織布の表面には存在しないことになる。このことは、弾性繊維に特有のべたつき感が生じない点から好ましいものである。
【0083】
図1には示していないが、本実施形態の伸縮性不織布10にはエンボス加工が施されていてもよい。エンボス加工は、弾性繊維層1と非弾性繊維層2,3との接合強度を一層高める目的で行われる。従って、エアスルー法によって弾性繊維層1と非弾性繊維層2,3とを十分に接合できれば、エンボス加工を行う必要はない。なお、エンボス加工は、構成繊維どうしを接合させるが、エアスルー法と異なり、エンボス加工によっては、構成繊維どうしは交絡しない。
【0084】
熱エンボス加工は、熱風処理部200によって行われる熱融着に対して補助的に行われるものであるから、その加工条件は比較的穏やかでよい。逆に、熱エンボス加工の条件を過酷にすると、繊維シート10Aの嵩高さが損なわれ、また繊維のフィルム化が起こり、最終的に得られる伸縮性不織布の風合いや通気性にマイナスに作用する。従って、例えば熱エンボス加工の線圧は、加工対象である繊維シート10Bの厚みにもよるが、一般に50〜600N/cm、特に100〜400N/cmであることが好ましい。またエンボスロールの加熱温度は、繊維の構成樹脂の種類や繊維シート10Bの搬送速度にもよるが、一般に50〜160℃、特に80〜130℃であることが好ましい。
【0085】
熱エンボス加工によって得られた繊維シート10Aは、図 に示すように、個々独立した散点状の接合部4を多数有する。接合部4は規則的な配置パターンで形成されている。接合部4は、例えば、繊維シート10Aの流れ方向(MD)及びその直交方向(CD)の両方向に不連続に形成されていることが好ましい。接合部のピッチは、MD及びCDともに0.3〜5mm、特に0.5〜3mmが好ましい。接合部の面積率は3〜40%、特に5〜15%が好ましい。
【0086】
また図2に示すように、非弾性繊維ウエブ3’の上に、直接弾性繊維ウエブ1’を溶融紡糸し積層させ、更にその上に、非弾性繊維ウエブ2’を積層させる場合には、エアスルーを行わずとも弾性繊維層1と非弾性繊維層2,3とを十分に接合でき、その後のエンボス加工を行い、繊維シート10Aを得ることもできる。
【0087】
本実施形態の伸縮性不織布10は、その面内方向の少なくとも一方向に伸縮性を有する。面内のすべての方向に伸縮性を有していてもよい。その場合には、方向によって伸縮性の程度が異なることは妨げられない。最も伸縮する方向に関し、伸縮性の程度は、100%伸長時の荷重が20〜500cN/25mm、特に40〜150cN/25mmであることが好ましい。また100%伸長状態から収縮させたときの残留歪みが15%以下、特に10%以下であることが好ましい。
【0088】
本実施形態の伸縮性不織布10は、その良好な風合いや、毛羽立ち防止性、伸縮性、通気性の点から、外科用衣類や清掃シート等の各種の用途に用いることができる。特に生理用ナプキンや使い捨ておむつなどの吸収性物品の構成材料として好ましく用いられる。例えば、使い捨ておむつの外面を構成するシート、胴回り部やウエスト部、脚周り部等に弾性伸縮性を付与するためのシート等として用いることができる。特に、パンツ型使い捨ておむつにおける外装面全面を構成するシートとして好適である。また、本実施形態の伸縮性不織布10を、ナプキンの伸縮性ウイングを形成するシート等として用いることができる。また、それ以外の部位であっても、伸縮性を付与したい部位等に用いることができる。伸縮性不織布の坪量や厚みは、その具体的な用途に応じて適切に調整できる。例えば吸収性物品の構成材料として用いる場合には、坪量20〜160g/m2程度、厚み0.1〜5mm程度とすることが望ましい。また、本発明の伸縮性不織布は、弾性繊維層の構成繊維が繊維形態を保っていることに起因して、柔軟であり、また通気性が高くなっている。柔軟性の尺度である曲げ剛性に関し、本発明の伸縮性不織布は、曲げ剛性値が10cN/30mm以下と低いものとなっていることが好ましい。通気性に関しては、通気度が16m/(kPa・s)以上となっていることが好ましい。また、伸縮方向の最大強度は800cN/25mm以上、最大伸度は100%以上であることが望ましい。
【0089】
曲げ剛性は、JIS L−1096に準拠して測定され、ハンドルオメーターによる押し込み量8mm、スリット幅10mmの条件において、それぞれ流れ方向とそれに対して直角方向に曲げた際の平均値として得られる。通気度は、カトーテック製AUTOMATIC AIR−PERMEABILITY TESTER KES-F8-AP1により通気抵抗を測定し、その逆数として求められる。
【0090】
次に、本実施形態の伸縮性不織布10の好ましい製造方法を、図2を参照しながら説明する。図2には、本実施形態の伸縮性不織布10の製造方法に用いられる好ましい製造装置が模式的に示されている。図2に示す装置は、製造工程の上流側から下流側に向けて、ウエブ形成部100、熱風処理部200及び延伸部300をこの順で備えている。
【0091】
ウエブ形成部100には、第1ウエブ形成装置21、第2ウエブ形成装置22及び第3ウエブの形成装置23が備えられている。各形成装置21,22,23としては、スパンボンド紡糸装置が用いられている。スパンボンド紡糸装置としては、当該技術分野において通常用いられているものと同様のものを特に制限なく用いることができる。
【0092】
熱風処理部200は熱風炉24を備えている。熱風炉24内では、所定温度に加熱された加熱ガス、特に加熱空気が吹き出すようになっている。互いに重ね合わされた3層のウエブが熱風炉内に導入されると、該ウエブの上方から下方に向けて、若しくはその逆方向に、又は両方向に加熱ガスが強制的に貫通する。
【0093】
延伸部300は、弱接合装置25及び延伸装置30を備えている。弱接合装置25は、一対のエンボスロール26,27を備えている。弱接合装置25は、熱風処理部200によって形成された繊維シートにおける各層のウエブの接合を確実にするためのものである。弱接合装置25の下流には、これに隣接して延伸装置30が配置されている。延伸装置30は一対のロール31,32を備えている。各ロール31,32はその周面部に、軸線方向に延び且つ互いに噛み合う歯溝を有している。従って、以下の説明においては、ロール31,32を歯溝ロールと呼ぶこととする。歯溝ロール31,32が回転しているときに繊維シートがそれらの噛み合い部分に供給されて噛み込まれることで、該繊維シートが歯溝ロール31,32の周面方向(即ちシートの長手方向)へ延伸される。
【0094】
以上の構成を有する装置を用いた伸縮性不織布の製造方法について説明すると、先ず、弾性繊維からなるウエブの各面に、同一の又は異なる非弾性繊維からなる一対のウエブを配する。なお「弾性繊維からなるウエブ」とは、弾性繊維のみからなるウエブだけでなく、該ウエブから形成される弾性繊維層(図1符号1で示される層)の伸縮弾性を損なわない範囲において、弾性繊維に加えて少量の非弾性繊維が含まれているウエブも包含する。
【0095】
図2に示すように、ウエブ形成部100においては、第1ウエブ形成装置21であるスパンボンド紡糸装置によって非弾性繊維ウエブ3’を製造し、一方向に連続搬送させる。これとは別に、熱可塑性エラストマー等からなる弾性樹脂を原料として用い、第2ウエブ形成装置22であるスパンボンド紡糸装置によって紡出された弾性繊維を含む弾性繊維ウエブ1’を、第1ウエブ形成装置21より形成され一方向に連続搬送されている非弾性繊維ウエブ3’上に積層させる。この弾性繊維ウエブ1’上には、更に、第3ウエブ形成装置23であるスパンボンド紡糸装置によって製造された非弾性繊維ウエブ2’が積層される。
【0096】
ウエブ形成部100においては、非弾性繊維ウエブ3’を熱処理により仮融着させた後、又は仮交絡させた後に、その上に直接紡糸された弾性繊維を、直接堆積させることもできる。熱処理による仮融着としては、ヒートロール法、加圧カレンダーロール法、スチーム法、エアスルー法などが挙げられ、仮交絡としては、ニードルパンチ法、ウオータージェット法などが挙げられる。特にヒートロールおよびエアスルー法を用いると、不織布の風合いを損ねることがない点、及び設備スペースを小さくできる点で好ましい。非弾性繊維ウエブ3’は仮融着後、又は仮交絡後に巻き取らず、インラインにてその上に弾性繊維を直接堆積させることが好ましい。一旦巻き取ってしまうと、巻き付き圧によって非弾性繊維ウエブ3’が潰れてしまう場合がある。仮融着、仮交絡させる目的は、ウエブ上に弾性繊維を直接溶融紡糸して堆積させるとき、該ウエブが風等で吹き飛ばされないようにすることにある。
【0097】
弾性繊維ウエブ1’が例えば2種の繊維から構成されている場合、具体的には弾性繊維ウエブ1’が前記の熱可塑性エラストマーを含有する弾性繊維、及び該弾性繊維と異なる他の弾性繊維から構成されている場合や、前記の熱可塑性エラストマーを含有する弾性繊維、及び非弾性繊維から構成されている場合には、図2に示すスパンボンド紡糸装置の紡糸ダイとして、図3に示すものを用いることができる。図3に示す紡糸ダイは、紡糸ノズルAと、紡糸ノズルBとが、ダイの幅方向Xにわたり交互に且つ等間隔で配列されたノズル列R1,R2,・・・が、Xと直交する方向Yに多列に配置された構造になっている。隣り合う列どうしにおいてはノズルの配置が半ピッチずつずれている。紡糸ノズルAからは前記の熱可塑性エラストマーを含有する樹脂が吐出される。一方、紡糸ノズルBからは、他の熱可塑性エラストマー又は非弾性の樹脂が吐出される。
【0098】
3つのウエブの積層体は、エアスルー方式の熱風炉24に送られ、そこで熱風処理が施される。熱風処理によって、繊維どうしの交点が熱融着し、弾性繊維ウエブ1’はその全面において非弾性繊維ウエブ2’,3’と接合する。熱風処理に際しては、各層のウエブが一体化していないことが好ましい。これによって各ウエブが有する嵩高で厚みのある状態が熱風処理後も維持されて、風合いの良好な伸縮性不織布が得られる。
【0099】
熱風処理によって、繊維どうしの交点を熱融着させ、各層のウエブを全面接合することに加えて、主として熱風の吹き付け面側に位置する非弾性繊維ウエブ2’の構成繊維の一部を、弾性繊維ウエブ1’に入り込ませることが好ましい。また、熱風処理の条件を制御することによって、非弾性繊維ウエブ2’の構成繊維の一部を、弾性繊維ウエブ1’に入り込ませ、更に、該ウエブ1’の構成繊維と交絡させることが好ましい。或いは、非弾性繊維ウエブ2’の構成繊維の一部を、弾性繊維ウエブ1’を突き抜けさせて、非弾性繊維ウエブ3’にまで到達させ、該ウエブ3’の構成繊維と交絡させることが好ましい。
【0100】
非弾性繊維ウエブ2’の構成繊維の一部を、弾性繊維ウエブ1’に入り込ませる、及び/又は、弾性繊維ウエブ1’の構成繊維の一部を非弾性繊維ウエブ2’に入り込ませるための条件は、熱風風量0.4〜3m/秒、温度80〜160℃、搬送速度5〜200m/分、熱処理時間0.5〜10秒であることが好ましい。特に好ましくは熱風風量1〜2m/秒である。エアスルー熱処理に用いるネットに通気度の高いものを用いると、エアの通りによって繊維が一層入り込みやすくなる。同様に非弾性繊維ウエブ3’上に弾性繊維ウエブ1’を直接紡糸する場合も、紡糸時の風によって弾性繊維ウエブ1’の構成繊維が非弾性繊維ウエブ3’に入り込み易くなる。熱風処理に用いるネット、及び弾性繊維の直接紡糸に用いるネットは、それらの通気度が250〜800cm3/(cm2・s)、特に400〜750cm3/(cm2・s)であることが好ましい。上記条件は繊維を軟化させて均一に入り込ませる点と繊維を融着させる点においても好ましい。更に、繊維を交絡させるためには、熱風風量を3〜5m/秒とし、吹きつけ圧を0.1〜0.3kPaとすることで可能となる。弾性繊維ウエブ1’の通気度が8m/(kPa・s)以上、更に好ましくは24m/(kPa・s)以上であると、熱風の通りがよくなり、繊維をより均一に入り込ませることができるので好ましい。また、繊維の融着が良好で最大強度が高くなる。更に毛羽立ちも防止される。
【0101】
熱風処理においては、非弾性繊維ウエブ2’の構成繊維の一部が、弾性繊維ウエブ1’に入り込むのと同時に、非弾性繊維ウエブ2’の構成繊維及び/又は非弾性繊維ウエブ3’の構成繊維と、弾性繊維ウエブ1’の構成繊維とが、それらの交点で熱融着することが好ましい。この場合、熱風処理を、該熱風処理後の弾性繊維が繊維形態を維持するような条件下に行うことが好ましい。即ち、熱風処理によって弾性繊維ウエブ1’の構成繊維がフィルム状、或いはフィルム−繊維構造にならないようにすることが好ましい。そして、熱風処理においては、非弾性繊維ウエブ2’の構成繊維どうしが交点において熱融着し、同様に弾性繊維ウエブ1’の構成繊維どうし、及び非弾性繊維ウエブ3’の構成繊維どうしが交点において熱融着する。
【0102】
エアスルー方式の熱風処理によって、3つのウエブが一体化された繊維シート10Bが得られる。繊維シート10Bは、一定幅を有して一方向に延びる長尺帯状のものである。繊維シート10Bは、次いで延伸部300へ搬送される。延伸部300においては、繊維シート10Bは先ず弱接合装置25に搬送される。弱接合装置25は、周面にエンボス用凸部が規則的に配置された金属製のエンボスロール26及びそれに対向配置された金属製又は樹脂製の受けロール27を備えたエンボス装置からなる。弱接合装置25によって繊維シート10Bには熱エンボス加工が施される。これによって、エンボス加工が施された繊維シート10Aが得られる。なお弱接合装置25による熱エンボス加工に先立って熱風処理部200により行われる熱融着によって、各層のウエブは互いに接合して一体化しているので、弱接合装置25による熱エンボス加工は、本発明において必須のものではない。各層のウエブの接合一体化を確実にしたい場合は、弱接合装置25による熱エンボス加工は有効である。また、弱接合装置25によれば、各層のウエブの接合一体化に加えて、繊維シート10Aの毛羽立ちが抑えられるという利点がある。
【0103】
弱接合装置25による熱エンボス加工は、熱風処理部200によって行われる熱融着に対して補助的に行われるものであるから、その加工条件は比較的穏やかでよい。逆に、熱エンボス加工の条件を過酷にすると、繊維シート10Aの嵩高さが損なわれ、また繊維のフィルム化が起こり、最終的に得られる伸縮性不織布の風合いや通気性にマイナスに作用する。このような観点から熱エンボス加工の線圧及びエンボスロールの加熱温度を設定する。
【0104】
熱エンボス加工によって得られた繊維シート10Aは、個々独立した散点状の接合部を多数有する。接合部は規則的な配置パターンで形成されている。接合部は、例えば、繊維シート10Aの流れ方向(MD)及びその直交方向(CD)の両方向に不連続に形成されていることが好ましい。
【0105】
弱接合装置25において熱エンボス加工が施された繊維シート10Aは、引き続き延伸装置30へ送られる。図4に示すように延伸装置30は、延伸加工される繊維シート10Aの機械流れ方向の滑りを防ぐ滑り防止手段33と、歯溝ロール31,32による延伸加工前後の繊維シート10Aに張力を加える張力付与手段34、35を備えている。
【0106】
滑り防止手段33は、歯溝ロール31と接触したロールからなる。ロールはゴムロールで構成されており、それらの周面部を歯溝ロール31に押し当てることで、歯溝ロール31,32間を通過する繊維シート10Aの滑りや収縮を抑制する。ロールからなる滑り防止手段33は、歯溝ロール32に周面部を押し当てるように配置することもでき、これにより、前記と同様の効果を奏させることができる。
【0107】
図4に示す滑り防止手段33の別の例として、一方のロールにその周面部において開孔する吸引路を設け、該吸引路を通して延伸加工済みの繊維シート10Aを吸引する吸引手段を付設したものを用いることもできる。
【0108】
張力付与手段34は、歯溝ロール31,32の上流側に配された一組のテンションロール34a、34bを備えている。張力付与手段35は、歯溝ロール31,32の下流側に配された一組のテンションロール35a、35bを備えている。
【0109】
図5に示すように、各歯溝ロール31,32における隣接する歯31a、32aどうしのピッチPは、好ましくは1.0mm〜5.0mmであり、前記各歯の幅Wが前記ピッチの好ましくは1/2未満であり、且つ前記歯の高さHは好ましくは隣接する歯のピッチ以上である。各ロールにおける歯溝の形態が斯かる範囲であると、これら歯溝ロール31,32間に供給される繊維シート10Aに従来にない高い伸縮性を付与することができる。歯溝ロール31,32における隣接する歯どうしのピッチとは、1つの歯の中心線とそれと隣り合う歯の中心線との距離をいう。歯溝ロールの歯の幅とは、1つの歯の幅をいう。歯の幅は均等でなく、歯の根元から歯の先端に向って細くなる台形型の歯であってもよい。ロールの歯の高さとは、歯の根元から先端までの長さをいう。
【0110】
各歯溝ロール31,32における隣接する歯どうしのピッチPは、繊維シート10Aの伸びの均一化を考慮すると、1.5〜3.5mmが更に好ましく、2.0〜3.0mmが一層好ましい。また、各ロール2、3における歯の幅Wは、歯の強度を考慮すると、歯どうしのピッチの1/4〜1/2が更に好ましく、1/3〜1/2が一層好ましい。さらに、各ロールの歯の高さHは、繊維シート10Aのに伸縮性を与えるために延伸倍率を高くすることを考慮すると、歯のピッチが例えば2.0mmの場合は2.0(ピッチの1.0倍)〜4.0(ピッチの2.0倍)mmが好ましく、2.5(ピッチの1.25倍)〜3.5(ピッチの1.75倍)mmが一層好ましい。
【0111】
各歯溝ロール31,32における歯31a、32aの先端の角部は、歯31a、32aの角部によって繊維シート10Aにダメージが与えられないようにするために、面取りしておくことが好ましい。面取りの曲率半径は0.1〜0.3mmが好ましい。
【0112】
歯溝ロール31,32の歯31a、32aの噛み合い深さDは、繊維シート10Aに伸縮性を与えるために延伸倍率を高くすることを考慮すると、1.0mm以上が好ましく、2.0mm以上が一層好ましい。ここで、歯の噛み合い深さとは、歯溝ロール31,32どうしを噛み合わせて回転させるとき、隣接する歯の重なり合う長さをいう。
【0113】
歯溝ロール31,32は、何れか一方の回転軸に駆動手段(図示せず)からの駆動力が伝達されることによって噛み合って回転する。歯溝ロール31,32の各軸に歯31a,32aとは別に、一般的な、JIS B1701に規定されているギアを駆動用のギアとして取り付けてもよい。それによって、歯溝ロール31,32の歯31a,32aが噛み合うのではなく、これらのギアが噛み合うことによって、歯溝ロール31,32に駆動が伝達され、歯溝ロール31,32を回転させることができる。この場合、歯溝ロール31,32の歯31a,32aは接触することはない。
【0114】
図6には、延伸装置30による繊維シート10Aの延伸加工の状態が模式的に示されている。詳細には、延伸装置30における一対の歯溝ロール31,32を回転させながらそれらの噛み合い部分に繊維シート10Aを供給する。そして、図6に示すように、歯溝ロール31,32間において、繊維シート10Aに延伸加工を施す。繊維シート10Aに一層効果的に伸縮性を付与する観点から、延伸加工前の繊維シート10Aにテンションロール34a,34bによって張力を加えた状態で、歯溝ロール31,32間に繊維シート10Aを供給することが好ましい。供給する繊維シート10Aに加える張力は、延伸加工前の繊維シート10Aの破断応力の10%〜80%が好ましく、20%〜70%が一層好ましい。
【0115】
同様の観点から、延伸加工済みの繊維シート10Aにテンションロール35a,35bによって張力を加えて歯溝ロール31,32間から該シートを引き出すことが好ましい。供給する繊維シート10Aに加える張力は、延伸加工後の繊維シート10Aの破断応力の5%〜80%が好ましく、10%〜70%が一層好ましい。シートの破断応力は歯溝延伸加工の加工前に比べて、加工後では小さくなる。また、歯溝延伸加工によって伸縮性を付与された延伸加工済みの繊維シート10Aはわずかな張力でも伸びやすい。そのような観点から、延伸加工済みの繊維シート10Aに加える張力を、延伸加工前の繊維シート10Aに加える張力よりも弱くすることが好ましい。
【0116】
前記の延伸加工により、繊維シート10A中の非弾性繊維ウエブ2,3が十分に伸長され、それによって非弾性繊維ウエブ2,3が、弾性繊維ウエブ1の自由な伸縮を阻害する程度が大きく低下する。その結果、本製造方法によれば、高伸縮性であり、また、破れや毛羽立ちの少ない外観の良好な伸縮性不織布を効率的に製造することができる。また、弾性繊維ウエブ1と非弾性繊維ウエブ2,3とが一緒に延伸されるので、弛緩状態で非弾性繊維ウエブ2,3に起因するひだが形成されない。これによっても外観が良好となる。これに対して、背景技術の項で述べた特許文献2に記載の弾性不織ウエブでは、弾性繊維の層を引き伸ばした状態で、これに非弾性繊維の層を結合しているので、弛緩状態では非弾性の層がひだ寄せされた状態となっており外観が良好とは言えない。
【0117】
前記の延伸加工によって、繊維シート10Aの厚みは、延伸加工前後で1.1倍〜4倍、特に1.3倍〜3倍に増すことが好ましい。これによって、非弾性繊維層2,3の繊維が塑性変形して伸びることで繊維が細くなる。これと同時に、非弾性繊維層2,3が一層嵩高となり肌触りが良くクッション性が良好になる。
【0118】
延伸加工される前の繊維シート10Aの厚みが薄いと、繊維シート10Aのロール原反を運搬及び保管するスペースを小さくできるメリットがある。
【0119】
更に、前記の延伸加工によって、繊維シート10Aの曲げ剛性は、延伸加工前に比較して30〜80%、特に40〜70%に変化することが好ましい。これによって、ドレープ性が良く柔らかな不織布が得られる。また、延伸加工される前の繊維シート10Aの曲げ剛性が高いことで、搬送ラインで繊維シート10Aに皺が入りにくくなるので好ましい。その上、延伸加工時にも繊維シート10Aに皺が入らず加工しやすいものとなるので好ましい。
【0120】
延伸加工前後での繊維シート10Aの厚みや曲げ剛性は、非弾性繊維層2,3に用いられる繊維の伸度、エンボスロールのエンボスパターン、凹凸ロール33,34のピッチや先端部の厚み、かみ合わせ量によって制御することができる。
【0121】
厚みは、伸縮性不織布を20±2℃、65±2%RHの環境下に無荷重にて、2日以上放置した後、次の方法にて求める。先ず伸縮性不織布を0.5cN/cm2の荷重にて平板間に挟む。その状態下にマイクロスコープにて断面を25倍から200倍の倍率で観察し、各層の平均厚みを求める。また平板間の距離から全体の厚みを求める。繊維の入り込みについては相互の入り込みの中間点を厚みとする。
【0122】
延伸装置30から送り出された繊維シート10Aは、その幅方向への延伸状態が解放される。即ち伸長が緩和される。その結果、繊維シート10Aにその長手方向への伸縮性が発現し、該シート10Aはその長手方向へ収縮する。これによって目的とする伸縮性不織布10が得られる。なお、延伸状態を解放する場合、延伸状態が完全に解放されるようにしてもよく、或いは伸縮性が発現する限度において、延伸状態が或る程度維持された状態で延伸状態を解放してもよい。
【0123】
次に、本発明の伸縮性不織布の具体的な用途として、該不織布をパンツ型使い捨ておむつに適用した例を説明する。このパンツ型使い捨ておむつは、吸収性コアを含む吸収性本体と、該吸収性本体の非肌当接面側に接合された外包材とを備え、該外包材における腹側部及び背側部の両側縁部同士が接合されて、一対のサイドシール部、ウエスト開口部及び一対のレッグ開口部が形成されているものである。このおむつは以下の特徴を有している。
(イ)前記外包材は、伸縮性シートからなる外層シートと非伸縮性シートからなる内層シートとが積層された構造を有し、該外層シートと該内層シートとは、前記サイドシール部並びに前記ウエスト開口部及び前記レッグ開口部それぞれの周縁部を除く部分の全域又は大部分において接合されていない。
(ロ)前記吸収性本体と前記外包材の前記内層シートとは本体接合部により接合されている。
(ハ)前記サイドシール部が分離され且つ前記外包材が展開された状態において、前記内層シートの実質的な幅は、収縮した状態の前記外層シートの幅よりも広くなっている。
以上の特徴を有するパンツ型使い捨ておむつを、図面を参照しながら以下に説明する。
【0124】
おむつ101は、図7〜図10に示すように、液透過性の表面シート102、液不透過性又は撥水性の裏面シート103及び両シート102、103間に介在配置された液保持性の吸収性コア104を有する実質的に縦長の吸収性本体110と、吸収性本体110の裏面シート103側(非肌当接面側)に接合された外包材111とを備えている。
【0125】
外包材111は、その両側縁が、長手方向中央部において内方に括れた砂時計形の形状を有しており、おむつの輪郭を画成している。外包材111は、その長手方向において、着用者の腹側に配される腹側部Aと背側に配される背側部Bとその間に位置する股下部Cとに区分される。腹側部A及び背側部Bは、外包材111の長手方向前後端部に相当し、股下部Cは外包材111の長手方向中央部に相当する。外包材111は、その腹側部Aの両側縁部A1,A2と背側部Bの両側縁部B1,B2とが互いに接合され、使い捨ておむつ101にはウエスト開口部105及び一対のレッグ開口部106が形成されている。この接合によって、使い捨ておむつ101の左右両側縁には一対のサイドシール部S,Sが形成され、パンツ型を形成している。これらの接合には、例えばヒートシール、高周波シール、超音波シール等が用いられる。
【0126】
表面シート102、裏面シート103及び吸収性コア104はそれぞれ矩形状であり、一体化されて縦長の吸収性本体110を形成している。表面シート102、裏面シート103及び吸収性コア104としては、それぞれ、従来この種のおむつに用いられているものと同様のものを用いることができる。例えば、吸収性コア104としては、高吸収性ポリマーの粒子及び繊維材料から構成され、ティッシュペーパ(図示せず)によって被覆されているものを用いることができる。
【0127】
吸収性コア104は、図11に示すように、砂時計型の中央吸収体141と中央吸収体141の両側方に対称的に設けられた一対のサイド吸収体142,142とを具備している。中央吸収体141と一対のサイド吸収体142,142とはそれぞれ少なくとも股下部において分離している。サイド吸収体142の長手方向一方部及び長手方向他方部は、それぞれ、中央吸収体141の長手方向一方部(腹側部)及び長手方向他方部(背側部)で連設している。従って、中央吸収体141と一対のサイド吸収体142,142との間には、それぞれ、刳り貫かれた形状の切離部143,143が形成されている。
【0128】
長手方向一方部、長手方向中央部、長手方向他方部は、吸収性コア104を長手方向に略3等分するように3領域に区分したときの各領域である。吸収性コア104が切離部143を有していると、吸収性コア104の両側縁部が起立し易い。また、吸収性コア104が幅方向に押圧されると、吸収性コア104全体の幅が狭くなるため、外包材111の幅方向の収縮が阻害され難い。なお吸収性コア104の平面視形状は、図11に示す形状に制限されず、例えば、サイド吸収体142が長手方向一方部又は長手方向他方部の一方のみで中央吸収体141に連接している形状、サイド吸収体142が中央吸収体141に連接していない(分離している)形状、切離部143を有していない形状でもよい(何れも図示せず)。
【0129】
吸収性本体110の長手方向の左右両側には、図8〜図10に示すように、液抵抗性ないし撥水性で且つ通気性の素材から構成された側方カフス108,108が形成されている。各側方カフス108の自由端部の近傍には、側方カフス弾性部材181が伸長状態で配されている。これにより、図7のように組み立てられた使い捨ておむつ101を着用させる際に、側方カフス弾性部材181が収縮することにより側方カフス108が起立して、吸収性本体110の幅方向への液の流出が阻止される。側方カフス108,108の形成用のシート材182は、図9及び図10に示すように、おむつの状態において、吸収性本体110の幅方向外側の所定幅の部分182Sが、裏面シート103の肌当接面側に巻き下げられ、吸収性コア104と裏面シート103との間に固定されている。
【0130】
外包材111は、本発明の伸縮性不織布からなる外層シート112と非伸縮性シートからなる内層シート113とが積層された構造を有している。外層シート112はおむつの外面をなし、内層シート113は外層シート112の内面側に配されている。外層シート112を形成する伸縮性不織布は、おむつを展開状態としたときに、少なくともおむつ幅方向(図8の左右方向)に伸縮性を有していればよい。内層シート113を形成する非伸縮性シートは、おむつを展開状態としたときに、少なくともおむつ幅方向に伸縮性を有していない。
【0131】
外層シート112は、おむつ幅方向において、おむつ長手方向(図8の上下方向)よりも大きく伸長可能である。より具体的には、おむつ幅方向においては、大きく伸長し且つ伸長後に収縮する(最大伸度100%以上且つ伸長回復率70%以上)が、おむつ長手方向においては、わずかにしか伸長しない(例えば、最大伸度50%以下)。
【0132】
非伸縮性シートとしては、不織布、不織布と樹脂フィルムとの積層材、多孔性フィルム等が好ましい。非伸縮性シートは、通気性、風合いを良好にする観点から、熱可塑性繊維からなる不織布から形成されているものが好ましく、また、排泄物の漏れ防止の観点から、撥水性の不織布から形成されているものが好ましい。
【0133】
おむつ101においては、図9及び図10に示すように、腹側部A及び背側部Bのそれぞれにおける外層シート112と内層シート113との間は、サイドシール部A1,A2,B1,B2においては、ヒートシール、高周波シール又は超音波シールにより互いに接合されており、ウエスト開口部105の周縁部150及び一対のレッグ開口部106それぞれの周縁部160においては、ホットメルト型接着剤等の接着剤152,162により互いに接合されている。そして、腹側部A及び背側部Bのそれぞれにおける外層シート112と内層シート113との間は、これらの部分を除く部分の大部分において接合されていない。
【0134】
具体的には、外層シート112と内層シート113との間は、サイドシール部A1,A2,B1,B2、ウエスト開口部105の周縁部150、一対のレッグ開口部106それぞれの周縁部160に加えて、腹側部A及び背側部Bそれぞれのおむつ幅方向中央部において接合されており、それら以外の部分においては接合されていない。
【0135】
このように、腹側部A及び背側部Bにおける広い範囲において、外層シート112と内層シート113との間を接合しない構成とすることにより、外包材111が接着剤で硬くなる部分を最小限に抑えることができ、おむつの外面や、外包材111の内面における吸収性本体110に覆われていない部分を、柔らかで肌触りの良いものとすることができる。また、外包材111の通気性が良好に維持されるので、ムレにくいおむつを提供することができる。更に、ウエスト開口部105及び一対のレッグ開口部106それぞれの周縁部150,160において、外層シート112と内層シート113との間を接合した構成としたため、胴回り部においては、伸縮性の外包材111により適度なフィット性を得ることができる。
【0136】
腹側部A及び背側部Bそれぞれにおける、ウエスト開口部105の周縁部150には、ウエスト開口部105の開口周縁端に沿って、複数のウエスト部弾性部材151,151が配されている。これらのウエスト部弾性部材151,151は、接着剤152を介して外層シート112と内層シート113との間に伸長状態で固定されている。
【0137】
また、腹側部A、股下部C及び背側部Bに亘って存在するレッグ開口部の周縁部160,160にも、各開口部の周縁端に沿って、レッグ部弾性部材161a,161bが配されている。これらのレッグ部弾性部材161a,161bは、接着剤162を介して外層シート112と内層シート113との間に伸長状態で固定されている。ウエスト部弾性部材151及びレッグ部弾性部材161a,161bとしては、それぞれ、天然ゴム、ポリウレタン系樹脂、発泡ウレタン系樹脂、ホットメルト系伸縮部材等の伸縮性素材を糸状(糸ゴム)又は帯状(平ゴム)に形成したものが好ましく用いられる。
【0138】
このように、ウエスト開口部105及び一対のレッグ開口部106それぞれの周縁部150,160に、糸状又は帯状の弾性部材151,161a,161bを、外層シート112と内層シート113との間に挟んだ状態に固定することにより、これらの部位のフィット性を外包材111の伸縮特性の制約を受けることなく高めることができる。
【0139】
また、糸状又は帯状の弾性部材151,161a,161bを外層シート112と内層シート113との間に挟んだ状態に固定できるため、このような弾性部材を、一枚のシートからなる外包材に固定する場合に比べて、弾性部材が着用者に違和感を与えたり、外観を悪化させることを防止することもできる。
【0140】
おむつ101において、ウエスト開口部105の周縁部150に存する外層シート112と内層シート113との間が接合されている領域の幅は、腹側部A及び背側部Bそれぞれについて、ウエスト開口部の周縁端105a,105bから70mm以内であることが好ましく、60mm以内であることが更に好ましい。レッグ開口部106の周縁部160に存する外層シート112と内層シート113との間が接合されている領域の幅は、腹側部A、股下部C及び背側部Bの各部において、レッグ開口部106の周縁端から50mm以内であることが好ましく、30mm以内であることが更に好ましい。
【0141】
また、腹側部A及び背側部Bそれぞれにおけるおむつ幅方向において、外層シート112と内層シート113との間が接合されていない部分の合計長さ(L1+L2)は、左右のサイドシール部A1,A2間の長さLa(Lb)に対して、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることが更に好ましい。
【0142】
腹側部A及び背側部Bそれぞれにおける外層シート112と内層シート113との間が接合されていない部分の面積は、腹側部A及び背側部Bそれぞれの面積に対して、60〜100%であることが好ましく、70〜100%であることがより好ましい。この数値を満たすものを「全域又は大部分」というものとする。
【0143】
本明細書に記載の各部の寸法や比等は、図8に示すようにおむつを展開状態とし、ウエスト開口部及びレッグ開口部の弾性部材による収縮力を解除した自然状態(張力等の外力を作用させない状態)において測定した値又はそれに基づくものである。
【0144】
おむつ101においては、股下部Cにおける外層シート112と内層シート113との間も、レッグ開口部の周縁部160及び股下部Cのおむつ幅方向中央部において、接着剤162,接合部114を介して接合されているが、それ以外の部分においては接合されていない。おむつ101においては、図8に示すように、レッグ開口部の周縁部160に伸縮性を付与するためのレッグ部弾性部材161が、レッグ開口部の周縁部160から股下部Cの幅方向中央に向かって延出しているが、このように、レッグ開口部に周方向に伸縮性を付与するためのレッグ部弾性部材161が配されている部分は、レッグ開口部の周縁部160に含まれる。
【0145】
おむつ101においては、腹側部A及び背側部B並びに股下部Cそれぞれのおむつ幅方向中央部において、外層シート112と内層シート113との間が接合されているため、おむつの装着前並びに装着中の外観を一層良好にすることができる。また、外包材111の外面に廃棄用テープ(図示せず)を設ける場合に、廃棄用テープをおむつ幅方向中央部に固定することで、廃棄用テープを強固に固定することができる。廃棄用テープは、おむつを丸めた状態を保持するテープであり、従来公知の各種のものを用いることができる。
【0146】
腹側部A及び背側部B並びに股下部Cそれぞれのおむつ幅方向中央部において、外層シート112と内層シート113と間が接合されているため、裏面シート103に、模様や文字、その他の記号等の図柄を設けた場合に、おむつ外面側からその図柄を明瞭に視認できる。
【0147】
おむつ101において、図8及び図9に示すように、外包材111の外面側を構成する構成する外層シート112は、外層シート112と内層シート113とによって各ウエスト部弾性部材151,51を挟持固定する部位よりも更に延出する長さを有し、外層シート112における内層シート113より延出した部分112a,112bが吸収性本体110側に折り返されている。吸収性本体110は、その長手方向両端部における肌当接面側が、外層シート112の折り返された部分(折り返し部分)112a,112bに覆われている。外層シート112の折り返し部分112a,112bは、吸収性本体110の長手方向両端部と重なる部分が、吸収性本体110の略全幅に亘って接着剤(図示せず)を介して接着されており、これにより、吸収性本体110の長手方向両端部が、外包材111に固定されている。折り返し部分112a,112bを形成することで、吸収性本体110の前後端部が着用者に直接接触することを防止し、吸収性本体110の前後端部からの吸収性コア104の吸水性ポリマーの漏れを防止することができる。
【0148】
吸収性本体110は、その長手方向両端部を除く部分においては、図9及び図10に示すように、幅方向中央部のみが本体接合部115により外包材111の内層シート113に接合されている。外包材111の伸縮が、吸収性本体110の接合によって阻害されにくくなるため、胴回り部に良好なフィット性が得られる。外包材111のおむつ幅方向中央部における外層シート112と内層シート113との間の接合部114の幅W1は、腹側部A及び背側部Bのそれぞれにおいて、吸収性本体110の幅Wの0〜40%であることが好ましく、0〜30%であることがより好ましい。接合部114の幅W1が吸収性本体110の幅Wの40%を超えた場合、伸縮性の阻害が生じる。
【0149】
本体接合部115は、おむつ幅方向中央部に設けられている。本体接合部115の幅W2は、腹側部A及び背側部Bのそれぞれにおいて、吸収性本体110の非肌当接面側の幅Wの70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましい。本体接合部115の幅W2が吸収性本体110の幅Wの70%以上であると、装着中における吸収性本体110の剥がれ、破壊等が生じ難い。本体接合部115は、おむつ幅方向に離間した形態でもよい。
【0150】
サイドシール部Sが分離され且つ外包材111が展開された状態において、内層シート113の実質的な幅は、収縮した状態の外層シート112の幅よりも広くなっている。即ち、外包材111が展開された状態において、外層シート112はその収縮力により収縮した状態になっているが、内層シート113は非伸縮性シートからなるため幅がほとんど狭くならない。そのため、内層シート113は外層シート112に対して幅方向に弛んだ状態になる。このような弛んだ内層シート113を仮想的に外層シート112から分離し、内層シート113の弛みを解消したときの内層シート113の幅を「内層シート113の実質的な幅」とする。
【0151】
内層シート113の実質的な幅は、収縮した状態の外層シート112の幅の1.3〜4.0倍であることが好ましく、1.5〜3.0倍であることが更に好ましい。
【0152】
このように構成されたおむつ101においては、サイドシール部Sが分離され且つ外包材111が展開された状態において、内層シート113の実質的な幅は、収縮した状態の外層シート112の幅よりも広くなっている。従って、外包材111の外層シート112が伸縮性シートから形成されているため、装着時のおむつの外観やフィット感が良好である。また、外包材111の内層シート113が非伸縮性シートから形成されているため、使用時に外包材111が幅方向に伸長しても、内層シート113が弛み、外包材111からの吸収性本体110の剥がれ、外包材111の破れ等の問題が生じ難い。また、外包材111の肌当接面側は、触感及び風合いが良好で、柔らかさに優れている。
【0153】
おむつ101においては、本発明の伸縮性不織布からなる外層シート112と非伸縮性シートからなる内層シート113とがほとんど接着されていないため、非伸縮性の吸収性本体110の影響を受けることなく、外包材111の伸縮性が良好である。外包材111の外層シート112が伸長状態から解放されても、吸収性本体110は収縮することなく外観に優れ、且つ吸収性本体110の吸収性能が維持できる。そのため、本体接合部115の幅W2を広く設定しても、外包材111の幅方向の伸縮性は阻害されない。
【0154】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は、前記実施形態に制限されない。例えば前記の製造方法においては、繊維シート10Aを長手方向に延伸させたが、これに代えて幅方向に延伸させることもできる。
【実施例】
【0155】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0156】
〔実施例1〕
図1に示す伸縮性不織布を、図2で示す装置を用いて製造した。先ず第1ウエブ形成装置21としてのスパンボンド紡糸装置によって、ポリプロピレン(MFR 30g/10分)繊維からなる非弾性繊維ウエブ3’を形成した。繊維径は15μmであった。ウエブ3’の坪量は10g/m2であった。この非弾性繊維ウエブ3’上に弾性繊維ウエブ1’を積層した。
【0157】
弾性繊維ウエブ1’は次の方法で形成した。230℃における溶融粘度180Pa・s、溶融張力1.3gであるSEBSからなる弾性樹脂を用いた。この弾性樹脂のTgは−28℃、変曲点温度は240℃、メルトインデックスは6.3g/10minであった。押出機を用い、溶融した樹脂をダイス温度250℃で紡糸ノズルから押し出し、スパンボンド法によって非弾性繊維ウエブ3’上に連続繊維からなる弾性繊維ウエブを1’成形した。弾性繊維の直径は25μmであった。弾性繊維ウエブは地合いの点で良好なものが得られた。ウエブ1’の坪量は20g/m2であった。
【0158】
弾性繊維ウエブ1’上に、前述と同様の繊維からなる非弾性繊維ウエブ2’を積層した。ウエブ2’の坪量は10g/m2であった。
【0159】
これら3層のウエブの積層体を熱処理機に導入し、エアスルー方式で熱風を吹き付け、熱処理を行った。熱処理の条件は、ネット上温度140℃、熱風風量2m/秒、吹き付け圧0.1kPa、吹き付け時間15秒間であった。この熱処理によって3層のウエブが一体化された繊維シート10Bが得られた。
【0160】
次いで繊維シート10Bに熱エンボス加工を施した。熱エンボス加工は、エンボス凸ロールとフラット金属ロールとを備えたエンボス装置を用いて行った。エンボス凸ロールとして、MD及びCD方向のピッチが2.0mmである多数の凸部を有し、面積率10%のドット状凸ロールを用いた。各ロールの温度は125℃に設定した。この熱エンボス加工によって接合部が規則的なパターンで形成された繊維シート10Aを得た。
【0161】
繊維シート10Aに対して延伸加工を施した。延伸加工は、軸線方向に延び且つ互いに噛み合う歯溝を周面部に有している一対の歯溝ロールを備えた延伸装置を用いて行った。歯溝ロールのピッチは2mm、歯の噛み合い深さは2.5mmとし、3.5倍の延伸率で繊維シート10AをMDに延伸させた。これによりMDに伸縮する坪量40g/m2の不織布が得られた。なお、各工程の搬送速度は何れも10m/分であった。
【0162】
〔実施例2〕
弾性樹脂として、プロピレン含有量85重量%、その他のα−オレフィンとしてエチレン含有量15重量%のポリオレフィン系エラストマーを用いた。このポリオレフィン系エラストマーは、メタロセン触媒を用いて重合されたものであり、密度は0.867g/cm3であった。融解熱量値Aは17mJ/mg、融解熱量値Bは22mJ/mg、MFRは300g/10minであった。重量平均分子量は200,000であった。これ以外は実施例1と同様にして、坪量40g/m2の伸縮性不織布を得た。弾性繊維の直径は25μmであった。
【0163】
〔実施例3〕
撹拌装置付き耐圧容器中に、シクロヘキサン600部、十分に脱水したスチレン13重量部、及びsec−ブチルリチウム0.02部を加え、60℃で60分間重合した。次いでイソプレンを120部加え60分間重合した。更にスチレンを13部加え60分間重合した後、メタノールを添加し重合を停止した。これによってスチレン−イソプレン−スチレン型ブロック共重合体を合成した。得られた共重合体中のスチレン含有量は18重量%であった。
【0164】
この共重合体に、その濃度が20%となるようにシクロヘキサンを加え、減圧脱気後に水素置換した。更に、共重合体に対して5%のパラジウム−炭素(パラジウムの坦持率5%)触媒を加え、2MPaの水素雰囲気下で水添反応を行った。このようにして水素添加率99%の水添ブロック共重合体を得た。
【0165】
このブロック共重合体について動的粘弾性測定を行ったところ、20℃、2Hzにおける貯蔵弾性率は1.9×105Paであり、動的損失正接tanδ値は0.02であった。このブロック共重合体を弾性樹脂として用い、実施例1と同様の方法で坪量40g/m2の伸縮性不織布を得た。弾性繊維の直径は25μmであった。
【0166】
〔実施例4〕
弾性樹脂として、エチレンを主体とするポリオレフィン系エラストマーを用いた。このポリオレフィン系エラストマーは、エチレン含有率75重量%、1−ブテン含有率25重量%であった。このポリオレフィン系エラストマーは、メタロセン触媒を用いて重合されたものであった。密度は0.870g/cm3、融解熱量値は12mJ/mg、MFRは6.7g/10min、重量平均分子量は100,000であった。このポリオレフィン系エラストマーを弾性樹脂として用い、実施例1と同様の方法で坪量40g/m2の伸縮性不織布を得た。弾性繊維の直径は25μmであった。
【0167】
〔実施例5〕
弾性樹脂として、エチレンを主体とするポリオレフィン系エラストマーを用いた。このポリオレフィン系エラストマーは、エチレン含有率75重量%、1−ブテン含有率25重量%であった。このポリオレフィン系エラストマーは、メタロセン触媒を用いて重合されたものであった。密度は0.870g/cm3、融解熱量値は12mJ/mg、MFRは6.7g/10min、重量平均分子量は100,000であった。また、これと異なる他の弾性樹脂として、スチレン含有率15重量%、重量平均分子量100000、MFR30g/10min(230℃、2.16kg)のSEBS樹脂を用いた。これらの樹脂をそれぞれ別の押出機を用いて溶融させ、溶融した樹脂をダイス温度250℃で紡糸ノズルから押出し、スパンボンド法によってネット上に弾性繊維ウエブ1’を成形した。紡糸ノズルはサイド・バイ・サイドタイプであり、前記の2種の樹脂からなる複合繊維を紡糸した。弾性繊維におけるポリオレフィン系エラストマーとSEBS樹脂との重量比は50/50であった。弾性繊維の繊維径は25μmであった。繊維ウエブ1’の坪量は20g/m2であった。これ以外は、実施例1と同様にして坪量40g/m2の不織布を得た。
【0168】
〔比較例1〕
先ず直径17μm、繊維長51mmの短繊維(芯:PET、鞘:PE)をカード機に供給し、カードウェブからなる非弾性繊維ウエブ3’を形成した。ウエブ3’の坪量は10g/m2であった。この非弾性繊維ウエブ3’上に弾性繊維ウエブ1’を積層した。
【0169】
弾性繊維ウエブ1’は次の方法で形成した。弾性樹脂としてスチレン含有率15重量%、重量平均分子量100,000、MFR30のSEBS樹脂を用いた。この樹脂を、押出機を用いて溶融させ、溶融した樹脂をダイス温度250℃で紡糸ノズルから押出し、スパンボンド法によってネット上に弾性繊維ウエブ1’を成形した。弾性繊維の繊維径は35μmであった。繊維ウエブ1’の坪量は20g/m2であった。
【0170】
弾性繊維ウエブ1’上に、前述と同様の短繊維からなる非弾性繊維ウエブ2’を積層した。ウエブ2’の坪量は10g/m2であった。これら以外は実施例1と同様にして伸縮性不織布を作製した。
【0171】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた伸縮性不織布の特性を以下の表1に示す。表中の各項目の測定方法は次の通りである。
【0172】
<曲げ剛性>
大栄科学精機製作所製HOM−3を用いて測定した。
【0173】
<最大強度、最大伸度、100%伸長時強度、残留歪み>
伸縮性不織布の伸縮方向へ50mm、それと直交する方向へ25mmの大きさで矩形の試験片を切り出した。オリエンテック製テンシロンRTC1210Aに試験片を装着した。チャック間距離は25mmであった。試験片を不織布の伸縮方向へ300mm/分の速度で伸長させ、そのときの荷重を測定した。そのときの最大点の荷重を最大強度とした。またそのときの試験片の長さをBとし、もとの試験片の長さをAとしたとき、{(B−A)/A}×100を最大伸度(%)とした。また、100%伸長サイクル試験を行い、100%伸長時強度を100%伸長時の荷重から求めた。更に、100%伸長後、同速にて原点に戻して行ったときの戻らない長さ割合を測定し、その値を残留歪みとした。同様の方法によって伸縮性不織布の原反である繊維シートAについても最大強度を測定した。
【0174】
<肌触り>
伸縮性不織布の表面を手のひらで直接触れ、その感触を以下の基準に沿って判定した。抵抗感(ざらざらした感じ)がある:×、抵抗感が少しある:△、抵抗感はなく、滑らかな感じが少しある:○、抵抗感はなく、滑らかな感じがある:◎。判定は3人で行い、2人以上同じ意見であればその意見を、3人がそれぞれ別の意見であれば真ん中の意見を、判定結果とした。
【0175】
<弾性繊維層と非弾性繊維層との接合性>
弾性繊維層と非弾性繊維層との間を剥離するように手で剥がしたときの状態を、以下の基準で判定した。簡単に剥がれる:×、少し抵抗感がある:△、層間が剥離せずに一部が他方の層に残る:○、層間が剥離せずにほとんどが他方の層に残る:◎。判定は3人で行い、2人以上同じ意見であればその意見を、3人がそれぞれ別の意見であれば真ん中の意見を判定結果とした。
【0176】
【表1】

【0177】
表1に示す結果から明らかなように、実施例の不織布は、最大伸度及び残留歪みが比較例の不織布と同程度に高いレベルを維持した上で、比較例の不織布よりも更に高強度であり、また弾性繊維層と非弾性繊維層との接合性が良好なものであることが判る。実施例の不織布を外装に用いて使い捨ておむつを作製したところ、このおむつは肌触りがやわらかくて通気性が高く、十分伸びるためはかせやすく、全面で締めつけるためゴム跡がつきにくいといった特徴を有していた。
【0178】
なお、実施例の不織布の断面をSEM観察したところ、何れの不織布においても弾性繊維層の構成繊維と非弾性繊維層の構成繊維とが熱融着しており、これらの繊維層は全面接合されていた。また、非弾性繊維層の構成繊維の一部が弾性繊維層の厚み方向に入り込んでいることが確認された。弾性繊維層の構成繊維は繊維形態を保っていた。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】図1は、本発明の伸縮性不織布の一実施形態の断面構造を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す伸縮性不織布の製造に用いられる好ましい装置を示す模式図である。
【図3】図3は、図2に示す装置における第2ウエブ形成装置であるスピニングブローン紡糸装置の紡糸ダイの構造の一例を示す模式図である。
【図4】図4は、図1に示す装置における延伸装置の要部を示す斜視図である。
【図5】図5は、図4に示す延伸装置における歯溝ロールの要部を示す拡大図である。
【図6】図6は、図4に示す延伸装置における歯溝ロールによってシートが延伸される状態を示す模式図である。
【図7】図7は、本発明の伸縮性不織布を備えたパンツ型使い捨ておむつの一実施形態を示す斜視図である。
【図8】図8は、図7に示す使い捨ておむつの展開状態を示す平面図である。
【図9】図9は、図7に示す使い捨ておむつの分解斜視図である。
【図10】図10は、図8におけるX−X線断面図である。
【図11】図11は、図7に示す使い捨ておむつにおける吸収性コアを示す平面図である。
【符号の説明】
【0180】
1 弾性繊維層
2 非弾性繊維層
3 非弾性繊維層
4 接合部
10A 繊維シート
10 伸縮性不織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパンボンド法で形成された連続繊維からなる弾性繊維層の各面に、スパンボンド法で形成された連続繊維からなる実質的に非弾性の非弾性繊維層がそれぞれ配されてなる繊維シートを延伸加工し、次いで該延伸を緩和させ伸縮性を発現させて得られた伸縮性不織布。
【請求項2】
弾性繊維層が、熱可塑性エラストマーを含有する繊維を含む請求項1記載の伸縮性不織布。
【請求項3】
弾性繊維層が、熱可塑性エラストマーを含有する繊維と、該熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性樹脂からなる繊維とを含む請求項1記載の伸縮性不織布。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーが、230℃における溶融粘度が100〜700Pa・sで且つ溶融張力が0.2〜2.0cNであるスチレン系エラストマーである請求項1ないし3の何れかに記載の伸縮性不織布。
【請求項5】
熱可塑性エラストマーが、プロピレン含有率が80〜90重量%で、密度が0.855〜0.880g/cm3であるプロピレンを主体とするポリオレフィン系エラストマーである請求項1ないし3の何れかに記載の伸縮性不織布。
【請求項6】
熱可塑性エラストマーが、10〜50重量%の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAと、下記式(1)で表される繰り返し単位を主体とする重合体ブロックBとからなるとからなるブロック共重合体から構成され、
ブロック共重合体は、20℃、周波数2Hzで測定された動的粘弾性の貯蔵弾性率G’が1×104〜8×106Paであり、且つ同温度及び同周波数で測定された動的粘弾性の動的損失正接tanδ値が0.2以下である請求項1ないし3の何れかに記載の伸縮性不織布。
【化1】

【請求項7】
熱可塑性エラストマーが、密度が0.855〜0.895g/cm3であるエチレンを主体とするポリオレフィン系エラストマーである請求項1ないし3の何れかに記載の伸縮性不織布。
【請求項8】
非弾性繊維層が、ポリオレフィン系樹脂を含有する繊維を含む請求項1ないし7の何れかに記載の伸縮性不織布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−321293(P2007−321293A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152850(P2006−152850)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】