説明

位相制御回路

【課題】 データ信号とクロック信号がどのような位相差であっても位相差に応じたパルス幅の位相差信号を出力する。
【解決手段】 データ信号および反転した信号Yを入力し、反転した信号Yをデータ信号の遷移タイミングで保持して信号Xを出力する第1の保持手段と、クロック信号および信号Xを入力し、信号Xをクロック信号の遷移タイミングで保持して信号Yを出力する第2の保持手段と、信号Xおよび信号Yを入力し、その位相差に応じたパルス幅を有する位相差信号を生成し、データ信号とクロック信号の位相差に応じたパルス幅を有する位相差信号として出力する比較手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ信号とクロック信号の位相を比較し、その位相差に応じたパルス幅の位相差信号を出力する位相比較回路に関する。
【背景技術】
【0002】
ディジタルデータ伝送システムにおいてデータを確実に受信するためには、受信装置のクロックと受信データとの間で同期をとる必要がある。送信系および受信系のそれぞれの動作クロックが設計値通りに生成されている場合には、同期をとることは比較的容易であるが、実際には製造ばらつきや温度等の条件により、全く同一のクロック周波数を得ることは困難である。
【0003】
一方、伝送されるNRZ信号等のディジタルデータには、その信号の生成に用いたクロックの周波数情報が含まれている。そのため、データ信号に含まれるクロックの周波数情報からクロック信号を抽出し、そのクロック信号を用いてデータ信号を識別するCDR(Clock and Data Recovery) 回路が用いられる。このCDR回路では、抽出したクロック信号とデータ信号を常に比較し、位相差を検出するための位相比較回路が用いられる。
【0004】
図6は、従来の位相比較回路の構成例および動作例を示す(非特許文献1)。図において、データ信号とクロック信号をDFF(Dフリップフロップ)61のD端子とCK端子にそれぞれ入力し、データ信号をクロック信号で取り込んだ信号Xを出力する。EXOR回路62は、この信号Xとデータ信号を入力して排他的論理和をとり、データ信号とクロック信号の位相差信号を出力する構成である。この構成では、データ信号とクロック信号の位相が適切であれば、図6(2) のようにクロック信号と同じパルス幅の位相差信号が得られるが、クロック信号の位相が進んだ場合には、図6(3) に示すように位相差信号のパルス幅が狭まり、さらにデータ信号とクロック信号の立ち上がりが近接すると不安定な動作になる。
【0005】
そこで、データ信号に対してハーフレートのクロック信号を用い、さらに広いパルス幅の位相差信号が得られるようにした回路も提案されている(非特許文献2)。
【非特許文献1】C.HOGGE,"A Self Correcting Recovery Circuit", IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES, Vol.ED-32,No.12, December 1985
【非特許文献2】Y.Ohtomo, et al., "A 12.5-Gb/s Parallel Phase Detection Clock and Data Recovery Circuit in 0.13-μm CMOS", IEEE JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS, Vol.41, No.9, September 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
受信ごとに位相同期が必要になるバーストデータを受信する場合は、位相同期処理を短時間で終える必要がある。しかし、従来の位相比較回路は、データ信号の立ち上がりとクロック信号の立ち上がりが同時または近接すると不安定な動作になり、その間は不正確な位相差信号を出力し、位相同期が安定するまでに長時間を要していたので、バーストデータの位相同期に用いることができなかった。
【0007】
なお、データ信号よりも高速なクロック信号、または多相クロックを用いればこの問題を解決することが可能である。しかし、データ信号よりも高速なクロック信号の生成や取り扱いは困難であり、多相クロックを用いる場合は回路の増大および複雑化が避けられなかった。
【0008】
本発明は、データ信号とクロック信号がどのような位相差であっても位相差に応じたパルス幅の位相差信号を出力することができる位相比較回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の位相比較回路は、データ信号および反転した信号Yを入力し、反転した信号Yをデータ信号の遷移タイミングで保持して信号Xを出力する第1の保持手段と、クロック信号および信号Xを入力し、信号Xをクロック信号の遷移タイミングで保持して信号Yを出力する第2の保持手段と、信号Xおよび信号Yを入力し、その位相差に応じたパルス幅を有する位相差信号を生成し、データ信号とクロック信号の位相差に応じたパルス幅を有する位相差信号として出力する比較手段とを備える。
【0010】
第1の保持手段は、反転した信号Yをデータ信号の遷移タイミングで取り込むフリップフロップとし、第2の保持手段は、信号Xをクロック信号の遷移タイミングで取り込むフリップフロップとしてもよい。比較手段は、信号Xと信号Yの排他的論理和をとり、位相差信号を出力するEXOR回路としてよい。
【0011】
また、第1の保持手段は、反転した信号Yをデータ信号の遷移タイミングで取り込む第1のフリップフロップとし、第2の保持手段は、信号Xをクロック信号の遷移タイミングで取り込む第2のフリップフロップとし、比較手段は、信号Xと信号Yの排他的論理和をとり、位相差信号を出力する第1のEXOR回路とし、さらに、信号Yをクロック信号の遷移タイミングで取り込む第3のフリップフロップと、信号Yと第3のフリップフロップの出力Y’の排他的論理和をとり、位相差信号が出力されるタイミングでクロック信号の1周期分のパルス幅を有し、位相差信号のパルス幅との比較により、データ信号とクロック信号の同期状態または非同期状態の判定基準となる参照信号を出力する第2のEXOR回路とを備える構成としてよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、データ信号とクロック信号がどのような位相関係にあっても、その位相差に応じたパルス幅を有する位相差信号を生成することができる。特に、データ信号とクロック信号の立ち上がりが同時または近接していたとしても、保持手段(フリップフロップ)が誤動作することなく、対応する位相差情報を有する位相差信号を生成することができる。
【0013】
さらに、データ信号とクロック信号の同期状態または非同期状態の判定基準となる参照信号を生成することができ、同期、非同期(進相、遅相)を示す位相差信号を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の位相比較回路の第1の実施形態を示す。図2は、本発明の位相比較回路の第1の実施形態の動作例を示す。
【0015】
図1において、本実施形態の位相比較回路は、2つのDFF(Dフリップフロップ)11,12と、インバータ13と、EXOR回路14により構成される。DFF11のCK端子にデータ信号を入力し、DFF12のCK端子にクロック信号を入力し、DFF11の出力XをDFF12のD端子に入力し、DFF12の出力Yをインバータ13で反転してDFF11のD端子に入力する。さらに、DFF11の出力XとDFF12の出力YをEXOR回路14に入力し、EXOR回路14から位相差信号を出力する。
【0016】
ここで、一般的な分周器の構成例および動作例を図3に示す。分周器は、DFF11の出力とD端子をインバータ13を介して接続した構成であり、DFF11のCK端子の入力信号INの立ち上がりで論理0から論理1、論理1から論理0に変化する出力信号OUTが得られる。
【0017】
図1に示す位相比較回路の第1の実施形態の構成では、データ信号とクロック信号が同レートであるときに、データ信号とDFF11の出力Xの関係が、図3の分周器における入力信号INと出力信号OUTの関係に相当する。すなわち、DFF11の出力Xは、図2に示すように、データ信号の立ち上がりで論理0から論理1、論理1から論理0に変化するデータ信号の半分のレートをもつ信号となる。DFF12の出力Yは、DFF11の出力Xをクロック信号で取り込んだ信号となる。
【0018】
したがって、EXOR回路14で出力X,Yの排他的論理和をとれば、データ信号の立ち上がりで論理0から論理1に変化し、クロック信号の立ち上がりで論理1から論理0に変化する出力信号が得られる。すなわち、この出力信号は、データ信号の立ち上がりからクロック信号の立ち上がりまでのパルス幅をもつ信号となり、データ信号とクロック信号の位相差に応じたパルス幅をもつ位相差信号となる。
【0019】
ここで、出力Xの立ち上がり(立ち下がり)とクロック信号の立ち上がりが同時、またはごく近接していたとしても、出力Yは図2に示す破線のようにはならず、次のクロック信号の立ち上がりで変化する。従来のデータ信号をクロック信号で直接取り込む場合と異なり、出力Xはデータ信号の半分のレートであるため、データ信号を次のクロック信号で取り込む場合も出力Xは変化しておらず、正しく取り込むことが可能となる。このように、データ信号とクロック信号の位相差が同時または近接していた場合には、位相差信号のパルス幅はクロック信号の1周期分が確保され、常に一定以上のパルス幅をもつ位相差信号が出力されることになる。
【0020】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の位相比較回路の第2の実施形態を示す。図5は、本発明の位相比較回路の第2の実施形態の動作例を示す。
【0021】
図4において、本実施形態の位相比較回路は、DFF11,12、インバータ13、EXOR回路14は第1の実施形態と同じ構成であり、さらにDFF15およびEXOR回路16が追加された構成である。DFF15のCK端子にクロック信号を入力し、DFF15のD端子にDFF12の出力Yを入力し、DFF12の出力YおよびDFF15の出力Y’をEXOR回路16に入力し、EXOR回路16から参照信号を出力する。
【0022】
DFF15の出力Y’は、DFF12の出力Yをクロック信号で取り込んだものであり、DFF12の出力Yがちょうど1クロック分ずれた信号となる。そのため、DFF12の出力YとDFF15の出力Y’の排他的論理和出力は、図5に示すように、EXOR回路14から位相差信号が出力されるごとに発生し、クロック信号1周期分の一定のパルス幅を有する参照信号となる。
【0023】
したがって、EXOR回路14から出力される位相差信号と、EXOR回路16から出力される参照信号を入力する図示しない後段の回路において、両者のパルス幅を比較することにより、データ信号がクロック信号に対して同期状態と非同期状態(進相、遅相)を判定し、かつ位相差信号のパルス幅からデータ信号とクロック信号の位相差を判定することができる。
【0024】
なお、図5に示すタイムチャートは、各部の遅延時間、パルスの立ち上がり時間および立ち下がり時間を省略しているが、実際にはそれぞれ有限の時間を有する。これらを考慮した位相差信号と参照信号のパルス幅を比較することにより、データ信号がクロック信号の対して同期、進相、遅相の各状態を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の位相比較回路の第1の実施形態を示す図。
【図2】本発明の位相比較回路の第1の実施形態の動作例を示すタイムチャート。
【図3】分周器の構成例および動作例を示す図。
【図4】本発明の位相比較回路の第2の実施形態を示す図。
【図5】本発明の位相比較回路の第2の実施形態の動作例を示すタイムチャート。
【図6】従来の位相比較回路の構成例および動作例を示す図。
【符号の説明】
【0026】
11,12,15,61 DFF(Dフリップフロップ)
13 インバータ
14,16,62 EXOR回路(排他的論理和回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ信号および反転した信号Yを入力し、反転した信号Yをデータ信号の遷移タイミングで保持して信号Xを出力する第1の保持手段と、
クロック信号および前記信号Xを入力し、前記信号Xをクロック信号の遷移タイミングで保持して前記信号Yを出力する第2の保持手段と、
前記信号Xおよび前記信号Yを入力し、その位相差に応じたパルス幅を有する位相差信号を生成し、前記データ信号と前記クロック信号の位相差に応じたパルス幅を有する位相差信号として出力する比較手段と
を備えたことを特徴とする位相比較回路。
【請求項2】
請求項1に記載の位相比較回路において、
前記第1の保持手段は、前記反転した信号Yを前記データ信号の遷移タイミングで取り込むフリップフロップであり、
前記第2の保持手段は、前記信号Xを前記クロック信号の遷移タイミングで取り込むフリップフロップである
ことを特徴とする位相比較回路。
【請求項3】
請求項1に記載の位相比較回路において、
前記比較手段は、前記信号Xと前記信号Yの排他的論理和をとり、前記位相差信号を出力するEXOR回路である
ことを特徴とする位相比較回路。
【請求項4】
請求項1に記載の位相比較回路において、
前記第1の保持手段は、前記反転した信号Yを前記データ信号の遷移タイミングで取り込む第1のフリップフロップであり、
前記第2の保持手段は、前記信号Xを前記クロック信号の遷移タイミングで取り込む第2のフリップフロップであり、
前記比較手段は、前記信号Xと前記信号Yの排他的論理和をとり、前記位相差信号を出力する第1のEXOR回路であり、
さらに、
前記信号Yを前記クロック信号の遷移タイミングで取り込む第3のフリップフロップと、
前記信号Yと前記第3のフリップフロップの出力Y’の排他的論理和をとり、前記位相差信号が出力されるタイミングで前記クロック信号の1周期分のパルス幅を有し、前記位相差信号のパルス幅との比較により、前記データ信号と前記クロック信号の同期状態または非同期状態の判定基準となる参照信号を出力する第2のEXOR回路と
を備えたことを特徴とする位相比較回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−253365(P2009−253365A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95185(P2008−95185)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】