説明

位相同期ループを用いない信号の回復

デジタル入力信号(20)から第1のデジタル信号(7、31)を回復するための構成が、デジタル入力信号(20)をフィルタリングするためのデジタル・フィルタ(29)と、デジタル基準信号(21)を生成するためのデジタル制御発振器28と、フィルタリングされたデジタル入力信号(27)とデジタル基準信号(21)との位相差(25)を求めるためのデジタル位相検出器(22)とを備える。第1のデジタル信号(7、31)は、求められた位相差(25)を、デジタル基準信号(21)の位相に加えることによって回復することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル入力信号からデジタル信号を回復するための構成と、そのような構成を備える受信機およびラジオとに関する。本発明はさらに、デジタル入力信号からデジタル信号を回復するためのコンピュータ・プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、例えばパイロット信号、中心周波数信号、またはカラー・バースト信号を回復するための、ラジオ受信機またはビデオ/TV受信機などの受信機で使用することができる。これらの種類の受信機は、当技術分野で一般に知られており、典型的には、回復可能な信号の周波数にロックするために位相同期ループを使用する。しかし、一般に、位相同期ループは設計が難しく、時として実現できないことさえある。例えば、回復可能な信号の位相が一定値ではなく、劣悪な受信状態により変化するとき、または、回復可能な信号が、雑音の存在により著しく劣化されるときである。これらの場合、位相同期ループは、信号の位相を追跡することができないことがあり、これが誤った周波数ロックをもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、位相同期ループを使用することなく信号を回復するための構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このために、デジタル入力信号から第1のデジタル信号を回復するための構成が、
デジタル入力信号をフィルタリングするためのデジタル・フィルタと、
デジタル基準信号を生成するためのデジタル制御発振器と、
フィルタリングされたデジタル入力信号とデジタル基準信号との位相差を求めるためのデジタル位相検出器と
を備え、第1のデジタル信号は、求められた位相差を、デジタル基準信号の位相に加えることによって回復される。
【0005】
本発明は、任意の、しかし良く定義された基準信号と、回復可能な信号との位相差を求め、その後、その位相差を基準信号の位相に加えることによって、第1のデジタル信号を回復することができるという洞察に基づいている。
【0006】
位相同期ループを用いずに信号を回復するための構成は、米国特許第5404405号から知られており、しかし、特に狭い通過帯域をもつ複雑な実装を有するFIR(有限インパルス応答)フィルタによって信号が回復される代替の解決策がそこに提供される。
【0007】
本発明による構成の一実施形態では、デジタル・フィルタのフィルタ遅延を補償するために、回復された第1のデジタル信号の位相にオフセット値が追加される。それにより、回復された信号の位相誤差をもたらすことがあるフィルタ遅延の歪効果を補正することができる。
【0008】
本発明による構成の別の実施形態では、構成が、フィルタリングの前にデジタル入力信号を周波数ダウンコンバートするための第1のデジタル・ミキサを備える。この実施形態は、デジタル・フィルタの実装がそれほど複雑でないという利点を有する。
【0009】
本発明による構成の一実施形態では、デジタル入力信号がステレオ多重信号であり、回復された第1のデジタル信号がパイロット信号である。それにより、この構成を使用して、好都合にパイロット信号を回復することができる。
【0010】
本発明による構成の一実施形態では、パイロット信号の位相が、第2のデジタル信号を回復するための乗数と乗算される。(19kHz)パイロットの位相に乗数を乗算することによって、38kHz抑圧搬送波信号、57kHzRDS副搬送波、または76kHzDARC副搬送波など他の(副)搬送波を簡単に回復することができる。
【0011】
本発明による構成の別の実施形態では、構成が、さらに、少なくとも第1および第2の信号にステレオ多重信号を復号するためのステレオ・デコーダを備える。それにより、受信されたステレオ多重信号にコード化された左右のステレオ・チャンネルを好都合に復号することができる。
【0012】
本発明による構成の一実施形態では、ステレオ多重信号が、和信号と差分信号とを備え、前者の信号は、周波数ダウンコンバートされた差分信号に和信号を加算することによって復号され、後者の信号は、周波数ダウンコンバートされた差分信号を和信号から減算することによって復号される。
【0013】
本発明による構成の一実施形態では、差分信号が、回復された抑圧搬送波信号によって周波数ダウンコンバートされる。抑圧搬送波信号が、回復されたパイロット信号から直接導出されるので、この抑圧搬送波信号は、ステレオ多重信号の差分信号をベースバンドにシフトするための補正周波数および位相を有する。
【0014】
本発明による構成の別の実施形態では、位相オフセット値は、さらに、差分信号の振幅を制御するように構成される。それにより、復号された第1および第2の信号を、例えばモノ信号からステレオ信号に操作することが可能である。
【0015】
本発明による受信機、ラジオ、およびコンピュータ・プログラムの実施形態は、本発明による構成の実施形態と一致する。
【0016】
本発明のこれらおよびその他の態様は、さらに以下の図面によって解明されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、左右のステレオ・チャンネルが符号化されているステレオ多重(MPX)信号を示す。ステレオ多重信号は、和信号1と差分信号3とを備える。和信号1は、左右のステレオ・チャンネルの和であり、差分信号3は、左右のステレオ・チャンネルの差である。左のステレオ・チャンネルは、和信号1と差分信号3とを加算して合わせることによって得ることができる。右のステレオ・チャンネルは、和信号1から差分信号3を減算することによって得ることができる。ステレオ多重信号は、さらに、19kHzパイロット信号7を備え、このパイロット信号7は、差分信号3の変調のために必要とされる38kHz抑圧搬送波信号9の再生のために使用される。
【0018】
図2は、本発明による一実施形態を示す。デジタル入力信号20が、中心周波数信号またはパイロット信号など回復可能なデジタル信号を備える。回復可能なデジタル信号は、デジタル・ベースバンド・フィルタ29によってデジタル入力信号からフィルタリングされる。典型的には、回復可能な信号は、雑音によって取り囲まれており、この雑音は、従来のPLLベース受信機では、回復される信号の位相反転を生じることがあり、またはPLLを誤った周波数にロックさせることがある。これらの問題は、劣悪な受信状態中に特に明らかになる。これは、受信される信号の相当な、受け入れることができない劣化をもたらすことがある。本発明によれば、これらの問題は、最初に、フィルタリングされた信号27と任意の、しかし良く定義された基準信号21の位相との位相差を求め、その後、その位相差を基準信号21の位相に加えることによって解決することができる。位相検出器は、当業者に良く知られているJack E.VolderによるCordicアルゴリズムのハードウェアまたはソフトウェア実装に基づかせることができる。しかし、フィルタ22は、フィルタ遅延の存在により、位相誤差をもたらすことがある。しかし、本発明によれば、この位相誤差は、回復された信号の位相に一定の補正因子23を加えることによって簡単に補正することができる。さらに、図2は、他の信号を導出するために、回復された信号31の位相に乗算因子を乗算するための乗算器26を備える。信号31が、19kHzの周波数と、(2π19103*t)ラジアンの対応する位相とを有するパイロット信号7である場合、2の乗算因子が、38kHzの周波数と、(2π38103*t)ラジアンの位相とを有する対応する抑圧搬送波信号9を生み出す。同様に、他の乗算因子によって、19kHzパイロット信号から、57kHzRDS副搬送波(3の乗算因子)または76kHzDARC副搬送波(4の乗算因子)など追加の信号を導出することもできる。
【0019】
図3は、本発明による別の実施形態を示し、この実施形態では、入力信号20は、フィルタリングの前に、最初にデジタル・ミキサ30によって周波数ダウンコンバートされる。この場合、フィルタ29はデジタル低域デジタル・フィルタである。ミキサ30は、ミキシング信号として基準信号28を使用する。この実施形態は、フィルタ29の実装が、図1で説明される状況に比べてそれほど複雑でないという利点を有する。
【0020】
図4は、本発明による一実施形態を示し、この実施形態では、ステレオ多重信号20を復号するためにステレオ・デコーダ42が使用される。ステレオ多重信号20は、例えば、従来のアナログ・デジタル変換器(ここには図示されていない)によってデジタル化されているデジタル信号であると仮定される。ステレオ多重信号20は、19kHzパイロット信号7と、和信号1と、差分信号3とを備える。差分信号9は、38kHz抑圧搬送波信号9の帯域に変調されている。本発明によれば、19kHzパイロット信号7、31が、ステレオ多重信号20から回復される。38kHz抑圧搬送波信号9、32は、回復されたパイロット信号7、31の位相を2倍にすることによって19kHzパイロット信号7、31から導出される。
【0021】
左のステレオ・チャンネルLは、加算器56において、和信号1、59と、差分信号3、59とを加算することによって得られる。右のステレオ・チャンネルRは、減算器54において、和信号1、59から差分信号3、57を減算することによって得られる。差分信号3は、ステレオ多重信号20を周波数ダウンコンバート50をして、低域フィルタリング52することによって、ステレオ多重信号20から得られる。ステレオ多重信号20は、回復された抑圧搬送波信号9、32をミキシング信号として使用する従来の(デジタル)ミキサ50によって周波数ダウンコンバートすることができる。
【0022】
回復されたパイロット信号31にフィルタ29のフィルタ遅延によってもたらされることがある位相歪を補償するために、位相オフセット信号23が使用される。しかし、この位相オフセット信号はまた、抑圧搬送波信号9、32の位相を操作するために使用することもできる。それにより、差分信号57の振幅に影響が及ぼされる可能性があり、このことが、次いで、回復可能な左(L)および右(R)のチャンネルに影響を及ぼす。例えばステレオ・チャンネルからモノ・チャンネルにする。
【0023】
図5は、デジタル入力信号からデジタル信号を回復するためのステップを含む流れ図を示す。第1のステップS1として、デジタル入力信号20は、デジタル信号27を抽出するためにデジタル的にフィルタリングされる。第2のステップで、デジタル基準信号21が生成され、この基準信号21は、抽出されたデジタル信号27の位相を求めるために使用される。ステップS3で、抽出されたデジタル信号27と基準信号21との位相差25が求められ、次の段階S4で、この位相差25が、基準信号21の位相に追加される。
【0024】
図6は、本発明によるラジオ・デバイス61を示す。ラジオ・デバイス61は、アンテナ63によって、空気を介して無線信号61を受信する。チューナ60が、好ましい無線信号66として1つの特定の無線信号を選択し、この信号は、図1に示されるようなステレオ多重信号である。信号66は、アナログ・デジタル変換器64によってデジタル化される。ステレオ・デコーダ42が、ステレオ多重信号66の左Lおよび右Rのチャンネルを復号するために使用される。
【0025】
上で言及した実施形態が、本発明を限定するものではなく、例示するものであること、および添付された特許請求の範囲の範囲から逸脱することなく当業者が多くの代替実施形態を設計することができることに留意されたい。これらの実施形態は、ハードウェアまたはソフトウェアとして実現することができる。単語「備える」は、特許請求の範囲に列挙されたもの以外の要素またはステップの存在を除外しない。要素に先立つ単語「1つの」は、複数のそのような要素の存在を除外しない。単に、いくつかの手段が相互に異なる従属クレームに記載されていることは、これらの手段の組合せを有利に使用することができないことを示すものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ステレオ多重信号を示す図である。
【図2】本発明による構成の一実施形態を示す図である。
【図3】本発明による構成のさらなる実施形態を示す図である。
【図4】ステレオ・デコーダとして使用される本発明による構成の一実施形態を示す図である。
【図5】デジタル入力信号からデジタル信号を回復するためにコンピュータ・プログラムによって実施すべき本質的なステップを示す流れ図である。
【図6】本発明による構成を備えるラジオ・デバイスを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル入力信号から第1のデジタル信号を回復するための構成であって、
前記デジタル入力信号をフィルタリングするためのデジタル・フィルタと、
デジタル基準信号を生成するためのデジタル制御発振器と、
前記フィルタリングされたデジタル入力信号と前記デジタル基準信号との位相差を求めるためのデジタル位相検出器と
を備え、前記第1のデジタル信号が、前記求められた位相差を、前記デジタル基準信号の位相に加えることによって回復される構成。
【請求項2】
前記デジタル・フィルタのフィルタ遅延を補償するために、前記回復された第1のデジタル信号の位相にオフセット値が追加される請求項1に記載の構成。
【請求項3】
フィルタリングの前に、前記デジタル入力信号を周波数ダウンコンバートするための第1のデジタル・ミキサを備える請求項1に記載の構成。
【請求項4】
前記第1のデジタル・ミキサが、ミキシング信号としてデジタル基準信号を使用する請求項3に記載の構成。
【請求項5】
前記デジタル入力信号がステレオ多重信号であり、前記回復された第1のデジタル信号がパイロット信号である請求項1に記載の構成。
【請求項6】
パイロット信号の位相が、第2のデジタル信号を回復するために、乗算因子によって乗算される請求項5に記載の構成。
【請求項7】
前記第2のデジタル信号が、前記ステレオ多重信号の抑圧搬送波信号である請求項6に記載の構成。
【請求項8】
さらに、前記ステレオ多重信号を少なくとも第1および第2の信号に復号するためのステレオ・デコーダを備える請求項5に記載の構成。
【請求項9】
前記ステレオ多重信号が、和信号と差分信号とを備え、前記第1の信号が、周波数ダウンコンバートされた差分信号に前記和信号を加算することによって復号され、前記第2の信号が、前記周波数ダウンコンバートされた差分信号を前記和信号から減算することによって復号される請求項8に記載の構成。
【請求項10】
前記差分信号が、回復された抑圧搬送波信号によって周波数ダウンコンバートされる請求項9に記載の構成。
【請求項11】
前記位相オフセット値が、さらに、差分信号の振幅を制御するように構成される請求項10に記載の構成。
【請求項12】
デジタル入力信号から第1のデジタル信号を回復するための構成を備える受信機であって、前記構成が、
前記デジタル入力信号をフィルタリングするためのデジタル・フィルタと、
デジタル基準信号を生成するためのデジタル制御発振器と、
前記フィルタリングされたデジタル入力信号と前記デジタル基準信号との位相差を求めるためのデジタル位相検出器と
を備え、前記第1のデジタル信号が、前記求められた位相差を、前記デジタル基準信号の位相に加えることによって回復される受信機。
【請求項13】
デジタル入力信号から第1のデジタル信号を回復するための構成を備えるラジオであって、
前記構成が、
前記デジタル入力信号をフィルタリングするためのデジタル・フィルタと、
デジタル基準信号を生成するためのデジタル制御発振器と、
前記フィルタリングされたデジタル入力信号と前記デジタル基準信号との位相差を求めるためのデジタル位相検出器と
を備え、前記第1のデジタル信号が、前記求められた位相差を、前記デジタル基準信号の位相に加えることによって回復されるラジオ。
【請求項14】
デジタル入力信号から第1のデジタル信号を回復するためのコンピュータ・プログラムであって、構成が、
デジタル・フィルタを用いて前記デジタル入力信号をフィルタリングするステップと、
デジタル基準信号を生成するステップと、
前記デジタル入力信号と前記デジタル基準信号との位相差を求めるステップと、
前記第1の信号を回復するために、前記求められた位相差を、前記デジタル基準信号の位相にデジタル的に加えるステップと
を行うように構成されるコンピュータ・プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−528451(P2006−528451A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520964(P2006−520964)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/IB2004/051240
【国際公開番号】WO2005/008929
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】