説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】可とう性及び高い位相差性能を備えた、熱可塑性樹脂を主成分とする位相差フィルムの製造方法を実現する。
【解決手段】本発明の位相差フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムを、当該熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度以上、当該ガラス転移温度より40℃高い温度以下の温度範囲で延伸する一段目の工程と、一段目の工程後に、当該熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度より10℃低い温度以上、当該ガラス転移温度より20℃高い温度以下の温度範囲で延伸する二段目の工程と、を含み、一段目の工程の延伸温度を二段目の工程の延伸温度より5℃以上高くする方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムを延伸してなる位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置の大画面化及び使用環境が広がるにつれ、視認性(より明るく、より見易く、よりコントラスト良く、より高視野角、等)に対する要求が厳しくなっている。しかし、液晶セル本体の改良のみでは視認性向上への要求を十分満足することができないため、位相差フィルム等の光学フィルムの性能向上に依存するところが大きい。
【0003】
そこで、位相差フィルム等の光学フィルムには、高い透明性、低い光弾性率、耐熱性、耐光性、高い表面硬度、高い機械的強度、大きい位相差、位相差の波長依存性が小さいこと、位相差の入射角依存性が小さいこと等の特性が要求される。
【0004】
一方、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル系熱可塑性樹脂は光学的透明性に優れており、高い光線透過率や低複屈折率、低位相差の光学材料として従来種々の用途に適用されているが、フィルムにした場合は割れ等が生じ易く、機械的強度、とりわけ十分な可とう性を得るためには改善の余地があった。
【0005】
また、光学フィルムの耐熱性の要求が強まっており、種々の環構造を導入すること等で、メタクリル樹脂の耐熱性を向上させる検討が行われているが、耐熱性が向上すると逆に樹脂が脆くなり、フィルムの可とう性は低下する傾向があった。
【0006】
メタクリル系熱可塑性樹脂の可とう性改善のために、延伸を行うことが知られており(例えば、特許文献1参照)、延伸によってポリマー鎖が配向して、フィルムを延伸方向と直交する軸で折り曲げた場合の可とう性が改善されることが記載されている。
【特許文献1】特開2006−96960号公報(2006年4月13日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の構成では、可とう性及び面内位相差の両立が困難であるという問題を生じる。
【0008】
具体的には、高分子フィルムからなる位相差フィルムは延伸による分子配向によって生じる複屈折を利用するものであり、通常一軸延伸によって製造されるが、この場合、メタクリル系熱可塑性樹脂を一軸延伸した場合はフィルムを延伸方向と平行な軸で折り曲げた場合の可とう性が不足する。
【0009】
また、二軸延伸を行った場合では、任意の軸に対して可とう性の付与が可能であるが、面内の配向が打ち消されるため、低複屈折のメタクリル系熱可塑性樹脂では十分な面内位相差が発現されず、位相差フィルムとして用いることには問題があった。
【0010】
また、メタクリル系以外の熱可塑性樹脂に関しても、例えば、スチレン系熱可塑樹脂は負の複屈折を示すことが知られており、負の位相差フィルムとして有望であるが、メタクリル系熱可塑樹脂と同様にフィルムとした場合の機械的強度に問題が有り、延伸した場合にも可とう性及び面内位相差の両立は困難であった。
【0011】
上述のように、熱可塑性樹脂、特に、メタクリル系熱可塑性樹脂を用いたフィルムは光学的透明性に優れているものの、延伸しても必要な可とう性と位相差とを得ることが困難であった。メタクリル系熱可塑性樹脂フィルムに高い位相差性能を付与することができれば、光学性能に優れた位相差フィルムを実現できるものと考えられる。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、可とう性及び高い位相差性能を備えた、熱可塑性樹脂を主成分とする位相差フィルムを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、上記課題を解決するために、熱可塑性樹脂フィルムを、当該熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度以上、当該ガラス転移温度より40℃高い温度以下の温度範囲で延伸する一段目の工程と、一段目の工程後に、当該熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度より10℃低い温度以上、当該ガラス転移温度より20℃高い温度以下の温度範囲で延伸する二段目の工程と、を含み、一段目の工程の延伸温度が二段目の工程の延伸温度より5℃以上高いことを特徴としている。
【0014】
上記方法によれば、延伸を上記温度範囲内で行うため、一段目の工程で位相差を発現させずに安定して延伸を行うことができ、二段目の工程で十分な延伸倍率を得ることができると共にフィルムを構成するポリマー等の分子を配向させることができ、必要な位相差を付与することができる。
【0015】
従って、上記方法によれば、可とう性及び位相差性能に優れた位相差フィルムを提供することができるという効果を奏する。
【0016】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、上記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度が110℃以上であることが好ましい。
【0017】
上記方法によれば、可とう性及び位相差性能に優れることに加えて、耐熱性にも優れる位相差フィルムを提供することができるという効果を奏する。
【0018】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、上記熱可塑性樹脂フィルムがメタクリル系熱可塑性樹脂フィルムであることが好ましい。
【0019】
上記方法によれば、可とう性及び位相差性能に優れることに加えて、透明性にも優れる位相差フィルムを提供することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、以上のように、熱可塑性樹脂フィルムを、当該熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度以上、当該ガラス転移温度より40℃高い温度以下の温度範囲で延伸する一段目の工程と、一段目の工程後に、当該熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度より10℃低い温度以上、当該ガラス転移温度より20℃高い温度以下の温度範囲で延伸する二段目の工程と、を含み、一段目の工程の延伸温度が二段目の工程の延伸温度より5℃以上高いことを特徴としている。
【0021】
このため、可とう性及び位相差性能に優れた位相差フィルムを提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。尚、本明細書において「主成分」とは、50質量%以上含有していることが意図され、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。
【0023】
また、本明細書では、「(メタ)アクリル」とはアクリル又はメタクリルを意味し、「A系樹脂」とは、特に断りのない限りAを主成分として含む単量体成分を重合して得られる樹脂を意味し、例えば、「スチレン系樹脂」とは、スチレンを主成分として含む単量体成分を重合して得られる樹脂を意味する。
【0024】
更には、本明細書では、「重量」は「質量」と同義語として扱い、「重量%」は「質量%」と同義語として扱う。また、本明細書で挙げられている各種物性は、特に断りの無い限り後述する実施例に記載の方法により測定した値を意味する。
【0025】
本実施の形態の位相差フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムを、当該熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度以上、当該ガラス転移温度より40℃高い温度以下の温度範囲で延伸する一段目の工程と、一段目の工程後に、当該熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度より10℃低い温度以上、当該ガラス転移温度より20℃高い温度以下の温度範囲で延伸する二段目の工程と、を含み、一段目の工程の延伸温度を二段目の工程の延伸温度より5℃以上高くする方法である。
【0026】
〔熱可塑性樹脂〕
上記熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、加熱により軟化して塑性を示し、冷却すると固化する熱可塑性樹脂であれば、特には限定されない。光学用途には非晶性熱可塑樹脂が好ましく、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シクロオレフィンポリマー(オレフィン樹脂)が挙げられ、光学特性からは、(メタ)アクリル系熱可塑樹脂やスチレン系熱可塑樹脂が好ましく、(メタ)アクリル系熱可塑樹脂が特に好ましい。
【0027】
また、上記熱可塑性樹脂のガラス転移温度は110℃以上であることが好ましい。より好ましくは120℃以上、更に好ましくは130℃以上である。
【0028】
上記(メタ)アクリル系樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸及びこれら誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の単量体(以下、「(メタ)アクリル酸等」と記す)を主成分として含む単量体成分を重合して得られる樹脂、又はその誘導体であり、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の(メタ)アクリル系樹脂を用いることができる。
【0029】
尚、上記「少なくとも1種の単量体(以下、「(メタ)アクリル酸等」と記す)を主成分として含む」とは、(メタ)アクリル酸等が2種以上である場合には、その合計が単量体成分中50質量%以上であることを意味する。
【0030】
上記アクリル酸、及びメタクリル酸の誘導体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル及び(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル等が挙げられる。上記単量体成分として、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上併用してもよい。これらの中でも、重合して得られる樹脂が光学特性や熱安定性に優れる点でメタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0031】
上記(メタ)アクリル系樹脂における(メタ)アクリル酸等の含有量は、50〜100質量%であり、70〜100質量%であることがより好ましい。
【0032】
また、上記(メタ)アクリル系樹脂は、上記単量体以外にも、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の従来公知の単量体と共重合したものであってもよい。これらの単量体は1種のみを用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0033】
上記(メタ)アクリル酸等以外の単量体と共重合させる場合、上記(メタ)アクリル系樹脂における上記(メタ)アクリル酸等以外の単量体の含有量は、0.5質量%を超え40質量%以下の範囲内であることが好ましく、1質量%を超え30質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
更には、上記(メタ)アクリル系樹脂は、耐熱性の観点より、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、メチルマレイミド等のN−置換マレイミドと共重合してもよいし、分子鎖中(重合体の主骨格中、又は主鎖中ともいう)にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、グルタルイミド構造等を導入してもよい。
【0035】
これらの中でも、フィルムの着色(黄変)し難さの点で、窒素原子を含まない構造が好ましく、また、正の複屈折性(正の位相差)を発現させ易い点で、主鎖にラクトン環構造を持つものが好ましい。
【0036】
主鎖中のラクトン環構造に関しては、4〜8員環でもよいが、構造の安定性から5〜6員環の方がより好ましく、6員環が更に好ましい。また、主鎖中のラクトン環構造が6員環である場合、当該ラクトン環構造としては、下記一般式(1)
【0037】
【化1】

【0038】
(式中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。尚、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。)
で表される構造や、特開2004−168882号公報で表される構造等が挙げられる。
【0039】
尚、上記一般式(1)における有機残基は、炭素数が1〜20の範囲内であれば特には限定されないが、例えば、直鎖若しくは分岐状のアルキル基、直鎖若しくは分岐状のアルキレン基、アリール基、−OAc基、−CN基等が挙げられる。
【0040】
主鎖にラクトン環構造を導入する前の重合体を合成する上において重合収率が高い点や、ラクトン環構造の含有割合の高い重合体を高い重合収率で得易い点や、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステルとの共重合性が良い点で、一般式(1)で表される構造であることがより好ましい。
【0041】
上記N−置換マレイミドと共重合させる場合、上記(メタ)アクリル系樹脂における上記N−置換マレイミドの含有量は、2〜40質量%が好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。
【0042】
また、主鎖にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、グルタルイミド構造等を導入させる場合、上記(メタ)アクリル系樹脂における当該構造の含有量は、2〜80質量%が好ましく、5〜50質量%であることがより好ましい。
【0043】
上述した熱可塑性樹脂は従来公知の重合方法を用いて、上述した単量体を含む単量体成分の重合反応を行うことにより得ることができる。
【0044】
具体的には、上記ラクトン環構造は、例えば、特開2006−96960号公報にあるように、重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得た後に、得られた重合体を加熱処理することにより導入することができる。
【0045】
上記グルタル酸無水物構造は、例えば、特開昭61−25460号公報や特開昭61−261303号公報にあるように、少なくともメタクリル酸メチルのような(メタ)アクリル酸アルキル単量体と(メタ)アクリル酸のような不飽和カルボン酸単量体を含む単量体混合物から共重合体を得、次いで、押出し機等を用いて上記共重合体を加熱し(必要であれば閉環促進剤を添加し)、脱アルコール反応及び/又は脱水反応することにより導入することができる。
【0046】
上記グルタルイミド構造は、例えば、米国特許第2146209号に記載されているように、メタクリル酸メチルのような(メタ)アクリル酸メチル単位を主構成単位として含む重合体を第一級アミンと反応(イミド化反応)させる方法や、米国特許第4246374号に記載されているように、押出し機を使用して、メタクリル酸メチルのような(メタ)アクリル酸メチル単位を主構成単位として含む重合体と、アンモニア又は第一級アミンと反応(イミド化反応)させることにより導入することができる。
【0047】
〔熱可塑性樹脂フィルム〕
本実施の形態において用いられる熱可塑性樹脂フィルムは、上記熱可塑性樹脂を主成分としていればよく、熱可塑性樹脂以外の成分を含有していてもよい。主成分である熱可塑性樹脂以外の成分は、特に限定されない。また、主成分の熱可塑樹脂は1種類でもよく、2種類以上を含んでいてもよい。
【0048】
上記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度は110℃以上であることが好ましい。より好ましくは115℃〜200℃、更に好ましくは120℃〜200℃、特に好ましくは125℃〜190℃、最も好ましくは130℃〜180℃である。110℃未満であると、厳しくなる使用環境に対して耐熱性が不足し、フィルムが変形することがあるため好ましくない。また、200℃を超えると、位相差フィルムを得るための成形加工性が悪いことやフィルムの可とう性が大きく低下する場合があるため好ましくない。
【0049】
尚、本明細書においては、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に従い、中点法で求めたものが意図される。
【0050】
上記熱可塑性樹脂フィルムは、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;等が挙げられる。
【0051】
熱可塑性樹脂フィルムにおける上記その他の添加剤の含有割合は、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.002〜2質量%、更に好ましくは0.005〜0.5質量%である。
【0052】
上記熱可塑性樹脂フィルムは、位相差値(レターデーション値、あるいは単に位相差と記する場合がある)を上げるために、上述した熱可塑性樹脂の示す複屈折性の符号と同じ符号を示す低分子物質を含んでいてもよい。また、上記熱可塑性樹脂フィルムは、位相差値を上げるために、上述した熱可塑性樹脂に上記その他の添加剤を添加させた際に、上述した熱可塑性樹脂の示す複屈折性の符号と同じ符号を示す低分子物質を含有させてもよい。
【0053】
上記低分子物質としては、一般に分子量5,000以下、好ましくは1,000以下の物質を指し、具体的には特許第3696645号に記載された低分子物質が挙げられる。
【0054】
中でも、熱可塑性樹脂のフィルムが正の複屈折性(正の位相差)を示す場合、正の複屈折性(正の位相差)を増加させる点で、スチルベン、ビフェニル、ジフェニルアセチレン、通常の液晶物質等の正の複屈折性(正の位相差)を示す低分子物質が好ましい。
【0055】
上記熱可塑性樹脂フィルム中に上記低分子物質を含有させる場合、その含有割合は、好ましくは0.1質量%を超え20質量%以下の範囲内、より好ましくは0.2質量%を超え10質量%以下の範囲内、更に好ましくは0.5質量%を超え5質量%以下の範囲内である。
【0056】
上記熱可塑性樹脂フィルムが(メタ)アクリル系樹脂を含む熱可塑性樹脂フィルム((メタ)アクリル系熱可塑樹脂フィルム)である場合、熱可塑性樹脂フィルムは、(メタ)アクリル系熱可塑性樹脂を主成分としていればよく、(メタ)アクリル系熱可塑性樹脂以外の成分を含有していてもよい。主成分である(メタ)アクリル系熱可塑性樹脂以外の成分は、特に限定されない。
【0057】
(メタ)アクリル系熱可塑性樹脂以外の成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;等の重合体が挙げられる。尚、これら重合体は弾性有機微粒子であってもよい。
【0058】
これらの中でも、(メタ)アクリル系熱可塑性樹脂が一般式(1)で表されるラクトン環を含む場合、フィルムは正の複屈折性(正の位相差)を示すことから、正の複屈折性(正の位相差)を増加させる点で、塩化ビニル、ポリカーボネート、その他の主鎖に芳香族環を含有する重合体等、正の複屈折性(正の位相差)を示す重合体が好ましい。
【0059】
上記(メタ)アクリル系熱可塑樹脂フィルム中のその他の重合体の含有割合は、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは1〜40質量%、更に好ましくは3〜30質量%、特に好ましくは5〜20質量%である。
【0060】
上記熱可塑性樹脂フィルムは、主成分である熱可塑性樹脂と、必要により、その他の重合体やその他の添加剤等を、従来公知の混合方法にて混合し、フィルム状に成形することで得られる。また、延伸することによって延伸フィルムとしてもよい。
【0061】
上記熱可塑性樹脂フィルムの成形の方法としては、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法等、公知のフィルム成形方法が挙げられる。これらの中でも、溶融押出法が好ましい。
【0062】
溶液キャスト法(溶液流延法)に用いることができる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン、及びこれらの混合溶媒等の芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;等が挙げられる。これら溶媒は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーター等が挙げられる。
【0064】
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられ、その際の、フィルムの成形温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
【0065】
〔位相差フィルムの製造方法〕
本実施の形態に係る位相差フィルムの製造方法は、一段目の工程と二段目の工程とを含む。一段目の工程の後に二段目の工程が行われるが、本発明の効果を損なわない限りにおいて、一段目の工程の前や二段目の工程の後、一段目の工程と二段目の工程との間等に、一段目の工程及び二段目の工程以外の工程、例えば、フィルムの表面処理やコート層の塗布等の工程を含んでもよい。
【0066】
一段目の工程の延伸温度としては、上記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度より高温で行うことが好ましい。
【0067】
具体的には、上記ガラス転移温度+0℃〜+40℃で行うことが好ましく、より好ましくはガラス転移温度+2℃〜+30℃、更に好ましくはガラス転移温度+5℃〜+25℃である。ガラス転移温度+0℃よりも低いと、一段目の工程で位相差が発現してしまい、二段目の工程の延伸で面内の位相差が打ち消されて、低い位相差のフィルムしか得られなくなる。ガラス転移温度+40℃よりも高いと、樹脂の流動(フロー)が起こり安定な延伸が行えなくなるために好ましくない。
【0068】
尚、本明細書において、延伸温度は上記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移点を基準として表記、即ち、上記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移点に対する温度差で表記している。例えば、ガラス転移温度+0℃はガラス転移温度、ガラス転移温度+40℃はガラス転移温度より40℃高い温度、ガラス転移温度−10℃はガラス転移温度より10℃低い温度を示す。また、ガラス転移温度−10℃〜+20℃は、ガラス転移温度より10℃低い温度以上ガラス転移温度より20℃高い温度以下の温度範囲を示す。
【0069】
一段目の工程の延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍の範囲、より好ましくは1.2〜10倍の範囲、更に好ましくは1.3〜5倍の範囲である。1.1倍よりも小さいと、可とう性が向上しないために好ましくない。25倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められず、また延伸中にフィルムの破断が起こる場合があり好ましくない。
【0070】
一段目の工程の延伸速度としては、好ましくは10〜20,000%/分の範囲、より好ましくは100〜10,000%/分の範囲である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなるために好ましくない。20,000%/分よりも速いと、延伸フィルムの破断等が起こるおそれがあるために好ましくない。
【0071】
二段目の工程の延伸温度としては、上記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度−10℃〜+20℃で行うことが好ましく、より好ましくはガラス転移温度−10℃〜+15℃、更に好ましくはガラス転移温度−5℃〜+15℃である。ガラス転移温度−10℃よりも低いと、十分な延伸倍率が得られないために好ましくない。ガラス転移温度+20℃よりも高いと、十分な配向が起こらず、必要な位相差が付与できないために好ましくない。
【0072】
二段目の工程の延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍の範囲、より好ましくは1.2〜10倍の範囲、更に好ましくは1.3〜5倍の範囲である。1.1倍よりも小さいと、可とう性が向上しないために好ましくない。25倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められず、また延伸中にフィルムの破断が起こる場合があり好ましくない。
【0073】
二段目の工程の延伸速度としては、好ましくは10〜20,000%/分の範囲、より好ましくは100〜10,000%/分の範囲である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなるために好ましくない。20,000%/分よりも速いと、延伸フィルムの破断等が起こるおそれがあるために好ましくない。
【0074】
上記位相差フィルムの製造方法は、一段目の工程の延伸温度が二段目の工程の延伸温度より5℃以上高い。一段目の工程をより高温で行うことにより、大きな位相差を付与せずに、延伸方向と直交する軸での折り曲げに対する可とう性が付与できる。その後、二段目の工程をより低温で延伸することで、任意の軸に対する可とう性が付与され、かつ、面内位相差の大きな位相差フィルムを得ることができる。
【0075】
一段目の工程の延伸温度が二段目の工程の延伸温度より5℃未満しか高くなければ、即ち、一段目の工程の延伸温度が二段目の工程の延伸温度+5℃未満であれば、可とう性と優れた位相差性能とが両立できなくなる。
【0076】
また、面内位相差を大きくするためには二段目の延伸をできるだけ低い温度で行うことが好ましいが、一段目の工程の延伸温度を二段目の工程の延伸温度より5℃以上高くすることで、二段目の延伸を低い温度で行った場合でも破断し難くなるという効果も発現する。
【0077】
上記位相差フィルムの製造方法では、延伸温度と延伸倍率とを変化させることで位相差を調節することができる。具体的には、(a)一段目の延伸温度を上げる、(b)一段目の延伸倍率を下げる、(c)二段目の延伸温度を下げる、(d)二段目の延伸倍率を上げる、ことにより面内位相差を大きくすることができる。
【0078】
また、反対に、(e)一段目の延伸温度を下げる、(f)一段目の延伸倍率を上げる、(g)二段目の延伸温度を上げる、(h)二段目の延伸倍率を下げる、ことにより面内位相差を小さくすることができる。
【0079】
一方、厚さ方向の位相差を大きくするには、(i)一段目の延伸温度を下げる、(j)一段目の延伸倍率を上げる、(k)二段目の延伸温度を下げる、(l)二段目の延伸倍率を上げる、ことにより調節することができる。
【0080】
反対に、厚さ方向の位相差を小さくするには、(m)一段目の延伸温度を上げる、(n)一段目の延伸倍率を下げる、(o)二段目の延伸温度を上げる、(p)二段目の延伸倍率を下げる、ことにより調節することができる。
【0081】
これらの条件の調節を、矛盾しないように適宜組み合わせることにより、面内位相差値及び厚さ方向の位相差値を調節することができるが、上述した本実施の形態に係る製造方法における範囲を外れると、位相差と可撓性とを両立することが困難になる。
【0082】
上記位相差フィルムの製造方法は、二段目の工程で一段目の工程の延伸方向と直交する方向に延伸することが好ましい。一段目の工程の延伸方向と二段目の工程の延伸方向が直交しない場合、任意の軸の折り曲げに対する可とう性が付与し難くなることがある。
【0083】
上記位相差フィルムの製造方法には、例えば、自由幅延伸、定幅延伸等の一軸延伸等が用いられる。
【0084】
延伸等を行う装置としては、例えば、ロール延伸機、テンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機、同時二軸延伸機等が挙げられる。
【0085】
〔位相差フィルム〕
本実施の形態に係る上記製造方法により得られる位相差フィルムの厚さは、5〜350μmが好ましく、より好ましくは20〜200μm、更に好ましくは30〜150μmである。膜厚が5μmより薄いと強度に乏しく、また、所望の位相差値(レターデーション値)を得ることが困難となる。膜厚が350μmより厚いと液晶表示装置の薄型化に不利となる。フィルムの厚さは、例えばデジマチックマイクロメーター((株)ミツトヨ製)等の市販の測定機器を用いて測定することができる。
【0086】
上記位相差フィルムは、厚さ100μmあたりの波長589nmにおける面内位相差値が20〜500nmであることが好ましい。より好ましくは30〜400nmであり、更に好ましくは40〜300nmである。20nmより小さいと、所望の位相差値(レターデーション値)を得るためにフィルムの厚さが厚くなるため好ましくない。また、500nmを超えると延伸条件の少しの変化で位相差値(レターデーション値)が変化してしまい、安定的に生産することが難しくなる場合があるため好ましくない。更には、大きな位相差値を得るためには、延伸倍率を大きくし、延伸温度を低くする必要があり、延伸工程中にフィルムの破断等が起こり、安定的に生産することが難しくなる場合がある。
【0087】
上記位相差フィルムは、厚さ100μmあたりの波長589nmにおける厚さ方向位相差値の絶対値が70〜400nmであることが好ましい。より好ましくは90〜350nmであり、更に好ましくは120〜350nmである。
【0088】
「位相差値」はレターデーション値ともいう。ここでいう面内位相差値(Re)は、
Re=(nx−ny)×d
で、厚さ方向位相差値(Rth)は、
Rth=[(nx+ny)/2−nz]×d
で、定義される。
【0089】
尚、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内でnxと垂直方向の屈折率、nzはフィルム厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。遅相軸方向は、フィルム面内の屈折率が最大となる方向とする。また、延伸方向の屈折率が大きくなるものを正の複屈折性があると言い、フィルム面内で延伸方向と垂直方向の屈折率が大きくなるものを負の複屈折性があると言う。
【0090】
また、上記「厚さ100μmあたりの波長589nmにおける面内位相差値」とは、面内位相差値(Re)を求める上記式において、d=100×1000nmでの値のことである。また、上記「厚さ100μmあたりの波長589nmにおける厚さ方向位相差値」とは、厚さ方向位相差値(Rth)を求める上記式において、d=100×1000nmでの値のことである。
【0091】
上記位相差フィルムは、正の複屈折を示すものであってもよいし、負の複屈折を示すものであってもよい。液晶表示装置の組み立て工程において、容易に偏光板と貼り合せることができるため、正の複屈折を示すものであることがより好ましい。
【0092】
具体的には、偏光板と位相差フィルムとを貼り合わせる、液晶表示装置の組み立て工程において、偏光板の吸収軸と位相差フィルム面内の遅相軸とを直交させた状態で重ね合わせる必要がある場合がある。二軸性位相差フィルムと貼合される偏光板は、通常、その長さ方向に吸収軸が形成された上でロール状に巻回されているため、この場合、位相差フィルムが正の複屈折を示すものであれば、幅広二軸延伸した際の横延伸方向に遅相軸が発生し、位相差フィルムを裁断して偏光板に貼り合せる必要がなくなり、所謂ロールtoロール方式で積層させることができる。
【0093】
尚、複屈折率の正負の判断は、「高分子素材の偏光顕微鏡入門」(粟屋裕著、アグネ技術センター版、第5章、pp78〜82(2001))に記載の偏光顕微鏡を用いたλ/4板による加色判定法により判定を行うことができる。また、位相差フィルムそのものを、又は位相差フィルムを加熱収縮させた後、一軸延伸し、延伸方向の屈折率が大きくなるかどうかで判断することもできる。
【0094】
上記位相差フィルムは、ガラス転移温度が110℃以上であることが好ましい。より好ましくは115℃〜200℃、更に好ましくは120℃〜200℃、特に好ましくは125℃〜190℃、最も好ましくは130℃〜180℃である。110℃未満であると、厳しくなる使用環境に対して耐熱性が不足し、フィルムが変形して位相差のムラが発生し易くなることがあるため好ましくない。また、200℃を超えると、超高耐熱性の位相差フィルムとなるが、該フィルムを得るための成形加工性が悪くなる場合やフィルムの可とう性が大きく低下する場合があるため好ましくない。
【0095】
上記位相差フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上、更に好ましくは91%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、85%未満であると透明性が低下し、光学フィルムとして適さない。
【0096】
上記位相差フィルムは、ヘイズが5%以下であることが好ましい。より好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。ヘイズが5%を超えると透明性が低下し、光学フィルムとして適さない。
【0097】
上記位相差フィルムは、可とう性を有することが好ましい。フィルム面内の任意の直交する2方向に対して可とう性を有することがより好ましく、具体的には、25℃、65%RH(relative humidity:相対湿度)の雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて、フィルム面内の遅相軸と平行方向及びフィルム面内の遅相軸と垂直方向に180°折り曲げた際、どちらの方向でもクラックを生じないことが好ましい。
【0098】
ここで、折り曲げ半径とは、フィルムの折り曲げの中心から屈曲部の最端部までの距離を意味する。折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、クラックを生じない位相差フィルムは、取り扱いが非常に容易であり、工業的に有用である。
【0099】
25℃で65%RHの雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、クラックを生じるフィルムは、可とう性が不十分であり、取り扱いが困難である。尚、折り曲げ試験は、JISに準拠して行えばよい。例えば、K5600−5−1(1999年)に準拠して行うことが好ましい。上記クラックの形状は、特には限定されず、例えば、長さが1mm以上の割れのことを意味する。
【0100】
また、上記位相差フィルムは、25℃、65%RH(relative humidity:相対湿度)の雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて、フィルム面内の遅相軸と平行方向及びフィルム面内の遅相軸と垂直方向に180°折り曲げた際、どちらの方向でもフィルムが折り曲げ部を境界として部分的に又は全体的に分離しない(割れない)ことが好ましい。この場合、フィルムが折り曲げ部を境界として分離するに至らない程度の微小な割れが生じてもよいが、そのような微小な割れが生じないことがより好ましい。
【0101】
上記位相差フィルムは、単独での使用以外に、同種光学材料及び/又は異種光学材料と積層して用いることにより、更に光学特性を制御することができる。この際に積層される光学材料としては、特には限定されないが、例えば、偏光板、ポリカーボネート製延伸配向フィルム、環状ポリオレフィン製延伸配向フィルム等が挙げられる。
【0102】
上記位相差フィルムは、液晶表示装置用の光学補償部材として好適に用いられる。具体的には、例えば、STN型LCD、TFT−TN型LCD、OCB型LCD、VA型LCD、IPS型LCD等のLCD用位相差フィルム;1/2波長板;1/4波長板;逆波長分散特性フィルム;光学補償フィルム;カラーフィルター;偏光板との積層フィルム;偏光板光学補償フィルム等が挙げられる。また、上記位相差フィルムを応用した用途は、これらに制限されるものではない。
【0103】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様及び以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神及び添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【実施例】
【0104】
以下に、実施例及び比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」と、「リットル」を単に「L」と記すことがある。
【0105】
<重合反応率、重合体組成分析>
重合反応時の反応率及び重合体中の特定単量体単位の含有率は、得られた重合反応混合物中の未反応単量体の量をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、装置名:GC17A)を用いて測定して求めた。
【0106】
<ダイナミックTG>
重合体(若しくは重合体溶液あるいはペレット)を一旦テトラヒドロフランに溶解若しくは希釈し、過剰のヘキサン若しくはメタノールへ投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分等を除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
測定装置:Thermo Plus2 TG−8120 Dynamic TG((株)リガク社製)
測定条件:試料量 5〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー 200ml/min
方法:階段状等温制御法(60℃〜500℃の間で質量減少速度値0.005%/sec以下で制御)
<ラクトン環構造単位の含有割合>
ラクトン環構造単位の含有割合は、以下のようにして求めた。
【0107】
最初に、重合で得られた重合体組成から全ての水酸基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる質量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において質量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応による質量減少から、脱アルコール反応率を求めた。
【0108】
ここで、ラクトン環構造を有する重合体のダイナミックTG測定において150℃から300℃までの間の質量減少率の測定を行い、得られた実測質量減少率を(X)とする。一方、当該重合体の組成から、全ての水酸基が脱アルコールすると仮定した場合の理論質量減少率(即ち、その重合体の組成において、起こり得る脱アルコール反応が100%起きたと仮定して算出した質量減少率)を(Y)とする。尚、理論質量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、即ち当該重合体組成における上記原料単量体の含有率から算出することができる。
【0109】
そして、下記式、
脱アルコール反応率=1−(実測質量減少率(X)/理論質量減少率(Y))
から脱アルコール反応率を求めることができる。
【0110】
一例として、後述の製造例1で得られるペレットにおいてラクトン環構造の占める割合を計算する。このペレットの理論質量減少率(Y)を求めてみると、メタノールの分子量は32であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116であり、ラクトン環化前の重合体中の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有率(質量比)は20.1質量%であるから、(32/116)×20.1≒5.54質量%となる。
【0111】
他方、ダイナミックTG測定による実測質量減少率(X)は0.2質量%であった。これらの値を上記の脱アルコール反応率の式に当てはめると、1−(0.2/5.54)≒0.964となるので、脱アルコール反応率は96.4%となる。
【0112】
そして、この脱アルコール反応率の分だけ所定のラクトン環化が行われたものとして、下記式
ラクトン環構造単位の含有割合=B×A×M/M
(式中、Bはラクトン環化前の重合体中のラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体の含有率(質量比)であり、Aは脱アルコール反応率、Mは生成するラクトン環構造単位の式量、Mはラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体の分子量である)
により、ラクトン環構造単位の含有割合を算出することができる。
【0113】
例えば、製造例1の場合、ラクトン環化前の重合体中の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有率(質量比)は20.1質量%、算出した脱アルコール反応率が96.4質量%、分子量が116の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがメタクリル酸メチルと縮合した場合に生成するラクトン環化構造単位の式量が170であることから、当該共重合体中におけるラクトン環の含有割合は28.4(20.1×0.964×170/116)質量%となる。
【0114】
<重量平均分子量>
重合体の重量平均分子量は、GPC(東ソー社製GPCシステム)を用い、ポリスチレン換算により求めた。
【0115】
<樹脂及びフィルムの熱分析>
樹脂及びフィルムの熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、DSC((株)リガク社製、装置名:DSC−8230)を用いて行った。尚、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に従い、中点法で求めた。
【0116】
<延伸>
フィルムの延伸は、株式会社東洋精機製作所製、コーナーストレッチ式二軸延伸試験装置X6−Sを用いた。
【0117】
<フィルムの方向>
フィルムを押出機で成形し、ロール状の未延伸フィルムのサンプルを取得した。フィルムの方向の呼称は、ロールの幅方向をTD方向、長い方向(長手方向)をMD方向とした。
【0118】
<光学特性>
屈折率異方性(リタデーション:Re)は、王子計測機器株式会社製、位相差測定装置KOBRA−WRを用いた。測定波長は589nmとし、厚さ方向位相差値(Rth)は遅相軸を傾斜軸として40°傾斜させて測定した。フィルムの平均屈折率は株式会社アタゴ社製、デジタルアッベ屈折率計DR−M2で測定した。全光線透過率は、日本電色工業社製NDH−1001DPを用いて測定した。
【0119】
<可とう性>
フィルムの可とう性は、フィルムを延伸した方向及び延伸した方向と垂直の方向の二方向でそれぞれ試験を行った。二軸延伸したフィルムの場合は、直交する二つの延伸方向で試験を行った。25℃、65%RHの雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、二方向ともクラックを生じない状態を「○」、一方向のみクラックを生じる状態を「△」、二方向両方でクラックが生じる状態を「×」として評価した。
【0120】
<フィルムの厚さ>
フィルムの厚さは、デジマチックマイクロメーター((株)ミツトヨ製)を用いて測定した。
【0121】
〔製造例1〕
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた30Lの反応釜に、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)10部、メタクリル酸メチル(MMA)40部、トルエン50部を仕込み、窒素を通じつつ100℃まで昇温した。還流したところで、開始剤としてターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.15部を加えて、還流下(100〜110℃)で溶液重合を行い、5時間かけて熟成を行った。重合の反応率は95.0%、重合体中のMHMAの含有率(質量比)は20.1%であった。また、この重合体の重量平均分子量は150,000であった。
【0122】
得られた重合体成分100部に対して37.5部のメチルイソブチルケトン、及び、重合体溶液100部に対して0.1部のリン酸メチル/リン酸ジメチル混合物(東京化成工業社製)を加え、窒素を通じつつ、還流下(95〜100℃)で5時間、環化縮合反応を行った。得られた反応溶液の一部を取り出し、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.62%の質量減少率を検知した。
【0123】
次いで、得られた重合体溶液を、バレル温度250℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa、リアベント数1個及びフォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(直径=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、押出機内で環化縮合反応と脱揮とを行い、押し出すことにより、透明な熱可塑性樹脂(1A)のペレットを得た。
【0124】
得られたペレットについて、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.2%の質量減少率を検知した。また、このペレットの重量平均分子量は165,000であり、ガラス転移温度は134℃であった。
【0125】
得られた熱可塑性樹脂(1A)のペレットをシリンダー径が20mmの単軸押出機を用いて下記条件
シリンダー:温度260℃、
ダイ:コートハンガータイプ、幅150mm、温度260℃、
キャスティング:つや付き3本ロール 第1ロール125℃、第2ロール142℃、第3ロール118℃、
で押出成形し、約250μmの厚みの未延伸フィルム(1B)を作製した。
【0126】
得られた未延伸フィルム(1B)の全光線透過率は93%であった。また、光学特性を測定したところ、面内位相差値は13nm(100μmあたりでは7nm)、厚さ方向位相差値は14nm(100μmあたりでは7nm)、測定したフィルムの厚さは190μm、ガラス転移温度は134℃、可とう性の判定結果は×であった。
【0127】
〔製造例2〕
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30L反応釜に、MMA7,000g、MHMA3,000g、トルエン12,000gを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(ルパゾール570、アトフィナ吉富(株)製)6.0gを添加すると同時に、t−アミルパーオキシイソノナノエート12.0g及びトルエン100gからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、更に4時間かけて熟成を行った。重合の反応率は92.9%、重合体中のMHMAの含有率(質量比)は30.2%であった。
【0128】
得られた重合体溶液に、リン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A−8)20gを加え、還流下(約80〜105℃)で2時間、環化縮合反応を行い、メチルエチルケトン4,000gを添加し希釈した。更に、240℃の熱媒を用いて、オートクレーブ中で加圧下(ゲージ圧が最高約2MPa)、1.5時間環化縮合反応を行った。
【0129】
次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液をメチルエチルケトンで希釈し、オクチル酸亜鉛(ニッカオクチックス亜鉛18%、日本化学産業(株)製)26.5g、酸化防止剤としてIRGANOX1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)2.2g、及びアデカスタブAO−412S(旭電化工業(株)製)2.2g、トルエン61.6gからなる液を20g/時間の速度で注入しながら脱揮したこと以外は製造例1と同様に、ベントタイプスクリュー二軸押出し機内で環化縮合反応と脱揮とを行い、透明な熱可塑性樹脂(2A)のペレットを得た。
【0130】
得られたペレットについて、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.21質量%の質量減少を検知した。また、ペレットの重量平均分子量は110,000であり、メルトフローレートは8.7g/10分、ガラス転移温度は142℃であった。
【0131】
得られた熱可塑性樹脂(2A)のペレットをシリンダー径が20mmの単軸押出機を用い下記条件
シリンダー:温度280℃、
ダイ:コートハンガータイプ、幅150mm、温度290℃、
キャスティング:つや付き2本ロール 第1ロール、第2ロールとも130℃、
で押出成形し、約400μmの厚みの未延伸フィルム(2B)を作製した。
【0132】
得られた未延伸フィルム(2B)からサンプルを切り出し、光学特性を測定したところ、面内位相差値は1.3nm(100μmあたりでは0.3nm)、厚さ方向位相差値は2.2nm(100μmあたりでは0.5nm)、全光線透過率は92%であった。また、測定したフィルムの厚さは433μm、ガラス転移温度は142℃、可とう性の判定結果は×であった。
【0133】
〔実施例1〕
製造例1で得られた未延伸フィルム(1B)を、縦横共に127mmの正方形に切り出し、MD方向が延伸方向となるように延伸機のチャックにセットした。チャックの内側の距離は縦横共に110mmとした。155℃で3分間予熱後、5秒間で倍率1.8倍になるように一段目の1軸延伸を行った。横方向は収縮しないようにした。
【0134】
延伸終了後、速やかにサンプルを取り出して冷却した。このフィルムを縦横ともに97mmの正方形に切り出し、二段目の延伸を行った。延伸方向は一段目の延伸方向と直交する方向とした。チャックの内側の距離は縦横共に80mmとした。138℃で3分間予熱後、2分30秒で2.5倍になるように二段目の1軸延伸を行った。横方向は収縮しないようにした。
【0135】
得られた逐次2軸延伸フィルムからサンプルを切り出し、光学特性を測定したところ、面内位相差値は46nm(100μmあたりでは115nm)、厚さ方向位相差値は57nm(100μmあたりでは143nm)、全光線透過率は93%であった。また、測定したフィルムの厚さは40μm、ガラス転移温度は134℃、可とう性の判定結果は○であった。結果を表1に示す。
【0136】
〔比較例1〕
製造例1で得られた未延伸フィルム(1B)を、縦横共に97mmの正方形に切り出し、延伸機のチャックにセットした。チャックの内側の距離はMD方向、TD方向共に80mmとした。160℃で3分間予熱後、7秒で縦及び横方向共に2倍になるように同時二軸延伸を行った。延伸終了後、速やかにサンプルを取り出して冷却した。得られた同時二軸延伸フィルムの測定結果を表1に示す。
【0137】
〔比較例2〕
製造例1で得られた未延伸フィルム(1B)をMD方向が97mm、TD方向が80mmの長方形に切り出し、MD方向が延伸方向となるように延伸機にセットした。TD方向は自由に収縮できるようにするために、チャックはフィルムを掴まないようにした。チャックの内側の距離はMD方向、TD方向共に80mmとした。140℃で3分間予熱後、1分間でMD方向に2倍になるように自由幅一軸延伸を行った。延伸終了後、速やかにサンプルを取り出して冷却した。得られた一軸延伸フィルムの測定結果を表1に示す。
【0138】
〔実施例2〕
製造例2で得られた未延伸フィルム(2B)を未延伸フィルムとして用い、温度を165℃、速度及び倍率を10秒間で倍率2.6倍としたこと以外は実施例1と同様に一段目の1軸延伸を行った。更に、温度を148℃、速度及び倍率を1分間で2.8倍としたこと以外は実施例1と同様に二段目の1軸延伸を行った。得られた逐次2軸延伸フィルムのガラス転移温度は142℃、その他の測定結果を表1に示す。
【0139】
〔実施例3〕
製造例2で得られた未延伸フィルム(2B)を未延伸フィルムとして用い、温度を175℃、速度及び倍率を10秒間で倍率2.6倍としたこと以外は実施例1と同様に一段目の一軸延伸を行った。更に、温度を148℃、速度及び倍率を1分間で2.5倍としたこと以外は実施例1と同様に二段目の一軸延伸を行った。得られた逐次二軸延伸フィルムの測定結果を表1に示す。
【0140】
〔実施例4〕
製造例2で得られた未延伸フィルム(2B)を未延伸フィルムとして用い、温度を165℃、速度及び倍率を10秒間で倍率3.0倍としたこと以外は実施例1と同様に一段目の一軸延伸を行った。更に、温度を145℃、速度及び倍率を1分間で2.2倍としたこと以外は実施例1と同様に二段目の一軸延伸を行った。得られた逐次二軸延伸フィルムの測定結果を表1に示す。
【0141】
〔比較例3〕
製造例2で得られた未延伸フィルム(2B)を未延伸フィルムとして用い、温度を148℃、速度及び倍率を44秒間で2.5倍としたこと以外は実施例1と同様に一段目の一軸延伸を行った。更に、温度を148℃、速度及び倍率を1分30秒間で2.5倍としたこと以外は実施例1と同様に二段目の一軸延伸を行うことを試みたが、延伸開始後約1分でフィルムが破断した。もう一度、同様の操作を試みたが、やはり延伸途中でフィルムが破断した。逐次二軸延伸フィルムを得ることができなかった。
【0142】
〔比較例4〕
製造例2で得られた未延伸フィルム(2B)を未延伸フィルムとして用い、温度を150℃、速度及び倍率を1分間で2.5倍としたこと以外は実施例1と同様に一段目の一軸延伸を行った。更に、温度を150℃、速度及び倍率を1分間で2.5倍としたこと以外は実施例1と同様に二段目の一軸延伸を行った。得られた逐次二軸延伸フィルムの測定結果を表1に示す。
【0143】
〔比較例5〕
製造例2で得られた未延伸フィルム(2B)を未延伸フィルムとして用い、温度を148℃、速度及び倍率を1分間で2.5倍としたこと以外は比較例2と同様に自由幅一軸延伸を行った。得られた一軸延伸フィルムの測定結果を表1に示す。
【0144】
〔比較例6〕
製造例2で得られた未延伸フィルム(2B)を未延伸フィルムとして用い、温度を155℃、速度及び倍率を1分間でMD方向及びTD方向共に2.5倍としたこと以外は比較例1と同様に同時二軸延伸を行った。得られた同時二軸延伸フィルムの測定結果を表1に示す。
【0145】
〔比較例7〕
製造例1で得られた未延伸フィルム(1B)を未延伸フィルムとして用い、温度を140℃、速度及び倍率を15秒間で2.0倍としたこと以外は実施例1と同様に一段目の一軸延伸を行った。更に、温度を140℃、速度及び倍率を1分間で2.0倍としたこと以外は実施例1と同様に二段目の一軸延伸を行った。得られた逐次二軸延伸フィルムの測定結果を表1に示す。
【0146】
【表1】

【0147】
上述した実施例、比較例及び製造例から明らかなように、本発明の実施例では、一段目の工程の延伸温度が二段目の工程の延伸温度より5℃以上高く(実施例1〜4)、得られたフィルムは可とう性と高い位相差性能とが両立している。
【0148】
これに対し、未延伸のフィルム(製造例1及び2)では、可とう性及び位相差性能が共に低く、一軸延伸のフィルム(比較例2及び比較例5)では高い面内位相差値を持つフィルムは得られるが、延伸した方向と平行の折り曲げに対する可とう性が発現しない。また、同時2軸延伸(比較例1及び比較例6)、及び一段目の延伸温度と二段目の延伸温度とが同じである逐次2軸延伸(比較例4)では可とう性は付与されるが、面内位相差が低くなる。
【0149】
更に、本発明の実施例では、一段目の工程の延伸温度を高くした場合(実施例3)や二段目の工程の延伸温度を低くした場合(実施例4)に、特に高い面内位相差値のフィルムが得られている。これと比べて、一段目の工程の延伸温度と二段目の工程の延伸温度が同じ場合に延伸温度を低くする(比較例3)と、二段目の工程の延伸でフィルムが破断し易い。
【0150】
即ち、一段目の工程の延伸温度を二段目の工程の延伸温度より5℃以上高くすると、二段目の工程の延伸温度をより低くすることが可能となるという効果が見られ、結果として、より高い面内位相差値のフィルムが得られる。
【0151】
尚、上述した実施例では特定の熱可塑性樹脂を用いているが、その他の公知の熱可塑樹脂に関しても、位相差性能及び可とう性の発現機構は同様であり、本発明の製法を用いれば可とう性及び位相差性能の両方に優れた位相差フィルムを製造することが可能である。特に、付加重合で得られる非結晶性の熱可塑性樹脂には、可とう性が不十分なものが多く、本発明の製法が有効である。
【0152】
かくして、本発明の位相差フィルムの製造方法は、透明性、耐熱性、可とう性及び位相差性能に優れた位相差フィルムを与えることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明に係る製造方法で製造される位相差フィルムは、液晶表示装置の位相差フィルムに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムを、当該熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度以上、当該ガラス転移温度より40℃高い温度以下の温度範囲で延伸する一段目の工程と、
一段目の工程後に、当該熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度より10℃低い温度以上、当該ガラス転移温度より20℃高い温度以下の温度範囲で延伸する二段目の工程と、
を含み、
一段目の工程の延伸温度が二段目の工程の延伸温度より5℃以上高いことを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度が110℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
上記熱可塑性樹脂フィルムが、メタクリル系熱可塑性樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の位相差フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2008−242426(P2008−242426A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330494(P2007−330494)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】