説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】面内位相差及び厚み方向位相差を制御できる位相差フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】溶融押出法による位相差フィルムの製造方法であって、樹脂Aのガラス転移温度をTg(℃)、熱分解開始温度をTd(℃)かつ結晶化温度をTm(℃)としたときに、比エネルギーを0.02〜0.24kWh/kgとし、かつ、樹脂Aの温度を(Tg+120)℃〜(Td−5)℃として、樹脂Aを金型4から溶融押出しする溶融押出工程と、溶融押出しされた樹脂Aを、(Tm−10)℃〜(Tg−20)℃の範囲内に温度調節された冷却ロールにより冷却する冷却工程とを備え、溶融押出しされる樹脂Aとして、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとのブロック共重合体の水素添加物を用いて、溶融押出工程及び冷却工程において、ドロー比を5〜10の範囲内とする位相差フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等においてコントラストを向上し、かつ視野角を拡大するために用いられる位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、携帯電話、ノートパソコン及びパソコン用モニタ等に広く用いられている。また、近年、液晶表示装置は、テレビ用途にも多く用いられており、需要が急速に増加している。
【0003】
上記液晶表示装置の一つとして、TN(Twisted Nematic)方式の液晶表示装置が挙げられる。TN方式の液晶表示装置では、視野角が狭く、応答速度が遅いという問題がある。
【0004】
上記問題が改善された液晶表示装置として、VA(Vertical Alignment)方式の液晶表示装置、並びにIPS(In Plane Switching)方式の液晶表示装置が提案されている。これらの液晶表示装置では、位相差フィルムが広く用いられている。
【0005】
上記位相差フィルムの製造方法として、下記の特許文献1には、ポリビニルアセタール樹脂を主成分とする樹脂組成物を溶融押出法によりシート状に成形し、高分子フィルムを得る工程と、得られた高分子フィルムを延伸する工程とを備える位相差フィルムの製造方法が開示されている。
【0006】
また、下記の特許文献2には、脂環式構造を主鎖骨格に有する重合体部分を含有する共重合体であって、該共重合体の一部として結晶性を有する重合単位連鎖を有するブロック共重合体又はグラフト共重合体を用いる位相差フィルムの製造方法が開示されている。ここでは、延伸しなくても、20nm以上のレターデーションを有する位相差フィルムを得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−234878号公報
【特許文献2】特開2007−226109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の位相差フィルムの製造方法では、溶融押出しされたフィルムは、延伸されている。このような延伸工程があると、位相差フィルムの製造コストが高くなる。また、延伸工程を行うために、大きなスペース及び設備を用意しなければならない。
【0009】
特許文献2に記載の共重合体を用いた場合には、面内位相差と厚み方向の位相差との両方を充分に制御することができないことがある。
【0010】
本発明の目的は、面内位相差及び厚み方向位相差を制御できる位相差フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の広い特定の局面によれば、溶融押出法により樹脂をフィルム状に成形する位相差フィルムの製造方法であって、上記樹脂のガラス転移温度をTg(℃)、熱分解開始温度をTd(℃)かつ結晶化温度をTm(℃)としたときに、比エネルギーを0.02〜0.24kWh/kgの範囲内とし、かつ、上記樹脂の温度を(Tg+120)℃〜(Td−5)℃の範囲内として、上記樹脂を金型から溶融押出しする溶融押出工程と、溶融押出しされた上記樹脂を、(Tm−10)℃〜(Tg−20)℃の範囲内に温度調節された冷却ロールにより冷却する冷却工程とを備え、溶融押出しされる上記樹脂として、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとのブロック共重合体の水素添加物を用いて、上記溶融押出工程及び上記冷却工程において、上記金型出口の上記樹脂の流速に対する上記冷却ロールの周速の比であるドロー比を5〜10の範囲内とする、位相差フィルムの製造方法が提供される。
【0012】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法のある特定の局面では、Tダイを用いて、上記樹脂がフィルム状に成形される。
【0013】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法の他の特定の局面では、金属製スリーブロール又は金属製スリーブベルトを用いて、上記樹脂がフィルム状に成形される。
【0014】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法の別の特定の局面では、上記ブロック共重合体として、上記ビニル芳香族炭化水素がスチレンであり、上記共役ジエンがブタジエンであり、ブロック数が5であり、かつ上記ビニル芳香族炭化水素に由来する骨格と上記共役ジエンに由来する骨格との合計100モル%中、上記ビニル芳香族炭化水素に由来する骨格が40〜60モル%の範囲内であるブロック共重合体が用いられる。
【0015】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、溶融押出しされた上記樹脂を延伸せずに、位相差フィルムを得ることが好ましい。
【0016】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、Nz係数が1.4〜1.6の範囲内である位相差フィルムを得ることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、溶融押出しされる樹脂として、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとのブロック共重合体の水素添加物を用いて、溶融押出し時の比エネルギーを0.02〜0.24kWh/kgとし、溶融押出し時の樹脂の温度を(Tg+120)℃〜(Td−5)℃とし、冷却時の冷却ロールの温度を(Tm−10)〜(Tg−20)℃とし、更にドロー比を5〜10とするので、面内位相差及び厚み方向位相差を制御できる。本発明に係る位相差フィルムの製造方法によれば、Nz係数が1.4〜1.6である位相差フィルムを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、溶融押出成形法により、樹脂をフィルム状に成膜するために用いられる装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0020】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、溶融押出法により樹脂をフィルム状に成形する。
【0021】
(ブロック共重合体の水素添加物)
本発明では、溶融押出法により溶融押出しされる樹脂として、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとのブロック共重合体の水素添加物が用いられる。上記ブロック共重合体は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとをブロック共重合させることにより得られる。
【0022】
上記ビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン及びビニルアントラセン等が挙げられる。なかでも、スチレンが好ましい。上記ビニル芳香族炭化水素は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
上記共役ジエンとしては1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン及び1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。なかでも、ブタジエンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。上記共役ジエンは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
上記ブロック共重合体の具体例としては、スチレン系重合体ブロック(A)と、共役ジエン系重合体ブロック(B)とを含むブロック共重合体を主要骨格とするスチレン系ブロック共重合体等が挙げられる。
【0025】
上記ブロック共重合体としては、例えば、上記(A)と上記(B)との各1ブロックが結合したA−Bブロック共重合体、上記(B)の両末端に上記(A)が結合したA−B−Aブロック共重合体、並びに上記(A)と上記(B)とが繰り返し又はカップリングしたA−B)nブロック共重合体、(A−B)nXブロック共重合体及び(A−B−A)nXブロック共重合体等が挙げられる。なお、Xはカップリング剤の残基を示し、nは1以上の整数を示す。
【0026】
溶融押出し時のフィルムの延展性をより一層高めることができるので、上記ブロック共重合体のブロック数は、3〜7の範囲内であることが好ましい。溶融押出し時のフィルムの延展性をさらに一層高めることができるので、上記ブロック数は、5であることが最も好ましい。
【0027】
上記ブロック共重合体を得る方法は、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されない。上記ブロック共重合体を得る方法は、例えば、特表2003−502455号公報及び特開2006−313335号公報等に記載の方法が挙げられる。上記公報に記載の方法はすべて、有機リチウム化合物等のアニオン開始剤を用いて、炭化水素溶剤中で、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとをブロック共重合させる方法である。
【0028】
上記炭化水素溶剤としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素等が挙げられる。上記脂肪族炭化水素としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン及びヘプタン等が挙げられる。上記脂環式炭化水素としては、シクロペンタン及びシクロヘキサン等が挙げられる。上記芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン及びキシレン等が挙げられる。上記炭化水素溶剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
上記有機リチウム化合物としては、カルバニオン開始剤等が挙げられる。上記有機リチウム化合物の具体例としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム及びtert−ブチルリチウム等が挙げられる。上記有機リチウム化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
上記ビニル芳香族炭化水素と上記共役ジエンとの反応比の調整、又は重合速度の調整な等を目的として、上記ブロック共重合体を得る際に、極性化合物又はランダム化剤を用いることができる。
【0031】
上記極性化合物又はランダム化剤としては、エーテル類、アミン類、チオエーテル類、フォスフィン類、ホスホルアミド類、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナトリウムのアルコキシド、並びにカリウムのアルコキシド等が挙げられる。上記エーテル類としては、テトラヒドロフラン及びジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。上記アミン類としては、トリエチルアミン及びテトラメチルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0032】
上記ブロック共重合体を得る際の重合温度は、一般的には−10〜150℃の範囲内である。重合温度のより好ましい下限は40℃、より好ましい上限は120℃である。重合時間は適宜変更することができる。重合時間は24時間以内であることが好ましく、10時間以内であることがより好ましい。上記ブロック共重合体を得る際の重合系は、不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス及びアルゴンガス等が挙げられる。空気雰囲気下では、空気中の水又は酸素等によってリビングポリマー又は触媒が不活性化することがある。
【0033】
上記ブロック共重合体は、上記ビニル芳香族炭化水素に由来する骨格と上記共役ジエンに由来する骨格との合計100モル%中、上記ビニル芳香族炭化水素に由来する骨格が40〜60モル%の範囲内であることが好ましい。この場合には、位相差フィルムの剛性及び透明性をより一層高めることができる。
【0034】
上記ビニル芳香族炭化水素に由来する骨格と上記共役ジエンに由来する骨格とのモル量は、以下のようにして測定できる。
【0035】
例えば、日本電子データム社製「ECA」を用いて、プロトン核磁気共鳴スペクトル測定を行う。上記ビニル芳香族炭化水素に由来する骨格と上記共役ジエンに由来する骨格とのピークを帰属する。測定重溶媒には、クロロホルム−dを用いる。
【0036】
上記ブロック共重合体の水素添加物は、上記ビニル芳香族炭化水素に由来する芳香環及び上記共役ジエンに由来する不飽和二重結合に、部分的又は完全に水素添加することにより得ることができる。
【0037】
上記ブロック共重合体の水素添加率の好ましい下限は90%、より好ましい下限は95%、好ましい上限は100%である。なお、完全に水素添加しようとしても、わずかに水素添加されなかった部分が残存し、水素添加率が100%にならないことがある。上記ビニル芳香族炭化水素に由来する芳香環及び上記共役ジエンに由来する不飽和二重結合への水素添加により、光弾性係数が小さくなる効果が得られる。上記ビニル芳香族炭化水素に由来する芳香環への水素添加により、レターデーションの波長依存性が抑制される効果が得られる。上記共役ジエンに由来する不飽和二重結合は、光又は熱によりフィルムが黄変したり、フィルムの透過率が低下したりする原因となる。
【0038】
上記ブロック共重合体の水素添加反応は、例えば、溶剤を用いた希釈系で行われる。上記溶剤としては、上記ブロック共重合体を十分に溶解し、かつ溶剤自身が水素化されないものが用いられる。上記水素添加反応の温度は、40〜170℃の範囲内であることが好ましい。水素添加反応の温度が上記範囲内であると、触媒の劣化が生じ難く、充分な反応速度を得ることができる。上記水素添加反応の水素化圧は、触媒の種類によって適宜選択できる。上記水素加圧は、0.7〜10.3MPaの範囲内であることが好ましい。
【0039】
上記水素添加反応の触媒の種類及び使用量は、特に限定されない。上記水素添加反応の触媒の種類及び使用量は、上記水素添加率の範囲内を満たすように選択されることが好ましい。上記水素添加反応の触媒として、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、レニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム及び白金からなる群から選択された少なくとも一種の金属を含む均一系水素化触媒又は不均一系水素化触媒等を用いることができる。上記均一系触媒の具体例としては、塩化ニッケル、ニッケルカルボニル及び塩化コバルト等が挙げられる。上記不均一触媒としては、上記金属の酸化物をアルミナ、シリカ又はチタニア等に担持させたもの等が挙げられる。
【0040】
上記ビニル芳香族炭化水素に由来する芳香環及び上記共役ジエンに由来する不飽和二重結合の水素添加率は、以下のようにして測定できる。
【0041】
例えば、日本電子データム社製「ECA」を用いて、プロトン核磁気共鳴スペクトル測定を行う。上記ビニル芳香族炭化水素に由来する骨格と上記共役ジエンに由来する骨格とのピークを帰属する。測定重溶媒には、o−ジクロロベンゼン−d4を用いる。
【0042】
(位相差フィルムの製造方法)
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、溶融押出法により上記樹脂をフィルム状に成形する。本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、樹脂を金型から溶融押出しする溶融押出工程と、溶融押出しされた樹脂を冷却ロールにより冷却する冷却工程とを備える。
【0043】
本発明に係る位相差フィルムは、例えば、図1に示す装置を用いて製造できる。
【0044】
図1に、溶融押出成形法により、樹脂をフィルム状に成膜するために用いられる装置の一例を概略構成図で示す。
【0045】
図1に示すように、樹脂をフィルム状に成膜する際には、先ず、押出機1から樹脂を押出し、金型4に供給する。押出機1と金型4との間には、ギアポンプ2が配置されている。また、押出機1と金型4との間には、フィルター3が配置されている。フィルター3は、ギアポンプ2と金型4との間に配置されている。ただし、ギアポンプ2及びフィルター3は、必ずしも用いられている必要はない。
【0046】
金型4に供給された樹脂を金型4の開口から押出し、排出し、樹脂をフィルム状に成膜する。排出されたフィルム状の樹脂Aを、冷却ロール12に接触させ、冷却する。冷却ロール12に樹脂Aを押圧するために、タッチロール11が設けられている。タッチロール11にかえて、エアナイフ又は静電ピニング等を用いてもよい。
【0047】
冷却ロール12により冷却された樹脂Aを、冷却ロール13,14により更に冷却し、巻き取る。冷却ロール12〜14の冷却温度をそれぞれ調節するために、温度調節装置15〜17が備えられている。
【0048】
成形性を高める観点からは、金型4は、Tダイであることが好ましい。成形性を高める観点からは、タッチロール11は、金属製スリーブロール又は金属製スリーブベルトであることが好ましい。
【0049】
押出機1の下記式(1)で表される比エネルギーEは、0.02〜0.24kWh/kgの範囲内である。上記比エネルギーの好ましい下限は0.05kWh/kg、好ましい上限は0.20kWh/kgである。上記比エネルギーが小さすぎると、金型4からの樹脂の吐出性が不安定になることがある。上記比エネルギーが大きすぎると、得られるフィルムのNz係数が小さくなることがある。
【0050】
E=0.85[(Vr×Ar)−(V0×A0)]/1000Q ・・・式(1)
Vr:樹脂吐出時の押出機モーターの消費電圧(V)
Ar:樹脂吐出時の押出機モーターの消費電流(A)
V0:空運転時の押出機モーターの消費電圧(V)
A0:空運転時の押出機モーターの消費電流(A)
Q:押出機の単位時間当たりの吐出量(kg/h)
【0051】
上記樹脂のガラス転移温度をTg(℃)かつ熱分解開始温度をTd(℃)としたときに、溶融押出し時の上記樹脂の温度は、(Tg+120)℃〜(Td−5)℃の範囲内である。溶融押出し時の上記樹脂の温度の好ましい下限は(Tg+130)℃、好ましい上限は(Td−15)℃である。溶融押出し時の上記樹脂の温度が低すぎると、得られるフィルムのヘイズが大きくなることがある。溶融押出し時の上記樹脂の温度が高すぎると、上記樹脂が熱劣化することがある。
【0052】
下記式(2)で表されるドロー比Vは、5〜10の範囲内である。上記溶融押出工程及び上記冷却工程において、金型4出口の樹脂Aの流速に対する冷却ロール12の周速に対する比である上記ドロー比を5〜10の範囲内とする。上記ドロー比の好ましい下限は6、好ましい上限は9である。上記ドロー比が小さすぎると、得られるフィルムの厚みむらが生じやすい。上記ドロー比が大きすぎると、得られるフィルムのNz係数が大きくなることがある。
【0053】
V=V1/V2 ・・・式(2)
V1:冷却ロールの周速
V2:金型出口の樹脂の流速
【0054】
上記樹脂のガラス転移温度をTg(℃)かつ結晶化温度をTm(℃)としたときに、冷却ロール12の温度は、(Tm−10)℃〜(Tg−20)℃の範囲内である。溶融押出しされた樹脂Aを(Tm−10)℃〜(Tg−20)℃の範囲内に温度調節された冷却ロール12により冷却する。冷却ロール12の温度の好ましい下限は(Tm−5)℃、好ましい上限は(Tg−30)℃である。冷却ロール12の温度が低すぎると、得られるフィルムの厚みむらが生じやすい。冷却ロール12の温度が高すぎると、冷却ロールからフィルムを引き取る際の剥離性が低下することがある。
【0055】
冷却ロール13,14の温度は特に限定されないが、冷却ロール12の温度より低いことが好ましい。
【0056】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、溶融押出しされた上記樹脂Aを延伸せずに、位相差フィルムを得ることが好ましい。また、本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、Nz係数が1.4〜1.6の範囲内である位相差フィルムを得ることが好ましい。本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、延伸しなくても、Nz係数が1.4〜1.6の範囲内である位相差フィルムを容易に得ることができる。延伸しなくてもよいので、位相差フィルムの製造コストを低くすることができる。さらに、延伸工程を行うために、大きなスペース及び設備を用意しなくてもよい。
【0057】
(位相差フィルム)
本発明に係る位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムは、液晶表示装置に用いることができる。上記液晶表示装置としては、TN(Twisted Nematic)方式の液晶表示装置、VA(Vertical Alignment)方式の液晶表示装置及びIPS(In Plane Switching)方式の液晶表示装置等が挙げられる。
【0058】
本発明に係る位相差フィルムの下記式(3)で表されるNz係数は、1.4〜1.6の範囲内であることが好ましい。
【0059】
Nz係数=(nx−nz)/(nx−ny) ・・・式(3)
nx:フィルム面内x方向の屈折率
ny:x方向と直交するフィルム面内y方向の屈折率
nz:フィルム厚み方向の屈折率
【0060】
上記特定の樹脂を用いて、溶融押出し時の比エネルギーを0.02〜0.24kWh/kgとし、溶融押出し時の樹脂の温度を(Tg+120)℃〜(Td−5)℃とし、冷却時の冷却ロールの温度を(Tm−10)〜(Tg−20)℃とし、更に上記ドロー比を5〜10として、位相差フィルムを製造することにより、Nz係数が1.4〜1.6である位相差フィルムを容易に得ることができる。
【0061】
IPS方式の液晶表示装置に用いられる位相差フィルムでは、Nz係数は0.4〜0.7の範囲内にあることが好ましい。4インチ以上10インチ未満の大きさの中型のVA方式の液晶表示装置に用いられる位相差フィルムでは、Nz係数は1.4〜1.6の範囲内であることが好ましい。10インチ以上の大きさの大型のVA方式の液晶表示装置に用いられる位相差フィルムでは、Nz係数は2.5以上であることが好ましい。
【0062】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法により得られ、Nz係数が1.4〜1.6の範囲内である位相差フィルムは、中型のVA方式の液晶表示装置に好適に用いられる。
【0063】
光学特性を高める観点からは、上記位相差フィルムのヘイズは5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
【0064】
上記液晶表示装置に好適に用いることができるので、上記位相差フィルムの厚みは、30〜300μmの範囲内にあることが好ましい。
【0065】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0066】
先ず、以下のブロック共重合体の水素添加物B−1、B−2及びB−3を合成した。例えば、特表2003−502455号公報、及び特開2006−313335号公報に記載の方法を参照しつつ、ブロック共重合体の水素添加物B−1、B−2及びB−3を合成した。
【0067】
(合成例1)
(1)ブロック共重合体A−1の調製
ビニル芳香族炭化水素モノマーとしてスチレンを用い、共役ジエンモノマーとして1,3−ブタジエンを用いたペンタブロック共重合体A−1を用意した。このペンタブロック共重合体A−1では、ポリスチレンブロック(S)とポリブタジエンブロック(B)の繰り返し構成がS−B−S−B−Sであった。
【0068】
また、ペンタブロック共重合体A−1のスチレンに由来する骨格のモル量Msと、1,3−ブタジエンに由来する骨格のモル量Mbとを、プロトン核磁気共鳴スペクトルにより測定した。その結果、Ms/Mb=40/60であった。
【0069】
ペンタブロック共重合体A−1のポリスチレン換算での数平均分子量Mnと、多分散度Mw/Mnとを、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。その結果、Mn=5.8×10、Mw/Mn=1.2であった。
【0070】
(2)ブロック共重合体A−1の水素添加物B−1の調製
ペンタブロック共重合体A−1をシクロヘキサン/イソペンタン(重量比で85/15)に溶解させ、ペンタブロック共重合体A−1を15重量%含む溶液を得た。水素化前に上記溶液を脱気し、活性化アルミナカラムを通して、安定剤及び不純物を取り除いた。気体分散撹拌器を備えた高圧反応器内で、ペンタブロック共重合体A−1の水素化反応を行った。上記反応器に上記溶液を入れ、5重量%Pt/シリカ触媒をさらに入れた。上記反応器をシールし、窒素をパージし、最後に水素を圧入して、反応器内の圧力を8MPaにした。次に、上記反応器を170℃で1時間に加熱した後、圧力を徐々に下げた。その後、上記反応器から、水素添加物B−1を含む溶液を取り出した。水素添加物B−1を含む溶液に、1000ppmの立体障害フェノール熱安定剤(Irganox1010、チバスペシャルティケミカルズ社製)を添加した。熱及び真空の使用により、水素添加物B−1を含む溶液から溶媒を揮発させ、水素添加物B−1を得た。
【0071】
水素添加物B−1のスチレンに由来する芳香環の水素添加率Hsと、1,3−ブタジエンに由来する不飽和二重結合の水素添加率Hbとを、プロトン核磁気共鳴スペクトルにより測定した。その結果、Hs=99.9%、Hb=99.9%であった。
【0072】
水素添加物B−1の数平均分子量Mn、多分散度Mw/MnをGPCにより測定した。その結果、Mn=6.0×10、Mw/Mn=1.2であった。
【0073】
(合成例2)
(1)ブロック共重合体A−2の調製
ビニル芳香族炭化水素モノマーとしてスチレンを用い、共役ジエンモノマーとして1,3−ブタジエンを用いたペンタブロック共重合体A−2を用意した。このペンタブロック共重合体A−2では、ポリスチレンブロック(S)とポリブタジエンブロック(B)の繰り返し構成がS−B−S−B−Sであった。
【0074】
ペンタブロック共重合体A−1と同様に評価した結果、ペンタブロック共重合体A−2では、Ms/Mb=50/50、Mn=5.7×10、Mw/Mn=1.2であった。
【0075】
(2)ブロック共重合体A−2の水素添加物B−2の調製
ペンタブロック共重合体A−1をペンタブロック共重合体A−2に変更したこと以外は合成例1と同様にして、水素添加物B−2を得た。
【0076】
水素添加物B−1と同様に評価した結果、水素添加物B−2では、Hs=99.9%、Hb=99.9%、Mn=6.0×10、Mw/Mn=1.2であった。
【0077】
(合成例3)
(1)ブロック共重合体A−3の調製
ビニル芳香族炭化水素モノマーとしてスチレンを用い、共役ジエンモノマーとして1,3−ブタジエンを用いたペンタブロック共重合体A−3を用意した。このペンタブロック共重合体A−3では、ポリスチレンブロック(S)とポリブタジエンブロック(B)の繰り返し構成がS−B−S−B−Sであった。
【0078】
ペンタブロック共重合体A−1と同様に評価した結果、ペンタブロック共重合体A−3では、Ms/Mb=60/40、Mn=5.7×10、Mw/Mn=1.2であった。
【0079】
(2)ブロック共重合体A−3の水素添加物B−3の調製
ペンタブロック共重合体A−1をペンタブロック共重合体A−3に変更したこと以外は合成例1と同様にして、水素添加物B−3を得た。
【0080】
水素添加物B−1と同様に評価した結果、水素添加物B−3では、Hs=99.9%、Hb=99.9%、Mn=6.0×10、Mw/Mn=1.2であった。
【0081】
(実施例1)
図1に概略構成を示した装置を用いて、位相差フィルムを溶融押出法により得た。なお、図1に示す装置の仕様は、以下の通りである。
【0082】
押出機1:単軸押出機
金型4:Tダイ
冷却ロール12〜14:金属性鏡面ロール
タッチロール11:金属製スリーブロール
【0083】
上記装置を用いて、押出機1から金型4に上記水素添加物B−2を供給し、金型4から上記水素添加物B−2をフィルム状に押出し、成形した。溶融押出し時の上記比エネルギーEを0.08kWh/kgとし、かつ溶融押出し時の上記樹脂の温度を290℃とした。押出し時の上記樹脂の温度は、押出機1先端から金型4までの温度を制御することにより調整した。
【0084】
溶融押出しされた樹脂フィルムを、冷却ロール12〜14により冷却した後、樹脂フィルムを巻き取り、平均厚み100μmの位相差フィルムを得た。上記ドロー比Vを7.4とし、冷却ロール12の温度を100℃とし、冷却ロール13の温度を50℃とし、冷却ロール14の温度を40℃とした。上記ドロー比Vは、フィルムの厚み方向に対応する金型4の開口幅(金型リップ開度)により調整した。冷却ロール12〜14の温度は、温度調節装置15〜17を用いて、冷却ロール12〜14の内部に温度調節されたオイルを循環させることにより調整した。
【0085】
(実施例2〜11及び比較例1〜9)
用いた樹脂の種類、並びに溶融押出条件を下記の表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを得た。
【0086】
(評価)
(1)ガラス転移温度Tg
実施例及び比較例で用いた樹脂を290℃で熱プレス成形することにより、厚さ0.8mmのフィルム状の樹脂サンプルを得た。動的粘弾性測定装置(アイティ計測制御社製「DVA−200」)を用いて、昇温速度5℃/分で30℃から250℃まで昇温しながら周波数10Hzの条件で、得られた樹脂サンプルに0.04%の引張変形を繰り返し加えた。その時の樹脂サンプルの誘電正接(損失弾性率E’’/貯蔵弾性率E’)を測定した。誘電正接のピークトップ温度をガラス転移温度Tg(℃)とした。
【0087】
(2)熱分解開始温度Td
示差熱熱重量同時測定装置(セイコーインスツル社製「TG/DTA320」)を用いて、エアの流量50mL/分の条件で、昇温速度10℃/分で25℃から400℃まで昇温し、昇温時の樹脂の重量減少を測定した。昇温時の樹脂の重量減少が1%になったときの温度を熱分解開始温度Td(℃)とした。
【0088】
(3)結晶化温度Tm
示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「DSC6220」)を用いて、窒素の流量50mL/分の条件で、昇温速度10℃/分で25℃から300℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で300℃から25℃まで降温し、次に昇温速度10℃/分で25℃から300℃まで昇温した。第2回目の昇温時の樹脂の吸熱ピーク温度を結晶化温度Tm(℃)とした。
【0089】
(4)Nz係数
自動複屈折測定装置(王子計測機器社製「KOBRA−21ADH」)を用いて、得られた位相差フィルムの3次元方向の屈折率を測定した。上記式(3)によりNz係数を求めた。
【0090】
(5)面内レターデーション値Ro
自動複屈折測定装置(王子計測機器社製「KOBRA−21ADH」を用いて、測定光の波長を550nmとして、位相差フィルムを幅方向に50mm間隔で測定して、平均値を算出し、面内レターデーション値Roを測定した。
【0091】
(6)ヘイズ
ヘイズメーター(東京電色社製「TC−HIIIDKP」)を用いて、JIS K7105に準拠して、得られた位相差フィルムのヘイズを測定した。
【0092】
(7)外観
得られた位相差フィルムの外観を目視により観察した。なお、下記の表1において、「吐出不安定」は、押出機からの樹脂の吐出量が大きく変動し膜厚が安定しないことを示す。「剥離不良」は、冷却ロールからフィルムを引き取る際に冷却ロールからの剥離位置が安定せず、所謂剥離マークと呼ばれる模様がフィルムに発生することを示す。
【0093】
結果を下記の表1に示す。
【0094】
【表1】

【符号の説明】
【0095】
1…押出機
2…ギアポンプ
3…フィルター
4…金型
11…タッチロール
12〜14…冷却ロール
15〜17…温度調節装置
A…樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融押出法により樹脂をフィルム状に成形する位相差フィルムの製造方法であって、
前記樹脂のガラス転移温度をTg(℃)、熱分解開始温度をTd(℃)かつ結晶化温度をTm(℃)としたときに、
比エネルギーを0.02〜0.24kWh/kgの範囲内とし、かつ、前記樹脂の温度を(Tg+120)℃〜(Td−5)℃の範囲内として、前記樹脂を金型から溶融押出しする溶融押出工程と、
溶融押出しされた前記樹脂を、(Tm−10)℃〜(Tg−20)℃の範囲内に温度調節された冷却ロールにより冷却する冷却工程とを備え、
溶融押出しされる前記樹脂として、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとのブロック共重合体の水素添加物を用いて、
前記溶融押出工程及び前記冷却工程において、前記金型出口の前記樹脂の流速に対する前記冷却ロールの周速の比であるドロー比を5〜10の範囲内とする、位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
Tダイを用いて、前記樹脂をフィルム状に成形する、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
金属製スリーブロール又は金属製スリーブベルトを用いて、前記樹脂をフィルム状に成形する、請求項1又は2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ブロック共重合体として、前記ビニル芳香族炭化水素がスチレンであり、前記共役ジエンがブタジエンであり、ブロック数が5であり、かつ前記ビニル芳香族炭化水素に由来する骨格と前記共役ジエンに由来する骨格との合計100モル%中、前記ビニル芳香族炭化水素に由来する骨格が40〜60モル%の範囲内であるブロック共重合体を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
溶融押出しされた前記樹脂を延伸せずに、位相差フィルムを得る、請求項1〜4のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
Nz係数が1.4〜1.6の範囲内である位相差フィルムを得る、請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−42073(P2011−42073A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190792(P2009−190792)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】